麦飯むぎめし

米べいと混まぜて炊だいた麦飯むぎめし

麦飯むぎめし（むぎめし、むぎいい、ばくめし、ばくはん）は、大麦おおむぎや裸麦はだかむぎなどの麦むぎだけで、あるいは米べいと混まぜて炊だいた飯めし。麦むぎご飯はん（むぎごはん）、バクシャリともいう。夏なつの季語きご。

歴史れきし

日本人にっぽんじんの古来こらいよりの主食しゅしょくは米こめと考かんがえられてきたが、実際じっさいの日常にちじょう食しょくは麦飯むぎめしやかて飯めし、あるいはアワ、ヒエなど米べい以外いがいの穀物こくもつのみを炊飯すいはんしたものが普通ふつうだった。

白米はくまいだけの飯めしは、都市とし部ぶ以外いがいでは祝祭しゅくさい時ときのみ炊たかれるもので、東京とうきょう都とを例れいにとると、東京とうきょう都区とく部ぶのうち山やまの手てと下町したまちでは、普段ふだんでも白しろ米飯べいはんを食たべていたが、その外側そとがわの畑はたけ作さく地帯ちたいでは、陸稲おかぼ米こめを2割わりから3割わり程度ていど混まぜた麦飯むぎめしを食たべていた。現在げんざいは住宅じゅうたく地ちになっている杉並すぎなみ区くでは大正たいしょう時代じだいから少すこしずつ蔬菜そさいの栽培さいばいが増加ぞうかし、都市とし近郊きんこうの野菜やさい栽培さいばい農家のうかに転換てんかんしたが、それ以前いぜんは稗ひえなどの穀物こくもつを栽培さいばいし、日常にちじょう食しょくは稗ひえと麦むぎで、米べいは少すこし入いれるだけだった。

米べい所しょであっても麦飯むぎめしの需要じゅようが多おおい地域ちいきもあり、藩政はんせい時代じだいから米べいで栄さかえた仙台せんだいでは精麦せいばく会社かいしゃの関せき兵へい精麦せいばくが大おおきな利益りえきを得えていた。

米べいの乏とぼしい畑作はたさく地帯ちたいでは、これにさらにヒエやアワなど雑穀ざっこくを加くわえたり、雑穀ざっこくと大麦おおむぎのみで作つくるような麦飯むぎめしも、かつては見みられた。

米べいと麦むぎの比率ひりつについては、明治めいじ・大正たいしょう時代じだいまでは、麦むぎのみの麦飯むぎめしもあったが、米べい2麦むぎ8の混合こんごう率りつから次第しだいに米こめ3麦むぎ7、そして半々はんはんの半はん麦飯むぎめしとなり、戦後せんごには米こめ7麦むぎ3へとその比率ひりつが逆転ぎゃくてんした。

1939年ねん（昭和しょうわ14年ねん）12月20日にち、警視庁けいしちょうは都内とないの百貨店ひゃっかてんの食堂しょくどうに節米せつまい協力きょうりょくを要請ようせい。戦前せんぜんの外食がいしょくにおける麦むぎの混用こんようは、この時点じてんで一般いっぱん化かした。 1940年ねん（昭和しょうわ15年ねん）10月がつからは、東京とうきょう都との家庭かていへの配給はいきゅう米まいにも小麦こむぎの混入こんにゅうが行おこなわれるようになり一般いっぱん家庭かていでも半なかば強制きょうせい的てきに麦飯むぎめしを食たべるようになった。

今日きょうでは、貧困ひんこんから麦むぎを食たべることはなく、健康けんこう食品しょくひん、あるいは麦むぎとろ、牛ぎゅうタン定食ていしょく、水軍すいぐん鍋なべなど特とくに麦飯むぎめしと相性あいしょうのよい食味しょくみを持もつ献立こんだてに添そえて、好このんで食たべられるように変化へんかした。

調理ちょうり

麦飯むぎめしは米飯べいはんとは異ことなる独特どくとくの香かおりと、やや固かためで粘ねばりけの少すくない食しょく感かんをもつ。調理ちょうりに際さいしては米べいとの比率ひりつを好このみによって調製ちょうせいする。麦むぎを多おおくするほど米べいに由来ゆらいする飯めしの粘ねばり気けが少すくなくなり、固かたい食しょく感かんとなる。麦むぎは炊たき上あげるのに米べいよりも多おおくの水みずが必要ひつようなため、麦むぎの量りょうが増ふえるにしたがって米べいのみの場合ばあいよりも水みずを多おおめにする。

大麦おおむぎは世界せかい的てきには粗ほぼ挽ひきにして粥かゆに炊たく、炒いったものを粉こなにして（はったい粉こやツァンパ）熱湯ねっとうや茶ちゃで練ねる、発芽はつがさせて麦芽ばくがとし、これを乾燥かんそう、粉砕ふんさいしてパンの材料ざいりょうや醸造じょうぞう原料げんりょうとするという利用りよう法ほうが主体しゅたいである。米べいと同様どうように粒つぶの状態じょうたいで炊飯すいはんする食たべ方かたは、日本にっぽん以外いがいでは朝鮮ちょうせんでみられる。ヨーロッパでは、大麦おおむぎのみ、または大麦おおむぎと米こめを混まぜてピラフとして炊たいたものなどがみられる。

