ランドセル

ランドセル（蘭らん: ransel）^{[注ちゅう 1]}は、日本にっぽんの多おおくの小学生しょうがくせいが通学つうがく時ときに教科書きょうかしょ、ノートなどを入いれて背負せおう鞄かばん（かばん）である。

歴史れきし

江戸えど時代じだい（幕末ばくまつ）、幕府ばくふが洋式ようしき軍隊ぐんたい制度せいど（幕府ばくふ陸軍りくぐん）を導入どうにゅうする際さい、将兵しょうへいの携行けいこう物ぶつを収納しゅうのうするための装備そうび品ひんとして、オランダからもたらされた背嚢はいのう（はいのう、バックパック）のオランダ語ご呼称こしょう「ransel（オランダ語ご版ばん）」（「ランセル」または「ラヌセル」）がなまって「ランドセル｣になったとさる^[1]^[2]^[3]。幕末ばくまつの教練きょうれん書しょである『歩ふ操みさお新式しんしき』の元治もとはる元年がんねん（1864年ねん）版ばん（求もとめ實み館かん蔵板ぞうはん）にも「粮嚢」の文字もじに「ラントセル」の振ふり仮名がなが付ふされているほか、画像がぞうとしては一柳いちりゅう斎ひとし国こく孝こう（歌川うたがわ国こく孝こう）筆ふでの双六すごろく『調練ちょうれん仕方しかた出世しゅっせ寿ことぶき語ご禄ろく』（版元はんもと：大黒屋だいこくや金きむ三郎さぶろう）に描えがかれている、韮山にらやま笠かさを被こうむった兵士へいしが背負せおっている鞄かばんがそれとみられる。これは昭和しょうわ前期ぜんきまでの通学つうがく用ようランドセルに形状けいじょうがよく似にており、この背嚢はいのうがルーツであることがわかる

明治めいじ時代じだい以降いこう、本格ほんかく的てきな洋式ようしき軍隊ぐんたいとして建けん軍ぐんされた帝国ていこく陸軍りくぐんにおいても、歩兵ほへいなど徒歩とほ本分ほんぶん者しゃたる尉官いかんや准じゅん士官しかん、見習みならい士官しかん^{[注ちゅう 2]}、および下士官かしかん以下いか用ようとして革かわ製せいの背嚢はいのうが採用さいようされた。

通学つうがく鞄かばんとしての利用りようは、官立かんりつの模範もはん小学校しょうがっこうとして開校かいこうした学習がくしゅう院いん初等しょとう科かが起源きげんとされている。創立そうりつ間あいだもない1885年ねん（明治めいじ18年ねん）、学習がくしゅう院いんは「教育きょういくの場ばでの平等びょうどう」との理念りねんから馬車ばしゃ・人力車じんりきしゃによる登校とうこうを禁止きんし、学用品がくようひんは召使めしつかいではなく生徒せいと自身じしんが持もち登校とうこうすると定さだめたことから、通学つうがく鞄かばんとしてランセルが導入どうにゅうされた^[4]。

1887年ねん（明治めいじ20年ねん）、当時とうじ皇太子こうたいしであった嘉よしみ仁じん親王しんのう（後ごの大正天皇たいしょうてんのう）の学習がくしゅう院いん初等しょとう科か入学にゅうがくに際さいして、伊藤いとう博文ひろぶみが祝いわい品ひんとして帝国ていこく陸軍りくぐんの将校しょうこう背嚢はいのうに倣ならった鞄かばんを帝室ていしつに献上けんじょう、これに近ちかい形状けいじょうが現代げんだいのランドセルの基礎きそとされる^[4]。革かわを使つかっているため高級こうきゅう品ひんであり、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん前まえは都市とし部ぶの富裕ふゆう層そうの間あいだで用もちいられることが多おおく、地方ちほうや一般いっぱん庶民しょみんの間あいだでは風呂敷ふろしきや安価あんかな布ぬの製せいショルダーバッグ等とうが主おもに用もちいられていた。ランドセルが全国ぜんこくに普及ふきゅうしたのは戦後せんごの昭和しょうわ30年代ねんだい以降いこう、高度こうど経済けいざい成長せいちょう期きを迎むかえ、人工じんこう皮革ひかくが登場とうじょうした頃ころからと言いわれる^[1]^[4]。

