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失調 - Wikipedia

失調しっちょう(しっちょう)とは、医学いがく用語ようごで、ある機能きのう調節ちょうせつうしなうこと。様々さまざま機能きのうについてもちいられ、複数ふくすう英語えいごまたはラテン語らてんご訳語やくごになる。運動うんどう失調しっちょう自律じりつ神経しんけい失調しっちょうしょう統合とうごう失調しっちょうしょうなど語尾ごびもちいられることがおおい。これにたいしてたん失調しっちょうという場合ばあいは、英語えいごの ataxia の訳語やくご運動うんどう失調しっちょう同義どうぎもちいられることがもっとおおいが、incontinence(または incontinentia)の訳語やくごとして、失禁しっきん同義どうぎもちいられることもある[1]

失調しっちょう
概要がいよう
診療しんりょう 神経しんけいがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10 R27.0
ICD-9-CM 781.3
MeSH D001259

運動うんどう円滑えんかつおこなわれるためにはおおくの筋肉きんにくきょうはたらけ協調きょうちょう必要ひつようだが、その協調きょうちょういた状態じょうたい失調しっちょうばれる。個々ここ筋肉きんにくちから正常せいじょうであるが運動うんどう拙劣せつれつにしかおこなえなくなる。大脳だいのうせい失調しっちょう小脳しょうのうせい失調しっちょうほか平衡へいこう感覚かんかくそこなわれた前庭ぜんていせい失調しっちょう深部しんぶ感覚かんかくそこなわれた脊髄せきずいせい失調しっちょうがある。

運動うんどう失調しっちょう

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運動うんどう失調しっちょう ataxiaとは、語源ごげんてきに a + taxia (motion disturbance) "動作どうさ障害しょうがい"という意味いみであり、おもに、四肢ししからだみき動作どうさ調節ちょうせつ障害しょうがいす。てんじて、出力しゅつりょくけい一般いっぱん調節ちょうせつ障害しょうがい場合ばあいもある。感覚かんかく機能きのうたいして、失調しっちょうという用語ようご使用しようする場合ばあいがあるが、それはあやまりである。我々われわれは、縄跳なわとびをぶときのような拮抗きっこうしたうごきを反復はんぷくしておこなうことができ、目的もくてきのところにまっすぐにばすことができ、テレビをながらコーヒーをこと出来できるのは調節ちょうせつ機能きのうがあるからとかんがえられている。

運動うんどう失調しっちょうとは、一般いっぱんに、四肢ししからだみき随意ずいい運動うんどう調節ちょうせつする機能きのう障害しょうがいされた状態じょうたいす。神経しんけいがくでは協調きょうちょう運動うんどう障害しょうがいといい、原則げんそくとしては筋力きんりょく低下ていかともなわない。麻痺まひがあれば、運動うんどう障害しょうがいがおこるのはたりまえだからである。協調きょうちょう運動うんどうもっと関与かんよしているのは小脳しょうのうかんがえられている。おなきり体外たいがいである大脳だいのう基底きていかく障害しょうがいでは運動うんどう失調しっちょうこりえるが、随意ずいい運動うんどうほう目立めだつことがおおい。

病院びょういん受診じゅしんする場合ばあいしゅ訴としては「てない」「あるけない」「まっすぐにあるこうとしてもかたよってしまう」といった起立きりつ歩行ほこう困難こんなん受診じゅしんされる場合ばあいおおい。起立きりつ歩行ほこう困難こんなん原因げんいんとしては運動うんどう麻痺まひ平衡へいこう障害しょうがい運動うんどう失調しっちょう歩行ほこう障害しょうがい骨折こっせつしんいんせい場合ばあいがある。めまい麻痺まひみとめなければ運動うんどう失調しっちょうによるものとかんがえることができる。

運動うんどう失調しっちょう原因げんいん

編集へんしゅう

正常せいじょう随意ずいい運動うんどう大脳皮質だいのうひしつ運動うんどうりょうから遠心えんしんせい運動うんどうきりからだ末梢まっしょう神経しんけい、さらに筋肉きんにく運動うんどうまでのいずれかがそこなわれた状態じょうたいでは遂行すいこうされない。脳卒中のうそっちゅうかた麻痺まひによるすじトーヌス(骨格こっかくすじつね保持ほじする一定いってい緊張きんちょう)の亢進こうしんや、パーキンソンびょうみとめられるすじかたちぢみすじ硬直こうちょく)や、糖尿とうにょうびょうせい多発たはつ神経しんけいえん末梢まっしょうせい感覚かんかく障害しょうがいなどにおいては運動うんどう円滑えんかつおこなわれず不安定ふあんていで、失調しっちょうていする。しかし運動うんどう失調しっちょうこすもっと代表だいひょうてき疾患しっかん小脳しょうのう疾患しっかんであり、様々さまざま障害しょうがいこされて、結果けっかてき運動うんどう失調しっちょうていする。

