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Fate/dragon’s dream

Fate/dragon’s dream

叙事詩じょじし

ニーベルンゲンのうたにおいて、ジークフリートはニーデルラントというくに王子おうじとしてまれている。ちちはジークムント、はははジークリンデ。

かれは、わかいころにりゅう退治たいじしてその全身ぜんしんび、不死ふしとなった。そしてりゅうまもっていたニーベルンゲンのたからにし、莫大ばくだいざいをもっていた。武勇ぶゆうすぐれたこのうつくしい勇者ゆうしゃは、ブルグントというくに王女おうじょ、クリームヒルトにこいをする。

かれはブルグントへ出向でむき、客人きゃくじんとしてむかえられる。ブルグントのおうグンテル、おうおとうとゲールノート、いもうとのクリームヒルト、すえおとうとギーゼルヘルら王族おうぞくと、重臣じゅうしんハーゲン、そのおとうとダンクワルトらは、ジークフリートを丁重ていちょうにもてなした。

設定せっていからしてずいぶんちがうんだな」
りゅうごろしについてもほとんどれられていないみたいですね」
「ええ、このはなし一応いちおうジークフリートがてるけど、主役しゅやくはブルグントの面々めんめんよ。かってるとおもうけど、ブルグントっていうのはサガでいうギューキ一族いちぞくのことね」
「そっか、魔術まじゅつがないから、わすやくっていうのもないんだ」

「それどころか、ジークフリートは最初さいしょからクリームヒルトねらいなの。一応いちおうむかしにブリュンヒルドとはってるんだけど、婚約こんやくなんかしてない。まあ、ジークフリートはブリュンヒルドにニーベルンゲンの指輪ゆびわわたしてるし、ブリュンヒルドもジークフリートのことをにくからずおもってるんだけどね」

「なるほど。キリストきょう倫理りんりかんにしたがって直接ちょくせつ対決たいけつけたわけですか」
「もう、つんけんしないの」
「そういえば、ハーゲンってサガではおうおとうとだよな」
「そうよ。うたではブルグントの重臣じゅうしんにして、このくに最強さいきょうもうしょう。クールなダークヒーローってとこかしら」

ジークフリートはブルグントのくにのために援軍えんぐんとして戦争せんそう参加さんかしたり、さまざまな武芸ぶげい試合しあいたりして、その存在そんざいをアピールしていった。

そして、ついにジークフリートはクリームヒルトとのお目通めどおりがかなう。一方いっぽう、ブルグントおうグンテルは、イースランド(アイスランド)の女王じょおうブリュンヒルドにこいをした。

そこでジークフリートは、グンテルの求婚きゅうこんたびについていき、おう女王じょおうとを結婚けっこんさせることにわり、クリームヒルトをもらいうけたいとちかける。おうこころよ承諾しょうだくし、ジークフリートとハーゲンをつれて、航海こうかいした。

ブリュンヒルドは非常ひじょう勇壮ゆうそう女性じょせいで、くにおとずれた客人きゃくじん槍投やりなげ、投石とうせき幅跳はばとびなどの競技きょうぎちかけ、これに客人きゃくじんけるといのちっていた。

ジークフリートはニーベルンゲンのたからひとつ「かくみの」を使つかい、姿すがたかくしてグンテルをたすけ、ブリュンヒルドをかす。これによって、ブリュンヒルドはしぶしぶ、グンテルと結婚けっこんすることになってしまった。

「――まったく。グンテルはもちろんのこと、ぶん不相応ふそうおう女性じょせいることに協力きょうりょくするジークフリートもなさけない」
「どうどう、きなさいってセイバー」
「これではブリュンヒルドがあんまりではありませんか」

「そういえば、キリストきょう世界せかいってことはブリュンヒルドもたたかえ乙女おとめじゃないんだよな」
「そう。でも、その性格せいかくだけはのこっているのよね。やったらつよいんだけど、処女しょじょうばわれると途端とたん普通ふつう女性じょせいになっちゃうの」
「しょ、しょしょ……」
「……」
「あら? どしたのかしら~にんとも。かおよ」

