分子 ぶんし の構造 こうぞう に関 かん する知識 ちしき が増 ふ えるにつれて、分子 ぶんし の定義 ていぎ も進化 しんか してきた。初期 しょき の定義 ていぎ では、分子 ぶんし を「その組成 そせい と化学 かがく 的 てき 性質 せいしつ を保持 ほじ する純粋 じゅんすい な化学 かがく 物質 ぶっしつ の最小 さいしょう の粒子 りゅうし 」と定義 ていぎ していたが、あまり正確 せいかく ではなかった[14] 。しかし、岩石 がんせき 、塩類 えんるい 、金属 きんぞく など身近 みぢか な物質 ぶっしつ の多 おお くは、化学 かがく 的 てき に結合 けつごう した原子 げんし やイオン の大 おお きな結晶 けっしょう ネットワークで構成 こうせい されており、個別 こべつ の分子 ぶんし でできている訳 わけ ではないため、この定義 ていぎ はしばしば破綻 はたん する。
現代 げんだい の分子 ぶんし の概念 がいねん は、レウキッポス やデモクリトス など、すべての宇宙 うちゅう は原子 げんし と空隙 くうげき で構成 こうせい されていると主張 しゅちょう した科学 かがく 以前 いぜん のギリシャの哲学 てつがく 者 しゃ までさかのぼることができる。紀元前 きげんぜん 450年 ねん 頃 ごろ 、エンペドクレス は、基本 きほん 元素 げんそ (火 ひ ( )、土 ど ( )、空気 くうき ( )、水 みず ( ))と、それらの元素 げんそ が相互 そうご 作用 さよう する引力 いんりょく と斥力 せきりょく という「力 ちから 」を想像 そうぞう した。
第 だい 5番目 ばんめ の元素 げんそ である「不壊 ふえ (ふえ)の真髄 しんずい 」であるエーテル は、天体 てんたい の基本 きほん 的 てき な構成 こうせい 要素 ようそ と考 かんが えられていた。レウキッポスやエンペドクレスの視点 してん は、エーテルとともにアリストテレス に受 う け入 い れられ、中世 ちゅうせい およびルネサンス期 き のヨーロッパに受 う け継 つ がれた。
しかし、より具体 ぐたい 的 てき には、「分子 ぶんし 」、すなわち原子 げんし が結合 けつごう した集合 しゅうごう 体 たい や単位 たんい という概念 がいねん は、ロバート・ボイル が1661年 ねん に出版 しゅっぱん した有名 ゆうめい な著書 ちょしょ 『懐疑 かいぎ 的 てき 化学 かがく 者 しゃ (The Sceptical Chymist )』の中 なか で、「物質 ぶっしつ は微粒子 びりゅうし の集団 しゅうだん から構成 こうせい されており、化学 かがく 変化 へんか はその集団 しゅうだん の再 さい 編成 へんせい によって生 しょう じる」とした彼 かれ の仮説 かせつ に端 はし を発 はっ している。ボイルは、物質 ぶっしつ の基本 きほん 要素 ようそ は「微粒子 びりゅうし (corpuscles)」と呼 よ ばれる種類 しゅるい や大 おお きさの異 こと なる粒子 りゅうし で構成 こうせい されており、これらの粒子 りゅうし は自身 じしん を集団 しゅうだん に編成 へんせい することができると主張 しゅちょう した。1789年 ねん に、ウィリアム・ヒギンズ (英語 えいご 版 ばん ) が、原子 げんし 価 か 結合 けつごう の概念 がいねん を予 よ 示 しめせ となる「究極 きゅうきょく の」粒子 りゅうし の組 く み合 あ わせと呼 よ ぶものについての見解 けんかい を発表 はっぴょう した。ヒギンズによれば、たとえば酸素 さんそ の究極 きゅうきょく 粒子 りゅうし と窒素 ちっそ の究極 きゅうきょく 粒子 りゅうし の間 あいだ の力 ちから は6であり、力 ちから の強 つよ さはそれに応 おう じて分割 ぶんかつ され、他 た の究極 きゅうきょく 粒子 りゅうし の組 く み合 あ わせについても同様 どうよう である。
ドルトンの原子 げんし 説 せつ (J.Dalton,A New System of Chemical Philosophy ,1808)。 1.水素 すいそ 、4.酸素 さんそ 、21.水 みず ドルトンは水素 すいそ と酸素 さんそ が1対 たい 1で反応 はんのう し水 みず が生成 せいせい すると考 かんが えている。
