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Fate/dragon’s dream

Fate/dragon’s dream

大聖たいせいはい

「……ほんっとにわないわね」
 くらくなってきた廊下ろうかあるきながら、わたしはひとりごちる。
「カンペキにだれもいないじゃない……亡霊ぼうれいすらてこないし」
 じつわたしねらいはそれだったりする。きている人間にんげんだれもいなくても、アインツベルン関係かんけい亡霊ぼうれいのひとつやふたつてきてくれるかもしれないと期待きたいしていたのだが……。

「うーん……」
 ちると、まともな照明しょうめいがないしろ暗闇くらやみである。そうなればそこは究極きゅうきょく幽霊ゆうれい屋敷やしきだ。シチュエーションてきにも亡霊ぼうれい闊歩かっぽする魔窟まくつとなっておかしくはない。が、
かんがえてみればアインツベルンが浮遊ふゆうれいきにさせるはずないか――」

なにか魔除まよけけでもほどこしているのだろう。遭難そうなんしゃさえしている樹海じゅかい奥深おくふかくにてられたしろなのだから霊的れいてきよどんでいてもおかしくはないのだが、そういう観点かんてんからみればここは奇妙きみょうなほどきよめられている。きっとかれらはこのさきひじりはい戦争せんそうでもおなじようにここを拠点きょてんとして使つかなのだろう。

そのまま5かいがる。そとからかぎりでは5かい最上階さいじょうかいで、しろ正面しょうめんいたおおきな部屋へやがひとつと、反対はんたいがわびた廊下ろうかさきちいさな部屋へやがいくつかあるようだった。もうすっかり廊下ろうかくらい。わたしってきたライトをつけて正面しょうめんとびらちかづいた。

(とりあえずここを調しらべたら一旦いったん二人ふたり合流ごうりゅうするか――)
 そうしてとびらけた瞬間しゅんかんなかから強烈きょうれつ腐臭ふしゅうながた。そして――

ああ、わたしはバカだ。反射はんしゃてきに、っているライトでさっと部屋へやらしてしまった。ひどいモノがあった。かべにもたれたヒトガタひとつ。むねのあたりがドスくろまったしろふく。それをにつけた――おそらくは女性じょせい

すさまじいまでの腐臭ふしゅうは、そのヒトガタから。くさはてて、あちこちからしろほねのぞいた腐乱ふらん死体したいからだった。
(う……!!)
 もうおもいっきり不意打ふいうち。亡霊ぼうれいなら拍手喝はくしゅかっさいだったけど、こんな生々なまなましいモノは予想よそうそとだ。

おもわずすうあとずさる。あやういところでさけごえげるところだった。手分てわけしていてよかった。士郎しろうにあんなことをった手前てまえ、アイツにこんな動転どうてんしたところをられるのはずかしい。

(とりあえず二人ふたり合流ごうりゅうするか――)
 わたしもとみちを――って、あれ? いま廊下ろうかおくに、だれかいなかった?
 はほとんどちて、廊下ろうかはもうほとんどくらである。その暗闇くらやみおくに、さっと一瞬いっしゅんしろ人影ひとかげえたような――。

(――亡霊ぼうれい、じゃ、なさそうだったけど――ひょっとしてビンゴ?)
 ライトをし、わたしかべづたいにそろそろとあるした。しろ人影ひとかげらしきものがえたところは、すぐかくになっている。ということは、あそこをがったのか――

足音あしおとすため、できるだけ絨毯じゅうたんうえしのあしあるく。がりかどまであとすこしというところで、さっとかべにくっついた。そのままじりじりとかくちかづき、そーっとかおだけかくからすと――
  ――――そのまえにいただれかとった。

「――――――――――――――――――!!!!!!!」
「う、わあああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!」

正直しょうじきうと、一瞬いっしゅん心臓しんぞうまった。

そこにいたのが意外いがい人物じんぶつで、絶対ぜったいこんなところをられたくないヤツだったから、ということもあるだろう。こえだけはなんとかころしたが、きっとわたし、かなり愉快ゆかいかおしてただろうな――。

「――――――士郎しろう!? バカ、あんたなんだってこんなところにいるのよ!!!!!
「え………え? と、遠坂とおさか??」
 まったくもう!! このバカ弟子でしなにかんがえているんだか!

