北陸ほくりく朝廷ちょうてい

北陸ほくりく朝廷ちょうてい（ほくりくちょうてい）は、南北なんぼく朝あさ時代じだいに南朝なんちょう方ほう武将ぶしょうの擁立ようりつや僭称せんしょうにより北陸ほくりくに存在そんざいしたと考かんがえられる朝廷ちょうていのことである。「北陸ほくりく王朝おうちょう」とも呼よばれる。

概略がいりゃく

建たて武たけしの新政しんせいは後醍醐天皇ごだいごてんのうの情熱じょうねつにもかかわらず、わずか3年ねんで破綻はたん。遂ついには光明こうみょう天皇てんのうを奉ほうずる足利尊氏あしかがたかうじと、新田にった義貞よしさだらに奉ほうじられて比叡山ひえいざんに籠こもる後醍醐天皇ごだいごてんのうが睨にらみ合あう一触即発いっしょくそくはつの状況じょうきょうとなった。この事態じたいに足利尊氏あしかがたかうじは後醍醐天皇ごだいごてんのう側がわに和議わぎを申もうし入いれ、後醍醐天皇ごだいごてんのうもこれに応おうじて比叡山ひえいざんを下くだり京都きょうとへ戻もどった。時ときに延のべ元もと元年がんねん/建たて武たけし3年ねん10月がつ10日とおか（ユリウス暦れき1336年ねん11月13日にち）のことだった。

しかし、これに猛もう反発はんぱつしたのが、それまで後醍醐天皇ごだいごてんのうに忠誠ちゅうせいを尽つくしてきた新田にった義貞よしさだである。講和こうわとなれば戦たたかう目的もくてきを失うしなうばかりか、戦たたかいを続つづければ逆賊ぎゃくぞくの汚名おめいを着きせられることになるからである。義貞よしさだ配下はいかの武将ぶしょう堀口ほりぐち貞さだ満みつるが後醍醐天皇ごだいごてんのうに「忿る面めんに泪なみだを流ながし」（『太平たいへい記き』）義貞よしさだの思おもいを代弁だいべん、ほどなく義貞よしさだも3000騎きを以もって駆かけつけた。後醍醐天皇ごだいごてんのうは「貞さだ満まんが恨申に付づけて朕ちんが謬を知しれり」（同どう）と自みずからの非ひを認みとめ、義貞よしさだに勅みことのりして皇子おうじの恒つね良りょう親王しんのうを奉ほうじて北国きたぐにへ下くだるよう命めいじた。『太平たいへい記き』ではこの際さいの後醍醐天皇ごだいごてんのうの言葉ことばを次つぎのように伝つたえている――「朕ちん京都きょうとへ出でなば、義貞よしさだ却て朝敵ちょうてきの名なを得えつと覚さとる間あいだ、春宮とうぐうに天子てんしの位いを譲ゆずて、同どう北国きたぐにへ下くだし奉たてまつべし。天下てんかの事こと小しょう大だいとなく、義貞よしさだが成敗せいばいとして、朕ちんに不ふ替がえ此君を取立とりたて進しんすべし」（『太平たいへい記き』巻まき17「立だて儲もうか君きみ被ひ著ちょ于義貞さだ事こと付づけ鬼おに切せつな被ひ進すすむ日にち吉事きちじ」）。しかし、こうした記載きさいは『太平たいへい記き』にしか見みられず、創作そうさくの疑うたがいも指摘してきされている。むしろ、後醍醐天皇ごだいごてんのうに梯はしごを外はずされた新田にった一族いちぞくの怒いかりは爆発ばくはつ寸前すんぜんであり、衝突しょうとつを防ふせぐための妥協だきょう案あんとして義貞よしさだが自分じぶんに恒つね良りょう親王しんのう、尊みこと良りょう親王しんのうを推戴すいたいさせて、北国きたぐにへと下向げこうさせてほしいと提言ていげんしたとする解釈かいしゃくもある。いずれにしても、義貞よしさだに奉ほうじられた親王しんのう一いち行ぎょうは、10月がつ10日とおか、北国きたぐにをめざし京きょうを出発しゅっぱつ。13日にちには敦賀つるがの気比けひ社しゃへ到着とうちゃくし、気比けひ大だい宮司ぐうじの気比けひ弥三郎やさぶろうに300騎きで迎むかえられ、金ヶ崎かねがさき城しろに入はいった。