ジョン・ドルトン が1803年 ねん に原子 げんし 論 ろん を、1804年 ねん に倍数 ばいすう 比例 ひれい の法則 ほうそく により原子 げんし の存在 そんざい を提唱 ていしょう した。しかし現代 げんだい の電子 でんし と原子核 げんしかく から構成 こうせい される粒子 りゅうし のような構造 こうぞう 的 てき な概念 がいねん ではなく、化学 かがく 反応 はんのう が一定 いってい の単位 たんい 質量 しつりょう を基 もと に進行 しんこう するという量的 りょうてき 概念 がいねん であった[15] 。
「分子 ぶんし (molecule)」という言葉 ことば はアメデオ・アヴォガドロ が作 つく り出 だ した[16] 。1811年 ねん の論文 ろんぶん 「物体 ぶったい の素 す 分子 ぶんし の相対 そうたい 質量 しつりょう の決定 けってい に関 かん するエッセイ」(Essay on Determining the Relative Masses of the Elementary Molecules of Bodies )で、彼 かれ は本質 ほんしつ 的 てき に次 つぎ のように述 の べている。すなわち、パーティントン (英語 えいご 版 ばん ) の『化学 かがく の歴史 れきし (A Short History of Chemistry)』 によると[17] 、
気体 きたい の最小 さいしょう 粒子 りゅうし は必 かなら ずしも単純 たんじゅん な原子 げんし ではなく、これらの原子 げんし が特定 とくてい の数 かず だけ引力 いんりょく で結合 けつごう して一 いち 個 こ の分子 ぶんし (molecule )を形成 けいせい している。
こうした考 かんが え方 かた と同調 どうちょう して、1833年 ねん にフランスの化学 かがく 者 しゃ マルク・アントワーヌ・オーギュスト・ゴーダン (英語 えいご 版 ばん ) は、アボガドロの原子 げんし 量 りょう に関 かん する仮説 かせつ を[18] 、直線 ちょくせん 状 じょう の水分 すいぶん 子 こ のような半 はん 正確 せいかく な分子 ぶんし 形状 けいじょう と、H2 Oのような正確 せいかく な分子 ぶんし 式 しき の両方 りょうほう を明確 めいかく に示 しめ す体積 たいせき 図 ず (volume diagrams)を使 つか って明確 めいかく に説明 せつめい した。
マルク・アントワーヌ・オーギュスト・ゴーダンによる気 き 相 しょう における分子 ぶんし の体積 たいせき 図 ず (1833)
1917年 ねん 、ライナス・ポーリング という無名 むめい のアメリカの化学 かがく 技術 ぎじゅつ 者 しゃ が、原子 げんし 間 あいだ 結合 けつごう を記述 きじゅつ する方法 ほうほう として当時 とうじ 主流 しゅりゅう であったドルトンのフックアンドアイ結合 けつごう [訳語 やくご 疑問 ぎもん 点 てん ] を研究 けんきゅう していた。しかし、ポーリングはこの方法 ほうほう に満足 まんぞく せず、新 あら たな分野 ぶんや である量子 りょうし 物理 ぶつり 学 がく に新 あたら しい方法 ほうほう を求 もと めた。1926年 ねん 、フランスの物理 ぶつり 学者 がくしゃ ジャン・ペラン が、分子 ぶんし の存在 そんざい を決定的 けっていてき に証明 しょうめい したことによりノーベル物理 ぶつり 学 がく 賞 しょう を受賞 じゅしょう した。彼 かれ は、いずれも液 えき 相 しょう 系 けい に関 かん する3種類 しゅるい の方法 ほうほう で計算 けいさん することによりアボガドロ定数 ていすう を決定 けってい した。1番目 ばんめ はガンボージ 石鹸 せっけん のようなエマルション を使用 しよう し、2番目 ばんめ はブラウン運動 うんどう を実験 じっけん 的 てき に研究 けんきゅう し、3番目 ばんめ はアインシュタイン の液 えき 相 しょう における粒子 りゅうし 回転 かいてん の理論 りろん を検証 けんしょう した[19] 。
