サルタヒコ

猿田さるた毘古大神おおがみ（19世紀せいき後期こうき画が）

サルタヒコを祀まつる猿さる田彦たびこ神社じんじゃ（三重みえ県けん・伊勢いせ市し）

サルタビコノカミ、またはサルタヒコノカミは、日本にっぽん神話しんわに登場とうじょうする神かみ。

概要がいよう

『古事記こじき』では猿田さるた毘古神しん、猿田さるた毘古大神だいじん、猿田さるた毘古之の男神おかみ、『日本書紀にほんしょき』では猿田さるた彦命と表記ひょうきされる。

『古事記こじき』および『日本書紀にほんしょき』の天孫てんそん降臨こうりんの段だんに登場とうじょうする（『日本書紀にほんしょき』は第だい一いちの一いち書しょ）。天孫てんそん降臨こうりんの際さいに、天照大御神あまてらすおおみかみに遣つかわされた邇邇芸げい命いのち（ににぎのみこと）を道案内みちあんないした国津くにつ神しん。

伊勢いせ国こく五十鈴川いすずがわのほとりに鎮座ちんざしたとされ、中世ちゅうせいには、庚申こうしん信仰しんこうや道祖神どうそじんと結むすびついた。

神話しんわでの記述きじゅつ

邇邇芸げい命いのちが天降あまくだりしようとしたとき、天てんの八はち衢（やちまた。道みちがいくつもに分わかれている所ところ）に立たって高天原たかまがはらから葦原よしわら中国ちゅうごくまでを照てらす神かみがいた。『日本書紀にほんしょき』では、その神かみの鼻はなの長ながさは七なな咫（ななあた）、背せ（そびら）の長ながさは七なな尺しゃく（ななさか）、目めが八はち咫鏡（やたのかがみ）のように、また赤あか酸さん醤ひしお（あかかがち）のように照てり輝かがやいているという姿すがたであった。そこで天照大御神あまてらすおおみかみと高木たかぎ神かみは天てん宇受売うり命いのち（あめのうずめ）に、その神かみの元もとへ行いって誰だれであるか尋たずねるよう命めいじた。その神かみが国津くにつ神しんの猿田さるた毘古神しんで、邇邇芸げい命いのちらの先導せんどうをしようと迎むかえに来きた。

邇邇芸げい命いのちらが無事ぶじに葦原よしわら中国ちゅうごくに着つくと、邇邇芸げい命いのちは天てん宇受売うり命いのちに、その名なを明あきらかにしたのだから、猿田さるた毘古神しんを送おくり届とどけて、その名前なまえをつけて仕つかえるようにと言いった。そこで天てん宇受売うり命いのちは「猿さる女おんな君くん」と呼よばれるようになったという。なお、『日本書紀にほんしょき』では、猿さる田彦たびこが天てん鈿女命いのち（あめのうずめ）に自分じぶんを送おくり届とどけるように頼たのんだことになっている。猿田さるた毘古神しんは故郷こきょうである伊勢いせ国こくの五十鈴川いすずがわの川上かわかみへ帰かえった。

猿田さるた毘古神しんは伊勢いせの阿おもね邪よこしま訶（あざか。旧きゅう一志いちし郡ぐん阿坂あざか村むら、現げん松阪まつさか市し）の海うみで漁りょうをしていた時とき、比良びら夫おっと貝かい（ひらふがい）に手てを挟はさまれ、溺おぼれる。この際さい、海うみに沈しずんでいる時ときに「底そこ度ど久ひさし御ご魂たましい」（そこどくみたま）、猿田さるた毘古神しんが吐はいた息いきの泡あわが昇のぼる時ときに「都と夫おっと多おお都と御ご魂たましい」（つぶたつみたま）、泡あわが水面すいめんで弾はじける時ときに「阿おもね和佐わさ久ひさ御ご魂たましい」（あわさくみたま）という三さん柱はしらの神かみが生うまれた。この時ときに海中かいちゅうで溺おぼれた際さいに生しょうじた泡あわの三さん柱はしらの神かみは阿おもね射い加か神社じんじゃ（三重みえ県けん松阪まつさか市し大阿坂おおあざかと小阿坂こあざかに2社しゃ存在そんざいする）に現在げんざいは鎮座ちんざしている。　

