ファンキー・ジャンプ

ファンキー・ジャンプ
作者さくしゃ	石原いしはら慎太郎しんたろう
国くに	日本にっぽん
言語げんご	日本語にほんご
ジャンル	短編たんぺん小説しょうせつ
発表はっぴょう形態けいたい	雑誌ざっし掲載けいさい
初出しょしゅつ情報じょうほう
初出しょしゅつ	『文學ぶんがく界かい』1959年ねん8月がつ号ごう
刊本かんぽん情報じょうほう
収録しゅうろく	『殺人さつじん教室きょうしつ』
出版しゅっぱん元もと	新潮社しんちょうしゃ
出版しゅっぱん年月日ねんがっぴ	1959年ねん12月
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『ファンキー・ジャンプ』は、石原いしはら慎太郎しんたろうの短編たんぺん小説しょうせつ。麻薬まやくの妄想もうそうのうちで人ひとを殺ころしたジャズ・ピアニストの、執拗しつような幻影げんえいの追求ついきゅうを描えがいた詩し的てきな作品さくひんである。石原いしはらは本ほん作さく発表はっぴょうの前年ぜんねんにパリのサンジェルマンでホレス・シルヴァーの演奏えんそうを聴きき、感銘かんめいを受うけたという。守安もりやす祥さち太郎たろうをモデルにした主人公しゅじんこうの日本人にっぽんじんジャズ・ピアニストの演奏えんそうする楽曲がっきょくは、ホレス・シルヴァーのアルバム『シルバーズ・ブルー』を下敷したじきにしている。

1959年ねん（昭和しょうわ34年ねん）、文芸ぶんげい雑誌ざっし『文學ぶんがく界かい』8月がつ号ごうに掲載けいさいされ、同年どうねん12月がつに新潮社しんちょうしゃより刊行かんこうされた短篇たんぺん集しゅう『殺人さつじん教室きょうしつ』に収録しゅうろくされた。

あらすじ

ブレイキーやガレスピーも絶賛ぜっさんする天才てんさいジャズ・ピアニスト・松木まつき敏夫としお（マキー）は、麻薬まやく中毒ちゅうどくだった。彼かれは恋人こいびとを殺ころした直後ちょくご、コンサートで演奏えんそうする。演奏えんそうしながらマキーは、麻薬まやくの幻覚げんかくの中なかでさまざまなことを追想ついそうし、ついには発狂はっきょうし自分じぶんを海うみの上うえを飛とび廻まわる一いち匹ひきの小ちいさな甲虫かぶとむしに変貌へんぼうさせ、壮絶そうぜつな演奏えんそうのはてに死亡しぼうする。ジャズ評論ひょうろん家か・タツノは、「こりゃ本物ほんものだ、本物ほんもののビ・バップだ」と叫さけぶ。

作品さくひん評価ひょうか・解釈かいしゃく

『ファンキー・ジャンプ』は、戦後せんご日本にっぽんに初はじめて出現しゅつげんしたモダン・ジャズ小説しょうせつとされ、石原いしはらの作品さくひんの中なかでは比較ひかく的てきに高たかく評価ひょうかされている。主人公しゅじんこうのジャズ・ピアニスト・松木まつき敏夫としお（マキー）のモデルは、1955年ねん（昭和しょうわ30年ねん）に自殺じさつした守安もりやす祥さち太郎たろうだとされ、守安もりやすにチャーリー・パーカーを重かさねて造型ぞうけいされていると指摘してきされている。

平岡ひらおか正明まさあきは『ファンキー・ジャンプ』について、「俺おれはあの小説しょうせつを評価ひょうか（か）っている」と述のべ、単たんにジャズをBGMに使つかっているような「風俗ふうぞく小説しょうせつとは類るいを異ことにする」とし、「ジャズの演奏えんそうが物語ものがたりを派生はせいさせる」と作品さくひん構成こうせい自体じたいが音楽おんがく的てきであることを解説かいせつしながら、「本物ほんもののビーバップ小説しょうせつ」だと高たかい評価ひょうかをしている。また平岡ひらおかは、石原いしはらがエリオット・グレナードの『スパロー最後さいごのジャンプ』を参考さんこうにして書かいたのではないかと推測すいそくしている。

