(Translated by https://www.hiragana.jp/)
量子力学 - Wikipedia

量子力学りょうしりきがく

物理ぶつりがくいち分野ぶんやで、しゅとして分子ぶんし原子げんし、あるいはそれを構成こうせいする電子でんしなど、微視的びしてき物理ぶつり現象げんしょう記述きじゅつする

量子力学りょうしりきがくりょうしりきがくえい: quantum mechanics)は、一般いっぱん相対性理論そうたいせいりろんとも現代げんだい物理ぶつりがく根幹こんかん理論りろん分野ぶんやである[1][2]しゅとして、分子ぶんし原子げんしあるいはそれを構成こうせいする電子でんしなどを対象たいしょうとし、その微視的びしてき物理ぶつり現象げんしょう[3]記述きじゅつする力学りきがくである。

物理ぶつりがく
ウィキポータル 物理ぶつりがく
執筆しっぴつ依頼いらい加筆かひつ依頼いらい
物理学
物理ぶつりがく
ウィキプロジェクト 物理ぶつりがく
カテゴリ 物理ぶつりがく
どう表面ひょうめん楕円だえんじょう配置はいちされたコバルト原子げんし走査そうさがたトンネル顕微鏡けんびきょうにより観察かんさつ

量子力学りょうしりきがく自身じしん前述ぜんじゅつのミクロなけいにおける力学りきがく記述きじゅつする理論りろんだが、あつかけいをミクロなけい無数むすうあつまりとして解析かいせきすることによって、巨視的きょしてきけいあつかうこともできる。従来じゅうらいニュートン力学りきがくなどの古典こてんろんでは説明せつめい困難こんなんであった巨視的きょしてき現象げんしょうについて、量子力学りょうしりきがく明快めいかい理解りかいあたえるなどの成果せいかしめしてきた。たとえば、量子りょうし統計とうけい力学りきがくは、そのようなおう用例ようれいひとつである。生物せいぶつ宇宙うちゅうのようなあらゆる自然しぜん現象げんしょうも、その記述きじゅつ対象たいしょうとなり[4]

代表だいひょうてき量子力学りょうしりきがく理論りろんとして、つぎふたつの形式けいしきげられる。ひとつは、エルヴィン・シュレーディンガーによって創始そうしされたシュレーディンガー方程式ほうていしき基礎きそ波動はどう力学りきがくである。もうひとつはヴェルナー・ハイゼンベルクマックス・ボルンパスクアル・ヨルダンらによって構成こうせいされた、ハイゼンベルクの運動うんどう方程式ほうていしき基礎きそ行列ぎょうれつ力学りきがくである[5]。これらのふたつの形式けいしきは、ことなるひょうしき採用さいようしているが、数学すうがくてきには等価とうかであり、どちらも自然しぜんたいするただしい理解りかいあたえる(考察こうさつする対象たいしょうにとって利便りべんなものが適宜てきぎ使つかけられる)。

基礎きそ科学かがくにおいて重要じゅうようであるばかりでなく、現代げんだい様々さまざま応用おうよう科学かがく技術ぎじゅつといった発展はってん分野ぶんやにおいても必須ひっす分野ぶんやである[2]

たとえば科学かがく分野ぶんやについて、くろたい放射ほうしゃ高温こうおん物体ぶったい電磁波でんじは放出ほうしゅつ発光はっこう)の強度きょうど定量ていりょうてき説明せつめいすることに成功せいこうした(#歴史れきし)ほか、太陽たいよう表面ひょうめん黒点こくてん磁石じしゃくになっている現象げんしょうは、量子力学りょうしりきがくによってはじめて解明かいめいされた[6]

技術ぎじゅつ分野ぶんやについては、半導体はんどうたい利用りようする電子でんし機器きき設計せっけいなど、微細びさい微小びしょう領域りょういきかんするテクノロジーのほとんどは、量子力学りょうしりきがくをその技術ぎじゅつ基盤きばんてき理解りかいとして成立せいりつしている。工学こうがくうえおう用例ようれいとして、パソコン携帯けいたい電話でんわ[7]レーザー発振器はっしんきなどは量子力学りょうしりきがく応用おうよう開発かいはつされている[6]電子でんし工学こうがく量子力学りょうしりきがく不可分ふかぶんであり、とくちょう伝導でんどう量子力学りょうしりきがく基礎きそとしてその現象げんしょう理解りかいされている[8]。このように量子力学りょうしりきがく適用てきよう範囲はんいひろさは、現代げんだい生活せいかつのあらゆる分野ぶんやおよぶほど非常ひじょうおおきなものとなっている[9]

関連かんれんする研究けんきゅう領域りょういき

編集へんしゅう

現代げんだいてき立場たちばから量子りょうしろん俯瞰ふかんすると、基本きほん変数へんすうとして「粒子りゅうし剛体ごうたい古典こてん力学りきがくおなじもの(たとえば位置いち運動うんどうりょう)」をえらんだ量子りょうしろんを「量子力学りょうしりきがく」とんでいる[注釈ちゅうしゃく 1]。ここでは、スピンなどの古典こてんろんではりないものは適宜てきぎあらたな変数へんすうとしておぎなわれている。一方いっぽう基本きほん変数へんすうとして「とその時間じかん微分びぶんまたは共役きょうやく運動うんどうりょう」をえらんだ量子りょうしろん量子りょうしろんぶ。量子力学りょうしりきがくは、量子りょうしろんていエネルギー状態じょうたいかぎったとき近似きんじがたとしてられる[10]

科学かがく工学こうがく(あるいは基礎きそ応用おうよう)の観点かんてんから研究けんきゅう領域りょういきをみたとき、量子力学りょうしりきがく基礎きそとする応用おうよう理論りろん一般いっぱんして量子りょうし物理ぶつりがくぶことがある。これには物性ぶっせい物理ぶつりがくのほとんどの領域りょういき素粒子そりゅうし物理ぶつりがくかく物理ぶつりがくなど広範こうはん分野ぶんやぞくする。また、工学こうがくてき側面そくめん強調きょうちょうされる研究けんきゅうについては、量子りょうし工学こうがく場合ばあいがある。ナノテクノロジー半導体はんどうたいちょう伝導でんどう素材そざい基礎きそまたは応用おうよう研究けんきゅうなど、広範こうはん分野ぶんやぞくする。以上いじょうべたとおり、量子りょうし物理ぶつりがく量子りょうし工学こうがくという言葉ことばはいずれもかなり広範囲こうはんい領域りょういきふくみ、具体ぐたいてき研究けんきゅう対象たいしょうしめ必要ひつようがある場合ばあいは、さらに詳細しょうさい学術がくじゅつ分野ぶんやしめ術語じゅつごもちいられる。

