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デュロキセチン

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
デュロキセチン
IUPAC命名めいめいほうによる物質ぶっしつめい
臨床りんしょうデータ
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児たいじ危険きけん分類ぶんるい
  • US: C
法的ほうてき規制きせい
投与とうよ経路けいろ 経口けいこう投与とうよ
薬物やくぶつ動態どうたいデータ
生物せいぶつがくてき利用りようのう〜 50% (32% to 80%)
血漿けっしょうタンパク結合けつごう〜 95%
代謝たいしゃかん代謝たいしゃ
CYP1A2
CYP2D6
半減はんげん13.46あいだ
(40mg, βべーたしょう, 1にち)
排泄はいせつ尿にょうちゅう: 72%, くそちゅう: 18.5%
識別しきべつ
CAS番号ばんごう
116539-59-4 (free base)
136434-34-9 (HCl)
ATCコード N06AX21 (WHO)
PubChem CID: 60835
DrugBank APRD00060
ChemSpider 54822
KEGG D07880
化学かがくてきデータ
化学かがくしきC18H19NOS
分子ぶんしりょう297.41456 g/mol
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デュロキセチン(Duloxetine)は、セロトニン・ノルアドレナリンさい阻害そがいやく(SNRI)とばれるこううつやくひとつである。日本にっぽんでは2010ねんからサインバルタ商品しょうひんめいられる。くすりほうにおける劇薬げきやくである。

日本にっぽんでの適応てきおうは、うつびょう・うつ状態じょうたいくわえ、糖尿とうにょうびょうせい神経しんけい障害しょうがい神経しんけいいんせい疼痛とうつう線維せんいすじつうしょう慢性まんせい腰痛ようつうしょうともな疼痛とうつうである。機能きのうせいディスペプシア症状しょうじょう効果こうかがあるとする医師いしおお[1][2]

開発かいはつ

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フルオキセチン(プロザック)の開発かいはつにもたずさわった、イーライリリーによって1980年代ねんだい後半こうはん合成ごうせいされ、1988ねん開発かいはつがスタートした。

しかし、1996ねんだいIIIしょう試験しけんはいらないことを決定けっていしたイーライリリーしゃ開発かいはつから退しりぞき、日本にっぽんでの塩野義製薬しおのぎせいやく単独たんどく開発かいはつはじまり、その成果せいかたイーライリリーしゃは1999ねんさい開発かいはつはじめ、2001ねんにFDAに申請しんせい、2004ねん4がつ承認しょうにんされた。2012ねん現在げんざい日本にっぽんをはじめ95カ国かこく承認しょうにんされている。

日本にっぽんでは2010ねん4がつにデュロキセチン塩酸えんさんしお(Duloxetine HCl)として、イーライリリーおよび塩野義製薬しおのぎせいやくからサインバルタ商品しょうひんめい薬価やっか収載しゅうさいされている。

適応てきおう

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デュロキセチン20mg(東和薬品とうわやくひん後発こうはつやく

日本にっぽんでの適応てきおうは、うつびょう・うつ状態じょうたい糖尿とうにょうびょうせい神経しんけい障害しょうがいともな疼痛とうつう線維せんいすじつうしょうともな疼痛とうつうである。

日本にっぽんでは2012ねん2がつに「糖尿とうにょうびょうせい神経しんけい障害しょうがいともな疼痛とうつう」が適応てきおうされた。2015ねん5がつ、「線維せんいすじつうしょうともな疼痛とうつう」について適応てきおうされた[3]。2016ねん12月に「変形へんけいせい関節かんせつしょう」について、適応てきおう追加ついかされた[4]

また、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは、糖尿とうにょうびょうせいニューロパチー線維せんいすじつうしょう全般ぜんぱんせい不安ふあん障害しょうがい適応てきおうがあり、ヨーロッパでは、はらあつせい尿にょう失禁しっきん糖尿とうにょうびょうせいニューロパチー、全般ぜんぱんせい不安ふあん障害しょうがい適応てきおうがある。

薬理やくり

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結合けつごう特性とくせい[5][6]
レセプター/トランスポーター Ki (nM)
セロトニン 0.7~0.8
ノルエピネフリン 7.5
ドーパミン 240
5-HT2A 504
5-HT2C 916
5-HT6 419

