西部せいぶ劇げき

西部せいぶ劇げき（せいぶげき）は、19世紀せいき後半こうはんのアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの西部せいぶ開拓かいたく時代じだいに当時とうじフロンティアと呼よばれた主おもにアメリカ西部せいぶの未み開拓かいたく地ちを舞台ぶたいにした映画えいが（テレビ映画えいがを含ふくむ）や小説しょうせつである。英語えいごのWestern（ウェスタン）の訳語やくごである。

『駅えき馬車ばしゃ』より

『真昼まひるの決闘けっとう』より

『シェーン』より

『捜索そうさく者しゃ』より

概要がいよう

1860年代ねんだい後半こうはん・南北戦争なんぼくせんそう後ごのアメリカ西部せいぶを舞台ぶたいに、開拓かいたく者しゃ魂たましいを持もつ白人はくじんを主人公しゅじんこうに無法者むほうものや先住民せんじゅうみんと対決たいけつするというプロットが、白人はくじんがフロンティアを開拓かいたくしたという開拓かいたく者しゃ精神せいしんと合致がっちし、大おおきな人気にんきを得えて、20世紀せいき前半ぜんはんのアメリカ映画えいがの興隆こうりゅうとともに映画えいがの1つのジャンルとして形成けいせいされた。

それ故ゆえに「19世紀せいき後半こうはんのアメリカ西部せいぶ開拓かいたく期きを撮とった映画えいが」が西部せいぶ劇げきであり、「新興しんこうの気きに満みち満みちていた若わかきパイオニア精神せいしんが壮烈そうれつなアクションとともに展開てんかいするのが特徴とくちょう」であるが、「現在げんざい西部せいぶ劇げきは殆ほとんど滅ほろび去さったと言いってよく、パイオニア精神せいしんの失うしなわれた今いまのアメリカで成なり立たち得えないジャンル」であるとされている。

なお19世紀せいき後半こうはん（特とくに1860年代ねんだいから1890年代ねんだいにかけて）のアメリカ西部せいぶを舞台ぶたいとするとした西部せいぶ劇げきの定義ていぎは必かならずしも厳密げんみつなものではなく、ゲイリー・クーパー主演しゅえん『征服せいふくされざる人々ひとびと』の舞台ぶたいは独立どくりつ宣言せんげん前まえの東部とうぶのペンシルベニア州しゅうピッツバーグであり、ジョン・フォード監督かんとくヘンリー・フォンダ主演しゅえん『モホークの太鼓たいこ』は独立どくりつ戦争せんそう時じのニューヨーク州しゅうが舞台ぶたいで、セシル・B・デミル監督かんとく『北西ほくせい騎馬きば警官けいかん隊たい』は時代じだいは1880年代ねんだいだが舞台ぶたいはカナダで、いずれも未開拓みかいたくの地ちを切きり開ひらいていく物語ものがたりであり西部せいぶ劇げきと見みなされている。また『明日あしたに向むかって撃げきて!』『アラスカ魂たましい』『ワイルドバンチ』は、20世紀せいき初頭しょとうの物語ものがたりであり、「明日あしたに向むかって撃げきて!」は最後さいごは南米なんべいボリビア、『アラスカ魂たましい』はアラスカ、『ワイルドバンチ』や他たに『荒野あらのの七なな人にん』などはメキシコが舞台ぶたいだが西部せいぶ劇げきのジャンルとされている。

そして最後さいごは第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん時じになる『シマロン』は西部せいぶ劇げきに入はいるが、同おなじ作家さっかが書かいた『ジャイアンツ』はテキサスを舞台ぶたいにした20世紀せいきの物語ものがたりで西部せいぶ劇げきとはされていない。また南部なんぶアトランタを舞台ぶたいに南北戦争なんぼくせんそう時じのストーリーである『風ふうと共ともに去さりぬ』も西部せいぶ劇げきのジャンルには入はいっていない。

西部せいぶ劇げきの歴史れきし

『大だい列車れっしゃ強盗ごうとう』より。

ハリウッドにある米国べいこくパラマウント社しゃの西部せいぶ劇げきセット。

西部せいぶ劇げきは映画えいがとともに歴史れきしを歩あゆんできた。そして西部せいぶ劇げきはハリウッドがき上ずきあげた独自どくじのジャンルであり、西部せいぶ開拓かいたくの歴史れきしを持もつアメリカだからこそ生うまれたとも言いえる。厳きびしい自然しぜんの中なかで多おおくの困難こんなんと闘たたかいながら逞たくましく生いきてきた開拓かいたく者しゃの物語ものがたりはアメリカ人じんの誇ほこりとするものであり、フロンティア精神せいしんと夢ゆめを含ふくみ、アメリカンドリームそのものであった。

ハリウッド

ハリウッドにあるユニバーサル・ピクチャーズの西部せいぶ劇げきセット。

西部せいぶを舞台ぶたいとする発想はっそうは映画えいが史しのごく初期しょきから存在そんざいしており、1898年ねんには、エジソンのキネトスコープ(覗のぞき眼鏡めがね方式ほうしき)による活動かつどう写真しゃしんにおいて最初さいしょの西部せいぶ劇げきが作つくられている。1895年ねんにリュミエール兄弟きょうだいが初はじめてシネマトグラフ（スクリーン投影とうえい方式ほうしき）を生うみ出だし、やがてサイレント映画えいがが登場とうじょうすると、最初さいしょの本格ほんかく的てきな西部せいぶ劇映画げきえいがである1903年ねんのエドウィン・S・ポーター監督かんとく『大だい列車れっしゃ強盗ごうとう』がつくられた。列車れっしゃを襲おそった強盗ごうとうを自警じけい団だんが追跡ついせきして討うち取とる簡単かんたんなストーリーだが、走はしる列車れっしゃの上うえでの立たち回まわり、殺人さつじんと金庫きんこの爆破ばくは、追跡ついせきと撃うち合あいなど動うごきのある映像えいぞうを編集へんしゅうした画面がめんによって観客かんきゃくは興奮こうふんを味あじわい、やがて西部せいぶ劇げきはアクションを売うり物ものに盛さかんに製作せいさくされた。この「大だい列車れっしゃ強盗ごうとう」はその後ごの西部せいぶ劇映画げきえいがの基本きほんとなる骨格こっかくを整ととのえた画期的かっきてきな作品さくひんで、映画えいがの歴史れきしに大おおきな影響えいきょうを与あたえた。ただし、この映画えいがの撮影さつえいはエジソン社しゃに近ちかい東部とうぶのニュージャージー州しゅうであり、西部せいぶの自然しぜんはスクリーンに映うつされていなかった。当時とうじは撮影さつえいは東部とうぶでしか出来できず、物語ものがたりは西部せいぶでも、撮影さつえいは全すべて東部とうぶで行おこなわれていた。1910年代ねんだいに入はいるとエジソン社しゃによる特許とっきょ権けん紛争ふんそうが起おこり、トラストによってエジソン社しゃの特許とっきょを持もたない映画えいが関係かんけい者しゃの強制きょうせい排除はいじょが行おこなわれ（後のちに裁判さいばんでエジソン社しゃは敗やぶれる）、特許とっきょ料りょうの支払しはらいから逃のがれるように遠とおい西部せいぶに移うつった人々ひとびとはカリフォルニア州しゅうロサンゼルス郊外こうがいに西部せいぶ劇げきを製作せいさくするのに好条件こうじょうけんの土地とちを見出みいだした。豊ゆたかな太陽たいよう、美うつくしく雄大ゆうだいな景観けいかんをバックに、ロケーションに事欠ことかくことなく西部せいぶ劇げきの撮影さつえいが進すすめられ、ここが映画えいが製作せいさくの中心ちゅうしん地ちとなった。それがハリウッドであった。

西部せいぶ劇げきスターと監督かんとく

ウィリアム・S・ハート。（『ガンファイター』（1917年ねん）より）

ハリー・ケリー。(1919年ねん)

西部せいぶの荒野あらので、逆境ぎゃっきょうに立たち向むかい、悪あくをやっつけて、弱者じゃくしゃ（女性じょせいや子供こども）には優やさしいガンマンを主人公しゅじんこうに、懸賞けんしょう金きんが掛かけられたお尋たずね者ものと決闘けっとうしたり、駅えき馬車ばしゃを追おっかけたり、銀行ぎんこう強盗ごうとうがあったり、騎兵隊きへいたいが来きたり、そして先住せんじゅうのインディアンと争あらそったりするのがパターンであった。実在じつざいした保安ほあん官かん（ワイアット・アープやワイルド・ビル・ヒコック）やガンマン(バット・マスターソン、ビリー・ザ・キッド、ジェシー・ジェームス)を題材だいざいにして、アメリカ西部せいぶの大だい自然しぜんを背景はいけいに開拓かいたく者しゃ魂たましい（フロンティア精神せいしん）を詩情しじょう豊ゆたかに描えがく西部せいぶ劇げきは多おおくの人々ひとびとを魅了みりょうし、西部せいぶ開拓かいたく時代じだいへのノスタルジーを掻かき立たてられた。それは19世紀せいき後半こうはんの西部せいぶ開拓かいたく時代じだいでの開拓かいたく者しゃ精神せいしんを称となえ、アメリカを発展はってんさせたものとして賛美さんびするものであった。

こうした西部せいぶ劇げきの基本きほんは強つよく勇敢ゆうかんなヒーローの存在そんざいであり、そのヒーローを演えんじる俳優はいゆうは西部せいぶ劇げきスターとなった。最初さいしょの頃ころに登場とうじょうしたブロンコ・ビリー・アンダーソンは「ブロンコ・ビリー」シリーズで主演しゅえんし、毎週まいしゅう1本ほんずつ一いち巻物まきもの（上映じょうえい時間じかん12分ふんまで）で製作せいさくされた連続れんぞく活劇かつげきに7年間ねんかん出演しゅつえんした。

ブロンコ・ビリーの後のちにはブロードウエイの舞台ぶたい俳優はいゆうであったウィリアム・S・ハートが二に挺てい拳銃けんじゅうの颯爽さっそうとした姿すがたで登場とうじょうし「西部せいぶの騎士きし」のようなスタイルで多おおくの観客かんきゃくを魅了みりょうした。ハートはそれまでの西部せいぶ劇げき役者やくしゃとは全まったく異質いしつで、騎士きし道どう精神せいしんを前面ぜんめんに出だしながらも孤独こどくで悲劇ひげき的てき立場たちばに追おい込こまれる場面ばめんが多おおく、そこが観客かんきゃくの心しんを強つよく打うつものであった。彼かれは俳優はいゆうのみならず製作せいさく・監督かんとくにもたずさわり、「曠野あらのの志士しし」(1925年ねん)などのサイレント作品さくひんが日本にっぽんでも上映じょうえいされて西部せいぶ劇映画げきえいがに大おおきな足跡あしあとを残のこした。一方いっぽうで、トム・ミックスやバック・ジョーンズ主演しゅえんによる子供こども向むけ西部せいぶ劇げきの潮流ちょうりゅうも生うまれている。