基本きほんてき要請ようせい

編集へんしゅう

量子力学りょうしりきがくにおける基本きほんてき要請ようせいとその数理すうりてき表現ひょうげんについて以下いかべる(これについては、フォン・ノイマン量子力学りょうしりきがく数学すうがくてき基礎きそ以外いがいにも、伏見ふしみ康治こうじ電子でんしファイルを公開こうかいしている「かくりつ論及ろんきゅう統計とうけいろん」で整理せいりされている[11])。

シュレーディンガー方程式ほうていしきやハイゼンベルクの運動うんどう方程式ほうていしきによって量子力学りょうしりきがくてき問題もんだいあつか場合ばあいにおいては、物理ぶつりりょう作用素さようそ(さようそ、えい: operator)としてあつかわれる。量子力学りょうしりきがく個々ここ問題もんだいは、その基本きほん方程式ほうていしきかいとしてられる状態じょうたいによって特徴付とくちょうづけられ、理解りかいされる。ここでは、測定そくていされ物理ぶつりりょう具体ぐたいてきいは、対応たいおうする物理ぶつりりょう作用素さようそをある状態じょうたい作用さようさせることによってることができる。作用素さようそ演算えんざんともばれ、演算えんざんによって記述きじゅつされる量子力学りょうしりきがく様式ようしき演算えんざん形式けいしきばれる。作用素さようそおよび状態じょうたい一般いっぱんてき性質せいしつは、それらがたすべき物理ぶつりてき要請ようせいによってあたえられる。

量子力学りょうしりきがくにおいては、ある物理ぶつりりょう確定かくていした状態じょうたいをまずかんがえる。このとき、その物理ぶつりりょうたいする固有こゆう状態じょうたい(こゆうじょうたい、えい: eigenstate)とぶ。固有こゆう状態じょうたいは、物理ぶつりりょうあらわ作用素さようそ固有こゆう関数かんすう(こゆうかんすう、えい: eigenfunction)あるいは固有こゆうベクトルとして記述きじゅつされる。物理ぶつりりょうは、この固有こゆう関数かんすう(あるいは固有こゆうベクトル)に対応たいおうする固有値こゆうち(こゆうち、えい: eigenvalue)にむすけられる。ある物理ぶつりりょう確定かくていしない状態じょうたいも、以下いかのように固有こゆう状態じょうたい基盤きばん理解りかいされる。

あるけい物理ぶつりりょうかくりつ分布ぶんぷは、具体ぐたいてきけい状態じょうたいによって決定けっていされる。このかくりつ分布ぶんぷかんする規則きそくボルンの規則きそくばれる。このけい状態じょうたいはある物理ぶつりりょう固有こゆう状態じょうたいかさわせによってあらわすことができ、けいたいして複数ふくすう物理ぶつりりょうあたえられている場合ばあいは、それぞれの物理ぶつりりょうたいして、その固有こゆう状態じょうたい線型せんけい結合けつごうによってけい状態じょうたいあらわすこともできる。

物理ぶつりりょう作用素さようそ固有値こゆうち実数じっすうであることや、状態じょうたい固有こゆう状態じょうたいによる展開てんかいつね可能かのうなことは、物理ぶつりりょう対応たいおうする作用素さようそ自己じこ共役きょうやく作用素さようそ(じこきょうやくさようそ、えい: self-adjoint operator)であることに集約しゅうやくされる。量子力学りょうしりきがくでは観測かんそく測定そくてい古典こてんろんにもまして重要じゅうよう意味いみっているため、「物理ぶつりりょう」というような抽象ちゅうしょうてき呼称こしょうわりにオブザーバブルえい: observable)、「観測かんそく可能かのうなもの」とぶことがある。量子力学りょうしりきがくにおいて自己じこ共役きょうやく作用素さようそとなるべきものは、このオブザーバブルとされている。

ある物理ぶつりりょう測定そくていし、その測定そくてい場合ばあいに、すぐさまおな測定そくていつづけておこなうことをかんがえると、2かい測定そくていについてはその直前ちょくぜん測定そくていによって、測定そくていしたい物理ぶつりりょうかんするほとんどどう時刻じこくにおける完全かんぜん知識ちしきられている。そのため、2かい測定そくていは1かい測定そくていかなら一致いっちすることが期待きたいされる。測定そくていかんする状態じょうたい役割やくわりボルンの規則きそくによって規定きていされるべきであることから、この1かい測定そくていけい量子りょうし状態じょうたいは、測定そくてい対応たいおうする固有こゆう状態じょうたいになっていることが要求ようきゅうされる。 このことは、けい状態じょうたい波動はどう関数かんすうによってあらわせば、空間くうかんひろがっていた波動はどう関数かんすう測定そくていによって、ディラックのデルタ関数かんすうのようなあるいちてん局在きょくざいしたかたちへと瞬間しゅんかんてき収縮しゅうしゅくすることをしめしている。この現象げんしょうなみたば収縮しゅうしゅくばれ、なみたば収縮しゅうしゅくこすような測定そくてい射影しゃえい測定そくていばれる。また上述じょうじゅつ測定そくていかんする仮定かてい射影しゃえい仮説かせつ(しゃえいかせつ、えい: projection postulate)とぶ。

演算えんざん形式けいしき量子力学りょうしりきがくにおいては、じた有限ゆうげん自由じゆうけい純粋じゅんすい状態じょうたいあつかうにあたって、以下いかの5つを量子りょうしろん基本きほん原理げんりとしている。

ただし、量子力学りょうしりきがく基本きほん原理げんりあらわかたには、経路けいろ積分せきぶん形式けいしきなどもある[10]

古典こてん力学りきがくとの関係かんけい

編集へんしゅう

相違そういてん

編集へんしゅう

量子力学りょうしりきがくにおける、古典こてん力学りきがく相対性理論そうたいせいりろんニュートン力学りきがく)や古典こてんてき電磁気でんじきがくとのおおきなちがいとして、確定かくていせい原理げんり相補そうほせい原理げんりげられる。観測かんそく行為こういとそれによって記述きじゅつされる物体ぶったいけい状態じょうたいあつかいや、それによって要求ようきゅうされるかくりつてき現象げんしょう記述きじゅつは、古典こてんろんにはない相違そういである。事象じしょうかくりつてきにのみ記述きじゅつされるということは、ニュートン力学りきがくなどでっていたような「つよ意味いみでの因果律いんがりつ」がりたないことを意味いみする。より詳細しょうさいえば、量子力学りょうしりきがくにおいて因果律いんがりつとは、シュレーディンガー方程式ほうていしきによって記述きじゅつされる波動はどう関数かんすう時間じかんてき変化へんか因果いんがてきであることをいう[12]量子力学りょうしりきがくでは粒子りゅうしが「なみ」として記述きじゅつされる一方いっぽうで、ひかり電波でんぱのような電磁波でんじはなみとしての性質せいしつをもちろんしめす)にもまた粒子りゅうしとしての特徴とくちょうしめされている(光量子こうりょうし仮説かせつ[13]一般いっぱん観測かんそくさいしては、粒子りゅうしせい波動はどうせい同時どうじにはあらわれず、粒子りゅうしてきいをみた場合ばあいには波動はどうてき性質せいしつうしなわれ、ぎゃく波動はどうてきいをみる場合ばあいには粒子りゅうしてき性質せいしつうしなわれている。

