放射能ほうしゃのう兵器へいき

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放射能ほうしゃのう兵器へいき(ほうしゃのうへいき、えい: Radiological weapon)とは、放射ほうしゃせい物質ぶっしつ (Radioactive materials) を散布さんぷ放射能ほうしゃのう汚染おせんこし、それにともな放射線ほうしゃせん被曝ひばくによって機材きざい使用しよう阻害そがい人員じんいん殺傷さっしょうはか兵器へいき[1][2][3]CBRN兵器へいきのうち'R'兵器へいきであり[2]放射能ほうしゃのう兵器へいき自体じたいは1948ねん国連こくれん軍縮ぐんしゅく委員いいんかいをはじめとして大量たいりょう破壊はかい兵器へいき分類ぶんるいされている[4][3][5][6][7]。これらのうち、きたなばくだん (dirty bomb) や放射ほうしゃせい物質ぶっしつ散布さんぷ装置そうち (Radiological Dispersion Device, RDD) とうかく爆発ばくはつともなわないタイプ[3][8]については、典型てんけいてき大量たいりょう破壊はかい兵器へいきにはてはまらないとするかんがえもある[8][9]特殊とくしゅ事例じれいとしては、ロシアが放射ほうしゃせい物質ぶっしつポロニウム210もちいて、アレクサンドル・リトビネンコ暗殺あんさつしたれいがある[10]

概要がいよう[編集へんしゅう]

放射能ほうしゃのう兵器へいきは、放射線ほうしゃせんもちいた兵器へいきであり、通常つうじょう核兵器かくへいき使用しようにおいても、かく爆発ばくはつしょうじる効果こうかにより、初期しょき放射線ほうしゃせん放射ほうしゃせい降下こうかぶつ発生はっせいし、放射線ほうしゃせんによる殺傷さっしょう能力のうりょくゆうする部分ぶぶんがある[2][9]。ただし、核兵器かくへいきでは、放射線ほうしゃせんのほか、熱線ねっせんばくふうによっても多大ただい影響えいきょうしょうじるてんことなる[2][9]。なお、核兵器かくへいきなかでも、残留ざんりゅう放射能ほうしゃのうたかめ、使用しよう土地とち建物たてもの利用りよう困難こんなんにするコバルトばくだん英語えいごばん構想こうそうされていたことがあり、これも放射能ほうしゃのう兵器へいき分類ぶんるいされることがある[11]いまのところ、放射能ほうしゃのう兵器へいきは、実際じっさい使用しようされたことがく、その存在そんざい想定そうていじょうのものにとどまっている[9]

放射能ほうしゃのう兵器へいきとしては、きたなばくだん (dirty bomb) や放射ほうしゃせい物質ぶっしつ散布さんぷ装置そうち (Radiological Dispersion Device, RDD) とばれる放射ほうしゃせい物質ぶっしつ通常つうじょう爆薬ばくやくによる爆発ばくはつでもって広範囲こうはんい拡散かくさんさせたり、爆発ばくはつてき手法しゅほうでもって散布さんぷさせたりする兵器へいき装置そうちくあげられる[7][12][13]かくテロリズムによるきたなばくだん放射ほうしゃせい物質ぶっしつ散布さんぷ装置そうち使用しよう懸念けねんされている[13][14]

1980年代ねんだいから1990年代ねんだいにかけては、ジュネーブ軍縮ぐんしゅく会議かいぎにおいて討議とうぎ対象たいしょうとなっていた[1]べい両国りょうこく中心ちゅうしんかく爆発ばくはつともなわない放射ほうしゃせい物質ぶっしつ利用りようする兵器へいきを、核兵器かくへいきとはべつ放射能ほうしゃのう兵器へいきとして区別くべつし、それを制限せいげんすることが俎上そじょうったが、核兵器かくへいき合法ごうほうせいとのがらみもあり、合意ごういにはいたらなかった[1]

典型てんけいてき核兵器かくへいき放射能ほうしゃのう兵器へいき[1][2][9]
典型てんけいてき核兵器かくへいき 放射能ほうしゃのう兵器へいき
放射線ほうしゃせん影響えいきょう あり あり
放射線ほうしゃせん発生はっせいげん かく爆発ばくはつによる初期しょき放射線ほうしゃせんおよ放射ほうしゃせい降下こうかぶつ 放射ほうしゃせい物質ぶっしつ
熱線ねっせん爆風ばくふう影響えいきょう だい しょう または なし

