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水素結合 - Wikipedia

水素すいそ結合けつごう

陰性いんせい原子げんし共有きょうゆう結合けつごうむすびついた水素すいそ原子げんしが、近傍きんぼう位置いちした窒素ちっそ酸素さんそ硫黄いおうフッ素ふっそπぱい電子でんしけいなどの孤立こりつ電子でんしたいとつくる共有きょうゆう結合けつごうせい引力いんりょくてき相互そうご作用さよう

水素すいそ結合けつごう(すいそけつごう、えい: hydrogen bond)は、電気でんき陰性いんせいおおきな原子げんし陰性いんせい原子げんし)に共有きょうゆう結合けつごうむすびついた水素すいそ原子げんしが、近傍きんぼう位置いちした窒素ちっそ酸素さんそ硫黄いおうフッ素ふっそπぱい電子でんしけいなどの孤立こりつ電子でんしたいとつくる共有きょうゆう結合けつごうせい引力いんりょくてき相互そうご作用さようである。水素すいそ結合けつごうには、ことなる分子ぶんしあいだはたらくもの(分子ぶんしあいだりょく)と単一たんいつ分子ぶんしことなる部位ぶいあいだ分子ぶんしない)にはたらくものがある[2]

自己じこ組織そしきりょうからだふく合体がったいにおける分子ぶんしあいだ水素すいそ結合けつごうれい[1]点線てんせん水素すいそ結合けつごうしめす。
アセチルアセトンにおいてエノール互変異性いせいたい安定あんていさせる分子ぶんしない水素すいそ結合けつごうれい

水素すいそ結合けつごうはもっぱら、陰性いんせい原子げんしじょう電気でんきてきよわ陽性ようせい (δでるた+) をびた水素すいそが(右上みぎうえ:水分すいぶんれい周囲しゅうい電気でんきてき陰性いんせい原子げんしとのあいだこすせいでんてきちからとして説明せつめいされることがおおい。つまり、双極そうきょく相互そうご作用さようのうち、特別とくべつつよいもの、としてかんがえることもできる。ただし水素すいそ結合けつごうはイオン結合けつごうのような指向しこうせい相互そうご作用さようではなく、水素すいそ共有きょうゆう電子でんしたい相対そうたい配置はいちにも依存いぞんする相互そうご作用さようであるため、水素すいそイオンプロトン)の「キャッチボール」と表現ひょうげんされることもある。

典型てんけいてき水素すいそ結合けつごう(5〜30 kJ/mol)は、ファンデルワールスりょくより10ばい程度ていどつよいが、共有きょうゆう結合けつごうイオン結合けつごうよりはるかによわい。水素すいそ結合けつごうみずなどの無機物むきぶつにおいても、DNAなどの有機物ゆうきぶつにおいてもはたらく。水素すいそ結合けつごうみず性質せいしつ、たとえばあい変化へんかなどのねつてき性質せいしつ、あるいはみず物質ぶっしつとの親和しんわせいなどにおいて重要じゅうよう役割やくわりになっている。

2011ねんに、国際こくさい純正じゅんせい応用おうよう化学かがく連合れんごう(IUPAC)によってつくられたタスクグループは、以下いかのような水素すいそ結合けつごう現代げんだいてき定義ていぎ提案ていあんしている。

水素すいそ結合けつごうとは、分子ぶんしちゅう水素すいそ原子げんし、またはXがHよりも電気でんき陰性いんせいたか分子ぶんし断片だんぺんX–Hなか水素すいそ原子げんしと、おなじまたはことなる分子ぶんしちゅう原子げんしまたは原子げんしのグループとのあいだ引力いんりょくてき相互そうご作用さようで、結合けつごう形成けいせいされている証拠しょうこがあるもののことである。

The hydrogen bond is an attractive interaction between a hydrogen atom from a molecule or a molecular fragment X–H in which X is more electronegative than H, and an atom or a group of atoms in the same or a different molecule, in which there is evidence of bond formation.