金ヶ崎かねがさき城じょうに入はいった親王しんのう一いち行ぎょうは、各地かくちの武士ぶしへ尊みこと氏しらの討伐とうばつを促うながす綸旨りんじを送おくっており、結城ゆうき宗広むねひろに送おくられた綸旨りんじが『結城ゆうき家か文書ぶんしょ』に現存げんそんしている（「北陸ほくりく朝廷ちょうていの歴史れきし資料しりょう「白河しらかわ文書ぶんしょ」」参照さんしょう）。また加賀かが前田まえだ家かに伝つたわる「得とく江こう文書ぶんしょ」には「白しろ鹿しか二に年ねん」という私わたし年ねん号ごうを用もちいた文書ぶんしょも所蔵しょぞうされている。このように、後醍醐天皇ごだいごてんのうと決別けつべつした新田にった義貞よしさだは恒つね良りょう親王しんのうを頂点ちょうてんとし、越前えちぜん国こくに南朝なんちょう・北朝ほくちょうとも一線いっせんを画かくす自立じりつ的てきな地域ちいき的てき政治せいじ権力けんりょくを樹立じゅりつしようとしていたとみられ、この政治せいじ構想こうそうは複数ふくすうの研究けんきゅう者しゃによって「北陸ほくりく朝廷ちょうてい」（北陸ほくりく王朝おうちょう）と表現ひょうげんされている。

自称じしょう天皇てんのうの一人ひとり・三浦みうら芳かおる聖きよしは、尊みこと良りょう親王しんのうと、その継承けいしょう者しゃ守まもり永なが親王しんのうが北陸ほくりく朝廷ちょうていの天皇てんのうであり、自みずからがその子孫しそんであると述のべている。

新田にった義貞よしさだの北陸ほくりく朝廷ちょうてい構想こうそう

新田にった義貞よしさだは後醍醐天皇ごだいごてんのうの帰京ききょうを認みとめる交換こうかん条件じょうけんとして、新しん天皇てんのう・恒つね良りょう親王しんのうのもと越前えちぜん国こくで抗戦こうせんを続つづける意思いしを示しめし、これを認みとめさせた。越前えちぜん国こくは、建たて武たけし政権せいけん下かにおいて弟おとうとの脇屋わきや義助よしすけが国司こくしを、一族いちぞくの堀口ほりぐち貞義さだよしが守護しゅごを務つとめたため、義貞よしさだが足利あしかが方かたと対峙たいじする拠点きょてんを構築こうちくするのに適てきした国くにだった。当初とうしょ、義貞よしさだは国府こくふに入にゅうろうとしたが、足利あしかが方かたが抑おさえていたため断念だんねんし、気比けひ社しゃ大だい宮司ぐうじの気き比ひ氏し治ちに迎むかえられて敦賀つるがに入はいった。

気比けひ社しゃの裏手うらての山上さんじょうに築きずかれた金ヶ崎かねがさき城しろを拠点きょてんとした義貞よしさだは、嫡子ちゃくしの義ぎ顕あらわを越後えちご国こくに下くだし、弟おとうとの義助よしすけを足利あしかが方かたが抑おさえる越前えちぜん国府こくふの手前てまえに位置いちする杣山そまやま城じょうに遣つかわすよう指示しじした。義貞よしさだの当面とうめんの目的もくてきは、越前えちぜん国府こくふを攻略こうりゃくし、国内こくないの足利あしかが方かたの武士ぶし・寺社じしゃを追討ついとうすることで越前えちぜん国こくを支配しはい下かに置おくことであったはずであり、義助よしすけの杣山そまやま城じょう派遣はけんはその布石ふせきとみられる。一方いっぽう、越後えちご国こくは、建たて武たけし政権せいけん下かで義貞よしさだが上野うえの国こくと共ともに国司こくしとして国務こくむをとった国くにであり、新田にった氏しの影響えいきょう力りょくが強つよく及およんでいたことから、義ぎ顕あらわを派遣はけんすることで同国どうこくの武士ぶし・寺社じしゃを動員どういんしようとしたのである。義貞よしさだはまた、陸奥みちのく国こくの武士ぶしに対たいして軍勢ぐんぜい催促さいそくを行おこなうほか、陸奥むつ将軍しょうぐん府ふを率ひきいる北畠きたばたけ顕家あきいえに対たいしても共同きょうどう侵攻しんこうを提案ていあんしており、陸奥みちのく国こくの諸しょ勢力せいりょくとも連携れんけいしようとしていたことが知しられる。これらのことから義貞よしさだは、越後えちご・上野うえの・陸奥みちのく国こくの諸しょ勢力せいりょくと連携れんけいしつつ越前えちぜん国こくを制圧せいあつし、ここに恒つね良りょうを頂点ちょうてんとした自立じりつ的てきな政治せいじ権力けんりょくを樹立じゅりつすることを目指めざしたと考かんがえられる。

