カシ

カシ
	シラカシ（Quercus myrsinaefolia）
分類ぶんるい（APG III）
種たね
	本文ほんぶん参照さんしょう;

カシ（樫かし、橿かし、櫧）とは、ブナ科かの常緑じょうりょく高木たかぎの一群いちぐんの総称そうしょうである。狭義きょうぎにはコナラ属ぞく (Quercus) 中ちゅうの常緑じょうりょく性せいの種たねをカシと呼よぶが、同おなじブナ科かでマテバシイ属ぞくのシリブカガシもカシと呼よばれ、シイ属ぞく (Castanopsis) も別名べつめいでクリガシ属ぞくと呼よばれる。なお、アカガシ亜あ属ぞく (subgen. Cyclobalanopsis) をコナラ属ぞくから独立どくりつさせアカガシ属ぞく (Cyclobalanopsis)として扱あつかう場合ばあいもある。またクスノキ科かの一部いちぶにも葉はの様子ようす等とうが似にていることからカシと呼よばれるものがある。

カシとよばれる樹木じゅもくは地方ちほうによって指さすものがだいぶ異ことなり、関東かんとう地方ちほうではほとんどの場合ばあいシラカシを指さし、東海とうかい地方ちほうではウラジロガシを指さすことが多おおい^[1]。南紀なんきや四国しこくではウバメガシ、山陽さんよう地方ちほうではアラカシ、四国しこくから九州きゅうしゅうにかけてはアカガシやイチイガシなどが主おもなカシになる^[1]。

特徴とくちょう

常緑じょうりょく性せいであり、葉はには表面ひょうめんにつやがあり、鋸歯きょし（葉はの縁えんのギザギザ）を持もつものが多おおい。アカガシ亜あ属ぞくは日本にっぽんから台湾たいわん・中国ちゅうごく南部なんぶ・ヒマラヤにかけての温帯おんたい南部なんぶの湿潤しつじゅん地域ちいきに約やく150種しゅが分布ぶんぷする。日本にっぽんでは関東かんとう地方ちほう以南いなんに多おおいが、一部いちぶの種たねは、分布ぶんぷの北限ほくげんが太平洋たいへいよう側がわで宮城みやぎ県けん、日本海にほんかい側がわで新潟にいがた県けんに達たっする。一方いっぽう、コナラ亜あ属ぞくの常緑じょうりょく性せいのカシは、温暖おんだんだがやや乾燥かんそうした地域ちいきに多おおく、東ひがしから東南とうなんアジア以外いがいにも南みなみヨーロッパやアメリカ大陸あめりかたいりくにも分布ぶんぷする。

一般いっぱんには晩ばん春はるから初はつ夏なつに花はなを咲さかせる。例外れいがい的てきに、シリブカガシは秋あきに花はなをつけるが、厳密げんみつにはこの植物しょくぶつは同おなじブナ科かでもマテバシイ属ぞくに属ぞくし、小しょう花はなを密生みっせいした穂ほをつける、本ほん種しゅは狭義きょうぎのカシ類るいとは言いいがたいが、英名えいめいではJapanese oakと呼よばれる。他ほかにもマテバシイ属ぞくは堅けん果はて（ドングリ）の果皮かひが非常ひじょうに硬かたいことから英語えいごでストーンオーク (Stone oak) と呼よばれ、また海外かいがい産さんのマテバシイ属ぞくもカシの和名わみょうが付つけられているものが多おおい。

カシ類るいの花はなは同おなじコナラ属ぞくの落葉らくよう高木たかぎ群ぐんであるナラ類るいと共ともに風媒花ふうばいかであり、雌花めばなと雄花おばながあるが、いずれも花はなびらもない、地味じみなものである。花粉かふんを雄おしべの葯から速すみやかに落おとして風ふうに乗のせるのに適応てきおうし、雄花おばな穂ほは垂下すいかして風ふうに揺ゆれる。同おなじブナ科かで常緑じょうりょく高木たかぎになるシイ類るいやマテバシイ類るいの花はなは虫媒花ちゅうばいかであり、全体ぜんたいが明あかるい黄色おうしょくで強つよい香かおりを発はっして甲虫かぶとむしや花はな蜂はち類るいのような昆虫こんちゅうを誘引ゆういんし、雄花おばな穂ほも昆虫こんちゅうが止とまりやすいようにしっかりと上うえを向むいているといった点てんで大おおきな相違そういがある。カシ類るいの果実かじつは、落葉らくよう性せいのナラ類るいと共ともにドングリ（団栗どんぐり）と呼よばれる。どんぐりは開花かいかした年としに熟じゅくするものと、2年ねん目めに熟じゅくするものとがある。

