水墨すいぼく画が

水墨すいぼく画が（すいぼくが）とは

画が法ほう。墨ぼく線せんだけでなく、墨すみを面めん的てきに使用しようし、ぼかしで濃淡のうたん・明暗めいあんを表あらわす絵画かいがである。墨絵すみえとも表記ひょうきされる。海外かいがいではZen（禅ぜん） painting と呼よばれる事こともある。

中国ちゅうごくにおける水墨すいぼく画が

中国ちゅうごく大陸たいりくでは殷いんの時代じだいには墨すみが使用しようされ、墨すみを用もちいた絵画かいがも漢かんの時代じだいには存在そんざいした^[1]。漢かん代だいの壁画へきがなどには墨すみによる線せんと顔料がんりょうによる着色ちゃくしょくによって描えがかれたものが現存げんそんしている^[1]。

唐とう代だいには墨すみの濃淡のうたんで表現ひょうげんする絵画かいがが作つくられるようになった^[1]。水墨すいぼく画がは唐とう代だい後半こうはんに山水さんすい画がの技法ぎほうとして成立せいりつした。また、9世紀せいき、張ちょう彦遠は墨色すみいろには万物ばんぶつの色彩しきさいが含ふくまれているとし「墨色すみいろに五彩ごさいあり」と画が論ろんで述のべている^[2]。水墨すいぼく画がは西洋せいよう画がの油絵あぶらえとは異ことなり筆墨ひつぼくが紙かみに浸潤しんじゅんするような画がが特徴とくちょうである^[3]。また、水墨すいぼく画がでは画家がかが物体ぶったいの本質ほんしつを知覚ちかく的てき・主観しゅかん的てきに捉とらえたもののみが描えがかれ、自然しぜん再現さいげん描写びょうしゃを重視じゅうしする西洋せいよう画がのように光源こうげんを固定こていした背景はいけい（背景はいけい上じょうの明暗めいあんや陰影いんえい）を描えがかない^[4]。

宋そう代だいには、文人ぶんじん官僚かんりょうの余技よぎとしての、四君子しくんし（蘭らん竹ちく菊きく梅うめ）の水墨すいぼく画がが行おこなわれた。また、禅宗ぜんしゅうの普及ふきゅうに伴ともない、禅宗ぜんしゅう的てき故事こじ人物じんぶつ画がが水墨すいぼくで制作せいさくされた。明あきら代だいには花卉かき、果物くだもの、野菜やさい、魚さかななどを描えがく水墨すいぼく雑ざつ画がも描えがかれた。

清明せいめい上河うえかわ図ず張ちょう択よ端はし（北きた宋そう、12世紀せいき、北京ぺきん故こ宮みや博物はくぶつ院いん）
潑墨仙人せんにん図ず梁りょう楷（南みなみ宋そう、13世紀せいき、国立こくりつ故こ宮みや博物はくぶつ院いん）
荷に花はな小鳥ことり図ず朱しゅ耷（清きよし、17世紀せいき、上海しゃんはい博物館はくぶつかん）

日本にっぽんにおける水墨すいぼく画が

日本にっぽんへ大陸たいりくから墨すみが伝来でんらいすると奈良なら時代じだい前後ぜんごには墨すみを用もちいた木簡もっかん、典籍てんせき、壁画へきがなどに墨書ぼくしょや墨画ぼくががみられるようになった^[1]。

水墨すいぼく画がの様式ようしきは日本にっぽんには鎌倉かまくら時代ときよに禅ぜんとともに伝つたわった^[1]。日本にっぽんに伝つたわった絵画かいがは、『達磨だるま図ず』・『瓢ひさご鮎あゆ図ず』などのように禅ぜんの思想しそうを表あらわすものであったが、徐々じょじょに変化へんかを遂とげ、「山水さんすい画が」も書かかれるようになった。

美術びじゅつ史しで「水墨すいぼく画が」という場合ばあいには、単たんに墨すみ一色いっしょくで描えがかれた絵画かいがということではなく、墨色すみいろの濃淡のうたん、にじみ、かすれ、などを表現ひょうげんの要素ようそとした中国ちゅうごく風ふうの描法によるものを指さし、日本にっぽんの作品さくひんについては、おおむね鎌倉かまくら時代じだい以降いこうのものを指さすのが通常つうじょうである。着ちゃく彩いろどり画がであっても、水墨すいぼく画風がふうの描法になり、墨すみが主おも、色いろが従したがえのものは「水墨すいぼく画が」に含ふくむことが多おおい。