運動うんどう失調しっちょう全身ぜんしんせい疾患しっかんまたは神経しんけい疾患しっかんによってこりえる。全身ぜんしん疾患しっかんとしては過労かろう、ビタミン欠乏けつぼう起立きりつせいてい血圧けつあつられている。神経しんけい疾患しっかんとしては、小脳しょうのう障害しょうがい前庭ぜんてい障害しょうがい脊髄せきずいさく障害しょうがい末梢まっしょう神経しんけい障害しょうがい可能かのうせいがある。小脳しょうのう障害しょうがいであれば小脳しょうのう徴候ちょうこう前庭ぜんてい障害しょうがいならば内耳ないじ症状しょうじょう脊髄せきずいこうさく障害しょうがいならばロンベルグ徴候ちょうこうなどで診断しんだんをすることができる。

診察しんさつ手順てじゅんとしてはまずはロンベルグ徴候ちょうこう調しらべる。ロンベルグ徴候ちょうこう陰性いんせいならば小脳しょうのうせい運動うんどう失調しっちょう小脳しょうのう失調しっちょう)である。疾患しっかんとしては小脳しょうのう梗塞こうそくなどが代表だいひょうてきである。ロンベルグ徴候ちょうこう陽性ようせいならば深部しんぶ感覚かんかく障害しょうがい調しらべる。深部しんぶ感覚かんかく障害しょうがいがなければ、前庭ぜんてい障害しょうがい可能かのうせいたかい。深部しんぶ感覚かんかく障害しょうがいがあればひょうざい感覚かんかく障害しょうがい調しらべる。ひょうざいさとし障害しょうがいがなければ脊髄せきずいさく障害しょうがいかんがえられる。これは感覚かんかくせい運動うんどう失調しっちょうばれる。感覚かんかく失調しっちょうをきたすのではなく、あくまで感覚かんかく原因げんいん運動うんどう失調しっちょうをきたすことであり、注意ちゅういようする。ひょうざいさとし障害しょうがいもあれば、末梢まっしょう神経しんけい障害しょうがいである。

このほか大脳だいのう起因きいんする運動うんどう失調しっちょうがある。

神経しんけい中枢ちゅうすうけい障害しょうがい部位ぶいべつ分類ぶんるい

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運動うんどう失調しっちょうこす神経しんけい中枢ちゅうすうけい障害しょうがい部位ぶいべつにこれを分類ぶんるいすると以下いかのようになる。

大脳だいのうせい運動うんどう失調しっちょうしょう

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大脳だいのうせい運動うんどう失調しっちょうしょうえい:cerebral ataxia、どく:cerebrale Ataxie)は大脳皮質だいのうひしつとく前頭葉ぜんとうようせい障害しょうがいによってこる。のう血管けっかん障害しょうがい性病せいびょうへんのう萎縮いしゅく外傷がいしょう腫瘍しゅようピックびょう慢性まんせいかたまく血腫けっしゅなどがあり、度々たびたび問題もんだいされる。失調しっちょうせい歩行ほこうほか精神せいしん機能きのう低下ていかみとめられる。

大脳だいのう前頭葉ぜんとうよう失調しっちょうしょうは fronto‐ponto‐cerebellar pathway の障害しょうがいによるものとされ、表出ひょうしゅつせい言語げんご障害しょうがいおおみとめられ、fronto‐thalamic pathway が遮断しゃだんされた場合ばあいにはすじ緊張きんちょう亢進こうしん Gegenbalten、強制きょうせい把握はあくけん反射はんしゃ亢進こうしんしょうじ、バビンスキー反射はんしゃあらわれる。