コナラ亜あ属ぞくのウバメガシは低木ていぼくないし小しょう高木こうぼくだが、アカガシ亜あ属ぞくはいずれも大おおきな木きになる。アカガシ亜あ属ぞくは殻から斗と（いわゆるドングリの皿さら）に環状かんじょう紋もんが現あらわれるのが大おおきな特徴とくちょうである。アカガシ・シラカシなどの材質ざいしつは非常ひじょうに堅かたく、器具きぐの材料ざいりょうなどとして重要じゅうようである。

照葉樹しょうようじゅ林りん・里山さとやま

カシ類るいは照葉樹しょうようじゅ林りんの重要じゅうような構成こうせい種しゅである。様々さまざまな常緑じょうりょく広葉樹こうようじゅ林りんにおいて、どれかのカシが多おおく姿すがたを見みせる。西日本にしにほんの平野へいや部ぶではアラカシが優ゆう占うらないする森林しんりんとなることが多おおい。海岸かいがん線せんではウバメガシが、ブナ林りん帯おび近ちかくではアカガシが、その間あいだの地域ちいきではウラジロガシなどがよく見みられる。

照葉樹しょうようじゅ林りん地帯ちたいのシイ・カシ林りんを繰くり返かえして伐採ばっさいすると、ナラ類るいのコナラやクヌギを中心ちゅうしんとする落葉樹らくようじゅ林りんや、これとアカマツの混交こんこう林りんになりやすい。いわゆる里山さとやまというのがこれに当あたる。

オークとの比較ひかく

英語えいごで常緑じょうりょく性せいのカシのみを指さす場合ばあいはライブオーク (live oak) と呼よぶ。ヨーロッパにおける常緑じょうりょく性せいのカシ類るいの分布ぶんぷは南みなみヨーロッパに限かぎられており、イギリスをはじめとする中なか欧おう・北欧ほくおうに分布ぶんぷするoakは、日本語にほんごでは植物しょくぶつ学がく上じょうナラ（楢なら）と呼よばれているものばかりであるが、文学ぶんがく作品さくひんなどではカシとして翻訳ほんやくされている例れいが多おおく、誤訳ごやくを元もとにした表記ひょうきである^[2]。

「ナラ」および「オーク」を参照さんしょう

種たね

日本にっぽんに自生じせいしているブナ科か植物しょくぶつのうちカシと呼よばれているものでは主おもに以下いかの種たねがある。

コナラ亜あ科か Quercoideae
- コナラ属ぞく Quercus
  - コナラ亜あ属ぞく subgen. Quercus のうち常緑樹じょうりょくじゅ
    - ウバメガシ Q. phillyraeoides
  - アカガシ亜あ属ぞく subgen. Cyclobalanopsis
    アカガシ属ぞく gen. Cyclobalanopsis としてコナラ属ぞくから独立どくりつさせる場合ばあいもある
    - アカガシ Q. acuta
    - イチイガシ Q. gilva
    - アラカシ Q. glauca
    - ハナガガシ Q. hondae
    - オキナワウラジロガシ Q. miyagii
    - シラカシ Q. myrsinaefolia
    - ツクバネガシ Q. sessilifolia
    - ウラジロガシ Q. salicina
クリ亜あ科か Castaneoideae
- マテバシイ属ぞく Lithocarpus
  - シリブカガシ Lithocarpus glaber

また、アオガシとイヌガシはクスノキ科かである。

利用りよう

植うえ栽

民家みんかの垣根かきねに植樹しょくじゅされる主要しゅような樹木じゅもくの一ひとつでもある。防音ぼうおんの機能きのうを有ゆうする樹き種しゅ（防音ぼうおん樹じゅ）として知しられる^[3]。

常緑樹じょうりょくじゅであるために防風ぼうふう林りんとしての機能きのうも果はたした。またカシの生葉いくは・生木なまきは他たの樹木じゅもくと比較ひかくした場合ばあいに燃もえ難がたいこともあり、隣家りんか火災かさいの際さいには延焼えんしょうを防止ぼうしする目的もくてきも持もち合あわせていた。

