黒姫 伝説
『信濃 奇勝 録 』・『日本 伝説 叢書 』の記述
[『
沓 野川 上流 の岩倉 池 に住 む竜 蛇 は黒姫 に思 いを寄 せ、小姓 の姿 に化 けて姫 の元 へと通 った。こうして姫 の気 を引 き、岩倉 池 にさらってしまおうと企 んでいたが、不審 に思 った他 の小姓 に尾行 され、ついに正体 を知 られてしまう。竜 蛇 は怒 り、その小姓 に毒 を吐 きかけて死 なせてしまうが、これをきっかけに竜 蛇 の悪巧 みは広 く知 られるところとなった。竜 蛇 は思 い通 りにならない仕返 しに、四 十 八 池 の水 を落 として高梨 氏 の一族 を絶 やしてしまおうと企 てた。これに気付 いた地獄谷 の山神 は、恩顧 のあった高梨 氏 の人々 を守 るべく、燃 えたぎらせた地獄 の火 で落 ちてくる水 を蒸発 させてしまった。竜 蛇 はあわてて水 を戻 したが、既 に遅 く、大沼池 、岩倉 池 、琵琶池 、ほか4池 を満 たす程度 の水 しか残 っていなかった。
なお、「
『下高井 郡 誌 』・『信濃 の伝説 』の「黒姫 物語 」
[1922
高梨 摂津 守 政 盛 には、政 頼 と黒姫 という2人 の子供 がいた。容姿 端麗 の美人 であった黒姫 は、政 盛 の寵愛 をその一身 に集 めていた。そんな黒姫 のもとに、狩衣 を着 た20歳 ほどの青年 が近付 くようになる。家臣 たちが彼 を捕 らえようとするも手 に負 えず、怒 った政 盛 は自 ら姫 の寝室 の前 で待 ち構 えた。深夜 、姿 を現 した狩衣 の青年 に対 し、政 盛 は源 頼朝 から授 かった名剣 で切 りかかった。しかし、刀 は狩衣 の袖 を切 っただけで、強 い風 と立 ち上 る黒 い雲 の中 に、青年 の姿 を見失 ってしまう。- これ
以来 、城下 は毎晩 暴風 に見舞 われるようになり、町人 や百姓 の間 に不安 が広 がった。岩倉 池 の竜 が黒姫 を慕 って近付 いたが失敗 し、その話 を耳 にした竜王 によって岩倉 池 から追 い出 され、さらに城下 一帯 を湖 に変 えて移 り住 もうとしていると噂 された。人々 が逃 げ出 す中 、黒姫 は自身 を犠牲 にしてでも民衆 を救 おうと決心 した。始 めはこれを許 さなかった政 盛 であったが、ある晩 夢枕 に立 った湯殿 権現 に説得 され、泣 く泣 く姫 の外出 を認 めた。 城 を出 た黒姫 は越後 国 との境界 付近 で白髪 の翁 に出会 う。翁 は岩倉 池 の毒蛇 がこの山 にも移 り住 もうとしているので、退治 するためには黒姫 の持 つ名剣 が必要 だと言 い、退治 した暁 にはこの山 を姫 に与 えると告 げた。姫 は名剣 と、自身 の黒髪 を翁 に渡 した。翁 が池 に剣 と髪 を投 げ込 むと、池 の中 に竜 蛇 の姿 が現 れた。剣 をのみ込 んだ竜 蛇 は倒 れ、池 の水 が赤 く染 まった。山 の方 に竜 蛇 のような黒 い雲 が起 こり、暗闇 のなか雷 と氷 が降 ったかと思 うと、黒姫 の姿 は消 えてしまった。その山 は現在 の黒姫山 と伝 えられている。
『みすゞかる信濃 』の「黒姫 伝説 」
[1941