いちぎょうは、ブリュンヒルドをれ、ラインのほとりのブルグントにかえってきた。二人ふたり結婚けっこんさせることに成功せいこうしたわけなので、ジークフリートもそのこうによりクリームヒルトをめとることになる。

くみ結婚式けっこんしきのち、またしても事件じけんこった。ブリュンヒルドがグンテルにいだかれることにはげしく抵抗ていこうし、グンテルはほとほといてしまう。

そこで、ジークフリートはグンテルをよそおってブリュンヒルドの寝室しんしつはいり、彼女かのじょさえる。おとなしくなったところで、かれはグンテルと交代こうたいし、それによってグンテルはブリュンヒルドとゆかともにすることができた。

それ以来いらい、ブリュンヒルドの武勇ぶゆうえたという。このときジークフリートは、むかしブリュンヒルドをおとずれたときに彼女かのじょあたえていた指輪ゆびわと、彼女かのじょおびとをぬすしていた。

「……」
「……なんという」
「……ま、同感どうかんね」

そしてクリームヒルトとブリュンヒルドのあいだ口論こうろんこる。クリームヒルトは自分じぶんおっとほうすぐれているとって、グンテルとジークフリートの秘密ひみつ暴露ばくろする。まず彼女かのじょ指輪ゆびわせたが、ブリュンヒルドは機転きてんかせ、それはむかしぬすまれたものだとう。しかしつづいてクリームヒルトはおびせた。これによってジークフリートの容疑ようぎ決定的けっていてきになった。

ほこたかいブリュンヒルドはなげくが、ハーゲンがおうにジークフリートをころすことを進言しんげんする。おうだいおんあるジークフリートを殺害さつがいすることは名誉めいよかかわると反対はんたいするが、結局けっきょくハーゲンにられるかたちになった。

ハーゲンはクリームヒルトにジークフリートの弱点じゃくてんく。クリームヒルトはハーゲンを信頼しんらいしていたため、背中せなか急所きゅうしょのことをしゃべってしまった。そこでハーゲンはジークフリートをりのためにもりさそし、かれいずみみずんでいる背中せなかやりけた。やりねらちがわずジークフリートの急所きゅうしょつらぬき、いのちうばう。

「…………」
背中せなかからの不意打ふいうちか……」
「この物語ものがたりはここから、ハーゲンとクリームヒルトの確執かくしつ中心ちゅうしんになっていくのね」

ハーゲンはわるびれることなく、かなしみになげくクリームヒルトのまえった。彼女かのじょ復讐ふくしゅうねんられるも、ハーゲンの権勢けんせいつよくどうすることもできない。

そのうえハーゲンは、ジークフリートの遺産いさんであり、クリームヒルトが相続そうぞくするはずのニーベルンゲンの財宝ざいほうすべげ、わざわいのもとになるからと、ラインかわしずめてしまった。クリームヒルトのハーゲンにたいするにくしみはつの一方いっぽうだった。

そんなとき、寡婦かふとなったクリームヒルトに、フンぞくおうエッツェルが求婚きゅうこんしてきた。クリームヒルトはジークフリートの敵討かたきうちのためだけにエッツェルと結婚けっこんし、その権勢けんせいれようとたくらむ。  みずからの権勢けんせいれたクリームヒルトは復讐ふくしゅうしんかくしておうをだまし、ブルグントの一族いちぞくをフンぞくくにへとまねいた。

クリームヒルトの陰謀いんぼう気付きづいていたハーゲンは、けばかならずクリームヒルトは復讐ふくしゅうしようとするだろうとっていさめるが、おうたちは招待しょうたいおうじることにめてしまう。  ハーゲンは親友しんゆう宮廷きゅうてい楽人がくじんフォルカーと、おとうとのダンクワルトらとともに、すうせん手勢てぜいをまとめ、フンぞくくにでの戦闘せんとうそなえておうしたがった。