平安へいあん時代じだい初期しょき、密教みっきょうの伝来でんらいとともに、仏像ぶつぞう、仏具ぶつぐ、曼荼羅まんだら等ひとしの複雑ふくざつな形態けいたいを正ただしく伝承でんしょうするために、墨ぼく一色いっしょくで線描せんびょうされた「密教みっきょう図像ずぞう」が多数たすう制作せいさくされた。絵巻物えまきものの中なかにも『枕草子まくらのそうし絵巻えまき』のように彩色さいしきを用もちいず、墨すみの線せんのみで描えがかれたものがある。しかし、これらのような肥こえ痩やせや濃淡のうたんのない均質きんしつな墨すみ線せんで描えがかれた作品さくひんは「白描はくびょう」（はくびょう）ないし「白しろ画が」といい、「水墨すいぼく画が」の範疇はんちゅうには含ふくめないのが普通ふつうである。

初期しょき水墨すいぼく画が

中国ちゅうごくにおける水墨すいぼく画が表現ひょうげんは唐から時代じだい末まつから、五ご代だい～宋そう時代じだい初はじめ（9世紀せいき末まつ～10世紀せいき）にかけて発達はったつした。中国ちゅうごくの水墨すいぼく画がが写実しゃじつ表現ひょうげんの追求ついきゅうから自発じはつ的てきに始はじまったものであるのに対たいし、日本にっぽんの水墨すいぼく画がは中国ちゅうごく画がの受容じゅようから始はじまったものである。日本にっぽんにおける水墨すいぼく画がの受容じゅようと制作せいさくがいつ頃ごろ始はじまったかは必かならずしも明確めいかくではない。すでに12世紀せいき末まつ頃ごろの詫わび磨すり派はの仏画ぶつがに水墨すいぼく画風がふうの筆法ひっぽうが見みられるが、本格ほんかく的てきな水墨すいぼく画が作品さくひんが現あらわれるのは13世紀せいき末まつ頃ごろで、中国ちゅうごくでの水墨すいぼく画が発祥はっしょうからは4世紀せいき近ちかくを経へていた。

日本にっぽんにおける水墨すいぼく画がの技法ぎほうは中国ちゅうごくから流入りゅうにゅうしたが、必かならずしも中国ちゅうごくにおける主流しゅりゅうの様式ようしきだけが受容じゅようされたわけではなく、また独自どくじの道徳どうとく観かんや文化ぶんか観かんとも相あいまって中国ちゅうごくの水墨すいぼく画がとは異ことなる道みちをたどることとなった^[1]。

13世紀せいき末まつから14世紀せいき頃ごろまでの日本にっぽんの水墨すいぼく画がを美術びじゅつ史しでは「初期しょき水墨すいぼく画が」と呼よんでいる。水墨すいぼく画ががこの頃ころ盛さかんになった要因よういんとしては、日本にっぽんと中国ちゅうごくの間あいだで禅僧ぜんそうの往来おうらいが盛さかんになり、宋そう・元もとの新しん様式ようしきの絵画かいがが日本にっぽんにもたらされたことが挙あげられる。13世紀せいきになり、無学むがく祖そ元もと、蘭らん渓けい道隆みちたからの中国ちゅうごく禅僧ぜんそうが相次あいついで来日らいにちした。彼かれらは絵画かいがを含ふくめ宋そう・元げんの文物ぶんぶつや文化ぶんかを日本にっぽんへもたらした。鎌倉かまくらにある円覚寺えんかくじの仏ふつ日にち庵あんの所蔵しょぞう品目ひんもく録ろくである「仏ふつ日にち庵あん公おおやけ物ぶつ目録もくろく」（ぶつにちあんくもつもくろく）は、元もと応おう2年ねん（1320年ねん）に作成さくせいされた目録もくろくを貞治さだはる2年ねん（1363年ねん）頃ごろに改訂かいていしたものであるが、これを見みると、当時とうじの円覚寺えんかくじには多数たすうの中国ちゅうごく画がが所蔵しょぞうされていたことが分わかる。

