プラカード事件じけん

食糧しょくりょうメーデー当日とうじつの様子ようす

最高裁判所さいこうさいばんしょ判例はんれい
事件じけん名めい	不敬ふけい
事件じけん番号ばんごう	昭和しょうわ22(れ)73
1948年ねん（昭和しょうわ23年ねん）5月がつ26日にち
判例はんれい集しゅう	刑けい集しゅう　第だい2巻かん6号ごう529頁ぺーじ
裁判さいばん要旨ようし
公訴こうそ係属けいぞく中ちゅうの事件じけんについて大赦たいしゃがあったときは、裁判所さいばんしょは、単たんに免訴めんその判決はんけつをすべく、公訴こうそ事実じじつの存否そんぴ又またはその犯罪はんざいの成否せいひなどについて実体じったい上じょうの審判しんぱんを行おこなうことはできない。(大赦たいしゃがあっても、公訴こうそ事実じじつが存在そんざいせず、又または犯罪はんざいを構成こうせいしないときは、実体じったい的てき公訴こうそ権けんが発生はっせいしなかったものであるから、裁判所さいばんしょは、実体じったい上じょうの審理しんりの過程かていを踏ふんだ上じょうで無罪むざいの判決はんけつをすべきである、との少数しょうすう意見いけんあり。) 大赦たいしゃを理由りゆうとする免訴めんその判決はんけつに対たいしては、訴訟そしょう当事とうじ者しゃは、公訴こうそ事実じじつが存在そんざいせず、又または罪つみとならざることを主張しゅちょうして上訴じょうそすることはできない。(大赦たいしゃによる免訴めんその判決はんけつに対たいしても、無罪むざいの判決はんけつを求もとめるためであれば上訴じょうそすることができる、との反対はんたい意見いけんあり。) 大赦たいしゃのあった事件じけんにつき、それ以降いこうに裁判所さいばんしょが実体じったい上じょうの審理しんりを行おこない、判決はんけつの理由りゆうにおいて犯罪はんざいの成否せいひを認みとめた下級かきゅう審しんの判決はんけつは、違法いほうである。しかし、その主文しゅぶんにおいて免訴めんそをい渡いわたしているときは、あえてこれを破毀はきすべきではない。(このような違法いほう判決はんけつが下くだされた場合ばあいには、これを破毀はきして、上告じょうこく審しん自みずからが改あらためて免訴めんその判決はんけつをすべきである、との少数しょうすう意見いけんあり。)
大だい法廷ほうてい
裁判さいばん長ちょう	三さん淵ふち忠彦ただひこ
陪席ばいせき裁判官さいばんかん	塚崎つかさき直義ただよし 長谷川はせがわ太一郎たいちろう 沢田さわだ竹治郎たけじろう 霜山しもやま精一せいいち 井上いのうえ登のぼる 栗山くりやま茂しげる 真野まの毅あつし 庄野しょうの理一りいち 小谷おたに勝重かつしげ 島しま保たもつ 齋藤さいとう悠ゆう輔 藤田ふじた八郎はちろう 岩松いわまつ三郎さぶろう 河村かわむら又また介かい
意見いけん
多数たすう意見いけん	三さん淵ふち忠彦ただひこ 塚崎つかさき直義ただよし 長谷川はせがわ太一郎たいちろう 井上いのうえ登のぼる 小谷おたに勝重かつしげ 島とう保ほ 藤田ふじた八郎はちろう 岩松いわまつ三郎さぶろう 河村かわむら又また介かい
反対はんたい意見いけん	沢田さわだ竹治郎たけじろう 霜山しもやま精一せいいち 栗山くりやま茂しげる 真野まの毅あつし 庄野しょうの理一りいち 齋藤さいとう悠ゆう輔
参照さんしょう法条ほうじょう
刑訴法けいそほう363條じょう3號ごう、刑法けいほう74條じょう、恩赦おんしゃ令れい3條じょう

プラカード事件じけん（プラカードじけん）は、1946年ねん（昭和しょうわ21年ねん）5月がつに行おこなわれた飯米はんまい獲得かくとく人民じんみん大会たいかい（食糧しょくりょうメーデー）の際さい、参加さんか者しゃの日本にっぽん共産党きょうさんとう員いんが掲かかげたプラカードの記載きさい内容ないようが不敬ふけい罪ざいに当あたるとされた事件じけん。