—IUPAC Technical Report[3][4]

効果こうか役割やくわり

編集へんしゅう
 
水分すいぶん極性きょくせい
 
水中すいちゅうにおける水素すいそ結合けつごうネットワークのしきあか酸素さんそ原子げんしあお水素すいそ原子げんし実線じっせん共有きょうゆう結合けつごう黒点こくてんせん水素すいそ結合けつごうしめ

みず同族どうぞくほかだい16ぞく元素げんそ水素すいそ化物ばけものH2S沸点ふってん: −60.7 ℃〕など)より比較的ひかくてきたか沸点ふってん(100 ℃)をしめすのは、水素すいそ結合けつごうによって分子ぶんしあいだ引力いんりょく非常ひじょうつよくなるためである。また、みずこおり変化へんかするさい体積たいせき増大ぞうだいするのは、水分すいぶん三角さんかく構造こうぞう水素すいそ結合けつごうはちじょうになり、そこに空洞くうどうおおまれるためである。

生体せいたい高分子こうぶんしにおいて水素すいそ結合けつごうは、タンパク質たんぱくしつ構造こうぞう以上いじょう高次こうじ構造こうぞう形成けいせいするさいや、核酸かくさんなか核酸かくさん塩基えんき同士どうし相補そうほてきむすびつきじゅうらせん構造こうぞう形成けいせいするさい必要ひつような、重要じゅうよう駆動くどうりょくとなっている。

近年きんねんでは炭素たんそじょう水素すいそ陰性いんせい原子げんしつく相互そうご作用さようCH-O、CH-N相互そうご作用さよう)や、芳香ほうこうたまき水素すいそとの相互そうご作用さよう(CH-πぱい相互そうご作用さよう)もよわ水素すいそ結合けつごうとして認識にんしきされるようになってきた[5]

結合けつごう

編集へんしゅう

相対そうたいてき電気でんき陰性いんせいたか原子げんし共有きょうゆう結合けつごう形成けいせいしている水素すいそ原子げんしは、水素すいそ結合けつごう供与きょうよたい(donor、ドナー) である[6]。この場合ばあい陰性いんせい原子げんしフッ素ふっそ酸素さんそ窒素ちっそなどである。フッ素ふっそ酸素さんそ窒素ちっそなどの陰性いんせい原子げんしは、水素すいそ原子げんし共有きょうゆう結合けつごうしているかいないかにかかわらず、水素すいそ結合けつごう受容じゅようたい(acceptor、アクセプター) となる。水素すいそ結合けつごう供与きょうよたいひとつのれいは、酸素さんそ原子げんし共有きょうゆう結合けつごうした水素すいそ原子げんしゆうするエタノールである。共有きょうゆう結合けつごうした水素すいそ原子げんしたない水素すいそ結合けつごう受容じゅようたいひとつのれいは、ジエチルエーテル酸素さんそ原子げんしである。

 
水素すいそ結合けつごう供与きょうよたい(hydrogen bond donor) と受容じゅようたい(acceptor) のれい下部かぶ化合かごうぶつこううつやくフルオキセチン (prozac)。
 
カルボンさんしょうにおいてしばしばりょうからだ形成けいせいする。点線てんせん水素すいそ結合けつごうしめす。

炭素たんそ原子げんし結合けつごうした水素すいそ原子げんしも、クロロホルム(CHCl3)のように、炭素たんそ原子げんし陰性いんせい原子げんし結合けつごうしている場合ばあいは、水素すいそ結合けつごう関与かんよすることができる。陰性いんせい原子げんしによって、水素すいそ原子核げんしかくまわりの電子でんしくも分散ぶんさんけられ、水素すいそ原子げんし部分ぶぶんせい電荷でんかびる。水素すいそ原子げんし原子げんし分子ぶんし比較ひかくしてちいさいため、しょうじた電荷でんかや、部分ぶぶん電荷でんかだけでもおおきな電荷でんか密度みつどしめす。このつよせい電荷でんか密度みつどが、水素すいそ結合けつごう受容じゅようたいとなるヘテロ原子げんしちゅう共有きょうゆう電子でんしたいけ、水素すいそ結合けつごう形成けいせいされる。

水素すいそ結合けつごうはしばしば、せいでんてき双極そうきょく-双極そうきょく相互そうご作用さようとして説明せつめいされる。しかしながら、水素すいそ結合けつごう指向しこうせい強力きょうりょくであり、ファン・デル・ワールス半径はんけいよりみじか原子げんしあいだ距離きょりしめし、原子げんし一種いっしゅ解釈かいしゃくされるかぎられたかず相互そうご作用さようしか大抵たいてい形成けいせいしないなど、共有きょうゆう結合けつごうてき性質せいしつっている。これらの共有きょうゆう結合けつごうさま性質せいしつ受容じゅようたいがより電気でんき陰性いんせいなドナーちゅう水素すいそ原子げんし結合けつごうするときにより顕著けんちょである。