日本にっぽんの初期しょき水墨すいぼく画がは、絵え仏師ぶっしや禅僧ぜんそうが中心ちゅうしんとなって制作せいさくが始はじめられた。師資しし相承そうしょう（師匠ししょうから弟子でしへ仏法ぶっぽうを伝つたえる）を重視じゅうしする禅宗ぜんしゅうでは、師匠ししょうの法ほうを嗣ついだことを証明しょうめいするために弟子でしに与あたえる頂いただき相しょう（ちんぞう、禅僧ぜんそうの肖像しょうぞう）や禅宗ぜんしゅうの始祖しその達磨だるまをはじめとする祖師そし像ぞうなどの絵画かいが作品さくひんの需要じゅようがあった。この時期じきに制作せいさくされた水墨すいぼく画がの画題がだいとしては、上述じょうじゅつの頂いただき相しょう、祖師そし像ぞうのほか、道みち釈しゃく画が（道教どうきょうおよび仏教ぶっきょう関連かんれんの人物じんぶつ画が）、四君子しくんし（蘭らん、竹たけ、菊きく、梅うめを指さす）などが主おもなものである。なお、水墨すいぼく画がと禅宗ぜんしゅうの教義きょうぎとには直接ちょくせつの関係かんけいはなく、水墨すいぼく画がは禅宗ぜんしゅう様さまの建築けんちく様式ようしきなどと同様どうよう、外来がいらいの新あたらしい文化ぶんかとして受容じゅようされたものと思おもわれる。鎌倉かまくら時代じだいの絵巻物えまきものに表現ひょうげんされた画が中ちゅう画がを見みると、当時とうじ、禅宗ぜんしゅう以外いがいの寺院じいんの障子しょうじ絵えなどにも水墨すいぼく画がが用もちいられていたことが分わかる。

14世紀せいきの代表だいひょう的てきな水墨すいぼく画家がかとしては、可か翁おきな、黙庵もくあん、鉄舟てっしゅう徳とく済ずみなどが挙あげられる。可か翁おきなについては作品さくひんに「可か翁おきな」の印しるしが残のこるのみで伝記でんきは不明ふめいだが、元もとに渡航とこうした禅僧ぜんそうの可か翁おう宗はじめ然しかと同人どうじんとする説せつが有力ゆうりょくである。黙庵もくあんは元もとに渡わたり、同地どうちで没ぼっした禅僧ぜんそうである。鉄舟てっしゅう徳とく済ずみは夢ゆめ窓まど疎うと石せきの弟子でしの禅僧ぜんそうで、やはり元もとに渡航とこうしている。

代表だいひょう作さく

達磨だるま図ず（山梨やまなし・向むかい嶽たけし寺てら蔵ぞう、国宝こくほう） - 達磨だるまの衣ころもなどに彩色さいしきがあるが、水墨すいぼく画がの筆法ひっぽうで描えがかれている。絵えの上部じょうぶに蘭らん渓けい道隆みちたかの賛さんがあることから、蘭らん渓けいの没ぼっした1278年ねんが制作せいさく年代ねんだいの下限かげんである。
蘭らん渓けい道隆みちたか像ぞう（神奈川かながわ・建長寺けんちょうじ蔵ぞう、国宝こくほう） - 着き彩いろどり画がであるが、中国ちゅうごく画がと同様どうようの筆法ひっぽうで描えがかれている。この時代じだいの頂いただき相しょうの代表だいひょう作さくである。絵えの上部じょうぶに文ぶん永なが8年ねん（1271年ねん）の蘭らん渓けい自身じしんの賛さんがある。
可か翁おきな筆ひつ　寒かん山やま図ず（長野ながの・サンリツ服部はっとり美術館びじゅつかん蔵ぞう^{[注釈ちゅうしゃく 1]}、国宝こくほう)　- 寒かん山やまは中国ちゅうごく・唐とう代だいに浙江せっこう省しょうにある天台山てんだいざんの国清寺こくせいじに住すんでいたという伝説でんせつ的てきな隠者いんじゃで、拾得しゅうとくとともに水墨すいぼく画がの好こう画題がだいとされる。

