田中たなか稲城いなぎ

田中たなか稲城いなぎ
誕生たんじょう	(1856-02-11) 1856年ねん2月がつ11日にち（安政あんせい3年ねん1月がつ6日にち） 周防すおう国こく玖珂くが郡ぐん今津いまづ村むら（現げん・山口やまぐち県けん岩国いわくに市し）
死没しぼつ	(1925-02-22) 1925年ねん2月がつ22日にち（69歳さい没ぼつ）
職業しょくぎょう	官吏かんり、図書館としょかん学者がくしゃ
国籍こくせき	日本にっぽん
最終さいしゅう学歴がくれき	東京大学とうきょうだいがく文学部ぶんがくぶ
代表だいひょう作さく	『図書館としょかん管理かんり法ほう』（1900・1912年ねん）
配偶はいぐう者しゃ	ミチ（田中たなか仲蔵なかぞう長女ちょうじょ）
子供こども	駿しゅん吉よし（長男ちょうなん）、ハル（長女ちょうじょ・藤岡ふじおか重生しぎょう妻つま）、チヨ（次女じじょ・桜井さくらい正吉まさきち妻つま）、シズ（三さん女じょ・広津ひろつ政二まさじ妻つま）、誠二せいじ（次男じなん）

田中たなか 稲城いなぎ（たなか いなぎ、1856年ねん2月がつ11日にち（安政あんせい3年ねん1月がつ6日にち） - 1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）2月がつ22日にち）は明治めいじ時代じだいから大正たいしょう時代じだいにかけての日本にっぽんの官僚かんりょう、図書館としょかん学者がくしゃ。

帝国ていこく図書館としょかん（国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんの前身ぜんしん）初代しょだい館長かんちょう、日本にっぽん文庫ぶんこ協会きょうかい（日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかいの前身ぜんしん）初代しょだい会長かいちょう。「図書館としょかんの父ちち」と称しょうされる。

来歴らいれき

幕末ばくまつに周防すおう国こくで岩国いわくに藩士はんし末永すえなが家かの三男さんなんとして生うまれた。幼名ようみょうは辰之助たつのすけ。田中たなか家かの養子ようしに入はいって田中たなか林蔵りんぞう、のち稲城いなぎと改名かいめいする。藩校はんこうで漢学かんがく、英語えいご学校がっこうで英語えいごを学まなんだのち、1875年ねんに東京とうきょう開成かいせい学校がっこうに入学にゅうがく。1881年ねんに東京大学とうきょうだいがく文学部ぶんがくぶ（帝国ていこく大学だいがく文科ぶんか大学だいがくの前身ぜんしん）和漢わかん文学ぶんがく科かを卒業そつぎょうするとともに、東京大学とうきょうだいがく文学部ぶんがくぶ・法学部ほうがくぶ准じゅん講師こうしに任にんぜられた。1882年ねんには助教授じょきょうじゅに昇進しょうしんするが、1886年ねんに文部もんぶ一等いっとう属ぞくに任命にんめいされ、文部省もんぶしょうの本省ほんしょうに転属てんぞく。文部省もんぶしょう所管しょかんの東京とうきょう図書館としょかん（帝国ていこく図書館としょかんの前身ぜんしん）の運営うんえいに関かかわり、図書館としょかん行政ぎょうせいの道みちに入はいる。

1888年ねん、当時とうじ文部もんぶ書記官しょきかんだった田中たなか稲城いなぎは「図書館としょかんに関かんする学術がくじゅつ修行しゅぎょう」のため海外かいがい留学りゅうがくを命めいぜられ出国しゅっこく。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくとイギリスでハーバード大学だいがく図書館としょかん、ニューヨーク公共こうきょう図書館としょかん、大だい英えい博物館はくぶつかん図書館としょかん（大だい英えい図書館としょかんの前身ぜんしん）、オックスフォおっくすふぉード大学どだいがく図書館としょかん、ケンブリッジ大学けんぶりっじだいがく図書館としょかんなどを見学けんがく、研究けんきゅうし、図書館としょかん経営けいえいの実務じつむを学まなんだ後のち、フランスとドイツを遊学ゆうがくして1年ねん半はん後ごの1890年ねん3月がつに帰国きこくした。

