大峯おおみね奥おく駈か道みち

吉野よしの山奥やまおく千せん本ほんにある道標どうひょう（大峯おおみね奥おく駈か道みちは手前てまえから左ひだりへ続つづく、右みぎは百ひゃく貝かい岳だけ方面ほうめんへの分岐ぶんき）

奥おく駈か道みちを行いく修行しゅぎょう者しゃ

大峯おおみね奥おく駈か道みち（おおみねおくがけみち）は、吉野よしのと熊野くまのを結むすぶ大峯山おおみねさんを縦走じゅうそうする、修験しゅげん道どうの修行しゅぎょうの道みち。1000-1900m級きゅうの険けわしい峰々みねみねを踏破とうはする「奥おく駈か」という峰みね入にゅう修行しゅぎょうを行おこなう約やく80kmに渡わたる古道ふるみちを指さす。

2002年ねん（平成へいせい14年ねん）12月19日にち、国くにの史跡しせき「大峯おおみね奥おく駈か道みち」として指定していされた。ユネスコの世界せかい遺産いさん『紀伊きい山地さんちの霊場れいじょうと参詣さんけい道どう』（2004年ねん〈平成へいせい16年ねん〉7月がつ登録とうろく）の一部いちぶ。

概要がいよう

大峯おおみね奥おく駈か道みちは、修験しゅげん道どうの根本こんぽん道場どうじょうである金峯山こんごうざん寺てらなどがある奈良なら吉野山よしのやまと熊野くまの三山さんざんを結むすぶ、もとは修験しゅげん道どうの修行しゅぎょう場じょうとして開ひらかれた道みちであり、熊野くまの古道ふるみちの中なかで最もっとも険阻けんそなルートをなす。修験しゅげん道どうの開祖かいそとされる役行者えんのぎょうじゃが8世紀せいき初頭しょとうに開ひらいたとされる。今日きょう、一般いっぱん的てきに大峰山おおみねさん（大峯山おおみねさん）といえば山上ヶ岳さんじょうがだけを指さすが、大峯おおみね奥おく駈か道みちでいう「大峯おおみね」とは、吉野よしのから山上ヶ岳さんじょうがだけを経へてさらに奥おくの山々やまやま、そして最終さいしゅう的てきには熊野くまの三山さんざんに至いたる大峰山脈おおみねさんみゃくを縦走じゅうそうする修行しゅぎょうの道みち全体ぜんたいを指さしている。道中どうちゅうの最高峰さいこうほうは八はち経ヶ岳きょうがたけの1915m。

吉野よしのから熊野くまのまで、神社じんじゃや寺てらのほかに、大峰山脈おおみねさんみゃくの主しゅ稜線りょうせん沿ぞいに75の靡（なびき）と呼よばれる行場いきば（霊場れいじょう）があり、修験しゅげん者しゃは5月3日にちの大峯おおみね山寺やまでらの戸と開あけから9月がつ23日にちの戸と閉しめまでの間あいだに奥おく駈か修行しゅぎょうを行おこなう。奥おく駈かは修験しゅげん道どうでもっとも重視じゅうしされる修行しゅぎょうであり、神仏しんぶつが宿やどるとされる岩いわや峰みね、滝たきなどで祈いのりを捧ささげる。宗教しゅうきょう上じょうの理由りゆうから、山上ヶ岳さんじょうがだけの北きた「五ご番ばん関せき」から南みなみの「阿弥陀あみだヶ森もり」までは女人にょにん禁制きんせい。

大峯おおみね奥おく駈か

大峯おおみね奥おく駈かとは本来ほんらい、大峯おおみね山寺やまでらより奥おくの「靡（なびき）」に進すすむことを奥おく駈かと云いわれていた。修行しゅぎょう場じょうは「靡」と呼よばれ、ひとつひとつに番号ばんごうが割わり当あてられている。すなわち、熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃの本宮ほんぐう証しょう誠まこと殿どの（1番ばん）にはじまり、吉野川よしのがわ河岸かわぎしの柳やなぎの宿やど（75番ばん）に終おわる。この大だい峯みね七なな十じゅう五ご靡は75箇所かしょを数かぞえるが、これは歴史れきし的てきに整理せいりされてきた結果けっかであり、もっと多おおくの靡が設もうけられていた時期じきもある。

江戸えど時代じだいの紀州きしゅう藩はんの宗教しゅうきょう政策せいさくや明治めいじ時代じだいの修験しゅげん道どう禁止きんし令れい以降いこう、奥おく駈か道みちの水みず場じょうに乏とぼしい南部なんぶは荒廃こうはいし忘わすれ去さられた。しかし1980年ねん以降いこうの前田まえだ勇一ゆういちたちの活動かつどうと、これを引ひき継ついだ新宮しんぐう山彦やまびこぐるーぷなどの尽力じんりょくにより、持経じきょう宿やど、行あるき仙せん宿やど、平治へいじ宿やどに山小屋やまごやが建たてられ、南みなみ奥おく駈か道みちは再興さいこうされた。

