土人どじん

土人どじん（どじん）とは、律令りつりょう制度せいどにおいて「本ほん貫ぬき地ちに居住きょじゅうしている人ひと」、「其その地ちに生うまれ住すむ人ひと。土地とちの人ひと」、「原住民げんじゅうみん、現地げんち人じん」。

現代げんだいでは「原始げんし的てき生活せいかつをする、土着どちゃくの人種じんしゅ」、「土人どじん形がた・土偶どぐう」、「未開みかい地域ちいきの原始げんし的てきな生活せいかつをしている住民じゅうみんを侮蔑ぶべつしていった語かたり」を第だい2義ぎとする辞書じしょもあり、土民どみん（どみん）とも呼よばれる。

変遷へんせん

古代こだい

語源ごげんは律令りつりょう制度せいどの京きょう以外いがいの「本ほん貫ぬき地ちに居住きょじゅうしている人ひと（土人どじん）」（京きょう貫ぬきは京きょう戸と）、土民どみん。律令りつりょう制度せいど下した、公民こうみんは本ほん貫ぬき地ちの戸籍こせき・計けい帳とばりへ登録とうろくされ、浮浪ふろう・逃亡とうぼうを五ご保ほ、関せき、過か所ところで規制きせいされ拘束こうそくされ納税のうぜいしていた。

もとは、その地域ちいきの土地とちの人ひと。渤海使し・遣や渤海使しで日本にっぽんとの交流こうりゅうも盛さかんであった渤海国こくでは、靺鞨族ぞくの邑の有力ゆうりょくな土人どじんの酋長しゅうちょうを都みやこ督ただし・刺史しし・首領しゅりょうを任命にんめいして地方ちほう支配しはいを維持いじしたと考かんがえられている（羈縻政策せいさく）。

『魏ぎ書しょ』『後こう漢書かんしょ』や713年ねん（和銅わどう6年ねん）の『風土記ふどき』『続ぞく日本にっぽん紀き』にも用例ようれいがある。

隋ずい開ひらき皇すめらぎ初はつ、相そう率りつ遣や使つかい貢獻こうけん。文ぶん帝みかど詔みことのり其使曰：「朕ちん聞彼土人どじん勇いさむ、今來こんらい實みのる副ふく朕ちん懷ふところ。視し爾なんじ等とう如子、爾しか宜よろし敬けい朕ちん如父。」

—勿吉伝でん、『魏ぎ書しょ』

猩猩しょうじょう在ざい山谷さんや中ちゅう,行くだり無常むじょう路ろ,百ひゃく數すう爲ため羣。土人どじん以酒若わか糟かす設しつらえ於路

—『後こう漢書かんしょ』、

後こう以天之の眞宗しんしゅう豊ゆたか祖父そふ天皇てんのう二に年ねん。大だい祚榮始はじめ建けん渤海國こく。和銅わどう六ろく年ねん。受唐冊立さくりつ其國。延のべ袤二に千里せんり。無む州しゅう縣けん館たて驛えき。處々しょしょ有村ありむら里さと。皆みな靺鞨部落ぶらく。其百姓ひゃくしょう者しゃ。靺鞨多た。土人どじん少しょう。皆みな以土人爲じんい村長そんちょう。大村おおむら曰都督とく。次つぎ曰刺史し。其下百姓ひゃくしょう。皆みな曰首領りょう 。

—菅原すがわら道真みちざね 編へん、『類聚るいじゅう国史こくし』

又また河かわ内國ないこく諸家しょか荘園しょうえん.往往おうおう而在.土ど人數にんずう少しょう.京きょう戸と過多かた.伏ふく望もち不ふ論ろん京きょう戸ど土人どじん.營田一いち町まち者しゃ.出で擧きょ正せい税ぜい卅束.許もと之の.