水素すいそ結合けつごう部分ぶぶんてき共有きょうゆう結合けつごうせい以下いかのような疑問ぎもん提起ていきする: どちらの分子ぶんしあるいは原子げんし水素すいそ原子核げんしかくぞくしているのだろうか? どちらが供与きょうよたいでどちらが受容じゅようたいなのだろうか? 通常つうじょうは、これらは、単純たんじゅんに X—H...Y けい原子げんしあいだ距離きょりもとづいて決定けっていされる。X—Hの距離きょりは、通常つうじょう 〜110 pmであるが、H...Yの距離きょりは 〜160から200 pmである。水素すいそ結合けつごうしめ液体えきたい会合かいごう液体えきたい(associated liquids) とばれる。

水素すいそ結合けつごうつよさは、とてもよわいもの(1-2 kJ mol−1)から、HF2−[7]のように非常ひじょうつよいもの (>155 kJ mol−1) まで、様々さまざまである。 しょうにおける典型てんけいてきエンタルピーは、

  • F—H...:F (155 kJ/mol あるいは 40 kcal/mol)
  • O—H...:N (29 kJ/mol あるいは 6.9 kcal/mol)
  • O—H...:O (21 kJ/mol あるいは 5.0 kcal/mol)
  • N—H...:N (13 kJ/mol あるいは 3.1 kcal/mol)
  • N—H...:O (8 kJ/mol あるいは 1.9 kcal/mol)
  • HO—H...:OH3+ (18 kJ/mol[8] あるいは 4.3 kcal/mol)

である。

水素すいそ結合けつごうながさは、結合けつごうつよさ、温度おんど圧力あつりょく依存いぞんしている。結合けつごうつよ自身じしんは、温度おんど圧力あつりょく結合けつごう角度かくど局所きょくしょてき誘電ゆうでんりつなどの環境かんきょう依存いぞんしている。典型てんけいてきみずにおける水素すいそ結合けつごうながさは197 pmである。理想りそうてき結合けつごう角度かくど水素すいそ結合けつごう供与きょうよたい性質せいしつ依存いぞんしている。以下いかのフッ水素すいそさん供与きょうよたい様々さまざま受容じゅようたいとの水素すいそ結合けつごう角度かくど実験じっけんてき決定けっていされたものである[9]

受容じゅようたい···供与きょうよたい 原子げんしから電子でんしたい反発はんぱつそく (VSEPR) 角度かくど (°)
HCN···HF 直線ちょくせんがた 180
H2CO ··· HF 平面へいめん三角形さんかっけい 110
H2O ··· HF よん角錐かくすいがた 46
H2S ··· HF よん角錐かくすいがた 89
SO2 ··· HF さん角錐かくすいがた 145

ライナス・ポーリング著作ちょさく The Nature of the Chemical Bondなかで、1912ねん水素すいそ結合けつごうについてはじめてべた人物じんぶつとしてT. S. MooreとT. F. Winmillをげている[10]。MooreとWinmillは水素すいそ結合けつごうを、水酸化すいさんかトリメチルアンモニウム水酸化すいさんかテトラメチルアンモニウムよりもよわ塩基えんきであることを説明せつめいするために使用しようした。よりよくられた状態じょうたいであるみずにおける水素すいそ結合けつごうかんしては、すこおくれて1920ねんにウェンデル・ラティマーとウォース・ローデブッシュによって言及げんきゅうされている[11]。この論文ろんぶんにおいて、ラティマーとローデブッシュは、かれらの研究けんきゅうしつ研究けんきゅういんであるモーリス・ハギンズ発表はっぴょう成果せいか引用いんようして、「発表はっぴょうのいくつかの研究けんきゅうにおいてほん研究けんきゅうしつのハギンズは、ある有機ゆうき化合かごうぶつかんする理論りろんとして、2つの原子げんしあいだ水素すいそカーネルのアイデアをもちいている。 "Mr. Huggins of this laboratory in some work as yet unpublished, has used the idea of a hydrogen kernel held between two atoms as a theory in regard to certain organic compounds."」とべている[11]

