たつすな

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硫化りゅうか水銀すいぎんから転送てんそう
たつすな
Cinnabar on Dolomite.jpg
分類ぶんるい 硫化りゅうか鉱物こうぶつ
化学かがくしき HgS
結晶けっしょうけい さんぽうあきらけい
へきかい さん方向ほうこう明瞭めいりょう
モース硬度こうど 2 - 2.5
光沢こうたく 金剛こんごう光沢こうたく
いろ 洋紅ようこうしょく
じょうこん 紅色こうしょく
比重ひじゅう 8.1
プロジェクト:鉱物こうぶつPortal:地球ちきゅう科学かがく
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Cinnabar-Dolomite-Quartz-278325.jpg
金属きんぞく光沢こうたくのあるたつすな結晶けっしょう
貫入かんにゅうそうあきらられる。

たつすな(しんしゃ、えい: cinnabar)は硫化りゅうか水銀すいぎん(II)(HgS)からなる鉱物こうぶつである。別名べつめい賢者けんじゃいし赤色あかいろ硫化りゅうか水銀すいぎんすなしゅすななどがある。日本にっぽんでは古来こらい(に)」とばれた。水銀すいぎん重要じゅうよう鉱石こうせき鉱物こうぶつ

概要がいよう[編集へんしゅう]

不透明ふとうめい赤褐色せきかっしょく塊状かいじょう、あるいは透明とうめいかんのある深紅しんくしょくひし面体めんてい結晶けっしょうとして産出さんしゅつする。『しゅうあやてんかん冢宰[1]ていちゅうに「どくやく有毒ゆうどくしゃ」のひとつにあげられる[2]など、中国ちゅうごくにおいてふるくからられ、じゅつなどでの水銀すいぎん精製せいせいほかに、赤色あかいろ朱色しゅいろ)の顔料がんりょう漢方薬かんぽうやく原料げんりょうとして珍重ちんちょうされている。

史記しきまき128貨殖かしょく列伝れつでん[3]には、「ともえ地方ちほうにいたきよしという寡婦かふは、先祖せんぞあなれたことで、かず世代せだいにわたり巨利きょりていた」(而巴寡婦かふきよし、其先とくあな而擅其利すうせい)と、たつすな発掘はっくつつけた人間にんげん巨利きょり記述きじゅつがある。

中国ちゅうごくたつしゅう現在げんざい湖南こなんしょう近辺きんぺん)でおお産出さんしゅつしたことから、「たつすな」とばれるようになった。日本にっぽんでは弥生やよい時代じだいから産出さんしゅつられ、いわゆるこころざし倭人わじんでん邪馬台国やまたいこくにも「其山 たんゆう」と記述きじゅつされている。古墳こふん内壁ないへき石棺せっかん彩色さいしき壁画へきが使用しようされていた。漢方薬かんぽうやく漆器しっきほどこしゅうるし赤色あかいろすみである朱墨しゅずみ原料げんりょうとしてももちいられ、ふるくは若杉山わかすぎやまたつすな採掘さいくつ遺跡いせき徳島とくしまけん阿南あなん水井すいいまち)、伊勢いせこく丹生たんじょう現在げんざい三重みえけん多気たきまち)、大和やまと水銀すいぎん鉱山こうざん奈良ならけん宇陀うだ菟田野うたのまち)、吉野川よしのがわ上流じょうりゅうなどが特産とくさんとしてられた。平安へいあん時代じだいにはすで人造じんぞうしゅ製造せいぞうほうられており、16世紀せいき中期ちゅうき以後いご天然てんねん人工じんこうしゅ中国ちゅうごくから輸入ゆにゅうされた。現在げんざいでは大分おおいたけん熊本くまもとけん奈良ならけん徳島とくしまけん、などでさんする。

2016ねん平成へいせい28ねん)5がつ日本にっぽん地質ちしつ学会がっかいは47都道府県とどうふけんの「けんいし」を選定せんていし、たつすなを「三重みえけん鉱物こうぶつ」に選定せんていした[4]

利用りよう[編集へんしゅう]

水銀すいぎん精製せいせい[編集へんしゅう]

