義烈ぎれつ回天かいてん百ひゃく首しゅ

『義烈ぎれつ回天かいてん百ひゃく首しゅ』（ぎれつかいてんひゃくしゅ）は、1874年ねん（明治めいじ7年ねん）9月に発行はっこうされた幕末ばくまつ志士ししの歌うたを集あつめた和歌わか集しゅう。いわゆる異種いしゅ百ひゃく人にん一いち首しゅのひとつである。

概要がいよう

豆本まめほん。編集へんしゅうは染崎そめざき延房のぶふさ、挿絵さしえは鮮斎永なが濯、発行はっこう者しゃは辻岡つじおか屋や文助ぶんすけ（金松かねまつ堂どう）^[1]。

吉田よしだ松陰しょういん、久坂くさか玄げん瑞みず、藤田ふじた小四郎こしろうといった英傑えいけつたちの詠よんだ歌うた^{[注ちゅう 1]}を、それぞれ人物じんぶつ略伝りゃくでんと共ともに紹介しょうかいしている^[1]。編集へんしゅう者しゃの思おもい込こみや伝聞でんぶんの誤あやまりにより、内容ないようの信用度しんようどはあまり高たかくないが、当時とうじの民衆みんしゅうの幕末ばくまつ志士ししに対たいする思おもいなど、英雄えいゆう譚たんの受容じゅようの在あり方かたを知しり得える^[1]。