宮廷きゅうてい楽人がくじん またみょう人物じんぶつれてくのですね」
「ところがどっこい、このフォルカーっていうのがとんでもないつよさなのよね。ニーベルンゲンのうたには、ハーゲンの親友しんゆうかれよりつよく、荒々あらあらしい戦士せんしってかれてるわ」

宮廷きゅうてい楽人がくじんっていうと、音楽おんがくをやるひとなんじゃないのか?」
「そう、ヴァイオリンの祖先そせんにあたるフィーデルって楽器がっき名手めいしゅなの。そのくせ戦闘せんとうにもひいでている戦士せんしだっていうのよ。普通ふつうそんなことありる?」

「……それ以前いぜんに、楽人がくじん詩人しじんなど、芸人げいにんのような身分みぶんのものが近衛このえちか役職やくしょくけるはずはないのですが」

「でしょ? それにフォルカーはひとたちとちがって、それまでのニーベルンゲン関係かんけい物語ものがたり前身ぜんしんがないのよ。ヴォルスンガ・サガで該当がいとうするような人物じんぶつ見当みあたらないでしょう?  一言ひとことってしまえば、なぞひとなのよね。一説いっせつには、このニーベルンゲンのうた編纂へんさんした詩人しじんが、自分じぶん分身ぶんしんとして創作そうさくしたともわれてるわ」

「なるほど」

いちぎょうはこうしてエッツェルのくにかう。たび途中とちゅう、ハーゲンは氾濫はんらんしていたドナウかわわたるため、かわせいたちとはなしをした。そのときかれは『ブルグントの一族いちぞく司祭しさいのぞだれ一人ひとりとしてくにかえくことができないだろう』と予言よげんされる。

その言葉ことばはらてたハーゲンは、ふねかわわた途中とちゅう同行どうこうしていた司祭しさいとす。司祭しさいはほうほうのからだきしがり、ブルグントへとかえっていった。それをたハーゲンは、あの予言よげん成就じょうじゅされるであろうとなげく。

紆余曲折うよきょくせつすえ、エッツェルのくに辿たどいたブルグント一族いちぞくをエッツェルはこころよむかえた。かれをはじめとするフンぞくは、クリームヒルトの復讐ふくしゅうまれ、おおくのいのちらすことになった。クリームヒルトはハーゲンに、自分じぶんとエッツェルとのあいだまれた子供こどもころさせる。

そしてこれを発端ほったんに、ブルグントぜい敵国てきこく只中ただなか包囲ほういされたかたちで絶望ぜつぼうてき戦争せんそうをはじめることになる。

「――ハーゲンは、もうきてかえることはないとっていたんだよな」
「そうね。けど、かれいちあきらめたりするそぶりはせなかった」

ハーゲンとフォルカーは背中合せなかあわせでたたかい、獅子奮迅ししふんじんはたらきをする。かれもうしょうひきいられたブルグントぜいは、たったのすうひゃくにんでフンぞくぜいをほとんど壊滅かいめつちかいところまでんだという。

しかし、ブルグント一族いちぞくは、たび途中とちゅう世話せわになったフンぞくのリュエデゲール辺境へんきょうはくたたかわなければならなくなってしまった。

かれはブルグントに親睦しんぼくしめし、ブルグントおうおとうとギーゼルヘルにむすめとつがせ、最後さいごたたかいにさいしてまで相手あいてしんからのおくものをするという、大変たいへん高潔こうけつ人物じんぶつであった。

そのリュエデゲール辺境へんきょうはくころしたことが、趨勢すうせい決定けっていする。  リュエデゲール辺境へんきょうはくおなじく世話せわになっていたひがしゴートぞくはそれまで中立ちゅうりつたもっていたが、恩人おんじん殺害さつがいを以ってはんブルグントとして参戦さんせんした。