『倭やまと姫ひめ命いのち世よ記き』（神道しんとう五ご部ぶ書しょの一ひとつ）によれば、倭やまと姫ひめ命いのちが天てん照あきら大神おおがみを祀まつるのに相応ふさわしい地ちを求もとめて諸国しょこくを巡めぐっていたとき、猿さる田彦たびこの子孫しそんである大田おおた命いのち（おおたのみこと）が倭やまと姫ひめ命いのちを先導せんどうして五十鈴川いすずがわの川上かわかみ一帯いったいを献上けんじょうしたとされている。大田おおた命いのちの子孫しそんは宇治うじ土ど公こう（うじのつちぎみ）と称しょうし、代々だいだい伊勢神宮いせじんぐうの玉串たまぐし大内おおうち人じんに任にんじられた。しかし、大田おおた命いのちを猿さる田彦たびこの子孫しそんと主張しゅちょうし始はじめたのは鎌倉かまくら時代ときよに成立せいりつした『伊勢いせ二所皇太神宮御鎮座伝記』や『倭やまと姫ひめ命いのち世よ記き』であり、延のべ暦れき期き成立せいりつと見みられる『皇すめらぎ太ふと神宮じんぐう儀式ぎしき帳ちょう』や後三条ごさんじょう朝あさまでの編へん年ねん記事きじが見みえる『大神宮だいじんぐう諸しょ雑事ざつじ記き』では、宇治うじ土ど公こうは単たんに大田おおた命いのちの子孫しそんであるとだけ主張しゅちょうしており、大田おおた命いのちの遠祖えんそに猿さる田彦たびこを架か上じょうしたものと指摘してきされる。「児島こじま系図けいず」では久ひさ斯比賀が多た命いのち三さん世せい孫まごの久ひさ斯気主命しゅうめいを祖そとし、石部いしべ公こうや狛こま人じん部ぶと同族どうぞくであるとしており、これに従したがえば三輪みわ氏し族ぞくとなる。

椿つばき大だい神社じんじゃ（三重みえ県けん鈴鹿すずか市し）の社しゃ伝でんでは伊勢いせの阿おもね邪よこしま訶にて溺おぼれた際さいに命いのちを落おとし、後のちに同どう神社じんじゃの高山たかやま土ど公おおやけ神しん御陵ごりょうに葬ほうむられ、これが猿田さるた彦命の御陵ごりょうとされている。

また、二見ふたみ興きょう玉だま神社じんじゃ（三重みえ県けん伊勢いせ市し二見ふたみ町まち）の由緒ゆいしょ書しょでは、同どう神社じんじゃの境内けいだいの海中かいちゅうに位置いちする興きょう玉だま神石じんせきは天孫てんそん降臨こうりんの際さいに猿さる田彦たびこが降おり立たった神かみ跡あとであると伝つたえている。

解説かいせつ

天狗てんぐ面めんを被こうむった猿田さるた彦役
面めん掛かけ行列ぎょうれつ（御霊みたま神社じんじゃ）

『日本書紀にほんしょき』には、天てん宇受売うり神しんは胸むね乳ちちを露あらわにし裳も帯たい（もひも）を臍ほぞの下したに垂たらしたとあるので、性的せいてきな所作しょさをもって相対あいたいしたことになる。神話しんわでは二神にかみが結婚けっこんしたと伝つたえられている。

「天地てんちを照てらす神かみ」ということから、天てん照あきら大神だいじん以前いぜんに伊勢いせで信仰しんこうされていた太陽たいよう神しんだったとする説せつもある。

三重みえ県けん鈴鹿すずか市しの椿つばき大だい神社じんじゃ、三重みえ県けん伊勢いせ市し宇治浦田うじうらたの猿さる田彦たびこ神社じんじゃがサルタヒコを祀まつる神社じんじゃとして名高なだかい。

また、神社じんじゃの祭礼さいれいの神輿しんよ渡御とぎょの際さい、赤面せきめんで鼻はなの長ながい天狗てんぐ様さまの面めんを被こうむり、高下駄たかげたや鉾ほこなどを身みにつけた猿田さるた彦役の者ものが神輿しんよを先導せんどうをすることがある。

他ほかにも滋賀しが県けん高島たかしま市しの白しろ鬚ひげ神社じんじゃの祭神さいじんとされたことから白しろ鬚ひげ明神みょうじんの名なでも全国ぜんこく各地かくちに祀まつられている。また子孫しそんである大田おおた命いのち、内宮ないくうの興きょう玉だま神しんとも同一どういつ視しされる。