1927年 ねん 、物理 ぶつり 学者 がくしゃ フリッツ・ロンドン とヴァルター・ハイトラー は、新 あたら しい量子力学 りょうしりきがく を、水素 すいそ 分子 ぶんし における可 か 飽和 ほうわ 性 せい で非 ひ 動的 どうてき な引力 いんりょく と斥力 せきりょく 、すなわち交換 こうかん 力 りょく の取 と り扱 あつか いに適用 てきよう した。この問題 もんだい を原子 げんし 価 か 結合 けつごう の観点 かんてん から扱 あつか った彼 かれ らの共同 きょうどう 論文 ろんぶん は、化学 かがく を量子力学 りょうしりきがく の下 した に置 お くという点 てん で画期的 かっきてき であった[20] 。彼 かれ らの研究 けんきゅう は、博士 はかせ 号 ごう を取得 しゅとく したばかりのポーリングに影響 えいきょう を与 あた え、グッゲンハイム・フェローシップ でチューリッヒのハイトラーやロンドンを訪問 ほうもん した。
水素 すいそ の s 軌道 きどう と重 かさ なる sp³ 混成 こんせい 軌道 きどう の模 も 式 しき 図 ず その後 ご 、1931年 ねん にポーリングは、ハイトラーとロンドンの研究 けんきゅう 、およびルイスの有名 ゆうめい な論文 ろんぶん に見 み られる理論 りろん に基 もと づいて、量子力学 りょうしりきがく を用 もち いて分子 ぶんし の性質 せいしつ や結合 けつごう 角 かく ・結合 けつごう に伴 ともな う回転 かいてん といった構造 こうぞう 式 しき を計算 けいさん する画期的 かっきてき な論文 ろんぶん 「化学 かがく 結合 けつごう の本性 ほんしょう (The Nature of the Chemical Bond )」を発表 はっぴょう した[21] 。これらの概念 がいねん に基 もと づいて、ポーリングは、4つの sp³ 混成 こんせい 軌道 きどう が水素 すいそ の 1s 軌道 きどう に重 かさ なって4つの σ しぐま 結合 けつごう を形成 けいせい する CH4 のような分子 ぶんし の結合 けつごう を説明 せつめい する混成 こんせい 理論 りろん を開発 かいはつ した。この4つの結合 けつごう は同 おな じ長 なが さと強 つよ さであるため、下図 したず に示 しめ すような分子 ぶんし 構造 こうぞう になる。
物質 ぶっしつ の構成 こうせい 要素 ようそ としての分子 ぶんし はありふれたものである。それらはまた、海 うみ や大気 たいき の大 だい 部分 ぶぶん を構成 こうせい している。ほとんどの有機 ゆうき 物 もの は分子 ぶんし である。タンパク質 たんぱくしつ とその材料 ざいりょう となるアミノ酸 あみのさん 、核酸 かくさん (DNAとRNA)、糖 とう 、炭水化物 たんすいかぶつ 、脂質 ししつ 、ビタミンなど、生命 せいめい を構成 こうせい する物質 ぶっしつ は分子 ぶんし である。栄養素 えいようそ であるミネラルは、一般 いっぱん にイオン化合 かごう 物 ぶつ であり、分子 ぶんし ではない(例 れい :硫酸 りゅうさん 鉄 てつ )。
炭素 たんそ の同素体 どうそたい (異 こと なる分子 ぶんし 構造 こうぞう )を示 しめ す: a:ダイヤモンド , b:グラファイト , c:ロンズデーライト , d,e,f:フラーレン , g:無定形 むていけい 炭素 たんそ , h:カーボンナノチューブ
しかし、地球 ちきゅう 上 じょう の身近 みぢか な固体 こたい 物質 ぶっしつ の大半 たいはん は、部分 ぶぶん 的 てき または全部 ぜんぶ が結晶 けっしょう やイオン化合 かごう 物 ぶつ でできており、分子 ぶんし でできているわけではない。これらには、地球 ちきゅう の物質 ぶっしつ を構成 こうせい するすべての鉱物 こうぶつ 、砂 すな 、粘土 ねんど 、小石 こいし 、岩 いわ 、巨 きょ 礫 つぶて 、地殻 ちかく 、マントル 、地球 ちきゅう の核 かく などが含 ふく まれる。これらはすべて、多 おお くの化学 かがく 結合 けつごう を含 ふく んでいるが、識別 しきべつ 可能 かのう な分子 ぶんし でできているわけではない。