—寛平かんぺい五ご年ねん五ご月がつ十じゅう七なな日にち付づけ官かん符ふ、『類聚るいじゅう三さん代だい格かく』

不ふ論ろん土人どじん浪人ろうにん及王臣しん佃つくだ使し

—_、『続ぞく日本にっぽん紀き』

近世きんせい

近世きんせいでは1829年ねん（文政ぶんせい12年ねん）の『新編しんぺん武蔵むさし風土記ふどき稿こう』等とうに記載きさいがある。

異い魚さかな不知ふち其名、我わが郷さと南海なんかい所しょ捕と、鈴木すずき春山はるやま持じ贈おく、形かたち似に魴魚無む円えん暈ぼけ、或ある鯧魚一いち種しゅ歟、土人どじん云うん味あじ甘あま平ひらた無毒むどく 庚かのえ子こ十じゅう一いち月がつ朔ついたち六ろく日にち

—渡辺わたなべ崋山かざん、異い魚さかな図ず（天保てんぽう年間ねんかん）

金きむ禧寺といふ。土ど人口じんこう稱しょうして芭蕉ばしょう菴と呼よび。

—与謝よさ蕪村ぶそん、洛らく東ひがし芭蕉ばしょう菴再興さいこう記き

近きん現代げんだい

明治めいじ末すえ以降いこうには、北海道ほっかいどう・樺太からふとなどの開拓かいたくに伴ともないアイヌ民族みんぞくを公式こうしきに「旧きゅう土人どじん」と称しょうした。1899年ねん（明治めいじ32年ねん）（北海道ほっかいどう旧きゅう土人どじん保護ほご法ほう）（「旧きゅう土人どじん」は土人どじんの派生はせい語ごとして「旧きゅうの土人どじん」と解釈かいしゃくする場合ばあいのほか、「旧きゅう土どの人ひと」と解釈かいしゃくする意見いけんもある）。新しん札幌さっぽろ市し史しによると元々もともとの住民じゅうみんアイヌ民族みんぞくを旧きゅう土人どじん、開拓かいたく者しゃを新しん土人どじんと概念がいねん上じょう区分くぶんし、旧きゅう土人どじんが官庁かんちょう用語ようごとして残のこったとある。

江戸えど時代じだいの民みんも移転いてんの自由じゆう、職しょくの選択せんたくの自由じゆうは制限せいげんされ働はたらく場所ばしょも一所懸命いっしょけんめいの土地とちとされていた。幕末ばくまつ～開国かいこく以降いこうは日本にっぽん国内こくないと同おなじく植民しょくみん地ちでも現地げんちの民みんを土人どじんと呼称こしょうしたが、外地がいちでは日本人にっぽんじんと支配しはい階層かいそうであった欧米おうべい列強れっきょう側がわの市民しみんを土人どじんと呼よぶことはなく、次第しだいに植民しょくみん地ちの有色ゆうしょく人種じんしゅを意味いみするようになった。列強れっきょう各国かっこくと共ともに行いった植民しょくみん地ち政策せいさくやそれ以前いぜんに繰くり広ひろげられた奴隷どれい貿易ぼうえきの影響えいきょうにより植民しょくみん地ち側がわを経済けいざい的てきに困窮こんきゅうさせ激はげしく疲弊ひへいさせながら、その窮状きゅうじょうを植民しょくみん地ち側がわの未開みかい性せいや文明ぶんめいの遅おくれによるものと錯誤さくごしたため未開みかいの意いや野蛮やばんという偏見へんけんが加くわわった。

現在げんざいの辞書じしょの第だい一いち語義ごぎは土着どちゃくの人ひと。1891年ねん（明治めいじ24年ねん）冨山とやま房ぼうの「言げん海うみ」、1907年ねん（明治めいじ40年ねん）三省堂さんせいどうの「辞じ林りん」、1914年ねん（大正たいしょう3年ねん）三省堂さんせいどうの「辞じ海うみ」、1917年ねん（大正たいしょう6年ねん）冨山とやま房ぼうの「大だい日本にっぽん国語こくご辞典じてん」では土着どちゃく(土ど著ちょ)の人ひとや土偶どぐう(土人どじん形がた)の意味いみであったが、1920年ねん（大正たいしょう9年ねん）啓成よしなり社しゃのベストセラー「大だい字典じてん」の第だい二に語義ごぎは「野蠻やばんの民みん」、1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）田中たなか宋そう栄さかえ堂どうの「新式しんしき大だい辞典じてん」では「土着どちゃくのものでまだ開化かいかせない人ひと」が加くわわる。言げん海うみの著者ちょしゃ大槻おおつき文彦ふみひこ没後ぼつごに出版しゅっぱんされた1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）冨山とやま房ぼうの「大言たいげん海うみ」では「原始げんし的てき生活せいかつヲ榮さかえメル土着どちゃくノ人種じんしゅ」が加くわわるが、他たの辞典じてんは概おおむね従来じゅうらいの意味いみでの掲載けいさいであった。

