俳優

コメディ・フランセーズの俳優はいゆうたち（1720年ねん）

歌舞伎かぶき俳優はいゆう（1853年ねん）

俳優はいゆう（はいゆう、英えい: actor）は、演劇えんげき・映画えいが等ひとしにおいて、その人物じんぶつに扮ふんして台詞せりふ・身振みぶり・表情ひょうじょうなどで演えんじる人ひと、またはその職業しょくぎょうのこと。男女だんじょの性別せいべつは問とわない。

歴史れきし

ギリシア悲劇ひげきは、はじめ1人にんの俳優はいゆうによって演えんじられていた。その後ごアイスキュロスが俳優はいゆうを2人ふたりに増ふやし、ソポクレースが3人にんに増ふやしたと伝つたえられている。古代こだいギリシアの俳優はいゆうはポリスから報酬ほうしゅうを得えていた。

古代こだいローマやヨーロッパの中世ちゅうせいでは、俳優はいゆうの数かずは少すくなかったという。だが、15世紀せいきのフランスおよび周辺しゅうへん国こくでは聖せい史劇しげき（神秘しんぴ劇げき）が流行りゅうこうしており、旧約きゅうやく聖書せいしょ・新約しんやく聖書せいしょに題材だいざいを得えてイエス・キリストの生誕せいたん・受難じゅなん・復活ふっかつの物語ものがたりが演えんじられ、街まちの中心ちゅうしんにある聖堂せいどう前まえの広場ひろばなどで、地元じもとの住民じゅうみんなどが臨時りんじの俳優はいゆうとなって参加さんかする形かたちで、数日すうじつ間あいだにわたり上演じょうえんされる、ということが各地かくちで行おこなわれていた。

16世紀せいきになると、コメディア・デラルテという仮面かめんを用もちいる歌うた・踊おどりを交まじえた即興そっきょう劇げきが流行りゅうこうするようになり、俳優はいゆうが職業しょくぎょうとして成立せいりつするようになった。男性だんせいの俳優はいゆうが主おもに活動かつどうしていたが、16世紀せいき末まつの段階だんかいでイタリアやフランスで職業しょくぎょう的てき女優じょゆうも登場とうじょうするようになった。ただしイギリスでは、エリザベス朝ちょう演劇えんげきにおいては女おんなの役やくは少年しょうねんが女装じょそうして演えんじており、職業しょくぎょう的てき女優じょゆうが登場とうじょうするのは17世紀せいき後半こうはんになってからのことであった。

俳優はいゆうの社会しゃかい的てき地位ちいというのは概がいしてかなり低ひくいものだったが、19世紀せいきになると向上こうじょうする傾向けいこうが生うまれ、イギリスではナイトの称号しょうごうを授さづけられる者ものまで現あらわれた。

「演劇えんげきの歴史れきし」も参照さんしょう

日本語にほんごの呼よび名なの歴史れきし、語源ごげん

俳優はいゆうという漢字かんじ表現ひょうげんについては、『字じ通どおり』（平凡社へいぼんしゃ）によれば〔荀子、王おう覇は〕に「俳優はいゆう侏儒しゅじゅ（しゆじゆ）」という表現ひょうげんがあり、また〔韓非子かんぴし、難なん三さん〕には「俳優はいゆう侏儒しゅじゅは固かた（もと）より人ひと主ぬしの與あずか（とも）に燕つばめ（たの）しむ所ところなり」という表現ひょうげんがある（親おや字じ「俳」の項こう）。つ

『話はなしのネタ』という本ほんでは、日本語にほんごの「俳優はいゆう」という語かたりは坪内つぼうち逍遥しょうようによるもの、と書かかれた。

俳優はいゆうの種類しゅるい・分類ぶんるい

俳優はいゆうは、それぞれの特色とくしょくや得意とくいな分野ぶんやに着目ちゃくもくしてキャスティングされたり、ジャンル分わけされることがある。しかし、このジャンル分わけに明確めいかくな基準きじゅんはなく、流動的りゅうどうてきである。

