ラグナロク

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ウィリー・ポガニー英語えいごばんえがいた、世界せかいくすほのお。(1920ねん

ラグナロクノルドRagnarøk(Ragnarök、ラグナレク)は、北欧ほくおう神話しんわ世界せかいにおける終末しゅうまつのことである[1]

元来がんらい語義ごぎは「かみ々の(滅亡めつぼうの)運命うんめい」であったが、『しんエッダ』の作者さくしゃスノッリあやまってこのかたりRagnarökをRagnarökr(Ragnarökkr)と同一どういつしたことが原因げんいんで「かみ々の黄昏たそがれ」という誤訳ごやくまれ、ひろ流布るふしている[2]

本稿ほんこうのカタカナ転写てんしゃは「ラグナロック」など様々さまざまであるが、本稿ほんこうでは固有名詞こゆうめいし特定とくていひと発言はつげん引用いんよう以外いがい一般いっぱんてき国語こくご辞典じてんでの記述きじゅつである「ラグナロク」に統一とういつする[3]

しんエッダ』[編集へんしゅう]

エミール・デープラーえがいた、オーディンとフェンリル、フレイとスルトたたかい。(1905ねん
Emilエミール・デープラーがえがいた、トールとヨルムンガンドたたかい。(1905ねん
Emil エミール・デープラーがえがいたヴァルハラ炎上えんじょう。(1905ねんごろ

しんエッダ』だい一部いちぶギュルヴィたぶらかしだい51-53しょう[4]によれば、ラグナロクがこるまえにまずふうふゆけんふゆおおかみふゆばれるフィンブルヴェトおそろしいふゆおおいなるふゆ)がはじまる。なつおとずれずきびしいふゆが3つづき、人々ひとびとのモラルはくずり、ものえる。

太陽たいようつきフェンリルであるスコルハティまれ、ほし々がてんからちる。大地だいちやまふるえ、木々きぎこそぎたおれ、やまくずれ、あらゆるいのちまれ、あらゆるいのちえる。ヘイムダルは、世界せかい終焉しゅうえんげるため角笛つのぶえギャラルホルンあづけているミーミルのいずみかう。最高さいこうしんオーディンミーミルもとけつけ、助言じょげんける。

このにはすべての封印ふういん足枷あしかせいましめはび、束縛そくばくされていたロキやフェンリル、ガルムなどがアースガルズむ。きょへびヨルムンガンド大量たいりょう海水かいすいとともにりくすすむ。その高潮こうちょうなかナグルファルかぶ。かじをとるのは巨人きょじんフリュムである。ムスペルヘイムスルトほのおけんってすすむ。前後ぜんごほのおつつまれたかれムスペルらがうまつづく。ビフレストかれらの進軍しんぐんえられず崩壊ほうかいする。

かみ々とせる戦士せんしたち(エインヘリャル)のぐんみな甲冑かっちゅうかため、巨人きょじん軍勢ぐんぜいと、ヴィーグリーズ激突げきとつする。オーディンはフェンリルにかうもののフェンリルにまれてぬ。オーディンの息子むすこヴィーザルが、フェンリルのしもあごあしをかけ、上顎じょうがくさえてそのからだき、ちちかたきつ。トールはヨルムンガンドとたたかい、ミョルニルなぐりつけてたおすが、どくらい相打あいうちにわる。テュールガルムたたかうが相打あいうち。ロキヘイムダル相打あいうちにたおれる。フレイスルトたたか善戦ぜんせんするも武器ぶきっていなかったためたおされる。

スルトのはなったほのお世界せかいくし、ここのつの世界せかい海中かいちゅうぼっする。たたかいののち大地だいち水中すいちゅうからよみがえバルドルヘズ死者ししゃくにより復活ふっかつする。オーディンのヴィーザル、ヴァーリ、トールのモージ、マグニ、さらにヘーニルらものこり、あらたな時代じだいかみとなる。かれらはかつてアースガルズのあったイザヴェルらす。