1973年ねん（昭和しょうわ48年ねん）三省堂さんせいどうの「広こう辞じ林りん第だい5版はん」では「～蛮人ばんじん」が第だい一いち語義ごぎとなる。1975年ねん（昭和しょうわ50年ねん）小学館しょうがくかんの「日本にっぽん国語こくご大だい辞典じてん」では「特とくに、黒色こくしょく人種じんしゅをいう」が加くわわる。1983年ねん（昭和しょうわ58年ねん）岩波書店いわなみしょてんの「広辞苑こうじえん第だい3版はん」は第だい2版はん1969年ねん（昭和しょうわ48年ねん）の原始げんし的てき～から「未開みかい～軽侮けいぶの意い～」へ更新こうしん、1990年ねん（平成へいせい2年ねん）講談社こうだんしゃの「日本語にほんご大だい辞典じてん」では「natives」「uncivilized」が添そえられ、2001年ねん（平成へいせい2年ねん）集英社しゅうえいしゃの「広こう辞典じてん」では「未開みかいの民みんの俗称ぞくしょう」と解説かいせつされた。

一方いっぽう、語源ごげんである漢語かんごおよび現代げんだい中国語ちゅうごくご圏けんでの土人どじんの意味いみは、日本語にほんご圏けんでの当初とうしょの語義ごぎとほぼ重かさなり、「土偶どぐう」「土ど署しょ（有ゆう城郭じょうかく可か居い、不隨ふずい使し遷移せんい）」、「世代せだい居住きょじゅう的てき本地ほんじ的てき人じん」「本国ほんごく人じん」「泥どろ塑匠人じん」「土工どこう」を意味いみする。 土人どじん設計せっけいなる企業きぎょうがあるなどネガティブな意味いみではない。

戦前せんぜんの用例ようれい

大和やまと民族みんぞくに対たいして使用しようする例れい

土人どじんの説せつに此より北国きたぐに道どうへ少すこし入いりて松まつ間あいだなりといふ。

—森もり鷗外、『伊沢いさわ蘭軒らんけん』

『四よん神かみ地名ちめい録ろく』多摩たま郡ぐん喜多見きたみ村むら条じょう下かに「この村むらに蛇へび除じょよけ伊い右みぎ衛門えもんとて、毒蛇どくへびに食くわれし時ときに呪のろいをする百姓ひゃくしょうあり、この辺土へんど人じんのいえるには、蛇へび多おおき草くさ中ちゅうに入はいるには伊い右みぎ衛門えもん伊い右みぎ衛門えもんと唱となえて入はいらば毒蛇どくへびに食くわれずという、守まもりも出だす。

—南方みなかた熊楠くまぐす、『猪いのししに関かんする民俗みんぞくと伝説でんせつ』

私わたしが昔むかし知しっていた土人どじんに、柿本人麻呂かきのもとのひとまろと云いう詩人しじんがあります。

—芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけ、『神かみ神しんの微笑びしょう』1922年ねん（大正たいしょう11年ねん）

今いまも時ときとしてその姿すがたを幽谷ゆうこくの間あいだに見みる者ものがあって、土人どじんは一様いちようにこれを山男やまおとこと名なづけているが、

—柳田やなぎだ国男くにお、『山やまの人生じんせい』1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）

角落山つのおちやまは頗すこぶる急峻きゅうしゅんな山やまで、頂上ちょうじょうには角かく落権現ごんげんが祭まつってある、所謂いわゆるいわゆる天狗てんぐ様さまだ。土人どじんは之これを尊崇そんすうして

—木暮こぐれ理太郎りたろう、『望もち岳たけ都と東京とうきょう』1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）

鈍重どんじゅうにして威儀いぎある、純然じゅんぜんたる仙台せんだい弁べんを用もちいうることを貴とうとしとしているが、もちろん、軽快けいかいなる江戸えど弁べんは、用もちいようとしても用もちいられないにきまっているが、その模倣もほうの軽薄けいはくを避さけることが土人どじんの品格ひんかくとなっている。