精麦せいばく

麦むぎを精白せいはくしたものを精麦せいばくという。麦むぎ粒つぶは米こめに比くらべて煮にえにくいので、先さきに丸麦まるむぎを煮にておき、水分すいぶんを捨すてて粘ねばり気けを取とり、米べいと混まぜて一緒いっしょに炊たいた。これを「えまし麦むぎ」といい、湯ゆ取とり法ほうの一種いっしゅである。また麦むぎをあらかじめ煮にる手間てまを省はぶくため、唐臼からうすや石臼いしうすで挽ひき割わって粒つぶを小ちいさくした麦むぎは、米べいと混まぜて炊たくことができた。これを挽割ひきわり麦むぎという。これは主おもに農家のうかの自家じか消費しょうひ用ようであったが、明治めいじ十じゅう年ねん頃ごろからは一般いっぱんにも販売はんばいされるようになった。

現在げんざい多おおく流通りゅうつうしているのはいわゆる「押おし麦むぎ」であるが、これは麦むぎを砕くだく代かわりにローラーで平ひらたく押おしつぶし、煮にえやすくしたものである。1902年ねん（明治めいじ35年ねん）に押おし麦むぎが発明はつめいされたが、当初とうしょは麦むぎを石臼いしうすにかけ、手押ておしのローラーで押おして天日てんじつで干ほす手作業てさぎょうで製造せいぞうしていた。 1913年ねん（大正たいしょう2年ねん）、発明はつめい家かの鈴木すずき忠治郎ちゅうじろうが麦むぎの精せい殻から・圧延あつえん機きを開発かいはつし、精麦せいばく過程かていが機械きかい化かされた。更さらに鈴木すずきは精麦せいばく機械きかいの改良かいりょうに取とり組くみ、この「鈴木すずき式しき」精麦せいばく機きを備そなえた工場こうじょうが各地かくちに設立せつりつされて、精麦せいばくの大量たいりょう生産せいさん体制たいせいが整ととのった。

昨今さっこんではさまざまな精麦せいばくが開発かいはつされている。

丸麦まるむぎ

大麦おおむぎの外皮がいひを取とり除のぞき、精白せいはくした状態じょうたいそのままのもの。

押麦おしむぎ

精白せいはくした大麦おおむぎ（精白せいはく粒つぶ）を蒸気じょうきによって柔やわらかくし加熱かねつ圧あつ扁ひらたしたもの。粒つぶの真まん中なかに黒くろ条じょうが残のこる。麦むぎとろに良よく用もちいられる。

切断せつだん麦むぎ

黒くろ条じょう（中央ちゅうおうの線せん）に沿そって半分はんぶんに切断せつだんしたもの。切断せつだん後ごに加圧かあつの加工かこうを行おこなわない無む圧あつ扁ひらた切断せつだん麦むぎ（米べい粒つぶ麦むぎ）と加熱かねつ圧あつ扁ひらたした白しろ麦むぎがある。

ビタバァレー

押麦おしむぎにビタミンB1、ビタミンB2を添加てんかしたもの。「ビタ」は「ビタミン」、「バァレー」は大麦おおむぎの英語えいご「Barley」の意味いみ。

粗食そしょくとしての麦飯むぎめし

麦飯むぎめしは、かつては米べいより食味しょくみで劣おとり、かつ安価あんかで流通りゅうつうしていたため、粗食そしょくであり、貧民ひんみんの食物しょくもつという社会しゃかい的てきな観念かんねんがあった。そのため吉田よしだ茂しげる内閣ないかくの池田いけだ勇人はやと大蔵おおくら大臣だいじんの答弁とうべん（「所得しょとくに応おうじて、所得しょとくの少すくない人ひとは麦むぎを多おおく食くう、所得しょとくの多おおい人ひとは米こめを食くうというような、経済けいざいの原則げんそくに副ふく（そ）った方ほうへ持もって行いきたいというのが、私わたしの念願ねんがん」）が「貧乏びんぼう人ひとは麦むぎを食くえ」の見出みだしで新聞しんぶんに掲載けいさいされ、物議ぶつぎを醸かもした。しかしその優すぐれた栄養えいよう価かから、徳川とくがわ家康いえやすや昭和しょうわ天皇てんのうは麦飯むぎめしを主食しゅしょくとした。

日本にっぽんの刑務所けいむしょでは、近代きんだいの懲役ちょうえき刑けいの導入どうにゅうとともに麦飯むぎめしが導入どうにゅうされ、米べい:麦むぎ=7:3の比率ひりつのものが標準ひょうじゅんとされている。俗ぞくに刑務所けいむしょの食事しょくじを「臭くさいメシ」と呼よび、刑務所けいむしょに収監しゅうかんされること自体じたいを「臭くさいメシを喰くう」と表現ひょうげんすることがあるが、これはかつては刑務所けいむしょの食事しょくじが低てい予算よさんの関係かんけいから非常ひじょうに質しつが悪わるく、また終戦しゅうせん後ごなど食料しょくりょう事情じじょうの悪わるい時代じだいには南京なんきん米まいの、本当ほんとうに臭気しゅうきのする飯めしが服役ふくえき者しゃに出だされていたことによる。