概要がいよう

1946年ねん（昭和しょうわ21年ねん）5月19日にちの食糧しょくりょうメーデーの際さい、参加さんか者しゃの一人ひとりである日本にっぽん共産党きょうさんとう員いんの田中精機たなかせいき工業こうぎょう（現在げんざいのTNK）社員しゃいん・松島まつしま松太郎まつたろうが掲かかげた「ヒロヒト 詔書しょうしょ 曰ク 國体こくたいはゴジされたぞ 朕ちんはタラフク食くってるぞ ナンジ人民じんみん 飢うえて死しね ギョメイギョジ」（表面ひょうめん）、「働はたらいても 働はたらいても 何故なぜ私わたし達たちは飢うえねばならぬか 天皇てんのうヒロヒト答こたえて呉くれ 日本にっぽん共産党きょうさんとう田中精機たなかせいき細胞さいぼう」（裏面りめん）のプラカードが不敬ふけい罪ざいに問とわれた事件じけん。

通称つうしょう「食糧しょくりょうメーデー不敬ふけい事件じけん」とも呼よばれ、検察庁けんさつちょうは松島まつしまを刑法けいほう74条じょう違反いはんで訴追そついしたが、松島まつしま側がわは「ポツダム宣言せんげんの受諾じゅだくによって天皇てんのうの神性しんせい消滅しょうめつを受うけて不敬ふけい罪ざいは消滅しょうめつした」と主張しゅちょうして争あらそわれた。

裁判さいばん

松島まつしまは不敬ふけい罪ざいで起訴きそされたものの、GHQの「天皇てんのうといえども特別とくべつの保護ほごを受うけるべきではない」という意向いこうにより、不敬ふけい罪ざいではなく名誉めいよ毀損きそん罪ざいとすることとされ、第だい一いち審しん（東京とうきょう地方裁判所ちほうさいばんしょ昭和しょうわ21年ねん11月2日にち判決はんけつ）は不敬ふけい罪ざいを認みとめず、天皇てんのう個人こじんに対たいする名誉めいよ毀損きそん罪ざいのみが認みとめられた。後ごの控訴こうそ審しんにおいて、不敬ふけい罪ざいの成立せいりつ可能かのう性せいの認定にんていは引ひき継つがれるも、大赦たいしゃを理由りゆうに免訴めんそとなる。

控訴こうそ審しん（東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょ昭和しょうわ22年ねん6月がつ28日にち判決はんけつ）は、日本国にっぽんこく憲法けんぽう公布こうふに伴ともなう大赦たいしゃ令れいにより、免訴めんその判決はんけつを下くだした。

なお裁判官さいばんかんの職権しょっけん判断はんだんにより、

1. 新しん憲法けんぽう下かに於おいても天皇てんのうが日本にっぽんの元首げんしゅであること
2. 被告人ひこくにんは免訴めんそにより不ふ処罰しょばつとはなるが、職権しょっけん判断はんだんで改あらためて審理しんりをしたところ、公訴こうそ事実じじつとなる不敬ふけい罪ざいそのものは一応いちおう成立せいりつしていた

という2点てんを判示はんじし、このうち後者こうしゃの部分ぶぶんが、最高裁さいこうさいによって違法いほうな職権しょっけん判断はんだんと認定にんていされる。

上告じょうこく審しん（最高裁判所さいこうさいばんしょ昭和しょうわ23年ねん5月がつ26日にち大だい法廷ほうてい判決はんけつ）は、無罪むざい判決はんけつを求もとめる被告人ひこくにんの上告じょうこくを棄却ききゃくした。この最高裁さいこうさい判決はんけつは、免訴めんそ判決はんけつの法的ほうてき性質せいしつという刑事けいじ訴訟そしょう法ほう上うえの重要じゅうよう問題もんだいについての先例せんれいとなっている。つまり、刑事けいじ裁判さいばんにおいて、公訴こうそ係属けいぞく中ちゅうに大赦たいしゃがなされるという特殊とくしゅな状況じょうきょう下かにおける当該とうがい裁判さいばんの取とり扱あつかいについてのリーディングケースとしての価値かちを持もつこととなった。