三島みしま由紀夫ゆきおは『ファンキー・ジャンプ』を「見事みごとな傑作けっさく」だと述のべ、「現実げんじつの脱落だつらくしてゆくありさまを、言葉ことばのこのやうな脱落だつらくでとらへようとする（石原いしはら）氏しの態度たいどには、小説しょうせつ家かといふよりは一人ひとりの逆説ぎゃくせつ的てきな詩人しじんがあらはれてゐる」とし、一いち曲きょく毎ごとのジャズの題名だいめいを付つけた節ふしの構成こうせいについては、「非常ひじょうに粋いきで、卓抜たくばつなものである」と評ひょうしている。また、戦前せんぜんのモダニティー文学ぶんがくに比くらべ、この作品さくひんの特色とくしょくが「モダニティーの極致きょくちに厳粛げんしゅくなものを内包ないほうしている」とし、「次第しだいに狂きょうほしくなつてゆく主人公しゅじんこうが、麻薬まやくの陶酔とうすいと苦痛くつうの裡うらに、〈俺おれあ今いま　完璧かんぺきに近ちかいんじゃないか〉と自問じもんする件けんりには、ひどくパセティックなものがある。表現ひょうげんへの焦燥しょうそうと表現ひょうげんとの一致いっちといふ、決けっして新しんらしくはない文学ぶんがく的てき課題かだいが、かくも先鋭せんえいな神経しんけい的てき昂奮こうふんの頂点ちょうてんに、ありありと映うつし出だされたのは新しんらしい」と解説かいせつし、「（石原いしはら）氏しはあきらかに抒情詩じょじょうしを書かいた」と評ひょうしている。

また三島みしまは作中さくちゅうの、〈夕焼ゆうやけているのは俺おれたちだ〉という一いち行ぎょうを引ひきながら、石原いしはらの言葉ことばの感性かんせいについて以下いかのように評ひょうしている。

このやうなイメーヂへの直接ちょくせつの変身へんしんに、この作品さくひんの音楽おんがく的てき目的もくてきとでもいふべきものがあるのだが、それがいちいち音楽おんがくを介かいしてゐるのはいかにももどかしく、言葉ことばは、この一いち篇へんの裡うらを流ながれ高調こうちょうしてゆく「本物ほんものの音楽おんがく」「本物ほんもののビ・バップ」に対たいして、従者じゅうしゃの立場たちばに立たつてゐるにすぎない。だから計はからずしてこの作品さくひんは、完璧かんぺきな言葉ことばといふものの文学ぶんがく的てき劇画げきがになり、氏しの言葉ことばに対たいする軽侮けいぶを、ひとつの芸術げいじゅつにまで高たかめたのである。 — 三島みしま由紀夫ゆきお「解説かいせつ」（『新鋭しんえい文学ぶんがく叢書そうしょ8・石原いしはら慎太郎しんたろう集しゅう』）

関連かんれん項目こうもく

• ホレス・シルヴァー
• 守安もりやす祥さち太郎たろう
• ハワード・マギー

参考さんこう文献ぶんけん

• 『石原いしはら慎太郎しんたろうの文学ぶんがく9 短篇たんぺん集しゅうI』（付録ふろく・解説かいせつ 中森なかもり明夫あきお）（文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、2007年ねん）
• 『決定けってい版ばん 三島みしま由紀夫ゆきお全集ぜんしゅう第だい31巻かん・評論ひょうろん6』（新潮社しんちょうしゃ、2003年ねん）
• 栗原くりはら裕一郎ゆういちろう・豊崎とよさき由美ゆみ『石原いしはら慎太郎しんたろうを読よんでみた』（原はら書房しょぼう、2013年ねん）
• 平岡ひらおか正明まさあき『チャーリー・パーカーの芸術げいじゅつ』（毎日新聞社まいにちしんぶんしゃ、2000年ねん）