木材もくざい

漢字かんじで木偏きへんに堅けんと書かくことからも判わかるように、木材もくざいとしての材質ざいしつは非常ひじょうに堅かたい。また粘ねばりがあり強度きょうども高たかく耐久たいきゅう性せいに優すぐれている。その特性とくせいから道具どうぐ類るい、建築けんちく用材ようざいに使つかわれる。ただし、加工かこうがしにくい、乾燥かんそうしにくいといった難点なんてんがある。

建築けんちくでは欄間らんま、敷居しきいに使つかわれる。
鉄道てつどうの枕木まくらぎ。初期しょきの木製もくせいレール。
橋はし
ハンマー（掛矢かけや）、スコップ、鍬くわ、杵きねなど道具どうぐ類るいの柄え。
山車だしのかじ取とりをするための梃子てこ。
木刀ぼくとう、ヌンチャクなどの武道ぶどう用具ようぐ。
和かず太鼓たいこの桴（ばち）。
その他た、杖つえ、棺桶かんおけなど。

戦争せんそうとカシ

1904年ねんに始はじまった日にち露ろ戦争せんそうでは、日本にっぽん軍ぐんの砲車ほうしゃがカシ材ざいを使つかったものであったため、ロシア帝国ていこくの砲車ほうしゃ（ヤシャブシで代用だいようしていた）よりも優すぐれていたという見分けんぶん結果けっかがもたらされた。ヨーロッパでは、カシはイタリアにあるだけで、多おおくはカシよりも弱よわいナラが代用だいようとされていた^[4]。

1940年ねん、日にち中ちゅう戦争せんそうの長期ちょうき化かで戦時せんじ色しょくの強つよまった大日本帝国だいにっぽんていこくでは、用材ようざい生産せいさん統制とうせい規則きそくにより特定とくていの樹き種しゅについて用途ようと指定していを実施じっし。カシ材ざいの使用しよう用途ようとについては、軍需ぐんじゅ、内地ないち使用しようの船舶せんぱく、車両しゃりょう用ように限かぎられることとなった^[5]。

カシをシンボルとする市町村しちょうそん

多おおくの市町村しちょうそんがカシをシンボルとして採用さいようしている。ここではシンボルを「カシ（樫かし）」としている市町村しちょうそんを列挙れっきょし、「イチイガシ」などのように各種かくしゅをシンボルとしている市町村しちょうそんおよび消滅しょうめつした市町村しちょうそんは除のぞいた。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ ^a ^b 辻井つじい達一たついち『日本にっぽんの樹木じゅもく』中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ〈中公新書ちゅうこうしんしょ〉、1995年ねん4月がつ25日にち、113頁ぺーじ。ISBN 4-12-101238-0。
^ 鳥飼とりかい玖美子くみこ『歴史れきしをかえた誤訳ごやく』〈新潮しんちょう文庫ぶんこ〉2004年ねん、158頁ぺーじ。（単行本たんこうぼんは2001年ねん）
^ 藤山ふじやま宏ひろし『プロが教おしえる住宅じゅうたくの植うえ栽』学芸がくげい出版しゅっぱん社しゃ、2010年ねん、9頁ぺーじ。
^ 「日本にっぽん林業りんぎょうアーカイブス技術ぎじゅつと暮くらしの記憶きおく第だい6回かい」『GR現代げんだい林業りんぎょう』通巻つうかん648号ごう、全国ぜんこく林業りんぎょう改良かいりょう普及ふきゅう協会きょうかい、2020年ねん6月がつ1日にち
^ 香田こうだ徹也てつや「昭和しょうわ15年ねん（1940年ねん）林政りんせい・民有みんゆう林りん」『日本にっぽん近代きんだい林政りんせい年表ねんぴょう 1867-2009』p420 日本にっぽん林業りんぎょう調査ちょうさ会かい 2011年ねん全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:22018608

参考さんこう文献ぶんけん

草川くさかわ俊しゅん『有用ゆうよう草木くさき博物はくぶつ事典じてん』東京とうきょう堂どう出版しゅっぱん。
いわさゆうこ・八田はった洋ひろし章あきら『どんぐりハンドブック』文ぶん一いち総合そうごう出版しゅっぱん。
徳永とくなが桂子けいこ『日本にっぽんどんぐり大だい図鑑ずかん』偕成社かいせいしゃ。
北村きたむら四郎しろう、村田むらた源はじめ『原色げんしょく日本にっぽん植物しょくぶつ図鑑ずかん』木本もくほん編へん2、保育ほいく社しゃ。
『週刊しゅうかん朝日あさひ百科ひゃっか植物しょくぶつの世界せかい』 87巻かん、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ。