降下こうか猟りょう兵へい

降下こうか猟りょう兵へい（こうかりょうへい、独どく:Fallschirmjäger^ⓘ）は、ドイツにおける空挺くうてい兵へいの名称めいしょう。原語げんごのFallschirmは落下傘らっかさん（パラシュート）、Jägerは猟りょう兵へい（軽けい歩兵ほへい）を意味いみし^{[注釈ちゅうしゃく 1]}、ドイツ語ごにおいては自国じこく以外いがいの空挺くうてい兵へいを指さす場合ばあいにも用もちいられる。ナチス・ドイツの降下こうか猟りょう兵へいは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせんにおいて初はじめて大だい規模きぼな降下こうか作戦さくせんを行おこなった部隊ぶたいであり、大だい規模きぼな降下こうか作戦さくせんの行おこなわれなくなった大戦たいせん中期ちゅうき以降いこうは、精鋭せいえいの歩兵ほへい部隊ぶたいとして活躍かつやくした。その存在そんざいした全ぜん期間きかんにおいて、司令しれい官かんはクルト・シュトゥデントであった。また、イギリス連邦れんぽうやアメリカの空挺くうてい部隊ぶたいとは異ことなり、ドイツの降下こうか猟りょう兵へいは一部いちぶの例外れいがいを除のぞき、陸軍りくぐんではなく空軍くうぐんの管轄かんかつ下したにあった。

歴史れきし

ドイツ国防こくぼう軍ぐん初はつの空挺くうてい兵へい（降下こうか猟りょう兵へい）は、1936年ねん1月がつ29日にちに、ドイツ空軍くうぐん（ルフトヴァッフェ）のゲネラル・ゲーリング連隊れんたい第だいI大隊だいたいより選抜せんばつされた24名めいの訓練くんれん生せい達たちである。彼等かれらは空軍くうぐんが同年どうねん3月がつにシュテンダールに開設かいせつしたパラシュート降下こうか訓練くんれんの学校がっこうで訓練くんれんを行おこなった。1936年ねん10月がつには陸軍りくぐんでも重じゅう落下傘らっかさん歩兵ほへい中隊ちゅうたい（Schwere-Fallschirminfanterie-Kompanie）の編制へんせいが決定けっていされ、1937年ねんから空軍くうぐん施設しせつを借かりて訓練くんれんが開始かいしされている。同隊どうたいは1938年ねん6月がつ1日にち付づけで大隊だいたいに増強ぞうきょうされたが、1939年ねん1月がつ1日にち付づけをもって空軍くうぐんに移管いかんされ、第だい1降下こうか猟りょう兵へい連隊れんたい第だいII大隊だいたいに振ふり分わけられた。戦力せんりょくは、次第しだいに拡充かくじゅうされ、1938年ねん9月がつ1日にちには、2個こ連隊れんたい基幹きかんの第だい7航空こうくう師団しだん（のちの第だい1降下こうか猟りょう兵へい師団しだん）が編成へんせいされた。

1940年ねん 4月がつ9日にち、降下こうか猟りょう兵へい部隊ぶたいはデンマーク侵攻しんこうにおいて最初さいしょの降下こうか作戦さくせんを行おこなった。早朝そうちょう、彼かれらはオールボー空港くうこうを攻撃こうげき、占領せんりょうした。同どう空港くうこうはのちのノルウェー侵攻しんこうにおいて、ドイツ空軍くうぐんの燃料ねんりょう補給ほきゅう基地きちとして重要じゅうような役割やくわりを担になうことになる。また同おなじ攻撃こうげきでオールボー周辺しゅうへんの複数ふくすうの橋はしも占拠せんきょした。この日ひはマスネード（Masnedø）要塞ようさい攻撃こうげきなど、デンマーク国内こくないで他ほかにも降下こうか作戦さくせんが行おこなわれた。

敵てきとの交戦こうせんがあった初はじめての空挺くうてい攻撃こうげきは北欧ほくおう侵攻しんこう初期しょき、ノルウェー・スタヴァンゲル近ちかくのソラ空港くうこうを奪取だっしゅした際さいである。それに続つづくノルウェー戦せんでは降下こうか猟りょう兵へい最初さいしょの敗北はいぼくもあった。1940年ねん4月がつ14日にち、1個いっこ中隊ちゅうたいがドンボス（Dombås）の村むらと鉄道てつどうジャンクションに降下こうか、ノルウェー陸軍りくぐんにより撃破げきはされた（ドンボスの戦たたかい）。^[1]

後のちには第だい7航空こうくう師団しだんの降下こうか猟りょう兵へいが再さい編成へんせいされ、新あらたな空軍くうぐんエリート歩兵ほへい師団しだん群ぐんの中核ちゅうかくとなった。これらの師団しだんには第だい1降下こうか猟りょう兵へい師団しだんから順じゅんに数字すうじが振ふられた。各かく師団しだんは自動車じどうしゃ化か歩兵ほへい師団しだんとしての編成へんせいと装備そうびを受うけ、西部せいぶ戦線せんせんにおいて時ときに（敵てき攻勢こうせいに対たいする）「火消ひけし部隊ぶたい」の役回やくまわりを担になうことがあった。その構成こうせい部隊ぶたいは、戦場せんじょうでは師団しだんから分離ぶんりした臨時りんじの戦闘せんとう団だん編成へんせいであったり、寄よせ集あつめの部隊ぶたいや装備そうびで編成へんせいされることもあった。これらの部隊ぶたいはドイツ軍ぐんの慣習かんしゅうのとおり、たとえばフランス戦せん時どきの「エルトマン集団しゅうだん」、北きたアフリカのラムケ降下こうか猟りょう兵へい旅団りょだん（Fallschirmjäger-Brigade Ramcke）といったように指揮しき官かんの名前なまえで呼よばれた。

1944年ねん中期ちゅうき以降いこう、降下こうか猟りょう兵へいは戦況せんきょうの変化へんかから降下こうか訓練くんれんを行おこなわないようになったが、一種いっしゅの敬称けいしょうとして「降下こうか猟りょう兵へい」という呼称こしょうはそのまま使つかわれた。大戦たいせん末期まっきには降下こうか猟りょう兵へい師団しだんは12個こ以上いじょうに増ふえ、新設しんせつの師団しだんでは訓練くんれん不足ふそくで質しつが低下ていかしていた。これら師団しだんの中なかで、第だい9降下こうか猟りょう兵へい師団しだんは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中ちゅうにドイツで創設そうせつされた最後さいごの降下こうか猟りょう兵へい師団しだんとなった。この師団しだんは1945年ねん 4月がつのベルリンの戦たたかい中なかに壊滅かいめつした。なお同おなじ空軍くうぐん所属しょぞくでも、これらの降下こうか猟りょう兵へい師団しだんとドイツ空軍くうぐん野戦やせん師団しだんは別物べつものである。野戦やせん師団しだんはドイツ空軍くうぐんの余剰よじょう人員じんいんで創設そうせつされた、編成へんせい・運用うんようともに貧弱ひんじゃくな軽けい歩兵ほへい師団しだんである。

作戦さくせん

降下こうか猟りょう兵へいは、1940年ねんの降下こうか作戦さくせんによるエバン・エマール要塞ようさいの占領せんりょう、北欧ほくおう侵攻しんこう（ヴェーゼル演習えんしゅう作戦さくせん）における降下こうか作戦さくせん、1944年ねんのモンテ・カッシーノの戦たたかい、ノルマンディー上陸じょうりく作戦さくせんにおけるカランタン防衛ぼうえい戦せん（テレビドラマ『バンド・オブ・ブラザース』に描えがかれた）など、多おおくの有名ゆうめいな戦闘せんとうに参加さんかしている。