みずにおける水素すいそ結合けつごう

編集へんしゅう
 
六方ろっぽうあきらけいごおり結晶けっしょう構造こうぞう灰色はいいろ点線てんせん水素すいそ結合けつごうしめす。
 
水分すいぶんあいだ水素すいそ結合けつごうのモデル。

もっと身近みぢかで、そしておそらくもっと単純たんじゅん水素すいそ結合けつごうれいは、水分すいぶん水分すいぶんあいだられる。個々ここ水分すいぶんには、2水素すいそ原子げんし1個いっこ酸素さんそ原子げんし存在そんざいする。2つの分子ぶんししか存在そんざいしないもっと単純たんじゅん場合ばあいにおいて、みず2分子ぶんし1個いっこ水素すいそ結合けつごう形成けいせいできる。このような場合ばあいは、みずりょうたい (water dimer) とばれ、しばしばモデルシステムとしてもちいられる。液体えきたいみず場合ばあいのように、よりおおくの分子ぶんし存在そんざいするときは、みず1分子ぶんし酸素さんそ原子げんしは2つの共有きょうゆう電子でんしたいち、それぞれの共有きょうゆう電子でんしたいべつ水分すいぶん水素すいそ原子げんしと1つの水素すいそ結合けつごう形成けいせいできるため、よりおおくの水素すいそ結合けつごう形成けいせいすることが可能かのうである。これがかえされることによって、しめされているように、ひとつの水分すいぶんは4つまでの分子ぶんし水素すいそ結合けつごう形成けいせいできる。水素すいそ結合けつごうこおり結晶けっしょう構造こうぞう多大ただい影響えいきょうあたえており、六方ろっぽう格子こうし構築こうちく寄与きよしている。こおり密度みつどおな温度おんどにおいてみずよりもちいさく、ゆえに、のほとんどの物質ぶっしつとはことなり、みずかたあい状態じょうたい液体えきたいみずく。

常温じょうおん空気くうきなかでの燃焼ねんしょうにおいて、水分すいぶん発生はっせいしたとき水素すいそ結合けつごうしょうじ、ただちに液体えきたいになる。

液体えきたいみずたか沸点ふってんは、ひく分子ぶんしりょうくらべて、それぞれの分子ぶんしおおくの水素すいそ結合けつごう形成けいせいできることが原因げんいんである。この水素すいそ結合けつごうネットワークをこわすことが困難こんなんなため、みず水素すいそ結合けつごう形成けいせいしない同様どうよう液体えきたい比較ひかくして、非常ひじょうたか沸点ふってん融点ゆうてんねばたびしめす。みずは、その酸素さんそ原子げんしが2つの共有きょうゆう電子でんしたいと2つの水素すいそ原子げんしっているため、1つの水分すいぶんで4つまでの水素すいそ結合けつごう形成けいせいできるてん特徴とくちょうてきである。たとえば、フッ水素すいそは、フッ素ふっそ原子げんしが3つの共有きょうゆう電子でんしたいと1つの水素すいそ原子げんしっているが、水素すいそ結合けつごうを2つしか形成けいせいできない(アンモニアでは、3つの水素すいそ原子げんしっているが1つの共有きょうゆう電子でんしたいしかないというぎゃく問題もんだいがある)。

 

液体えきたい状態じょうたいみず1分子ぶんし形成けいせいできる水素すいそ結合けつごう厳密げんみつかずは、時間じかんによって変動へんどうし、温度おんど依存いぞんする。TIP4Pモデルをもちいた25 °Cにおけるシミュレーションでは、それぞれの水分すいぶん平均へいきんして3.59水素すいそ結合けつごう関与かんよしていると予測よそくされている[12]。100 °Cでは、このかず分子ぶんし運動うんどう増大ぞうだい密度みつど低下ていかによって3.24減少げんしょうするが、0 °Cでは水素すいそ結合けつごう平均へいきんすうは3.69増加ぞうかする[12]。より最近さいきん研究けんきゅうでは、25 °Cにおける水素すいそ結合けつごうかずは2.357とかなりすくなく見積みつもられている[13]。このちがいは、水素すいそ結合けつごう定義ていぎ計測けいそくことなる手法しゅほうもちいているためではないかとかんがえられる。

水素すいそ結合けつごうつよさがより同等どうとうときは、2つの相互そうご作用さようしてる水分すいぶん原子げんしは、2つのことなる電荷でんか原子げんしイオン水酸化物すいさんかぶつイオン OHヒドロニウムイオン H3O+)にかれる。

 