そしてほぼ同どう時期じきにハリー・ケリーが登場とうじょうして1917年ねんから1919年ねんにかけて「シャイアン・ハリー」シリーズで人気にんきを呼よんだ。ハリー・ケリーは後年こうねんは脇役わきやくに回まわって、戦後せんごは「白昼はくちゅうの決闘けっとう」「赤あかい河かわ」にも出演しゅつえんしていたがサイレント期きの西部せいぶ劇げきスターとしてその名なは記憶きおくされている。この「シャイアン・ハリー」シリーズの殆ほとんどを製作せいさく・監督かんとくしたのが当時とうじジャック・フォードと名乗なのっていた後のちのジョン・フォードであり、ハリー・ケリーはフォード一家かずやとは親したしい関係かんけいで、息子むすこのハリー・ケリー・ジュニアは後のちにジョン・フォード西部せいぶ劇げきの貴重きちょうなバイプレイヤーとなり、ハリー・ケリーの妻つまは後年こうねんのフォード西部せいぶ劇げきの傑作けっさく『捜索そうさく者しゃ』に出演しゅつえんしている。

ジョン・フォードは兄あにのフランシス・フォードによって映画えいが界かいに入はいり、フランシスの助手じょしゅを務つとめながらやがて映画えいが監督かんとくになったが、そのフランシスはサイレント時代じだいの西部せいぶ劇げきの製作せいさくに多おおく関かかわり、『Custer`s Last Fight』（1912年ねん）「旋風せんぷう児じ」（1921年ねん）「Western Yesterday」（1924年ねん）などの作品さくひんを製作せいさくしている。このサイレント期きには、前述ぜんじゅつのエドウィン・S・ポーター、フランシス・フォード、ウィリアム・S・ハート以外いがいにスチュアート・ペイトン、リン・F・レイノルズなどの映画えいが監督かんとくが西部せいぶ劇げきに多数たすうの映画えいがを残のこしていた。また他たの西部せいぶ劇げきスターとしてはウイリアム・ファーナムやトム・ミックスらがいた。

ゲイリー・クーパー。映画えいが『ヴェラクルス』（1954年ねん）より

ジョン・ウェイン。映画えいが『コマンチェロ』（1961年ねん）より

第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん後ごにはジェームズ・クルーズ監督かんとく『幌ほろ馬車ばしゃ』（1923年ねん）が製作せいさくされた。この映画えいがはスターによるヒーロー物語ものがたりではなく、自然しぜんの猛威もういや先住民せんじゅうみんと戦たたかいながら西部せいぶの荒野あらのを西にしへ西にしへと進すすむ集団しゅうだんの物語ものがたりで、それまでの西部せいぶ劇げきとは全まったく違ちがう新あたらしい西部せいぶ劇げきを作つくった。ジョン・フォードは1924年ねんに大陸たいりく横断おうだん鉄道てつどうの建設けんせつを軸じくにした西部せいぶ開拓かいたく叙事詩じょじし「アイアンホース」、1926年ねんに『三さん悪人あくにん』を製作せいさくしていた。

そして1927年ねんに「ジャズシンガー」でトーキーが普及ふきゅうすると、後のちに「風ふうと共ともに去さりぬ」「オズの魔法使まほうつかい」を作つくったヴィクター・フレミング監督かんとくが1929年ねん「ヴァージニアン」を製作せいさくして主演しゅえんに抜擢ばってきされたゲイリー・クーパーはこの作品さくひんで西部せいぶ劇げきスターの座ざを獲得かくとくした。その後ご1936年ねんにセシル・B・デミル監督かんとくの『平原へいげん児じ』で主役しゅやくワイルド・ビル・ヒコックを演えんじ、ジーン・アーサー演えんじるカラミティ・ジェーンとの悲恋ひれんを絡からめながら巧たくみなガンさばきを見みせて大だいスターとなった。

一方いっぽう1930年ねんラオール・ウォルシュ監督かんとくの「ビッグ・トレイル」でジョン・フォードは当時とうじ無名むめいだったジョン・ウェインを推薦すいせんして主役しゅやくに抜擢ばってきさせたが不評ふひょうに終おわったので、ジョン・ウェインはその後ごB級きゅう西部せいぶ劇げきに10年ねん近ちかく出演しゅつえんを続つづけた。そして1939年ねんになってB級きゅう映画えいがで俳優はいゆうとして経験けいけんを積つんだジョン・ウェインを再ふたたび抜擢ばってきしてジョン・フォードは『駅えき馬車ばしゃ』を製作せいさくし、ジョン・ウェインは主役しゅやくリンゴー・キッドを演えんじた。この映画えいがは駅えき馬車ばしゃの走行そうこうにインディアンの襲撃しゅうげき及およびガンマンの決闘けっとう、そして駅えき馬車ばしゃに乗のり合あわせた乗客じょうきゃくのそれぞれの人生じんせい模様もようを描えがき、たんなる娯楽ごらく活劇かつげきではなく西部せいぶ劇げきの評価ひょうかを一気いっきに高たかめて、今日きょうでも戦前せんぜんの西部せいぶ劇げきの最高峰さいこうほうと評価ひょうかされている。

この時期じきにはサイレント映画えいがの名作めいさく「ビッグ・パレード」を作つくったキング・ヴィダー監督かんとくが西部せいぶ劇げきの「ビリーザ・キッド」（1930年ねん）、「テキサス決死けっし隊たい」（1936年ねん）を製作せいさくし、同おなじくサイレントで「スコオ・マン」を作つくり、トーキー以後いごの1931年ねんにも再さい映画えいが化かをしたセシル・B・デミル監督かんとくが「平原へいげん児じ」の後のちに1939年ねんに大陸たいりく横断おうだん鉄道てつどうの建設けんせつ、列車れっしゃ転覆てんぷく、襲撃しゅうげき、悪あくとの対決たいけつ、恋こいを絡からませたジョエル・マクリー主演しゅえん『大平おおひら原げん』、その翌年よくねん1940年ねんにゲイリー・クーパー主演しゅえん『北西ほくせい騎馬きば警官けいかん隊たい』を製作せいさくし、同おなじ1939年ねんにヘンリー・キング監督かんとくでタイロン・パワーがジェシー・ジェームスを演えんじた『地獄じごくへの道みち』、ジョージ・マーシャル監督かんとくでジェームズ・スチュアートとマレーネ・ディートリヒ主演しゅえん『砂塵さじん』、1940年ねんにウィリアム・ワイラー監督かんとくで西部せいぶ開拓かいたく史しにその名なを残のこすロイ・ビーン判事はんじを描えがいたゲイリー・クーパー主演しゅえん『西部せいぶの男おとこ』など西部せいぶ劇げきの傑作けっさくと呼よばれる作品さくひんが次々つぎつぎと発表はっぴょうされた。

第だい二に次じ大戦たいせんの戦時せんじ下かでもハワード・ヒューズ監督かんとくでジェーン・ラッセルの妖艶ようえんな姿すがたが話題わだいとなった『ならず者もの』（1943年ねん）、ラオール・ウォルシュ監督かんとくの史上しじょうに名高なだかいリトル・ビッグホーンでの第だい七なな騎兵隊きへいたいの全滅ぜんめつとカスター将軍しょうぐんの最後さいごを描えがいたエロール・フリン主演しゅえん『壮烈そうれつ第だい七なな騎兵隊きへいたい』（1943年ねん）、ウィリアム・A・ウェルマン監督かんとくでヘンリー・フォンダ主演しゅえんの『牛うし泥棒どろぼう』（1943年ねん）、ジョエル・マクリー主演しゅえんでバッファロー・ビル・コディを描えがいた『西部せいぶの王者おうじゃ』（1944年ねん）などの作品さくひんが作つくられている。

西部せいぶ劇げきの黄金おうごん期き

そして第だい二に次じ大戦たいせんが終おわって後のちに西部せいぶ劇げきは黄金おうごん時代じだいを迎むかえて、1960年ねん頃ごろまで多数たすうの名作めいさくを生うんだ。また多おおくの俳優はいゆうが西部せいぶ劇げきで主演しゅえんを演えんじて、その中なかからゲイリー・クーパー、ジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ、グレゴリー・ペック、ジェームズ・スチュアートらの大だいスターが西部せいぶ劇げきから育そだっていった。

ジョン・フォード監督かんとくのヘンリー・フォンダ主演しゅえんでワイアット・アープとクラントン一家いっかとの対決たいけつを描えがいた『荒野あらのの決闘けっとう』（1946年ねん）、そしてジョン・ウェイン主演しゅえんで後のちに騎兵隊きへいたい三さん部ぶ作さくと言いわれた『アパッチ砦とりで』（1948年ねん）・『黄色きいろいリボン』（1949年ねん）・『リオ・グランデの砦とりで』（1950年ねん）、今日きょうでは最高さいこう傑作けっさくとされる『捜索そうさく者しゃ』（1956年ねん）、そしてウィリアム・ホールデンと共演きょうえんした『騎兵隊きへいたい』（1959年ねん）、ハワード・ホークス監督かんとくのジョン・ウェイン主演しゅえん『赤あかい河かわ』（1948年ねん）、ジョン・ウェインとディーン・マーティン主演しゅえん『リオ・ブラボー』（1958年ねん）、ヘンリー・キング監督かんとくのグレゴリー・ペック主演しゅえん「拳銃けんじゅう王おう」（1950年ねん）、デルマー・デイヴィス監督かんとくのジェームズ・スチュアート主演しゅえん『折おれた矢や』（1950年ねん）、そしてフレッド・ジンネマン監督かんとくのゲイリー・クーパー主演しゅえん『真昼まひるの決闘けっとう』（1952年ねん）、ジョージ・スティーブンス監督かんとくのアラン・ラッド主演しゅえん『シェーン』（1953年ねん）、ジョン・スタージェス監督かんとくのバート・ランカスターとカーク・ダグラス主演しゅえんで「荒野あらのの決闘けっとう」と同おなじく西部せいぶ開拓かいたく史上しじょう最もっとも有名ゆうめいな決闘けっとうを描えがいた『OK牧場ぼくじょうの決けつ斗と』（1957年ねん）などの名作めいさくが世よに送おくり出だされた。

この時期じきの『捜索そうさく者しゃ』・『真昼まひるの決闘けっとう』・『シェーン』の3作品さくひんは、戦前せんぜんの『駅えき馬車ばしゃ』と合あわせてアメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)が1998年ねんと2008年ねんに行いった「偉大いだいなアメリカ映画えいがベスト100」で西部せいぶ劇げき部門ぶもんの最さい上位じょういを占しめ、1998年ねんは『真昼まひるの決闘けっとう』が、2008年ねんは『捜索そうさく者しゃ』が西部せいぶ劇映画げきえいがのトップとして評価ひょうかされている。　