順じゅん峯みねと逆ぎゃく峯みね

これら行場いきばを巡めぐる方法ほうほうには2つの方法ほうほうが知しられている。ひとつは、本宮ほんぐうから吉野よしのに向むかう順じゅん峯みね（じゅんぷ）、他方たほうは、逆ぎゃくに吉野よしのから本宮ほんぐうに向むかう逆ぎゃく峯みね（ぎゃくふ）で、それぞれに主宰しゅさいする宗派しゅうはが異ことなる。順じゅん峯みねは天台宗てんだいしゅう系けいの聖護院しょうごいん（本山ほんざん派は）が、逆ぎゃく峯みねは真言宗しんごんしゅう系けいの醍醐寺だいごじ三宝さんぼう院いん（当山とうざん派は）がそれぞれ主導しゅどうする。中世ちゅうせいの熊野くまのを支配しはいし、熊野くまの詣まいの先達せんだつをつとめたのは天台宗てんだいしゅう系けいの本山ほんざん派はであり、大峯おおみね奥おく駈かについても本山ほんざん派はが先行せんこうしていたが、近世きんせい以降いこうの熊野くまの詣まいの衰退すいたいに伴ともなって、江戸えど時代じだいから今日きょうまで、両派りょうはとも吉野よしのから入はいるのが一般いっぱん的てきかつ正統せいとう的てきなものとされている。ただ、中世ちゅうせいの熊野くまの詣まいを主導しゅどうした天台宗てんだいしゅう系けいによる順じゅん峯みねは、那智山なちさん青あお岸きし渡わたる寺てらによって復興ふっこうされ、今日きょうでも行おこなわれているので、完全かんぜんに途絶とぜつしたわけではない。

水みず場じょうが乏とぼしいこともあって、前鬼ぜんき宿やど（奈良なら県けん下北山しもきたやま村むら）太古たいこの辻つじ以南いなんの部分ぶぶん（南みなみ奥おく駈かと呼よばれることもある）はたどられないことが一般いっぱん的てきであり、現在げんざいでも大峯おおみね七なな十じゅう五ご靡を踏破とうはする奥おく駈かの行くだりをおこなう寺院じいんは限かぎられている。

75の靡

以下いかに示しめすリストは、現在げんざいの聖護院しょうごいんが示しめすものに従したがう（逆ぎゃく峯みねの順番じゅんばん）。どの修験しゅげん教団きょうだんでも、靡の名なはおおむね一致いっちしているが、一部いちぶ異ことなるものがあることに注意ちゅういされたい。

