間接かんせつ民主みんしゅ主義しゅぎ

間接かんせつ民主みんしゅ主義しゅぎ（かんせつみんしゅしゅぎ、英えい: indirect democracy）とは、国民こくみんが選挙せんきょにおいて代表だいひょう者しゃを選出せんしゅつし、一定いってい期間きかんその代表だいひょう者しゃに権力けんりょくの行使こうしを委託いたくすることで間接かんせつ的てきに政治せいじ参加さんかを行おこない、民意みんいの反映はんえい・実現じつげんを図はかる政治せいじ体制たいせいのことである。間接かんせつ民主みんしゅ制せい（かんせつみんしゅせい）とも呼よばれる。

現代げんだいにおいて間接かんせつ民主みんしゅ主義しゅぎは国くにや地域ちいきなどの至いたる所ところで広ひろく採用さいようされており、戦後せんごの日本国にっぽんこく憲法けんぽうでも間接かんせつ民主みんしゅ制せいの立場たちばを採とることを前文ぜんぶん・第だい41条じょう・第だい43条じょうで明示めいじしている。ただし、多様たような国民こくみんの利害りがいを全すべて反映はんえいすることはできないため直接ちょくせつ民主みんしゅ主義しゅぎとの併用へいようによって、その欠陥けっかんは補おぎなわれる。

同義語どうぎご・類義語るいぎご	議会ぎかい制せい民主みんしゅ主義しゅぎ	対義語たいぎご
代議だいぎ制せい 代表だいひょう民主みんしゅ制せい	議会ぎかい制せい民主みんしゅ主義しゅぎ など。	直接ちょくせつ民主みんしゅ制せい 独裁どくさい制せい 君主くんしゅ制せい

多おおくの時代じだいの国くにや地域ちいきにおいて各種かくしゅの合議ごうぎ制せいが見みられていたが、古代こだいギリシアのアテナイでの民みん会かいは主おもに直接ちょくせつ民主みんしゅ主義しゅぎが行おこなわれた。古代こだいローマでは共和きょうわ制せいローマ以降いこうに、貴族きぞくによる元老げんろう院いんと平民へいみんによる民みん会かいが議会ぎかいとなり、それぞれ現在げんざいの上院じょういん・下院かいんの起源きげんとなった。

近代きんだいでは18世紀せいきの啓蒙けいもう主義しゅぎや自由じゆう主義しゅぎ思想しそうの普及ふきゅうもあり、フランス革命かくめいで議会ぎかい（憲法けんぽう制定せいてい国民こくみん議会ぎかい、立法りっぽう議会ぎかい、国民こくみん公会こうかい）が開設かいせつされた。また、18世紀せいきから20世紀せいきにかけて多おおくの国くにや地方ちほうで、制限せいげん選挙せんきょから男子だんし普通ふつう選挙せんきょや、更さらに女性じょせい参政さんせい権けんが認みとめられるようになった。

日本にっぽんで最初さいしょに議会ぎかい制せい民主みんしゅ主義しゅぎの制度せいどを提言ていげんしたのは、赤松あかまつ小三郎こさぶろうとされる。幕末ばくまつ期きの1867年ねん5月に、元もと越前えちぜん・福井ふくい藩主はんしゅの松平まつだいら春はる嶽だけに「御ご改正かいせい之の一二端奉申上候口上書」を提出ていしゅつし、島津しまつ久光ひさみつと幕府ばくふにも春はる嶽だけ宛あてのものと同様どうようの建白けんぱく書しょを提出ていしゅつした。

比較ひかく

長所ちょうしょ

物理ぶつり的てき制約せいやく

直接ちょくせつ民主みんしゅ制せいでは、国民こくみんなどの構成こうせい員いんが増加ぞうかすると議会ぎかいなどに会かいして意思いし決定けっていする事ことが運用うんよう的てきに困難こんなんになる。仮かりに大半たいはんの構成こうせい員いんが1時じ点てんで1か所しょに集あつまる事ことができても、時間じかんは有限ゆうげんであるために相反あいはんする意見いけんが存在そんざいするなかで実質じっしつ的てきな議論ぎろんを行おこなうためには議論ぎろんの参加さんか者しゃを限定げんていする必要ひつようが発生はっせいする。間接かんせつ民主みんしゅ制せいでは、実際じっさいに議会ぎかいなどに集合しゅうごうし議論ぎろんするのは代表だいひょう者しゃ（代議員だいぎいん）だけで良よいため、現実げんじつ的てきで効率こうりつ的てきな参加さんかや議論ぎろんが可能かのうである。