現代げんだい日本にっぽんのランドセル

素材そざいは近年きんねんでは軽かるさや丈夫じょうぶさ、手入ていれの簡単かんたんさなどの要望ようぼうから、人工じんこう皮革ひかくのクラリーノ製せいが主流しゅりゅうで、約やく7割わりを占しめている^[1]。その他たには牛革ぎゅうかわなどがあり、コードバン（馬うま革かわ）のような高級こうきゅう素材そざいもある^[5]。

デザインについては主流しゅりゅうである上蓋あげぶたが鞄かばんの下したまで覆おおう従来じゅうらいの学習がくしゅう院いん型がた以外いがいにも、上蓋あげぶたが通常つうじょうの半分はんぶん程度ていどの長ながさのものや横型よこがたのものも登場とうじょうしている。また、教科書きょうかしょのページ数すう増加ぞうか、タブレット端末たんまつの導入どうにゅうにより、大型おおがたのランドセルの需要じゅようが高たかまっている^[4]が、メーカーで対応たいおうが分わかれている^[6]。タブレットの破損はそんを防ふせぐため専用せんようスペースを設もうけるメーカーもある^[5]。2022年ねん時点じてんでは素材そざいや構造こうぞうの工夫くふうによりランドセル自体じたいは軽量けいりょう化かが進すすんでいるが、中身なかみの重量じゅうりょうが増加ぞうかしている。フットマークの調査ちょうさによると小学校しょうがっこう1～3年生ねんせいが背負せおうランドセルは平均へいきんで3.97kgにも達たっしており、肩かたこりや腰痛ようつうといった身体しんたいへの影響えいきょうや、重おもい荷物にもつを背負せおうことへの拒否きょひ感かんから登校とうこう時じに抑そもそもうつ状態じょうたいとなる「ランドセル症候群しょうこうぐん」が増加ぞうかしている^[7]。同社どうしゃの調査ちょうさによると2022年ねん時点じてんでは、教科書きょうかしょなど入いれる中身なかみを含ふくめた平均へいきん重量じゅうりょうは4.28kgと更さらに重おもくなった^[8]。

かつては色いろは男子だんしは黒色こくしょく^[9]、女子じょしは赤色あかいろが主流しゅりゅうで^[10]、その他た、ピンク、茶色ちゃいろ、紺色こんいろ、緑色みどりいろ、青色あおいろなどカラフルな色いろのものや、複数ふくすうの色いろを組くみ合あわせた物ものは少すくなかった。これら、黒くろや赤あか以外いがいのカラーランドセルは1960年ねん頃ごろには既すでに存在そんざいしていたが、当時とうじはほとんど売うれず、売うれ始はじめたのは2000年代ねんだいに入はいってからという^[1]。一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん日本にっぽん鞄かばん協会きょうかいランドセル工業こうぎょう会かいの2018年ねんから2020年ねんの調査ちょうさによると、男児だんじでは毎年まいとし70%近ちかくが黒色こくしょくであり15%程度ていどが紺色こんいろで、黒色こくしょく一色いっしょくが売上うりあげの大だい部分ぶぶんを占しめている^[11]^[12]^[13]。一方いっぽうで、女児じょじでは赤色あかいろ、桃色ももいろ、紫色むらさきいろがそれぞれ20%前後ぜんごを占しめており、圧倒的あっとうてきな色いろがなく分散ぶんさんしている^[11]^[12]^[13]。入学にゅうがく前年ぜんねんの7月がつごろから売うれ始はじめるなど吟味ぎんみのために早期そうき化かしており、このような活動かつどうは「ラン活かつ」とも呼よばれるようになった^[14]^[4]。