室町むろまち水墨すいぼく画が

室町むろまち時代ときよは日本にっぽん水墨すいぼく画がの全盛期ぜんせいきと言いってよいであろう。足利あしかが家かが禅宗ぜんしゅうを庇護ひごしたこともあり、禅ぜん文化ぶんかや五山ごさん文学ぶんがくが栄さかえ、足利あしかが家かの寺てらである京都きょうとの相国寺しょうこくじからは如拙、周しゅう文ぶん、雪舟せっしゅうをはじめとする画が僧そうを輩出はいしゅつした。また、東福寺とうふくじの画が僧そうの吉山よしやま明あきら兆ちょうは、濃こ彩いろどりの仏画ぶつがから水墨すいぼく画がまで幅広はばひろい作品さくひんを制作せいさくした。8代だい将軍しょうぐん足利あしかが義政よしまさは政治せいじを省かえりみなかったが、文化ぶんかの振興しんこうには力ちからを入いれ、唐物とうぶつと呼よばれる中国ちゅうごく舶載はくさいの書画しょが、茶道具ちゃどうぐなどを熱心ねっしんに収集しゅうしゅう・鑑賞かんしょうした。当時とうじの日本にっぽんで珍重ちんちょうされたのは、中国ちゅうごくの南みなみ宋そう時代じだいの画家がかの作品さくひんで、夏なつ珪、馬うま遠とお、牧まき谿（もっけい）、梁りょう楷、玉たま澗（ぎょくかん）らが特とくに珍重ちんちょうされた。牧まき谿、梁りょう楷、玉たま澗などは中国ちゅうごく本国ほんごくよりも日本にっぽんで評価ひょうかの高たかい画家がかである。なお、室町むろまち時代じだいの日本にっぽん画壇がだんが水墨すいぼく画が一色いっしょくであったと考かんがえるのは誤あやまりで、この時代じだいには伝統でんとう的てきな大和絵やまとえの屏風びょうぶも盛さかんに描えがかれていたことが、20世紀せいき後半こうはん以降いこうの研究けんきゅうで明あきらかになっている。

14世紀せいきまでの日本にっぽん水墨すいぼく画がが頂いただき相しょう、祖師そし図ず、道みち釈しゃく画がなどの人物じんぶつ画がや花鳥かちょう画がを中心ちゅうしんとしていたのに対たいし、15世紀せいきには日本にっぽんでも本格ほんかく的てきな山水さんすい画がが描えがかれるようになる。日本にっぽんの水墨すいぼく山水さんすい画がのうち、最もっとも初期しょきの作さくとされるものは、「思おもえ堪こらえ」という印章いんしょうのある『平ひら沙すな落雁らくがん図ず』（個人こじん蔵ぞう）である。この作品さくひんには中国ちゅうごく出身しゅっしんの禅僧ぜんそうの一いち山一やまいち寧やすしの賛さんがあり、彼かれの没年ぼつねんである1317年ねんが制作せいさく年代ねんだいの下限かげんとなる。画面がめん下部かぶに「思おもえ堪こらえ」の朱印しゅいんがあり、これが画家がか名めいと思おもわれるが、その伝記でんき等とうは不明ふめいである。この『平ひら沙すな落雁らくがん図ず』にはまだ水墨すいぼく画がの画が法ほうをこなしきれていない稚拙ちせつな部分ぶぶんがあり、遠近えんきん感かんの表現ひょうげんなども十分じゅうぶんではない。それから約やく1世紀せいきを経へた応おう永年えいねん間あいだ（15世紀せいき初頭しょとう）に、「詩し画が軸じく」と称しょうされる一連いちれんの作品さくひんが制作せいさくされる。