本ほん判決はんけつにおいて、最高裁さいこうさいが下くだした判決はんけつ要旨ようしは3つあり、

1. 公訴こうそ係属けいぞく中ちゅうに大赦たいしゃがあった場合ばあい、裁判所さいばんしょは不ふ告つげ不ふ理りの原則げんそくに基もとづき、ただ免訴めんその判決はんけつをするだけで足たり、公訴こうそ事実じじつの存否そんぴや犯罪はんざいの成否せいひなどについて、それ以上いじょう、実体じったい上じょうの審判しんぱんを行おこなうことはできないということ。
2. これに基もとづき、大赦たいしゃが理由りゆうとなった免訴めんその場合ばあい、その時点じてんで、被告人ひこくにんや検察官けんさつかんが、それ以上いじょう、公訴こうそ事実じじつの存否そんぴや犯罪はんざいの成否せいひを争あらそうべく上訴じょうそを行おこなうことはできないということ。
3. 大赦たいしゃは、平ひらたく言いえば、その時点じてんでの裁判さいばんの打うち切きりと、すみやかに免訴めんそ判決はんけつを下くだすことで被告人ひこくにんへの不ふ処罰しょばつを決定けっていさせるべきものであるから、大赦たいしゃがなされた後のちにおいて、なおも審理しんりを継続けいぞくし、まして犯罪はんざいの成立せいりつを認定にんていすることは違法いほうである。

というものであった。

3. に関かんしては、大赦たいしゃをされた後のちにおいても審理しんりを継続けいぞくして犯罪はんざいの成立せいりつを決定けっていした控訴こうそ審しんにおける職権しょっけん判断はんだんは違法いほうであったが、その主文しゅぶんにおいてはきちんと免訴めんそ判決はんけつとしており、結果けっか的てきに被告人ひこくにんは不ふ処罰しょばつとなったわけであるから、この犯罪はんざいの成立せいりつ決定けっていの部分ぶぶんに関かんして、直ただちに決定けっていの破棄はきをすると言いうほどではない、という判示はんじをした。

この上告じょうこく審しんは重要じゅうよう判例はんれいとして、後のちに最高さいこう裁判所さいばんしょ刑事けいじ判例はんれい集しゅう2巻かん6号ごう529頁ぺーじに掲載けいさいされるとともに、調査官ちょうさかん解説かいせつも付ふされている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 横坂よこさか健治けんじ 「天皇てんのうと不敬ふけい罪ざい」『憲法けんぽう判例はんれい百ひゃく選せんII 第だい5版はん』（有斐閣ゆうひかく、2007年ねん）366頁ぺーじ
• 「免訴めんそ判決はんけつの性質せいしつ」『刑事けいじ訴訟そしょう法ほう判例はんれい百ひゃく選せん』（有斐閣ゆうひかく、2005年ねん）236頁ぺーじ
• 長島ながしま平たいら洋ひろし「諷刺ふうしの笑わらいとその応答おうとう : 不敬ふけい罪ざいを軸じくに I」『笑わらい学がく研究けんきゅう』第だい17巻かん、日本にっぽん笑わらい学会がっかい、2010年ねん、3-15頁ぺーじ、doi:10.18991/warai.17.0_3、ISSN 2189-4132、NAID 110007681575。 
• 長島ながしま平たいら洋ひろし「諷刺ふうしの笑わらいとその応答おうとう : 不敬ふけい罪ざいを軸じくに II」『笑わらい学がく研究けんきゅう』第だい18巻かん、日本にっぽん笑わらい学会がっかい、2011年ねん、3-13頁ぺーじ、doi:10.18991/warai.18.0_3、ISSN 2189-4132、NAID 110008712984。 
• 松島まつしま松太郎まつたろう「証言しょうげん:日本にっぽんの社会しゃかい運動うんどう 食糧しょくりょうメーデーと天皇てんのうプラカード事件じけん(1)松島まつしま松太郎まつたろう氏しにきく」『大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ雑誌ざっし』第だい534号ごう、法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ、2003年ねん5月がつ、36-52頁ぺーじ、ISSN 09129421、NAID 40005756331。 
• 松島まつしま松太郎まつたろう「証言しょうげん:日本にっぽんの社会しゃかい運動うんどう 食糧しょくりょうメーデーと天皇てんのうプラカード事件じけん(2)松島まつしま松太郎まつたろう氏しに聞きく」『大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ雑誌ざっし』第だい535号ごう、法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ、2003年ねん6月がつ、55-71頁ぺーじ、ISSN 09129421、NAID 40005829229。 
• 松島まつしま松太郎まつたろう「証言しょうげん:日本にっぽんの社会しゃかい運動うんどう 食糧しょくりょうメーデーと天皇てんのうプラカード事件じけん(3・完かん)松島まつしま松太郎まつたろう氏しに聞きく」『大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ雑誌ざっし』第だい537号ごう、法政大学ほうせいだいがく大原おおはら社会しゃかい問題もんだい研究所けんきゅうじょ、2003年ねん8月がつ、54-71頁ぺーじ、ISSN 09129421、NAID 40005888049。  インタビューは1988年ねんと1989年ねんにおこなわれたもの。

外部がいぶリンク

• 『プラカード事件じけん』 - コトバンク