またこの時期じきにジョン・スタージェス監督かんとくの「ブラボー砦とりでの脱出だっしゅつ」、『ガンヒルの決けつ斗と』、ロバート・テイラー主演しゅえん『ゴーストタウンの決けつ斗と』そして「六ろく番目ばんめの男おとこ」、キング・ヴィダー監督かんとくのグレゴリー・ペック主演しゅえん『白昼はくちゅうの決闘けっとう』そして「星ほしのない男おとこ」、ラオール・ウォルシュ監督かんとくの『死しの谷たに』「追跡ついせき」「決闘けっとう一いち対たい三さん」、ヘンリー・キング監督かんとくの「無頼ぶらいの群ぐん」、ロバート・アルドリッチ監督かんとくの「アパッチ」『ヴェラクルス』「ガンファイター」、ウィリアム・ワイラー監督かんとくでグレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストン主演しゅえんの『大おおいなる西部せいぶ』とゲイリー・クーパー主演しゅえんの『友情ゆうじょうある説得せっとく』、デルマー・デイヴィス監督かんとくでグレン・フォードとヴァン・ヘフリン主演しゅえん『決断けつだんの3時じ10分ふん』、リチャード・ウィドマーク主演しゅえん「襲おそわれた幌ほろ馬車ばしゃ」、グレン・フォード主演しゅえん「カウボーイ」そしてゲイリー・クーパー主演しゅえん『縛しばり首くびの木き』、アンソニー・マン監督かんとくの『ウインチェスター銃じゅう73』『裸はだかの拍車はくしゃ』『ララミーから来きた男おとこ』『怒いかりの河かわ』『遠とおい国くに』『胸むねに輝かがやく星ほし』『西部せいぶの人ひと』、エドワード・ドミトリク監督かんとくでヘンリー・フォンダとリチャード・ウィドマークとアンソニー・クイン主演しゅえんの『ワーロック』そして「折おれた槍やり」、スチュアート・ギルモア監督かんとくの「落日らくじつの決闘けっとう」、フランク・ロイド監督かんとくの「アラモの砦とりで」、ロバート・ワイズ監督かんとくでロバート・ミッチャム主演しゅえんの「月下げっかの銃声じゅうせい」、ニコラス・レイ監督かんとくの『大だい砂塵さじん』『無法むほうの王者おうじゃジェシイ・ジェイムス』、ジョージ・マーシャル監督かんとくの「燃もえる幌ほろ馬車ばしゃ」、オットー・プレミンジャー監督かんとくのロバート・ミッチャムとマリリン・モンロー主演しゅえんで初はつのシネマスコープ作品さくひん『帰かえらざる河かわ』、ジョン・ヒューストン監督かんとくのバート・ランカスターとオードリー・ヘプバーン主演しゅえん『許ゆるされざる者もの』、ロバート・D・ウエッブ監督かんとくのロバート・ライアン主演しゅえん「誇ほこり高たかき男おとこ」、ヘンリー・ハサウェイ監督かんとくの「狙ねらわれた駅えき馬車ばしゃ」「向むこう見みずの男おとこ」そしてゲイリー・クーパー主演しゅえん『悪あくの花園はなぞの』、アーサー・ペン監督かんとくポール・ニューマン主演しゅえんでビリー・ザ・キッドを描えがいた「左ひだりききの拳銃けんじゅう」などが製作せいさくされた。

そして1960年代ねんだいに入はいるとジョン・スタージェス監督かんとくのユル・ブリンナーとスティーブ・マックイーン主演しゅえん『荒野あらのの七なな人にん』、マイケル・カーティス監督かんとくの『コマンチェロ』、ジョン・フォード監督かんとくの『バファロー大隊だいたい』『リバティ・バランスを射うった男おとこ』『シャイアン』、また西部せいぶ劇げきスターが製作せいさく監督かんとくしてジョン・ウエイン監督かんとくで初はつの70ミリ作品さくひん『アラモ』、マーロン・ブランド監督かんとくの「片目かためのジャック」、そして西部せいぶ開拓かいたくの歴史れきしを家族かぞくの一代記いちだいきとしてオムニバスで描えがいたヘンリー・ハサウェイとジョン・フォードとジョージ・マーシャル監督かんとくの初はつのシネラマ作品さくひん『西部せいぶ開拓かいたく史し』などの作品さくひんが続々ぞくぞくと製作せいさくされた。

B級きゅう西部せいぶ劇げきとテレビ西部せいぶ劇げき

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんが終おわる頃ころまで、アメリカ映画えいがの大おおきなジャンルとして西部せいぶ劇げきは確固かっことしたもので人気にんきは高たかかった。1930年代ねんだいに西部せいぶ劇げきの製作せいさく本数ほんすうは100本ほんを超こえて、1935年ねんには150本ほん、戦争せんそうを挟はさんで1950年ねん頃ごろも140本ほん近ちかくを記録きろくした。この製作せいさく本数ほんすうの増加ぞうかは、30年代ねんだいから始はじまった二本立にほんだて興行こうぎょうの添そえ物ものとしてB級きゅう映画えいがが製作せいさくされて、西部せいぶ劇げきもB級きゅう作品さくひんとして50〜70分ふん程度ていどのB級きゅう西部せいぶ劇げきが多数たすう製作せいさくされたことによるものである。単純たんじゅん明快めいかいな活劇かつげきであり、善悪ぜんあくがはっきりして勧善懲悪かんぜんちょうあくなストーリーで、当時とうじは西部せいぶ劇げきなら必かならず当あたると言いわれたほどであった。この粗製そせい乱造らんぞうと言いわれるほど大量たいりょうに作つくられた時期じきに、その試行錯誤しこうさくごから映像えいぞう表現ひょうげんの技術ぎじゅつと可能かのう性せいを発展はってんさせ、また西部せいぶ劇げきの売上うりあげ増ぞうによる資本しほんの蓄積ちくせきが映画えいがを産業さんぎょうとして発展はってんさせる基礎きそを構築こうちくし、映画えいが王国おうこくを築きずく活力かつりょく源げんとなった。

B級きゅう西部せいぶ劇げきからジョン・ウェインは育そだってきたスターであり、ランドルフ・スコットやジョエル・マクリー或あるいはオーディ・マーフィなどもB級きゅう西部せいぶ劇げきスターと呼よばれた。この他ほかにはチャールズ・スターレット、フート・ギブスン、バック・ジョーンズ、ケン・メイナード、ジョニー・マック・ブラウンや『ホパロング・キャシディ』で有名ゆうめいなウイリアム・ボイド、そしてB級きゅう西部せいぶ劇げきのサブジャンルとしてミュージカル西部せいぶ劇げきが第だい二に次じ大戦たいせん前後ぜんこうに人気にんきとなり、歌うたうカウボーイとしてジーン・オートリーやロイ・ロジャースがその歴史れきしに刻きざまれている。 またB級きゅう西部せいぶ劇げきの監督かんとくとしてレイ・エンライト、ジョセフ・ケーン、アンドレ・ド・トス、ジョージ・シャーマン、ルドルフ・マテ、バッド・ベティカー、アラン・ドワン、ラッセル・ラウズなどが活躍かつやくし、やがてB級きゅう映画えいがの監督かんとくから後のちに大作たいさくのメガホンをとる監督かんとくも現あらわれてきた。レイ・エンライト監督かんとくのランドルフ・スコットとジョン・ウェインとマレーネ・ディートリヒ主演しゅえん『スポイラース』や「西部せいぶの裁さばき」、ジョセフ・ケーン監督かんとくの「無法むほうの道みち」「最後さいごの駅えき馬車ばしゃ」、アンドレ・ド・トス監督かんとくの「スプリングフィールド銃じゅう」「平原へいげんの落雷らくらい」「賞金しょうきんを追おう男おとこ」、ジョージ・シャーマン監督かんとくの「戦たたかいの矢や」「生うまれながらの無宿むしゅく者しゃ」、ルドルフ・マテ監督かんとくの「欲望よくぼうの谷たに」「三さん人にんの荒あらくれ者もの」、バッド・ベティカー監督かんとくの「平原へいげんの待まち伏ぶせ」「決闘けっとうコマンチ砦とりで」、アラン・ドワン監督かんとくの「私刑しけいされる女おんな」「バファロウ平原へいげん」、ラッセル・ラウズ監督かんとくの「必殺ひっさつの一いち弾だん」「バスク決死けっし隊たい」などがある。

そしてB級きゅう西部せいぶ劇げきが衰退すいたいした頃ころからテレビ西部せいぶ劇げきが盛さかんに製作せいさくされて、テレビからスターが生うまれ、西部せいぶ劇映画げきえいがの監督かんとくが生うまれた。「拳銃けんじゅう無宿むしゅく」のスティーブ・マックイーン、「マーベリック」のジェームズ・ガーナー、『ローハイド』のクリント・イーストウッド、そしてジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソン、リー・マーヴィンがその例れいであり、テレビ出身しゅっしんの監督かんとくからサム・ペキンパー監督かんとくでランドルフ・スコットとジョエル・マクリー主演しゅえん「昼下ひるさがりの決闘けっとう」、ゴードン・ダグラス監督かんとくの「駅えき馬車ばしゃ」、アンドリュー・V・マクラグレン監督かんとくの「シェナンドー河かわ」、ドン・シーゲル監督かんとくでオーディ・マーフィ主演しゅえん「抜ぬき射うち二に挺てい拳銃けんじゅう」、エルビス・プレスリー主演しゅえん「燃もえる平原へいげん児じ」などの作品さくひんが生うまれた。

そして、1960年代ねんだいに入はいった頃ころから西部せいぶ劇げきの人気にんきは下降かこうしていった。ほぼ同時どうじにテレビ西部せいぶ劇げきも衰退すいたいして当時とうじ日本にっぽんでも人気にんき番組ばんぐみであった「ローハイド」もアメリカで製作せいさく中止ちゅうしとなり出演しゅつえんしていたクリント・イーストウッドはイタリアに渡わたり、セルジオ・レオーネ監督かんとく『荒野あらのの用心棒ようじんぼう』（1964年ねん）で一躍いちやくマカロニ・ウエスタンが注目ちゅうもくされると同時どうじに彼かれは一気いっきに西部せいぶ劇げきスターの座ざを獲得かくとくした。クリント・イーストウッドはやがて西部せいぶ劇げき衰退すいたいの時代じだいに活躍かつやくすることとなった。

西部せいぶ劇げきの変貌へんぼう

西部せいぶ劇げきが描えがく人物じんぶつ像ぞうは基本きほん的てきに主人公しゅじんこうは白人はくじんで、強つよく正ただしくて『勧善懲悪かんぜんちょうあく』をストーリーの骨子こっしとし、そこへ応援おうえんに来きたりする（陸軍りくぐんの）騎兵きへい隊たいは「善ぜん役やく」であり、それに刃向はむかう先住民せんじゅうみんインディアンを「悪役あくやく」としたものが多おおい。そして劇げき中ちゅうで描えがかれた白人はくじんとインディアンとの戦たたかいには史実しじつも多おおいが、戦たたかいの原因げんいん（土地とちの領有りょうゆう権けん）に触ふれたものはほとんどなかった。

しかし、やがて史実しじつとは違ちがう（白人はくじんに都合つごうのいい）内容ないように対たいする反発はんぱつや反省はんせいが西部せいぶ劇げきを衰退すいたいさせる強つよい動因どういんとなった。戦後せんご、多様たよう化かする価値かち観かんや倫理りんり観かんの変化へんかに勧善懲悪かんぜんちょうあくのドラマがついていけなくなったのである。