あんたはなんだってこんなとこにいるのかってってるの!! もう、せっかくだい金星きんぼしつかったかとおもったのに」
「え、え? いや、それこっちのセリフだぞ。なんで遠坂とおさかがここにいるのさ? さっき4かいよりうえさがすって」
「そうよ、あんたさっき自分じぶんは3かいさがすってってたじゃない。どうしてわたしとあんたがかちうのよ」

「あ、あれ? おかしいな……いつのまにか4かいてたのか?
「――ちょっと士郎しろう、アンタ大丈夫だいじょうぶ ここ4かいじゃなくて5かいなんだけど」
「――え」

「――はぁ、もう、ぼーっとするのもいい加減かげんにしてよね。って、もしかしてアンタ、なにかトラップにっかかったんじゃないでしょうね」
「え、いやそんなことはない、とおもうけど」

「なにかにっかかって記憶きおくをいじられたとか、おぼえない?」
「ないよ。っていうかそれムチャクチャだぞ。記憶きおくいじられたならおぼえてるわけないじゃんか」
「……ま、それはそうだけど。――うん、べつにおかしな魔術まじゅつ痕跡こんせき見当みあたらないみたいだし――」

そのとき突然とつぜん背後はいごからセイバーのこえがした。
「シロウ? りん?」
「あ……セイバー」
 階段かいだんのぼってきたセイバーが姿すがたせる。

「どうしてセイバーまで?」
調査ちょうさわったのですが、うえほう気配けはいかんじたのでさき合流ごうりゅうしたほうがいいと判断はんだんしました。――りん、このにおいは」
「――ええ。そこのひらいてるおおきな部屋へやよ」


 おれとセイバーが遠坂とおさかうながされてその部屋へやなか視線しせんけると――
「……う――!
 おもわず、くちをやる。部屋へやにはかべにもたれた遺骸いがいがあった。この強烈きょうれつ腐臭ふしゅうは、これが発生はっせいもとらしい。
「……格好かっこうからすると、おそらくイリヤの侍女じじょでしょう」
 セイバーはおそれもなく腐臭ふしゅうただよ部屋へやはいっていった。それに遠坂とおさかつづく。

おれはおそるおそる、二人ふたりのちって部屋へやんだ。腐敗ふはいがひどい。
えていますね。心臓しんぞう短剣たんけんいちとっき――」
「イリヤスフィールの死後しごったっていうところね」
 がりながら遠坂とおさかう。セイバーはなおも死体したい調しらべていたが、がかりになるものはないと判断はんだんしたのか、ちあがった。
死後しご半年はんとし以上いじょうっている――りんとおりでしょう」

「……このひと、ちゃんととむらってあげよう。イリヤのはかとなりほうむってあげれば、きっとイリヤもよろこぶだろうし」
 おれのその言葉ことばに、
「ええ、もちろん」
 遠坂とおさかうと、ふところからあか宝石ほうせき取出とりだした。それをかべにもたれた死体したいひざうえにのせる。そして、宝石ほうせき遠坂とおさかつむいだ呪文じゅもんによって発火はっかし、やがて遺体いたい身体しんたい紅蓮ぐれんほのおつつんだ。

全然ぜんぜんあつくないし、けむりない。しかしそのまぼろしほのおは、着実ちゃくじつみずからにせられた役割やくわり遂行すいこうしていった――

――ほどなくして火葬かそうわり、おれたち暗闇くらやみなか遺体いたいをイリヤのはかとなりほうむった。あのひとも、これでイリヤと一緒いっしょにいてあげることができるようになっただろうか。

おもいのほか時間じかんられちゃったわね。とりあえずどこかにあつまって作戦さくせん会議かいぎにしましょう」
いちかい暖炉だんろのある居間いまがありました。石造いしづくりのしろよるえます。そこでならだんることもできるので丁度ちょうどいいのでは」
 セイバーのすすめにしたがい、おれたち暖炉だんろ部屋へや移動いどうする。