また、仙台せんだい藩はん4代だい藩主はんしゅ・伊達だて綱村つなむらが鹽竈しおがま神社じんじゃの由緒ゆいしょについて調査ちょうさを行おこない、元禄げんろく6年ねんに『鹽竈しおがま神社じんじゃ縁起えんぎ』を完成かんせいさせたが、その中なかでは鹽竈しおがま神社じんじゃの別宮べつくに祀まつられている神かみは、猿さる田彦たびこ、事こと勝かつ國勝くにかつ、塩土しおど老翁ろうおう、岐神、興きょう玉だま命いのち、太田おおた命いのちの6座ざと同体どうたい異名いみょうの神かみであるとされた（詳くわしくはシオツチオジの項こうを参照さんしょうされたい）。

さらに江戸えど時代じだいに入はいって「サル」の音おとから庚申こうしん講こうと結むすび付つけられたほか、垂たれ加か神道しんとうでは「導みちびきの神かみ」として神道しんとうの「教祖きょうそ」とされる。他ほかにも合気道あいきどうの開祖かいそ・植芝うえしば盛もり平たいらの建たてた合ごう氣き神社じんじゃでは盛もり平たいらの守護神しゅごじんとされ、様々さまざまな神格しんかくを持もつ。

こうしたことから近年きんねんは、謎なぞの神かみとして鎌田かまた東ひがし二になどの学者がくしゃにクローズアップされている。鎌田かまたは、サルタヒコとアメノウズメの協きょう働はたらけを国津くにつ神しんであるサルタヒコの裏切うらぎりではなく、新あたらしい日本にっぽんの体制たいせいを開ひらくための和睦わぼくと解釈かいしゃくし、サルタヒコを日本にっぽん的てき霊れい性せいの現像げんぞうととらえている。

常陸ひたち国こくの住人じゅうにんに猿田さるた氏しがあり、猿さる田彦たびこの末裔まつえいであるとされる。前述ぜんじゅつの椿つばき大だい神社じんじゃと猿さる田彦たびこ神社じんじゃの宮司ぐうじもともに鎌倉かまくら時代ときよ以降いこう、猿さる田彦たびこの神かみ孫まごと称しょうする。

現代げんだいでも小説しょうせつや漫画まんがなどの創作そうさく物ぶつの登場とうじょう人物じんぶつとして用もちいられる。例たとえば手塚てづか治虫おさむの『火ひの鳥とり』シリーズには、「猿田さるた」もしくは「猿さる田彦たびこ」という人物じんぶつが毎回まいかい登場とうじょうする。それらの多おおくが、鼻はなが大おおきいという身体しんたい的てき特徴とくちょうを持もっている。

道祖神どうそじんとの関連かんれん

天孫てんそん降臨こうりんの際さいに道案内みちあんないをしたということから、道みちの神かみ、旅人たびびとの神かみとされるようになり、道祖神どうそじんと同一どういつ視しされた。そのため全国ぜんこく各地かくちで塞ふさがの神かみ・道祖神どうそじんが「猿田さるた彦神」として祀まつられている。この場合ばあい、妻つまとされる天てん宇受売うり神しんとともに祀まつられるのが通例つうれいである。

猿田さるた毘古神しんを祭神さいじんとする神社じんじゃ

同名どうめいの神社じんじゃ

• 庚申塚こうしんづか（全国ぜんこく各地かくち）
  • 巣鴨すがも庚申こうしん堂どう（東京とうきょう都と豊島としま区く）
  • 庚申こうしん社しゃ（福岡ふくおか県けん直方のうがた市し）
• 白しろ鬚ひげ神社じんじゃ（全国ぜんこく各地かくち、神社じんじゃによって「白髭しらひげ」「白髯はくぜん」「白髪はくはつ」）
  • 白しろ鬚ひげ神社じんじゃ（総そう本宮ほんぐう：滋賀しが県けん高島たかしま市し）
• 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ（全国ぜんこく各地かくち）
  • 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ（総そう本宮ほんぐう：三重みえ県けん伊勢いせ市し）
  • 猿さる田彦たびこ大神だいじん（千葉ちば県けん成田なりた市し）
  • 猿田さるた神社じんじゃ（千葉ちば県けん銚子ちょうし市し）
  • 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ（静岡しずおか県けん掛川かけがわ市し）
  • 尾張おわり猿ざる田彦たびこ神社じんじゃ （愛知あいち県けん一宮いちのみや市し）
  • 犬山いぬやま猿さる田彦たびこ神社じんじゃ （愛知あいち県けん犬山いぬやま市し）
  • 山ノ内やまのうち猿さる田彦たびこ神社じんじゃ　(京都きょうと市し右京うきょう区く)
  • 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ （道祖神どうそじん社しゃ） （奈良なら県けん奈良なら市し）
  • 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ （福岡ふくおか県けん福岡ふくおか市し早良さわら区く）
  • 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ （福井ふくい県けん福井ふくい市し）