1940年代ねんだいの半なかば頃ごろから、フロンティア精神せいしんを肯定こうていしてそこに主人公しゅじんこう(ヒーロー)がいて無法者むほうものや先住民せんじゅうみんを倒たおす「西部せいぶ劇げき」という一ひとつの図式ずしきが崩くずれ始はじめた。1950年ねんのデルマー・デイヴィス監督かんとく『折おれた矢や』は先住民せんじゅうみんは他者たしゃで白人はくじんコミュニティを脅おびやかす存在そんざいという図式ずしきではなく、先住民せんじゅうみんの側がわから描えがき、戦たたかいを好このむのではなく平和へいわを求もとめる彼かれらの姿すがたを描えがいた。それは、当時とうじ黒人こくじんの地位ちい向上こうじょうを目指めざす公民こうみん権けん運動うんどうが次第しだいに激はげしくなる時代じだいに入はいり、人権じんけん意識いしきが高たかまる中なかでインディアンや黒人こくじんの描えがき方かたが批判ひはんされるようになって、単たんなる勧善懲悪かんぜんちょうあくでは有あり得えない現実げんじつを浮うかび上あがらせ、それまでの西部せいぶ劇げきが捨象しゃしょうしてきた問題もんだいに対たいして向むき合あわざるを得えなくなったことであった。

そしてもう一ひとつの図式ずしきである勧善懲悪かんぜんちょうあくで、開拓かいたく者しゃ精神せいしんを肯定こうていする強つよいヒーローがいて悪あくを倒たおすそれまでの図式ずしきも崩くずれていった。自分じぶんの名誉めいよのためだけにインディアンを見下みくだし、結果けっか自身じしんの連隊れんたいを壊滅かいめつさせてしまう騎兵きへい中佐ちゅうさ（『アパッチ砦とりで』でヘンリー・フォンダが演えんじたサースデイ）、町まちの誰だれからも助たすけてもらえない連邦れんぽう保安ほあん官かん（『真昼まひるの決闘けっとう』でゲイリー・クーパーが演えんじたケイン）、復讐ふくしゅうに執念しゅうねんを燃もやす男おとこ（『捜索そうさく者しゃ』でジョン・ウェインが演えんじたエドワーズ）、農園のうえんを取とり戻もどすだけのために賞金しょうきん稼かせぎとなり人じんを殺ころす農園のうえん主ぬし（『裸はだかの拍車はくしゃ』でジェームズ・スチュアートが演えんじたケンプ）が主人公しゅじんこうの西部せいぶ劇げきが40年代ねんだいから50年代ねんだいにかけ多数たすう製作せいさくされて、それまでの映画えいがにあった悪あくに立たち向むかうヒーロー像ぞうがもはや存在そんざいせず、何なにが正ただしくて何なにが悪わるいか、明あきらかにしないままにただ主人公しゅじんこうの人間にんげんらしさが主おもになって、そこではもはやヒーローが描えがきにくくなったのである。

この時期じきになると、善悪ぜんあくの区別くべつが曖昧あいまいで複雑ふくざつな作品さくひんが多おおくなった。痛快つうかいで豪快ごうかいなアクション、ヒーローと悪役あくやくとの対決たいけつ、派手はでなガンさばきを見みせたりして見みせ場ばはあっても全体ぜんたいとしての雰囲気ふんいきは重おもく暗くらいものになった。ラオール・ウォルシュ監督かんとくの『死しの谷たに』「追跡ついせき」、アンソニー・マン監督かんとくの『裸はだかの拍車はくしゃ』、キング・ヴィダー監督かんとくの「白昼はくちゅうの決闘けっとう」、ヘンリー・キング監督かんとくの「拳銃けんじゅう王おう」「無頼ぶらいの群ぐん」、ジョン・スタージェス監督かんとくの「六ろく番目ばんめの男おとこ」、ジョージ・シャーマン監督かんとくの「生うまれながらの無宿むしゅく者しゃ」、デルマー・デイヴィス監督かんとくの『縛しばり首くびの木き』、ニコラス・レイ監督かんとくの『大だい砂塵さじん』、エドワード・ドミトリク監督かんとくの『ワーロック』、そしてフレッド・ジンネマン監督かんとくの『真昼まひるの決闘けっとう』などの主人公しゅじんこうは誰だれからも信用しんようされない、心しんにトラウマがあったり、死しにたいと願ねがったり、孤立こりつ無援むえんの戦たたかいに追おい込こまれたりしている。それは第だい二に次じ大戦たいせんが終おわって未み曽そ有ゆうの戦争せんそうを体験たいけんしたアメリカ社会しゃかいが、それまであった「強つよく正ただしいヒーローが大だい活躍かつやくする単純たんじゅん明快めいかいな西部せいぶ劇げきが作つくりにくくなったことを示しめしている」と川本かわもと三郎さぶろうは述のべている。

そしてそれはまた、この当時とうじハリウッドを襲おそった「赤狩あかがり」という暗くらい空気くうきの中なかで、アンソニー・マンやフレッド・ジンネマンが描えがいた世界せかいが西部せいぶ劇げきの変貌へんぼうをもたらしたとも言いわれている。

これが1960年代ねんだいに入はいると、公民こうみん権けん運動うんどうが高たかまると同時どうじに西部せいぶ劇げきの衰退すいたいを招まねくこととなった。1960年ねんにジョン・F・ケネディが大統領だいとうりょうに就任しゅうにんし人種じんしゅ差別さべつの撤廃てっぱいに強つよい姿勢しせいで臨のぞみ、これに伴ともない従来じゅうらいの製作せいさくコードが通用つうようしなくなり製作せいさく本数ほんすうも激減げきげんした。そしてイタリアなどでいわゆるマカロニ・ウェスタンと呼よばれる多おおくの西部せいぶ劇げきが作つくられ始はじめると、サム・ペキンパー監督かんとく『ワイルドバンチ』のようにマカロニウエスタンに逆ぎゃくに影響えいきょうを受うけた作品さくひんも数多かずおおく生うまれた。

こうした状況じょうきょうから西部せいぶ劇げきはそれまでの単純たんじゅんな善悪ぜんあく二元論にげんろんでは立たち行ゆかなくなり、1950年代ねんだい初頭しょとうには年間ねんかん100本ほんほどの製作せいさく本数ほんすうが、四半世紀しはんせいき後ごの1970年代ねんだい後半こうはんにはわずか1ケタの製作せいさく本数ほんすうに激減げきげんしていく。

やがてニューシネマの台頭たいとうでジョージ・ロイ・ヒル監督かんとくポール・ニューマンとロバート・レッドフォード主演しゅえんの『明日あしたに向むかって撃げきて!』のような秀作しゅうさくも生うまれ、またアーサー・ペン監督かんとく『小ちいさな巨人きょじん』とラルフ・ネルソン監督かんとく『ソルジャー・ブルー』が1970年ねんに公開こうかいされ、『ソルジャー・ブルー』は1864年ねんのサンドクリークの虐殺ぎゃくさつを基もとに、被害ひがい者しゃである先住民せんじゅうみんの立場たちばに立たって虐殺ぎゃくさつ事件じけんを描えがき、当時とうじ話題わだいになった作品さくひんである。

1960年代ねんだいから1970年代ねんだいになるとマカロニ・ウエスタンの影響えいきょうを受うけながらも、バート・ケネディ監督かんとくの「続ぞく・荒野あらのの七なな人にん」「夕陽ゆうひに立たつ保安ほあん官かん」、リチャード・ブルックス監督かんとくの「プロフェッショナル」「弾丸だんがんを噛かめ」、ドン・シーゲル監督かんとくでクリント・イーストウッド主演しゅえんの「真昼まひるの死闘しとう」とジョン・ウェイン主演しゅえんの『ラスト・シューティスト』、ラルフ・ネルソン監督かんとくの「砦とりでの29人にん」、マーク・ライデル監督かんとくでジョン・ウェイン主演しゅえんの「11人にんのカウボーイ」、ロバート・シオドマク監督かんとくの「カスター将軍しょうぐん」、マイケル・ウイナー監督かんとくでバート・ランカスター主演しゅえんの「追跡ついせき者しゃ」、サム・ペキンパー監督かんとくでチャールトン・ヘストンとジェームズ・コバーン主演しゅえん「ダンディー少佐しょうさ」、ウィリアム・ホールデンとロバート・ライアン主演しゅえん「ワイルド・バンチ」、アンドリュー・V・マクラグレン監督かんとくでチャールトン・ヘストン主演しゅえんの『大おおいなる決闘けっとう』、ベテランのハワード・ホークス監督かんとくの『エル・ドラド』『リオ・ロボ』、ジョン・スタージェス監督かんとくでワイアット・アープの決闘けっとう後ごを描えがいたジェームズ・ガーナー主演しゅえんの「墓石はかいしと決闘けっとう」、ヘンリー・ハサウェイ監督かんとくでスティーブ・マックイーン主演しゅえん「ネバダ・スミス」とジョン・ウェイン主演しゅえんの『エルダー兄弟きょうだい』そして『勇気ゆうきある追跡ついせき』などの西部せいぶ劇げきが製作せいさくされた。

1970年代ねんだい以後いごになると、クリント・イーストウッド主演しゅえん・監督かんとくの『荒野あらののストレンジャー』（1973年ねん）・『アウトロー』（1976年ねん）・『ペイルライダー』（1985年ねん）・『許ゆるされざる者もの』（1992年ねん）、ローレンス・カスダン監督かんとくの『シルバラード』（1985年ねん）、ケビン・コスナー主演しゅえんの『ワイアット・アープ』（1994年ねん）、ケビン・コスナー主演しゅえん・監督かんとくの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』（1990年ねん）・『ワイルド・レンジ 最後さいごの銃撃じゅうげき』（2003年ねん）などの秀作しゅうさくが生うまれている。

サブジャンル

フランク・グルーバーは、西部せいぶ劇げきの基本きほん的てきなプロットとして以下いかの7系統けいとうを挙あげている。彼かれによると、優秀ゆうしゅうな脚本きゃくほん家かはこれらの基本きほん系統けいとうをキャラクターの台詞せりふとストーリー開発かいはつによって、もっともらしいストーリーを作つくり上あげていくという。1960年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけて、西部せいぶ劇げきは修正しゅうせい主義しゅぎ西部せいぶ劇げきの台頭たいとうによって新あらたな展開てんかいを見みせた。

1. ユニオン・パシフィック(Union Pacific story)：近代きんだい的てきな技術ぎじゅつ・交通こうつう設備せつび（鉄道てつどうや電信でんしん設備せつび）の敷設ふせつなどを描えがいた作品さくひん。1862年ねん創業そうぎょうのユニオン・パシフィック鉄道てつどうにちなむ。
2. 牧場ぼくじょう(Ranch story)：牧場ぼくじょう主ぬしを主人公しゅじんこうとし、家畜かちくや牧場ぼくじょうを奪うばおうとする泥棒どろぼうや大だい地主じぬしとの対決たいけつを描えがいた作品さくひん。
3. 帝国ていこく(Empire story)：無一文むいちもんの主人公しゅじんこうが大だい牧場ぼくじょうや大だい油田ゆでんを獲得かくとくして成功せいこう者しゃとなるサクセスストーリーを描えがいた作品さくひん。
4. 復讐ふくしゅう(Revenge story)：復讐ふくしゅうを題材だいざいとした作品さくひん。主おもに冤罪えんざいによって貶おとしめられた主人公しゅじんこうが緻密ちみつな計算けいさんの元もとで仇かたきを追おい詰つめる展開てんかいが多おおいが、古典こてん的てきなミステリ小説しょうせつの要素ようそが盛もり込こまれることがある。
5. 騎兵隊きへいたいとインディアン(Cavalry and Indian story)：白人はくじん入植にゅうしょく者しゃのために荒野あらのを「押おさえつける」ことを描えがいた作品さくひん。
6. アウトロー(Outlaw story)：アウトローを主人公しゅじんこうとし、アクションを軸じくに展開てんかいする物語ものがたりを描えがいた作品さくひん。
7. マーシャル(Marshal story)：保安ほあん官かんなどの秩序ちつじょを守まもる立場たちばの人物じんぶつを主人公しゅじんこうとした作品さくひん。