さらに義貞よしさだは後述こうじゅつの「白河しらかわ結城ゆうき文書ぶんしょ」において、恒つね良りょうの発給はっきゅうした命令めいれい書しょを「綸旨りんじ」、恒つね良りょうの越前えちぜん下向げこうのことを、天皇てんのうの移動いどうを表あらわす「臨幸りんこう」と称しょうしている。これらのことから、少すくなくとも恒つね良りょう自身じしんとそれを支ささえる義貞よしさだは、恒つね良りょうの即位そくいを認みとめていたのは確実かくじつといえる。義貞よしさだは、自身じしんの認識にんしきとしては確たしかに「天皇てんのう」を擁立ようりつしていたのであり、義貞よしさだが越前えちぜん国こくに構想こうそうした地域ちいき政治せいじ権力けんりょくは「北陸ほくりく朝廷ちょうてい」と呼よぶべきものだったといえる。

こうした義貞よしさだの政治せいじ構想こうそうは、建たて武たけし政権せいけん下かで国務こくむの経験けいけんを積つみ、その実務じつむを担になう人材じんざいをリクルートして家政かせい機関きかんを整備せいびしたことを背景はいけいに、実現じつげん可能かのうな具体ぐたい策さくとして発想はっそうされたものであり、けっして机上きじょうの空論くうろんではなかった。独自どくじの天皇てんのうを擁ようして行動こうどうを起おこしたという点てんは、持明院じみょういん統みつるの天皇てんのうを擁立ようりつした足利尊氏あしかがたかうじと何なんら変かわることはない。だが、義貞よしさだの政治せいじ権力けんりょくは、尊たかし氏しのそれに匹敵ひってきするような幕府ばくふ権力けんりょくに展開てんかいすることは難むずかしかった。なぜならば、かつて鎌倉かまくら幕府ばくふの中枢ちゅうすうから排除はいじょされていた新田にった氏しは、足利あしかが氏しのように政権せいけん運営うんえいおよび幕府ばくふ制度せいどのノウハウを蓄積ちくせきすることが出来できなかった上うえに、北陸ほくりく朝廷ちょうていには政権せいけん運営うんえいの実務じつむと幕府ばくふ制度せいどの運用うんようを担になった幕府ばくふ奉行ぶぎょう人じんの姿すがたがみえないからである。さらに義貞よしさだの越前えちぜん下向げこうとほぼ同どう時期じきに、足利あしかが氏しは越後えちご国内こくないにいる義貞よしさだ配下はいかの守護しゅご・目代もくだい等とうの攻撃こうげきを命めいじており、越後えちご国こくとの連携れんけいは未然みぜんに断たち切きられてしまった。

これらの事実じじつから、足利尊氏あしかがたかうじは当初とうしょ、北陸ほくりく朝廷ちょうていの存在そんざいをさほど脅威きょういには感かんじていなかった。しかし、後醍醐ごだいごが京きょうから吉野よしのへ逃のがれ、講和こうわ交渉こうしょうが頓挫とんざしたことで、尊たかし氏しの認識にんしきは一変いっぺんする。尊たかし氏しが大覚寺だいかくじ統みつるの正統せいとうな天皇てんのうと認みとめ、講和こうわ交渉こうしょうの相手あいてとしたのは後醍醐ごだいごだった。ところが金ヶ崎かねがさき城じょうに拠よる「天皇てんのう」恒つね良りょうはその後ご醍醐だいごを相対そうたい化かする存在そんざいだったため、後醍醐ごだいごとの講和こうわが実現じつげんできていない現状げんじょうにおいて、尊たかし氏しはこれを大おおきな障害しょうがいと認識にんしきしたのである。また、古代こだい以来いらい北陸ほくりく道どう方面ほうめんの租税そぜいは、越前えちぜん国こくの敦賀港つるがみなとで陸揚りくあげされ、琵琶湖びわこを経由けいゆして京きょうへ運はこばれた。北陸ほくりく朝廷ちょうていが敦賀港つるがみなとを押おさえたため、今後こんご、北陸ほくりく方面ほうめんからの年貢ねんぐが京きょうに入はいってこなくなるという事態じたいも憂慮ゆうりょされた。よって、北陸ほくりく王朝おうちょうの速すみやかな打倒だとうが、尊たかし氏しの喫緊きっきんの課題かだいとなったのである。