実際じっさいに、標準ひょうじゅん状態じょうたいにおける純粋じゅんすいみずでは、このようなイオンの形成けいせいはほとんどこらず、この状態じょうたいにおけるみず解離かいり定数ていすうしたがうと、5.5 × 108分子ぶんしちゅうで1分子ぶんしのみである。これがみず特異とくいせいもっと重要じゅうよう部分ぶぶんである。

みずにおける二股ふたまたじょうおよび過剰かじょうはい水素すいそ結合けつごう

編集へんしゅう

単一たんいつ水素すいそ原子げんしは1つではなく2つの水素すいそ結合けつごう関与かんよすることができる。このようなタイプの水素すいそ結合けつごうは、二股ふたまたじょう (bifurcated) あるいはさん中心ちゅうしんがたばれる。たとえば、これらは天然てんねんあるいは合成ごうせい有機ゆうき分子ぶんしふく合体がったいちゅう存在そんざいしている[14]二股ふたまたじょう水素すいそ結合けつごうは、みずさい配向はいこう必須ひっす段階だんかいであることが示唆しさされている[15]受容じゅよう体型たいけい水素すいそ結合けつごう酸素さんそ原子げんし共有きょうゆう電子でんしたい終了しゅうりょうする)は、供与きょうよ体型たいけいおな酸素さんそ原子げんし結合けつごうした水素すいそ原子げんしはじまる)よりも二股ふたまたじょう水素すいそ結合けつごう形成けいせいしやすい(過剰かじょうはい酸素さんそ、overcoordinated oxygen, OCO)[16]

DNAおよびタンパク質たんぱくしつにおける水素すいそ結合けつごう

編集へんしゅう
 
DNAにおける2つの塩基えんきたいうちの1つであるグアニンシトシンあいだ水素すいそ結合けつごう

水素すいそ結合けつごうは、タンパク質たんぱくしつ核酸かくさんがとるさん次元じげん構造こうぞう決定けっていにも重要じゅうよう役割やくわりたしている。高分子こうぶんしは、同一どういつ高分子こうぶんしちゅうことなる部分ぶぶんあいだ水素すいそ結合けつごうによって、高分子こうぶんし生理学せいりがくてきあるいは生化学せいかがくてき役割やくわり決定けっていしているある特異とくいてき形状けいじょうへとたたまれる。たとえば、DNAのじゅう螺旋らせん構造こうぞうは、一方いっぽう相補そうほくさりともう一方いっぽうくさりとのあいだ塩基えんきたい水素すいそ結合けつごうだい部分ぶぶんよっており、DNAの複製ふくせい可能かのうにしている。

タンパク質たんぱくしつ構造こうぞうでは、しゅくさり酸素さんそ原子げんしアミド結合けつごう水素すいそ原子げんしとのあいだ水素すいそ結合けつごう形成けいせいされる。水素すいそ結合けつごう関与かんよしているアミノ酸あみのさんざんもと間隔かんかくii + 4のときは、αあるふぁヘリックス形成けいせいされる。間隔かんかくii + 3のようによりみじかときは、310ヘリックス形成けいせいされる。2つのペプチドくさり水素すいそ結合けつごうによって会合かいごうするときは、βべーたシート形成けいせいされる。水素すいそ結合けつごうは、Rグループの相互そうご作用さようつうじて、タンパク質たんぱくしつよん構造こうぞう形成けいせいにも部分ぶぶんてき寄与きよしている(フォールディング参照さんしょう)。

ポリマーにおける水素すいそ結合けつごう

編集へんしゅう
 
パラ-アラミド構造こうぞう
 
セルロースくさり(Iαあるふぁコンホメーション)。セルロース分子ぶんしあいだ点線てんせん水素すいそ結合けつごうしめす。

おおくのポリマーは、しゅくさりにおける水素すいそ結合けつごうによって強化きょうかされている。合成ごうせいポリマーのなかでは、もっともよくられたれいナイロンである。ナイロンでは、反復はんぷく単位たんい (repeat unit) のなか水素すいそ結合けつごう存在そんざいし、物質ぶっしつ結晶けっしょうにおいて主要しゅよう役割やくわりたしている。アミド反復はんぷく単位たんいちゅうのカルボニルもととアミノもとあいだ水素すいそ結合けつごう形成けいせいされる。これらは効果こうかてき隣接りんせつしたくさりむす結晶けっしょうつくり、物質ぶっしつ強化きょうかたすける。この効果こうかは、水素すいそ結合けつごうちょくくさりよこ方向ほうこう安定あんていしているアラミド繊維せんい最大さいだいである。くさりじくは、繊維せんいじく沿って整列せいれつし、繊維せんいきわめてかたくかつつよくしている。水素すいそ結合けつごうはセルロースや、天然てんねんにおいて様々さまざまかたち存在そんざいしている木材もくざい綿めん亜麻あまなどの天然てんねん繊維せんいとうのセルロース派生はせいぶつ構造こうぞうにおいても重要じゅうようである。