健康けんこう食しょくとしての麦飯むぎめし

栄養えいよう価か

健康けんこう食品しょくひんとして食たべられるのは、大麦おおむぎは米べいと比くらべて食物しょくもつ繊維せんい、タンパク質たんぱくしつ、ビタミンを多おおく含ふくむためである。江戸えど時代じだいに江戸えどや大坂おおさかでは精白せいはくされた白米はくまいが普及ふきゅうし、その結果けっかとしてビタミン不足ふそくから脚気かっけが大だい流行りゅうこうしたのは有名ゆうめいな話はなしだが、原因げんいんは白米はくまいの食味しょくみの良よさを喜よろこんだ民衆みんしゅうの偏食へんしょくだけでなく、大都市だいとしの燃料ねんりょう問題もんだいにもあった。燃料ねんりょうとしての薪たきぎが周辺しゅうへんの山野さんやで無料むりょうかつ簡単かんたんに手てに入はいる農村のうそんや山村さんそんと異ことなり、薪たきぎも金かねを出だして買かわなくてはならない大都市だいとしにおいて、庶民しょみんが燃料ねんりょう費ひを節約せつやくするため煮にえにくい玄米げんまいや丸麦まるむぎを避さけ、主食しゅしょくを白米はくまいのみに依存いぞんした結果けっか、脚気かっけの流行りゅうこうを招まねいた側面そくめんもある。

また、日にち露ろ戦争せんそう時どきの大日本帝国だいにっぽんていこく軍ぐんにおいて、白米はくまいのみの飯めしを兵へい食しょくの主食しゅしょくとした陸軍りくぐんが多数たすうの脚気かっけによる戦病死せんびょうし者しゃを出だしたのに対たいし、麦飯むぎめしを採用さいようした海軍かいぐんでは脚気かっけの発生はっせいを阻止そししたことはよく知しられている。ただ、海軍かいぐんにおいても麦飯むぎめしの食味しょくみを嫌きらって麦むぎを捨すててしまう烹炊兵へいは少すくなからずおり、その後ごの戦争せんそうでは脚気かっけ禍かが何なん度ども発生はっせいしている。

糖尿とうにょう病びょうとの関係かんけい

2005年ねん（平成へいせい17年ねん）8月がつに、秋田あきた市しで開催かいさいされた第だい46回かい日本人にっぽんじん間あいだドック学会がっかい学術がくじゅつ大会たいかいに於おいて、2型がた糖尿とうにょう病びょう患者かんじゃの血糖けっとう値ちが、刑務所けいむしょ服役ふくえき中ちゅうに著ちょ明あかりに改善かいぜんした事例じれいが発表はっぴょうされた。福島ふくしま刑務所けいむしょ医務いむ課かの日向ひゅうが正ただし光こう（精神せいしん科か医い）は、受刑じゅけい者しゃの栄養えいよう摂取せっしゅ量りょうが日本人にっぽんじんの平均へいきんと同等どうとう以上いじょうであることや、運動うんどう量りょうがそれほど多おおくはないのにも拘かかわらず、インスリンで治療ちりょうしていた17人にんのうち5人にんが注射ちゅうしゃをやめることができ、経口けいこう血糖けっとう降下こうか薬やくで治療ちりょうしていた34人にんについても17人にんが服薬ふくやくを中止ちゅうしできたことを踏ふまえて、刑務所けいむしょの主食しゅしょくが今いまどき珍めずらしい『麦飯むぎめし』であることに着目ちゃくもくした。

米べい7麦むぎ3の飯めしを毎日まいにち食たべることで、食物しょくもつ繊維せんい、とりわけ水溶すいよう性せいの食物しょくもつ繊維せんいの摂取せっしゅ量りょうが多おおくなり、糖とう代謝たいしゃの改善かいぜんにつながったのではないかと考かんがえた。受刑じゅけい者しゃは平均へいきん的てき日本人にっぽんじん男性だんせいの2倍ばいの食物しょくもつ繊維せんいを摂取せっしゅし、水溶すいよう性せい食物しょくもつ繊維せんいは5倍ばい摂とっているという。「規則正きそくただしい生活せいかつ習慣しゅうかんと麦飯むぎめしなどの高こう食物しょくもつ繊維せんい食しょくで、十分じゅうぶんな糖尿とうにょう病びょうの治療ちりょう効果こうかがもたらされる可能かのう性せいがある」としている。

ラットの動物どうぶつ実験じっけんで、大麦おおむぎ食しょくの血糖けっとう上昇じょうしょう抑制よくせい効果こうかが認みとめられているが、グルコースの吸収きゅうしゅう速度そくどが遅おそくなるのが理由りゆうではないかとしている。

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