活動かつどう範囲はんいでの分類ぶんるい

俳優はいゆうをその主おもな活動かつどう範囲はんいに注目ちゅうもくして分類ぶんるいすることがあり、「舞台ぶたい俳優はいゆう」「映画えいが俳優はいゆう」「テレビ俳優はいゆう」「ミュージカル俳優はいゆう」などといった分類ぶんるいが行おこなわれることがある。

欧米おうべいでは主おもにコメディ映画えいが・ドラマで演技えんぎを行おこなう者ものはコメディアンと分類ぶんるいされている。

舞台ぶたい演劇えんげきを中心ちゅうしんに活動かつどうしている俳優はいゆうが舞台ぶたい俳優はいゆうである。映画えいが俳優はいゆうとは、もっぱら映画えいがに出演しゅつえんしている俳優はいゆうのことで、米国べいこく・ハリウッドには多数たすう存在そんざいする。「テレビ俳優はいゆう」とはもっぱら劇場げきじょう公開こうかいされないテレビドラマに出演しゅつえんしている俳優はいゆうで、棲すみわけのはっきりしている米国べいこくでは舞台ぶたい俳優はいゆう、映画えいが俳優はいゆうのほかに「テレビ俳優はいゆう」も区別くべつされ成立せいりつしている。米国べいこくでは他たの職業しょくぎょう同様どうように、俳優はいゆう業ぎょうも厳格げんかくな契約けいやくによって成立せいりつしており、映画えいがやテレビの世界せかいでは細こまかな職業しょくぎょう分類ぶんるいがなされて法的ほうてきな権利けんりの確保かくほや職種しょくしゅ別べつの労働ろうどう組合くみあい活動かつどうが行おこなわれてきた歴史れきしがあり、契約けいやく書しょで書かかれたこと以外いがいは一切いっさいしない、それをさせたら違法いほうとされ裁判さいばん沙汰ざたになるのが通例つうれいである。米国べいこくの映画えいが俳優はいゆうは原則げんそく的てきにテレビ広告こうこくにも出演しゅつえんしない。

性別せいべつでの分類ぶんるい

俳優はいゆうは男性だんせいであることが当然とうぜん視しされていた時代じだいがあったので、少数しょうすう派はである女性じょせいの俳優はいゆうを特とくに女優じょゆうと呼よび分わけていた時代じだいもあった。そして女優じょゆうが登場とうじょうした時代じだい以降いこうに、男性だんせいの俳優はいゆうをレトロニムで男優だんゆうと呼よぶことも行おこなわれた。現在げんざいでも俳優はいゆうの性別せいべつに着目ちゃくもくして「女優じょゆう」「男優だんゆう」という分類ぶんるいがされることもあるが、現代げんだいでは性差せいさを強調きょうちょうしない「俳優はいゆう」という呼よび方かたで通とおす場合ばあいもある。英語えいご圏けんでも「actor」をジェンダー中立ちゅうりつ的てきな用語ようごとして男女だんじょ問とわずに使つかい、従来じゅうらいの「actor（男優だんゆう） / actress（女優じょゆう）」という呼よび分わけを廃はいする動うごきがあるほか、演劇えんげきなどの分野ぶんやでは男女だんじょ問とわず舞台ぶたい俳優はいゆうを「player」と呼よぶ習慣しゅうかんがある。NHKの場合ばあいは、「俳優はいゆう」と男女だんじょの別べつなく言及げんきゅうされる。なお、日本にっぽんにおいては「女優じょゆう」が女性じょせい俳優はいゆうを指さす用語ようごとして広ひろく用もちいられているのに対たいし「男優だんゆう」という語かたりが用もちいられることは少すくない。ただしアダルトビデオ業界ぎょうかいではAV女優じょゆう、AV男優だんゆうと呼よぶ習慣しゅうかんがある。

俳優はいゆう自身じしんの性別せいべつとは別べつに、演えんじる役柄やくがらの性別せいべつによる分類ぶんるいも分野ぶんやによっては存在そんざいする。例たとえば、男性だんせい俳優はいゆうのみで催もよおす歌舞伎かぶきの場合ばあいは「立役たちやく」「女形おんながた」と呼よび分わけられ、女性じょせい俳優はいゆうのみで催もよおす宝塚歌劇団たからづかかげきだんの場合ばあいは「男役おとこやく」「娘むすめ役やく」と呼よび分わけられる。