量子力学りょうしりきがくおう用例ようれいとして古典こてんろん解決かいけつ問題もんだいあきらかにした事例じれいとしては、原子げんし安定あんていせいおおきさの一様いちようせいくろたい放射ほうしゃにおけるプランクの法則ほうそく説明せつめい[14]や、原子げんし分子ぶんしからなる気体きたい熱容量ねつようりょう決定けってい[15]などがげられる。

古典こてん対応たいおう

編集へんしゅう

古典こてん力学りきがくは、巨視的きょしてき極限きょくげんをとったさい量子力学りょうしりきがく近似きんじ理論りろんであり、たとえば以下いかのような量子力学りょうしりきがく基礎きそ方程式ほうていしき近似きんじによって古典こてんろんとの対応たいおう関係かんけいがみられている。

  1. いくつかの有力ゆうりょく模型もけいで、プランク定数ていすうを 0 とみなせば古典こてん力学りきがく等価とうかになる
  2. シュレーディンガー方程式ほうていしき期待きたいることで、運動うんどう方程式ほうていしきられる
  3. 一方いっぽう反対はんたい古典こてん力学りきがくにおける物理ぶつりりょう量子りょうしすることで量子力学りょうしりきがくられる
ボーアの対応たいおう原理げんり
ボーアの対応たいおう原理げんりにより、古典こてん力学りきがくは「プランク定数ていすう充分じゅうぶんちいさな場合ばあい量子力学りょうしりきがく極限きょくげん」として位置付いちづけられている。
エーレンフェストの定理ていり
ポテンシャル空間くうかん微分びぶん古典こてんてきにはちから対応たいおうするもの)の空間くうかんてき変化へんかがゆっくりで、波動はどう関数かんすうひろがっている範囲はんい一定いってい近似きんじできるならば、シュレーディンガー方程式ほうていしき期待きたいることで運動うんどう方程式ほうていしきられる。すなわち、位置いち期待きたい運動うんどうりょう期待きたい古典こてん力学りきがくにおける運動うんどう方程式ほうていしきであるハミルトン方程式ほうていしきたす。

量子力学りょうしりきがく解釈かいしゃく問題もんだい

編集へんしゅう

量子力学りょうしりきがく観測かんそく

編集へんしゅう

量子力学りょうしりきがくでは対象たいしょう状態じょうたいかさわせとして記述きじゅつし、観測かんそくによってひとつの状態じょうたいがあるかくりつ実現じつげんする。この枠組わくぐみは、それ以前いぜんまでにはぐくまれていた客観きゃっかんてき実在じつざい想定そうていする決定けっていろんてき記述きじゅつ見直みなお契機けいきとなり、量子力学りょうしりきがく解釈かいしゃく問題もんだい重要じゅうようなテーマとなった。じたけいあつか標準ひょうじゅんてき解釈かいしゃくでは、量子力学りょうしりきがく古典こてん物理ぶつりがくとはことなり、対象たいしょうとする量子りょうしけい外部がいぶ観測かんそくしゃえい: observer)を必要ひつようとする理論りろん構成こうせいとなっている[16]。ここでは、観測かんそくしゃひとでも装置そうちでもよく、量子りょうしけい観測かんそくしゃ境界きょうかい任意にんい設定せっていできる[17]

コペンハーゲン解釈かいしゃくにおいては、観測かんそくおこなわれると、状態じょうたい記述きじゅつする波動はどう関数かんすうひとつの状態じょうたい収縮しゅうしゅくする。上記じょうき標準ひょうじゅん解釈かいしゃくでは、観測かんそくという行為こういがいつどのように量子りょうしけい影響えいきょうあたえて、その状態じょうたい実現じつげんしたのかについては定義ていぎされない。たとえば、有名ゆうめいシュレーディンガーのねこ思考しこう実験じっけんでは、観測かんそくとはどの時点じてんのことをすのか、粒子りゅうし検出けんしゅつ反応はんのうした時点じてんなのか、どくガスが発生はっせいした時点じてんか、それをねこ時点じてんか、はこけられた時点じてんか、はこけたひとねこ時点じてんか…、といったどの時点じてん観測かんそく成立せいりつするのかは標準ひょうじゅん解釈かいしゃくではまっていない。どの時点じてん観測かんそくきるのか、どこまでを量子りょうしけいとするのかは、測定そくていしゃ任意にんい設定せっていできる。

一方いっぽうで、アインシュタインは「量子力学りょうしりきがくでは記述きじゅつされていないが、実際じっさいにその状態じょうたい実現じつげんさせた変数へんすう存在そんざいするはずである」と主張しゅちょうした(局所きょくしょてきかくれた変数へんすう理論りろん)。かくれた変数へんすう理論りろん数学すうがくてきりたないことがフォン・ノイマンによって証明しょうめいされたが、のちに、その証明しょうめい使つかわれた仮定かていあやまりがあることがかった。ただし局所きょくしょてきかくれた変数へんすう理論りろんは、量子力学りょうしりきがくとはことなる結論けつろんすことがベルの不等式ふとうしきによってしめされ、実験じっけん検証けんしょうによって棄却ききゃくされた。量子力学りょうしりきがくおな結論けつろんす、かくれた変数へんすう理論りろん存在そんざいするが、局所きょくしょてきである(クラスター分解ぶんかいせいたない)。

量子力学りょうしりきがく意識いしき

編集へんしゅう

シュレディンガー方程式ほうていしきから状態じょうたい収縮しゅうしゅくみちびくことができないことはフォン・ノイマン証明しょうめいした。すなわち、標準ひょうじゅん解釈かいしゃくには状態じょうたい収縮しゅうしゅくこす物理ぶつりてき機構きこうがない。 ノイマンは、量子りょうしけい観測かんそくしゃ境界きょうかいを、観測かんそくしゃのうと「主観しゅかんてき知覚ちかく」のあいだにくこともできるとろんじた[17]ユージン・ウィグナー状態じょうたい収縮しゅうしゅく意識いしきによってきると主張しゅちょうし、これに関連かんれんして「ウィグナーの友人ゆうじんのパラドックス」[18]提出ていしゅつした。これはシュレーディンガーのねこ変形へんけいである。ここでは、どくガス発生はっせいはランプにえられ、ねこわりにウィグナーの友人ゆうじんはこれる。はこそと人間にんげんが「友人ゆうじん」から観測かんそく結果けっからされたとき、はこそと人間にんげん観測かんそくする時点じてん観測かんそくおこなわれたとすべきか、はこなかの「友人ゆうじん」がすで観測かんそくおこなっているとすべきか。この思考しこう実験じっけんは、観測かんそくおこな主体しゅたいが「意識いしき」を人間にんげんであるか、あるいはねこであるか、あるいは無生物むせいぶつであるかによって、現象げんしょう区別くべつされるのかという問題もんだい意識いしきからまれた。に、ロジャー・ペンローズ意識いしきしん量子力学りょうしりきがく関連かんれんさせてろんじている(量子りょうしのう理論りろん[19]。ただし、量子力学りょうしりきがく意識いしきむすける物理ぶつり学者がくしゃ少数しょうすうである。

