京都きょうと学がく連れん事件じけん

京都きょうと学がく連れん事件じけん（きょうとがくれんじけん）は1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）12月がつ以降いこう、京都きょうと帝国ていこく大学だいがくや同志社大学どうししゃだいがくなどでマルクス主義まるくすしゅぎの研究けんきゅうサークルが弾圧だんあつ・粛清しゅくせいされた事件じけん。日本にっぽん内地ないちで初はじめて治安ちあん維持いじ法ほうが適用てきようされた。

経緯けいい

背景はいけい

1910年代ねんだい前半ぜんはんより、各かく大学だいがく・高校こうこう・専門せんもん学校がっこうなどでは社会しゃかい科学かがく研究けんきゅう会かい（社しゃ研けん）が組織そしきされ、1924年ねん9月には49校こうの社しゃ研けんが参加さんかする学生がくせい社会しゃかい科学かがく連合れんごう会かい（学がく連れん）が発足ほっそくした。学がく連れんは瞬またたく間まに会員かいいん1600名めいを擁ようする大だい組織そしきに成長せいちょうし、マルクス主義まるくすしゅぎの普及ふきゅう・研究けんきゅうを標榜ひょうぼうするとともに労働ろうどう争議そうぎや労働ろうどう者しゃ教育きょういく運動うんどう（京都きょうと労働ろうどう学校がっこうなど）への支援しえんを積極せっきょく的てきに行いった。しかし、学生がくせいらの活動かつどうは警察けいさつの注意ちゅういを引ひき、妨害ぼうがいを受うけることが多おおくなった。

検挙けんきょ

1925年ねん11月15日にち、同志社大学どうししゃだいがく構内こうないの掲示板けいじばんに軍事ぐんじ教育きょういく反対はんたい運動うんどうのビラが貼はられているのが見みつかった。京都きょうと府警ふけい察部特高とっこう課かはこれを好機こうきとみて、京都きょうと帝みかど大だい・同志社大どうししゃだいなどの社しゃ研けん会員かいいんの自宅じたく・下宿げしゅくなどを急襲きゅうしゅう、家宅かたく捜索そうさくおよび学生がくせい33名めいを検束けんそくした。しかし川端かわばた署しょの刑事けいじが京大きょうだい寄宿舎きしゅくしゃに大学だいがく側がわに無断むだんであがりこみ、本人ほんにん不在ふざい、立会たちあい人じん不在ふざいの家宅かたく捜索そうさくを行おこなったため、京大きょうだい当局とうきょくの抗議こうぎに遭あい府知事ふちじが陳謝ちんしゃした。12月7日にちまでに全員ぜんいんが釈放しゃくほう。

しかしその後ご、司法省しほうしょうを中心ちゅうしんに本格ほんかく的てき検挙けんきょに向むけて態勢たいせいが立たて直なおされ、翌よく1926年ねん1月がつ15日にちには東京とうきょう検事けんじ局きょくの平田ひらた勲いさおらが指揮しきを執とり、記事きじ報道ほうどうを差さし止とめた上うえで各かく府県警ふけんけい察部特高とっこう課かを動員どういんして以後いご4ヶ月かげつにわたって全国ぜんこく的てきな社しゃ研けん会員かいいんの検挙けんきょが行おこなわれた。同時どうじに社しゃ研けんに関係かんけいがあると見みなされた京大きょうだいの河上かわかみ肇はじめ、同大どうだいの山本やまもと宣治のぶはる・河野こうの密ひそか、関学かんがくの河上かわかみ丈たけ太郎たろう・新明しんめい正道せいどうら教員きょういんに対たいしても家宅かたく捜索そうさくが行おこなわれた（このうち山本やまもとは捜索そうさくを理由りゆうに同大どうだいを免職めんしょくとなった）。