塩 しお や共有 きょうゆう 結合 けつごう 結晶 けっしょう については、グラフェン のように平面 へいめん 的 てき に、あるいはダイヤモンド 、石英 せきえい 、塩化 えんか ナトリウム のように3次元 じげん 的 てき に広 ひろ がる単位 たんい 格子 こうし の繰 く り返 かえ しで構成 こうせい されていることが多 おお く、典型 てんけい 的 てき な分子 ぶんし を定義 ていぎ することはできない。また、金属 きんぞく 結合 けつごう を伴 ともな う凝縮 ぎょうしゅく 相 しょう (固体 こたい または液体 えきたい )であるほとんどの金属 きんぞく にも、単位 たんい 格子 こうし 構造 こうぞう の繰 く り返 かえ しという論旨 ろんし は当 あ てはまる。したがって、固体 こたい 金属 きんぞく は分子 ぶんし でできているわけではない。ガラス は、ガラス質 しつ の無秩序 むちつじょ な状態 じょうたい で存在 そんざい する固体 こたい であり、原子 げんし は化学 かがく 結合 けつごう によって結合 けつごう しているが明確 めいかく な分子 ぶんし は存在 そんざい せず、塩 しお 、共有 きょうゆう 結合 けつごう 結晶 けっしょう 、金属 きんぞく を特徴 とくちょう づける単位 たんい 格子 こうし 構造 こうぞう を繰 く り返 かえ す規則 きそく 性 せい も存在 そんざい しない。
一般 いっぱん に、分子 ぶんし は共有 きょうゆう 結合 けつごう によって結 むす ばれている。いくつかの非金属 ひきんぞく 元素 げんそ は、自由 じゆう 原子 げんし としては存在 そんざい せず、環境 かんきょう 中 ちゅう では化合 かごう 物 ぶつ または等 とう 核 かく 分子 ぶんし としてのみ存在 そんざい するものがある。水素 すいそ はその例 れい である。
金属 きんぞく 結晶 けっしょう は、金属 きんぞく 結合 けつごう によってまとめられた1つの巨大 きょだい な分子 ぶんし と見 み なすことができると言 い う人 ひと もいれば[22] 、金属 きんぞく は分子 ぶんし とはまったく異 こと なるふるまいをすると指摘 してき する人 ひと もいる[23] 。
2つの水素 すいそ 原子 げんし が2つの電子 でんし を共有 きょうゆう してH2 (右 みぎ )を形成 けいせい する共有 きょうゆう 結合 けつごう を示 しめ す 共有 きょうゆう 結合 けつごう (covalent bond )は、原子 げんし と原子 げんし の間 あいだ で電子 でんし 対 たい (電子 でんし の組 くみ )を共有 きょうゆう する化学 かがく 結合 けつごう である。これらの電子 でんし 対 たい を「共有 きょうゆう 対 たい 」または「結合 けつごう 対 たい 」と呼 よ び、原子 げんし 間 あいだ で電子 でんし を共有 きょうゆう するときの引力 いんりょく と斥力 せきりょく (反発 はんぱつ 力 りょく )が安定 あんてい した均衡 きんこう をもたらす状態 じょうたい を「共有 きょうゆう 結合 けつごう 」と呼 よ ぶ[24] 。
ナトリウム とフッ素 ふっそ が酸化 さんか 還元 かんげん 反応 はんのう を起 お こしてフッ化 か ナトリウム を生成 せいせい する。ナトリウムは外側 そとがわ の電子 でんし を失 うしな って安定 あんてい した電子 でんし 配置 はいち になり、この電子 でんし は発熱 はつねつ 的 てき (英語 えいご 版 ばん ) にフッ素 ふっそ 原子 げんし に入 はい る。