—中里なかさと介山かいざん、『大菩薩峠だいぼさつとうげ 白雲しらくもの巻まき』1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）

海外かいがいの「現地げんちの人ひとびと」「土着どちゃくの人ひと」を意味いみする用例ようれい（ネガティブなもの含ふくむ）

亜あ非ひ利加りかアフリカの土人どじんに智識ちしき少すくなし、ゆえに未いまだ文明ぶんめいの域いきに至いたらず。

—福澤ふくさわ諭吉ゆきち、『文明ぶんめい教育きょういく論ろん』1889年ねん（明治めいじ22年ねん）

「又また「ポリネシヤ」群島ぐんとう土人どじんの間あいだにては、日月じつげつを天てんの両りょう眼めとも双そう児じとも云ゆい、東ひがし「ポリネシヤ」に於おいては、最高さいこう神しんヴテアの両りょう眼めは、同時どうじに之これを見み得えること甚はなはだ罕に、其一は上うえ界かいに輝かがやきて、人間にんげん界かいにては之これを太陽たいようと呼よび、其一は下界げかいに輝かがやきて、之これを太陰たいいんと称しょうすと云ゆい、或あるいは此神の右みぎ眼めは日ひにして、其左眼めは月つきなりとも云いう。

—高木たかぎ敏雄としお、『比較ひかく神話しんわ学がく』,1904年ねん（明治めいじ37年ねん）

土人どじんと言げんへば野蛮やばん人じん、人喰ひとくい人種じんしゅ、人間にんげんか獣ししか見分みわけのつかぬやうな蕃人ばんじんかのやうに、日本人にっぽんじんは想像そうぞうして居いるが、これは大変たいへんな感かん違たがえひである。之これは土人どじんと云うんふ文字もじの錯覚さっかくから生しょうじてゐるのである。種々しゅじゅの間違まちがえひや誤解ごかいは此幻覺げんかくから發生はっせいして居いるものが尠くない。畢竟ひっきょう日本人にっぽんじんの海外かいがい知識ちしきが餘あまりに浅薄せんばく過すぎるからである。土人どじんと云うんふは、其その土地とちの先住民せんじゅうみん、土着どちゃく民みんと言げんふだけのことで、決けっして野蛮やばん人じんとか、人ひと喰くえ人種じんしゅとかの義ぎではない。

—竹井たけい十郎じゅうろう、日本人にっぽんじんの新しん発展はってん地ち南洋なんよう,1929年ねん（昭和しょうわ4年ねん）

これがまた逆ぎゃくにヨーロッパに影響えいきょうして、二に十じゅう世紀せいきの初はじめまで、相当そうとうに教養きょうようの高たかい人ひとすらも、アフリカの土人どじんは半はん獣しし的てきな野蛮やばん人じんである、奴隷どれい種族しゅぞくである、呪物じゅぶつ崇拝すうはいのほか何なにも産出さんしゅつすることのできなかった未開みかい民族みんぞくである、などと考かんがえていたのであった。

—和かず辻つじ哲郎てつろう、『アフリカの文化ぶんか』, 1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）

オーストラリヤ東ひがし半はん部ぶ土人どじんの原始げんし社会しゃかいのトーテム生活せいかつに於おける宗教しゅうきょう的てき社会しゃかい的てき必要ひつようが、経験けいけん的てきに生活せいかつの一定いっていのノルムを決定けっていし、それがその社会しゃかいのロジックの要素ようそとしての諸しょ範疇はんちゅうを構成こうせいするというのである。

—戸坂とさか潤じゅん、『認識にんしき論ろんとは何なにか』,1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）

このほか、「天竺てんじく国民こくみんと成なりし各かく蕃しげる土人どじんの種族しゅぞくと宗教しゅうきょう習慣しゅうかんの根本こんぽん」「亜米利加あめりかの土人どじんインデヤン」 「阿おもね剌伯（アラブ）土人どじんの一揆いっき」等とうがみられる。