検挙けんきょされた学生がくせいのうち38名めいが治安ちあん維持いじ法ほうおよび出版しゅっぱん法ほう違反いはん・不敬ふけい罪ざいにより起訴きそされた。京都きょうと地裁ちさいによる1927年ねん5月の第だい1審しん判決はんけつでは出版しゅっぱん法ほう違反いはんおよび不敬ふけい罪ざいについては特赦とくしゃとなったが、治安ちあん維持いじ法ほう違反いはんについては是枝これえだ恭二きょうじ（東大とうだい文ぶん）ら4名めいの禁固きんこ1年ねんを筆頭ひっとうに37名めいが有罪ゆうざいとなった。弁護人べんごにんと検察けんさつは共ともに控訴こうそし、その後ごの三さん・一いち五ご事件じけんの影響えいきょうで公判こうはんは紆余曲折うよきょくせつの経緯けいいをたどり、1929年ねん12月の大阪おおさか控訴こうそ院いん判決はんけつでは18名めいに対たいし懲役ちょうえき7年ねん以下いかとより厳きびしい量刑りょうけいとなった。そして1930年ねん5月、大審院だいしんいんによる上告じょうこく棄却ききゃくで有罪ゆうざいが確定かくていした。

影響えいきょう

1926年ねん6月がつ29日にち、岡田おかだ良平りょうへい文部もんぶ大臣だいじんはこの事件じけんを受うけて学生がくせい・生徒せいとによる社会しゃかい科学かがく研究けんきゅうの禁止きんしを通達つうたつ、1928年ねん4月がつ17日にちには東京帝大とうきょうていだいが新人しんじん会かいに解散かいさん命令めいれいを出だし、以降いこう各かく帝みかど大だい社しゃ研けんに解散かいさん命令めいれいが下くだされた。東大とうだい新人しんじん会かいは1929年ねん11月7日にちに解散かいさんを声明せいめいした。

特筆とくひつ事項じこう

日本にっぽん内地ないちでは最初さいしょの治安ちあん維持いじ法ほう適用てきよう事件じけんである。この事件じけんが起おこった時点じてんでは日本にっぽん共産党きょうさんとうは再建さいけんされておらず（1926年ねん12月の五色ごしき温泉おんせんでの第だい3回かい大会たいかいにより再建さいけん）、社しゃ研けんという単たんなる学生がくせいの思想しそう研究けんきゅう団体だんたいにこの法ほうを適用てきようするのは無理むりがあったとされる。しかし予審よしん決定けってい書しょでは「私有しゆう財産ざいさん制度せいどの破壊はかい」について同どう法ほう第だい2条じょうの協議きょうぎ罪ざいが適用てきようされた。

被告人ひこくにんたち

• 岩田いわた義道よしみち：京大きょうだい卒そつ。のちに日本にっぽん共産党きょうさんとうの幹部かんぶとなり警察けいさつに検挙けんきょされ虐殺ぎゃくさつ。
• 是枝これえだ恭二きょうじ：東大とうだい生せい。出獄しゅつごく後ご、『無産むさん者しゃ新聞しんぶん』編集へんしゅう長ちょうとなり三さん・一いち五ご事件じけんで再さい検挙けんきょされ獄中ごくちゅう死し。
• 野呂のろ栄太郎えいたろう：慶大けいだい卒そつ。のちの講座こうざ派はマルクス経済けいざい学者がくしゃ。
• 鈴木すずき安蔵あぞう：京大きょうだい中退ちゅうたい。のちの憲法けんぽう学がく者もの。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後のち憲法けんぽう研究けんきゅう会かいで活動かつどう。
• 林はやし房雄ふさお（後藤ごとう寿夫としお）：東大とうだい生せい。のちプロレタリア文学ぶんがく作家さっかとなるも転向てんこう。戦後せんご『大だい東亜とうあ戦争せんそう肯定こうてい論ろん』など。
• 石田いしだ英一郎えいいちろう：京大きょうだい卒そつ。のちの文化ぶんか人類じんるい学がく者もの。押収おうしゅうされた第一高等学校だいちこうとうがっこう時代じだいの日ひ記帳きちょうの一節いっせつをとらえられ、不敬ふけい罪ざいとされた。男爵だんしゃくであったものの、この事件じけんを契機けいきに爵位しゃくいを返上へんじょうするに至いたる。
• 秋あき笹ささ正之まさゆき輔：早大そうだい二に高だか生せい。のち共産党きょうさんとう幹部かんぶになり獄中ごくちゅう死し。
• 淡あわ徳三郎とくさぶろう：京大きょうだい卒そつ。戦後せんご法政大学ほうせいだいがく教員きょういん。
• 逸見いつみ重雄しげお：京大きょうだい生せい。のち共産党きょうさんとう幹部かんぶになり転向てんこう。戦後せんご法政大学ほうせいだいがく教員きょういん。
• 武たけ藤丸ふじまる楠くすのき：京大きょうだい生せい。エスペランティスト。のちプロレタリア科学かがく研究所けんきゅうじょ所員しょいん。