小脳しょうのうせい運動うんどう失調しっちょうしょう

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小脳しょうのうせい運動うんどう失調しっちょうしょうえい:cerebellar ataxia、どく:cerebellare Ataxie)はしょう脳腫瘍のうしゅよう血管けっかんせい障害しょうがい変性へんせい疾患しっかん小脳しょうのう萎縮いしゅく奇形きけいなどの小脳しょうのう傷害しょうがいともな症状しょうじょうで、筋力きんりょく正確せいかくコントロールき、敏速びんそく反復はんぷく運動うんどう運動うんどう急速きゅうそく抑制よくせい不能ふのうになるしん運動うんどう失調しっちょうである。小脳しょうのうむし損傷そんしょうではしゅとしてからだみきせい失調しっちょうきたし、起立きりつ歩行ほこう障害しょうがい蹣跚まんさん歩行ほこう、すなわちこし動揺どうよう顕著けんちょなよろけ歩行ほこう)、だい歩行ほこうていし、一般いっぱん姿勢しせい体位たいい保持ほじ困難こんなん平衡へいこう機能きのう障害しょうがいこす。また、小脳しょうのう半球はんきゅうせい障害しょうがいでは四肢ししすじトーヌス異常いじょうすじ緊張きんちょう低下ていかきたし、患側方向ほうこうへの偏倚へんい歩行ほこう協調きょうちょう運動うんどう不能ふのうゆび-ゆび試験しけんゆび-はな試験しけんにおけるあやましめせ拮抗きっこう運動うんどう障害しょうがい運動うんどう測定そくてい障害しょうがい共同きょうどう運動うんどう障害しょうがい指先ゆびさき巧緻こうち運動うんどう障害しょうがい、スチュアート・ホームズ現象げんしょうほか企図きとせん小脳しょうのうせい言語げんご断続だんぞくせい爆発ばくはつせい)がみとめられる。

前庭ぜんていせい運動うんどう失調しっちょうしょう

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前庭ぜんていせい運動うんどう失調しっちょうしょうえい:vestibular ataxia、どく:vestibulare Ataxie)は前庭ぜんてい迷路めいろせい失調しっちょうしょうともいう。 前庭ぜんてい機能きのう障害しょうがい由来ゆらいし、そのおおくはみみてき内耳ないじせい障害しょうがいせい疾患しっかん存在そんざい起因きいんし、もしくはそれらの後遺症こういしょうとしてこされたものである。メニエールびょう突発とっぱつせい難聴なんちょう、またストレプトマイシンカナマイシンミノサイクリンなどの薬物やくぶつ中毒ちゅうどくによる前庭ぜんてい神経しんけい障害しょうがい外傷がいしょう梅毒ばいどく音響おんきょう外傷がいしょうみみ硬化こうかしょう内耳ないじえんやその続発ぞくはつしょうなどがある。前庭ぜんてい迷路めいろ血管けっかん血行けっこう障害しょうがいのある中枢ちゅうすうせいめまいにもみとめられる。一般いっぱん平衡へいこう機能きのう障害しょうがい状態じょうたいであり、めまいにはみみ症状しょうじょうともない、方向ほうこう一定いっていせい前庭ぜんていせい)をしめす。

脊髄せきずいせい運動うんどう失調しっちょうしょう

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脊髄せきずいせい運動うんどう失調しっちょうしょうえい:spinal ataxia、どく:spinale Ataxie)はこうさく運動うんどう失調しっちょうしょうともいう。脊髄せきずいさく障害しょうがいにより位置いちさとし関節かんせつさとしにぎさとし振動しんどうさとし重力じゅうりょくさとしなどの深部しんぶ感覚かんかく平衡へいこう感覚かんかくそこなわれ、失調しっちょうきたすものである。こうさく障害しょうがいではほとんどの触覚しょっかく求心きゅうしんせい線維せんいこうからはいるため、あし底部ていぶ触覚しょっかく障害しょうがいによりゆかめんとの接触せっしょく感覚かんかく認知にんち不十分ふじゅうぶんとなって浮遊ふゆうかんおぼえるためによろけるものとされる。 脊髄せきずいがわさく障害しょうがいせい疾患しっかんきりからだ障害しょうがい)、すじ萎縮いしゅくせいがわさく硬化こうかしょう家族かぞくせい疼性たい麻痺まひなどでみとめられるよろけ状態じょうたいは、けん反射はんしゃ亢進こうしん下肢かしの疼性脱力だつりょくのために運動うんどう拙劣せつれつとなってこるもので、こうさく障害しょうがいみとめられるしん運動うんどう失調しっちょうとはことなる。フリードライヒびょう急性きゅうせい連合れんごうせい脊髄せきずい変性へんせいしょう脊髄せきずい癆などではこうさくせい失調しっちょうられ、ロンベルグ徴候ちょうこう陽性ようせいとなる。