降下こうか猟りょう兵へいによる最もっとも有名ゆうめいな降下こうか作戦さくせんは、1941年ねん5月のクレタ島とうの戦たたかいである。第だい7航空こうくう師団しだんがまるごと投入とうにゅうされた。作戦さくせんは当初とうしょからつまずき、降下こうか中ちゅうや着地ちゃくち直後ちょくごに撃うたれ戦死せんしする兵へいが相次あいついだ。また当時とうじはライフルや機関きかん銃じゅうなどかさばる装備そうびはコンテナに入いれて投下とうかしていたが、兵へいと離はなれた位置いちに落おちてしまい、回収かいしゅうするまで降下こうか猟りょう兵へいは拳銃けんじゅうや手榴弾しゅりゅうだんで戦たたかう羽目はめに陥おちいった。そして飛行場ひこうじょうを占拠せんきょしてから、ようやく輸送ゆそう機きで第だい5山岳さんがく猟りょう兵へい師団しだんの増援ぞうえんを送おくり込こむことができた。激戦げきせんの末すえにクレタ島とうはなんとか占領せんりょうできたが、降下こうか猟りょう兵へいは甚大じんだいな損害そんがいを被こうむった。これを見みたヒトラーは、この種たねの大だい規模きぼの降下こうか作戦さくせんはすでに成功せいこうの見込みこみが薄うすいと考かんがえるようになった。しかし本ほん作戦さくせんでは降下こうか以前いぜんに奇襲きしゅう効果こうかが失うしなわれており、それがなければ損害そんがいをもっと抑おさえられた可能かのう性せいもある。一方いっぽう連合れんごう軍ぐんも大だい規模きぼな降下こうか作戦さくせんをやる度たびに損害そんがいが増ふえたことから、大戦たいせん末期まっきには同様どうようの結論けつろんに達たっしている。

1943年ねん 12月20日にちから28日にちにかけて、第だい1降下こうか猟りょう兵へい師団しだん第だい3連隊れんたい第だい3大隊だいたいはイタリアのオルトナの戦たたかいに参加さんかした。

モンテ・カッシーノでの戦たたかいの中なか、第だい1降下こうか猟りょう兵へい師団しだんは通常つうじょうの歩兵ほへいとして行動こうどうした。枢軸すうじく軍ぐんに建物たてものを利用りようされる事ことを恐おそれた連合れんごう軍ぐんがモンテ・カッシーノ修道院しゅうどういんを爆撃ばくげきで破壊はかいした結果けっか、はからずも瓦礫がれきでできた強固きょうこな「要塞ようさい」ができてしまった。そのため残のこった降下こうか猟りょう兵へいは、たび重かさなる突撃とつげきや厳きびしい砲ほう爆撃ばくげきに耐たえて数すうヶ月かげつ持もちこたえることができた。連合れんごう軍ぐんは降下こうか猟りょう兵へいの頑強がんきょうな守備しゅびに対たいし「緑みどりの悪魔あくま」のニックネームをつけたが、彼かれらが側面そくめんから包囲ほういされるのをおそれ撤退てったいした後のち、ようやくポーランド軍ぐんとフランス領りょうモロッコの部隊ぶたいが修道院しゅうどういん跡あとを占領せんりょうした。

装備そうび

降下こうか猟りょう兵へい部隊ぶたいの装備そうびは通常つうじょうきわめて良好りょうこうで、ドイツ軍ぐんの最もっとも優秀ゆうしゅうな武器ぶきを供給きょうきゅうされた。彼かれらは全ぜん自動じどう射撃しゃげき可能かのうの自動じどう小銃しょうじゅうや無む反動はんどう砲ほう、ゲルリッヒ砲ほうを実戦じっせんで使用しようした最初さいしょの部隊ぶたいの一ひとつである。