量子力学りょうしりきがく論理ろんりがく

編集へんしゅう

フォン・ノイマンらによる量子力学りょうしりきがく形式けいしき量子力学りょうしりきがく数学すうがくてき基礎きそ)に関連かんれんして、「観測かんそく」を命題めいだいとみなした量子りょうし論理ろんりもある。「観測かんそく」の性質せいしつ反映はんえいし、古典こてん論理ろんり法則ほうそくのうち分配ぶんぱいりつりたないなどのてんちがいがある。

量子りょうしコンピュータ

編集へんしゅう

計算けいさんなか信号しんごう媒体ばいたい状態じょうたいは、本来ほんらい量子力学りょうしりきがくてき記述きじゅつされるはずであり、0 または 1 の2(1ビット)ではなく、 0 と 1 がそれぞれのかくりつかさねあわされた途中とちゅうつことがありうる。この量子りょうしろんてき状態じょうたいを1量子りょうしビット (qubit) とぶ。ここで複数ふくすうのqubitを量子りょうしもつれ状態じょうたいにすることにより、様々さまざまかずあらわ状態じょうたいがそれぞれのかくりつかさわされた状態じょうたい実現じつげんすることができる。量子りょうしもつれをこわさないユニタリー変換へんかん活用かつようしてそれぞれのかくりつおもみを変化へんかさせることで演算えんざんおこなうと、特定とくてい問題もんだいについて古典こてん計算けいさんでは実現じつげんない計算けいさん速度そくど実現じつげんできる。

このなかには素因数そいんすう分解ぶんかいふくまれており、Shorのアルゴリズムにより素因数そいんすう分解ぶんかい多項式たこうしき時間じかんけることが証明しょうめいされている。RSA暗号あんごうおおきな桁数けたすう素因数そいんすう分解ぶんかい事実じじつじょう不可能ふかのうであること前提ぜんていとして成立せいりつしているため、楕円だえん曲線きょくせん暗号あんごう離散りさん対数たいすう問題もんだいふくめた前提ぜんてい量子りょうしコンピュータがくずすことになっている。

量子りょうしろん直接的ちょくせつてきなはじまりは、くろたい放射ほうしゃ分光ぶんこう放射ほうしゃ輝度きどかんするマックス・プランク研究けんきゅうられ、量子りょうし仮説かせつ導入どうにゅう統計とうけい力学りきがくからプランクの法則ほうそくさい導出どうしゅつした1900ねん12月の論文ろんぶん[20]発表はっぴょうしている。ただし、この時点じてんでは今日きょうられるような形式けいしき量子力学りょうしりきがくられておらず、量子力学りょうしりきがく数学すうがくてきあつかいが整備せいびされるのは1925ねん以降いこうヴェルナー・ハイゼンベルク行列ぎょうれつ力学りきがくエルヴィン・シュレーディンガー波動はどう力学りきがく登場とうじょうによる[21]

20世紀せいき初頭しょとうまでしめされていた物理ぶつりがく基礎きそ決定けっていろんで、物体ぶったい運動うんどうはある初期しょきしたがって完全かんぜんさだまるとかんがえられていた。ねつ力学りきがく力学りきがく立場たちばから説明せつめいする目的もくてきで、ルートヴィッヒ・ボルツマンらによって統計とうけい力学りきがく理論りろん形成けいせいされていたが、その基礎きそ古典こてん力学りきがくで、統計とうけい力学りきがくにおけるかくりつてき事象じしょうけい統計とうけいてき性質せいしつだった。 一方いっぽうで、おなじく20世紀せいき初頭しょとう建設けんせつされていった量子力学りょうしりきがくは、次第しだい決定けっていろんてき性格せいかくびたものであることもしめされ、量子力学りょうしりきがくしん決定けっていろんであるか、あるいは量子力学りょうしりきがくわる決定けっていろんてき理論りろん存在そんざいるかなどといった議論ぎろんしょうじ、量子力学りょうしりきがく理論りろん形式けいしき解釈かいしゃくをめぐり論争ろんそう展開てんかいされた[22]量子力学りょうしりきがく形成けいせいされる初期しょきにおいて、従来じゅうらいニュートン力学りきがく相対性理論そうたいせいりろんことなり、物体ぶったい時空じくううえさだまった軌道きどうをとらないが、実験じっけんにおいてはウィルソンのきりばこなどを利用りようすることで粒子りゅうし軌跡きせきることができ、かけじょう古典こてんてき運動うんどう実現じつげんされていることが指摘してきされた[23]。この粒子りゅうし飛跡ひせき説明せつめいする過程かていで、ハイゼンベルクにより確定かくていせい原理げんり発見はっけんされ、粒子りゅうし飛跡ひせき問題もんだいについて正当せいとうせいのある物理ぶつりてき解釈かいしゃくられるようになった。確定かくていせい原理げんりによれば、物体ぶったい位置いち運動うんどうりょう両方りょうほうさだめることができず、位置いち精度せいどよくさだめるほど、運動うんどうりょう正確せいかくには決定けっていできなくなる[24]。しかし、位置いち運動うんどうりょう確定かくていせいせきプランク定数ていすう程度ていどおおきさになり、きりばこ実験じっけんにおいては位置いち運動うんどうりょう充分じゅうぶん精度せいど測定そくていすることができ、粒子りゅうし連続れんぞくてき運動うんどうしているようにえることについて説明せつめいけられている。

ハイゼンベルクによってしめされた確定かくていせい関係かんけい解釈かいしゃく適用てきよう範囲はんいについても議論ぎろんつづけられている。ニールス・ボーアアルベルト・アインシュタイン討論とうろんでは、ベルギーのブリュッセルにおいて1927ねん10月24にちひらかれただい5かいソルヴェイ会議かいぎはじまりに[25]1940年代ねんだいすえまで断続だんぞくてきつづけられた[26]。この議論ぎろんなかでは1935ねんアインシュタインらによる実在じつざいせい定義ていぎ提示ていじされ[27]量子力学りょうしりきがくにおける実在じつざいせい局所きょくしょせい研究けんきゅうおこなわれるきっかけとなっている。

前期ぜんき量子りょうしろん

編集へんしゅう

前期ぜんき量子りょうしろん(ぜんきりょうしろん)とは古典こてん力学りきがく統計とうけい力学りきがく)の時代じだいから、ハイゼンベルク、シュレーディンガーとうによる本格ほんかくてき量子力学りょうしりきがく構築こうちくはじまるまでの、過渡かとあらわれた量子りょうし効果こうかかんしての一連いちれん理論りろんをいう[21]