高井 郡 日野 城 の高梨 政 盛 には嗣子 がなく、2番目 の弟 である盛 頼 が後 を継 いだ。盛 頼 の長子 は政 頼 、その妹 が黒 姫 である。黒姫 は引 く手 あまたの美人 で、高梨 氏 の親戚 である長尾 為景 (上杉 謙信 の父親 )の勧 めで足利 義尚 (室町 幕府 第 9代 将軍 )の侍女 になる予定 であった。永 正 3年 (1506年 )の春 、黒姫 の寝室 に近付 く一人 の美少年 が現 れる。報告 を受 けた盛 頼 は、その少年 を捕 らえるよう家臣 らに命 じるも逃 げられてしまう。盛 頼 は自 ら馬 に乗 って後 を追 い、名剣 で少年 の片腕 を切 り落 とした。すると空 は嵐 となり、30か所 余 りの池 が決壊 し、日野 城 は流 されてしまった。噂 では、岩倉 池 ・硯川 の黒 龍 が黒姫 を慕 って通 ったものの、名剣 によって本来 の力 を発揮 できず、そればかりか傷 を負 わされてしまったことで竜王 の怒 りに触 れ、岩倉 池 を追 われたうっぷんを晴 らそうとしている、ということである。真山 城 に撤退 した盛 頼 は、風雨 が収 まったところで人々 の救出 策 を講 じた。領内 での酒造 りを禁 じて米穀 を確保 するとともに、佐久 からも食糧 を調達 した。政 頼 は祖先 の盛光 が信仰 したという湯殿山 の神社 を参拝 し、夢 のお告 げにより黒 龍 の居場所 をつきとめる。一方 、盛 頼 の夢 の中 には流 されたはずの黒姫 が現 れ、名剣 を欲 した。黒姫 は盛 頼 から名剣 を授 かると、山 の中 の池 に潜 む黒 龍 を退治 し、そのとき流 れた血 が赤川 となった。その山 は黒姫山 と呼 ばれるようになり、美女 が水 の上 で歌 を詠 む姿 や、雨乞 いに応 えて雨 を降 らせるといったことも伝 わる。
『信濃 の民話 』の「黒姫 物語 」
[1957
春 、高梨 政 盛 は黒姫 と共 に家臣 を連 れて花見 に出 かけた。盃 を上 げていると一 匹 の白蛇 が姿 を現 し、黒姫 は政 盛 に促 されて白蛇 にも盃 を分 けてやった。その夜 、黒姫 のもとに狩衣 を着 た小姓 が現 れて求婚 する。彼 は昼間 に姫 から盃 を頂 いた者 だといい、その気高 く美 しい様 に、姫 も心 を惹 かれた。数日 後 、その小姓 は黒姫 を嫁 にもらおうと政 盛 のもとを訪 ねた。政 盛 から見 ても立派 な青年 ではあったが、自 らを大沼池 の主 の黒 龍 であると話 す小姓 に対 し、人間 ではないものに黒姫 を嫁 がせる訳 にはいかないと破談 にした。それから毎日 のように小姓 が城 を訪 ねて来 るようになって100日 、政 盛 は小姓 に試練 を課 す。しかしそれは政 盛 が仕掛 けた罠 であり、痛 めつけられた小姓 は正体 をさらし、怒 って四 十 八 池 の水 を落 とそうと嵐 を呼 んだ。黒姫 は小姓 に酷 い仕打 ちをした政 盛 を責 め、黒雲 に向 かって嵐 を鎮 めるよう叫 び、鏡 を高 く投 げ上 げた。すると黒 龍 が姿 を現 し、黒姫 を乗 せて駆 け上 った。洪水 で荒 れ果 てた下界 を見 て嘆 き悲 しむ黒姫 に、黒 龍 は許 しを乞 うた。それから二 人 は共 に山 の池 へと移 り住 み、その山 は黒姫山 と呼 ばれるようになった。
この
黒姫 伝説 に関連 する作品
[- 『
組曲 ・黒姫 物語 』 - シンガーソングライター・野田 純子 による音楽 作品 [16]。1998年 (平成 10年 )に高橋 達男 (地方紙 「北信 ローカル」の元 編集 長 )と出会 ったことがきっかけで黒姫 伝説 をモチーフに制作 し、1999年 (平成 11年 )7月 に中野 市 市民 会館 で初演 [16]。その際 のナレーションは常田 富士男 が担当 した[16]。 大沼池 の黒 竜 -まんが日本 昔 ばなし(1976年 5月22日 )