デュロキセチンは既存きそんのSNRI(ミルナシプランベンラファキシン)と同様どうようセロトニン(5-HT)およびノルアドレナリン(NA)のさい阻害そがいし、シナプス間隙かんげき細胞さいぼうがいの5-HTとNAの濃度のうど上昇じょうしょうさせる。SNRIでも既存きそんのSNRIとくらべ、5-HTおよびNAさい阻害そがい作用さようつよく、ドーパミン(DA)さい阻害そがい作用さようはほとんどない。特徴とくちょうとしても、かく神経しんけい物質ぶっしつ受容じゅようたいたいしての親和しんわせいひくく、こうコリン作用さようαあるふぁ1拮抗きっこう作用さようによるこころ毒性どくせいすくないとされる。これらと5-HT, NAさい作用さようじょから、副作用ふくさようおさえたさんたまきけいこううつやくることができる。

また、前頭まえがしらぜん皮質ひしつにおけるDAの濃度のうど上昇じょうしょうする。これは、前頭まえがしらぜん皮質ひしつにDAトランスポーターの分布ぶんぷすくなく、そのためNAトランスポーターをかいしてぜんシナプス終末しゅうまつまれる。しかし、デュロキセチンはNAトランスポーターを阻害そがいするため、DAのさいみも阻害そがいし、細胞さいぼうがい遊離ゆうりDAの濃度のうどたかまるとされる。

こううつやく中断ちゅうだん症候群しょうこうぐんのSSRIやSNRIにくらべてかるいという[7]

併存へいそん疾患しっかんたいしての効果こうか

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うつびょう患者かんじゃには、だいうつびょうエピソード以外いがいにも付随ふずいする症状しょうじょうともなっている場合ばあいおおい。とくに、慢性まんせい疼痛とうつう血管けっかん運動うんどう症状しょうじょうなどがあり、それに付随ふずいするかたちでうつびょう患者かんじゃではステロイドせいこう炎症えんしょうやく使用しようりょうおおくなる傾向けいこうにある。

線維せんいすじつうしょうなどの慢性まんせい疼痛とうつう血管けっかん運動うんどう症状しょうじょうのように5-HTとNAさい阻害そがい作用さよう適度てきどなバランスである必要ひつようがある疾患しっかんたいし、

NA/5-HT レート
試料しりょう ヒト トランスポーター
  5-HT NA DA NA/5-HT ratio
デュロキセチン 0.8±0.01 7.5±0.3 240±23 9.4
ベンラファキシン 82±3 2483±43 7647±793 30.3
ミルナシプラン 123±11 200±2 >10000 1.6

上記じょうきひょうのように、デュロキセチンは5-HTさい阻害そがいとNAさい阻害そがいやく10たい1と理想りそうてきなバランスであり、米国べいこく欧州おうしゅうでは慢性まんせい疼痛とうつうふくめて様々さまざま症状しょうじょう応用おうようがされている。

使用しようじょう注意ちゅうい

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ほんざい意識いしき消失しょうしつ発作ほっさ発症はっしょう頻度ひんどは0.27%とひくい。日本にっぽんにおける発売はつばい8ヵ月かげつあいだざい投与とうよちゅう追加ついか投与とうよで2れい意識いしき消失しょうしつ発作ほっさこしたという報告ほうこくがある[8]。1れい手足てあしうごかしていたことから痙攣けいれん発作ほっさである可能かのうせいたかく、2れい発作ほっさ脈拍みゃくはく血圧けつあつ正常せいじょうであったために痙攣けいれん発作ほっさである可能かのうせいたか[8]。また、2れいともにデュロキセチンの投与とうよ中止ちゅうしによって、発作ほっさこらなくなった。

一般いっぱんてきこううつやく発作ほっさの閾値をげうるので[9]こううつやくざい投与とうよおこなっている患者かんじゃにはとく注意ちゅういようす。

尿にょう貯留ちょりゅう副作用ふくさようのため、アメリカ食品しょくひん医薬品いやくひんきょく (FDA) は、尿にょう疾患しっかんには禁止きんししている[10]