水素すいそ結合けつごうネットワークは、天然てんねんおよび合成ごうせいポリマーをとも大気たいきちゅう湿度しつどのレベルに敏感びんかんにしている。これは、水分すいぶん表面ひょうめんから拡散かくさんし、水素すいそ結合けつごうネットワークをこわすためである。ナイロンはアラミドよりも感受性かんじゅせいたかく、ナイロン6 (nylon 6) はナイロン11よりも感受性かんじゅせいたかい。

対称たいしょうせい水素すいそ結合けつごう

編集へんしゅう

対称たいしょうせい水素すいそ結合けつごうは、プロトンが2つの同一どういつ原子げんしあいだのちょうど半分はんぶん位置いちしている特別とくべつ水素すいそ結合けつごうのタイプである。それぞれの原子げんしあいだ水素すいそ結合けつごうつよさはひとしい。これはさん中心ちゅうしんよん電子でんし結合けつごうひとつのれいである。このタイプの水素すいそ結合けつごうは「普通ふつう」の水素すいそ結合けつごうよりもつよい。有効ゆうこう結合けつごう次数じすうは0.5であり、共有きょうゆう結合けつごう匹敵ひってきするつよさがある。このタイプの水素すいそ結合けつごうこうあつでのこおり (Ice X) や、そのほかにもだかあつにおけるフッ水素すいそさん蟻酸ぎさんなどの無水むすいさんかたあい状態じょうたいにおいてられる。また、ビフルオリドイオン [F-H-F]でもられる。対称たいしょうせい水素すいそ結合けつごうは、最近さいきんこうあつ (> GPa) のギ酸ぎさんにおいて分光ぶんこうがくてき観測かんそくされている。それぞれの水素すいそ原子げんしは、1つではなく2つの原子げんし部分ぶぶん共有きょうゆう結合けつごう形成けいせいしている。

てい障壁しょうへき水素すいそ結合けつごう (Low-barrier hydrogen bond, LBHB) は2つのヘテロ原子げんしあいだ距離きょり非常ひじょうちいさいとき形成けいせいされる。

水素すいそ結合けつごう

編集へんしゅう

水素すいそ結合けつごうは、よく水素すいそ結合けつごう比較ひかくされる。水素すいそ結合けつごうもまた、水素すいそ原子げんし関与かんよした分子ぶんしあいだ相互そうご作用さようである。これらの構造こうぞうは、Xせん結晶けっしょうがくによってあきらかにされている[17]。しかしながら、水素すいそ結合けつごう通常つうじょう水素すいそ結合けつごう、イオン結合けつごう共有きょうゆう結合けつごうとの関係かんけい理解りかいについては不明ふめいなままである。一般いっぱんてきに、水素すいそ結合けつごうは、非金属ひきんぞく元素げんそ窒素ちっそ原子げんしカルコゲンるい元素げんそなど)ちゅう共有きょうゆう電子でんしたいによるプロトン受容じゅようたいによって特徴付とくちょうづけられる。ある場合ばあいにおいては、πぱい結合けつごう金属きんぞく錯体さくたいがこれらのプロトン受容じゅようたいになりうる。水素すいそ結合けつごうでは、しかしながら、金属きんぞくヒドリドがプロトンアクセプターとしてはたらくことによって、水素すいそ-水素すいそ相互そうご作用さよう形成けいせいされる。これらのふく合体がったいでの分子ぶんし構造こうぞうは、結合けつごうちょう金属きんぞく錯体さくたい/水素すいそ供与きょうよ体系たいけい非常ひじょう適応てきおうせいがあるというてんにおいて、水素すいそ結合けつごうていることが、中性子ちゅうせいし回折かいせつほうによってあきらかにされている[17]

水素すいそ結合けつごうかんする先進せんしんてき理論りろん

編集へんしゅう

1999ねんに、Issacらは、通常つうじょうこおりコンプトンプロファイルにおけるあやかたせい (anisotropy) の解釈かいしゃくから、水素すいそ結合けつごう部分ぶぶんてき共有きょうゆう結合けつごうせいがあると証明しょうめいした[18]タンパク質たんぱくしつにおける水素すいそ結合けつごうのいくつかのNMRデータも共有きょうゆう結合けつごうせいしめしている。