古典こてん的てき西部せいぶ劇げき

歴史れきし上じょう初はじめて製作せいさくされた西部せいぶ劇映画げきえいがとして、1899年ねんにミッチェルとケニョンが製作せいさくした短編たんぺん映画えいが『Kidnapping by Indians』が知しられている。しばしばエドウィン・S・ポーターが1903年ねんに製作せいさくした『大だい列車れっしゃ強盗ごうとう』が「最初さいしょの西部せいぶ劇映画げきえいが」と誤あやまって紹介しょうかいされることがあるが、ジョージ・N・フェニンとウィリアム・K・エヴァーソンは「『大だい列車れっしゃ強盗ごうとう』製作せいさくの数すう年ねん前まえから、エジソン社しゃは西部せいぶ劇げきを題材だいざいとしていた」と指摘してきしている。『大だい列車れっしゃ強盗ごうとう』のヒットにより、出演しゅつえん者しゃのブロンコ・ビリー・アンダーソンは映画えいが史上しじょう初はつのカウボーイ・スターとなり、その後ご数すう百ひゃく本ほんの短編たんぺん西部せいぶ劇映画げきえいがを手掛てがけたものの、すぐに西部せいぶ劇げきスターの座ざをトム・ミックスやウィリアム・S・ハートと争あらそうようになった。

西部せいぶ劇映画げきえいが黄金おうごん時代じだいの代表だいひょう作さくとして、以下いかの監督かんとくと作品さくひんが挙あげられている。

• ロバート・アルドリッチ - 『アパッチ』『ベラクルス』
• バッド・ベティカー - 『反撃はんげきの銃弾じゅうだん』『決闘けっとうコマンチ砦とりで』
• デルマー・デイヴィス - 『折おれた矢や』『襲おそわれた幌ほろ馬車ばしゃ』『決断けつだんの3時じ10分ふん』
• アラン・ドワン - 『逮捕たいほ命令めいれい』『バファロウ平原へいげん』
• ジョン・フォード - 『駅えき馬車ばしゃ』『荒野あらのの決闘けっとう』『捜索そうさく者しゃ』『リバティ・バランスを射うった男おとこ』
• サミュエル・フラー - 『赤あかい矢や』『四よん十じゅう挺ていの拳銃けんじゅう』
• ハワード・ホークス - 『赤あかい河かわ』『リオ・ブラボー』『エル・ドラド』
• ヘンリー・キング - 『拳銃けんじゅう王おう』『無頼ぶらいの群ぐん』
• アンソニー・マン - 『ウィンチェスター銃じゅう'73』『ララミーから来きた男おとこ』『胸むねに輝かがやく星ほし』
• ニコラス・レイ - 『大だい砂塵さじん』
• ジョージ・スティーヴンス - 『愛あいの弾丸だんがん』『シェーン』
• ジョン・スタージェス - 『OK牧場ぼくじょうの決けつ斗と』『荒野あらのの七なな人にん』
• ジャック・ターナー - 『インディアン渓谷けいこく』『Wichita』
• キング・ヴィダー - 『白昼はくちゅうの決闘けっとう』『星ほしのない男おとこ』
• ウィリアム・A・ウェルマン - 『牛うし泥棒どろぼう』『廃墟はいきょの群盗ぐんとう』

アシッド・ウェスタン

詳細しょうさいは「アシッド・ウェスタン」を参照さんしょう

ジョナサン・ローゼンバウムは1960年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけて流行りゅうこうしたアシッド・ウェスタンについて分析ぶんせきし、同どうジャンルはデニス・ホッパー、ジム・マクブライド、ルディ・ワーリッツァーなどの俳優はいゆうや、『銃撃じゅうげき』『エル・トポ』『グリーサーズ・パレス』などの作品さくひんと関連付かんれんづけられている。『エル・トポ』はアレハンドロ・ホドロフスキーが製作せいさくし、同名どうめいの主人公しゅじんこうのガンマンが悟さとりの境地きょうちにいたるまでを描えがいた寓話ぐうわ的てき作品さくひんとしてカルト映画えいが、アンダーグラウンド映画えいがに位置付いちづけられており、キリスト教きりすときょうや東洋とうよう哲学てつがくの要素ようそが盛もり込こまれている。

1980年代ねんだい以降いこうのアシッド・ウェスタンには『ウォーカー』『デッドマン』が挙あげられる。ローゼンバウムはアシッド・ウェスタンについて「妄想もうそう的てきなアジェンダを正当せいとう化かするために、冷酷れいこくで野蛮やばんなフロンティア詩情しじょうを定式ていしき化かしている」と指摘してきし、最終さいしゅう的てきには資本しほん主義しゅぎを批判ひはんし、その代替だいたい様式ようしきを取とり入いれたカウンターカルチャーを表現ひょうげんしていると結論けつろん付つけている。

修正しゅうせい主義しゅぎ西部せいぶ劇げき

詳細しょうさいは「修正しゅうせい主義しゅぎ西部せいぶ劇げき」を参照さんしょう

1960年代ねんだい初頭しょとう以降いこう、アメリカの映画えいが製作せいさく者しゃたちは西部せいぶ劇げきの伝統でんとう的てきな要素ようそに疑問ぎもんを抱いだくようになり、西部せいぶ劇映画げきえいがは「ヒーロー対たい悪役あくやく」という善悪ぜんあく二元論にげんろんからの脱却だっきゃくを目指めざし、登場とうじょう人物じんぶつが暴力ぼうりょく的てき手段しゅだんで物事ものごとの解決かいけつを図はかることに観客かんきゃくが疑問ぎもんを抱いだくような内容ないように変化へんかしていった。また、従来じゅうらい「野蛮やばん人じん」として描写びょうしゃされていたネイティブ・アメリカンを積極せっきょく的てきに題材だいざいにするようになったことも修正しゅうせい主義しゅぎ西部せいぶ劇げきの大おおきな特徴とくちょうの一ひとつであり、『シャイアン』『ワイルドバンチ』『昼下ひるさがりの決けつ斗と』『馬うまと呼よばれた男おとこ』『砦とりでのガンベルト』『小ちいさな巨人きょじん』『ソルジャー・ブルー』『荒野あらのに生いきる』『アウトロー』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『許ゆるされざる者もの』『クイック&デッド』『デッドマン』が代表だいひょう的てきな修正しゅうせい主義しゅぎ西部せいぶ劇映画げきえいがに挙あげられる。1960年代ねんだい以前いぜんに製作せいさくされた作品さくひんで修正しゅうせい主義しゅぎ西部せいぶ劇げきに該当がいとうする作品さくひんとして、女性じょせいキャラクターに焦点しょうてんを当あてた『女おんな群ぐん西部せいぶへ!』や、コマンチに育そだてられた白人はくじんガンマンやリーダー的てき立場たちばにいる女性じょせいキャラクターが登場とうじょうする『襲おそわれた幌ほろ馬車ばしゃ』がある。

ブラックスプロイテーション・ウェスタン

ブラックスプロイテーション映画えいがの多おおくが西部せいぶ劇げき要素ようそを取とり入いれており、特とくにフレッド・ウィリアムソンが出演しゅつえんした作品さくひんにこの傾向けいこうが見みられる。ブラックスプロイテーション・ウェスタンの代表だいひょう作さくとして『Soul Soldier』『ブラック・ライダー』『ブラック・サンダー』『荒野あらのの襲撃しゅうげき・人質ひとじち救出きゅうしゅつ大だい作戦さくせん』『Thomasine & Bushrod』『Boss Nigger』『Adios Amigo』『黒くろ豹ひょうのバラード』などが挙あげられる。

コメディ西部せいぶ劇げき

コメディ西部せいぶ劇げきでは「西部せいぶ劇げき」として確立かくりつされた様式ようしきや題材だいざい、作家さっかのスタイルなどをユーモア、風刺ふうし、皮肉ひにくという側面そくめんからパロディ化かしている。典型てんけい例れいが『腰抜こしぬけ二に挺てい拳銃けんじゅう』であり、同どう作さくでは「オーウェン・ウィスターの小説しょうせつ『The Virginian』や勇猛ゆうもう果敢かかんなヒーロー、メインストリートでの最後さいごの銃撃じゅうげき戦せんなど、西部せいぶ劇げきのあらゆる要素ようそ」を風刺ふうしの対象たいしょうとしている。他ほかにも、サイレント映画えいがの時代じだいから、ダグラス・フェアバンクスの『ドーグラスの蛮勇ばんゆう』、バスター・キートンの『キートンの酋長しゅうちょう』『キートンの西部せいぶ成金なりきん（キートンのゴー・ウェスト!） 』 、ハロルド・ロイドの『ロイドの二に挺てい拳銃けんじゅう』、トーキー以降いこうもマルクス兄弟きょうだいの『マルクスの二に挺てい拳銃けんじゅう』、凸凹おうとつコンビ（アボットとコステロ）の『凸凹おうとつ西部せいぶの巻まき』、底抜そこぬけコンビの『底抜そこぬけ西部せいぶへ行いく』などのコメディ西部せいぶ劇げきが製作せいさくされた。チャールズ・チャップリンも西部せいぶ開拓かいたく時代じだいの設定せっていではないが、西部せいぶ劇げきとされる『偽にせ牧師ぼくし』を製作せいさくしている。

ドキュメンタリー西部せいぶ劇げき

ドキュメンタリー西部せいぶ劇げきでは、アメリカ西部せいぶの歴史れきし的てきな側面そくめんを描えがき出だしている。テレビシリーズの『The West』は歴史れきし的てき事実じじつに基もとづいた描写びょうしゃがされており、『Cowboys: A Documentary Portrait』では現代げんだいのアメリカ西部せいぶに生いきるカウボーイをノンフィクションで描写びょうしゃしている。

エレクトリック西部せいぶ劇げき

ジョン・ルービンスタイン、ドン・ジョンソン、パトリツィア・クインが出演しゅつえんした『ウェスタン・ロック ザカライヤ』は、「最初さいしょのエレクトリック西部せいぶ劇げき」と呼よばれている。このジャンルはアメリカ西部せいぶを舞台ぶたいにロックバンドを題材だいざいにしており、『ウェスタン・ロック ザカライヤ』では1970年代ねんだいに活動かつどうしたジェイムス・ギャング、カントリー・ジョー・アンド・ザ・フィッシュなどのロックバンドがクラッカーバンドとして出演しゅつえんし、音楽おんがくを提供ていきょうしていた。また、ダグ・カーショウとエルヴィン・ジョーンズがカメオ出演しゅつえんしている。