第だい75　柳やなぎの宿やど（やなぎのしゅく） 第だい74　丈たけ六ろく山やま（じょうろくさん） 第だい73　吉野山よしのやま（よしのさん） 第だい72　水分すいぶん神社じんじゃ（みくまりじんじゃ） 第だい71　金きむ峯みね神社じんじゃ（きんぷじんじゃ） 第だい70　愛染あいぜんの宿やど（あいぜんのしゅく） 第だい69　二に蔵宿ぞうしゅく（にぞうのしゅく） 第だい68　浄心じょうしん門もん（じょうしんもん） 第だい67　山上さんじょう岳だけ（さんじょうがたけ） 第だい66　小篠こしのの宿やど（おざさのしゅく） 第だい65　阿弥陀あみだ森もり（あみだがもり） 第だい64　脇わきの宿やど（わきのしゅく） 第だい63　普賢岳ふげんだけ（ふげんだけ） 第だい62　笙しょうの窟くつ（しょうのいわや） 第だい61　弥勒みろく岳だけ（みろくだけ） 第だい60　稚児ちご泊はく（ちごどまり） 第だい59　七曜しちよう岳だけ（しちようだけ） 第だい58　行者ぎょうじゃ還かえ（ぎょうじゃがえり） 第だい57　一いちの多和たわ（いちのたわ） 第だい56　石いし休きゅう宿やど（いしやすみのしゅく） 第だい55　講こう婆ばば世よ宿やど（こうばせのしゅく） 第だい54　弥山みせん（みせん） 第だい53　頂仙岳ちょうせんだけ（ちょうせんがたけ） 第だい52　古今ここん宿やど（ふるいまじゅく） 第だい51　八はち経ヶ岳きょうがたけ（はっきょうがたけ） 第だい50　明星ヶ岳みょうじょうがたけ 第だい49　菊きくの窟くつ（きくのいわや） 第だい48　禅師ぜんじの森もり（ぜんじのもり） 第だい47　五ご鈷嶺（ごこのみね） 第だい46　舟ふねの多和たわ（ふねのたわ） 第だい45　七面山しちめんざん（しちめんさん） 第だい44　楊枝ようじの宿やど（ようじのしゅく） 第だい43　仏性ぶっしょうヶ岳だけ（ぶっしょうがたけ） 第だい42　孔雀岳くじゃくだけ（くじゃくだけ） 第だい41　空そら鉢はち岳だけ（くうはちだけ） 第だい40　釈迦ヶ岳しゃかがたけ（しゃかがたけ） 第だい39　都と津つ門もん（とつもん） 第だい38　深ふか仙せん宿やど（じんせんのしゅく） 第だい37　聖天しょうてんの森もり（しょうてんのもり） 第だい36　五ご角かく仙せん（ごかくせん） 第だい35　大日だいにち岳だけ（だいにちだけ） 第だい34　千手せんじゅ岳だけ（せんじゅだけ） 第だい33　二ふたつ岩がん（ふたついわ） 第だい32　蘇そ莫岳（そばくさだけ） 第だい31　小池こいけ宿やど（こいけのしゅく） 第だい30　千草せんぐさ岳たけし（ちぐさだけ） 第だい29　前鬼ぜんき山さん（ぜんきさん） 第だい28　前鬼ぜんき三重滝さんがいのたき（ぜんきのさんじゅうのたき） 第だい27　奥おく森岳もりたけ（おくもりだけ） 第だい26　子守こもり岳だけ（こもりだけ） 第だい25　般若はんにゃ岳だけ（はんにゃだけ） 第だい24　涅槃岳ねはんだけ（ねはんだけ） 第だい23　乾いぬい光ひかり門もん（けんこうもん） 第だい22　持経じきょう宿やど（じきょうのしゅく） 第だい21　平治へいじ宿やど（へいじのしゅく） 第だい20　怒田ぬだ宿やど（ぬたのしゅく） 第だい19　行仙岳ぎょうせんだけ（ぎょうせんだけ） 第だい18　笠りゅう捨山（かさすてやま） 第だい17　槍ヶ岳やりがだけ（やりがたけ） 第だい16　四阿あずまや宿やど（しあのしゅく） 第だい15　菊きくヶ池ち 第だい14　拝はい返がえし（おがみかえし） 第だい13　香こう精しらげ山さん（こうしょうざん） 第だい12　古屋こや宿やど（ふるやのしゅく） 第だい11　如意にょい珠たま岳だけ（にょいじゅがだけ） 第だい10　玉置山たまきさん（たまきさん） 第だい9　水呑みずのみ宿やど（みずのみのしゅく） 第だい8　岸きしの宿やど（きしのしゅく） 第だい7　五大ごだい尊たかし岳だけ（ごだいそんだけ） 第だい6　金きむ剛つよし多和たわ（こんごうたわ） 第だい5　大黒岳だいこくだけ（だいこくだけ） 第だい4　吹越山ふきごしやま（ふきこしやま） 第だい3　新宮しんぐう（熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃ） 第だい2　那智山なちさん（なちさん、熊野くまの那智なち大社たいしゃ） 第だい1　本宮もとみや大社たいしゃ（本宮ほんぐう証しょう誠まこと殿どの） （出典しゅってん：修験しゅげん道どう修行しゅぎょう大系たいけい編纂へんさん委員いいん会かい[1994]）