帰国きこく後ご、帝国ていこく大学だいがく文科ぶんか大学だいがく（田中たなか稲城いなぎ自身じしんの卒業そつぎょうした東京大学とうきょうだいがく文学部ぶんがくぶの後身こうしん）の教授きょうじゅに任にんぜられ、ついで上野うえのの東京とうきょう図書館としょかんの館長かんちょう兼務けんむを拝命はいめい、1893年ねんには図書館としょかん長ちょう専任せんにんとなって本格ほんかく的てきに日本にっぽんにおける国立こくりつ図書館としょかんの整備せいび・経営けいえいの仕事しごとに取とり組くんだ。

田中たなかが館長かんちょうに就任しゅうにんしたとき、東京とうきょう図書館としょかんはきわめて貧弱ひんじゃくな予算よさんと施設しせつしか持もっていなかった。文部もんぶ大臣だいじん森もり有礼ありのりの学校がっこう教育きょういく改革かいかくの煽あおりを受うけて文部省もんぶしょうの社会しゃかい教育きょういくにかける予算よさんは削減さくげんされていたうえ、折おりから朝鮮ちょうせん情勢じょうせいの緊迫きんぱく化かから政府せいふ全体ぜんたいが日にち清しん戦争せんそうに向むけて軍備ぐんび拡充かくじゅうに予算よさんをつぎ込こんでいたため、教育きょういく・文化ぶんか行政ぎょうせいの一いち分野ぶんやに過すぎない図書館としょかんは全まったく重視じゅうしされなかったためである。そこで、田中たなかは政界せいかい、官界かんかいの有力ゆうりょく者しゃや関係かんけい各所かくしょに向むけて陳情ちんじょう活動かつどうを行おこなうとともに、欧米おうべい諸国しょこくにおける国立こくりつ図書館としょかん政策せいさくを紹介しょうかいしたり、国立こくりつ図書館としょかんが国くにの教育きょういく・文化ぶんか政策せいさくの要ようであることを広ひろく説といて世論せろんに国立こくりつ図書館としょかん拡充かくじゅうを訴うったえ、東京とうきょう図書館としょかんを新あらたに帝国ていこく図書館としょかんに発展はってんさせる運動うんどうを行おこなった。

こうした田中たなかの活動かつどうが実みのり、政界せいかいや文部もんぶ次官じかんの牧野まきの伸しん顕あきらなど官界かんかいの尽力じんりょくを得えて、日にち清しん戦争せんそう終結しゅうけつ後ごの1896年ねん（明治めいじ29年ねん）12月からの第だい10回かい帝国ていこく議会ぎかい両院りょういんで帝国ていこく図書館としょかん設立せつりつの建議けんぎが可決かけつされ、翌よく1897年ねん（明治めいじ30年ねん）4月がつに帝国ていこく図書館としょかん官制かんせいの勅みことのり令れいが公布こうふされて帝国ていこく図書館としょかんが創立そうりつをみた。帝国ていこく図書館としょかんは東京とうきょう図書館としょかんの機構きこうを受うけ継つぎ、東京とうきょう図書館としょかん長ちょう田中たなか稲城いなぎが帝国ていこく図書館としょかんの初代しょだい館長かんちょうとなった。

また、帝国ていこく図書館としょかんの施設しせつは、帝国ていこく図書館としょかん創立そうりつと同時どうじに設置せっちされ、田中たなか館長かんちょうも加くわわった帝国ていこく図書館としょかん新築しんちく設計せっけい委員いいんにおいてし敷地しきち選定せんていと設計せっけいなどの検討けんとうが進すすめられ、完成かんせいすれば東洋とうよう最大さいだいの規模きぼとなる大だい図書館としょかんが計画けいかくされた。しかし、政府せいふの財政難ざいせいなんから第だい一いち期き工事こうじのみが当初とうしょ計画けいかくを大幅おおはばに縮小しゅくしょうして1898年ねんに着工ちゃっこう、建築けんちくに8年ねんを要ようして1906年ねん（明治めいじ39年ねん）にようやく竣工しゅんこうした。新築しんちくとなった上野うえのの帝国ていこく図書館としょかんは建築けんちく当初とうしょの規模きぼこそ全体ぜんたい計画けいかくの4分ぶんの1でしかなかったものの、総そう閲覧えつらん席せき数すう300席せき、地上ちじょう8層そう・地下ちか1層そうで収蔵しゅうぞう能力のうりょく50万まん冊さつにおよぶ書庫しょこを有ゆうし、現在げんざいも国際こくさい子こども図書館としょかんとして現役げんえきで使つかわれている。

