(Translated by https://www.hiragana.jp/)
刺激伝導系 - Wikipedia コンテンツにスキップ

刺激しげき伝導でんどうけい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

刺激しげき伝導でんどうけい(しげきでんどうけい)とは、ほらぼう結節けっせつ発生はっせいした心拍しんぱくのリズムをつく電気でんき信号しんごうを、あたかも電線でんせんのように心臓しんぞう全体ぜんたい心筋しんきんへとつたえ、有効ゆうこうはくどうおこなわせるための組織そしきである。興奮こうふん伝導でんどうけい(こうふんでんどうけい)ともばれる。

刺激しげき伝導でんどうけい構成こうせいする細胞さいぼう特殊とくしゅ心筋しんきんばれ、心房しんぼう心室しんしつかべ構成こうせいする一般いっぱん心筋しんきん細胞さいぼうである固有こゆう心筋しんきんとは区別くべつする。固有こゆう心筋しんきん心房しんぼうではながさ100 µm、直径ちょっけい5 µmの紡錐がたをしており、心室しんしつではながさ100 µm、直径ちょっけい10 µmの枝分えだわかれした円柱えんちゅうじょうをしている。これにたいして特殊とくしゅ心筋しんきんは、これら周辺しゅうへん固有こゆう心筋しんきんとはあきらかにことなった形態けいたいをしており、組織そしきがくてき区別くべつできる。

構造こうぞう

[編集へんしゅう]
刺激しげき伝導でんどうけい興奮こうふん伝導でんどう心電図しんでんずとの関係かんけいもっとたかいQRS心室しんしつ収縮しゅうしゅく、そのまえのPなみ心房しんぼう収縮しゅうしゅく、そのうしろのTなみ心室しんしつ拡張かくちょうが、そのおも発生はっせい理由りゆうである。ただし、心臓しんぞう疾患しっかんかかえていると、このパターンはくずれる場合ばあいる。

刺激しげき伝導でんどうけいほらぼう結節けっせつ (Sinoatrial node、SA node、別名べつめい:キース・フラック結節けっせつ) にはじまる。ほらぼう結節けっせつ上大かみおお静脈じょうみゃくみぎ心房しんぼう境界きょうかい付近ふきん存在そんざいするが、肉眼にくがんてきにはほとんど判別はんべつできない。ほらぼう結節けっせつは1000から2000細胞さいぼうからり、ほらぼう結節けっせつ細胞さいぼうながさ20 µm、直径ちょっけい4 µmの紡錐がたで、固有こゆう心筋しんきん細胞さいぼうよりもちいさい。

ほらぼう結節けっせつ発生はっせいした電気でんき信号しんごうは、みぎ心房しんぼうかべ固有こゆう心筋しんきん細胞さいぼう波状はじょうつたわり、この刺激しげきによって心房しんぼう収縮しゅうしゅくし、みぎ心房しんぼう下方かほうしんしつちゅうへだたちかくに存在そんざいするぼうしつ結節けっせつ(Atrioventricular node、AV node、別名べつめい:田原たはら結節けっせつ)へいたる。その伝導でんどう速度そくどは0.5-1 (m/びょう)である。

ぼうしつ結節けっせつ細胞さいぼうおおきさは、ほらぼう結節けっせつちかい。ぼうしつ結節けっせつでは、電気でんき信号しんごう伝導でんどう速度そくど極端きょくたんおそく、0.05-0.1 (m/びょう)にぎない。その結果けっか心室しんしつ興奮こうふんは、心房しんぼう興奮こうふんよりも0.12-0.18びょうおくれる。これにより、心房しんぼう収縮しゅうしゅくによって心室しんしつおくまれた血液けつえきが、いでこる心室しんしつ収縮しゅうしゅくによってはい動脈どうみゃく大動脈だいどうみゃくへと駆出かりだされるという、合理ごうりてき有効ゆうこう心臓しんぞう収縮しゅうしゅくパターンがつくられる。