禁忌きんき

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  • ほんざいたい過敏かびんしょう既往きおうれきがある患者かんじゃ
  • モノアミン酸化さんか酵素こうそ(MAO)阻害そがいざい投与とうよちゅうあるいは投与とうよ中止ちゅうし2週間しゅうかん以内いない患者かんじゃ 相互そうご作用さよう参照さんしょう
  • 高度こうどかん機能きのう障害しょうがいじん機能きのう障害しょうがいがある患者かんじゃ

慎重しんちょう投与とうよ

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おもなもののみ記述きじゅつする[11]

  • 前立腺ぜんりつせん肥大ひだいしょうとう排尿はいにょう困難こんなんのある患者かんじゃ
  • 高血圧こうけつあつまたはこころ疾患しっかんのある患者かんじゃ
  • 緑内障りょくないしょうまたはないあつ亢進こうしんのある患者かんじゃ

これらはノルアドレナリンのさい阻害そがい作用さようにより、相対そうたいてき交感神経こうかんしんけい優位ゆういになるにせこうコリン作用さようによりこされるが、デュロキセチンはムスカリンせいアセチルコリン受容じゅようたいたいする親和しんわせいはほとんどなく、直接的ちょくせつてきこうコリン作用さようより軽度けいどである。

薬物やくぶつ動態どうたい

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デュロキセチンはおもCYP1A2CYP2D6代謝たいしゃされ、かく酸化さんかてき代謝たいしゃにはCYP1A2がちゅう程度ていど親和しんわせいしめし、とくに5-hydroxyたいと4-hydroxyたい酸化さんかてき代謝たいしゃにはCYP2D6がつよ親和しんわせいしめす。主要しゅよう代謝たいしゃぶつ活性かっせいひくく、臨床りんしょうでは問題もんだいにならず、こううつ作用さよう発現はつげんさせるのはデュロキセチンの変化へんかたいであることが示唆しさされる。

デュロキセチンはちゅう程度ていどにCYP2D6を阻害そがいするが、CYP2D6を誘導ゆうどうする薬物やくぶつられていない。また、CYP1A2の阻害そがいのう最小限さいしょうげんであり、誘導ゆうどうをすることもないとされる。

このことから、シトクロムP450関与かんよしないミルナシプランにはおとるが[12]、デュロキセチンの薬物やくぶつ相互そうご作用さよう比較的ひかくてきすくないとされる。しかし、デュロキセチンはかるいCYP2D6阻害そがいやくであり、強力きょうりょくなCYP2D6阻害そがいやくパロキセチンこう用量ようりょう(100mg〜)でCYP2D6を阻害そがいするセルトラリン強力きょうりょくなCYP1A2阻害そがいやくフルボキサミンとの併用へいよう最大さいだいちゅう濃度のうどとAUCの上昇じょうしょうられたため、それらの阻害そがいやくとの併用へいようには注意ちゅういすべきである。

併用へいよう禁忌きんき

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モノアミンの代謝たいしゃ阻害そがいされることにより、のうないのモノアミン濃度のうどたかまったうえでのモノアミンさい阻害そがいにより、昏睡こんすい全身ぜんしん痙攣けいれんなどの症状しょうじょうあらわれるおそれがある。

併用へいよう注意ちゅうい

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おもなもののみ記述きじゅつする。

併用へいようにより、ピモジドの酸化さんかてき代謝たいしゃ阻害そがいされてちゅう薬物やくぶつ濃度のうどとAUCが上昇じょうしょうした結果けっか心電図しんでんずQT延長えんちょうをきたす可能かのうせいがある。