てんにあるギムレーという、太陽たいようよりうつくしく黄金おうごんより見事みごと広間ひろまには、天地てんち滅亡めつぼうさせるほのおとどかない。ここに、永遠えいえんに、善良ぜんりょうただしいひとむのである。さらに、ホッドミーミルのもり(en)だけがのこり、そこでほのおからのがれたリーヴとリーヴスラシルという2人ふたり人間にんげんあたらしい世界せかいらしていくものとされている。ホッドミーミルのもりとは世界せかいじゅユグドラシル別称べっしょうであるとされる。太陽たいようおおかみまれるまえんでいたうつくしいむすめが、ははいでその軌道きどうめぐり、あたらしい太陽たいようとなる。

エッダ』[編集へんしゅう]

フェロー諸島しょとう2003ねん発行はっこうされた、『巫女ふじょ予言よげん』を題材だいざいにした郵便ゆうびん切手きってシリーズより。ラグナロクのはじまり。アンカー・エリ・ペーターセン英語えいごばんによる。
オーディンの、トールのたたかい、スルトのほのお
バルドルとヘズの復活ふっかつ

巫女ふじょ予言よげん[編集へんしゅう]

巫女ふじょ予言よげん[5]では、まず、かみ々の場所ばしょがおそらくは朝焼あさやけや夕焼ゆうやけによって[6]あかまり、太陽たいようくら天候てんこうわるなつつづくことがかたられる。おんな巨人きょじんエッグセール(en)が竪琴たてごとくそばで雄鶏おんどりフィアラル(en)が、アースかみぞく場所ばしょグリンカムビが、ヘルヘイム雄鶏おんどりく。ヘイムダルはギャラルホルンをき、オーディンはミーミルをたずねる。巨人きょじんフリュムがひがし[注釈ちゅうしゃく 1]からめてくる。ヨルムンガンドもなみててせまる。またひがしうみ[注釈ちゅうしゃく 2]からはムスペルをせロキがかじをとるふねがやってる。スルトはみなみからほのおたずさえてすすむ。こうしたなか人々ひとびとはヘルのもとくこととなる。

オーディンはフェンリルにたおされるが、ただちに息子むすこのヴィーザルがフェンリルの心臓しんぞうけんつらぬく。フレイはスルトとたたかう。トールはヨルムンガンドとたたかうが、そのどくび、9退しりぞいてたおれる。やがて太陽たいようひかりうしない、ほし々がえる。ほのおけむりがるなか大地だいち沈没ちんぼつする。

やがて海中かいちゅうからはみどりなす大地だいちあらわれる。のこったアースしんぞくはイザヴェルにあつまるが、そこにはバルドルとヘズがもどってくる。ヘーニルもいる。オーディンの2人ふたり兄弟きょうだい[注釈ちゅうしゃく 3]息子むすこたちてんふう住居じゅうきょ)にむとかたられる。ギムレーには誠実せいじつ人々ひとびとらす。ニザヴェッリルからがったくろりゅうニーズヘッグはやがてしずんでいく。

『ヴァフスルーズニルの言葉ことば[編集へんしゅう]

エッダ』の『ヴァフスルーズニルの言葉ことば[7]では、博識はくしき巨人きょじんヴァフスルーズニルと、ガグンラーズ(Gagnráðr)という偽名ぎめい名乗なのったオーディンが知恵ちえくらべをする過程かていで、ラグナロクについて言及げんきゅうする。そのなかで、かみ々のもとにいる戦士せんしたちは、毎日まいにちたたかっては戦死せんししゃし、しかし戦場せんじょうからうまもどってなごやかに食卓しょくたく同席どうせきすると説明せつめいされる(だい40-41せつ)。また、ヴィーグリーズはスルトとかみ々のたたかいのだとされる(だい17-18せつ)。また、ヴァンかみぞくくにからアースかみぞくもとうつったかみニョルズが、世界せかいわるときにヴァンかみぞくもとかえるとされる(だい38-39せつ)。おそろしいふゆ人間にんげん世界せかいおとずれても、ホッドミミルのもりかくれていたリーヴとリーヴスラシルの2人ふたりのこり、人間にんげんはこの2人ふたりからまたえていくとされる(だい44-45せつ)。太陽たいようはフェンリルにらえられるまえうつくしいむすめをもうけており、太陽たいようくなったのちはこのむすめふたたてんめぐるとされる(だい46-47せつ)。オーディンはおおかみたおされるが、息子むすこのヴィーザルがおおかみあごくとされる(だい52-53せつ)。世界せかいくしたスルトのほのおえたのちには、ヴィーザルとヴァーリ、モージとマグニはのこっているとされる(だい52-53せつ)。