この間あいだ、田中たなか稲城いなぎは海外かいがいにおける図書館としょかん界かいの協力きょうりょく体制たいせいを見習みならって1892年ねんに創設そうせつされた日本にっぽん文庫ぶんこ協会きょうかい（日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかいの前身ぜんしん）の設立せつりつを発起ほっきし、日本にっぽん初はつの図書館としょかん法令ほうれいである図書館としょかん令れいの検討けんとうにも携たずさわるなど、日本にっぽんにおける近代きんだい的てき図書館としょかんの発展はってんに尽力じんりょくした。彼かれの館長かんちょう在任ざいにんは、東京とうきょう図書館としょかん時代じだいから通算つうさんして30年ねん以上いじょうに及および、帝国ていこく図書館としょかんをはじめて真しんに国立こくりつ図書館としょかんと呼よびうる組織そしきに発展はってんさせた。

しかし、帝国ていこく図書館としょかんは田中たなかの計画けいかく通どおりに発展はってんすることを果はたせなかった。大正たいしょうに入はいると、帝国ていこく図書館としょかんは早はやくも書庫しょこと閲覧えつらん室しつが逼迫ひっぱくし始はじめていたが、当初とうしょ計画けいかく通どおりに増築ぞうちくすることはかなわなかった。そして1921年ねん、図書館としょかん員いん教習所きょうしゅうじょ（図書館情報大学としょかんじょうほうだいがくの前身ぜんしん）の開設かいせつに際さいし、田中たなかは手狭てぜまな帝国ていこく図書館としょかん内ないに教室きょうしつを設もうけることを拒否きょひしたことから、図書館としょかんの近代きんだい化かのために司書ししょの専門せんもん職しょく化かのための教育きょういく機関きかんの必要ひつよう性せいを唱となえる乗の杉すぎ嘉よしみ壽ことぶき（文部省もんぶしょう普通ふつう学務がくむ局きょく第だい4課長かちょう・日本にっぽんの社会しゃかい教育きょういくの祖そとも言いわれる）と対立たいりつ、田中たなかが設置せっちの条件じょうけんに図書館としょかんの増築ぞうちくを求もとめたことから文部省もんぶしょう本省ほんしょうとも対立たいりつして間まもなく退官たいかんした。事実じじつ上じょう更迭こうてつに近ちかかったといわれる。

1925年ねん、神経しんけい衰弱すいじゃくのため死去しきょ。

栄典えいてん

• 1891年ねん（明治めいじ24年ねん）12月21日にち - 正せい七なな位い
• 1918年ねん（大正たいしょう7年ねん）6月29日にち - 勲くん三さん等とう瑞宝章ずいほうしょう

著作ちょさく

• 「田中たなか稲城いなぎ著作ちょさく集しゅう」（『図書館としょかん雑誌ざっし』第だい36年ねん第だい6号ごう、日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかい、1942年ねん6月がつ ／ 第だい36年ねん第だい7号ごう、1942年ねん7月がつ ／ 第だい36年ねん第だい9号ごう、1942年ねん9月がつ）

