中山なかやま忠光ただみつ

凡例はんれい 中山なかやま 忠光ただみつ
中山なかやま忠光ただみつ 肖像しょうぞう写真しゃしん
時代じだい	江戸えど時代じだい後期こうき
生誕せいたん	弘ひろし化か2年ねん4月がつ13日にち（1845年ねん5月18日にち）
死没しぼつ	元治もとはる元年がんねん11月15日にち（1864年ねん12月13日にち）
改名かいめい	忠光ただみつ→森もり俊斎しゅんさい
墓所はかしょ	山口やまぐち県けん下関しものせき市しの中山なかやま神社じんじゃ境内けいだい
官位かんい	従したがえ四よん位い下か侍従じじゅう、贈おく正せい四よん位い
主君しゅくん	孝明天皇こうめいてんのう
氏族しぞく	中山なかやま家か
父母ちちはは	父ちち：中山なかやま忠能ただやす、母はは：愛子あいこ（松浦まつうら清きよしの11女じょ） 養父ようふ： 中山なかやま忠ただし愛あい
兄弟きょうだい	忠ちゅう愛あい、慶子けいこ、正親町おおぎまち公こう董ただし、栄子えいこ、忠光ただみつ、他た
妻つま	妾わらわ：恩地おんちトミ
子こ	南みなみ加か

中山なかやま 忠光ただみつ（なかやま ただみつ）は、江戸えど時代じだい後期こうき（幕末ばくまつ期き）の公家くげ。極官きょっかんは従したがえ四よん位い下か侍従じじゅう。過激かげきな攘夷じょうい論者ろんしゃであり、天誅てんちゅう組ぐみの変へんを起おこしたが敗やぶれ、後のちに暗殺あんさつされた。

生涯しょうがい

中山なかやま忠光ただみつ
『近世きんせい文武ぶんぶ英雄えいゆう伝でん』（大だい蘇芳すおう年ねん〈月岡つきおか芳年よしとし〉画が）

参議さんぎ中山なかやま忠能ただやすの七なな男おとことして生うまれる。母ははは平戸ひらど藩はん主おも・松浦まつうら清きよしの娘むすめ愛子あいこ。孝明天皇こうめいてんのうの典侍てんじ中山なかやま慶子けいこは同母どうぼ姉あねであり、その子この祐ゆう宮みや睦あつし仁じん親王しんのう（明治天皇めいじてんのう）にとって忠光ただみつは叔父おじにあたる。長兄ちょうけい中山なかやま忠ただし愛あいの養子ようしとなっている。

睦むつみ仁じん親王しんのうは5歳さいまで中山なかやま家かで育そだてられており、忠光ただみつは最もっとも近ちかしい公家くげの一人ひとりであった。1858年ねん（安政あんせい5年ねん）に侍従じじゅうに任官にんかんし、1860年ねん（万延まんえん元年がんねん）には睦むつみ仁じん親王しんのうへの伺候しこうを命めいじられた。中山なかやま家かは祐ゆう宮みや誕生たんじょうの際さいに産屋うぶやを建たてる金かねが無なく、多額たがくの借金しゃっきんをした。宮廷きゅうていも貧まずしく、祐ゆう宮みやの質素しっそな生活せいかつが忠光ただみつの王政おうせい復古ふっこを掲かかげた過激かげきな攘夷じょうい論ろんに火ひを付つけたと思おもわれる。実父じっぷ・忠能ただやすは議ぎ奏そうの役職やくしょくにある朝廷ちょうてい政治せいじの重要じゅうよう人物じんぶつであり、忠光ただみつはその元もとに出入でいりする真木まき保たもつ臣しん、武市たけいち瑞みずほ山さん、久坂くさか玄げん瑞みず、吉村よしむら虎太郎とらたろうら尊王そんのう攘夷じょうい派はの志士ししと親したしく交まじわり、過激かげきな尊攘そんじょう派はとなっていった。

過激かげき攘夷じょうい活動かつどう

文久ぶんきゅう3年ねん（1863年ねん）2月がつ、朝廷ちょうていに国事こくじ寄人よりうどが新設しんせつされると19歳さいでこれに加くわえられた。2月9日にちには攘夷じょういの障害しょうがいであると考かんがえた岩倉いわくら具視ともみと千種ちくさ有ゆう文ぶんの暗殺あんさつ計画けいかくを轟とどろき武たけ兵衛ひょうえ・久坂くさか玄げん瑞みず・寺島てらしま忠三郎ちゅうざぶろうに打うち明あけ、協力きょうりょくが得えられなければ一人ひとりでも実行じっこうすると述のべた。久坂ひささからから相談そうだんを受うけた武市たけいち瑞みずほ山さんは、二人ふたりはすでに譴責けんせきを受うけている身みであるから暗殺あんさつは道理どうりに合あわないと反対はんたいし、代かわって轟とどろきらによる関白かんぱく鷹司たかつかさ輔煕への建白けんぱく書しょ提出ていしゅつで話はなしを収おさめた。