靡と関連かんれん行場いきばを行いく（逆ぎゃく峰みね） 柳やなぎの渡わたし（世界せかい遺産いさん登録とうろく範囲はんい外がいの大淀おおよど町まちにある） 75靡 柳やなぎの宿跡しゅくあと 75靡 高台たかだいに移転いてんされた新しん・柳やなぎの宿やどの祠ほこら 73靡 吉野山よしのやま（金峯山こんごうざん寺てら） 72靡 水分すいぶん神社じんじゃ 71靡 金きん峯みね神社じんじゃ 67靡 山上さんじょう岳だけ（大峯おおみね山寺やまでら） 山上さんじょう岳だけの行場いきば・鐘かね掛かけ岩がん 山上さんじょう岳だけへ至いたるための鐘かね掛かけ岩がんの鎖くさり場じょう 63靡 普賢岳ふげんだけ 62靡 笙しょうの窟くつ 60靡 稚児ちご泊はく 59靡 七曜しちよう岳だけ 58靡 行者ぎょうじゃ還かえ 57靡 一いちの多和たわ 55靡 講こう婆ばば世よ宿やど 54靡 弥山ややま 51靡 八はち経ヶ岳きょうがたけ 50靡 明星ヶ岳みょうじょうがたけ 47靡 五ご鈷嶺 五ご鈷嶺を越こえるための垂直すいちょく岩場いわば 46靡 舟ぶねの多和たわ 43靡 仏性ぶっしょうヶ岳だけ 42靡 孔雀くじゃく岳だけの行場いきば・孔雀くじゃくノ覗 41靡 空そら鉢はち岳だけ 42靡孔雀くじゃく岳だけと41靡空鉢はち岳だけ間あいだにある「椽(えん)の鼻はな」 40靡 釈迦ヶ岳しゃかがたけ 41靡空鉢はち岳だけと40靡釈迦ヶ岳しゃかがたけ間あいだにある難所なんしょ「馬うまの背せ」 38靡 深ふか仙せん宿やどの深ふか仙せん灌頂堂どう 27靡 奥おく守もり岳だけ 26靡 子守こもり岳だけ（地蔵岳じぞうだけ） 25靡 般若はんにゃ岳だけ 23靡 乾いぬい光ひかり門もん 24靡 涅槃岳ねはんだけ 22靡 持経じきょう宿やどの持経じきょう千せん年ねん桧ひのき不動尊ふどうそん 20靡 怒田ぬだ宿やど 19靡 行仙岳ぎょうせんだけ 19靡行仙岳ぎょうせんだけ麓ふもとの行者ぎょうじゃ堂どう 18靡 笠かさ捨山 18靡笠捨山山頂さんちょうの祠ほこら 10靡 玉置山たまきさん（玉置たまき神社じんじゃ） 3靡 新宮しんぐう（熊野くまの速玉はやたま大社たいしゃ） 2靡 那智山なちさん（熊野くまの那智なち大社たいしゃ） 1靡 熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃ

文化財ぶんかざい

• 大峯おおみね奥おく駈か道みち - 国くにの史跡しせき（2002年ねん〈平成へいせい14年ねん〉12月19日にち指定してい、備崎経塚きょうづか群ぐんを含ふくむ）。

参考さんこう文献ぶんけん

• 修験しゅげん道どう修行しゅぎょう大系たいけい編纂へんさん委員いいん会かい編へん、1994、『修験しゅげん道どう修行しゅぎょう大系たいけい』、国書刊行会こくしょかんこうかい　ISBN 4336034117
• 世界せかい遺産いさん登録とうろく推進すいしん三さん県けん協議きょうぎ会かい（三重みえ県けん・奈良なら県けん・和歌山わかやま県けん）、2005、『世界せかい遺産いさん 紀伊きい山地さんちの霊場れいじょうと参詣さんけい道どう』、世界せかい遺産いさん登録とうろく推進すいしん三さん県けん協議きょうぎ会かい

映像えいぞう

• 「大峯おおみね奥おく駈か」総本山そうほんざん金峯山こんごうざん寺てら・NHK共同きょうどう制作せいさく、1987年ねん
• NHKスペシャル「心しんの行くだり・熊野くまの奥おく駈かけ」NHK、1999年ねん放映ほうえい

関連かんれん項目こうもく

• 世界せかい遺産いさん「紀伊きい山地さんちの霊場れいじょうと参詣さんけい道どう」
• 役やく小角おがく - 修験しゅげん道どうの伝説でんせつ的てき開祖かいそ
• 密教みっきょう - 真言宗しんごんしゅう / 天台宗てんだいしゅう

外部がいぶリンク

• 紀伊きい山地さんちの霊場れいじょうと参詣さんけい道どう
• 和歌山わかやま県けん世界せかい遺産いさんセンター
• 奈良なら大和やまと路ろの世界せかい遺産いさん
• 日本にっぽん山岳さんがく修験しゅげん学会がっかい
• 大峯おおみね奥おく駈か道みちを行いく
• 大峰山おおみねさん七なな十じゅう五ご靡図 (新宮しんぐう市し教育きょういく委員いいん会かい文化ぶんか振興しんこう課か) - 75の靡の位置いちと詳細しょうさい
• 一般いっぱん型がた大峰おおみね75霊地れいち名めい一覧いちらんの諸しょ類型るいけいと流布るふ : 登山とざん家かと研究けんきゅう者しゃの役割やくわり - 小田おだ匡ただし保ほ、駒澤大学こまざわだいがく応用おうよう地理ちり研究所けんきゅうじょ『地域ちいき学がく研究けんきゅう』1993-03
• 『大峯おおみね奥おく駈か道みち』 - コトバンク

大峯おおみね奥おく駈か道みちに関連かんれんする寺社じしゃ

• 熊野くまの三山さんざん協議きょうぎ会かい - ウェイバックマシン（2001年ねん4月がつ17日にちアーカイブ分ぶん）
• 聖護院しょうごいん門跡もんぜき
• 醍醐寺だいごじ
• 青あお岸きし渡わたる寺てら - ウェイバックマシン（2003年ねん5月がつ25日にちアーカイブ分ぶん）
• 金峯山こんごうざん寺てら