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テュール

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テュール
軍神ぐんしん 天空てんくうしん 司法しほうしん
けんたて姿すがたえがかれたテュール
18世紀せいきアイスランド写本しゃほん『ÍB 299 4to』より
ノルド Týr
おや ヒュミル
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テュール[1]ノルド: Týr 英語えいご: Tyr)は、ドイツ神話しんわ北欧ほくおう神話しんわにおける軍神ぐんしん勇敢ゆうかんかみとされる。

解説かいせつ[編集へんしゅう]

英語えいごかたちではティーウ (Tiw)、ドイツではテュール (Tyr)、ツィーウ (Ziu)、またはティウ (Tiu) という。想定そうていされるゲルマン祖語そごではティワズ (*Tiwaz)。

ギリシア神話しんわゼウス (Ζεύς)、ローマ神話しんわユーピテル (Jupiter: 原型げんけいDieu pater) など印欧語いんおうごぞくおおくが天空てんくうしんとして信仰しんこうするかみ々とどう語源ごげんかんがえられ、テュールも本来ほんらい天空てんくうしんだったらしいが、現存げんそんする史料しりょうではおおむ軍神ぐんしんとされている。これは本来ほんらいほう豊穣ほうじょう平和へいわをつかさどる天空てんくうしんであったのが、2世紀せいき後半こうはん以降いこうゲルマンじん世界せかいはげしい戦乱せんらん時代じだいをむかえ、戦争せんそうかみであるオーディンへの信仰しんこう台頭たいとうし、テュールは最高さいこうしん地位ちいわれて一介いっかい軍神ぐんしん転落てんらくしたからとかんがえられている。こうした経緯けいいもあり、「テュール」というのは、ふるくはノルドで「かみ」をあらわす一般いっぱん名詞めいしでもあった[2]

またテュールが最高さいこうしんであった時代じだいのゲルマンじんしょぞくおう意味いみするかたりは、ティワズの祭司さいし意味いみするティウダンス (thiudans) であった。 絵画かいがなどでは隻腕せきわん戦士せんし姿すがたあらわされ、これはフェンリル片手かたていちぎられたことをしめす。 またルーン文字もじの「テュール(上向うわむ矢印やじるしのような形状けいじょう、ラテン文字もじではTにたる)」はテュールの象徴しょうちょうで『のエッダ』によれば勝利しょうりのルーンであり[3]たたかいのさいにこのルーンをけんきざ勝利しょうりいのったとされる。

軍神ぐんしんというてんローマ神話しんわ軍神ぐんしんマールス同一どういつされ、ゲルマン火曜日かようび意味いみする Tuesday などの語源ごげんとなった。

なお、おな北欧ほくおう神話しんわ雷神らいじんトールとはべつかみである。

エッダ』[編集へんしゅう]

18世紀せいきのアイスランドの写本しゃほんSÁM 66』にえがかれた、テュールがフェンリルに右腕うわんられる場面ばめん
17世紀せいきのアイスランドの写本しゃほんAM 738 4to』にえがかれたテュール。

エッダ』の『ヒュミルのうた』では、テュールはちちである巨人きょじんヒュミルもとに、かみ々が酒宴しゅえんひらくのに必要ひつよう大釜おおかま入手にゅうしゅするために出向でむいている[4]。ただし、このエピソードにおける「テュール」という名前なまえ一般いっぱんてきな「かみ」の意味いみもちいられており、実際じっさいロキであると解釈かいしゃくすべきというせつがある[5]

ロキの口論こうろんだい38、40せつにおいて、テュールはロキから、右腕うわんうしなったこと(後述こうじゅつ)をなじられたうえ、テュールのつまがロキの子供こどもんでいたことを暴露ばくろされた[6]

シグルドリーヴァの言葉ことばだい6せつでは、テュールをあらわルーン文字もじけんみねみぞうえって、2テュールのとなえることで勝利しょうりできるとかたられている[7]

『スノッリのエッダ』[編集へんしゅう]

獰猛どうもうフェンリル最初さいしょかみ々のもと拘束こうそくされていたが、えさをやる勇気ゆうきがあったのはテュールだけだった。やがてフェンリルをグレイプニルつなぐことになったさいうたぐふかいフェンリルはグレイプニルが危険きけんでないことの証明しょうめいのためだれかのうで自身じしん口内こうないれることを要求ようきゅうし、かみ々が戸惑とまどっているのをてフェンリルが嘲笑ちょうしょうする。それをたテュールはこれはまずい、とおもみずかうでれる。

グレイプニルにつながれたあとフェンリルはそれをこわすことが出来できないとさとったがすでにおそく、いかくるったフェンリルはテュールのうでった。テュールに片腕かたうでいのはそのためである(『スノッリのエッダだい一部いちぶギュルヴィたぶらかしだい34しょうによる[8])。

ラグナロク[編集へんしゅう]

テュールは、最後さいごラグナロクにて解放かいほうされた番犬ばんけんガルム相打あいうちになる[9]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 谷口たにぐちやく (1973), 索引さくいん8ぺーじにはチュール菅原すがわら (1984), p. 316(索引さくいん)にはテュール表記ひょうきがみられる。
  2. ^ れいとしてオーディンしめケニングでの比喩ひゆ表現ひょうげん)に「勝利しょうりテュール」や「るされたテュール」というものがある(池上いけがみ良太りょうたちょ図解ずかい 北欧ほくおう神話しんわ株式会社かぶしきがいしゃしん紀元きげんしゃ、2008ねんだい2さつISBN 978-4-7753-0543-0、P225。)
  3. ^ 池上いけがみ良太りょうたちょ図解ずかい 北欧ほくおう神話しんわ株式会社かぶしきがいしゃしん紀元きげんしゃ、2008ねんだい2さつISBN 978-4-7753-0543-0、P157。
  4. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』75-79ぺーじ
  5. ^ 北欧ほくおう神話しんわ』132ぺーじ
  6. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』84ぺーじ
  7. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』144ぺーじ
  8. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』249-250ぺーじ
  9. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』276ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • G・ネッケル; H・クーン; A・ホルツマルク; J・ヘルガソン へん谷口たにぐち幸男ゆきお わけ『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう新潮社しんちょうしゃ、1973ねん8がつ30にちISBN 978-4-10-313701-6 
  • 山室やまむろしず北欧ほくおう神話しんわ しん々と巨人きょじんのたたかい』筑摩書房ちくましょぼう世界せかい神話しんわ 8〉、1982ねんISBN 978-4-480-32908-0
  • 菅原すがわら, くにじょう北欧ほくおう神話しんわ東京書籍とうきょうしょせき、1984ねん全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:85011498