質しつ的てき要因よういん

直接ちょくせつ民主みんしゅ制せいでは構成こうせい員いん個々ここの知見ちけんや意思いしが直接ちょくせつ政治せいじに反映はんえいするため、専門せんもん的てき・複雑ふくざつな問題もんだいでは、構成こうせい員いん全体ぜんたいの知識ちしきおよび意識いしきが高たかくない限かぎり、衆愚しゅうぐ政治せいじに陥おちいる危険きけん性せいがある。間接かんせつ民主みんしゅ制せいでは、構成こうせい員いんがより適任てきにんと考かんがえた知識ちしきや意識いしきを持もった代表だいひょう者しゃを選出せんしゅつすることが可能かのうである。また直接ちょくせつ民主みんしゅ制せいでは参加さんかする構成こうせい員いんは原則げんそく全員ぜんいんのため、本業ほんぎょうの傍かたわらでボランティアあるいは副業ふくぎょう的てきに参加さんかする形かたちとなるが、間接かんせつ民主みんしゅ制せいでは議員ぎいんに費用ひようを支給しきゅうする事ことが可能かのうであり、専業せんぎょうとして複雑ふくざつな政治せいじ課題かだいの調査ちょうさ対応たいおうに専念せんねんすることもできる（後述こうじゅつの職業しょくぎょう政治せいじ家かも参照さんしょう）。

なお第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん終結しゅうけつ後ごのドイツでは、1930年代ねんだいに国家こっか社会しゃかい主義しゅぎドイツ労働ろうどう者しゃ党とう（ナチス）が国民こくみん投票とうひょうや住民じゅうみん投票とうひょうの形かたちで合法ごうほう的てきにヒトラーによる独裁どくさい政権せいけんの確立かくりつや領土りょうど併合へいごうの事後じご承認しょうにんを得えたことへの反省はんせいから、国民こくみん投票とうひょうを認みとめていない。

短所たんしょ

正統せいとう性せい

民主みんしゅ主義しゅぎの正統せいとう性せいはその構成こうせい員いんからの信託しんたくに由来ゆらいするため、その正統せいとう性せいもまた原理げんり的てきに間接かんせつ的てきであり、間接かんせつ民主みんしゅ制せいは直接ちょくせつ民主みんしゅ制せいを超こえた正統せいとう性せいを得える事ことはできない。仮かりに、選挙せんきょ制度せいど、選挙せんきょ時点じてんでは未み発生はっせいの問題もんだいの発生はっせい、選挙せんきょ時じの公約こうやくと選挙せんきょ後ごの当選とうせん者しゃの言動げんどうなどに問題もんだいや相違そういが発生はっせいした場合ばあいには、その正統せいとう性せいには疑問ぎもんが発生はっせいする。

民意みんいの反映はんえい精度せいど

直接ちょくせつ民主みんしゅ制せいは構成こうせい員いんから直接ちょくせつ意見いけんを収集しゅうしゅうするため、手間てまはかかるが収集しゅうしゅう漏もれは原則げんそくとして発生はっせいしないことが保証ほしょうされる。間接かんせつ民主みんしゅ制せいでは、この作業さぎょうは、収集しゅうしゅう数すう・収集しゅうしゅう範囲はんいを含ふくめ議員ぎいんの裁量さいりょうに任まかされる。このため、民意みんいの反映はんえいは次回じかい以降いこうの選挙せんきょによる信任しんにんとなるが、その場合ばあいでも議員ぎいんの行おこなった判断はんだんやその理由りゆうなどが、正まさしく構成こうせい員いんに開示かいじされ評価ひょうかされる事ことが必要ひつようとなる。

選挙せんきょ制度せいどによる影響えいきょう

選挙せんきょ制度せいどにより、選出せんしゅつ議員ぎいんの民意みんい反映はんえい特性とくせいが大おおきく影響えいきょうを受うけるが、選挙せんきょ制度せいどは多数たすうの歴史れきし的てき・政治せいじ的てき経緯けいいや要因よういんにより成立せいりつしており、各かく政治せいじ制度せいどの長所ちょうしょ・短所たんしょも存在そんざいするため、あらゆる観点かんてんから平等びょうどうまたは公正こうせいな制度せいどは存在そんざいしていない。