量子力学りょうしりきがく成立せいりつ以前いぜん物理ぶつりがくにおいて、物体ぶったい運動うんどうニュートンの運動うんどう方程式ほうていしきによって説明せつめいされていた。18世紀せいき産業さんぎょう革命かくめいがはじまるとニュートン力学りきがくはただちに機械きかい工学こうがく応用おうようされはじめた。毛織物けおりものなどの軽工業けいこうぎょう鉱山こうざんでの採掘さいくつなどでもちいるために蒸気じょうき機関きかん発明はつめいされると、ねつ機関きかん改良かいりょうにともなってねつ力学りきがく発展はってんした。やがて、ニュートン力学りきがくによってねつ力学りきがく説明せつめいするこころみによって初期しょき統計とうけい力学りきがく構築こうちくされた。また、19世紀せいきになって電磁気でんじき現象げんしょう理論りろん体系たいけい形成けいせいされ、光学こうがくてき現象げんしょう空間くうかん電磁場でんじば振動しんどう、すなわち電磁波でんじはによって説明せつめいされるようになった。

産業さんぎょう革命かくめいがやがて製鉄せいてつなどの重工業じゅうこうぎょうひろがりをみせるとグスタフ・キルヒホフ溶鉱炉ようこうろ研究けんきゅうから1859ねんくろたい放射ほうしゃ発見はっけんした。くろたい放射ほうしゃスペクトル理論りろんてき研究けんきゅうは、統計とうけい力学りきがくむすびつくことによって量子力学りょうしりきがく基礎きそとなる理論りろんあたえ、最終さいしゅうてきマックス・プランクによってプランク分布ぶんぷ発見はっけんされた(エネルギー量子りょうし仮説かせつ1900ねん発表はっぴょう)。物理ぶつりてきくろたい放射ほうしゃをプランク分布ぶんぷ説明せつめいするためには、くろたい電磁波でんじは放出ほうしゅつする(電気でんき双極そうきょく振動しんどうする)ときの振動しんどうのエネルギーが離散りさんてきをとることを仮定かていとされている(量子りょうし概念がいねんプランク定数ていすう導入どうにゅう詳細しょうさいくろたい放射ほうしゃこう参照さんしょう)。

マイケル・ファラデーカール・フリードリヒ・ガウス幾何きかがくてき考察こうさつから見出みいだした電磁でんじりょくかんする法則ほうそくジェームズ・クラーク・マクスウェル1864ねんマクスウェルの方程式ほうていしきとしてまとめ、電磁波でんじは存在そんざい予想よそうした。この予想よそうもとづいて1887ねんハインリヒ・ヘルツ電磁波でんじは実証じっしょう実験じっけん成功せいこうし、無線むせん発明はつめい基礎きそあたえた。さらに、この実験じっけんなかのち量子力学りょうしりきがく端緒たんしょのひとつとなったひかりでん効果こうか発見はっけんした。ひかりでん効果こうかはそのフィリップ・レーナルトらによって実験じっけんてき研究けんきゅうすすめられた。

1905ねんアルベルト・アインシュタインは、プランクのもちいた量子りょうし概念がいねんもちいて、電磁波でんじは粒子りゅうしとしての性質せいしつがあること(光量子こうりょうし仮説かせつ)を発表はっぴょうした。1923ねんアーサー・コンプトン電子でんしによるXせん散乱さんらんにおいてコンプトン効果こうか発見はっけんしたことで有力ゆうりょく証拠しょうこた(詳細しょうさい光量子こうりょうし仮説かせつこう参照さんしょう)。

1924ねんルイ・ド・ブロイは、アインシュタインが1905ねん発表はっぴょうした光量子こうりょうし仮説かせつもとづいて、ひかり粒子りゅうしのようにうように、物質ぶっしつなみのようにうという仮説かせつて、粒子りゅうし運動うんどうりょう物質ぶっしつ波長はちょうむすびつけた。ド・ブロイの仮説かせつ正当せいとうせいのちに、1927ねんデイヴィソン=ガーマーの実験じっけんによってしめされた[28]金属きんぞく結晶けっしょうによる電子でんしせん回折かいせつ確認かくにんする実験じっけんは、クリントン・デイヴィソンレスター・ガーマーらのほかに、1927ねんジョージ・パジェット・トムソンによってもおこなわれており、デイヴィソンとパジェット・トムソンはこの功績こうせきにより1937ねんノーベル物理ぶつりがくしょうている。1928ねんには日本にっぽん菊池きくちただし雲母うんも薄膜うすまくによる電子でんしせん干渉かんしょう現象げんしょう観察かんさつし、電子でんし波動はどうせいをもっていることをしめしている。

原子げんしモデルおよび元素げんそのスペクトルについての議論ぎろん量子力学りょうしりきがく重要じゅうよう知見ちけんあたえ、ファラデーが電気でんき分解ぶんかい実験じっけんによってイオン存在そんざい指摘してきし、やがて荷電かでん粒子りゅうしによって原子げんし構成こうせいされていることがみとめられるようになった。 1911ねんアーネスト・ラザフォードは、ガイガー=マースデンの実験じっけんからられた結果けっかもとに、ラザフォードの原子げんし模型もけいとしてあらたな原子げんし構造こうぞうのモデルを提案ていあんした[29]。1911ねん論文ろんぶんにおいてラザフォードは、ガイガーとマースデンによっておこなわれた散乱さんらん実験じっけんについて検討けんとうし、原子げんし中心ちゅうしん集中しゅうちゅうしたちいさな原子核げんしかくとその周囲しゅういまわ電子でんしによって構成こうせいされると結論けつろんした。ただし、ラザフォードのモデルは既存きそん電磁気でんじきがく古典こてん力学りきがくからられる結論けつろん両立りょうりつせず、古典こてんてき電気でんき力学りきがく定理ていりをラザフォードの原子げんし適用てきようすると、原子核げんしかくによって加速かそくされた電子でんしは、そのエネルギー運動うんどうりょう電磁波でんじはとして放出ほうしゅつしてうしなうから、結果けっかてき原子げんしすみやかに崩壊ほうかいしてしまうことが指摘してきされた[30][31]