「じゃ、早速さっそくだけど首尾しゅびのほどを報告ほうこくして。とりあえずわたし見付みつけたのはさっきの遺体いたいだけなんだけど」
おれほうは――3かいにはなにもなかったよ」

「こちらは報告ほうこくがあります。2かい書斎しょさいあとほんいちさつつけました。かくされていたので重要じゅうようたかいのではないかと」
 セイバーの報告ほうこくいろめき遠坂とおさかおれもセイバーに視線しせんけた。
「え、ホント?」

「はい。出火しゅっか場所ばしょからほどちか部屋へやなのですが、大型おおがた本棚ほんだなのこっていてその裏側うらがわちいさなスペースがありました。のぞいたところうすほんいてあったのですが、トラップの可能かのうせい考慮こうりょしてれていません」
でかした! 早速さっそくってみましょう」
 いきおいよくがる。おれたちはセイバーの案内あんないにしたがって、その部屋へやへとはいっていった。


「――アレね」  おれ部屋へやはいると、遠坂とおさかはすでに本棚ほんだなおくのぞきこんでいた。
「――――うん、大丈夫だいじょうぶ、とりあえずすぐに発動はつどうするトラップはないみたい」
 よっ、とこえしてす。そして、おくからなにか日記にっきちょうのようなほん取出とりだした。
「さーて、なにてくることやら……」

ふるにおいにつつまれたいちさつほん。それは――きり嗣のまえに、アインツベルンのマスターとしてたたかった人間にんげんのこした手記しゅきだった。

文体ぶんたい一貫いっかんしているのは、狂気きょうきひじりはいるという900ねん悲願ひがん成就じょうじゅせんとするおとこの、くるおしいまでのひじりはいへの思慕しぼ今代こんだいでそれをげる――一族いちぞくからたくされたのろいのような強迫きょうはく観念かんねん

それにしつぶされるように、かれもとめた。絶対ぜったい勝利しょうりする。あたまにはそれしかなかったのだ。それこそが自分じぶん存在そんざい意義いぎだったのだ。

ルールをおかしてまでんだソレは、しかしあっけなく敗退はいたいする。

なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。

自分じぶんしたのは絶対ぜったいあく。すべてのマスターを有無うむわさず皆殺みなごろしにする、究極きゅうきょく殺戮さつりくをもたらすはずだったはん英雄えいゆう。それがなぜ、まるで普通ふつう人間にんげんわらないような存在そんざいだったのか。

そこからさきは、もはや狂気きょうきぶしかない内容ないようだった。しるされたのは、ただ、なげきのみ。
 そのなげきは、自分じぶんゆがめたアインツベルンという一族いちぞくまで逆流ぎゃくりゅうする。宿願しゅくがんしつぶされ、人間にんげんとしてのすべてをそのためにてた。
 だがそれゆえもたらされた結果けっか惨憺さんたんたるもので、一族いちぞく宿願しゅくがんたさなかった自分じぶん徹底的てっていてきめたのだ――。

一族いちぞくのためにすべてをささげ、それゆえどうあやまり、てられた。それは、そんなおとこなげきだった。

――だが、それよりも。それよりもいまは。
「――復讐ふくしゅうしゃ《アヴェンジャー》」
 
セイバーのこえかたい。

――このマスターがしたソレは、かつてギルガメッシュがくちにした、アンリマユというの『はん英雄えいゆう――

人間にんげんすべてをぜんとするため、ほかのすべての人間にんげんごう一人ひとりわされた人柱ひとばしら

ただ、『あくであれ』とさだめられ、捏造ねつぞうされたこの生贄いけにえ構成こうせいするねがいとのぞみを――

「――そのたましい回収かいしゅうしたきよしはいが、受諾じゅだくしたのね――」
 
通常つうじょうけたサーヴァントは、そのたましいひじりはい回収かいしゅうされ、指向しこうせいのない魔力まりょくうずとなってひじりはいたす。そして、この魔力まりょくが6にんぶんあつまったとき、きよしはい――もん――はたされ、根源こんげんへといたあなひらく。

そのとき、根源こんげんよりもたらされる魔力まりょくきよしはいたした魔力まりょくあふれ、『どんなねがいでもかなうほどの』膨大ぼうだいなチカラをじゅつしゃあたえるのだ。

だが、もし――その回収かいしゅうされたサーヴァントそのものが、人々ひとびとねがいによって捏造ねつぞうされた『くろねがい』のカタマリのようなものだとしたらどうなるのだろう? 本来ほんらい、『無色むしょくちから』がたされているはずのひじりはいに、たったいちつぶいろのついたモノが混入こんにゅうしたら……!