たつすな空気くうきちゅうで 400–600 °C加熱かねつすると、水銀すいぎん蒸気じょうき亜硫酸ありゅうさんガス(二酸化にさんか硫黄いおう)がしょうじる。この水銀すいぎん蒸気じょうき冷却れいきゃく凝縮ぎょうしゅくさせることで水銀すいぎん精製せいせいする。古代こだいから水銀すいぎんせい原理げんりわっておらず、時代じだいレトルト重油じゅうゆもちいたロータリーキルン変更へんこうしていったが、これらはしゅとして生産せいさん能力のうりょく従事じゅうじしゃ安全あんぜんせい[5]かんする改良かいりょうであった。から放出ほうしゅつされた水銀すいぎん蒸気じょうきふくむガスは脱硫だつりゅう装置そうちて、「コンデンサー」とばれる冷却れいきゃく凝集ぎょうしゅう装置そうちあつめられる。コンデンサーは、黒鉛こくえんせいのパイプをだてじょう複数ふくすうてた、うえあなけられていない煙突えんとつのような独特どくとく構造こうぞうであり、ガスはここに滞留たいりゅうして温度おんど低下ていかしていくうちにガスちゅうふくまれている水銀すいぎん液化えきかし、パイプの内側うちがわ付着ふちゃくする。定期ていきてきにパイプ内部ないぶにはみずとおされており、みずによって「あらながされる」かたち底部ていぶとされる。また、同時どうじに「スート」とばれる、水銀すいぎんおよ不純物ふじゅんぶつふくちり回収かいしゅうされ、こちらからも水銀すいぎん採取さいしゅされる。回収かいしゅうされた水銀すいぎんは、みず分離ぶんりしたのち濾過ろかおよび硫酸りゅうさん硝酸しょうさんによる洗浄せんじょうて、粗製そせい水銀すいぎんとして製品せいひんされる。水銀すいぎんおよ有害ゆうがい成分せいぶん除去じょきょされたガスは煙突えんとつとおって大気たいき放出ほうしゅつされた。水銀すいぎんこうさんせいところにはこのコンデンサーがかならてられており、シンボルてき存在そんざいとなっていた。

硫化りゅうか水銀すいぎん(II) + 酸素さんそ水銀すいぎん + 二酸化にさんか硫黄いおう

ただし、現在げんざい日本にっぽんでは水銀すいぎんおよびその化合かごうぶつは、全量ぜんりょうはい乾電池かんでんちなどのリサイクル(および外国がいこくからの金属きんぞく水銀すいぎん輸入ゆにゅう)でまかなわれており、鉱石こうせきからのせいおこなわれていない。

漢方薬かんぽうやく[編集へんしゅう]

伝統でんとう中国ちゅうごく医学いがくでは「しゅすな」や「すなとうび、鎮静ちんせい催眠さいみん目的もくてきとして、現在げんざいでも使用しようされている。有機ゆうき水銀すいぎんみずえき溶な水銀すいぎん化合かごうぶつくらべて、たつすなのようなみずなん溶な化合かごうぶつ毒性どくせいひくいとかんがえられている。

たつすなふく代表だいひょうてき処方しょほうには「しゅすな安神あんしんまるとうがある。

その[編集へんしゅう]

押印おういんよう朱肉しゅにく色素しきそとしてももちいられる。

なお、陶芸とうげいもちいられるたつすなは、このたつすなおなじくうつくしい赤色あかいろ発色はっしょくする釉薬だが、水銀すいぎんではなくどうふくんだ釉薬をもちい、還元かんげん焼成しょうせいしたものである。

硫化りゅうか水銀すいぎん[編集へんしゅう]

硫化りゅうか水銀すいぎんには、赤色あかいろたつすな黒色こくしょくくろたつすなとが天然てんねん存在そんざいするが、いずれも硫化りゅうか水銀すいぎん(II)(HgS)である。くろたつすな(くろしんしゃ、metacinnabar)の化学かがく組成そせいおなじ HgS だが、結晶けっしょう構造こうぞうことなる。たつすなを 344 ℃に加熱かねつするとくろたつすな生成せいせいし、温度おんどがるとたつすなもどる。

また硫化りゅうか水銀すいぎんには、酸化さんかすうことなる黒色こくしょく硫化りゅうか水銀すいぎん(I)(Hg2S)も存在そんざいするが不安定ふあんていで、すみやかに単体たんたい水銀すいぎん硫化りゅうか水銀すいぎん(II) にひとしする。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ ウィキソース出典 しゅうあや (中国ちゅうごく), しゅうあや/てんかん冢宰, ウィキソースより閲覧えつらん 
  2. ^ 中国ちゅうごく医学いがく日本にっぽん漢方かんぽうにおける〈どく
  3. ^ ウィキソース出典 司馬しば遷 (中国ちゅうごく), 史記しき/まき129, ウィキソースより閲覧えつらん 
  4. ^ 三重県広聴広報課 へん県政けんせいだよりみえ 平成へいせい28ねん8がつごう』No.385、三重みえけんこう広報こうほう、2016ねん8がつ7にち、4p.(3ページより)
  5. ^ かつては生産せいさん効率こうりつわるせいところではけむりどうから水銀すいぎん蒸気じょうき漏出ろうしゅつしており、この水銀すいぎん蒸気じょうき労働ろうどうしゃ吸引きゅういんして無機むき水銀すいぎん中毒ちゅうどくかかことおおかった。このため、設備せつび密閉みっぺい強化きょうかし、水銀すいぎん蒸気じょうき漏出ろうしゅつふせこと安全あんぜん対策たいさくであり、また水銀すいぎん実収じっしゅうりつ向上こうじょうにつながった。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]