その他たの分類ぶんるい

様々さまざまな分類ぶんるいがありうるが、たとえば二枚目にまいめ俳優はいゆう、性格せいかく俳優はいゆう、喜劇きげき俳優はいゆう、悪役あくやく俳優はいゆう、アクション俳優はいゆう、老ふけ役やく俳優はいゆう、個性こせい派は俳優はいゆう（怪かい優ゆう（かいゆう））、子役こやく、脇役わきやく俳優はいゆう、端役はやく俳優はいゆう（チョイ役やく俳優はいゆう）、エキストラ俳優はいゆう、スーツアクター、プライベートアクター、美人びじん女優じょゆう、脱ぬぎ女優じょゆう、動物どうぶつ俳優はいゆうなどがある。 日本にっぽんでは名題役者なだいやくしゃ、時代じだい劇げき俳優はいゆう、剣劇けんげき俳優はいゆう、大部屋おおべや俳優はいゆうなどという分類ぶんるいもある。

また俳優はいゆうはキャリアの長ながさに応おうじて、大御所おおごしょ俳優はいゆう、中堅ちゅうけん俳優はいゆう、駆かけ出だし俳優はいゆう、新人しんじんなどに分類ぶんるいされることもある。

アニメや洋画ようがの吹ふき替かえなどに声こえだけで出演しゅつえんする俳優はいゆうは声優せいゆうと称しょうされる。ただし、俳優はいゆうでもナレーションなどで顔かおを出ださない作品さくひんも存在そんざいする。逆ぎゃくに声優せいゆうでも舞台ぶたいやテレビ等とうで顔かおを出だして出演しゅつえんすることもあり、線引せんひきが曖昧あいまいになっている。

仕事しごとの内容ないようと流ながれ

職業しょくぎょう俳優はいゆうの業務ぎょうむは、観客かんきゃくに公開こうかいすることを目的もくてきとした劇げき作品さくひんを製作せいさくするために、その脚本きゃくほん（シナリオ）に基もとづき、プロデューサー・演出えんしゅつ家か・映画えいが監督かんとくなどの指導しどう・指示しじの下した、共演きょうえん者しゃや製作せいさくスタッフなどと協力きょうりょくして、その上演じょうえんや撮影さつえいにあたって、与あたえられたキャスト（配役はいやく）を演えんじることにある。

俳優はいゆう業ぎょうは、まず自身じしんの役やくを得えることが、ひとつの大だい仕事しごととなる。ハリウッドでは一般いっぱん的てきに、主要しゅような役やくはすべてオーディションによって選えらばれる。まずオーディションで選えらばれないことには、俳優はいゆうとしての仕事しごとが始はじまらない。大物おおもの俳優はいゆうもオーディションに応募おうぼし、ひとつの役やくを巡めぐって数すう倍ばいから数すう十じゅう倍ばいや数すう百ひゃく倍ばいにおよぶ厳きびしい倍率ばいりつの競争きょうそうを勝かち抜ぬいて役やくを得える。大物おおもの俳優はいゆうもそうしたオーディションへの応募おうぼを年中ねんじゅう繰くり返かえすことでひとつひとつ自分じぶんの仕事しごとを得えており、それを止とめると仕事しごとがパタリと無なくなってしまう。

俳優はいゆうの中なかには、ある役やくで高たかく評価ひょうかされて人気にんきが出でる人ひとも（ごく少数しょうすうではあるが）いる。大おおきく評価ひょうかを受うけた役やくを「当あたり役やく」と呼よぶ。運うんよく類似るいじの役やくが次々つぎつぎと出でてくるようなことがあれば、その役やくを回まわしてもらいやすくなり（指名しめいしてもらいやすくなり）、そうした「流ながれ」のようなものができて役やく獲得かくとくの労苦ろうくを免まぬかれる日々ひびを人生じんせいの一時期いちじき過すごす俳優はいゆうもわずかだがいる。