なお、アクセル・オルリックは、ニョルズがヴァンかみぞくもとかえるのはヘーニルがアースしんぞくもとかえることとたいをなしていると推測すいそくしている[8]作者さくしゃである詩人しじんが、混乱こんらんのちにはすべてが最初さいしょ状態じょうたい場所ばしょ)にもどるとかんがえていたとしている[9]

その[編集へんしゅう]

ファーヴニルの言葉ことば』(en)だい14-15せつによれば、スルトとアースかみぞくたたかしまはオースコープニルだという[10]。『ロキの口論こうろんだい41-42せつでは、フェンリルがかみ々のほろびるまでしばられていること、そのにはムスペルのたちミュルクヴィズもりえてかみ々のもとんでくることがかたられる[11]。『ヴェグタムのうた(バルドルのゆめだい14せつではロキもまたいましめをかれる[12]。『グリームニルの言葉ことば』では、たたかいのときにヴァルハラの540のとびらからそれぞれ800にん戦士せんし出陣しゅつじんする様子ようすかたられる[13]。『ロキの口論こうろんだい58せつではおおかみがオーディンをむとされ[14]、『グリームニルの言葉ことばだい17せつではヴィーザルがちち復讐ふくしゅうをするむね宣言せんげんしている[15][16]

巫女ふじょ予言よげん短篇たんぺん』(『ヒュンドラのうた』)は、『巫女ふじょ予言よげん』を大筋おおすじでなぞっている。悪天候あくてんこうなかうみてんあらい、ゆき強風きょうふうおそうこと(だい42せつ)、オーディンがおおかみあいまみえること(だい44せつ)がかたられている[16][17]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ シーグルズル・ノルダルによれば、きたりの東方とうほうから、陸路りくろで。(『巫女ふじょ予言よげん エッダ校訂こうていほん』238ぺーじ
  2. ^ ノルダルによれば、みなみりのひがしから、海路かいろで。(『巫女ふじょ予言よげん エッダ校訂こうていほん』238ぺーじ
  3. ^ この「2人ふたり」について、谷口たにぐち幸男ゆきおヴェーイとヴィリだと推定すいていし(『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』26ぺーじ)、アクセル・オルリックは、直前ちょくぜんにヘーニルのがっていることからヘーニルとローズルだと解釈かいしゃくしている(『北欧ほくおう神話しんわ世界せかい』158ぺーじ)。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

イギリスゴスフォース十字架じゅうじかきざまれた。9世紀せいきごろのものとみられる。ソーフス・ブッゲはこれを魔物まもの勝利しょうりしたキリストであるとかんがえたが、これにたいしオルリックは、北欧ほくおう神話しんわにおけるフェンリルのあご上顎じょうがくこうとするヴィーザルの構図こうずにこそてはまるとした[18]
  1. ^ 庄子しょうこだいあきらだい洪水こうずい神話しんわになるとき』河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、2017ねん、133ぺーじISBN 978-4-309-62508-9 
  2. ^ 北欧ほくおうがく 構想こうそう主題しゅだい――北欧ほくおう神話しんわ研究けんきゅう視点してんから――』 尾崎おざき和彦かずひこ 2018 きたじゅ出版しゅっぱん p.230
  3. ^ デジタル大辞泉だいじせん 小学館しょうがくかん
  4. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』275-280ぺーじ
  5. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』13-15ぺーじ
  6. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』24ぺーじ
  7. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』45-50ぺーじ
  8. ^ 北欧ほくおう神話しんわ世界せかい』188ぺーじ
  9. ^ 北欧ほくおう神話しんわ世界せかい』164ぺーじ
  10. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』139ぺーじ
  11. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』84ぺーじ
  12. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』200ぺーじ
  13. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』54ぺーじ
  14. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』86ぺーじ
  15. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』53ぺーじ
  16. ^ a b 北欧ほくおう神話しんわ世界せかい』13ぺーじ
  17. ^ 『エッダ 古代こだい北欧ほくおう歌謡かようしゅう』211ぺーじ
  18. ^ 北欧ほくおう神話しんわ世界せかい』14-17、21ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん資料しりょう[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]