「――捏造ねつぞうされただけだったはずののろいが、願望がんぼうとしてのひじりはい汚染おせんし、無色むしょくちからくろげたのですね……」

「これでつながったわ。根源こんげんいたみちひらひじりはいから、なぜ『このすべてのあく』なんてのろいがあふれてくるのか。願望がんぼうといいながら、『殺人さつじん』という指向しこうせいったねがいのかなえかたしかできない欠陥けっかんひんなのはなぜか。そのこたえが、これ」

きよしはいなかに――復讐ふくしゅうしゃ《アヴェンジャー》アンリマユがいる――!?」
 60おくすべての人間にんげんのろうことをのぞまれた生贄いけにえが、きよしはいちから使つかって『のぞまれた理想りそう姿すがた』になろうとしているのか――!

「――だけどおかしいじゃないか。ひじりはい前回ぜんかい前々回ぜんぜんかいもセイバーがこわした。ひじりはいなかにそんなものがいたら、そのときにえてるはずだ」
「――サーヴァントをぶものはひじりはい、そしてひじりはいはサーヴァントのたましいあつめるうつわ……。 りん、もしかすると、我々われわれが『きよしはい』とぶものはふたつあるのではないでしょうか」

「サーヴァントのたましい回収かいしゅうし、根源こんげんへのあなひらかぎとなるひじりはいと……サーヴァントをせ、根源こんげんへのもんそのものとなる、すべての儀式ぎしき《システム》をつかさど起動きどう方陣ほうじんたるひじりはい――!」

「そうか! おもえばおかしなことだったんだ。ひじりはい戦争せんそうのシステムが人為じんいてきかれたモノなら、きよしはい出現しゅつげんだって当然とうぜん人為じんいてきなものじゃないと辻褄つじつまわない。それなのにひじりはい出現しゅつげんだけ自然しぜん現象げんしょうだとおもっていたから、きよしはい戦争せんそうはなし全部ぜんぶ脈絡みゃくらくがないようにおもえたのか」

すべての大元おおもと起動きどうしき……大聖たいせいはいとでもうべきそれが英霊えいれいせる魔力まりょくあつめるのに、通常つうじょう60ねん周期しゅうきがかかるとすれば、前回ぜんかいひじりはい戦争せんそうが10ねんていうすごくみじかいサイクルでこったのにも納得なっとくがいくわ。
 まもるみやきり嗣によって、なか魔力まりょくをほとんど使つかわないうちにアインツベルンの用意よういしたきよしはい……しょうひじりはいえた。とすれば、大聖たいせいはいにはまだ十分じゅうぶん魔力まりょくのこっていて、たった10ねんまんタンになった……」

前回ぜんかいひじりはい戦争せんそうでもそれは同様どうようです。ひじりはいはまともにもんとして機能きのうしないうちにそのかぎ破壊はかいすることで停止ていししている。とすれば、その大聖たいせいはいにはまだ使つかわれなかった大量たいりょう魔力まりょくのこっていると間違まちがいありません。
 ジークフリートをんだ魔力まりょくみなもとは、おそらくそれでしょう。大聖たいせいはいを、だれかが勝手かってうごかしているのではないでしょうか」

「そうとしかかんがえられないわね。前々回ぜんぜんかいから前回ぜんかいまでで10ねんかかってるってことは、大聖たいせいはいはいくら魔力まりょくあまっていてもいっぺんに7にんのサーヴァントをせられないあいだ起動きどうしないみたいだし。
 ひじりはい前回ぜんかいだってまともに機能きのうしなかったとはいえ、あんなかたちあらわれたからには魔力まりょくはそれなりに消費しょうひしているはず。ひじりはい戦争せんそう正式せいしきこるのはまだまだずっとさきになるはずよ。
 だのに、ジークフリートはばれた。だれかが起動きどうしきにちょっかいかけてるとしかおもえないわ」