なお、1850年ねん（嘉よしみ永なが3年ねん）発行はっこうの『義烈ぎれつ百ひゃく人にん一いち首しゅ』とは別物べつものである^[1]。

和歌わかと歌人かじん

	詠よみ人びと	歌うた
1	源みなもと烈れつ公おおやけ	咲さきがけて散ちりなんものはもののふの道みちに匂においへる花はなにぞありける
2	和宮かずのみや	いとはじな君きみと民みんとの為ためならば身みは武蔵野むさしのの露ろと消けしゆとも
3	梅田うめだ定明さだあき	君きみが代よを思おもふ心しんのひとすぢに我わが身みありとも思おもはざりけり
4	安島あじま帯刀たてわき	誰だれがためのねぎごとぞとは玉たまくしげふたらの山やまの神かみぞしるらむ
5	茅根ちのね伊い予よ助すけ	ふりすてて出だしでにし跡あとの撫子なでしこはいかなる色いろに露ろやおくらん
6	藤田ふじた東湖とうこ	見みせばやな心しんの隈くまも月影つきかげもすみ田川たがわ原げんの秋あきのタばえ
7	登とう幾いく女じょ	玉鉾たまぼこの陸奥みちのくこえて見みまほしや蝦夷えぞが干ひ島しまの雪ゆきのあけぼの
8	蓮田はすだ市五郎いちごろう	降おりつもる思おもひの雪ゆきのはれて今いま仰あおぐも嬉うれし春はるの夜よるの月つき
9	佐野さの竹之助たけのすけ	桜田さくらだの花はなとかばねは散ちらすともなどたゆむべきやまとだましひ
10	有村ありむら治おさむ右みぎ衛門えもん	君きみがためつくす心しんは武蔵野むさしのの野辺のべの草葉くさばの露ろとなるとも
11	有村ありむら雄輔ゆうすけ	古里ふるさとの花はなを見捨みすてて迷ふ身みは都との春はるを思おもふばかりぞ
12	森もり五ご六ろく郎ろう	矛ほことりて月がつみるたびに思おもふかないつかかばねの上うえにてるやと
13	島しま男おとこ也	ますらをが物ものおもひつつ詠よめけむその有明ありあけの志賀しがの浦うら波は
14	飯田いいだ左ひだり馬ば（忠彦ただひこ）	君きみが代よのはじめの春はるとあらためて出でづる朝日あさひののどかなる影かげ
15	吉田よしだ松陰しょういん	斯かくすればかくなるものと知しりながら止やむにやまれぬやまと魂だましい
16	永井ながい雅楽ががく	君きみが為ため捨つるいのちは惜おしからでただ思おもはるる国くにの行くだりすゑ
17	萩はぎ侯こうの夫人ふじん	武夫たけおのやたけ心ごころのいさをしを治おさまる御代みよに見みるぞ嬉うれしき
18	僧そう胤たね康やすし	数かずならぬ身みにしあれども君きみがためつくす誠まことはたゆまじものを
19	吉村よしむら寅太郎とらたろう	雲くもりなき月つきを見みるにも思おもふかなあすはわが身みの上うえに照てるやと
20	中山なかやま忠光ただみつ朝臣あそん	思おもひきや山田やまだの案山子かかし竹ちくの弓ゆみなす事こともなく朽くち果はてんとは
21	藤本ふじもと鉄石てっせき	み簾すだれふかく時ときのきざみの言葉ことばして今いまや咲さきくらむ九重ここのえのはな
22	松本まつもと謙三郎けんざぶろう（奎堂）	君きみが為ためみまかりにきと世せいの人ひとの語かたりつげてよ峯みねの松まつかぜ
23	宍戸ししど弥四郎やしろう	今いまは只ただ何なにか思おもはん敵てきあまた討うちて死しにきと人じんの語かたらば
24	安積あさか五郎ごろう	数かずならぬ身みにも弓矢ゆみやの幸こうを得えて都との花はなとちるぞ嬉うれしき
25	岡見おかみ留次郎とめじろう	武士ぶしのやまと心ごころを人ひととはば国こくのあらしに散ちれと答こたえへよ
26	伴ばん林はやし光ひかり平たいら	身みを捨すてて千代ちよを祈いのらぬ大夫たいふもさすがに菊きくは折おりかざしつつ
27	野崎のさき主計かずえ	大君おおきみにつかへぞまつるその日ひより我わが身みありとは思おもはざりけり
28	安岡やすおか嘉よしみ介かい	古里ふるさとを思おもふ寝ねざめに降ふる雨あめは漏もらぬひとやも濡るる袖そでかな
29	荒巻あらまき羊ひつじ三郎さぶろう	もろともに君きみのみ為ためといさみたち心しんの駒こまをとどめかねつつ
30	渋谷しぶや伊予いよ作さく	よしあはれ枯野の露あらわと消きえぬとも魂たましいは雲井くもいに有明ありあけの月つき
31	吉田よしだ重蔵しげぞう	八幡やはた神しん皇国こうこくあはれとおぼしなば内外ないがいのえみしはらひたまへや
32	乾いぬい十郎じゅうろう	いましめの縄なわはちしほに染そまるとも赤あかき心しんはなど変かわるべき
33	都と石せき吉よし三郎さぶろう	ますらをが屍かばねをさらす草野くさのべに咲さき出でて匂においへやまと撫子なでしこ
34	水みず郡ぐん小しょう隼人はやと	大君おおきみのみ心しんやすめまつらむと露ろの命いのちもながらへにけり
35	遊女ゆうじょ喜き遊ゆう	露ろをだにいとふ倭やまとのをみなへしふるあめりかに袖そではぬらさじ
36	橋口はしぐち壮たけし輔	すめらぎの御代みよをむかしにかへさんと思おもふこころを神かみもたすけよ
37	田中たなか河内かわうち介かい	大君おおきみの御ご旗はたのもとに死ししてこそ人ひとと生うまれしかひはありけれ
38	海賀かいが宮門きゅうもん	夏なつの夜よるのみじかき床ゆかの夢ゆめだにも国くにやすかれとむすびこそすれ
39	清川きよかわ八郎はちろう	大君おおきみの為ためにつらぬくますらをが鍛きたえひためにし此のつるぎ太刀だち
40	飯めし居きょ簡平	天地てんちに菊きくの薫かおるれる世よに逢ひて嬉うれしからじや猛もうき国こくもり
41	仙石せんごく隆明たかあき（佐多さた雄ゆう）	よしや身みはいづくの浦うらにしづむとも魂たましいは守まもらん九きゅう重じゅうの庭にわ
42	長尾ながお郁いく三郎さぶろう	君きみがため死しなんと思おもひ定さだめてはひとやのうちはものの数かずかは
43	小川おがわ佐吉さきち（宮田みやた半四郎はんしろう）	臥ふして思おもひ起おきてかぞふる年月としつきをはかなくおくる我わがいのちかな
44	平野ひらの次郎じろう（国臣くにおみ）	天てんつ風ふう吹ふくや錦にしきの旗はたの手てになびかぬ草くさはあらじとぞ思おもふ
45	僧そう月がつ照あきら	みがき得えて国くにの宝たからとなるものは人ひとの心しんの玉たまにぞありける
46	日下部くさかべ伊い三さん次じ	五月雨さみだれのかぎりありとは知しりながら照てる日ひをいのるこころせはしき
47	頼よりゆき三樹みき（三樹みき三郎さぶろう）	乱みだれ咲さきしおもひの花はなは散ちりしかどまたも青葉あおばの生なまひしげるらん
48	飯泉いいずみ喜内きない	かかりしと知しらぬ身みにしもしら雪ゆきのつもれるうきはいつか消きえなん
49	鵜飼うかい吉よし左衛門さえもん	鳴海なるみがた友とも呼よび続つづけぎの浜はまかけて干ひ鳥とりも心しんありばにぞ鳴なく
50	小林こばやし民みん部ぶ大輔だいすけ（良典よしのり）	しきしまのやまと撫子なでしこいかなればからくれなゐの色いろにさくらん