ランドセル製作せいさくの大だい部分ぶぶんは手作業てさぎょうで行おこなわれ、1体たいに用もちいられる部品ぶひんは金具かなぐも入いれて100個こ以上いじょうとなる。肩かた紐ひもだけでも表ひょう材ざい・裏うら材ざい・ウレタンの型かた抜ぬき、加工かこう（糊付のりづけ・くるみ）、穴あな開あけ、ミシンがけ、かしめ、手縫てぬいと10工程こうてい以上いじょうが必要ひつようとなる^[1]。複数ふくすうのメーカーがあり（後述こうじゅつ）、前述ぜんじゅつの日本にっぽん鞄かばん協会きょうかいランドセル工業こうぎょう会かいはその各社かくしゃによる業界ぎょうかい団体だんたい^[8]。

新入しんにゅう学生がくせいに対たいし交通こうつう安全あんぜん協会きょうかい等ひとしから交通こうつう安全あんぜんを目的もくてきとした蛍光けいこう色しょくのカバーを寄贈きぞうしている地域ちいきも多おおく、1年生ねんせいの間あいだはランドセルにこのカバーを掛かけて通学つうがくさせる市町村しちょうそんが多おおく見みられる^{[注ちゅう 3]}。一方いっぽうで、不審ふしん者しゃに対たいし新しん1年生ねんせいと知しらしめることにもなるとの理由りゆうで、名札なふだの廃止はいしと同時どうじにカバーを掛かけさせないことを推奨すいしょうする地域ちいきもある。

価格かかく

日本にっぽん鞄かばん協会きょうかいランドセル工業こうぎょう会かいは2018年ねんから平均へいきん購入こうにゅう価格かかくを調査ちょうさしており、2024年ねん4月がつ入学にゅうがく分ぶんでは5万まん9138円えんと2018年ねん比ひで約やく7800円えん増ふえている^[8]。少子化しょうしかに伴ともない、子供こども一いち人にんあたりへの使つかう金額きんがくが高たかくなっていることなどが影響えいきょうしている^[8]。1970年代ねんだいには6000円えんで販売はんばいされていたが、2014年ねんには福岡ふくおか県けんのかばん店てんの例れいで4万まん円えん程度ていどからの販売はんばいと値上ねあがりしており、これが低てい所得しょとく層そうにとって負担ふたんとなっている^[15]。

一方いっぽうで、近年きんねんは新品しんぴんであってもネット通販つうはんで安やすく購入こうにゅうできるようになっており、Amazonなどでは1万まん円えん以下いかで購入こうにゅうできるランドセルもある^[16]。昔むかしは実じつ店舗てんぽで高額こうがくのランドセルしか購入こうにゅうする選択肢せんたくしがなかったが、今いまはネット通販つうはんの普及ふきゅうとともに安価あんかなランドセルも手軽てがるに入手にゅうしゅできるようになっている^[17]。

多様たよう化か

少子化しょうしか傾向けいこうのため各かくメーカーは多様たような製品せいひんを開発かいはつしている^[1]。2005年ねんごろから、半はん被かぶせランドセルのマチ部分ぶぶんの厚あつみを薄うすくした「塾じゅくバッグ」と称しょうするランドセルも販売はんばいされている。高級こうきゅうな革かわ素材そざいで丈夫じょうふで長持ながもちする丁寧ていねいな仕上しあげ、子供こども用ようと大人おとな用ようの背負せおい紐ひもを交換こうかんして、長ながく使つかってもらおうとするもの、デザイナーによる大人おとなのためにデザインされた半はん被かぶせ型がたのランドセルなども登場とうじょうした。一方いっぽう、革かわ製せいでなく、帆布ほぬのを使つかったランドセルも過去かこに中学校ちゅうがっこうの指定してい鞄かばんだったものが復刻ふっこくされ、大人おとなのランドセルとして販売はんばいされているものもある。

