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錯体 - Wikipedia

錯体さくたい

化学かがく物質ぶっしつぐんひと

錯体さくたい(さくたい、英語えいご: complex)もしくは錯塩(さくえん、英語えいご: complex salt)とは、広義こうぎには、はい結合けつごう水素すいそ結合けつごうによって形成けいせいされた分子ぶんし総称そうしょうである。狭義きょうぎには、金属きんぞく非金属ひきんぞく原子げんし結合けつごうした構造こうぞう化合かごうぶつ金属きんぞく錯体さくたい)をす。この非金属ひきんぞく原子げんしはいである。ヘモグロビンクロロフィルなど生理せいりてき重要じゅうよう金属きんぞくキレート化合かごうぶつ錯体さくたいである。また、中心ちゅうしん金属きんぞく酸化さんかすうはい電荷でんかしあっていないイオンせい錯体さくたい錯イオンともばれる。

金属きんぞく錯体さくたいは、有機ゆうき化合かごうぶつ無機むき化合かごうぶつのどちらともことなるおおくの特徴とくちょうてき性質せいしつしめすため、現在げんざいでも非常ひじょうさかんな研究けんきゅうおこなわれている物質ぶっしつぐんである。

名前なまえについて

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錯体さくたいの「錯」とは「複数ふくすうものじる」とう意味いみがある。 一方いっぽう英語えいごでは complex というが、これは2種類しゅるい以上いじょうざりものという意味いみがあり、たとえばポリマーに酸化さんかぶつんだものもcomplexである。錯体さくたいがcomplexとばれるのは、はい金属きんぞくイオンとの「ざりもの」であったからであるが、錯体さくたいは「じゅん物質ぶっしつ」であり、明確めいかく区別くべつしたい場合ばあいには「はい化合かごうぶつ」「錯化合かごうぶつ」と場合ばあいもある。この英語えいごやくは coordination compound である。

錯体さくたいは、歴史れきしてきにはおおきなイオンとして研究けんきゅうすすんだ。そのため、むかしは「錯塩」とんだが、中性ちゅうせいはい化合かごうぶつについても研究けんきゅうすすみ、現在げんざいでは錯体さくたいぶのが一般いっぱんてきである。

性質せいしつ

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よく研究けんきゅうされるのは、ひかり吸光発光はっこう)、電気でんき磁気じき触媒しょくばいなどの特性とくせいである。近年きんねんではこれらの性質せいしつふくあわした機能きのう錯体さくたいたとえば、ひかり電子でんし移動いどうひかり磁性じせい制御せいぎょ電気でんき化学かがく触媒しょくばいなど)の研究けんきゅうさかんである。

構造こうぞうてき特性とくせい

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金属きんぞく錯体さくたい中心ちゅうしん原子げんしは、2から12程度ていどまでの多様たようはいすうをとる。とくに、はいすう4のさいにとる四面しめん体型たいけい錯体さくたいや、はいすう6のさいはち面体めんていがた錯体さくたいれいなど、たか対称たいしょうせいしめすことがおおい。

分光ぶんこうがくてき特性とくせい

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おおくの金属きんぞく錯体さくたい特有とくゆううつくしいいろつ。これは金属きんぞく原子げんしのd軌道きどうはいによって分裂ぶんれつし、このエネルギー可視かしこう領域りょういきひかりエネルギーと一致いっちするためである(くわしくは結晶けっしょうじょう理論りろんおよびはいじょう理論りろん参照さんしょう)。またこのいろ金属きんぞくあたいすうはい環境かんきょう反映はんえいして様々さまざまいろ変化へんかする。

あるしゅ金属きんぞく錯体さくたいは、はい環境かんきょうによって、光学こうがく活性かっせいたいとなり、キラル化合かごうぶつとなる。

構造こうぞう

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錯体さくたい特有とくゆういろつことがおおいため、反応はんのう進行しんこうUV-Vis スペクトル確認かくにんすることがおおい。厳密げんみつ錯体さくたい構造こうぞう決定けってい通常つうじょうXせん構造こうぞう解析かいせきによっておこなわれる。また、必要ひつようおうじてあかがい分光ぶんこうほう (IR) やかく磁気じき共鳴きょうめい (NMR)、電子でんしスピン共鳴きょうめい (ESR) なども利用りようされる。