「詩し画が軸じく」とは、「詩し・書しょ・画一かくいつ体たい」の境地きょうちを表あらわしたもので、縦たてに長ながい掛軸かけじくの画面がめんの下部かぶに水墨すいぼく画がを描えがき、上部じょうぶの余白よはくに、画題がだいに関連かんれんした漢詩かんしを書かいたものである。この種たねの詩し画が軸じくで年代ねんだいの分わかる最古さいこのものとされるのが藤田ふじた美術館びじゅつかん蔵くらの『柴門さいもん新月しんげつ図ず』（さいもんしんげつず）で、応おう永なが12年ねん（1405年ねん）の作さくである。この図ずは杜もり甫はじめの詩しを題材だいざいにしたもので、絵えの上部じょうぶには序文じょぶんに続つづいて18名めいの禅僧ぜんそうが詩文しぶんを書かいており、絵えよりも書しょの占しめるスペースが倍ばい以上いじょう大おおきい。15世紀せいき前半ぜんはんに制作せいさくされた詩し画が軸じくの代表だいひょう作さくとしては他たに『渓けい陰かげ小しょう築ちく図ず』、『竹たけ斎とき読書どくしょ図ず』、『水色みずいろ巒光図ず』（すいしょくらんこうず）などがあり、絵えの筆者ひっしゃは『渓けい陰かげ小しょう築ちく図ず』が明あかり兆ちょう、『竹たけ斎とき読書どくしょ図ず』、『水色みずいろ巒光図ず』が周しゅう文ぶんとの伝つたえもあるが、確証かくしょうはない。この時期じきの詩し画が軸じくは、「書斎しょさい図ず」と呼よばれる、山水さんすいに囲かこまれた静しずかな書斎しょさいで過すごす、文人ぶんじんの理想りそうの境地きょうちを題材だいざいにしたものが多おおい。

この時代じだいにはようやく画が人じんの名前なまえと個性こせいが明確めいかくになってくる。相国寺しょうこくじの画が僧そうの如拙は、『瓢ひさご鮎あゆ図ず』（ひょうねんず、京都きょうと・退蔵たいぞう院いん蔵ぞう）を初はじめ、若干じゃっかんの作品さくひんが知しられる。やはり相国寺しょうこくじの画が僧そうであった周しゅう文ぶんは、幕府ばくふの御用ごよう絵師えしとしての事績じせきが文献ぶんけんからは知しられ、詩し画が軸じく、山水さんすい屏風びょうぶなどに「伝でん周あまね文筆ぶんぴつ」とされる作品さくひんが多数たすう残のこるが、確証かくしょうのある作例さくれいは1点てんもない。

15世紀せいきの後半こうはんには、水墨すいぼく画家がかとしてのみならず、著名ちょめいな画家がかの一人ひとりである雪舟せっしゅう（1420年ねん - 1502年ねん/1506年ねん）が登場とうじょうする。雪舟せっしゅうは備中びっちゅう国こく（岡山おかやま県けん）の出身しゅっしんで、地方ちほう武士ぶしの血ちを引ひくと言いわれる。上京じょうきょうして相国寺しょうこくじの僧そうとなるが、後のちに大内おおうち氏しを頼たよって山口やまぐちに移住いじゅう。応仁おうにんの乱らん（1467年ねん - 1477年ねん）の始はじまりと前後ぜんごして中国ちゅうごく・明あかりに渡航とこう、足掛あしかけ3年ねん滞在たいざいして帰国きこくした。帰国きこく後ごは山口やまぐち、大分おおいたなど、もっぱら地方ちほうを遍歴へんれきして制作せいさくし、80歳さい代だいまで作品さくひんを残のこしている。雪舟せっしゅうは明あかり応おう4年ねん（1495年ねん）、76歳さいの時とき、弟子でしの宗そう淵ふかしに与あたえた作品さくひん『山水さんすい図ず』（通称つうしょう「破墨はぼく山水さんすい図ず」）の自賛じさんに、「自分じぶんは絵えを学まなぶために明あかりに渡航とこうしたが、そこには求もとめる師しはいなかった」と記しるし、先輩せんぱいに当あたる如拙や周しゅう文ぶんの画業がぎょうをたたえている。この自賛じさんは、日本にっぽんの画家がかが自みずからの画業がぎょうについて語かたったものとしては最古さいこのものであり、日本にっぽん画家がかとしての自負じふが窺うかがえる。雪舟せっしゅうは中国ちゅうごく絵画かいがの影響えいきょうを消化しょうかしつつ『天橋立あまのはしだて図ず』のような日本にっぽんの実景じっけいを題材だいざいにした独自どくじの水墨すいぼく画がを制作せいさくした。また、多おおくの弟子でしを育成いくせいし、彼かれらの中なかには秋月しゅうげつ（薩摩さつま出身しゅっしん）、宗そう淵ふかし（鎌倉かまくら円覚寺えんかくじの画が僧そう）など、それぞれの出身しゅっしん地ちに帰かえって活躍かつやくした者ものもいた。こうした面めんでも、雪舟せっしゅうが日本にっぽん絵画かいがに与あたえた影響えいきょうは大おおきかった。