歩行ほこう障害しょうがい

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失調しっちょうせい歩行ほこう ataxic gait とばれるものでは、蹣跚まんさん(まんさん)歩行ほこう、よろけ歩行ほこう千鳥足ちどりあし説明せつめいされるように両足りょうあしひろはなし、歩幅ほはば一定いっていせず、こしをはじめからだみきがふらついて円滑えんかつあしはこびができず、また時々ときどきあしめてバランスたもつことで転倒てんとうふせぐ。閉眼歩行ほこうではよろけが一層いっそうつよく、前庭ぜんてい障害しょうがい小脳しょうのう半球はんきゅう障害しょうがいでは1がわ偏倚へんいしての歩行ほこうとなる。これは筋力きんりょくすじトーヌスは正常せいじょうであるが中枢ちゅうすう障害しょうがいにより筋力きんりょく協調きょうちょうたもてないためにこる歩行ほこうであり、広義こうぎには四肢ししすじトーヌス低下ていかによるものをふくむこともある。失調しっちょうせい歩行ほこう通常つうじょう小脳しょうのう疾患しっかんみとめられる歩行ほこう失調しっちょうをいう。前庭ぜんていせい小脳しょうのうせい障害しょうがいではからだみき失調しっちょうきたし、こし動揺どうようれ)が顕著けんちょ蹣跚まんさん歩行ほこうみとめられる。広義こうぎには運動うんどう失調しっちょうしょう同時どうじこるものとして大脳だいのうせい障害しょうがいにおける痙性歩行ほこうもしくは麻痺まひせい歩行ほこうや、脊髄せきずいせい障害しょうがいにおいて深部しんぶ感覚かんかく障害しょうがいによりあらわれる麻痺まひせいちか歩行ほこうをもふくむが、痙性歩行ほこう麻痺まひせい歩行ほこうすじトーヌス異常いじょうにより副次的ふくじてき発生はっせいする失調しっちょうとして明確めいかく区別くべつされる。

このほかにも歩行ほこう障害しょうがい様々さまざまかたちをとるため、運動うんどう失調しっちょう診察しんさつさいに、歩行ほこう(gait)の異常いじょうっていると疾患しっかん目星めぼしがつくこともある。

歩行ほこう異常いじょう 原因げんいん
痙性へん麻痺まひ歩行ほこう きりからだ障害しょうがい
痙性たい麻痺まひ歩行ほこう 両側りょうがわきりからだ障害しょうがい
パーキンソン歩行ほこう きり体外たいがい障害しょうがい
小刻こきざ歩行ほこう 多発たはつのう梗塞こうそく
酩酊めいてい歩行ほこう 前庭ぜんていあるいは小脳しょうのう障害しょうがい
かかと歩行ほこう 深部しんぶ感覚かんかく障害しょうがい
にわとり 腓骨ひこつ神経しんけい麻痺まひ
動揺どうようせい歩行ほこう 下肢かしすじ障害しょうがい
ヒステリー歩行ほこう ヒステリー
間欠かんけつせい跛行はこう 下肢かし動脈どうみゃく神経しんけい障害しょうがい

アルコールは小脳しょうのう一過いっかせい障害しょうがいするため酩酊めいてい歩行ほこうになるとかんがえられている。これがいわゆる千鳥足ちどりあしである。歩行ほこう障害しょうがいにおいて重要じゅうよう疾患しっかんとしては、認知にんちしょう失禁しっきん歩行ほこう障害しょうがいさんしるしとする疾患しっかんがある。これは慢性まんせいかたまく血腫けっしゅ正常せいじょうあつすいあたましょうである。どちらも頭部とうぶCTにて診断しんだん可能かのうであり、慢性まんせいかたまく血腫けっしゅならば血腫けっしゅ除去じょきょ正常せいじょうあつすいあたましょうならばVPシャントによって改善かいぜんする。正常せいじょうあつすいあたましょうでは脊髄せきずいタップテストによって診断しんだんする場合ばあいおおい。


統合とうごう失調しっちょうしょう

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統合とうごう失調しっちょうしょうは、本来ほんらい英語えいごで "schizophrenia" とばれる疾患しっかんのことであり、ataxia とは無関係むかんけいである。 この場合ばあいのうないでの情報処理じょうほうしょりまさしくおこなわれ、出力しゅつりょくけい問題もんだいがあるという疾患しっかん連想れんそうするが、これは、現在げんざい医学いがくてき知見ちけんからはあやまりである。以前いぜんは「精神分裂病せいしんぶんれつびょう」とばれていたが、誤解ごかいあたえるおそれがあるためさい設定せっていされた病名びょうめいである。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ ステッドマン医学いがくだい辞典じてんだい4はん、メジカルビューしゃ、1997ねん

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 問題もんだい解決かいけつがた 救急きゅうきゅう初期しょき診療しんりょう ISBN 426012255X
  • 問題もんだい解決かいけつがた 救急きゅうきゅう初期しょき検査けんさ ISBN 4260004638
  • Step By Step! 初期しょき診療しんりょうアプローチ(だい4かんISBN 4903331687
  • 神経しんけい内科ないかケーススタディ ISBN 4880024252
  • Q&Aとイラストでまな神経しんけい内科ないか ISBN 4880024635
  • 南山みなみやまどう 医学いがくだい辞典じてん南山みなみやまどう 2006ねん3がつ10日とおか発行はっこう ISBN 978-4-525-01029-4