役やくを得えた後のちの俳優はいゆうの仕事しごとの流ながれは、国くに・現場げんばの種類しゅるい・監督かんとくなどによって異ことなっている面めんがある。香港ほんこん映画えいがではしっかりした脚本きゃくほんが存在そんざいせず、あくまで監督かんとくの心しんに作品さくひん概略がいりゃくやアイディアだけがあり、俳優はいゆうに事前じぜんに脚本きゃくほんが与あたえられず、主おもに撮影さつえい現場げんばで監督かんとくが台詞せりふを（思おもいつきで）与あたえ、俳優はいゆうの動作どうさを指示しじしつつ撮影さつえいを進すすめてゆくことが多おおい。インド・ボリウッドでは、脚本きゃくほんがしばしば存在そんざいせず、撮影さつえい現場げんばで監督かんとくの思おもいつきでストーリーが作つくられ台詞ぜりふが与あたえられ、しかもボリウッド映画えいがの定番ていばんである集団しゅうだんダンス・シーンでは、ダンス担当たんとう監督かんとくが現場げんばで自身じしんの身体しんたいを使つかって手本てほんを一いち度どだけ見みせ、主演しゅえん俳優はいゆうから多数たすうの脇役わきやく（エキストラ・ダンサー）までが、それを見みて一発いっぱつで見事みごとに模倣もほうし撮影さつえいする、ということを次々つぎつぎと繰くり返かえしつつ撮影さつえいが進すすむ。日本にっぽんでは、上質じょうしつの演技えんぎを行おこなうために、通常つうじょうは脚本きゃくほんが事前じぜんに渡わたされ、俳優はいゆうはそれを読よみ込こみ、役やく作づくりの上うえ、打うち合あわせ・稽古けいこ・リハーサルなどを繰くり返かえすといった膨大ぼうだいな下しも準備じゅんびを行おこない、その上うえで本番ほんばんの演技えんぎを行おこなう。

「役やく作づくり」も参照さんしょう

舞台ぶたいや撮影さつえいは一般いっぱんに、きわめて多人数たにんずうの人々ひとびとが携たずさわることによって成立せいりつしている。一般いっぱんに俳優はいゆうひとりが欠かける（「穴あなをあける」）だけでも舞台ぶたいや撮影さつえいが成立せいりつしなくなってしまう。したがって俳優はいゆうという仕事しごとは、病気びょうきや個人こじん的てきな都合つごうで安易あんいに休やすむことができない。特とくに舞台ぶたいは、観客かんきゃくと生身なまみの俳優はいゆうが一緒いっしょにいる「場ば」があってはじめて成立せいりつする。観客かんきゃくは、例たとえば早はやくからチケットを購入こうにゅうし、楽たのしみに思おもいつつ、さまざまな困難こんなんがある生活せいかつの中なかでスケジュールを調整ちょうせいした上うえで劇場げきじょうに足あしを運はこんでおり、それを裏切うらぎるわけにはいかない。また休演きゅうえんなどという事態じたいを引ひき起おこすと、他たの俳優はいゆうにも迷惑めいわくをかけ、また観客かんきゃくにチケット代だいの払はらい戻もどしをしなければならなくなり、興行こうぎょう主ぬしが莫大ばくだいな損失そんしつを被こうむることが多おおい。俳優はいゆうが舞台ぶたいに穴あなをあけてしまうようなことをすると、次つぎの仕事しごとが来こなくなると言いわれていたり、俳優はいゆうを仕事しごとに選えらんだら「親おやの死しに目めにも会あえない」と言いわれていたりする。

日本にっぽんの俳優はいゆう

歴史れきし

日本にっぽんでは平安へいあん時代じだい末期まっきに田楽でんがくや猿楽さるがくという演劇えんげきがあり、これを演えんずる田楽でんがく法師ほうしや猿楽さるがく法師ほうしが日本にっぽんでの職業しょくぎょう的てき俳優はいゆうのはじまりだと考かんがえられている。

その後ご、能のうを演えんじる能役者のうやくしゃが現あらわれた。また、江戸えど時代じだい初期しょきには歌舞伎かぶきを演えんずる歌舞伎かぶき役者やくしゃが現あらわれた。

明治めいじ時代じだいになると新派しんぱや新劇しんげきと呼よばれる新あたらしい演劇えんげきジャンルが生うまれ、それぞれのジャンルの俳優はいゆうが活躍かつやくするようになった。