室町むろまち時代じだいには、地方ちほうにも多おおくの画が人じんが現あらわれ、その多おおくは武家ぶけの出身しゅっしんであった。その代表だいひょう的てきな存在そんざいが、常陸ひたち国こく太田おおた（茨城いばらき県けん常陸太田ひたちおおた市し）の武家ぶけ出身しゅっしんの画家がかの雪村ゆきむらであった。雪村ゆきむらは後のちに出家しゅっけして画が僧そうとなり、関東かんとう地方ちほうと会津あいづ地方ちほうで80歳さい代だいまで制作せいさくを続つづけたが、その作品さくひんには武家ぶけの出身しゅっしんらしい気迫きはくのこもったものが多おおい。

この時代じだいには他ほかにも多おおくの水墨すいぼく画家がかがいた。著名ちょめいな者ものとしては、曾我そが蛇足だそく、松まつ谿、岳たけ翁おう蔵ぞう丘おからがいるが、これらの人物じんぶつの伝記でんきはあまり明あきらかでない。足利あしかが将軍家しょうぐんけに仕つかえた「同朋どうほう衆しゅ」（唐物とうぶつの目利めききなど、芸術げいじゅつ顧問こもん的てきな仕事しごとをしていた）の阿弥あみ派は一族いちぞく（能阿弥のうあみ、芸阿弥げいあみ、相阿弥そうあみ）も水墨すいぼくの作品さくひんを残のこしている。

著名ちょめいな水墨すいぼく画家がか

竹たけ斎とき読書どくしょ図ず伝でん・周しゅう文ぶん（東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん、国宝こくほう）
山水さんすい図ず（水色みずいろ巒光図ず）（奈良なら国立こくりつ博物館はくぶつかん、国宝こくほう）
山水さんすい図ず（破墨はぼく山水さんすい図ず）雪舟せっしゅう（東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん、国宝こくほう）
秋冬あきふゆ山水さんすい図ず（秋あき景けい）雪舟せっしゅう（東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん、国宝こくほう）
溌墨はつぼく山水さんすい図ず杉浦すぎうら俊しゅん香が昭和しょうわ3年ねん（1928年ねん）作さく個人こじん蔵ぞう

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ 長ながらく個人こじん所蔵しょぞうであったが、長野ながの県けん諏訪すわ市しのサンリツ服部はっとり美術館びじゅつかんに所蔵しょぞう先さきが移うつっている。（参照さんしょう）：「指定してい文化財ぶんかざい・遺跡いせきのご案内あんない」（諏訪すわ市し公式こうしきサイト、市内しないの文化財ぶんかざい一覧いちらんへのリンクあり）

出典しゅってん

^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f 美術びじゅつ鑑賞かんしょう講座こうざ5「墨絵すみえの世界せかい」中津なかつ市し木村きむら記念きねん美術館びじゅつかん、2018年ねん11月19日にち閲覧えつらん。
^ 山田やまだ玉たま雲くも『水墨すいぼく画がの基礎きそ描法新装しんそう第だい2版はん』日にち貿出版しゅっぱん社しゃ、2009年ねん、4頁ぺーじ
^ 山田やまだ玉たま雲くも『水墨すいぼく画がの基礎きそ描法新装しんそう第だい2版はん』日にち貿出版しゅっぱん社しゃ、2009年ねん、6頁ぺーじ
^ 山田やまだ玉たま雲くも『水墨すいぼく画がの基礎きそ描法新装しんそう第だい2版はん』日にち貿出版しゅっぱん社しゃ、2009年ねん、8頁ぺーじ

参考さんこう文献ぶんけん

「特別とくべつ展てん　水墨すいぼく画が」図録ずろく、東京とうきょう国立こくりつ博物館はくぶつかん
週刊しゅうかん朝日あさひ百科ひゃっか『世界せかいの美術びじゅつ』115号ごう「室町むろまち時代じだいの水墨すいぼく画が」、116号ごう「雪舟せっしゅう・雪村ゆきむらと戦国せんごく画壇がだん」、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ、1980年ねん