比喩ひゆ的てきに使用しようする例れい

恰あたかもアイオー洲しゅうのスウ土人どじんが......斯の意味いみに於おいて今日きょうの文明ぶんめい人じんは恰あたかもチェラデルヒーゴの土人どじんが......徳とくにして、移住いじゅうの際さいにブラジル土人どじんが......土偶どぐうを恐怖きょうふするは南洋なんようの土人どじん部落ぶらくにして東洋とうようの土人どじん部落ぶらく中ちゅう亦また之これを爭奪そうだつして......即すなわち、今日きょうの憲法けんぽう國こくの大だい日本にっぽん天皇陛下てんのうへいかに非ひらずして、國家こっかの本質ほんしつ及および法理ほうりに對たいする無む智さとしと、神道しんとう的てき迷信めいしんと、奴隷どれい道徳どうとくと、顛倒てんとうせる虚妄きょもうの歴史れきし解釋かいしゃくとを以もって捏造ねつぞうせる土人どじん部落ぶらくの土偶どぐうなるなればなり。......彼かれの文科ぶんか大だい學長がくちょう文學ぶんがく博士はかせ井上いのうえ哲次郎てつじろう氏しの如ごときこの土人どじんの酋長しゅうちょうなりとす。......國家こっか社會黨しゃかいとうの領袖りょうしゅう山路やまじ愛山あいざん氏しの如ごとき其その土人どじん的てき歴史れきし家か

—北きた一輝いっき、国体こくたい論ろん及および純正じゅんせい社会しゃかい主義しゅぎ (1906)

戦後せんごの用例ようれい

戦後せんごは（ネガティブな）比喩ひゆを含ふくんだものが多おおくなる。原義げんぎでは差別さべつ的てき意味合いみあいはなかったとして「土人どじん」擁護ようご論ろんもある。

「……『何なんで』考かんがえると言いおうとも、結局けっきょくそれを材料ざいりょうとして、ヨーロッパ体制たいせいが教育きょういくしてくれた理論りろんを復習ふくしゅうしているのがお前まえさんがた文化ぶんか人じん。オイら土人どじんは材料ざいりょうも考かんがえる道みちすじも、すべて手作てづくり、結論けつろんも手作てづくり」

—高原たかはら健吉けんきち、土人どじんのことばと民衆みんしゅうの論理ろんり1973年ねん（昭和しょうわ48年ねん）

東京とうきょう人じんは、故郷こきょうがないなどといわれますが、ほんとうの東京とうきょう人じんは、言葉ことばだって昔むかしの人ひとは立派りっぱに訛なまりもありましたから、 私わたしは「東京とうきょう土人どじん」とか「東京とうきょう原人げんじん」とか呼よんでいたものです。

—曽野その綾子あやこ、「いい人じん」をやめると楽らくになる,2002年ねん（平成へいせい14年ねん）

昨年さくねんの九きゅう月がつこのかた、連日れんじつニュースで皇居こうきょ前まえで土下座どげざする連中れんちゅうを見みせられて、自分じぶんはなんという「土人どじん」の国くににいるんだろうと思おもってゾッとするばかりです。

—浅田あさだ彰あきら、「文學ぶんがく界かい」1989年ねん2月がつ

「わからんさ。沖縄おきなわ人じんでないのかね」「内地ないち人じんか?」……「ならば、土人どじんか」……土人どじんというのはチャモロ人じんとカナカ人じんのことです。もともとこのあたりの島しまに住すんでいて、このマリアナ群島ぐんとうの土着どちゃくがチャモロ、もっと遠とおいカロリン諸島しょとうの原住民げんじゅうみんがカナカ。

—池澤いけざわ夏樹なつき、『カデナ』,2009年ねん（平成へいせい21年ねん）

柄え谷だに: でも、あの「土人どじん」というのは北きた一いち輝てるの言葉ことばなんだよ（笑）。 中上なかがみ: まあ、土人どじんというのは悪わるい言葉ことばじゃないですよ。一見いっけん、文脈ぶんみゃくで言いうと悪わるい言葉ことばに見みえるけれど、土人どじんというのは悪わるくないんですよ。いい言葉ことばだと思おもいます。