建たて武たけし4年ねん/延のべ元もと2年ねん（1337年ねん）3月がつ6日にち、足利あしかが方かたの攻撃こうげきの前まえに金ヶ崎かねがさき城じょうは落城らくじょうした。このとき義貞よしさだは脱出だっしゅつできたが、恒つね良りょうは捕とらえられて京きょうへ護送ごそうされ、後のちに毒殺どくさつされたという。恒つね良りょうを失うしなったことで、北陸ほくりく朝廷ちょうていという義貞よしさだの政治せいじ構想こうそうは瓦解がかいしたが、義貞よしさだはすぐに再起さいきに向むけて動うごき出だす。すなわち、金ヶ崎かねがさき城しろ落城らくじょう直後ちょくごの3月がつ14日にち、義貞よしさだは越後えちご国こくの南保なんぼ重貞しげさだに対たいし、守護しゅご代だいに任にんじた佐々木ささき忠ただし枝えだに合力ごうりょくするように命めいじており、越後えちご国こくで軍事ぐんじ活動かつどうを再開さいかいしたのである。この頃ころ、越後えちご国こくでは、宗良親王むねながしんのうの子息しそくの明光めいこう宮みやなる人物じんぶつが足利あしかが方かたの追討ついとうに活動かつどうしていた。田中たなか大喜だいぎは、義貞よしさだが越後えちご国こくで再起さいきの第一歩だいいっぽを記しるしたのは、明光めいこう宮みやと合流ごうりゅうして彼かれを恒つね良りょうに代かわる権威けんいとして擁立ようりつし、地域ちいき的てき政治せいじ権力けんりょくの再建さいけんを図はかろうとしていたのかもしれないと推察すいさつしている。しかし、実際じっさいに義貞よしさだが明光めいこう宮みやを擁立ようりつした形跡けいせきは確認かくにんできない。

結局けっきょく、義貞よしさだは新あらたな権威けんいを擁立ようりつすることなく、越前えちぜん国こくで軍事ぐんじ活動かつどうを再開さいかいした。この間あいだ、北畠きたばたけ顕家あきいえが義良親王のりながしんのうを奉ほうじて陸奥みちのく国こくから上洛じょうらく戦せんを敢行かんこうしており、顕家あきいえ軍ぐんには義貞よしさだの次子じし義興よしおきが加くわわっていた。義貞よしさだは顕あらわ家かとの合流ごうりゅうを考かんがえていたとみられるが、その目的もくてきは顕あらわ家かと共ともに義良親王のりながしんのうを擁立ようりつして越前えちぜん国こくで地域ちいき的てき政治せいじ権力けんりょくを再建さいけんすることにあったという説せつがある。しかし、顕家あきいえとの合流ごうりゅうは失敗しっぱいに終おわり、義貞よしさだは閏うるう7月がつ2日にちに藤島ふじしまの戦たたかいで不慮ふりょの戦死せんしを遂とげてしまった。義貞よしさだの北陸ほくりく朝廷ちょうていの夢ゆめは、ここに名実めいじつ共どもに崩くずれ去さったのである。

北陸ほくりく朝廷ちょうていの歴史れきし資料しりょう「白河しらかわ文書ぶんしょ」

北陸ほくりく朝廷ちょうていの裏付うらづけ史料しりょうとされる「白河しらかわ文書ぶんしょ」は白河しらかわ結城ゆうき氏しの家伝かでん文書ぶんしょで「白河しらかわ結城ゆうき家か文書ぶんしょ」ともいう。延のべ元もと元年がんねん（1336年ねん）11月12日にち付づけの「尊氏たかうじ直義ただよし以下いか逆徒ぎゃくと追討ついとうの事こと」という表題ひょうだいで、奥州おうしゅうにいた南朝なんちょう忠臣ちゅうしんの「結城ゆうき上野うえの入道にゅうどう館かん」（結城ゆうき宗弘むねひろ）あてに味方みかたに馳はせ参さんずるように督促とくそくした綸旨りんじで「左ひだり中将ちゅうじょう」（新田にった義貞よしさだ）の名前なまえで通達つうたつされている。

尊氏たかうじ直義ただよし以下いか逆徒ぎゃくと追討ついとうの事こと

先度せんど被ひ下した綸旨りんじ了りょう去月きょげつ十日所有臨幸越前国鶴賀津也相
催一族不廻時刻馳参可令誅伐彼輩於恩賞者可依請
者しゃ天気てんき如此悉之以状
延のべ元々もともと年ねん十じゅう一いち月がつ十じゅう二に日にち
　　　　　　　　　　　　　　　左ひだり中将ちゅうじょう在ざい判ばん
　　結城ゆうき上野うえの入道にゅうどう館かん 