三重みえ県けん

• 二見ふたみ興きょう玉だま神社じんじゃ（三重みえ県けん伊勢いせ市し二見ふたみ町まち）
• 椿つばき大だい神社じんじゃ（総そう本宮ほんぐう：三重みえ県けん鈴鹿すずか市し）
  • 都と波は岐神社しゃ・奈加等とう神社じんじゃ（三重みえ県けん鈴鹿すずか市し）
• 阿おもね射い加か神社じんじゃ（三重みえ県けん松阪まつさか市し大阿坂おおあざか）
• 阿おもね射い加か神社じんじゃ（三重みえ県けん松阪まつさか市し小阿坂こあざか）

その他た（三重みえ県けん以外いがい）

• 太田おおた山神さんじん社しゃ（北海道ほっかいどう久遠くどお郡ぐんせたな町まち）
• 鼻はな節ぶし神社じんじゃ（宮城みやぎ県けん七ヶ浜しちがはま町まち）
• 菅かん布ぬの禰神社しゃ（福島ふくしま県けん郡山こおりやま市し）
• 椋むく神社じんじゃ（埼玉さいたま県けん秩父ちちぶ市し下吉田しもよしだ）秩父ちちぶ吉田よしだの龍りゅう勢ぜい祭さいなどで有名ゆうめい。
• 高麗神社こまじんじゃ（埼玉さいたま県けん日高ひだか市し）
• 野々宮ののみや神社じんじゃ（埼玉さいたま県けん日高ひだか市し）
• 御園みその神社じんじゃ（東京とうきょう都と大田おおた区く西蒲田にしかまた）
• 籠かご祖神そしん社しゃ（東京とうきょう都と千代田ちよだ区く神田かんだ神社じんじゃ境内けいだい社しゃ）
• 男石おとこいし神社じんじゃ（長野ながの県けん上田うえだ市し殿城とのしろ）
• 佐さ那な武神ぶしん社しゃ(石川いしかわ県けん野々市ののいち市し)
• 本土ほんど神社じんじゃ(岐阜ぎふ県けん多治見たじみ市し)
• 長澤ながさわ神社じんじゃ（岡山おかやま県けん井原いはら市し大江おおえ町まち）
• 塩屋しおや神社じんじゃ（広島ひろしま県けん広島ひろしま市し）
• 佐さ太神おおが社しゃ（島根しまね県けん松江まつえ市し）

- 神社じんじゃでは「佐さ太ふとし御子みこ大神だいじん」となっており、母ははは神魂しんこん命いのちの子この枳からたち佐さ加か比ひ売うり命いのち、加賀かがの潜戸くぐりどで生うまれたと『出雲いずも国こく風土記ふどき』にある。

• 大麻たいま比ひ古こ神社じんじゃ（徳島とくしま県けん鳴門なると市し大麻おおさ町まち）
• 荒あら立神たてがみ社しゃ（宮崎みやざき県けん西臼杵にしうすき郡ぐん高千穂たかちほ町まち）

参考さんこう文献ぶんけん

• 飯田いいだ道夫みちお『サルタヒコ考こう ― 猿さる田彦たびこ信仰しんこうの展開てんかい』（臨川りんせん書店しょてん、1998年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• 伊勢神宮いせじんぐう
• 民間みんかん信仰しんこう
• 伊藤いとう小しょう坡
• 猿田さるた氏し
• サタヒコ
• 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ (曖昧あいまいさ回避かいひ)
• 猿さる田彦たびこ珈琲こーひー

外部がいぶリンク

• 猿さる田彦たびこ神社じんじゃ
• 『猿田さるた彦命』 - コトバンク