遠坂とおさかはそこで一旦いったん言葉ことばめ、つぎ瞬間しゅんかん
士郎しろう!! あぶない!」
 
おもいっきりおれそでった。

遠坂とおさかほうたおれこんだのと、手記しゅき突然とつぜんすさまじいほのおをふきしたのはまったく同時どうじ
「うわっ!?」
「シロウ! 大丈夫だいじょうぶですか!?」
「あ、ああ、なんとか……」
 ぞっとする。遠坂とおさかってくれなかったら、今頃いまごろおれかおくろこげだっただろう。

手記しゅきからのほのおはまるで爆発ばくはつのようにつづいたのち一瞬いっしゅんえた。のちにははいすらのこらない。

「トラップね……むことによって作動さどうするようになってたんだわ」
防犯ぼうはんのためでしょうが、しかし……」
むことで発動はつどうするなんて、自分じぶんめないじゃないか」
ませるなんてなかったんでしょ」
 あーあ、といながら遠坂とおさか名残惜なごりおしそうにほんえた場所ばしょゆびでなぞっていた。
「もっと情報じょうほうがあったかもしれないのにな……」

「おまえでもづかないことあるんだな」
 おれがそううと、遠坂とおさかはちょっとむっとしたかおになり

「あのねぇ。こういうるいのトラップはつけにくくなってるものなの。トラップの存在そんざい自体じたいがバレバレだったらだれもっかからないじゃない。
 この手記しゅきにかけられたのだって、『ませない』ためのものなんだから、最初さいしょからトラップがえてたら解除かいじょされてまれちゃうでしょ。だからむこと』それ自体じたい一種いっしゅ儀式ぎしき見立みたてて、それをトラップ発動はつどう手順てじゅんにしてトラップ自体じたい隠蔽いんぺいしたのよ」

わかった? といかけてくる遠坂とおさか
「なるほど……」

「で、はなしもどすけど。その起動きどうしきにちょっかいかけてるのがアインツベルンの人間にんげんだとおもったんだけど、どうやらここはハズレみたいね。
 情報じょうほう十分じゅうぶんしゅはいったけど、せっかくたんだし明日あした午前ごぜんちゅうにもう一度いちど城内きうち調しらべてみましょう」

かった。とりあえず食事しょくじにしよう、はらっちまった」
賛成さんせいです。厨房ちゅうぼうほこりっぽいですがみずはあるようですし、あらえば問題もんだいありません」
「あらセイバー、そういうところもきちんと調しらべてるのね」
 ニヤニヤわら遠坂とおさかに、
「と、当然とうぜんではありませんか! りんやシロウがつつがなくごせるようくばるのもサーヴァントたるわたしの―― り、りん ひ、ひとはなさせておいて全然ぜんぜんいていないというのはどうかと――」

さっさとていってしまった遠坂とおさかって、セイバーもあたふたと部屋へやていく。
「あー、セイバー。あんまり期待きたいするなよ、たいした食材しょくざいなんてってれなかったんだから」

ガ――――――ン

かたまってしまったセイバーのわきとおりすぎ、遠坂とおさか一緒いっしょにさっきの暖炉だんろ部屋へやかった。

就寝しゅうしん交代こうたい見張みはりをしようとったのだが、セイバーは自分じぶん一人ひとりでやるからにんともよくやすんでくださいとってかない。

『ほらほら、セイバーをこまらせないの。アンタはつかれてるみたいだからちゃんとなさい』
 遠坂とおさかもそんなことをってさっさと寝袋ねぶくろはいってしまった。
かったよ。でもしばらくやすんだら見張みは交代こうたいするからな。つかれてるのはセイバーだっておなじなんだから』
 きられたら交代こうたいするということでなんとかセイバーを納得なっとくさせ、寝袋ねぶくろもぐんだ。