また降下こうか猟りょう兵へいには、ドイツ軍ぐんの近代きんだい化かされたヘルメット「シュタールヘルム M1935」を元もとにした専用せんようのヘルメットが支給しきゅうされた。降下こうか中ちゅうにパラシュートの紐ひもに引ひっかからないようにするため、外形がいけいは標準ひょうじゅん型がたヘルメットから前方ぜんぽうのひさしと側面そくめんから後こう面めんのふくらみを切きり詰つめた形状けいじょうとなり、皮革ひかく製せいの内装ないそうや顎あご紐ひもも専用せんようの構造こうぞうに変更へんこうされていた。

降下こうか猟りょう兵へいの使用しようしたパラシュートは、連合れんごう軍ぐんの物もののように両りょう肩かたのあたりでハーネスを介かいして吊つるし索さくに繋つながるのではなく、背面はいめん中央ちゅうおうの1か所しょだけで吊つり下さげられる方式ほうしきであったため、キャノピーを制御せいぎょすることはできなかった。装着そうちゃく者しゃはスカイダイビングのようにうつぶせの姿勢しせいを取とり、体からだに受うける風圧ふうあつを広ひろげた手足てあしで加減かげんすることしかできず、降下こうか中ちゅうの操縦そうじゅうは極きわめて困難こんなんであった。また飛行機ひこうきから前まえのめりの姿勢しせいで飛とび出ださなければならなかった。さらに膝ひざと肘ひじから着地ちゃくちするため、パッドを装着そうちゃくしていても負傷ふしょう率りつが著いちじるしく増ました。

各国かっこくの空挺くうてい兵へいと同様どうように、降下こうか猟りょう兵へいが落下傘らっかさん降下こうか時じに携行けいこうできる武器ぶき・装具そうぐは少すくなく、ホルスターに収おさめた拳銃けんじゅう1挺ていと手榴弾しゅりゅうだん、刃渡はわたりの短みじかい空挺くうていナイフ(Fallmesser)、信号しんごう拳銃けんじゅうの程度ていどであった。ライフルその他たの武器ぶきは、将兵しょうへいとは別べつにコンテナに収納しゅうのうし投下とうかされたため、回収かいしゅうできるまでは貧弱ひんじゃくな武装ぶそうのままだった。これに対たいし大戦たいせん中期ちゅうき以降いこうに実戦じっせん投入とうにゅうされた連合れんごう軍ぐんの空挺くうてい兵へいは、ケースに入いれたライフルかサブマシンガンを携行けいこうして降下こうかした。空挺くうていナイフは短みじかめの刃はが柄えの中なかに収納しゅうのうされており、刃はを伸のばすためのばね機構きこうは持もっていない。柄えの小しょうレバーを指ゆびで押おしながら刃先はさきを下したへ向むけると刃はの自重じちょうで、または柄えを振ふると遠心えんしん力りょくで刃はが出でてくる構造こうぞう（グラビティーナイフ）で、折おりたたみ式しきのピックも備そなえ、落下傘らっかさんの吊つるし索さくが絡からまった際さいに切きり離はなしたり、結むすび目めを解とくために用もちいられた。

この装備そうびの問題もんだいに対たいし、ヘルマン・ゲーリングは小銃しょうじゅう、短たん機関きかん銃じゅう、軽けい機関きかん銃じゅうの機能きのうを統一とういつした、しかも軽量けいりょうで降下こうか時じに携行けいこうできる汎用はんよう武器ぶきの開発かいはつを指示しじ、FG42 自動じどう小銃しょうじゅうが作つくられた。これは1943年ねんから終戦しゅうせんまで、少数しょうすうが製造せいぞう、配備はいびされた。

ドイツ空軍くうぐん降下こうか猟りょう兵へい部隊ぶたい

大だい規模きぼ部隊ぶたい

第だい1降下こうか猟りょう兵へい軍ぐん（Erste Fallschirmjägerarmee）
降下こうか猟りょう兵へい軍団ぐんだん
- 第だい1降下こうか猟りょう兵へい軍団ぐんだん（I. Fallschirmjägerkorps）
- 第だい2降下こうか猟りょう兵へい軍団ぐんだん（II. Fallschirmjägerkorps）