—柄え谷行たにいき人じん,中上なかがみ健次けんじ、「國文學こくぶんがく」1991年ねん12月がつ号ごう

去年きょねんの（東日本ひがしにっぽん大だい）地震じしんを見みたあとくらいから、なんだかすっかり「ああ、土人どじんなんだな」という言葉ことばがふっと頭あたまに浮うかんだわけです。「土人どじん」という言葉ことばの中なかにいろんな意味いみを込こめたんだけれども。

—大塚おおつか英志えいじ、『日本にっぽんは民主みんしゅ主義しゅぎ社会しゃかいではない』 大塚おおつか英志えいじ×宮台みやのだい真司しんじ 対談たいだん全文ぜんぶん（前まえ）』2012年ねん2月がつ5日にち

批判ひはんと規制きせい

1960年ねんから活発かっぱつが盛さかんとなる人権じんけん活動かつどう団体だんたいからの意見いけんを汲くみ、報道ほうどう機関きかんでは「差別さべつ用語ようご」として、表現ひょうげんの自主じしゅ規制きせい対象たいしょう用語ようごに指定していされている。「記者きしゃハンドブック」（共同通信社きょうどうつうしんしゃ発行はっこう）では差別さべつ語ご、不快ふかい用語ようごとされ「先住民せんじゅうみん」あるいは「先住民せんじゅうみん族ぞく」あるいは「現地げんち人じん」と表記ひょうきすることが指導しどうされている。

• たけしの挑戦ちょうせん状じょうは、1986年ねん発売はつばいのファミコン版はんでは「どじんのいえ」という表現ひょうげんが用もちいられていたが、2009年ねんにバーチャルコンソールで配信はいしんする際さい、「どじんのいえ」から「げんちのいえ」に変更へんこうされた。

• 2000年ねんには岩波書店いわなみしょてんから出版しゅっぱんされたアルベルト・シュヴァイツァーの著書ちょしょ「水みずと原生げんせい林りんのはざまで」中ちゅうの「土人どじん」の表現ひょうげんが、人種じんしゅ差別さべつ的てきだとする市民しみん団体だんたい「黒人こくじん差別さべつをなくす会かい」の抗議こうぎを受うけて出版しゅっぱんを停止ていししている。

• 2016年ねん10月がつ公務こうむ中ちゅうの大阪おおさか府警ふけい機動きどう隊たい員いんの一人ひとりが沖縄おきなわ米べい軍ぐん北部ほくぶ訓練くんれん場じょうヘリパッド移設いせつ工事こうじ反対はんたい派はに対たいして「土人どじん」と発言はつげんし、問題もんだいとなった（高江たかえヘリパッド問題もんだい）。この発言はつげんに対たいして鶴つる保たもつ庸介ようすけ内閣ないかく府ふ特命とくめい担当たんとう大臣だいじん（沖縄おきなわ及および北方ほっぽう対策たいさく）は「ことさら我々われわれがこれは人権じんけん問題もんだいだと考かんがえることではない」、「『土人どじんである』と言いうことが差別さべつであるとは個人こじん的てきに断定だんていできない」と述のべた。一方いっぽうで、当時とうじの法相ほうしょうである金田かねだ勝年かつとしは「土人どじん」は差別さべつ用語ようごであるとの認識にんしきを示しめした。沖縄おきなわの地元じもと新聞しんぶんである沖縄おきなわタイムスは「本土ほんど側がわの沖縄おきなわ蔑視べっし、差別さべつはこれまでもたびたび繰くり返かえされてきた。1903年ねんには大阪おおさかで開ひらかれた博覧はくらん会かいで、沖縄おきなわ女性じょせい2人にんを「展示てんじ」した「人類じんるい館かん事件じけん」があり、沖縄おきなわ戦せんでは日本にっぽん兵へいによる住民じゅうみん虐殺ぎゃくさつや「集団しゅうだん自決じけつ」（強制きょうせい集団しゅうだん死し）があった。」と報ほうじた。

• 栗原くりはら裕一郎ゆういちろうは浅田あさだ彰あきらの土人どじん発言はつげんについてニューアカデミズム文化ぶんか人じんの倫理りんり観かんと関連かんれんして疑問ぎもんを呈ていしている。