ドミニク・スウェイン、ロン・トンプソン、ポール・ドゥーリイが出演しゅつえんした『Hate Horses』は「第だい2のエレクトリック西部せいぶ劇げき」を謳うたっている。

叙事詩じょじし的てき西部せいぶ劇げき

叙事詩じょじし的てき西部せいぶ劇げきでは、西部せいぶ開拓かいたく時代じだいを壮大そうだいなスケールで描えがくことを軸じくにしており、南北戦争なんぼくせんそうを舞台ぶたいとした『続ぞく・夕陽ゆうひのガンマン』やメキシコ革命かくめいを舞台ぶたいとした『ワイルドバンチ』のように時代じだいの転換期てんかんきや戦争せんそうを舞台ぶたいとすることが多おおい。セルジオ・レオーネの『ウエスタン』は代表だいひょう作さくの一ひとつに挙あげられ、同どう作さくではモニュメント・バレーをワイドスケールで撮影さつえいし、様々さまざまな人間にんげん模様もようを描えがいている。この他ほかに『アイアン・ホース』『白昼はくちゅうの決闘けっとう』『捜索そうさく者しゃ』『ジャイアンツ』『大おおいなる西部せいぶ』『シマロン』『西部せいぶ開拓かいたく史し』『夕陽ゆうひのギャングたち』『天国てんごくの門もん』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『ジェシー・ジェームズの暗殺あんさつ』『ジャンゴ 繋つながれざる者もの』『レヴェナント: 蘇そえりし者しゃ』が知しられている。

ネオウェスタン

ネオウェスタンは、現代げんだいのアメリカを舞台ぶたいに従来じゅうらいの西部せいぶ劇げきの要素ようそ・価値かち観かん（秩序ちつじょに反抗はんこうするアンチヒーロー、舞台ぶたいが砂漠さばく、銃撃じゅうげき戦せん）を反映はんえいした作品さくひんを指さす。2007年ねんにコーエン兄弟きょうだいが製作せいさくした『ノーカントリー』がネオウェスタン映画えいがの始はじまりと言いわれている。これらの作品さくひんはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく西部せいぶが主おもな舞台ぶたいとなっており、従来じゅうらいの西部せいぶ劇的げきてき価値かち観かんを持もつ主人公しゅじんこうが、自分じぶんたちの時代遅じだいおくれの正義せいぎを否定ひていする「文明ぶんめい」の中なかで居場所いばしょを失うしない苦悩くのうする姿すがたが描えがかれることが多おおい。ネオウェスタン映画えいがはテイラー・シェリダンの作品さくひんから以下いかの3つの基本きほん的てきなテーマを見出みいだすことができる 。

1. いわゆる法ほう秩序ちつじょが存在そんざいせず、暴力ぼうりょく的てきな背景はいけいを持もつキャラクター（アウトロー）たちが独自どくじのモラルを有ゆうしている。
2. 主人公しゅじんこうが正義せいぎを探求たんきゅうしている。
3. 主人公しゅじんこうが後悔こうかいの念ねんを抱いだき、それによって従来じゅうらいの西部せいぶ劇げきとの繋つながりを見みせている。

フロリダ・ウェスタン

詳細しょうさいは「フロリダ・ウェスタン」を参照さんしょう

「クラッカー・ウェスタン(Cracker Westerns)」とも呼よばれ、フロリダ州しゅうを舞台ぶたいに第だい二に次じセミノール戦争せんそうを題材だいざいとしている。代表だいひょう作さくとして『遠とおい太鼓たいこ』が挙あげられる。

北部ほくぶ劇げき

詳細しょうさいは「北部ほくぶ劇げき」を参照さんしょう

アラスカ州しゅうやカナダ西部せいぶを舞台ぶたいとした西部せいぶ劇げきを指さし、『北西ほくせい騎馬きば警官けいかん隊たい』『The Spoilers』『スポイラース』『遠とおい国くに』『アラスカ魂たましい』『デス・ハント』『The Grey Fox』が挙あげられる。

ウィアード・ウェスト

詳細しょうさいは「ウィアード・ウェスト」を参照さんしょう

ウィアード・ウェストは古典こてん的てき西部せいぶ劇げきに他たの要素ようそ（ファンタジー、SF、ホラー）を組くみ合あわせた作品さくひんを指さす。『0088/ワイルド・ウエスト』『ワイルド・ワイルド・ウエスト』では西部せいぶ劇げきにスチームパンクの要素ようそを組くみ合あわせており、『ジョナ・ヘックスシリーズ』では西部せいぶ劇げきにスーパーヒーローの要素ようそを組くみ合あわせている。『Western Religion』では従来じゅうらいの西部せいぶ劇げきの世界せかいに悪魔あくまが登場とうじょうし、オールドマン・ローガンのグラフィックノベルでは西部せいぶ劇げきにスーパーヒーローと終末しゅうまつ世界せかいの要素ようそが取とり入いれられている。

諸しょ外国がいこくの西部せいぶ劇映画げきえいが

マカロニ・ウェスタン

詳細しょうさいは「マカロニ・ウェスタン」を参照さんしょう

1960年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけて、イタリアでは「スパゲッティ・ウェスタン(Spaghetti Westerns)」「イタロウェスタン(Italo-Westerns)」と呼よばれる西部せいぶ劇映画げきえいがが製作せいさくされた。最もっとも有名ゆうめいな作品さくひんとしてドル箱ばこ三さん部ぶ作さくの第だい3作さく『続ぞく・夕陽ゆうひのガンマン』が挙あげられる。マカロニ・ウェスタンの多おおくは低てい予算よさんで、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく南西なんせい部ぶの風景ふうけいに酷似こくじしているスペインのアルメリア、メキシコのデュランゴなどで撮影さつえいされた。また、ハリウッド西部せいぶ劇げきよりもアクションや暴力ぼうりょく描写びょうしゃが多おおく、主人公しゅじんこうは正義せいぎ感かんよりも金銭きんせんや復讐ふくしゅうなど利己りこ的てきな動機どうきで行動こうどうすることが大半たいはんだった。マカロニ・ウェスタンの中なかには西部せいぶ劇げきの伝統でんとう的てき様式ようしきを否定ひていする作品さくひんも見みられ、そうした作品さくひんは修正しゅうせい主義しゅぎ西部せいぶ劇げきに含ふくまれる。

マカロニ・ウェスタンの代表だいひょう的てきな監督かんとくであるセルジオ・レオーネの作品さくひんは、ハリウッド西部せいぶ劇映画げきえいがとは異ことなる様式ようしきで製作せいさくされている。マカロニ・ウェスタンで成功せいこうした俳優はいゆうにはチャールズ・ブロンソン、リー・ヴァン・クリーフ、クリント・イーストウッドがおり、この他ほかにもジェームズ・コバーン、ヘンリー・フォンダ、ロッド・スタイガー、クラウス・キンスキー、ジェイソン・ロバーズ、ジャン・マリア・ヴォロンテ、イーライ・ウォラックが知しられている。テレビシリーズ『ローハイド』以外いがいのヒット作さくに恵めぐまれていなかったイーストウッドは、レオーネ監督かんとく作品さくひん『荒野あらのの用心棒ようじんぼう』への出演しゅつえんをきっかけにスター俳優はいゆうの地位ちいを手てにすることになった。

オーストラリアン・ウェスタン

詳細しょうさいは「オーストラリアン・ウェスタン」を参照さんしょう

オーストラリアの西部せいぶ劇映画げきえいがは「ミートパイ・ウェスタン(Meat pie western)」と呼よばれ、アウトバックやブッシュが主おもな舞台ぶたいとなっている。これらの作品さくひんはアメリカの西部せいぶ劇げきのスタイルを踏襲とうしゅうし、オーストラリア先住民せんじゅうみんがインディアン役やくを演えんじることが多おおい。

『トラッカー』はオーストラリアン・ウェスタンの典型てんけい的てきな作品さくひんに挙あげられ、過酷かこくな砂漠さばく地帯ちたいを舞台ぶたいにアボリジニの搾取さくしゅ、正義せいぎへの渇望かつぼうがテーマとして描えがかれている。この他ほかに『Rangle River』『Kangaroo』『The Kangaroo Kid』『サンダウナーズ』『ブラッディ・ガン』『Ned Kelly』『スノーリバー/輝かがやく大地だいちの果はてに』『プロポジション -血ちの誓約せいやく-』『Lucky Country』『スウィート・カントリー』が知しられている。

ダコイト・ウェスタン

詳細しょうさいは「ダコイト・ウェスタン」を参照さんしょう

ボリウッドの『炎ほのお』は、しばしば「カレー・ウェスタン(curry Western)」と呼よばれる。同どう作さくは『マザー・インディア』『Gunga Jumna』などのダコイト映画えいがとマカロニ・ウェスタンの要素ようそを組くみ合あわせた作品さくひんであり、「ダコイト・ウェスタン」と称しょうされる独自どくじのジャンルを確立かくりつした。

チャーロ・ウェスタン

チャーロ・ウェスタンはアクション俳優はいゆうだけではなくミュージカル俳優はいゆうが多おおく出演しゅつえんし、1930年代ねんだい以降いこうにメキシコ映画えいがで主流しゅりゅうとなった。1930年代ねんだいから1940年代ねんだいにかけてはメキシコ農村のうそん部ぶの騎手きしゅを主人公しゅじんこうとした作品さくひんが多おおく、ハリウッドの主流しゅりゅう西部せいぶ劇映画げきえいがとは一線いっせんを画かくした作風さくふうとなっていたが、1950年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけてはハリウッド西部せいぶ劇げきとの文化ぶんか的てき融合ゆうごうが進すすんでいった。この時期じきの代表だいひょう作さくとしてイスマイル・ロドリゲスの『Los Hermanos Del Hierro』、ホルヘ・フォンスの『Cinco Mil Dólares de Recompensa』、アルトゥーロ・リプスタインの『Tiempo de morir』がある。チャーロ・ウェスタンの最もっとも著名ちょめいな映画えいが製作せいさく者しゃとしてアルベルト・マリスカルが知しられている。

ユーロ・ウェスタン

西にしヨーロッパで製作せいさくされた西部せいぶ劇げきであり、マカロニ・ウェスタンを含ふくめる場合ばあいがある。代表だいひょう作さくとして『荒野あらのの愚連隊ぐれんたい』が挙あげられる。ドイツが製作せいさくした西部せいぶ劇映画げきえいがは「ザワークラウト・ウェスタン(Sauerkraut Westerns)」と呼よばれ、主おもにカール・マイの小説しょうせつを原作げんさくとしてユーゴスラビアで撮影さつえいされた。ドイツではアメリカ人じん俳優はいゆうのレックス・パーカー主演しゅえんで、1961年ねんから1965年ねんにかけて『アパッチ』『大だい酋長しゅうちょうウイネットー』『シルバーレークの待まち伏ぶせ』などが製作せいさくされた。これらの映画えいがには、アメリカの俳優はいゆうでハリウッドでは作品さくひんに恵めぐまれず、ドイツやイタリアに行いった俳優はいゆうが多おおかった。ザワークラウト・ウェスタンで最もっとも人気にんきがあったのは、アパッチを主人公しゅじんこうとした『Winnetouシリーズ』だった。この他ほかに『The Unhanged』『悪党あくとうに粛清しゅくせいを』『ブリムストーン』『The Dark Valley』が知しられている。