副作用ふくさよう

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重大じゅうだい副作用ふくさよう

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出典しゅってん

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  1. ^ 東原ひがしはら良恵よしえ, 今一いまいちよし, 長田ながた太郎たろう, 渡辺わたなべ純夫すみお, 北條ほうじょう麻理子まりこ, 永原ながはらあきらひとし, 廣田ひろた喬司たかし, 里村さとむら恵美えみ, 赤澤あかざわ陽一よういち, 野村のむらおさむ, 上山うえやまひろし也, 稲見いなみ義宏よしひろ消化しょうか症状しょうじょうおも訴に発症はっしょうした仮面かめんうつびょうの1れい」『消化しょうか心身しんしん医学いがくだい21かんだい1ごう消化しょうか心身しんしん医学いがく研究けんきゅうかい、2014ねん、20-22ぺーじdoi:10.11415/jpdd.21.20ISSN 1340-8844NAID 13000468698120222-02-08閲覧えつらん 
  2. ^ 機能きのうせいディスペプシア外来がいらい - 機能きのうせいディスペプシア(機能きのうせい胃腸いちょうしょう)とは - はら眞一しんいち”. 2021ねん12月8にち閲覧えつらん
  3. ^ 医療いりょうようやく10製品せいひんしん効能こうのうなどの追加ついか承認しょうにん”. ミクス (2015ねん5がつ27にち). 2015ねん5がつ28にち閲覧えつらん
  4. ^ 変形へんけいせい関節かんせつしょうともな疼痛とうつうたいする適応てきおう追加ついか追加ついか承認しょうにん取得しゅとくについて”. 2016ねん12月19にち閲覧えつらん
  5. ^ “Comparative affinity of duloxetine and venlafaxine for serotonin and norepinephrine transporters in vitro and in vivo, human serotonin receptor subtypes, and other neuronal receptors”. Neuropsychopharmacology 25 (6): 871–80. (December 2001). doi:10.1016/S0893-133X(01)00298-6. PMID 11750180.  オープンアクセス
  6. ^ Li, Jie Jack (2015). Top Drugs: Their History, Pharmacology, and Syntheses. Oxford University Press. ISBN 978-0-19-936258-5. https://books.google.com/books?id=qOHXCQAAQBAJ&q=duloxetine+0.7+ki&pg=PA127 
  7. ^ Stephen M. Stahl、仙波せんば純一じゅんいつ松浦まつうら雅人まさと中山なかやま和彦かずひこ宮田みやた久嗣ひさつぐわけ)、2010、『精神せいしん薬理やくりがくエセンシャルズ -神経しんけい科学かがくてき基礎きそ応用おうよう-』3、  ISBN 978-4895926409 pp. p. 570
  8. ^ a b ざい併用へいようちゅう難治なんじせいうつびょう患者かんじゃにduloxetineを追加ついか投与とうよして意識いしき消失しょうしつ発作ほっさがみられた2症例しょうれい」『臨床りんしょう精神せいしん薬理やくりだい14かんだい1ごう、2011ねん1がつ、pp. 103-106、ISSN 1343-3474 (Paid subscription requiredよう購読こうどく契約けいやく)
  9. ^ Pisani F, Oteri G, Costa C, Di Raimondo G, Di Perri R (2002). “Effects of psychotropic drugs on seizure threshold.”. Drug Saf. 25 (2): pp. 91-110. PMID 11888352. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11888352. 
  10. ^ デイヴィッド・ヒーリー しる田島たじまおさむ監訳かんやく中里なかさと京子きょうこ やく『ファルマゲドン』みすず書房しょぼう、2015ねん、88ぺーじISBN 978-4-622-07907-1  Pharmageddon, 2012.
  11. ^ デュロキセチンカプセル20mg「DSEP」/デュロキセチンカプセル30mg「DSEP」 添付てんぷ文書ぶんしょ
  12. ^ 川崎かわさき博己ひろみ, 山本やまもと隆一りゅういち, 占部うらべ正信まさのぶ, ぬき周子かねこ, 田崎たさき博俊ひろとし, 高崎たかさき浩一こういちろう新規しんきこううつやくMilnacipran hydrochloride(TN-912)の脳波のうはおよび循環じゅんかんたいする作用さよう」『日本にっぽん薬理やくりがく雑誌ざっしだい98かんだい5ごう日本にっぽん薬理やくり学会がっかい、1991ねん、345-355ぺーじdoi:10.1254/fpj.98.5_345ISSN 0015-5691NAID 130000758808 

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 臨床りんしょう精神せいしん薬理やくりだい13かんだい3ごう星和せいわ書店しょてん、2010ねん3がつISSN 1343-3474 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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