関連かんれん作品さくひん

• パラオの夜祭よまつりを唄うたいあげた童謡どうよう『土人どじんのお祭まつり』
• 中田なかた喜き直じき作曲さっきょくの「土人どじんのおどり」というピアノ曲きょく。
• 南みなみの島しま (トムとジェリー)
• 人ひと喰くい土人どじんのサムサム:谷川たにがわ俊太郎しゅんたろう作詞さくしの童謡どうよう

参考さんこう文献ぶんけん

• 池澤いけざわ夏樹なつき『カデナ』新潮社しんちょうしゃ、2009年ねん10月がつ30日にち、嘉手苅かでかり朝ちょう栄さかえ。 NCID BB0002710X。OCLC 675711431。 ISBN 4-10-375307-2、ISBN 978-4-10-375307-0。国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:000010604813。
• 梅棹うめさお忠夫ただお、金田一きんだいち春彦はるひこ、阪ばん倉くら篤あつし義よし 著しる、日野ひの原はら重明しげあき 編へん『日本語にほんご大だい辞典じてん』講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃカラー版ばん〉、1990年ねん11月1日にち。OCLC 683076286。 ISBN 4-06-123273-8、ISBN 978-4-06-123273-0。国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:000002080897。
• 金沢かなざわ庄三郎しょうざぶろう 編へん『広こう辞じ林りん』（新しん訂てい1150版はん）三省堂さんせいどう、1950年ねん。 
• 柄え谷行たにいき人じん、中上なかがみ健次けんじ『柄え谷行たにいき人じん中上なかがみ健次けんじ全ぜん対話たいわ』講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ文芸ぶんげい文庫ぶんこ かB9〉、2011年ねん4月がつ11日にち、路地ろじの消失しょうしつと流亡りゅうぼう。OCLC 752014704。 ISBN 4-06-290120-X、ISBN 978-4-06-290120-8。
• 姜きょう成山なりやま「渤海王国おうこくの社会しゃかいと国家こっか－在地ざいち社会しゃかい有力ゆうりょく者しゃ層そうの検討けんとうを中心ちゅうしんに－」2014年ねん。 
• 金田一きんだいち京助きょうすけ、佐伯さえき梅うめ友とも、大石おおいし初太郎はつたろう 著しる、逸いっ村むら裕ひろし 編へん『新選国語辞典しんせんこくごじてん』（常用じょうよう新版しんぱん）小学館しょうがくかん〈新選国語辞典しんせんこくごじてん〉、1985年ねん1月がつ1日にち。 NCID BN12855861。OCLC 673039101。 ISBN 4-09-501403-2、ISBN 978-4-09-501403-6。国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:000001718269。
• 郡山こおりやま暢とおる「ことばのタブーとそのい換いかえ」『國文學こくぶんがく』第だい97号ごう、関西大学かんさいだいがく国文こくぶん学会がっかい、2013年ねん3月がつ、156-136(29-49),参照さんしょうはp.148、ISSN 0389-8628、NAID 120005688372。 
• 榊原さかきばら悟さとる『日本にっぽん絵画かいがの見方みかた』角川書店かどかわしょてん、角川かどかわ学芸がくげい出版しゅっぱん〈角川かどかわ選書せんしょ 371〉、2004年ねん12月13日にち。 NCID BA69984272。OCLC 675567957。 ISBN 4-04-703371-5、ISBN 978-4-04-703371-9。国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:000007599405。
• 曽野その綾子あやこ『「いい人じん」をやめると楽らくになる─敬けい友とも録ろく』祥伝社しょうでんしゃ〈祥伝社しょうでんしゃ黄金おうごん文庫ぶんこ そ 2-4〉、2002年ねん8月がつ31日にち。 NCID BA59305738。OCLC 166699886。 ISBN 4-396-31300-4、ISBN 978-4-396-31300-5。国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:000003675186。
• 竹井たけい十郎じゅうろう『日本人にっぽんじんの新しん発展はってん地ち南洋なんよう』海外かいがい社しゃ、1929年ねん、(3) 土人どじんとは野蠻やばん人じんの謂いいひではない 表おもて南洋なんようと裏うら南洋なんよう。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1191634/21。 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:0000007676151。
• 西尾にしお実みのる、岩淵いわぶち悦太郎えつたろう、水谷みずたに静夫しずお 著しる、安江やすえ良介りょうすけほか 編へん『岩波いわなみ国語こくご辞典じてん』（1994年ねん第だい5版はん、1997年ねん第だい5版はん第だい3刷さつ）岩波書店いわなみしょてん、1994年ねん11月がつ10日とおか。OCLC 1074713285。 ISBN 4-00-080040-X、ISBN 978-4-00-080040-2。
• 西別府にしべっぷ元日がんじつ 西別府にしべっぷ元日がんじつ「日本にっぽん古代こだいにおける地方ちほう吏僚集団しゅうだんの形成けいせいとその限界げんかい (シンポジウム 人的じんてき結合けつごうと支配しはいの論理ろんり)」『史学しがく研究けんきゅう』第だい212号ごう、広島ひろしま史学しがく研究けんきゅう会かい、1996年ねん6月がつ、1-24頁ぺーじ、ISSN 03869342、NAID 120000872387。 。 
• 西別府にしべっぷ元日がんじつ『律令りつりょう国家こっかの展開てんかいと地域ちいき支配しはい』思文閣出版しぶんかくしゅっぱん〈思おもえ文ぶん閣かく史学しがく叢書そうしょ〉、2002年ねん8月がつ1日にち。 NCID BA58379193。OCLC 51581267。https://www.shibunkaku.co.jp/publishing/list/478421111X/。 ISBN 4-7842-1111-X、ISBN 978-4-7842-1111-1。国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:000003675001。
• 早川はやかわ聞多「蕪村ぶそん筆ひつ「夜色やしょく楼台ろうだい図ず」覚書おぼえがき--「魅力みりょく」の語かたりリ方かたを求もとめて」『日本にっぽん研究けんきゅう』第だい6号ごう、国際こくさい日本にっぽん文化ぶんか研究けんきゅうセンター、1992年ねん3月がつ、115-136頁ぺーじ、doi:10.15055/00000904、ISSN 09150900、NAID 120005681859。 
• 松原まつばら弘ひろし宣せん「古代こだいの民衆みんしゅう交通こうつう－古代こだい国家こっかの交通こうつう規制きせいと民衆みんしゅうの交通こうつう権けんについて」『四国しこく遍路へんろと世界せかいの巡礼じゅんれい―人的じんてき移動いどう・交流こうりゅうとその社会しゃかい史し的てきアプローチ―』、愛媛大学えひめだいがく法文学部ほうぶんがくぶ附属ふぞく 四国しこく遍路へんろ・世界せかいの巡礼じゅんれい研究けんきゅうセンター、2005年ねん3月がつ1日にち。 cf. KAKEN。