昭和しょうわ - 平成へいせい

戦前せんぜんの大だいスター・月形つきがた龍之介りゅうのすけや、阪ばん東ひがし妻つま三郎さぶろう、大河内おおこうち傳次郎でんじろうといった人ひとたちは、映画えいが監督かんとくより圧倒的あっとうてきに立場たちばが上うえで、監督かんとくがいちいち「先生せんせい、ここでお"アップ"1枚まいちょうだいします」と言いっていたという。

1950年代ねんだいから1960年代ねんだいにかけて五ご社しゃ協定きょうていという取とり決きめがあり、映画えいが会社かいしゃと専属せんぞく契約けいやくを結むすんだいわゆる映画えいが俳優はいゆうは、自社じしゃ製作せいさくの映画えいが以外いがいへの出演しゅつえんが制限せいげんされるなど、明確めいかくに活動かつどう範囲はんいを区分くぶんされていた。そのため初期しょきの大河たいがドラマは、歌舞伎かぶき界かいや新劇しんげきなどの俳優はいゆうに頼たよらざるを得えなかった事情じじょうがある。同どう時期じきの民放みんぽうのテレビドラマも同様どうようで、海外かいがいドラマを輸入ゆにゅうして放送ほうそうしたり、テレビ局てれびきょくで制作せいさくするドラマには、映画えいが俳優はいゆう以外いがいの俳優はいゆうや新人しんじんを起用きようすることで対処たいしょしていた。

1970年代ねんだいになり、邦画ほうがの斜陽化しゃようかに伴ともなって五ご社しゃ協定きょうていが自然しぜん崩壊ほうかいし、さらには映画えいが会社かいしゃがテレビドラマの外注がいちゅう先さきになってテレビ映画えいがを制作せいさくするなど、映画えいがとテレビとの垣根かきねはほぼ消滅しょうめつした。既すでにテレビドラマの制作せいさく現場げんばでは映画えいが俳優はいゆうに頼たよらないシステムが確立かくりつされ、別べつジャンルから俳優はいゆう業ぎょうに参入さんにゅうするケースは以前いぜんより増ふえた。ただし、テレビドラマにおいては俳優はいゆうの実力じつりょくよりも、テレビ局てれびきょくと所属しょぞく事務所じむしょ、あるいは番組ばんぐみスポンサーとの関係かんけいや、俳優はいゆう個人こじんの人気にんきすなわち視聴しちょう率りつを取とれるかどうかを重視じゅうししてキャスティングすることが多おおく、視聴しちょう者しゃが疑問ぎもんを感かんじるキャスティングがされる場合ばあいもある。

現在げんざいの日本にっぽん国内こくないにおいてもっぱら劇場げきじょう用よう映画えいがに出演しゅつえんして生活せいかつを成なりたせることができる者ものは皆無かいむに近ちかい。つまり「映画えいが俳優はいゆう」はほぼいなくなった。

1990年代ねんだい以降いこう、テレビ局てれびきょく主導しゅどうで映画えいが製作せいさくが行おこなわれるケースも一般いっぱん的てきになり、テレビドラマの制作せいさくスタイル（俳優はいゆう業ぎょうを本業ほんぎょうとしない者ものが俳優はいゆうを兼業けんぎょうするスタイル）の領域りょういきも拡大かくだい傾向けいこうにある。一方いっぽうで、俳優はいゆうと名乗なのりながらバラエティ番組ばんぐみなどで活動かつどうしている者ものも多数たすうおり、職業しょくぎょうとしての俳優はいゆうという区分くぶんは曖昧あいまいになりつつある。これについて、映画えいが俳優はいゆうの設定せっていが確立かくりつしているアメリカと違ちがい、拘束こうそく時間じかんが長ながい割わりに金銭きんせん的てきに恵めぐまれない日本にっぽんの俳優はいゆうの環境かんきょうのちがいの指摘してきもあるが、俳優はいゆう個人こじんの価値かち観かんや所属しょぞく事務所じむしょの方針ほうしんの問題もんだいも大おおきい。また、それぞれの出身しゅっしんの職業しょくぎょうをあくまで本業ほんぎょうとしつつ、俳優はいゆう業ぎょうを含ふくめて様々さまざまな活動かつどうを行おこなう者ものもおり、マルチタレントと呼よばれる場合ばあいがある。これは評価ひょうかされる場合ばあいもあるが、否定ひてい的てきな見方みかたをされることも多おおい。