イオン結合 けつごう (ionic bonding )は、逆 ぎゃく 荷電 かでん を持 も つイオン 間 あいだ で静 しずか 電 でん 引力 いんりょく を伴 ともな う化学 かがく 結合 けつごう の一種 いっしゅ で、イオン化合 かごう 物 ぶつ で生 しょう じる主要 しゅよう な相互 そうご 作用 さよう である。イオンとは、1つまたは複数 ふくすう の電子 でんし を失 うしな った原子 げんし (カチオン )と、1つまたは複数 ふくすう の電子 でんし を獲得 かくとく した原子 げんし (アニオン )のことである[25] 。このような電子 でんし の移動 いどう は、共有 きょうゆう 結合 けつごう とは対照 たいしょう 的 てき に「電気 でんき 原子 げんし 価 か (electrovalence )」と呼 よ ばれる。最 もっと も単純 たんじゅん なケースでは、カチオンは金属 きんぞく 原子 げんし 、アニオンは非金属 ひきんぞく 原子 げんし であるが、イオンの中 なか にはNH4 + やSO4 2− のような分子 ぶんし イオンのように、より複雑 ふくざつ な性質 せいしつ を持 も つものも存在 そんざい する。常温 じょうおん 常 つね 圧 あつ では、ほとんどの場合 ばあい 、イオン結合 けつごう は個別 こべつ に識別 しきべつ 可能 かのう な分子 ぶんし を持 も たない固体 こたい (場合 ばあい によっては液体 えきたい )を形成 けいせい するが、そのような物質 ぶっしつ が気化 きか /昇華 しょうか すると個別 こべつ の分子 ぶんし が生 しょう じる(結合 けつごう が(共有 きょうゆう 結合 けつごう ではなく)イオン結合 けつごう と見 み なされるだけの十分 じゅうぶん な電子 でんし が移動 いどう する)。
分子 ぶんし の化学 かがく 式 しき は、元素 げんそ 記号 きごう や数字 すうじ のほか、丸 まる かっこ、ダッシュ(')、角 かく かっこ([])、プラス(+)、マイナス(-)などの記号 きごう を用 もち いて1行 ぎょう で表示 ひょうじ する。これらは下 した 付 つ き文字 もじ と上 うえ 付 つ き文字 もじ を含 ふく むこともあり、活版 かっぱん 印刷 いんさつ の1行 ぎょう で表現 ひょうげん できるように制限 せいげん されている。
化合 かごう 物 ぶつ の実験 じっけん 式 しき は、非常 ひじょう に単純 たんじゅん な種類 しゅるい の化学 かがく 式 しき である。[29] これは、化合 かごう 物 ぶつ を構成 こうせい する化学 かがく 元素 げんそ の最 もっと も単純 たんじゅん な整数 せいすう 比 ひ のことである[30] 。たとえば、水 みず は常 つね に水素 すいそ 原子 げんし と酸素 さんそ 原子 げんし が2:1の比率 ひりつ で構成 こうせい され、エタノール (エチルアルコール)は常 つね に炭素 たんそ 、水素 すいそ 、酸素 さんそ が2:6:1の比率 ひりつ で構成 こうせい されている。ただし、これによって分子 ぶんし の種類 しゅるい を一意 いちい に決 き めるものではなく、たとえばジメチルエーテル はエタノールと同 おな じ比率 ひりつ である。同 おな じ原子 げんし を異 こと なる配置 はいち で持 も つ分子 ぶんし を異性 いせい 体 たい と呼 よ ぶ。また、たとえば炭水化物 たんすいかぶつ は同 おな じ比率 ひりつ (炭素 たんそ :水素 すいそ :酸素 さんそ =1:2:1。したがって実験 じっけん 式 しき も同 おな じ)を持 も つが、分子 ぶんし 内 ない の総 そう 原子 げんし 数 すう は異 こと なる。
分子 ぶんし 式 しき は、分子 ぶんし を構成 こうせい する原子 げんし の正確 せいかく な数 かず を反映 はんえい し、異 こと なる分子 ぶんし を特徴 とくちょう づける。ただし、異 こと なる異性 いせい 体 たい は、異 こと なる分子 ぶんし であっても、同 おな じ原子 げんし 組成 そせい を持 も つことがある。
実験 じっけん 式 しき と分子 ぶんし 式 しき が同 おな じであることがよくあるが、常 つね にそうとは限 かぎ らない。たとえば、アセチレン 分子 ぶんし の分子 ぶんし 式 しき はC2 H2 であるが、その元素 げんそ の最 もっと も単純 たんじゅん な整数 せいすう 比 ひ はCHである。