脚注きゃくちゅう

出典しゅってん

青空あおぞら文庫ぶんこ

関連かんれん項目こうもく

• 律令制りつりょうせい
• 律令りつりょう法ほう
• 公おおやけ地ち公民こうみん制せい
• 京きょう戸と
• 五ご保ほ
• 過か所ところ
• 租庸調そようちょう
• 戸籍こせき
• 計けい帳とばり
• 浮浪ふろう
• 農奴のうど制せい
• 奴隷どれい制せい
• 人類じんるい館かん事件じけん
• 放送ほうそうコード
• エスノセントリズム
• 放送ほうそう禁止きんし用語ようご
• 侮蔑ぶべつ

外部がいぶリンク

• 岡田おかだ斗と司し夫おっと (2011年ねん5月がつ). #001 岡田おかだ斗と司し夫おっとゼミ「原子力げんしりょくとオタク」（2011/5） (動画どうが共有きょうゆうサービス). 株式会社かぶしきがいしゃドワンゴ. 該当がいとう時間じかん: 43m08s-45m16s. 2020年ねん6月がつ28日にち閲覧えつらん。岡田おかだ斗と司し夫おっと YouTube公式こうしきチャンネル.
  • ※1964年ねん（昭和しょうわ39年ねん）の週刊しゅうかん少年しょうねん漫画まんが雑誌ざっし『週刊しゅうかん少年しょうねんサンデー』の巻頭かんとう特集とくしゅう「これが、土人どじんだ」の記事きじを紹介しょうかいしており、当時とうじの世相せそうがよく分わかる。