脚注
[- ^ 『
信濃 奇勝 録 巻 之 五 』27ページ(かっこ内 は引用 )。 - ^ 『
信濃 奇勝 録 巻 之 五 』27ページ。 - ^ a b 『
日本 伝説 叢書 信濃 の巻 』132 - 134ページ。 - ^
国立 公文書 館 デジタルアーカイブ『天保 国 絵図 信濃 国 』より(2014年 8月 8日 閲覧 )。 - ^ 「
地理 院 地図 (電子 国土 Web)」より(2014年 8月 8日 閲覧 )。 - ^ 『
下高井 郡 誌 』353 - 356ページ。 - ^ 『
信濃 の伝説 』52 - 57ページ。 - ^ a b 『みすゞかる
信濃 』73 - 79ページ。 - ^ 「
地理 院 地図 (電子 国土 Web)」にて「岩倉 池 」をキーワードに「地名 等 検索 」を実行 しても、見 つかるのは和歌山 県 橋本 市 にある岩倉 池 のみであった(2014年 8月 26日 閲覧 )。 - ^ 「
地理 院 地図 (電子 国土 Web)」より(2014年 8月 26日 閲覧 )。 - ^ a b 『
信濃 の民話 』45 - 51ページ。 - ^ 『
講談社 現代新書 370民話 の世界 』23 - 24ページ。 - ^ a b c 『
講談社 現代新書 370民話 の世界 』33ページ。 - ^ a b 「
大沼池 の黒 竜 」『まんが日本 昔 ばなし DVD第 48巻 』(NCID BB11386669)より。 - ^
テレビ東京 「あにてれ ふるさと再生 日本 の昔 ばなし これまでのお話 」より(2014年 9月 20日 閲覧 )。 - ^ a b c 「
野田 純子 /プロフィール・メンバー紹介 」より(2014年 8月 9日 閲覧 )。
参考 文献
[井出 道 貞 等 著 『信濃 奇勝 録 巻 之 五 』井出 通 、1887年 4月 。藤沢 衛彦 編著 『日本 伝説 叢書 信濃 の巻 』日本 伝説 叢書 刊行 会 、1917年 7月 31日 。下高井 郡 役所 編纂 『下高井 郡 誌 』長野 県 下高井 郡 役所 、1922年 11月15日 。酒井 亀 弥 編輯 『信濃 の伝説 』信濃 研究 会 、1925年 4月 30日 。栗 岩 英治 「黒姫 伝説 」『みすゞかる信濃 』日本 放送 協会 長野放送局 、1941年 。- 「
信濃 の民話 」編集 委員 会 編 『日本 の民話 1信濃 の民話 』未來社 、1957年 6月30日 。 松谷 みよ子 著 『講談社 現代新書 370民話 の世界 』講談社 、1974年 10月28日 。
関連 項目
[黒姫 - その他 の黒姫 黒姫山 (長野 県 ) -北信 五 岳 自 来 也(児雷也 ) -黒姫山 の伝承 志賀高原 -大沼池 -四 十 八 池 湿原 -湯田 中 渋 温泉郷 高梨 氏 -高梨 政 盛 -高梨 政 頼 -高梨 氏 館 長尾 氏 -上杉 氏 異類 婚姻 譚 祇園祭 志賀高原 殺人 事件 -西村 京太郎 の十津川 警部 シリーズ上杉 那 郎 -樋口 京 輔名義 で「黒姫 伝説 殺人 事件 」を創作
外部 リンク
[北沢 彰利 「「黒姫 ものがたり」の歴史 と舞台 を訪 ねて」『THE FORUM』第 62号 、野尻湖 フォーラム、2018年 。- 「
色々 なパターンの黒姫 伝説 が読 みたい。」 - レファレンス協同 データベース