（書かき下くだし文ぶん）

先度せんど綸旨りんじを下くだされおわんぬ。去月きょげつ十じゅう日にち越前えちぜん国こく鶴賀つるが津つに臨幸りんこうある所ところなり。一族いちぞくを相あい催もよおし、時刻じこくを廻めぐらさず馳はせ参さんじ、かの輩やからを誅伐ちゅうばつせしむべし。恩賞おんしょうにおいては請こいによるべし。天気てんきかくのごとし。これを悉せ、以もって状じょうす。

（口語こうご訳やく）

尊氏たかうじ・直義ただよし以下いかの逆賊ぎゃくぞくを討伐とうばつすることについて。先せんだって天皇てんのうがお命めいじになられた通とおりですが、重かさねて綸旨りんじを送おくります。先月せんげつ十じゅう日にち、天皇陛下てんのうへいかは越前えちぜん国こくの敦賀港つるがみなと（金ヶ崎かねがさき城しろ）へ臨幸りんこうされました。つきましてはあなたの一族いちぞくを召集しょうしゅうし、ただちに陛下へいかの許もとへ馳はせ参さんじ、逆賊ぎゃくぞくどもを誅伐ちゅうばつしなさい。恩賞おんしょうについてはあなたのご希望きぼうの通とおり計はからいましょう。
天皇陛下てんのうへいかのご意志いしは以上いじょうの通とおりであります。これを尽つくしなさい。よってお伝つたえいたします。 

延のべ元もと2年ねん（1337年ねん）2月がつ9日にちには、同おなじく「結城ゆうき上野うえの入道にゅうどう館かん」あてに味方みかたに馳はせ参さんずるように督促とくそくした綸旨りんじが、「右みぎ衛門えもん督とく」（脇屋わきや義助よしすけ）の名前なまえで通達つうたつされている。

度々たびたび被ひ下した綸旨りんじ了りょう急きゅう相あい催一族可馳参者天気如此悉之
延のべ元もと二に年ねん二に月がつ九きゅう日にち
　　　　　　　　　　　　　　右みぎ衛門えもん督とく在ざい判はん
　　結城ゆうき上野うえの入道にゅうどう館かん 

（書かき下くだし文ぶん）

度々たびたび綸旨りんじを下くだされおわんぬ。急いそぎ一族いちぞくを相あいい催もよおし馳はせ参さんずべし。天気てんきかくのごとし。これを悉せ。

（口語こうご訳やく）

重かさねて綸旨りんじを下くだされた。急いそいで一族いちぞくを召集しょうしゅうし馳はせ参さんずるべきである。天皇陛下てんのうへいかのご意志いしは以上いじょうの通とおり。これを尽つくしなさい。

いずれも「天気てんき此くの如ごとし」という天皇てんのうの意思いしを明記めいきする文言もんごんがあるので、恒つね良りょう親王しんのうが天皇てんのうとして発給はっきゅうした綸旨りんじであることがわかる。

参考さんこう文献ぶんけん

• 峰岸みねぎし純夫すみお『新田にった義貞よしさだ』吉川弘文館よしかわこうぶんかん〈人物じんぶつ叢書そうしょ〉、2005年ねん5月がつ1日にち。ISBN 978-4642052320。 
• 瀧川たきがわ政次郎まさじろう『日本にっぽん歴史れきし解禁かいきん』創そう元もと社しゃ、1950年ねん12月。 
• 藤原ふじわら石山いしやま『南朝なんちょう正統せいとう皇位こうい継承けいしょう論ろん：日本にっぽん史しの盲点もうてん南北なんぼく朝あさ時代じだいの謎なぞを解とく』南朝なんちょう史し学会がっかい、1966年ねん4月がつ。 
• 三浦みうら芳かおる聖きよし『徹底的てっていてきに日本にっぽん歴史れきしの誤謬ごびゅうを糺ただす』（神風かみかぜ串くし呂りょ講究こうきゅう所しょ、1970年ねん）
• 亀田かめだ俊和としかず『南朝なんちょうの真実しんじつ：忠臣ちゅうしんという幻想げんそう』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2014年ねん5月がつ。 
• 山本やまもと隆志たかし『新田にった義貞よしさだ』ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう、2005年ねん。 
• 田中たなか大喜だいぎ『新田にった氏しと足利あしかが氏し』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2021年ねん12月。 

関連かんれん項目こうもく

• 尊みこと良りょう親王しんのう
• 三浦みうら芳かおる聖きよし