小しょう選挙せんきょ区く制せいは、二に大だい政党せいとう制せいを誘導ゆうどうしやすく争点そうてんの明確めいかく化かや政権せいけん交代こうたいが期待きたいできるが、死票しひょうが多おおく、選挙せんきょ結果けっかはゲリマンダーなどの区割くわりや候補者こうほしゃ調整ちょうせいなどに大おおきく影響えいきょうされうる。二に大だい政党せいとう制せいの欠点けってん(二に大だい政党せいとう間あいだで合意ごういされた談合だんごうに対たいする抵抗ていこう手段しゅだんを有権者ゆうけんしゃは持もたない等ひとし)も負おわねばならない。

比例ひれい代表だいひょう制せいは、構成こうせい員いんの民意みんいの分布ぶんぷを比較的ひかくてき正確せいかくに議員ぎいんの比率ひりつに反映はんえいさせる事ことが可能かのうな反面はんめん、小党しょうとう分立ぶんりつが長期ちょうき化かする場合ばあいがあり、政党せいとうを立候補りっこうほ単位たんいとする方式ほうしきでは政党せいとう中心ちゅうしんの選挙せんきょおよび選択せんたくとなる。

供託きょうたく金きんは、選挙せんきょに出馬しゅつばする時点じてんで仮かりに通貨つうかを預あづけ、一定いってい条件じょうけんを満みたすと返かえってくる制度せいどであるが、日本にっぽんの場合ばあい、国政こくせい選挙せんきょへの出馬しゅつば時じに300万まん円えん（比例ひれい代表だいひょうの場合ばあいは600万まん円えん）の供託きょうたく金きんが必要ひつようになる。これは個人こじんの資産しさんによって国政こくせい選挙せんきょに被選挙人ひせんきょにんとして出馬しゅつばする機会きかいを大おおきく制限せいげんする点てんが問題もんだいである。国くに自体じたいが不ふ況きょうになり、国民こくみん一いち人にん当あたりの貯蓄ちょちく額がくの中央ちゅうおう値ちが300万まん円えん未満みまんになれば、国民こくみんの約やく半分はんぶんの人ひとは国政こくせい選挙せんきょへの出馬しゅつばする機会きかいをとても得えづらくなる制度せいどである。

国民こくみんが出馬しゅつばして国民こくみんが選えらぶのではなく、国民こくみんが資金しきんによって出馬しゅつばすらできなくなるような制度せいどは国民こくみんの意見いけんを反映はんえいさせるという点てんで大おおきな問題もんだい点てんの一ひとつである。また、新規しんき政党せいとうとして、与党よとうを形成けいせいするには議員ぎいんの人数にんずう、数かずが必要ひつようになる。その際さい、多人数たにんずうを新規しんき政党せいとうから出馬しゅつばすることになるが、新規しんき政党せいとうから10人にん出馬しゅつばさせる供託きょうたく金きんは3000万まん円えん、30人にん出馬しゅつばさせる供託きょうたく金きんは9000万まん円えん、となり、国政こくせい選挙せんきょで新規しんき政党せいとうが民意みんいを反映はんえいさせる形かたちで与党よとう形成けいせいをさせることがとても困難こんなんな制度せいどでもある。

この点てんで現げん政権せいけんや現げん政権せいけん運営うんえいをしている党とうや現げん野党やとうが権力けんりょく的てき財政ざいせい的てきに腐敗ふはいした場合ばあい、新規しんき政党せいとうと政権せいけん交代こうたいすることがとても困難こんなんな制度せいどでもある。