1913ねん、ニールス・ボーアはラザフォードらによってられた原子げんし構造こうぞうと、それ以前いぜんから報告ほうこくされていた原子げんしのスペクトルせんかんする結果けっかから、原子げんし束縛そくばくされた電子でんしはある定常ていじょう状態じょうたいにあって、定常ていじょう状態じょうたい電子でんし電磁波でんじは放出ほうしゅつせず、原子げんしのスペクトルせん周波数しゅうはすう電子でんしことなる定常ていじょう状態じょうたい遷移せんいするさいしょうじるエネルギーじゅんによって決定けっていされる、という仮定かていみちびした[32]。このモデルはボーアの原子げんし模型もけいばれている。ボーアは定常ていじょう状態じょうたいかんする仮定かていから、水素すいそ原子げんし問題もんだいかんする量子りょうし条件じょうけんた。この量子りょうし条件じょうけんボーアの量子りょうし条件じょうけんえい: Bohr's quantum condition)とばれ、原子げんし定常ていじょう状態じょうたい実現じつげんるためには水素すいそ原子核げんしかくまわりを運動うんどうする束縛そくばく電子でんしかく運動うんどうりょう換算かんさんプランク定数ていすう整数せいすうばいになっていなければならず、のちにド・ブロイの物質ぶっしつ導入どうにゅうすることで電子でんし軌道きどうじょう定常波ていじょうは条件じょうけんとされるようになった。

1915ねんから1916ねんにかけてアルノルト・ゾンマーフェルトによってボーアの方法ほうほう拡張かくちょうされた[33]。ゾンマーフェルトによる量子りょうし条件じょうけんボーア=ゾンマーフェルトの量子りょうし条件じょうけんとしてられる。ゾンマーフェルトはボーアの理論りろんをニュートン力学りきがく形式けいしきから解析かいせき力学りきがくせいじゅん形式けいしきえ、ひとつのエネルギーじゅんたいして、ボーアの円軌道えんきどうほか楕円だえん軌道きどうをとる束縛そくばく電子でんし存在そんざいすることがしめされた。これにより磁場じばなか原子げんしのスペクトルが分裂ぶんれつするという正常せいじょうゼーマン効果こうかは、おなじエネルギーじゅんことなる電子でんし軌道きどうが、磁場じばによって別々べつべつのエネルギーじゅんつことが判明はんめいした。

ボーアのモデルについて、1917ねんアルベルト・アインシュタイン原子核げんしかく崩壊ほうかいからの類推るいすいによって電子でんし原子核げんしかくけいである原子げんし状態じょうたい遷移せんいかくりつてきこるというモデルを導入どうにゅうした。アインシュタインは、自身じしんのモデルと古典こてんてき統計とうけい力学りきがくわせることにより、原子げんし集団しゅうだんねつ放射ほうしゃのエネルギー分布ぶんぷとしてプランクの公式こうしきられることをしめした[34][35]

1920ねん、ゾンマーフェルトはアルカリなどにおけるスペクトルの多重たじゅう構造こうぞう異常いじょうゼーマン効果こうか説明せつめいするために、かく運動うんどうりょうかんするはん整数せいすう量子りょうしすうあらたに導入どうにゅうした[36]。この原子げんしあらたなかく運動うんどうりょう説明せつめいする理論りろんとして、原子げんししんかく運動うんどうりょうつというモデルが考案こうあんされた。1921ねんアルフレート・ランデ英語えいごばんはこの磁気じきしんモデルにもとづいて量子りょうしろんてきかく運動うんどうりょう合成ごうせいそくみちびき、また1923ねんには異常いじょうゼーマン効果こうかあたえる公式こうしきみちびいた[37]異常いじょうゼーマン効果こうか説明せつめいするにあたり、ランデはg因子いんしばれる因子いんし導入どうにゅうし、その正確せいかくに「2」であることをべた[38]

一方いっぽうヴォルフガング・パウリ磁気じきしんモデルのように原子げんししんかく運動うんどうりょうつのではなく、軌道きどう電子でんし古典こてんてき「2」せいによって異常いじょうゼーマン効果こうかこるという見方みかたしめし、1924ねん12月に排他はいた原理げんりばれる量子りょうしろん古典こてんてき原理げんり[39]。このパウリの「2」せいについて、1925ねんラルフ・クローニッヒ電子でんし自転じてんむすびつけるアイデアをしめしたが、パウリはクローニッヒのモデルを現実げんじつてきなものとしてれなかった[40]電子でんし古典こてんてき自転じてん運動うんどうをするというモデルには、電子でんし自転じてんするさいつべきかく運動うんどうりょうおおきさを実現じつげんするためには電子でんし表面ひょうめん速度そくど光速こうそくえていなければならないという困難こんなんがあった)。1925ねんサミュエル・ハウシュミットジョージ・ウーレンベックはクローニッヒと同様どうよう電子でんし自転じてんモデルをかんがえ、「電子でんし軌道きどうかく運動うんどうりょうほか量子りょうしされたかく運動うんどうりょうち、ある方向ほうこうについて上向うわむきと下向したむきの 2 つの自由じゆうつ」とし、磁気じきしんモデルにもとづくランデの計算けいさんさい評価ひょうかおこなった。 この電子でんしあらたなかく運動うんどうりょうスピンかく運動うんどうりょうばれている。1921ねん磁気じきモーメント量子りょうし確認かくにんする目的もくてきおこなわれたシュテルン=ゲルラッハの実験じっけんにおいて、均一きんいつ磁場じばとおしたぎん原子げんしせんが2つに分岐ぶんきする現象げんしょうはこのスピンかく運動うんどうりょう自由じゆうによって説明せつめいされている[41]

量子力学りょうしりきがく完成かんせい

編集へんしゅう
 
量子力学りょうしりきがく発展はってん貢献こうけんした科学かがくしゃたちだい5かいソルベー会議かいぎ(1927ねん)にて。

1925ねんヴェルナー・ハイゼンベルク最初さいしょ統一とういつてき量子力学りょうしりきがく理論りろんとして、それまでの量子りょうしろんにおける状態じょうたい遷移せんいかんする規則きそく一般いっぱんし、位置いちのような運動うんどうがくてきりょうと、運動うんどうりょうのような力学りきがくてきりょうむすびつけた。このハイゼンベルクの方法ほうほうは、マックス・ボルンパスクアル・ヨルダンポール・ディラック、そしてハイゼンベルク自身じしんによって発展はってんされ、同年どうねんの1925ねん行列ぎょうれつ力学りきがくとして定式ていしきされた[42]。ハイゼンベルクらによって、量子力学りょうしりきがくかわ代数だいすうとして認識にんしきされるようになった。

ド・ブロイが提案ていあんした物質ぶっしつ概念がいねん発展はってんさせるこころみから、ピーター・デバイ指摘してきうながされ、シュレーディンガーは1926ねんシュレーディンガー方程式ほうていしきいたった[43]おなじく1926ねんに、シュレーディンガーはハイゼンベルクらによる行列ぎょうれつ力学りきがく自身じしん波動はどう力学りきがく対応たいおう関係かんけいしめし、両者りょうしゃ理論りろん数学すうがくてき等価とうかであることをしめした[44]。シュレーディンガーによって、ド・ブロイがえがいた物質ぶっしつ波動はどうてき描像が明確めいかくしめされた。しかし、当初とうしょド・ブロイやシュレーディンガーがおもえがいたような空間くうかんひろまった物質ぶっしつ波動はどうという描像は、波動はどう関数かんすうはい空間くうかん英語えいごばんうえうごなみであってじつ空間くうかんじょう波動はどうではないことなどから否定ひていてきにもられている[45]