ぼうしつ結節けっせつ電気でんき信号しんごうは、ヒスたば (Bundle of His) に移行いこうしてしんしつちゅうへだたはいる。ケントたばのような奇形きけいかぎり、刺激しげき伝導でんどううえで、心房しんぼう心室しんしつ結合けつごう組織そしきによって絶縁ぜつえんされている。このため正常せいじょう心臓しんぞうではヒスたば部分ぶぶんが、心房しんぼうがわから心室しんしつがわへと電気でんき信号しんごうつたわる唯一ゆいいつ経路けいろであり、この伝導でんどう速度そくどは1 - 2 (m/びょう)である。しんしつちゅうへだたにまでたっしたヒスたばは、まもなく、ひだりあしみぎあし分岐ぶんきし、ひだりあしはさらにぜんえだこうえだ分岐ぶんきする。なお、ひだりあしみぎあし部分ぶぶんでの電気でんき信号しんごう伝導でんどう速度そくどは2 - 3 (m/びょう)程度ていどである。ひだりあしみぎあしさき存在そんざいする、さらにほそくなって分岐ぶんきかえ部分ぶぶんプルキンエ繊維せんい (Purkinje's fibre) とばれ、そのながさはすう100 µm、直径ちょっけい10-100 µmと、心筋しんきん細胞さいぼうおおきさと比較ひかくすると、いちじるしくながふと繊維せんいである。プルキンエ線維せんいでの電気でんき信号しんごう伝導でんどう速度そくどは、2-4 (m/びょう)と刺激しげき伝導でんどうけいなかではとくはやい。このプルキンエ繊維せんい心臓しんぞう全体ぜんたい心室しんしつないまくいたり、心室しんしつ心筋しんきん刺激しげき伝導でんどうする。

心室しんしつにおいては、伝導でんどう速度そくど心筋しんきん細胞さいぼうくらべていちじるしくはやいプルキンエ繊維せんい電気でんき信号しんごう伝達でんたつすることにより、心室しんしつ全体ぜんたい素早すばやく、協調きょうちょうした収縮しゅうしゅくおこなえる。また、心筋しんきんにはおうばれる、一旦いったん収縮しゅうしゅくすると、外部がいぶからあらたな電気でんき信号しんごう入力にゅうりょくされても、反応はんのうしない時間じかんゆうし、これによって過度かどはくどう出現しゅつげん防止ぼうししている。これらの結果けっかと、心臓しんぞうべん血液けつえき逆流ぎゃくりゅうふせことによって、心臓しんぞうからの血液けつえき有効ゆうこうだし実現じつげんしている。

生理せいり

[編集へんしゅう]

固有こゆう心筋しんきん特殊とくしゅ心筋しんきんともに、外部がいぶからの刺激しげきけなくとも特有とくゆうのペースで興奮こうふんかえす。しかし、この状態じょうたいでは心臓しんぞう全体ぜんたい血液けつえきできるような有効ゆうこう運動うんどうおこなえない。ただ心筋しんきんは、その介在かいざいばんばれる部分ぶぶんに、それぞれがコネキシンの6りょうたいであるコネクソンかいした、ギャップ結合けつごうによって電気でんきてき関連かんれんせいゆうしている。

これらの心筋しんきん自動的じどうてき興奮こうふんのリズムは、ほらぼう結節けっせつが70-80 (かい/ぶん)でもっとはやい。そして、このほらぼう結節けっせつから刺激しげき伝導でんどうけい心臓しんぞう全体ぜんたいへとびており、このほらぼう結節けっせつ興奮こうふん電気でんき信号しんごうとしてつたえられる。そのため、ほらぼう結節けっせつ心臓しんぞう全体ぜんたい興奮こうふんのペースメーカーの役割やくわりたし、心臓しんぞう全体ぜんたいとして、血液けつえきできるように運動うんどうできる。

また、刺激しげき伝導でんどうけいとおして電気でんき信号しんごうとして興奮こうふんつたえる方法ほうほう正常せいじょう心臓しんぞうはくどう実現じつげんしているため、外部がいぶから電流でんりゅうながれた場合ばあいには、正常せいじょう電気でんき信号しんごう伝達でんたつ阻害そがいされ、心臓しんぞううごきに異常いじょうたす場合ばあいがある。

なお、心臓しんぞうには交感神経こうかんしんけいけいふく交感神経こうかんしんけいけい双方そうほう自律じりつ神経しんけい繊維せんい分布ぶんぷしており、交感神経こうかんしんけい刺激しげきほらぼう結節けっせつはじめとした心筋しんきん細胞さいぼう興奮こうふんのペースをはやくし、ふく交感神経こうかんしんけい刺激しげきぎゃくおそくする。この自律じりつ神経しんけい作用さようによって、運動うんどうやストレスなどで単位たんい時間じかんたりの心拍しんぱくすう傾向けいこうて、ぎゃく休息きゅうそくちゅうねむっているさいなどに単位たんい時間じかんたりの心拍しんぱくすう減少げんしょうする傾向けいこうる。