51	豊島としま泰盛やすもり	はるばると見みゆる限かぎりをしめおきてわが物ものがほに遊あそぶ野のべかな
52	平山ひらやま兵助へいすけ	呉竹くれたけのうきふししげき世よなれどもみどりの色いろはかへずやあらなん
53	児島こじま強つよし介かい	大君おおきみのうきを我わが身みにくらぶれば旅寝たびねの袖そでの露ろはものかは
54	蓮田はすだ藤蔵とうぞう	武蔵野むさしののあなたこなたに道みちはあれど我がが行いく道みちはもののふの道みち
55	山崎やまざき信之のぶゆき助すけ	世よの中なかのうきを忘わすれてあすからは死出しでの山路やまじの花はなを詠よめん
56	大石おおいし甚吉	我がもまた神かみの御国みくにの種たねなればなほいさぎよきけふの思おもい出で
57	林田はやしだ芳太郎よしたろう	つるぎ太刀だち鞘さやぬきはなしますらをがきそひはてなん時じは来きにけり
58	沢さわ宣嘉のぶよし朝臣あそん	心しんのみおもひこがして文机ふづくえの文ぶんを見みるさへ物憂ものうかりけり
59	美び玉だま三平さんぺい	小倉こくら山さん紅葉こうようの色いろはかはらねど御幸みゆきは絶たえて年としをこそつめ
60	戸原とばら卯う橘たちばな	剣けん太刀だち稍ややにをさめてもののふの磨すりがまほしきは心しんなりけり
61	南みなみ八郎はちろう	おくれなば梅うめも桜さくらに劣おとるらむさきがけてこそ色いろも香こうもあれ
62	本多ほんだ小三郎こさぶろう	世よの中なかの人ひとは何なんとも石いし清水しみずきよきこころは神かみや知しるらむ
63	横田よこた友次ともじ郎ろう	五月雨さみだれは降おりまさりけり古里ふるさとのわがたらちねやいかに在ざいすらむ
64	伊藤いとう竜太郎りゅうたろう	事ことなきを祈いのるは人ひとの常つねなれど止やむにやまれぬ今いまの世よの中なか
65	木村きむら愛之助あいのすけ	乱みだれたる糸いとの筋すじ々くりかへしいつしか解ほどけくる御代みよとなるらむ
66	僧そう信しん海うみ	西にしの海うみ東ひがしの空そらとかはれども心しんはおなじ君きみが代よのため
67	野村のむら望のぞむ東ひがし女おんな	消きえもせず燃もえ立たちもせず蚊遣かやり火ひの煙けむりいぶせき世よの姿すがたかな
68	吉田よしだ大次郎だいじろう	結ゆいびてもまたむすびても黒髪くろかみの乱みだれかかれる世よをいかにせむ
69	宮部みやべ鼎かなえ蔵ぞう	おほけなきけふの御幸みゆきは干ひ磐いわ破やぶ神かみのむかしに還かえるはじめぞ
70	河瀬かわせの妻つま	いつまでか晴はれるるを待まちて堪たへやらむ乾かわくひまなき五月雨さみだれの袖そで
71	益田ますだ右みぎ衛門えもん佐さ（兼けん施ほどこせ）	今いまさらに何なにあやしまむ空蝉うつせみのよきもあしきも名なのかはる世よに
72	国司こくし信濃しなの（親おや相しょう）	君きみが為ためつくせや尽つくせ己おのれが身みの命いのちひとつをなきものにして
73	福原ふくはら越後えちご	苦くるしさはたゆる我わが身みの夕ゆう烟けむりそらに立たつ名なはすてがてにして
74	佐久間さくま佐たすく兵衛ひょうえ（赤川あかがわ淡水たんすい）	今いまははや言ことの葉はぐさも夜よるの露あらわと消きえゆく身みにはなりにけるかな
75	宍戸ししど右みぎ馬ば介かい（左ひだり馬ば之の助すけ）	朝夕あさゆうに手てなれしものに別わかるるや浮世うきよの夢ゆめの見みはてなるらむ
76	松島まつしま剛つよし蔵ぞう	君きみが為ためつくす心しんの直じきなるは空そらゆく神かみやひとり知しるらむ
77	大谷おおや正道せいどう	終おわりに行いく道みちとは聞きけど梓弓あずさゆみ春はるをも待またぬ身みとぞなりける
78	姉あね小路こうじ公知こうち卿きょう	いにしへに吹ふきかへすべき神風かみかぜを知しらでひる子こらなにさわぐらむ
79	錦にしき小路しょうじ頼よりゆき徳とく朝臣あそん	はかなくも三十路みそじの夢ゆめはさめてけり赤あか間あいだが関せきの夏なつの夜よるの空そら
80	来らい嶋しま亦また兵衛ひょうえ	議論ぎろんより実みを行くだりへなまけ武士ぶし国こくの大事だいじを余所よそに見みる馬鹿ばか
81	久坂くさか玄げん瑞みず	ほととぎす血ちに啼なく声こえは有明ありあけの月つきより外がいに知しる人ひとぞなき
82	原はら陸りく太ふとし	この春はるは都との花はなにあくがれむおくれず咲さけよ庭にわのさくら木き
83	真木まき保たもつ臣しん	大山おおやまの峰みねの岩根いわねにうづみけりわが年月としつきのやまとだましひ
84	酒井さかい正之助しょうのすけ	橘たちばなのにほひ流ながせし湊川みなとがわ水すいしなけれど袖そではぬれつつ
85	山本やまもと誠一郎せいいちろう	雨風あめかぜに散ちるともよしや桜さくら花はな君くんが為ためには何なにかいとはむ
86	安藤あんどう鉄てつ馬ば	わが太刀たちの折おれぬ限かぎりを命いのちにて薙なぎきはてなまし醜みにくのしこ草そう
87	藤田ふじた小四郎こしろう	かねてよりおもひそめてし真心まごころをけふ大君おおきみにつげて嬉うれしき
88	武田たけだ伊賀いが守まもる	片かたしきていぬる鎧よろいの袖そでの上うえにおもひぞ積つもる越えつのしら雪ゆき
89	伊藤いとう栄太郎えいたろう	思おもひかね入いりにし山やまを立たちいでてまよふ浮世うきよぞ大君おおきみのため
90	黒沢くろさわ五三いつみ郎ろう	東路あずまじをいでて日数にっすうをふる雪ゆきのいつか思おもひのとげずやはある
91	僧そう赤城あかぎ	仮かりの世よにすみの衣ころもは着きつれども心しんはあかきやまとたましひ
92	福島ふくしま男おとこ也	進すすみいでて嵐あらしにむかふもののふはけふを限かぎりの死出しでの山やまみち
93	毛利もうり強つよし兵衛ひょうえ	秋あき霧きりの立たちへだつとも久方ひさかたの雲くもの上うえにて逢はむとぞ思おもふ
94	篠崎しのざき勘かん七なな	もののふの捨つる命いのちは何故なぜぞ高たかき名なを得えて君きみにささげむ
95	富田とみた四郎しろう太ふとし	から人ひとは死ししてぞやまめ我がはまた七なな世せいをかけて国くににつくさむ
96	東ひがし久世くせ通どおり禧朝臣あそん	大君おおきみの大だい御ご心しんをそよとだも東風こち吹ふくかぜの我がにしらせよ
97	壬生みぶ基はじめ修おさむ朝臣あそん	玉たまの緒いとぐちは浮世うきよの塵ちりと消きえぬとも君きみに知しらればうれしかるべき
98	河かわ越えつ少将しょうしょう	しきしまのやまと心ごころを種たねとして読よめや人々ひとびとから国くにの書しょ
99	毛利もうり元もと純じゅん朝臣あそん	玉たまの緒いとぐちはよし絶たえぬとも惜おしからじすめら御国みくにのみ為ためなりせば
100	参議さんぎ安芳やすよし朝臣あそん	手馴てなれつる玉たまの小しょう琴ことの緒おをたたむ古ふりし調しらべは聞きく人ひともなし