3月19日にち、忠光ただみつは密ひそかに京都きょうとを脱だっして長州ちょうしゅう藩はんに身みを投とうじた。このため3月がつ30日にちには官位かんいと国事こくじ寄人よりうどの職しょくを返上へんじょうすることとなった。このため長州ちょうしゅうでは森もり俊斎しゅんさい（秀しゅう斎とき）と改名かいめいし、久坂くさか玄げん瑞みずが率ひきいる光明寺こうみょうじ党とうの党首とうしゅとして下関しものせきにおける外国がいこく船せん砲撃ほうげきに参加さんかした。7月5日にちには京都きょうとに戻もどり、東ひがし久世くせ通どおり禧や烏丸からすま光徳みつのりらと連絡れんらくを取とった。7月18日にち、水戸みと藩はん士し吉成よしなり勇太郎ゆうたろうらと面談めんだん。生野いくのの変へんに参加さんかした水戸みと藩士はんし関口せきぐち泰次郎たいじろう等ひとしを、長州ちょうしゅうへ送おくる計画けいかくについて話はなした。忠光ただみつの過激かげきな行動こうどうに困惑こんわくした実父じっぷの忠能ただやすは武家ぶけ伝奏てんそう野宮のみや定じょう功いさおに忠光ただみつの処分しょぶんについて訪たずねたが、野宮のみやは「忠能ただやすが厳きびしく叱しかり、家いえから出ださないようにする他ほかない」と答こたえている。

8月がつ13日にちに大和やまと行幸ぎょうこうの詔みことのり（みことのり）が出だされると、忠光ただみつは「攘夷じょうい実行じっこうが求もとめられているなか、それに応こたえる行動こうどうをせず引ひき籠こもっていることはできない」とい残いのこして8月がつ14日にちに家いえを飛とび出だした。攘夷じょうい先鋒せんぽうの勅命ちょくめいを奉ほうじる組織そしきとして京都きょうとにて『天誅てんちゅう組ぐみ』を立たち上あげ、大和やまと国こく五條ごじょう代官だいかん所しょに打うち入はいって挙兵きょへいした（天誅てんちゅう組ぐみの変へん）。

しかし八はち月がつ十じゅう八はち日にちの政変せいへんによって京都きょうとの尊攘そんじょう過激かげき派はは一掃いっそうされ、幕府ばくふにより鎮圧ちんあつを命めいじられた彦根ひこね藩はんや紀伊きい藩はん兵へいから逆賊ぎゃくぞくとして追討ついとうされる事こととなる。8月28日にちには忠能ただやすは忠光ただみつを義絶ぎぜつしている。9月24日にち、吉野よしの鷲家わしか口こうで幕府ばくふ軍ぐんによる大だい規模きぼな包囲ほうい網もうに捕捉ほそくされ、天誅てんちゅう組ぐみは壊滅かいめつした。それでも那須なす信吾しんご、宍戸ししど弥四郎やしろうら天誅てんちゅう組ぐみの志士しし達たちの決死けっしの奮闘ふんとうのおかげで、忠光ただみつは奇跡きせき的てきに幕府ばくふ軍ぐんの包囲ほうい網もうを抜ぬける事ことに成功せいこうし、大坂おおさかへ脱出だっしゅつした後のち、長州ちょうしゅうに逃のがれた。

幽かそけ居きょと死し

長州ちょうしゅう藩はんは忠光ただみつの身柄みがらを支ささえ藩はんの長ちょう府ふ藩はんに預あづけて保護ほごしたが、江戸えど幕府ばくふ方かたの密偵みっていに隠かくれ家がを突つき止とめられたため、忠光ただみつと侍さむらい妾わらわであった現地げんち女性じょせいの恩地おんちトミ、長ちょう府ふ藩はんから派遣はけんされた従者じゅうしゃ2人にんで響灘ひびきなだ沿ぞいの山間さんかん部ぶの庄屋しょうやや寺てらを転々てんてんとする。その頃ころトミの妊娠にんしんが分わかり、実家じっかから母ははチセを呼よび寄よせて助たすけを受うけながら、忠光ただみつと行動こうどうを共ともにする。

元治もとはる元年がんねん（1864年ねん）の禁門きんもんの変へん、下関しものせき戦争せんそう、第だい一いち次じ長州ちょうしゅう征伐せいばつによって藩はん内ない俗論ぞくろん派はが台頭たいとうすると、同年どうねん11月15日にちの夜よるに長ちょう府ふ藩はんの豊浦とようら郡ぐん田耕たすき村むら（現げん、下関しものせき市し）で5人にんの刺客しかくによって暗殺あんさつされた。享年きょうねん20（満まん19歳さい6ヶ月かげつ）。長ちょう府ふ藩はんでは「忠光ただみつは発病はつびょうして投薬とうやくの効こうなく10日とおか後ごの15日にちに死亡しぼう、綾羅木あやらぎの丘おかに埋葬まいそうした」と発表はっぴょうした。