幾何きか異性いせいたい

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[MX4Y2]構造こうぞうはち面体めんていかたろくはい錯体さくたいおよび[MX3Y3]構造こうぞう平面へいめん四角形しかっけいかたろくはい錯体さくたいはそれぞれ幾何きか異性いせいたい発生はっせいする。[MX4Y2]構造こうぞうにおいて、Yはい背中合せなかあわせの方向ほうこうはいしていればtransとなってはいしていればcisからだとなる。[MX3Y3]構造こうぞうにおいて、おなじ3はいはち面体めんていひとつのめん占有せんゆうしていればfacialまたはfac中心ちゅうしん金属きんぞくイオンをふくひとつのめん占有せんゆうしていればmeridionalまたはmerからだぶ。

光学こうがく異性いせいたい

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はいを2以上いじょうもつろくはい錯体さくたいには光学こうがく異性いせいたい発生はっせいする。はいによるねじれがひだりまわりのものはΛらむだ(ラムダ)、みぎまわりのものはΔでるた(デルタ)からだぶ。

生成せいせい反応はんのう

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生成せいせい反応はんのうとは、錯体さくたい生成せいせいする反応はんのう総称そうしょうである。

金属きんぞく錯体さくたい生成せいせい反応はんのう

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水溶液すいようえきちゅう金属きんぞくイオン(金属きんぞくしお)は周囲しゅうい過剰かじょう存在そんざいするみずはい結合けつごうし、みず和金わきんぞくイオンM(H2O)xn+として存在そんざいしている。これは、金属きんぞくみずほうられるとせいイオンに電離でんりし、周囲しゅういみず孤立こりつ電子でんしたいがこれを中和ちゅうわしようとするためだ。これがはい結合けつごうであり、この場合ばあいはいみずとなる。はいみずかぎらず、せいイオンを中和ちゅうわする能力のうりょくのある原子げんし、すなわち、かげイオンやルイス塩基えんきす。よって、もし水溶液すいようえきちゅうみず以外いがいはい存在そんざいしていた場合ばあい、その溶液ようえきにはみずわりにそのはい結合けつごうしている金属きんぞくイオンもある。

おおくの場合ばあいあたらしい金属きんぞく錯体さくたいは、金属きんぞくしおはいわせから発見はっけんされる。金属きんぞくしお典型てんけい金属きんぞく遷移せんい金属きんぞくわずあらゆる種類しゅるいもちいられる。はい多様たようなものがもちいられるが、とくポルフィリンもちいたれいきわめておおい。

有機ゆうき化学かがく分野ぶんや錯体さくたい化学かがく反応はんのう制御せいぎょまたは促進そくしんさせる触媒しょくばいとして非常ひじょうによくもちいられている。また、生体せいたいなか存在そんざいする酵素こうそ活性かっせい中心ちゅうしんにはアミノ酸あみのさんかこまれた金属きんぞく錯体さくたい存在そんざいし、重要じゅうよう役割やくわりたしている(赤血球せっけっきゅうなかヘモグロビンなど)。またシスプラチンDNAつよはいくらいすることによって抗癌剤こうがんざいとして作用さようする。

色素しきそぞうかんがた太陽たいよう電池でんちにおけるひかり吸収きゅうしゅうそう、すなわち色素しきそとして、ルテニウムビピリジン錯体さくたい(またはその誘導体ゆうどうたい)がおももちいられている。

ちょう分子ぶんし

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古典こてんてき錯体さくたいとは若干じゃっかんことなる、ちょう分子ぶんしばれる物質ぶっしつぐんナノテクノロジー材料ざいりょうのひとつとして注目ちゅうもくされている。

おも錯体さくたい

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  • アクア錯体さくたい (みず和物あえもの) - みず  はいとなるもの。
  • カルボニル錯体さくたい - 一酸化いっさんか炭素たんそ  はいとなるもの。金属きんぞくカルボニル参照さんしょう
  • アンミン錯体さくたい - アンモニア  はいとなるもの。テトラアンミンどう錯体さくたい   など
  • シアノ錯体さくたい - シアン化物ばけものイオン  はいとなるもの。ヘキサシアニドてつ錯体さくたい  ,   など
  • ハロゲノ錯体さくたい - ハロゲン化物ばけものイオンはいとなるもの。テトラクロリドてつ錯体さくたい   など
  • ヒドロキシ錯体さくたい - 水酸化物すいさんかぶつイオン  はいとなるもの。アルミンさん   (または  )など