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ 多おおくは辞世じせいの句く

出典しゅってん

^ ^a ^b ^c ^d 伊藤いとう嘉夫よしお 1971, p. 81.

参考さんこう文献ぶんけん

単行本たんこうぼん

川田かわた順じゅん『幕末ばくまつ愛國あいこく歌か』第だい一いち書房しょぼう、1939年ねん。
志田しだ延のべ義よし『幕末ばくまつ勤皇きんのう歌人かじん集しゅう』文部省もんぶしょう教学きょうがく局きょく、1939年ねん。
藤田ふじた徳太郎とくたろう編へん『志士しし詩歌しか集しゅう』小學館しょうがくかん、1942年ねん。
黒岩くろいわ一郎いちろう『勤皇きんのう志士しし詩歌しか集しゅう』至文しぶん堂どう、1943年ねん。
淺野あさの晃あきら・竹下たけした數馬かずま編へん『尊皇そんのう歌人かじん撰集せんしゅう』文ぶん松まつ堂どう書店しょてん、1943年ねん。

論文ろんぶん類るい

伊藤いとう嘉夫よしお「武家ぶけ百ひゃく人にん一いち首しゅと其その類るい列れつの百ひゃく人にん一いち首しゅ」『跡見学園短期大学あとみがくえんたんきだいがく紀要きよう』7・8、1971年ねん、51-84頁ぺーじ。