歴史れきし[編集へんしゅう]

アメリカでは原子げんしばくだん開発かいはつに、放射ほうしゃせい物質ぶっしつ兵器へいきとしての可能かのうせい気付きづき、放射能ほうしゃのう汚染おせんによる都市とし攻撃こうげき兵器へいきとしての検討けんとうおこなっていた[15]。ただし、1954ねんごろまでに核兵器かくへいき開発かいはつ重点じゅうてんかれ、放射能ほうしゃのう兵器へいき開発かいはつ中止ちゅうしされている[15]。また、朝鮮ちょうせん戦争せんそうなかダグラス・マッカーサーは、ちゅうちょう国境こっきょう地帯ちたい放射ほうしゃせいコバルト散布さんぷし、無人むじん地帯ちたい形成けいせいすることを検討けんとうしていた[16][17]

効果こうかなど[編集へんしゅう]

核兵器かくへいきもちいられる放射ほうしゃせい物質ぶっしつは、ウラン235プルトニウム239おもであるが、放射能ほうしゃのう兵器へいきにはストロンチウム90セシウム137利用りようされる可能かのうせいがあるとされている[18]

放射ほうしゃせい物質ぶっしつ起源きげんとする放射線ほうしゃせんによる殺傷さっしょう効果こうかは、うたがわしいめんがあり、心理しんりてき恐怖きょうふかんによる影響えいきょうおおきいとかんがえられている[9][14][19]放射線ほうしゃせんによって汚染おせんされた地域ちいき利用りよう不能ふのうとなるうえ、その地域ちいき除染じょせんには多大ただい費用ひようかり、パニックの誘発ゆうはつ懸念けねんされるが[7]、WHOによる想定そうていされる一般いっぱんてきな「きたなばくだん」にたいする評価ひょうかでは、ばくだん爆発ばくはつそれ自身じしんほう重大じゅうだい危険きけんであり、専門せんもん技術ぎじゅつしゃ放射ほうしゃせい物質ぶっしつ適切てきせつあつかえるのをてもかるように、放射線ほうしゃせんによる健康けんこう障害しょうがいのリスクはひく見積みつもられる[9]

放射線ほうしゃせん兵器へいきとしての放射ほうしゃせい物質ぶっしつ散布さんぷ接触せっしょく形式けいしきとしては、1-単純たんじゅん放射ほうしゃせい物質ぶっしつ暴露ばくろ、2-放射ほうしゃせい物質ぶっしつ散布さんぷ、3-エアロゾルとしての散布さんぷ、4-放射ほうしゃせい物質ぶっしつ摂取せっしゅ、5-放射ほうしゃせい物質ぶっしつ浸潤しんじゅんおおきく5種類しゅるいげられている[18]

その[編集へんしゅう]