死後しご

墓所はかしょは山口やまぐち県けん下関しものせき市しの中山なかやま神社じんじゃ境内けいだいにある。明治めいじ3年ねん10月がつ5日にち（1870年ねん10月29日にち）、毛利もうり敬たかし親おや・毛利もうり元もと徳とく父子ふしの奏請そうせいにより、忠光ただみつは生前せいぜんの官位かんいを復ふくされ、その上うえで正せい四よん位いの贈位ぞういを受うけた。また祭まつり粢しとぎ料りょうとして300両りょうを下賜かしされた。

なお、長ちょう府ふ藩主はんしゅ毛利もうり元もと敏さとしが叙爵じょしゃくの際さいに子爵ししゃくにとどまったのは忠光ただみつを殺害さつがいしたためという説せつがあるが、旧きゅう大名だいみょうの爵位しゃくいは原則げんそくとして華族かぞく制度せいど発効はっこう時じの所領しょりょう実収じっしゅうに拠より定さだめられ、現げん米こめ5万まん石せき未満みまんは子爵ししゃくと規定きていされていた。同おなじ長州ちょうしゅう藩はんの支ささえ藩はんである徳山とくやま藩はん主家しゅかの毛利もうり元もと功こう、清末きよすえ藩はん主家しゅかの毛利もうり元忠もとただもいずれも子爵ししゃくであり、長ちょう府ふ藩主はんしゅ家かが叙爵じょしゃくにあたって特とくに冷遇れいぐうされたわけではない。

人物じんぶつ

忠光ただみつは筋骨きんこつたくましい美び青年せいねんで、天誅てんちゅう組ぐみの主将しゅしょうとして引眉ひきまゆ・お歯黒はぐろの化粧けしょうをし、太刀たちを付つけて馬上もうえにある都と下くだりの役者やくしゃのような姿すがたに、大和やまと国こくの人々ひとびとは熱狂ねっきょうしたという。白石しらいし正一郎しょういちろうの日記にっきによれば、忠光ただみつは気きに入いらない事ことがあれば絶食ぜっしょくし、腹はらを立たてれば家いえを飛とび出だす激情げきじょう家かで、彼かれの激論げきろんを周辺しゅうへんがしばしば持もて余あました事ことが記しるされている。

子孫しそん

長ちょう府ふ藩はん潜伏せんぷく中ちゅう、トミは忠光ただみつ死し後ごに唯一ゆいいつの遺児いじとなる娘むすめ・南みなみ加かを産うむ。南みなみ加かは中ちゅう山家やまがに引ひき取とられたのち、中山なかやま家かと縁えんの深ふかい嵯峨さが家かに嫁とつぐ。南みなみ加かの孫まごで忠光ただみつの曾孫そうそんにあたる浩ひろしは、清朝せいちょう最後さいごの皇帝こうていでのちに満州まんしゅう国こく皇帝こうていとなった愛あい新しん覚さとし羅ら溥儀ふぎの弟おとうとである溥傑に嫁とついだ。

参考さんこう文献ぶんけん

• 栗田くりた藤平ふじひら『雷鳴らいめい福岡ふくおか藩はん』 弦つる書房しょぼう、2004年ねん
• やすおか史し誌し編輯へんしゅう委員いいん会かい編へん、『やすおか史し誌し』、下関しものせき市し安岡やすおか合併がっぺい五ご十じゅう周年しゅうねん実行じっこう委員いいん会かい、1990年ねん。
• 山田やまだ風かぜ太郎たろう『人間にんげん臨終りんじゅう図ず巻まき』徳間書店とくましょてん、1986年ねん。
• 楠くすのき戸と義昭よしあき「恩地おんじトミ――「流転るてんの王妃おうひ」につながる悲劇ひげきの女系じょけい」『続ぞく 維新いしんの女おんな』毎日新聞社まいにちしんぶんしゃ、1993年ねん、106-110頁ぺーじ。ISBN 4-620-30948-6。 
• 佐々木ささき克かつ. "中山なかやま忠光ただみつ". 日本にっぽん大だい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ). コトバンクより2023年ねん10月がつ19日にち閲覧えつらん。
• 刑部おさかべ芳則よしのり『公家くげたちの幕末ばくまつ維新いしん-ペリー来航らいこうから華族かぞく誕生たんじょうへ』中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ〈中公新書ちゅうこうしんしょ〉、2018年ねん。ISBN 978-4121024978。