年表ねんぴょう

• 1925年ねん12月1日にち：この日ひ早朝そうちょう、京都きょうと府警ふけい特高とっこう課かが京大きょうだい・同大どうだいなどの寄宿舎きしゅくしゃ、両りょう大学だいがくの社会しゃかい科学かがく研究けんきゅう会員かいいんの自宅じたく・下宿げしゅくを急襲きゅうしゅう、家宅かたく捜索そうさくの上うえ「不穏ふおん文書ぶんしょ」多数たすうを押収おうしゅうしたほか学生がくせい33名めいを検束けんそく。
• 1925年ねん12月7日にち：この日ひまでに全ぜん学生がくせいが釈放しゃくほう。
• 1926年ねん1月がつ14日にち：当局とうきょくによる新聞しんぶん記事きじの掲載けいさい差さし止とめ措置そち。
• 1926年ねん1月がつ15日にち：各かく府県警ふけんけい察部特高とっこう課かを動員どういんし全国ぜんこくの社しゃ研けん会員かいいんを検挙けんきょ。
• 1926年ねん9月がつ15日にち：予審よしん決定けっていに伴ともない新聞しんぶん掲載けいさい解禁かいきん。「学生がくせいの不祥事ふしょうじ」キャンペーン。
• 1926年ねん9月がつ18日にち：学生がくせい38名めいが治安ちあん維持いじ法ほう違反いはんなどで起訴きそ。
• 1927年ねん4月がつ：京都きょうと地裁ちさいで第だい1回かい公判こうはん。弁護人べんごにんに清瀬きよせ一郎いちろうなど8名めい。
• 1927年ねん5月がつ30日にち：第だい1審しん判決はんけつ。治安ちあん維持いじ法ほう違反いはんについて37名めいが有罪ゆうざい。被告人ひこくにん、検察けんさつともに控訴こうそ。
• 1928年ねん3月5日にち：大阪おおさか控訴こうそ院いんで第だい2審しん公判こうはん開始かいし。
• 1928年ねん3月がつ15日にち：三さん・一いち五ご事件じけん。被告人ひこくにん17名めいが連座れんざして出廷しゅってい不能ふのうとなり公判こうはんが分離ぶんり。
• 1929年ねん9月：一時いちじ中断ちゅうだんされていた公判こうはんが再開さいかい。審理しんりは傍聴ぼうちょう禁止きんし。
• 1929年ねん12月：三さん・一いち五ごに関与かんよしていない被告人ひこくにん21名めいに対たいし判決はんけつ。3名めいが無罪むざい。有罪ゆうざいの18名めいは大審院だいしんいんに上告じょうこく。
• 1930年ねん5月：大審院だいしんいんは上告じょうこくを棄却ききゃく。判決はんけつ確定かくてい。

関連かんれん書籍しょせき

• 菊川きくかわ忠雄ただお 『学生がくせい社会しゃかい運動うんどう史し』 海うみ口書くちがき店てん、1947年ねん。
• 稲岡いなおか進すすむ・絲屋いとや寿雄よしお『日本にっぽんの学生がくせい運動うんどう』青木あおき書店しょてん〈青木あおき新書しんしょ〉、1961年ねん。 
• 松尾まつお洋ひろし『治安ちあん維持いじ法ほうと特高警察とっこうけいさつ』（単行本たんこうぼん）教育きょういく社しゃ〈教育きょういく社しゃ歴史れきし新書しんしょ―日本にっぽん史し〈130〉〉、1979年ねん。 
• 井いヶ田でん良治よしはる・原田はらだ久美子くみこ『京都きょうと府ふの百ひゃく年ねん』（単行本たんこうぼん）山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ〈県民けんみん100年ねん史し〉、1993年ねん8月がつ。ISBN 978-4-634-27260-6。 

関連かんれん項目こうもく

• 沢柳さわやなぎ事件じけん
• 滝川たきがわ事件じけん
• 新人しんじん会かい

外部がいぶリンク

• 学制がくせい百ひゃく年ねん史し 三さん 学生がくせい思想しそう問題もんだいと教学きょうがく刷新さっしん：文部もんぶ科学かがく省しょう
• 『学がく連れん事件じけん』 - コトバンク