砲弾ほうだん一種いっしゅである劣化れっかウランだんには、密度みつどたか重量じゅうりょうきわめておもいというたまたいいた特性とくせいならびに材料ざいりょうコストがきわめてやすいという理由りゆうから、ていレベル放射ほうしゃせい廃棄はいきぶつである劣化れっかウランもちいられている[20]劣化れっかウランだん使用しようめぐっては、その放射線ほうしゃせん毒性どくせいから、健康けんこう被害ひがい指摘してきされている[20]。こうした健康けんこう被害ひがい根拠こんきょとして、日本にっぽんでは劣化れっかウランだん放射能ほうしゃのう兵器へいきんでいる事例じれい存在そんざいする[21]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d Yearbook of International Humanitarian Law. Springer. (2014). p. 61. ISBN 9789462650916 
  2. ^ a b c d e Chemical, Biological, Radiological and Nuclear (CBRN) Threats”. Centre for the Protection of National Infrastructure(イギリス). 2019ねん8がつ8にち閲覧えつらん
  3. ^ a b c WMD Arms Control in the Middle East: Prospects, Obstacles and Options. Ashgate Publishing, Ltd. (2015). p. 129. ISBN 9781472435958 
  4. ^ UN (1948ねん8がつ12にち). “, Resolution Adopted by the Commission at Its Thirteenth Meeting, 12 August 1948, and a Second Progress Report of the Commission”. 2019ねん8がつ10日とおか閲覧えつらん
  5. ^ FBI. “Weapons of Mass Destruction”. 2019ねん8がつ7にち閲覧えつらん 合衆国がっしゅうこく法典ほうてんだい18へんだい2332aじょう 18 U.S.C. § 2332a ひと生命せいめいたい危険きけんなほどつよ放射能ほうしゃのうゆうするか放射線ほうしゃせんはっする兵器へいき
  6. ^ 合衆国がっしゅうこく法典ほうてんだい50へんだい2302じょう 50 U.S.C. § 2302
  7. ^ a b c Jonathan Medalia (2011ねん6がつ24にち). ““Dirty Bombs”: Technical Background, Attack Prevention and Response, Issues for Congress”. Congressional Research Service. 2019ねん8がつ7にち閲覧えつらん
  8. ^ a b Charles D. Ferguson, Tahseen Kazi, and Judith Perera (2003ねん1がつ). “Commercial Radioactive Sources: Surveying the Security Risks”. Middlebury Institute of International Studies / graduate school of Middlebury College. p. 63. 2019ねん8がつ8にち閲覧えつらん
  9. ^ a b c d e f g WHO. “Radiological Dispersion Device (Dirty Bomb)”. 2019ねん8がつ8にち閲覧えつらん
  10. ^ Addley, Esther; Harding, Luke (2016ねん1がつ21にち). “Key findings: who killed Alexander Litvinenko, how and why” (英語えいご). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/world/2016/jan/21/key-findings-who-killed-alexander-litvinenko-how-and-why 2019ねん7がつ2にち閲覧えつらん 
  11. ^ 放射能ほうしゃのう兵器へいき”. コトバンク. 2019ねん8がつ7にち閲覧えつらん
  12. ^ The Likely Effect of a Radiological Dispersion Device”. Liberty University (2005ねん12月31にち). 2015ねん3がつ14にち閲覧えつらん
  13. ^ a b テロが計画けいかくされていた放射能ほうしゃのうばくだん「ダーティーボム」とは”. WIRED.jp (2002ねん6がつ12にち). 2015ねん3がつ14にち閲覧えつらん
  14. ^ a b 秋山あきやましんはた (2005ねん11月29にち). “かくテロの脅威きょうい対策たいさく”. 日本にっぽん国際こくさい問題もんだい研究所けんきゅうじょ. 2019ねん8がつ8にち閲覧えつらん
  15. ^ a b Robert Burns (2007ねん8がつ10日とおか). “U.S. worked on secret Cold War weapon”. NBC. 2019ねん8がつ10日とおか閲覧えつらん
  16. ^ Pentagon Weighed Plan to Use Cobalt in Korea; Military Abandoned Idea as Impractical for Border— MacArthurSupported It”. New York Times (1964ねん). 2019ねん8がつ8にち閲覧えつらん
  17. ^ Leonard Beaton (1964-05-14). “Poor man's nuclear warfare?”. New Scientist (Reed Business Information) 22 (391): 411-412. 
  18. ^ a b Carl A. Curling, Alex Lodge (2016ねん6がつ). “Review of Radioisotopes as Radiological Weapons”. INSTITUTE FOR DEFENSE ANALYSES. 2019ねん8がつ8にち閲覧えつらん
  19. ^ CDC. “More Information on Types of Radiation Emergencies”. 2019ねん8がつ8にち閲覧えつらん
  20. ^ a b 研究けんきゅう報告ほうこくNo.29 武力ぶりょく紛争ふんそうにおける劣化れっかウラン兵器へいき使用しよう”. IPSHU 研究けんきゅう報告ほうこくシリーズ. 広島大学ひろしまだいがく平和へいわ科学かがく研究けんきゅうセンター (2002ねん11月). 2015ねん3がつ14にち閲覧えつらん
  21. ^ 劣化れっかウランだん 被曝ひばく深刻しんこく”. 中国ちゅうごく新聞しんぶん. 2015ねん3がつ14にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]