分子 ぶんし 量 りょう は、化学 かがく 式 しき から計算 けいさん することができ、中性 ちゅうせい 炭素 たんそ 12(12 C同位 どうい 体 たい )原子 げんし の質量 しつりょう の1/12に相当 そうとう する通常 つうじょう の原子 げんし 質量 しつりょう 単位 たんい で表 あらわ される。ネットワーク固体 こたい (英語 えいご 版 ばん ) の場合 ばあい 、化学 かがく 量 りょう 論 ろん 的 てき 計算 けいさん の際 さい に式 しき 単位 たんい (英語 えいご 版 ばん ) という用語 ようご を使用 しよう する。
テルペノイド 分子 ぶんし アチサンの3次元 じげん (左 ひだり 、中央 ちゅうおう )と2次元 じげん (右 みぎ )の分子 ぶんし モデル複雑 ふくざつ な3次元 じげん 構造 こうぞう を持 も つ分子 ぶんし 、特 とく に4つの異 こと なる置換 ちかん 基 もと と結合 けつごう した原子 げんし を含 ふく む分子 ぶんし では、単純 たんじゅん な分子 ぶんし 式 しき や示 しめせ 性 せい 式 しき でさえ、分子 ぶんし を完全 かんぜん に特定 とくてい できない場合 ばあい がある。そのような場合 ばあい には、構造 こうぞう 式 しき と呼 よ ばれるグラフィカルな式 しき が必要 ひつよう になることがある。構造 こうぞう 式 しき は一 いち 次元 じげん の化学 かがく 名 めい で表 あらわ すこともできるが、そうした化学 かがく 命名 めいめい 法 ほう (英語 えいご 版 ばん ) には化学 かがく 式 しき の一部 いちぶ に含 ふく まれない多 おお くの単語 たんご や用語 ようご が必要 ひつよう である。
(a)走査 そうさ 型 がた トンネル顕微鏡 けんびきょう (STM)の探 さがせ 針 はり に過剰 かじょう な電圧 でんあつ をかけることで、個々 ここ のH2 TPP 分子 ぶんし から水素 すいそ を除去 じょきょ することができる。この除去 じょきょ によって、同 おな じSTM探 さがせ 針 はり を用 もち いて測定 そくてい したTPP分子 ぶんし の電流 でんりゅう -電圧 でんあつ (I-V)曲線 きょくせん が、ダイオード のような曲線 きょくせん (bの赤 あか い曲線 きょくせん )から抵抗 ていこう のような曲線 きょくせん (緑 みどり の曲線 きょくせん )に変化 へんか する。画像 がぞう (c)は、TPP、H2 TPP、TPP分子 ぶんし が並 なら んだ列 れつ を示 しめ している。画像 がぞう (d) スキャンしながら、黒 くろ い点 てん の部分 ぶぶん でH2 TPPに過剰 かじょう な電圧 でんあつ をかけると、(d)の下部 かぶ と再 さい スキャン画像 がぞう (e)に示 しめ すように、瞬時 しゅんじ に水素 すいそ が除去 じょきょ された。このような操作 そうさ は、単一 たんいつ 分子 ぶんし エレクトロニクス に応用 おうよう することができる[32] 。
分子 ぶんし 分光 ぶんこう 法 ほう (ぶんしぶんこうほう、英 えい : molecular spectroscopy )は、エネルギー (プランクの公式 こうしき による周波数 しゅうはすう )が既知 きち のプローブ信号 しんごう に相互 そうご 作用 さよう する分子 ぶんし の応答 おうとう (スペクトル )を扱 あつか う分析 ぶんせき 手法 しゅほう である。分子 ぶんし はエネルギー準 じゅん 位 い が量子 りょうし 化 か されており、分子 ぶんし のエネルギー交換 こうかん を吸光 または発光 はっこう で検出 けんしゅつ することで分析 ぶんせき することができる[33] 。一般 いっぱん に分子 ぶんし 分光 ぶんこう 法 ほう は、中性子 ちゅうせいし ・電子 でんし ・高 こう エネルギーX線 せん などの粒子 りゅうし が(結晶 けっしょう のように)規則 きそく 的 てき に配置 はいち された分子 ぶんし と相互 そうご 作用 さよう する回折 かいせつ 研究 けんきゅう を指 さ すものではない。