もっと一般いっぱんてきには、水素すいそ結合けつごうは2つあるいはそれ以上いじょう分子ぶんしあいだ結合けつごう距離きょり依存いぞんてきせいでんスカラーじょうとして記述きじゅつされる。これは、共有きょうゆう結合けつごうやイオン結合けつごうにおける分子ぶんしあいだ束縛そくばく状態じょうたいとは若干じゃっかんことなっている。しかしながら、相互そうご作用さようエネルギーが合計ごうけいするとまけるため、水素すいそ結合けつごう通常つうじょう束縛そくばく状態じょうたい現象げんしょうである。ライナス・ポーリングによって提唱ていしょうされた初期しょき水素すいそ結合けつごう理論りろんでは、水素すいそ結合けつごう部分ぶぶんてき共有きょうゆう結合けつごうせいっていることが示唆しさされている。これは、1990年代ねんだい後半こうはんにF. CordierによってNMRほう適用てきようされ、水素すいそ結合けつごうした原子核げんしかくあいだ情報じょうほう転送てんそうされることがしめされるまで論争ろんそうてきであった[19][20][21]。この情報じょうほう移動いどう水素すいそ結合けつごう共有きょうゆう結合けつごうせいふくんでいるときにしかきない。みずにおける水素すいそ結合けつごうについておおくの実験じっけんデータが分子ぶんしあいだ距離きょりのスケールや分子ぶんしねつ力学りきがくについてよい解答かいとうあたえたが、動的どうてきシステムにおける水素すいそ結合けつごう分子ぶんし運動うんどう動力どうりょくがく性質せいしつについては解決かいけつのままである。

水素すいそ結合けつごうによる事象じしょう

編集へんしゅう
  • NH3H2OHFの、それぞれ対応たいおうするじゅうアナログPH3H2SHClくらべて劇的げきてきたか沸点ふってん
  • 無水むすいリンさんおよびグリセロール粘性ねんせいたか
  • カルボンさんりょうからだ形成けいせいと、フッ水素すいそろくりょうからだ形成けいせいしょうにおいてもこり、理想りそう気体きたい状態じょうたい方程式ほうていしきからのズレがしょうじる。
  • 極性きょくせい溶媒ようばいちゅうにおけるみずやアルコールのりょうからだ形成けいせい
  • アンモニアなどおおくの化合かごうぶつみずへのたか溶解ようかいせい
  • フッ水素すいそみず混合こんごうぶつまけきょうにえ
  • NaOH潮解ちょうかいは、OH湿気しっけとの反応はんのうによる水素すいそ結合けつごうせいH3O2形成けいせい部分ぶぶんてき起因きいんしている。同様どうようのプロセスは、NaNH2とNH3あいだNaFとHFでもこる。
  • 水素すいそ結合けつごうによって安定あんていされた結晶けっしょう構造こうぞうによるこおりみずよりちいさい密度みつど
  • 水素すいそ結合けつごう存在そんざいは、ある特定とくてい化合かごうぶつ混合こんごうぶつにおいて、物質ぶっしつ状態じょうたい通常つうじょう遷移せんい異常いじょうせいこす。これらの化合かごうぶつは、ある温度おんどまでは液体えきたい存在そんざいし、つぎ温度おんど上昇じょうしょうしても固体こたいとなり、最後さいご温度おんど異常いじょうなかあいだ段階だんかいえるとふたた液体えきたいとなる[22]
  • スマートラバー (smart rubber) は、水素すいそ結合けつごうをまさに結合けつごうさせるために利用りようしている。スマートラバーは、同一どういつのポリマーの2つの表面ひょうめんあいだでその水素すいそ結合けつごう形成けいせいされ、やぶれても「回復かいふく」する。
  • ナイロンとセルロース繊維せんい強度きょうど
  • ウールでは、タンパク質たんぱくしつ繊維せんい水素すいそ結合けつごうによって集合しゅうごうしており、ばしたときもど原因げんいんとなる。しかしながら、高温こうおん洗浄せんじょうすると、この水素すいそ結合けつごう永久えいきゅううしなわれ、衣服いふくかたちもともどらなくなる。

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう
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参考さんこう文献ぶんけん

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