職業しょくぎょう政治せいじ家かによる判断はんだん能力のうりょくの独占どくせん

構成こうせい員いんは選挙せんきょの時ときのみ政治せいじに関与かんよし、多おおくの場合ばあいには次つぎの選挙せんきょまでは代議員だいぎいんに委託いたくしてしまう。構成こうせい員いんは議会ぎかいでの実質じっしつ的てきな議論ぎろんや情報じょうほうから排除はいじょされ、議員ぎいんのような責任せきにんや給与きゅうよも提供ていきょうされないため、政治せいじ課題かだい調査ちょうさ能力のうりょくを養成ようせいする機会きかいに乏とぼしく、一部いちぶは民主みんしゅ主義しゅぎ本来ほんらいの構成こうせい員いんとしての当事とうじ者しゃ意識いしきや責任せきにん感かんが希薄きはくとなり、政治せいじ的てき無む関心かんしんに陥おちいる。辛かろうじて当事とうじ者しゃ意識いしきを保たもつ構成こうせい員いんも、行政ぎょうせい情報じょうほうへのアクセス権限けんげんや政治せいじ課題かだい調査ちょうさ能力のうりょくに於おいて職業しょくぎょう政治せいじ家かとの圧倒的あっとうてきな差さがあるため、職業しょくぎょう政治せいじ家かを検証けんしょう・理解りかいすることができない。もはや理解りかいを越こえる存在そんざいとなった職業しょくぎょう政治せいじ家かに対たいし構成こうせい員いんができることは、根拠こんきょを検証けんしょうせずに盲信もうしんするか、根拠こんきょを検証けんしょうしない点てんは盲信もうしんと変かわらないが逆ぎゃくに、不信ふしん感かんを募つのらせることの二ふたつしかない。

議論ぎろん

ジャン・ジャック・ルソーは『社会しゃかい契約けいやく論ろん』でイギリスを例れいに取とり「人民じんみんは自由じゆうだと思おもっているが、それは大だい間違まちがいだ。彼かれらが自由じゆうなのは、議員ぎいんを選挙せんきょする間あいだだけのことで、議員ぎいんが選えらばれるや否いなや、人民じんみんは奴隷どれいとなり、無むに帰かえしてしまう。その自由じゆうな短みじかい期間きかんに、彼かれらが自由じゆうをどう使つかっているかを見みれば、自由じゆうを失うしなうのも当然とうぜんである」と述のべ、真しんの民主みんしゅ制せいは直接ちょくせつ民主みんしゅ制せいと主張しゅちょうした。

カール・マルクスは、議会ぎかい制度せいどはブルジョアによる欺瞞ぎまん（ブルジョア民主みんしゅ主義しゅぎ）であるとして、暴力ぼうりょく革命かくめいとプロレタリア独裁どくさいを提唱ていしょうし、共産きょうさん主義しゅぎと呼よばれるようになった。これに対たいして、一部いちぶの社会しゃかい主義しゅぎ者ものは社会しゃかい民主みんしゅ主義しゅぎや民主みんしゅ社会しゃかい主義しゅぎを主張しゅちょうした。また一部いちぶの社会しゃかい主義しゅぎ国こくは人民じんみん民主みんしゅ主義しゅぎを採用さいようした。

関連かんれん資料しりょう

発行はっこう年ねん順じゅん。

• 村田むらた氏し寿ことぶき、中根なかね雪江ゆきえ『続ぞく再さい夢ゆめ紀き事ごと』日本にっぽん史籍しせき協会きょうかい 編へん、6巻かん（東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい〈日本にっぽん史籍しせき協会きょうかい叢書そうしょ111〉、1974年ねん）、国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:18111103201328。日本にっぽん史籍しせき協会きょうかい大正たいしょう11年刊ねんかんの複製ふくせい。
• 「続ぞく再さい夢ゆめ紀き事ごと」菊地きくち明あきら、伊東いとう成郎しげお 編へん『新選しんせん組ぐみ史料しりょう大全たいぜん』（KADOKAWA、2014年ねん）国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:025755097。
  • 改題かいだい、合本がっぽん加筆かひつ、再さい編集へんしゅうした既刊きかんは『新選しんせん組ぐみ史料しりょう集しゅう』（新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ 1993年ねん）、『新選しんせん組ぐみ史料しりょう集しゅう 続つづけ』（同どう、2006年ねん）。
• 『續ぞく再さい夢ゆめ紀き事ごと』6巻かん、オンデマンド版ばん（東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい〈日本にっぽん史籍しせき協会きょうかい叢書そうしょ111〉、2015年ねん）、国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかん書誌しょしID:026089676、ISBN 978-4-13-009411-5。

関連かんれん項目こうもく

• 民主みんしゅ政せい
• 直接ちょくせつ民主みんしゅ主義しゅぎ
• 啓蒙けいもう主義しゅぎ
• 参政さんせい権けん
• 知しる権利けんり
• 選挙せんきょ区く
• 金権きんけん政治せいじ