マイクロ波 は 分光 ぶんこう 法 ほう は、分子 ぶんし の回転 かいてん の変化 へんか を測定 そくてい し、宇宙 うちゅう 空間 くうかん にある分子 ぶんし を識別 しきべつ するために一般 いっぱん に利用 りよう される。赤外線 せきがいせん 分光 ぶんこう 法 ほう は、分子 ぶんし の伸縮 しんしゅく 、屈曲 くっきょく 、ねじれなどの振動 しんどう を測定 そくてい する。これは、分子 ぶんし 内 ない の結合 けつごう や官能 かんのう 基 もと の種類 しゅるい を特定 とくてい するために一般 いっぱん に使用 しよう される。電子 でんし の配列 はいれつ の変化 へんか により、紫 むらさき 外 がい 光 こう 、可視 かし 光 こう 、または近 きん 赤 あか 外 がい 光 こう に吸収 きゅうしゅう 線 せん や輝線 きせん が生 しょう じ、色 いろ が発生 はっせい する。核 かく 磁気 じき 共鳴 きょうめい 分光 ぶんこう 法 ほう は、分子 ぶんし 内 ない の特定 とくてい の原子核 げんしかく の環境 かんきょう を測定 そくてい し、分子 ぶんし 内 ない の異 こと なる位置 いち にある原子 げんし の数 かず を特徴付 とくちょうづ けるために使用 しよう される。
分子 ぶんし 物理 ぶつり 学 がく や理論 りろん 化学 かがく による分子 ぶんし の研究 けんきゅう は、主 おも に量子力学 りょうしりきがく に基 もと づいており、化学 かがく 結合 けつごう を理解 りかい するうえで不可欠 ふかけつ である。最 もっと も単純 たんじゅん な分子 ぶんし は水素 すいそ 分子 ぶんし イオン H2 + であり、すべての化学 かがく 結合 けつごう の中 なか で最 もっと も単純 たんじゅん なものは1電子 でんし 結合 けつごう である。H2 + は正 せい 荷電 かでん の陽子 ようし 2個 こ と負荷 ふか 電 でん の電子 でんし 1個 いっこ で構成 こうせい され、電子 でんし 間 あいだ 反発 はんぱつ がないため、この系 けい のシュレーディンガー方程式 ほうていしき はより簡単 かんたん に解 と くことができる。高速 こうそく デジタルコンピューター の発達 はったつ により、より複雑 ふくざつ な分子 ぶんし に対 たい する近似 きんじ 解 かい が可能 かのう になり、計算 けいさん 化学 かがく の主要 しゅよう な一 いち 面 めん を担 にな っている。
IUPAC は、ある原子 げんし 配列 はいれつ が分子 ぶんし として「十分 じゅうぶん に安定 あんてい か」どうかを厳密 げんみつ に定義 ていぎ しようとする場合 ばあい 、「少 すく なくとも1つの振動 しんどう 状態 じょうたい を閉 と じ込 こ めるのに十分 じゅうぶん な深 ふか さのポテンシャルエネルギー曲面 きょくめん 上 うえ のくぼみに対応 たいおう する必要 ひつよう がある」と提案 ていあん している[4] 。この定義 ていぎ は、原子 げんし 間 あいだ の相互 そうご 作用 さよう の性質 せいしつ には依存 いぞん せず、相互 そうご 作用 さよう の強 つよ さのみに依存 いぞん する。実際 じっさい 、ヘリウム の二 に 量 りょう 体 からだ であるHe2 は、振動 しんどう 結合 けつごう 状態 じょうたい が1つで[34] 、結合 けつごう が非常 ひじょう に弱 よわ いため、極 ごく 低温 ていおん でしか観測 かんそく されない可能 かのう 性 せい があるが、こうした弱 よわ い結合 けつごう の種 たね も分子 ぶんし と見 み なされている。
原子 げんし の配列 はいれつ が「十分 じゅうぶん に安定 あんてい か」どうかは、本質 ほんしつ 的 てき には運用 うんよう 上 じょう の定義 ていぎ である。したがって、哲学 てつがく 的 てき には分子 ぶんし は基本 きほん 的 てき な実体 じったい ではなく(たとえば素粒子 そりゅうし と対照 たいしょう 的 てき )、むしろ分子 ぶんし という概念 がいねん は、化学 かがく 者 しゃ が、私 わたし たちが観察 かんさつ する世界 せかい における原子 げんし スケールでの相互 そうご 作用 さよう の強 つよ さについて、有用 ゆうよう な意見 いけん を述 の べる方法 ほうほう である。
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