ギリシャ西部せいぶ劇げき

「ファソラーダ・ウェスタン(Fasolada Westerns)」（ファソラーダ：ギリシャの国民こくみん食しょく）と呼よばれ、アカデミー国際こくさい長編ちょうへん映画えいが賞しょうギリシャ代表だいひょう作品さくひんに選出せんしゅつされた『Blood on the Land』が知しられている。

東部とうぶ劇げき

詳細しょうさいは「東部とうぶ劇げき」を参照さんしょう

ソビエト連邦れんぽうや東ひがしヨーロッパが製作せいさくした作品さくひんを指さし、「イースタン(Eastern)」「レッド・ウェスタン(Red Western)」と呼よばれる2つのジャンルが存在そんざいする。冷戦れいせん時代じだいの東側ひがしがわ諸国しょこくでは人気にんきのジャンルで、特とくにヨシフ・スターリンのお気きに入いりだった。レッド・ウェスタンではハリウッド西部せいぶ劇げきとは対照たいしょう的てきに、インディアンを「虐しいたげられた弱よわい者ものが、自分じぶんの権利けんりのために立たち上あがる」という形かたちで描写びょうしゃすることが多おおく、ジプシーやトルコ系けい人種じんしゅがインディアン役やくを演えんじていた。イースタンではコーカサスのステップが舞台ぶたいになることが多おおく、「カウボーイとインディアン」に代かわる存在そんざいとして「盗賊とうぞくとハレム」が登場とうじょうする。代表だいひょう作さくとして『砂漠さばくの白しろい太陽たいよう』が挙あげられる。

ラーメン・ウェスタン

「ラーメン・ウェスタン(Ramen Western)」はアジアを舞台ぶたいとした西部せいぶ劇映画げきえいがを指さし、『タンポポ』で初はじめて使用しようされた。代表だいひょう作さくとして『荒野あらのの渡世人とせいにん』『冒険ぼうけん活劇かつげき 上海しゃんはいエクスプレス』『EAST MEETS WEST』『Tears of the Black Tiger』『ロケットマン!』『さらば復讐ふくしゅうの狼おおかみたちよ』『許ゆるされざる者もの』『マルリナの明日あした』『バッファロー・ボーイズ』『グッド・バッド・ウィアード』『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』が挙あげられる。

日本にっぽんでは戦前せんぜんから西部せいぶ劇げきの人気にんきは高たかく、戦後せんご特とくに1960年ねん前後ぜんこうにはガン・ブームと呼よばれる現象げんしょうが生うまれ、当時とうじ日活にっかつが無む国籍こくせき映画えいがと言いわれる西部せいぶ劇げきのような活劇かつげきを作つくったりしたが特筆とくひつされるほどではなかった。ただ時代じだい劇げきの分野ぶんやで黒澤くろさわ明あきら監督かんとく「七人しちにんの侍さむらい」がアメリカでリメイクされてジョン・スタージェス監督かんとく「荒野あらのの七なな人にん」となり、「用心棒ようじんぼう」が「荒野あらのの用心棒ようじんぼう」となり、西部せいぶ劇げきの世界せかいに影響えいきょうを与あたえることとなった。

西部せいぶ劇げきにおける先住民せんじゅうみんの描写びょうしゃ

西部せいぶ劇映画げきえいがの原型げんけいとなったバッファロー・ビル主宰しゅさいの見世物みせもの『野生やせいの西部せいぶショー』。カウボーイとインディアンの捕とり物ぶつや曲芸きょくげいを演目えんもくとし、欧米おうべいを巡業じゅんぎょうして人気にんきを博はくした。写真しゃしんは1890年ねんの巡業じゅんぎょうの際さいのもの

最初さいしょ期きの西部せいぶ劇げき『スコウマン』（1914年ねん）。インディアン女性じょせいと結婚けっこんした白人はくじんを描えがく。

西部せいぶ劇げきで虐殺ぎゃくさつの道具どうぐとして多用たようされたガトリング砲ほう。

コロンブスがアメリカ大陸あめりかたいりくに到達とうたつした時ときには、北米ほくべい大陸たいりくにもすでに先住せんじゅうの民族みんぞくがいた。北米ほくべい大陸たいりくに着ついた時ときにインドに着ついたと勘違かんちがいして先住民せんじゅうみんをインディアンと呼よんだ話はなしは有名ゆうめいだが、17世紀せいき初はじめにイギリス人じんが最初さいしょの植民しょくみん地ちを作つくった頃ころに北米ほくべいにはおよそ人口じんこう100万まん人にん、部族ぶぞくの数かずでは約やく500余あまりが暮くらしていたと言いわれている。しかし西部せいぶ開拓かいたくが進すすむ頃ころから白人はくじんとの戦たたかいが始はじまった。西部せいぶ開拓かいたくの歴史れきしはまた先住民せんじゅうみん迫害はくがいそして虐殺ぎゃくさつの歴史れきしでもあった。そして西部せいぶ開拓かいたく時代じだいの1870年ねんには人口じんこうがわずか2万まん5千せん人にんに激減げきげんしている。

20世紀せいき初頭しょとうの黎明れいめい期きの西部せいぶ劇げきでは、インディアンをヒーローとして扱あつかったものもあったが、西部せいぶ劇げきがアクション中心ちゅうしんの娯楽ごらく映画えいがに移行いこうするとインディアンは『フロンティア』を害がいする悪役あくやくとなり、白人はくじん開拓かいたく者しゃにとっては邪悪じゃあくと凶暴きょうぼうさの象徴しょうちょうであった。

西部せいぶ劇げきは、インディアンのイメージを決定けってい付つけた。劇げき中ちゅうに登場とうじょうするインディアン達たちは、決きまって馬うまにまたがって派手はでな羽はね飾かざりをつけ、手斧ちょうなを振ふり回まわし、「アワワワワ」と鬨かちどきの声こえを挙あげて襲おそってくる。これらは馬うまにまたがり、羽はね飾かざりをつけること以外いがいは出鱈目でたらめなものである。彼かれらの衣装いしょうも、撮影さつえい所しょのデザイナーが考かんがえたものであり、またそのほとんどが、白人はくじんたちが演えんじており、資料しりょう的てき価値かちは皆無かいむである。

また、西部せいぶ劇げきには「号令ごうれい一いち下か、全ぜんインディアン戦士せんしを従したがわせる大だい酋長しゅうちょう（Grand Chief）や戦争せんそう酋長しゅうちょう（War chief）」が登場とうじょうするが、これはインディアン文化ぶんかに対たいする白人はくじんの誤解ごかいから生うまれたものである。基本きほん的てきにインディアンの社会しゃかいは合議ごうぎ制せい民主みんしゅ主義しゅぎ社会しゃかいであり、このような絶対ぜったい権力けんりょく者しゃは存在そんざいしない。「大だい酋長しゅうちょう」も「戦争せんそう酋長しゅうちょう」もまったくのフィクションであり、現実げんじつには存在そんざいしない西部せいぶ劇げきの中なかのキャラクターなのにも関かかわらず、これが全ぜん世界せかいで公開こうかいされることで、「酋長しゅうちょうは部族ぶぞく長ちょうである」といった、誤あやまったインディアンに対たいする認識にんしきをさらに広ひろめることとなってしまった。

平原へいげんの部族ぶぞくの風俗ふうぞくである羽はね飾かざりをつけ、無表情むひょうじょうに片言かたことの英語えいごを喋しゃべる（日本語にほんごの台詞せりふでは「インディアン、ウソツカナイ」はこの典型てんけいである）このステレオタイプは、その後ご世界中せかいじゅうの人々ひとびとが「インディアン」と聞きいて真まっ先さきに頭あたまに思おもい浮うかぶイメージとなった。ラジオやTVのシリーズ『ローン・レンジャー』に出でてくる、主人公しゅじんこうの相棒あいぼうであるインディアンの「トント」は、インディアンの間あいだでは「白人はくじんにへつらうインディアン」の代名詞だいめいしとなっている。

1950年代ねんだいに入はいって、このようなインディアンの描えがき方かたに対たいする反省はんせいから『折おれた矢や』「アパッチ」が製作せいさくされ、1960年代ねんだいに入はいると、『モホークの太鼓たいこ』(1939)で典型てんけい的てきなインディアンの描えがき方かたをして以後いごも悪役あくやくとしてのインディアンしか描えがいてこなかったジョン・フォードが「シャイアン」(1964)でシャイアン族ぞくの悲劇ひげきを描えがくようになり、1970年ねんには『ソルジャー・ブルー』で騎兵隊きへいたいがインディアンを虐殺ぎゃくさつする場面ばめんが描えがかれている。

1960年ねんに「片目かためのジャック」を監督かんとく・主演しゅえんしたマーロン・ブランドは、インディアン権利けんり団体だんたい『アメリカインディアン運動うんどう』（AIM）に賛同さんどうし、同どう団体だんたい設立せつりつ当初とうしょから助言じょげんと運動うんどうをともにしていたが、1973年ねんに映画えいが『ゴッド・ファーザー』でアカデミー賞しょうを受賞じゅしょうした際さい、授賞じゅしょう式しきに「インディアン女性じょせい」を代理だいり出席しゅっせきさせ、ハリウッド西部せいぶ劇げきにおいて、いかにインディアンが理不尽りふじんな扱あつかいを受うけているかメッセージを代読だいどくさせた。 映画えいが俳優はいゆうでAIMの運動うんどう家かでスポークスマンをも務つとめるラッセル・ミーンズはハリウッド映画えいがについてのインタビューに答こたえ、こう述のべている。

ハリウッドが映画えいがの中なかでインディアンの人々ひとびとに求もとめる姿すがたとして、私わたしたちは、2種類しゅるいの姿すがたでいさえすればよいのです。私わたしたちは夏なつの間あいだ、革かわ服ふくで盛装せいそうします。あるいは、我々われわれは『スキンズ』（2002年ねん）だとか、『スモーク・シグナルズ』（1998年ねん）のような映画えいがのように、酔よっぱらいの社会しゃかい不ふ適格てきかく者しゃでないといけないのです。

1940年代ねんだいのある土曜日どようびの午後ごごに、私わたしは弟おとうとのデイスと二人ふたりでカリフォルニアのバレーホにあるエスクァイア映画えいが劇場げきじょうへ映画えいがを観かんに行いったことがあります。その映画えいがにはカウボーイとインディアンが出でてきて、満場まんじょうの観客かんきゃくたちが大だい喝采かっさいする中なか、進軍しんぐんラッパが鳴なり響ひびき、騎兵隊きへいたいが撃うちまくり、否ひも応おうもなしにインディアンがぶち殺ころされるんです。デイスは、とても見みていられない様子ようすでした。彼かれは、顔かおを手てで覆おおっていました。あなたが8歳さいか9歳さいだった頃ころ、私わたしたちはそんなふうだったんです。あなたは多分たぶん、今度こんどの映画えいが（『ラスト・オブ・モヒカン』）はそれと違ちがってインディアンが勝かつかもしれないなと思おもうでしょうね。まあそれからその後ごで、私わたしたちは映画えいが館かんを出でるわけです。