また、私立しりつ・国立こくりつの小学校しょうがっこうでは指定していのランドセルを使つかわせていることが比較的ひかくてき多おおい（男女だんじょ共通きょうつうの鞄かばんに校章こうしょうを箔押はくおしもしくは型かた押おししたものが多おおい）。また、ランドセルとリュックサックの中なか間あいだ的てきな形かたちの合成ごうせい繊維せんい製せいのランサックなどがある。代表だいひょう的てきなものに、京都きょうと府ふなどで使つかわれている「ランリック（ランリュック）」や、北海道ほっかいどう小樽おたる市しで使つかわれている「ナップランド」などがある。また1970年代ねんだいにいったんランドセルを廃止はいしした自治体じちたい（兵庫ひょうご県けん西宮にしのみや市し、埼玉さいたま県けん富士見ふじみ市しなど）が復活ふっかつさせた例れいもある。

また、大手おおて私鉄してつ系けいの百貨店ひゃっかてんでは各社かくしゃのイメージカラーを用もちいたり、フラッグシップ車両しゃりょうをモチーフとしたランドセルを発売はつばいしている（阪急百貨店はんきゅうひゃっかてんでの阪急はんきゅうマルーン色いろ、近鉄百貨店きんてつひゃっかてんでの「しまかぜ」「ひのとり」、東武百貨店とうぶひゃっかてんでの「スペーシアX」をモチーフにしたものなど^[18]）。

軽量けいりょう化かやランドセル以外いがいへの切きり替かえ

上記じょうきのように、ランドセルは子供こどもの身体しんたいや家計かけいに負担ふたんになっている面めんもある。このためメーカーは素材そざいの変更へんこうなどで軽量けいりょう化かを進すすめつつ、6年間ねんかん使つかい続つづけられる耐久たいきゅう性せいも必要ひつようと理解りかいを求もとめている^[8]。

指定してい通学つうがくかばんを、ランドセルに限定げんていしない地方自治体ちほうじちたいや学校がっこうもある^[8]。東京とうきょう都と足立あだち区くの教育きょういく委員いいん会かいはランドセルではない軽かるいかばんも可かとする通知つうちを2023年ねん1月がつに出だしたほか、山口やまぐち県けん防府ほうふ市しや岡山おかやま県けん備前びぜん市しはリュックサックを無償むしょう配布はいふした^[8]。リュックサック型がたへの変更へんこうのほか、キャリーカートなどの利用りようという対策たいさくもある^[19]^[7]。

島根しまね県けん出雲いずも市しの一部いちぶ地域ちいきでも、ランドセルを廃止はいししたり、自治体じちたいが新入生しんにゅうせい全員ぜんいんに配布はいふしたり、寄贈きぞうされた中古ちゅうこ品ひんを補修ほしゅうして譲渡じょうとする例れいもある^[5]^[20]。

ファッションとしての広ひろがり

1982年ねんに戸川とがわ純じゅんは、自みずからのライブステージに紺色こんいろのプリーツの吊つりスカートに赤あかいランドセルという姿すがたで現あらわれ一いち世せいを風靡ふうびした。その後ご1997年ねんごろに、タレントの篠原しのはらともえが、ランドセルをファッションとして採とり入いれた。

インテリアとして、過去かこに使つかっていたランドセルを子こどもの頃ころの思おもい出でとして残のこしておきたいとの需要じゅようから「ミニランドセル」として小型こがたに再さい加工かこうするビジネスも存在そんざいする。

2014年ねん3月がつ頃ごろ、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく（米国べいこく）の女優じょゆうズーイー・デシャネルが赤あかいランドセルを背負せおった写真しゃしんが出回でまわり、若わかい人ひとたちの間あいだでもランドセルを身みに着つけることがブームとなりつつある^[21]。

近年きんねんでは、上記じょうきの米国べいこく女優じょゆうによるブーム拡散かくさんに加くわえ、日本にっぽんのアニメ作品さくひんなどを通つうじてランドセルの存在そんざいを知しった外国がいこく人じんが、日本にっぽん旅行りょこう時じに土産みやげとして購入こうにゅうし持もち帰かえる例れいが増ふえており、空港くうこうの免税めんぜい店てんなど、外国がいこく人じん向むけの商店しょうてんで売うられていることもある^[22]。