著書ちょしょ・編へん書しょ

• 『東京とうきょう図書館としょかんニ関せきスル意見いけん要略ようりゃく』 田中たなか稲城いなぎ、1891年ねん7月がつ
• 『中等ちゅうとう教科きょうか 日本にっぽん歴史れきし』 赤堀あかほり又次郎またじろう共編きょうへん、文学ぶんがく社しゃ、1893年ねん6月がつ前まえ篇へん ／ 1894年ねん8月がつ後ご篇へん
• 『図書館としょかん管理かんり法ほう』 文部省もんぶしょう編纂へんさん、1900年ねん7月がつ ／ 日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかい〈復刻ふっこく図書館としょかん学がく古典こてん資料集しりょうしゅう〉、 1978年ねん7月がつ
  • 『図書館としょかん管理かんり法ほう』 文部省もんぶしょう著ちょ、金港きんこう堂どう書籍しょせき、1912年ねん5月がつ ／ 日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかい〈復刻ふっこく図書館としょかん学がく古典こてん資料集しりょうしゅう〉、 1978年ねん7月がつ
  • 出口いでぐち一雄かずお監修かんしゅう 『近代きんだい「読書どくしょ論ろん」名著めいちょ選集せんしゅう 第だい4巻かん』 ゆまに書房しょぼう〈書誌しょし書目しょもくシリーズ〉、1994年ねん4月がつ、ISBN 4896687868 - 初版しょはんを収録しゅうろく。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『上野うえの図書館としょかん八はち十じゅう年ねん略りゃく史し』 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん支部しぶ上野うえの図書館としょかん、1953年ねん3月がつ
• 西村にしむら正ただし守もり 「わが国くに最初さいしょの図書館としょかん学者がくしゃ 田中たなか稲城いなぎ」（石井いしい敦あつし編へん 『図書館としょかんを育そだてた人々ひとびと 日本にっぽん編へんI』 日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかい、1983年ねん6月がつ、ISBN 4820483005）
• 日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかい編へん 『近代きんだい日本にっぽん図書館としょかんの歩あゆみ 本ほん篇へん』 日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかい、1992年ねん3月がつ、ISBN 4820491237

関連かんれん文献ぶんけん

• 「田中たなか稲城いなぎ君くん追憶ついおく録ろく」（『図書館としょかん雑誌ざっし』第だい21年ねん第だい2号ごう、日本にっぽん図書館としょかん協会きょうかい、1927年ねん2月がつ）
• 竹林ちくりん熊ぐま彦 「田中たなか稲城いなぎ : 人ひとと業績ぎょうせき」（『図書館としょかん雑誌ざっし』第だい36年ねん第だい3号ごう、1942年ねん3月がつ）
• 有泉ありいずみ貞夫さだお 「田中たなか稲城いなぎと帝国ていこく図書館としょかんの設立せつりつ」（国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん参考さんこう書誌しょし部ぶ編へん 『参考さんこう書誌しょし研究けんきゅう』創刊そうかん号ごう、1970年ねん11月、NAID 40005185416）
• 熊野くまの絢子あやこ、井上いのうえ真琴まこと 「田中たなか稲城いなぎ」（伊藤いとう隆たかし、季き武たけ嘉よしみ也編へん 『近きん現代げんだい日本人にっぽんじん物ぶつ史料しりょう情報じょうほう辞典じてん』 吉川弘文館よしかわこうぶんかん、2004年ねん7月がつ、ISBN 4642013415）

外部がいぶリンク

• 同志社大学どうししゃだいがく学術がくじゅつリポジトリ - 竹林たけばやし文庫ぶんこ中ちゅうの田中たなか稲城いなぎ文書ぶんしょが閲覧えつらんできる。
• 憲政けんせい資料しりょう室しつの所蔵しょぞう資料しりょう 田中たなか稲城いなぎ関係かんけい文書ぶんしょ（ＭＦ：同志社大学どうししゃだいがく図書館としょかん蔵ぞう） - 国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんリサーチ・ナビ

公職こうしょく
先代せんだい 宮崎みやざき道どう三郎さぶろう	帝国ていこく大学だいがく図書館としょかん管理かんり 1890年ねん - 1893年ねん	次代じだい 和田わだ万吉まんきち
その他たの役職やくしょく
先代せんだい （新設しんせつ）	日本にっぽん文庫ぶんこ協会きょうかい会長かいちょう 1900年ねん - 1904年ねん	次代じだい 和田わだ万吉まんきち