俳優はいゆう業ぎょうは華はなやかな一いち面めん、厳きびしい世界せかいだと言いわれている。俳優はいゆうを志望しぼうしても俳優はいゆうとして食たべられる（それ自体じたいで生活せいかつを維持いじできる程度ていどの収入しゅうにゅうを得えられる）人にんはごくわずかで、収入しゅうにゅうも安定あんていしていないため、俳優はいゆうとして食たべられるようになる段階だんかいに到達とうたつする人ひとの数かずよりも、中途半端ちゅうとはんぱな状態じょうたいで挫折ざせつしてしまう人ひとの数かずのほうがはるかに多おおい。また、一旦いったんある程度ていど仕事しごとが増ふえても、そのままずっと俳優はいゆうでいられる保証ほしょうはなく、一時いちじ的てきには第だい一線いっせんで活躍かつやくしていた俳優はいゆうでもその後ごはほとんど仕事しごとがない人ひともいる。

日本にっぽんにおける女優じょゆうの歴史れきし

日本にっぽんでは、歌舞伎かぶきの創始そうし者しゃといわれる出雲阿国いずものおくにのように、江戸えど時代じだい初期しょきには女性じょせいが芝居しばいに出演しゅつえんしていたが、寛永かんえい年間ねんかん（1624年ねん - 1643年ねん）に遊女ゆうじょ歌舞伎かぶきが禁止きんしされたため、それ以降いこう女性じょせいが芝居しばいに出でることは原則げんそくとして不可能ふかのうになった。代かわって男性だんせいが女形おんながたとして女性じょせいの役やくを演えんじ、この伝統でんとうが明治めいじに入はいっても続つづいていた。1899年ねん、川上かわかみ音二郎おとじろう一座いちざに所属しょぞくする川上かわかみ貞奴さだやっこが女形おんながたの代役だいやくとして、サンフランシスコ公演こうえんにて急遽きゅうきょ出演しゅつえんして成功せいこうをおさめ、これによって川上かわかみ貞奴さだやっこは、「日本にっぽん初はつの女優じょゆう」と呼よばれるようになった。

川上かわかみ貞奴さだやっこは1908年ねん、渋沢しぶさわ栄一えいいちなどの後援こうえんを得えて東京とうきょう・芝しばに「帝国ていこく女優じょゆう養成ようせい所しょ」を開所かいしょし、本格ほんかく的てきに女優じょゆう育成いくせいの事業じぎょうを開始かいしした。一いち期生きせいには森もり律子りつこ、村田むらた嘉久よしひさ子こなどがいた。

1914年ねん、小林こばやし一三かずみが宝塚たからづか少女しょうじょ歌劇かげき団だん（現げん・宝塚歌劇団たからづかかげきだん）を設立せつりつし、女性じょせいが男性だんせい役やくも演えんじる、女性じょせいによる歌劇かげき・芝居しばいの形式けいしきも誕生たんじょうした。宝塚歌劇団たからづかかげきだんに所属しょぞくする女優じょゆう（女性じょせい団だん員いん）は「タカラジェンヌ」（宝塚たからづかとパリジェンヌの合成ごうせい語ご）と呼よばれている。