顔料がんりょう

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一部いちぶ錯体さくたいはその鮮明せんめいいろたか耐久たいきゅうせいから、顔料がんりょうとして使用しようされる。とくにフタロシアニンは応用おうよう分野ぶんやでの消費しょうひりょうおおく、大量たいりょう生産せいさんされている。

 
フタロシアニンのどう錯体さくたい
どうフタロシアニンブルー
Pigment Blue 15
 
フタロシアニンのどう錯体さくたい
こう塩素えんそどうフタロシアニングリーン
Pigment Green 7

どうフタロシアニン

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フタロシアニンは、4つのフタルさんイミドが窒素ちっそ原子げんし架橋かきょうされた構造こうぞうをもつ環状かんじょう化合かごうぶつポルフィリン類似るいじ構造こうぞうつ。フタロシアニンのどう錯体さくたい顔料がんりょうとして使用しようされる。

ただし、金属きんぞくフタロシアニンも顔料がんりょうとして使用しようされる。どうフタロシアニンブルーよりもみどりあじ顔料がんりょうであるが、可視かし領域りょういき長波ちょうはちょうがわ反射はんしゃおおきく、幾分いくぶん不鮮明ふせんめいである。

金属きんぞく錯体さくたい顔料がんりょう

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金属きんぞく錯体さくたい顔料がんりょうは、顔料がんりょうとしての性能せいのうゆうする金属きんぞく錯体さくたいす。ただし、フタロシアニンをのぞいたものを場合ばあいおおい。顔料がんりょう分野ぶんやでは、シッフ塩基えんき誘導体ゆうどうたいとくイミン分子ぶんし構造こうぞうちゅうゆうする顔料がんりょうをアゾメチン顔料がんりょうぶことから、フタロシアニンをのぞいたシッフ塩基えんき誘導体ゆうどうたいとくイミン分子ぶんし構造こうぞうちゅうゆうする金属きんぞく錯体さくたい顔料がんりょうはアゾメチン顔料がんりょうともばれる。たか透明とうめいせいしょく淡色たんしょくいろ特徴とくちょうであるが、いろどりひくさなどから市場いちばせい限定げんていてきであり、比較的ひかくてき短期間たんきかん生産せいさん終了しゅうりょうしたものもある。

鉱物こうぶつ

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鉱物こうぶつとして自然しぜんかい存在そんざいする錯体さくたい化合かごうぶつ組成そせい鉱物こうぶつ非常ひじょうめずらしい。発見はっけんされている錯体さくたい鉱物こうぶつアンミンせき (Ammineite・[CuCl2(NH3)2]) とヨアネウムせき (Joanneumite・Cu(C3N3O3H2)2(NH3)2) の2種類しゅるいのみられている。このうちのアンミンせきは、はじめて発見はっけんされたアンミン錯体さくたい鉱物こうぶつであることちなんだ命名めいめいである[1][2]

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 絵具えのぐ科学かがく』 ホルベイン工業こうぎょう技術ぎじゅつへん 中央公論ちゅうおうこうろん美術びじゅつ出版しゅっぱんしゃ 1994/5(新装しんそう普及ふきゅうばんISBN 480550286X
  • 絵具えのぐ材料ざいりょうハンドブック』 ホルベイン工業こうぎょう技術ぎじゅつへん 中央公論ちゅうおうこうろん美術びじゅつ出版しゅっぱんしゃ 1997/4(新装しんそう普及ふきゅうばんISBN 4805502878
  • 顔料がんりょう事典じてん伊藤いとう ただし司郎しろう(編集へんしゅう) 朝倉書店あさくらしょてん 2000/10 ISBN 4254252439 ISBN 978-4254252439
  • 有機ゆうき顔料がんりょうハンドブック』 橋本はしもといさお カラーオフィス 2006/5

関連かんれん項目こうもく

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