それから、これはホントの話はなしなんですが、そのあと私わたしたち兄弟きょうだいは、メキシコ人じんとかフィリピン人じん、中国人ちゅうごくじんや黒人こくじんに対たいして、ちょうど映画えいがの中なかでインディアンが白人はくじんと戦たたかうのと同おなじようにして、背中合せなかあわせに戦たたかわなければなりませんでした。こういう近所きんじょの子供こどもたち全員ぜんいんが、私わたしたちに言いうわけです。「おいインディアン、思おもいっきりケツひっぱたいてやるぞ！」とね。

西部せいぶ劇げきに登場とうじょうする銃器じゅうき

コルト・シングル・アクション・アーミー(回転かいてん式しき拳銃けんじゅう)

ウィンチェスターライフル。左ひだりからM73、M73、M94、M92、M92Trapper

ガンマンが題材だいざいとなることの多おおい西部せいぶ劇げきには、正確せいかくな考証こうしょうに基もとづくものから近きん現代げんだいの銃器じゅうきを手直てなおししてそれらしく見みせかけたものまで、様々さまざまの銃器じゅうきが小道具こどうぐとして登場とうじょうした。中なかでも象徴しょうちょう的てきなのがコルト・シングル・アクション・アーミー(SAA)リボルバー、通称つうしょう「ピースメーカー」や、コルトM1851のようなシングルアクション回転かいてん式しき拳銃けんじゅうである。SAAはコルト社しゃの最高さいこう傑作けっさくと言いわれる名めい銃じゅうで1873〜1940年ねんまでの67年間ねんかんに35万まん挺ていが製造せいぞうされている。

腰こしの、ベルト付つきホルスターにシングルアクションの回転かいてん式しき拳銃けんじゅうを収おさめたカウボーイスタイルは、映画えいがに登場とうじょうする西部せいぶガンマンの定番ていばんであった。日本にっぽんにおいても、西部せいぶ劇げき人気にんきの高たかまりと共ともにコルト45のようなシングルアクション拳銃けんじゅうの知名度ちめいどは上昇じょうしょうし、多おおくのメーカーからトイガン製品せいひんが販売はんばいされた。

この時代じだいのシングルアクション拳銃けんじゅうには様々さまざまなバリエーションが存在そんざいするが、特とくにマカロニ・ウェスタンにおいて、主役しゅやくは5.5インチの金属きんぞく薬莢やっきょう式しき、悪役あくやくのボスは7.5インチなどの長ちょう銃身じゅうしんで大型おおがた、その他た大勢おおぜいは4.75インチの金属きんぞく薬莢やっきょう式しき拳銃けんじゅうや、パーカッション式しきリボルバーという具合ぐあいに、持もち主ぬしの役やくどころにより銃じゅうの種類しゅるいが決きめられている場合ばあいが多おおかった。

目めにも止とまらぬ抜ぬき撃うち連射れんしゃ、華麗かれいなスピンといったガンプレイに習熟しゅうじゅくすることが主演しゅえんスターには要求ようきゅうされ、ゲイリー・クーパーは『平原へいげん児じ』（1936）でセシル・B・デミルと話はなし合あった結果けっか、二に丁ちょう拳銃けんじゅうの抜ぬき撃げきちを2週間しゅうかん猛もう練習れんしゅうし、名めい場面ばめんを作つくりあげた。

映画えいががカラーになり、やがてワイド化かして横長よこなが画面がめんになった頃ころ、1950年代ねんだい中期ちゅうき以降いこうは朝鮮ちょうせん戦争せんそうの帰還きかん兵士へいしであったレッド・ロッドウィングが銃器じゅうき類るいの取とり扱あつかい指導しどう者しゃになり多おおくのスターに拳銃けんじゅうの技わざを伝授でんじゅした。このガン・プレイの指導しどうにはアルヴァ・オジャラやドイル・ブルックスなどの名前なまえが伝つたわっているが、遡さかのぼると映画えいががサイレントからトーキーになった頃ころに、まだデビュー前まえのジョン・ウェインにガン・プレイを指導しどうしたのはあのワイアット・アープ本人ほんにんであったという話はなしがある。

引ひき金がねを引ひいたままで拳銃けんじゅうを抜ぬき、撃げき鉄てつをもう一方いっぽうの手てで連打れんだすることで高速こうそくに連射れんしゃする「ファニング」と呼よばれるテクニックは、『荒野あらのの決闘けっとう』で名めいバイプレーヤーワード・ボンドが初はじめて披露ひろうした技わざである。

なお、ジョン・ウェインはコルト6連発れんぱつ銃じゅうによるガンプレイが実じつは巧たくみかった（「捜索そうさく者しゃ」でその片鱗へんりんを披露ひろうしている）が大柄おおがら（やや太ふとめのウェスト）過すぎて似合にあわないのでジョン・フォード監督かんとくのアドバイスでウィンチェスター銃じゅう（ライフル）を愛用あいようしたと伝つたえられる。そして後のちにライフル銃じゅうを持もつとこれほど似合にあう俳優はいゆうはいないと言いわれた。

そのウィンチェスター銃じゅうはオリバー・ウィンチェスターが考案こうあんしたライフルで、最初さいしょは6連発れんぱつのライフル銃じゅうであったが、SAAが売うり出だされた同おなじ1873年ねんに17連発れんぱつの「73年ねん型がたウィンチェスター銃じゅう」(M1873通称つうしょうウィンチェスター銃じゅう73))が登場とうじょうして、このウィンチェスター73も1873〜1932年ねんの59年間ねんかんに72万まん挺てい製造せいぞうされ当時とうじの西部せいぶに広ひろく普及ふきゅうしたと言いわれている。ただし当時とうじのアメリカ陸軍りくぐんには不評ふひょうで、19世紀せいきに騎兵隊きへいたいなどの軍ぐん関係かんけいにはウインチェスター銃じゅうは使つかわれていない。したがって歴史れきし的てきには騎兵隊きへいたいがライフル銃じゅうを使つかう場合ばあいはウインチェスター銃じゅうではなく単発たんぱつのスプリングフィールド銃じゅうが使つかわれており、1876年ねんにカスター将軍しょうぐん以下いかの第だい七なな騎兵隊きへいたいがリトルビッグホーンでインディアンに全滅ぜんめつしたのはインディアン側がわは連発れんぱつのウインチェスター銃じゅうで、騎兵隊きへいたい側がわは単発たんぱつのスプリングフィールド銃じゅうを使つかっていたからという「まことしやかな説せつがある」と言いわれている。しかし西部せいぶ劇映画げきえいがでは騎兵隊きへいたいがウインチェスター銃じゅうで射うちまくる場面ばめんがよく見みられるという。またテレビ「拳銃けんじゅう無宿むしゅく」に主演しゅえんしたスティーブ・マックイーンが愛用あいようしていた銃じゅうは、このウインチェスター銃じゅうの銃身じゅうしんを短みじかくした通称つうしょうランダルカスタムと呼よばれる銃じゅうである。ちなみに映画えいがやテレビで使つかわれるウインチェスター銃じゅうは有名ゆうめいなM1873ではなく後継こうけいのM1892が使用しようされている。

この「シングル・アクション・アーミー」と「ウィンチェスターM1873」の2つの銃じゅうが後のちに「西部せいぶを征服せいふくした銃じゅう」と呼よばれている。

脚注きゃくちゅう

参考さんこう文献ぶんけん

• 『大おおいなる西部せいぶ劇げき』 逢坂おうさか剛つよし　川本かわもと三郎さぶろう　著ちょ　新書しんしょ館かん　　2001年ねん5月がつ発行はっこう　
• 『西部せいぶ劇げき（ウエスタン）への招待しょうたい』　逢坂おうさか剛つよし 川本かわもと三郎さぶろう 菊地きくち秀行ひでゆき 永田ながた哲朗てつろう 縄田なわた一男かずお 宮本みやもと昌孝まさたか　著しる PHPエル新書しんしょ PHP研究所けんきゅうじょ 2004年ねん9月がつ発行はっこう
• 『西部せいぶ劇げきを見みて男おとこを学まなんだ』　芦原あしはら伸しん　著ちょ　祥伝社しょうでんしゃ新書しんしょ　2006年ねん3月がつ発行はっこう
• 『アメリカ映画えいが主義しゅぎ』ジャンル映画えいがの隆盛りゅうせい　 大場おおば正明まさあき　編著へんちょ　フィルムアート社しゃ　2002年ねん10月がつ発行はっこう
• 『ハリウッド映画えいが史し講義こうぎ』 西部せいぶ劇げきの変貌へんぼう　蓮実はすみ重彦しげひこ著ちょ　筑摩書房ちくましょぼう　1993年ねん9月がつ発行はっこう
• 『文藝春秋ぶんげいしゅんじゅうSPECIAL・映画えいがが人生じんせいを教おしえてくれた』ジャンル別べつベスト10「西部せいぶ劇げき」逢坂おうさか剛つよし 著ちょ 2009年ねん7月がつ発行はっこう
• 『映画えいがこの百ひゃく年ねんー地方ちほうからの視点してん』第だい9章しょう　西部せいぶ劇げき 　熊本大学くまもとだいがく・映画えいが文化ぶんか史し講座こうざ　1995年ねん6月がつ発行はっこう
• 『B級きゅう映画えいがーフィルムの裏うらまで』　増渕ますぶち健けん　著ちょ　平凡社へいぼんしゃ　　1986年ねん8月がつ発行はっこう
• 『思おもい出でのアメリカテレビ映画えいが』　瀬戸川せとがわ宗そう太ふとし著ちょ　平凡社へいぼんしゃ新書しんしょ　　2014年ねん4月がつ発行はっこう
• 『SCREEN特とく編へん版ばん「なつかしの外国がいこくTVシリーズ」』　近代映画社きんだいえいがしゃ　　2006年ねん5月がつ発行はっこう
• 『週刊しゅうかんTVガイド別冊べっさつ「テレビ30年ねん」』　東京ニュとうきょうにゅース通信社すつうしんしゃ　1982年ねん2月がつ8日にち発行はっこう
• 『キネマ旬報きねまじゅんぽう臨時りんじ増刊ぞうかん「テレビの黄金おうごん伝説でんせつ〜外国がいこくテレビドラマの50年ねん〜 」』1997年ねん7月がつ2日にち号ごう
• 『テレビドラマ全ぜん史し」1953〜1994 TVガイド　東京ニュとうきょうにゅース通信社すつうしんしゃ　1994年ねん5月がつ発行はっこう
• 『別冊べっさつ暮くらしの手帖てちょう「シネマの手帖てちょう〜250本ほんの名作めいさくガイド〜」』 2009年ねん12月発行はっこう　暮くらしの手帖てちょう社しゃ

関連かんれん項目こうもく

• カウボーイ
• 荒野あらのの少年しょうねんイサム
• ガンスモーク
• 西部せいぶ警察けいさつ
• 時代じだい劇げき
• レッド・デッド・リデンプションシリーズ
• カウボーイ・アクション・シューティング - 1980年ねん台だいからカリフォルニア州しゅうで行おこなわれている西部せいぶ劇げきをテーマにした射撃しゃげき競技きょうぎ会かい