1926ねんのシュレーディンガーの発表はっぴょうけて、ボルンはおなねん波動はどう関数かんすうかくりつ解釈かいしゃく提示ていじした。ボルンがしめした要請ようせいボルンの規則きそくばれている。

ハイゼンベルクらによって発展はってんされた行列ぎょうれつ力学りきがくと、シュレーディンガーらによって形成けいせいされた波動はどう力学りきがくは、いずれも演算えんざん形式けいしき相対そうたいろんてき量子力学りょうしりきがくにおける特別とくべつ形式けいしきひとつである。時間じかん発展はってん役割やくわり演算えんざんわせた形式けいしきハイゼンベルク描像といい、ハイゼンベルク描像における量子力学りょうしりきがく基本きほん方程式ほうていしきハイゼンベルクの運動うんどう方程式ほうていしきぶ。同様どうよう状態じょうたいベクトル時間じかん発展はってんとして量子りょうしけいえがく描像をシュレーディンガー描像といい、シュレーディンガー描像における基本きほん方程式ほうていしきシュレーディンガー方程式ほうていしきぶ。あるいは、状態じょうたいベクトルを固有こゆう状態じょうたい展開てんかいしたさい、その固有こゆう状態じょうたい係数けいすうとしてあらわれる波動はどう関数かんすう時間じかん発展はってん方程式ほうていしきもシュレーディンガー方程式ほうていしきばれる。本来ほんらい、シュレーディンガーが見出みいだした形式けいしき波動はどう関数かんすうかんするものである。

1927ねんにはハイゼンベルクによって確定かくていせい原理げんりしめされた。ボーアは、確定かくていせい原理げんり基礎きそとして量子力学りょうしりきがく物理ぶつりてき解釈かいしゃく構築こうちくし、相補そうほせい概念がいねん導入どうにゅうすることで量子力学りょうしりきがく物理ぶつりてき基礎きそづけをこころみた。ボーアにはじまる、確定かくていせいかくりつ解釈かいしゃく統合とうごうする物理ぶつりてきな描像はコペンハーゲン解釈かいしゃくとされている。量子力学りょうしりきがく解釈かいしゃくについてはおおきな議論ぎろんこり、かくりつ解釈かいしゃくきらったアインシュタインは「かみはサイコロをらない」とした。

ハイゼンベルクやシュレーディンガーらによってしめされた量子力学りょうしりきがく相対そうたいろんてき理論りろんで、相対そうたいろんてき量子力学りょうしりきがく定式ていしきはシュレーディンガーが波動はどう力学りきがく模索もさくするにあたり、相対そうたいろんてき理論りろん構築こうちくする以前いぜんこころみられていたが、既存きそん結果けっか一致いっちするものはられていなかった。相対そうたいろんてき形式けいしきとして、1926ねんクライン=ゴルドン方程式ほうていしきしめされたが、クライン=ゴルドン方程式ほうていしきスピンかく運動うんどうりょうふくまず、波動はどう関数かんすうかくりつ解釈かいしゃく適用てきようするには、かくりつまけになるという困難こんなんがあった。 1928ねんの1がつポール・ディラッククリフォード代数だいすう導入どうにゅうすることにより、かくりつまけにならない相対そうたいろんてき量子力学りょうしりきがく構成こうせいした。ディラックがみちびいた方程式ほうていしきディラック方程式ほうていしきばれている。

また、ディラックは1939ねんブラ-ケット記法きほう導入どうにゅうした。ディラックにちなみブラ-ケット記法きほうディラック記法きほうえい: Dirac notation)ともばれている。ブラ-ケット記法きほうとは、ヒルベルト空間くうかんのようなある空間くうかんじょう状態じょうたいベクトルをケットえい: ket)、その双対そうつい空間くうかんじょうのベクトルをブラえい: bra)であらわ記法きほうのことで、ブラとケットの自然しぜんせきとして波動はどう関数かんすう内積ないせきなどを簡潔かんけつかつ視覚しかくてきしめ目的もくてき利用りようされる。

ジョン・フォン・ノイマンらにより、量子力学りょうしりきがく数学すうがくてき厳密げんみつ形式けいしき基礎きそ確立かくりつされた(『量子力学りょうしりきがく数学すうがくてき基礎きそ』(1932) )。

量子力学りょうしりきがく完成かんせい以降いこう発展はってん応用おうよう

編集へんしゅう

量子力学りょうしりきがく定式ていしきおこなわれるようになって、現代げんだい物理ぶつりがくでは量子力学りょうしりきがくとアインシュタインの相対性理論そうたいせいりろんもっと一般いっぱんてき物理ぶつりがく基礎きそ理論りろんであるとかんがえられるようになった。その電磁でんじ相互そうご作用さよう重力じゅうりょく相互そうご作用さよう量子力学りょうしりきがくむことがもとめられるようになった。それぞれ、特殊とくしゅ相対性理論そうたいせいりろん一般いっぱん相対性理論そうたいせいりろん量子力学りょうしりきがく橋渡はしわたしをしてひとつの定式ていしきされた理論りろん目指めざすことに相当そうとうする。

1950ねんだいリチャード・ファインマンフリーマン・ダイソンジュリアン・シュウィンガー朝永あさなが振一郎しんいちろうらによって量子りょうし電磁でんじ力学りきがく構築こうちくされた。量子りょうし電磁でんじ力学りきがく(りょうしでんじりきがく、えい: Quantum electrodynamics: QED)とは、電子でんしはじめとする荷電かでん粒子りゅうしあいだ電磁でんじ相互そうご作用さよう量子りょうしろんてき記述きじゅつする理論りろんである。一方いっぽう量子力学りょうしりきがく一般いっぱん相対性理論そうたいせいりろんわせた理論りろん量子りょうし重力じゅうりょく理論りろん)は、いまだ完成かんせいされていない。

さらに素粒子そりゅうし物理ぶつりがく発展はってんによって従来じゅうらいかんがえられていなかった電磁でんじりょく重力じゅうりょく以外いがい基本きほん相互そうご作用さようみとめられるようになった。量子りょうししょく力学りきがく研究けんきゅうされるようになり、1960ねんだい初頭しょとうからはじまる。今日きょうられるよう理論りろんデイヴィッド・ポリツァーデイヴィッド・グロスフランク・ウィルチェックらにより1975ねん構築こうちくされた。すべての基本きほん相互そうご作用さようふくだい統一とういつ理論りろん探求たんきゅうがおこなわれている。