他た

収入しゅうにゅう

俳優はいゆうのほとんどは、統計とうけい的てきに見みると、他たの職業しょくぎょうに比くらべて平均へいきん生涯しょうがい年収ねんしゅうが低ひくい。

ほとんど俳優はいゆうは、舞台ぶたい俳優はいゆうであれ、テレビ俳優はいゆうであれ、俳優はいゆうの収入しゅうにゅうだけでは生活せいかつできない。収入しゅうにゅうの大半たいはんは不定期ふていきのアルバイトで得えている。しかもほとんどは、テレビ画面がめんなどとは関係かんけいの無ないアルバイトである。俳優はいゆうの変則へんそく的てきな時間じかん都合つごうを優先ゆうせんするために、勤務きんむの日ひや時刻じこくの変更へんこうが比較的ひかくてき自由じゆうなアルバイトが多おおい。（たとえば飲食いんしょく店てんの皿洗さらあらい・配膳はいぜん・注文ちゅうもん受うけ・簡単かんたんな調理ちょうり。あるいは（男性だんせいだと）ちから仕事しごと系けいの引ひっ越こしの単発たんぱつアルバイト、単発たんぱつで入はいる店舗てんぽ売場うりば・オフィス・イベント会場かいじょうなどの什器じゅうきの運搬うんぱんや組くみ立たてなどの「軽けい作業さぎょう」など。誰だれからも見みられていない仕事しごとが意外いがいに多おおい。）俳優はいゆうの仕事しごとを得える可能かのう性せいを残のこすために自由じゆう度どを優先ゆうせんするとアルバイトの種類しゅるいもそれなりに限かぎられる。必かならず決きまった曜日ようびの決きまった時間じかん帯たいに年中ねんじゅうしなければならないアルバイトというのは、俳優はいゆうをしたい人ひとにはやりづらい。ハリウッドの俳優はいゆうや韓国かんこくの俳優はいゆう、その中なかでも容姿ようしが良よいことが「売うり」の人ひとの場合ばあいは、それを利用りようして（テレビ画面がめんには出でていないが）バーテンダーのアルバイトをして生活せいかつ費ひを稼かせぐパターンもある（これの場合ばあいは、一応いちおうは「人ひとから見みられる」仕事しごとではある）。

テレビや映画えいがに「ある程度ていど」出演しゅつえんできるようになった俳優はいゆうでも、実際じっさいには収入しゅうにゅうの主しゅたる部分ぶぶんは、そうしたアルバイトである。テレビや映画えいがに出演しゅつえんしている俳優はいゆうのリストをじっくり見みれば分わかることだが、たいてい出演しゅつえん者しゃは数すう十じゅう名めい～数すう百ひゃく名めいほどおり、そのほとんどはいわゆる「脇役わきやく」である。観客かんきゃくは主役しゅやく級きゅう2～3名めいのことばかり意識いしきして他たの（脇役わきやく）俳優はいゆうを忘わすれてしまったり、意識いしきからほとんど消けし去さってしまっているが、俳優はいゆうをしている側がわから見みると俳優はいゆう仲間なかまのほとんどは脇役わきやくしかしていないのである。大だい多数たすうの俳優はいゆう（脇役わきやくしか演えんじていない俳優はいゆう）はアルバイトで生活せいかつ費ひの大だい部分ぶぶんを稼かせいでいる。

「ある程度ていどは出演しゅつえん」のレベルを超こえて、「（それなりに）顔かおが知しられている」レベルになっても、俳優はいゆうは他たの芸能げいのう界かいの職業しょくぎょうよりも収入しゅうにゅうが低ひくい。その原因げんいんとして、1時じ間あいだのバラエティ番組ばんぐみが、2時じ間あいだ程度ていどで収録しゅうろくできるのに対たいし、1時じ間あいだのドラマは撮影さつえいに1週間しゅうかん以上いじょうかかることや、ミュージシャンや芸人げいにんのように自分じぶんで自みずから企画きかくして仕事しごとをするのが難むずかしいことが挙あげられる。 そのため、かなり有名ゆうめいになった俳優はいゆうですら、日本にっぽんの俳優はいゆうはドラマや映画えいがではなくコマーシャルのギャラで生活せいかつしている。 しかし、俳優はいゆうが何なん本ほんものコマーシャルに出演しゅつえんするのは、アジア独自どくじの文化ぶんかであり、ハリウッドの俳優はいゆうの多おおくは、コマーシャルの収入しゅうにゅうがない。そのため、ごく一部いちぶの俳優はいゆうを除のぞき、日本にっぽんの俳優はいゆうより遥はるかに収入しゅうにゅうが少すくなく、大作たいさく映画えいがのメインキャストや、地上波ちじょうはドラマのレギュラーキャストもアルバイトで生計せいけいを立たてているのが実情じつじょうである。

参考さんこう文献ぶんけん

• 戸板といた康二こうじ『物語ものがたり近代きんだい日本にっぽん女優じょゆう史し』（中公ちゅうこう文庫ぶんこ） 中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ 1983 ISBN 4122010691（「日本にっぽんにおける女優じょゆうの歴史れきし」参考さんこう文献ぶんけん）

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