このほかに、外部がいぶかられた薬物やくぶつが、単位たんい時間じかんたりの心拍しんぱくすう影響えいきょうあたえる場合ばあいもある。

障害しょうがい

[編集へんしゅう]

もしもほらぼう結節けっせつ障害しょうがいされた場合ばあいには、より刺激しげき伝導でんどうけい下部かぶ心筋しんきんが、ほらぼう結節けっせつわってペースメーカーになりる。しかし、本来ほんらいのペースメーカーではないため、これを「ことしょせいペースメーカー」とぶ。ことしょせいペースメーカーは、ほらぼう結節けっせつよりも自動的じどうてき興奮こうふんのリズムがおそいので、単位たんい時間じかんたりの心拍しんぱくすうすくなくなりちである。また、刺激しげき伝導でんどうけい経路けいろ問題もんだいで、血液けつえきだし合理ごうりてき心臓しんぞう運動うんどうおこなえなく可能かのうせいがある。

ところで心電図しんでんずは、心臓しんぞうすじでんたるものであり、刺激しげき伝導でんどうけいによって心臓しんぞう全体ぜんたい順次じゅんじつたえられていく電気でんきてき興奮こうふんを、からだひょうから測定そくていしたものである。そのため、刺激しげき伝導でんどうけい障害しょうがいされていると、しばしば心電図しんでんず異常いじょうとして検出けんしゅつされる。

ほらぼう結節けっせつ機能きのう障害しょうがいこし、ペースメーカーとしてはたらかなくなった状態じょうたいことを、こうぶ。ただし、ほらぼう結節けっせつ興奮こうふん心房しんぼうつたわらないほらぼうブロックでも、心電図しんでんず所見しょけん症状しょうじょうおなじである。この疾患しっかんではぼうしつ結節けっせつはじめとした、心筋しんきんがペースメーカーの役割やくわりたすものの、そのリズムはほらぼう結節けっせつがペースメーカーの場合ばあいよりもおそい。このため心臓しんぞう全体ぜんたい単位たんい時間じかんたりのはくどうは、すくなくなる。また、この疾患しっかんではたとえば、ぼうしつ結節けっせつ興奮こうふん逆行ぎゃっこうせい心房しんぼうつたわるのとほぼ同時どうじに、ヒスたばつうじて心室しんしつにもつたわる。このため心房しんぼう心室しんしつ有効ゆうこう協調きょうちょうおこなわれない。この結果けっかぶんはくりょう(=1かいはくりょう×心拍しんぱくすう)が減少げんしょうし、程度ていどいちじるしければこころはらせい心不全しんふぜんこる。
ほら不全ふぜん症候群しょうこうぐんは、心臓しんぞうペースメーカーみの絶対ぜったいてき適応てきおうである。
ぼうしつ結節けっせつあるいはヒスたば上部じょうぶみぎあしひだりあし分岐ぶんきするまえ機能きのう不全ふぜんおちいっている状態じょうたいを、こうぶ。その機能きのう不全ふぜん程度ていどにより、たんぼうしつあいだ伝導でんどう速度そくどおくれるだけのIぼうしつブロック、ほらぼう結節けっせつ興奮こうふん心室しんしつつたわらない状態じょうたい間欠かんけつてきこるIIぼうしつブロック、心房しんぼう心室しんしつ完全かんぜん別個べっこ収縮しゅうしゅくするIII(完全かんぜん)ぼうしつブロックに分類ぶんるいされる。
さらにIIぼうしつブロックは、WenckebachがたとMobitzIIがた分類ぶんるいされる。Wenckebachがたでは、心房しんぼう興奮こうふんたいする心室しんしつ興奮こうふんおくれ(心電図しんでんずのPQ間隔かんかく)の時間じかん徐々じょじょながくなっていき、ついには心室しんしつ収縮しゅうしゅくが1はくかけしっする。そのつぎ収縮しゅうしゅくではぼうしつあいだ伝導でんどう時間じかんもともどっており、ふたた心室しんしつ興奮こうふんおくれの時間じかん徐々じょじょながくなっていくことかえす。MobitzIIがたでは、Wenckebachがたちがい、突然とつぜん心室しんしつ収縮しゅうしゅくかけしっする。
MobitzIIがた高度こうど病態びょうたい、および、IIIぼうしつブロックは、ペースメーカーみの適応てきおうである。
  • あしブロックとヘミブロック
ヒスたばみぎあしひだりあしぶんえだしたよりも下部かぶで、伝導でんどう障害しょうがいきている病態びょうたいである。みぎあしブロックひだりあしブロックほかに、ひだりあしぜんえだこうえだ分岐ぶんきしたよりも下部かぶ障害しょうがいされている場合ばあいには、ヘミブロックとばれる。
これらのなかで、高度こうどひだりあしブロックはペースメーカーみが適応てきおうされる場合ばあいがある。
ぼうしつあいだに、ヒスたば以外いがいにも、電気でんき信号しんごう伝導でんどう速度そくどはやふく伝導でんどうである「Kentたば」が存在そんざいしているという、奇形きけい存在そんざいする病態びょうたいである。Kentたばひだりぼうひだりしつあいだ存在そんざいする病態びょうたいをAがたみぎぼうみぎしつあいだ存在そんざいする病態びょうたいをBがたぶ。Kentたばとお刺激しげきは、ヒスたばとおった刺激しげきよりもはや末梢まっしょう心筋しんきん到達とうたつするため、心室しんしつ収縮しゅうしゅく部分ぶぶんてき正常せいじょうよりもはやはじまる。この部分ぶぶんてきはや収縮しゅうしゅくは、心電図しんでんずじょう正常せいじょうならば出現しゅつげんしないδでるた(デルタ)なみとしてあらわれる。
Kentたばつたわった刺激しげきが、プルキンエ繊維せんい逆行ぎゃっこうしてふたたぼうしつ結節けっせつもどってしまう現象げんしょうであるリエントリーと、そこからふたたびKentたばへと刺激しげきつたわるために、心室しんしつしきはく類似るいじしきはくあらわれる。このしきはくは、場合ばあいによっては心室しんしつほそどうへと移行いこうし、突然とつぜん原因げんいんとなりる。
また、WPW症候群しょうこうぐんでは、心房しんぼうどう心房しんぼうほそどうのような本来ほんらい致死ちしてきではないしきみゃくせい不整脈ふせいみゃくでも、ほらぼう結節けっせつというりつそく段階だんかいずにしんしつへと刺激しげき伝導でんどうしてしまうため、心室しんしつしきはく類似るいじしきはく発生はっせいし、致命ちめいてきとなりる。
このため、WPW症候群しょうこうぐん治療ちりょうは、カテーテルをもちいてKentたば電気でんきてき焼灼しょうしゃくする方法ほうほうおこなう。これによってKentたば破壊はかいし、リエントリーを発生はっせいしないようにする。