やはり、遠坂とおさかとおり、すこつかれていたのかもしれない。おれはすぐにどろのようなねむりのなかんでいった。

くらうみそこかって落下らっかしていくような感覚かんかくなかで。

おれは、ユメをた――。


そこは、一言ひとことってしまえば『地獄じごく』だった。

あたりにたちこめるのはほのおらばっているのはれたやりけただてれたかぶとよろい欠片かけら

無数むすうかばね――たくさんのさった死体したいむねから大量たいりょう出血しゅっけつしている死体したいくびのない死体したいくろコゲの死体したい――あらゆるころされかたをした、いちめん死体したいやまやまやま

10ねんまえ火災かさいのときの死体したいは、かただったらこれらよりもなおひどかったかもしれない。しかし、まえのコレは、ケタがちがう。一体いったい何人なんにんんだのか。かずひゃくではきくまい。かずせんもの人間にんげんが、バラバラになったり、げたむくろをさらしていた。

そのかばねはらなかに――おれっていた。

すで身体しんたいはズタズタ。よくまあっていられるものだとわがながら感心かんしんする。

それも無理むりからぬこと。これだけの相手あいててきまわし、たったすうじゅうにん手勢てぜいころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころしてころくしたのだ。

さり、かたけ、あしれていた。はらにはよろい破片はへんさり、かがやだてっていた左腕さわんなどとうのむかしかれている。
 たったひとつのけんにぎめる右腕うわんも、もはやうごきはしない。ゆびはほとんどれ、一度いちどけんはなしたら二度にどにぎることはできないだろう。いやひろえるかどうかすらあやしいものだ。

だが、たおれなかった。たおれるわけにはいかなかった。けた空気くうき肺腑はいふいても、れたほねにくやぶろうとも、かならかえってくるはずのともつづけた。

それに――
 明滅めいめつする視界しかいにたった一人ひとりつめるは憎悪ぞうお化身けしん。そのうつくしいかお憤怒ふんぬゆがみ、ひとみすで正気しょうきうしなっている。その姿すがたは、――

『――あ』
 ドクン 心臓しんぞうがはねる。

ほのおなかつ、まみれのしろいドレス。しゅまるブロンドのかみ両手りょうて見覚みおぼえのあるだいけんっているが、おんな細腕ほそうでにはおもいのか、さき地面じめんいたまま。その姿すがたは、さながら復讐ふくしゅうという絵画かいがのような、狂気きょうきいかりにちたいちまい風景ふうけいだった。

――そう、おれは、ほのお復讐ふくしゅうおにはな凄絶せいぜつうつくしさにこおりついたのだ。

だって、そのおにかおは、そんなにまで狂気きょうきをはらみ、いがんだ形相ぎょうそうにもかかわらず、なおぞっとするほどうつくしく、そして――
――ている――
ときうごした。

鬼女きじょ咆哮ほうこうともびかかる。両手りょうてったそのだいけんむねかまえ、両手りょうてでしっかり固定こていして、ぶつかるようにおれむねめがけ――

だが、稚拙ちせつだった。いきおいにまかせただけの愚鈍ぐどん突進とっしん。たとえ決死けっし覚悟かくごがあったとしても、すでにこの身体しんたいの9わりんでいようとも、戦士せんしとしての経験けいけんははっきりと、つぎ瞬間しゅんかんぷたつにされあかはならす鬼女きじょ姿すがたてとっていた。

――そのとき、おもったのはどのようなことだったのか。

まよいは、戦士せんし一瞬いっしゅんすきあたえ、そして――
むねとおけていくあつかたまり。それはくちからあふれだし、なみだれたおんなかおあかめた。 

おんなひとみ正気しょうきもどる。そのひとみは、ずっとずっとむかし、まだみなわらっていられた、あのころの――

――そして、おれは、右手みぎてけん無造作むぞうさ彼女かのじょむねとおす。

くずちるその身体しんたい紅蓮ぐれんしたからめとられ、やがていた憎悪ぞうおとともに、すべてをくすほのおによってきよめられるだろう。  

むねきたてられたけんこうともせずに、戦士せんしっている。そのは―――やさしくわらっていた。  
それは、ひとつの結末けつまつ

おのれをもたらした一瞬いっしゅんまよいをもれた。

それでもいい。

それがおれかただったのだから。

そのかたに、ほこりをもっていられたから。  
――ただひとつ、残念ざんねんなことは。  最期さいごに、とも姿すがたをもう一度いちど――
  だから。たおれゆくその視界しかいはしに、必死ひっしでこちらにけてるその姿すがたたとき、おもったのだ。  
――ああ、すくわれた――