これまでに、シュウィンガー、南部なんぶ陽一郎よういちろうピーター・ヒッグスジェフリー・ゴールドストーンらと大勢おおぜい先駆せんくてき研究けんきゅうもとづき、シェルドン・グラショースティーヴン・ワインバーグアブドゥッサラームらは電磁気でんじきりょくよわちから単一たんいつでんじゃくりょくあらわされることを独立どくりつ証明しょうめいしている(でんじゃく理論りろん)。

量子力学りょうしりきがく成立せいりつによって物性ぶっせい物理ぶつりがく発展はってんもとづいた現代げんだい工学こうがく発展はってん可能かのうになった。今日きょうのIT社会しゃかいないし情報じょうほう社会しゃかいばれる状況じょうきょう成立せいりつさせている電子でんし工学こうがくも、半導体はんどうたい技術ぎじゅつなどが量子力学りょうしりきがくをその基盤きばんとしている。量子力学りょうしりきがくはまた化学かがく反応はんのう現代げんだいてき記述きじゅつ可能かのうにし、量子りょうし化学かがく分野ぶんや発展はってんした。

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう

注釈ちゅうしゃく

編集へんしゅう
  1. ^ ほん記事きじめいである量子力学りょうしりきがくは、ここでべた狭義きょうぎの「量子力学りょうしりきがく」と量子りょうしろん双方そうほうふく広義こうぎのものである。狭義きょうぎの「量子力学りょうしりきがく」を区別くべつするためにここでは「」をけて「量子力学りょうしりきがく」と表記ひょうきした。

出典しゅってん

編集へんしゅう
  1. ^ うち 2007, p. 1.
  2. ^ a b 石川いしかわ 2011, p. i.
  3. ^ 松村まつむら et al. 2014.
  4. ^ 山田やまだ 2003, pp. 6–7.
  5. ^ NetAdvance Inc. 『ジャパンナレッジ』 「量子力学りょうしりきがく」のこう、2014ねん、NetAdvance Inc.。
  6. ^ a b 山田やまだ 2003, p. 7.
  7. ^ 柴田しばた et al. 2013.
  8. ^ 村上むらかみ 2006.
  9. ^ 筒井つつい 2002, p. 5.
  10. ^ a b 清水しみず 2004.
  11. ^ 伏見ふしみ康治こうじかくりつ論及ろんきゅう統計とうけいろんだいIX.あきら量子りょうし統計とうけい力学りきがく 76せつ 量子力学りょうしりきがく骨組ほねぐみ p.435 http://ebsa.ism.ac.jp/ebooks/ebook/204
  12. ^ 江沢えざわ 2002, p. 83-84; 107-108, §5.4 量子力学りょうしりきがくにおける因果律いんがりつ; §6.2 状態じょうたい.
  13. ^ 朝永あさなが 1981, pp. 213–224.
  14. ^ 田崎たさき 2008, pp. 233–268, 7. 電磁場でんじばくろたい輻射ふくしゃ.
  15. ^ 田崎たさき 2008, pp. 185–195, 5-7 原子げんし分子ぶんし理想りそう気体きたい熱容量ねつようりょう.
  16. ^ ぜんたくじゅ量子力学りょうしりきがく現代げんだい思潮しちょう」『現代げんだい思想しそう』、青土おうづちしゃ、2020ねん2がつ、122-131ぺーじ 
  17. ^ a b J.v.ノイマン『量子力学りょうしりきがく数学すうがくてき基礎きそ』みすず書房しょぼう、1957ねん、p332-335
  18. ^ ウルフ 1991, pp. 290–294.
  19. ^ ペンローズ 1994.
  20. ^ Planck 1900.
  21. ^ a b 高野たかの 1981, p. 183.
  22. ^ 矢沢やざわサイエンスオフィス 1998, pp. 64–81.
  23. ^ 山本やまもと 1999, pp. 356–359, 解説かいせつ.
  24. ^ 都築つづき 1995, pp. 134–135.
  25. ^ 山本やまもと 1999, pp. 221–229, 365–366, 原子核げんしかく物理ぶつりがくにおける認識にんしきろんじょうしょ問題もんだいをめぐるアインシュタインとの討論とうろん; 解説かいせつ.
  26. ^ 山本やまもと 1999, pp. 365–402, 解説かいせつ.
  27. ^ 山本やまもと 1999, pp. 254–257, 381–387, 原子核げんしかく物理ぶつりがくにおける認識にんしきろんじょうしょ問題もんだいをめぐるアインシュタインとの討論とうろん; 解説かいせつ.
  28. ^ 江沢えざわ 2002, pp. 69–71, §5.1 電子でんし干渉かんしょう.
  29. ^ Rutherford 1911.
  30. ^ 江沢えざわ 2002, pp. 33–35, §2.2 原子げんし安定あんていせい.
  31. ^ 砂川すながわ 1987, pp. 307–311, だい7しょう §3 てん電荷でんかによる電磁波でんじは放射ほうしゃとその反作用はんさよう.
  32. ^ 江沢えざわ 2002, pp. 41–42, §3.2 ボーアの原子げんし構造こうぞうろん.
  33. ^ 高林たかばやし 2010, pp. 90–93, §4.2 量子りょうし条件じょうけんとゾンマーフェルトの理論りろん.
  34. ^ 江沢えざわ 2002, pp. 52–54, §3.5 アインシュタインの遷移せんいかくりつ.
  35. ^ 山本やまもと 1999, pp. 215–217, 13. 原子げんし物理ぶつりがくにおける認識にんしきろんじょうしょ問題もんだいをめぐるアインシュタインとの討論とうろん.
  36. ^ 高林たかばやし 2010, pp. 132–133, §5.2 スピンと排他はいたりつ.
  37. ^ 高林たかばやし 2010, pp. 133–134, §5.2 スピンと排他はいたりつ.
  38. ^ 高林たかばやし 2010, p. 134, §5.2 スピンと排他はいたりつ.
  39. ^ 高林たかばやし 2010, pp. 134–135, §5.2 スピンと排他はいたりつ.
  40. ^ 高林たかばやし 2010, pp. 135–136, §5.2 スピンと排他はいたりつ.
  41. ^ 高林たかばやし 2010, p. 93, §4.2 量子りょうし条件じょうけんとゾンマーフェルトの理論りろん.
  42. ^ 山本やまもと 1999, pp. 38–41, 352–354, 1. 量子りょうし仮説かせつ原子げんし理論りろん最近さいきん発展はってん; 解説かいせつ.
  43. ^ 江沢えざわ 2002, pp. 56–59, §4.1 シュレーディンガーの波動はどう方程式ほうていしき.
  44. ^ 山本やまもと 1999, pp. 352–354, 解説かいせつ.
  45. ^ 山本やまもと 1999, p. 47, 1. 量子りょうし仮説かせつ原子げんし理論りろん最近さいきん発展はってん.

参考さんこう文献ぶんけん

編集へんしゅう

関連かんれん項目こうもく

編集へんしゅう

外部がいぶリンク

編集へんしゅう