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  • すぎ 晴夫はるお編著へんちょ)『人体じんたい機能きのう生理学せいりがく改訂かいていだい4はん)』 p.349、p.350 南江堂なんこうどう 2003ねん2がつ20日はつか発行はっこう ISBN 978-4-524-22478-4
  • 小林こばやし 静子しずこ馬場ばば 広子ひろこ平井ひらい みどり(編集へんしゅう)『あたらしい機能きのう形態けいたいがく ―ヒトのちとそのはたらき―(だい2はん)』 p.30、p.31、p.167 - p.172、p.202、p.206、p.214 - p.225、p.255 - p.258 廣川ひろかわ書店しょてん 2007ねん3がつ25にち発行はっこう ISBN 978-4-567-51561-0
  • 佐々木ささき 誠一せいいち佐藤さとう 健次けんじ編集へんしゅう)『コメディカルの基礎きそ生理学せいりがく』 p.50 - p.52 廣川ひろかわ書店しょてん 1996ねん4がつ15にち発行はっこう ISBN 4-567-58020-6
  • 小野おの 哲章てっしょうみねとう 三千男みちお堀川ほりかわ 宗之むねゆき渡辺わたなべ さとし編集へんしゅう)『臨床りんしょう工学こうがく技士ぎし標準ひょうじゅんテキスト(だい1はん)』 p.40 - p.42、p.393、p.397 - p.400、p.630 金原出版かねはらしゅっぱん 2002ねん8がつ30にち発行はっこう ISBN 4-307-77125-7
  • 日本にっぽんME学会がっかいME技術ぎじゅつ教育きょういく委員いいんかい監修かんしゅう)『MEの基礎きそ知識ちしき安全あんぜん管理かんり改訂かいていだい4はん)』 p.30 - p.32、p.69 - p.73、p.214 - p.220 南江堂なんこうどう 2002ねん4がつ20日はつか発行はっこう ISBN 4-524-22408-4