むねが、うずく。

おれが、あの英雄えいゆうエミヤが生涯しょうがいなかったであろうそのおもい。理想りそうもとめ、理想りそう裏切うらぎられつづけ、辿たどいたびたけんおかで、ひと最期さいごむかえた、あか騎士きし記憶きおく

まよいはなく、しかしすくいもなく、それでもいいと、

しんじたものをしんき、一人ひとりでもおおくのひとすくおうと、足掻あがつづけたそのおとこは――
  いつしか磨耗まもうくし、みずからのいた理想りそうを、ころそうと――

ぽたぽたと、かおになにかがちてくる。
『    !!』
 
もう、みみはなにもこえない。かす視界しかいなか最期さいごに、ともかおけようとおもった。
『    !!』
『                               』
 たして、こえているだろうか。つたえたいことは、つたわっただろうか。

そっと、じる。もうおものこすことはなにもない。おもとおりにき、最期さいごねがいもききとどけられた。

戦士せんしは、意識いしきなかでそっとおもう。
すべての、永遠えいえんなるものたちに祝福しゅくふくを―――』

「―――――――――――――っ!!」
 きた。身体しんたいはベットリとあせれている。
「――シロウ? きたのですか?」
 うすぼんやりしたロウソクのひかりなか、セイバーがちあがったのがえた。

「あ……ああ。そろそろ交代こうたいしようか。いまなんだ?」
「4時半じはんまわったところです。夜明よあけまではもうすこしあるかと。……わたしなら大丈夫だいじょうぶですから、シロウはもうすこやすんでいてください」
「そういうわけにいくか。ちゃんときたら交代こうたいって約束やくそくだっただろ。……それにあんまりいい夢見ゆめみじゃなかったから、いまからまた寝付ねつけるかからない」

夢見ゆめみわるかったのですか。……それは、その、10ねんまえの……?」
「あ、いや、そうじゃないんだ。そうじゃないんだけど……」
「……?」

そうだ。あれはちがう、きっとどこかの戦争せんそう風景ふうけいだ。たくさんの兵士へいしんでいた。たくさんのながれていた。おおいつくすかばねはらなかに、おれは――

――え? なんで、おれてたことになってんだ――?
 おれはあんな光景こうけいらない。たりまえだ。おもたるようなことだってない。ただ、なぜかたような経験けいけんがあるようながしてならないのはなんでだろう――?

「――あ」
 おもした。セイバーだ。セイバーと契約けいやくしていたとき、いちだけ彼女かのじょゆめのようなものをたことがある。

だけど、あれは、サーヴァントと契約けいやくによるつながりがあったからだっていた。遠坂とおさかもアーチャーの光景こうけいゆめたことがあるとっていたがする。実際じっさい、セイバーとの契約けいやくれてしまってからは、いちもそんなゆめたことはない。

もちろんいまも、サーヴァントと契約けいやくしてるってわけではないんだし。
「ま、今度こんどはセイバーがゆっくりやすんでくれ。なにかあったらすぐこすからさ」
「……それではお言葉ことばあまえさせていただきます。もう一番いちばん危険きけん時刻じこくぎましたが、ここはアインツベルンのしろ亡霊ぼうれいるいあらわれるかもしれませんのでおをつけて」

「ぼ……亡霊ぼうれいか。う、うん、かった。安心あんしんしてやすんでくれ」
 くそう。こ……こわくなんかないぞ。

もぞもぞと寝袋ねぶくろもぐりこむセイバーと、おくですやすや寝息ねいきてている遠坂とおさかをちょっとる。

よるけるまであとすこし。明日あしたは――なにか進展しんてんはあるだろうか。

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