混戦こんせんのさなか、フォルカーはひがしゴートぞくろうしょうヒルデブラントにたれる。ともにせんとした親友しんゆうにになげくハーゲンもとうとうらえられ、クリームヒルトの面前めんぜんされた。

クリームヒルトはニーベルンゲンのたからのありかをたずねた。しかし、がんとしてくちらないハーゲンは、クリームヒルトがろしたバルムンク(グラム)によって、くびをはねられるのである。 それをていたヒルデブラントはった。

「あの勇士ゆうしたちとわしらはたたかったが、かれらはてんれな戦士せんしであった。その戦士せんしおんなでかくも無残むざんころしてのけるとは! ハーゲンよ、わしがそなたのかたきってやる!
 ヒルデブラントはいかりにえてクリームヒルトを断罪だんざいし、そのまま彼女かのじょせる。

こうして、ニーベルンゲンののろいの財宝ざいほうは、かかわったおおくのものたちに破滅はめつをもたらし、ラインの河底かわぞこだれにもられることなくねむりについたのである――。

これぞニーベルンゲンのわざわいである――ってね」
「……おそろしい結末けつまつですね。結局けっきょく物語ものがたり主要しゅよう人物じんぶつがほぼ全員ぜんいんえるのですか」
「なんか、おっそろしいなクリームヒルトって」
 率直そっちょく感想かんそうらす。あいするひと復讐ふくしゅうのためとはいえ、けた兄弟きょうだいをはじめ自分じぶん一族いちぞく全員ぜんいんころすなんて……。

結局けっきょくニーベルンゲンのうたでは、ジークフリートは脇役わきやくにすぎないのよね。この物語ものがたり中心ちゅうしんは、ハーゲンとクリームヒルトの確執かくしつよ。ハーゲンはなぜくにおんかんじているジークフリートをころしたとおもう?
 ハーゲン自身じしんかれたかっていた。最初さいしょにジークフリートを歓迎かんげいするようにったのもハーゲンだし、グンテルおう求婚きゅうこんたびるときにジークフリートをれてくよう助言じょげんしたのもかれよ。
 でも、ジークフリートはブリュンヒルドの指輪ゆびわどころかおびまでしてクリームヒルトにわたした。ってはいけない秘密ひみつらしてしまった。このままではほこたかいブリュンヒルドは自殺じさつするかもしれない。実際じっさい、サガのほうでは自殺じさつしてるしね。
 だからハーゲンは、おう夫婦ふうふのためにジークフリートをころすと宣言せんげんした。だって、自分じぶんつかえる相手あいてはグンテルおうとブリュンヒルドであって、クリームヒルトでもなければジークフリートでもないもの。王妃おうひ名誉めいよのため、かれ騎士きし忠義ちゅうぎったのよ」

たしかに。かれくに重臣じゅうしんとして、しなければならないことをしただけです。しかし……」

「そう。ハーゲンのつみはジークフリートをころしたことじゃない。かれころされても仕方しかたないことをしでかしたんだから。
 ――ハーゲンは、ジークフリートをころすために、自分じぶんあつ信頼しんらいせていたクリームヒルトをだまし、おっと弱点じゃくてんはなさせた。目的もくてきのために、手段しゅだんえらばなかったのよ。クリームヒルトは信頼しんらい裏切うらぎられた。それが彼女かのじょ復讐ふくしゅう戦争せんそうのきっかけ。でも、国王こくおうはじめブルグントの騎士きしたちはみな、ハーゲンの真意しんいっていた。
 だから、ハーゲンいちにんすことはしなかったの。もし、クリームヒルトの要求ようきゅうどおりハーゲンいちにんせば、一族いちぞく滅亡めつぼうめられたかもしれないのにね」

「……」

騎士きし論理ろんりおとこ論理ろんり……ハーゲンをとっうごかしたものは、どこまでもくにおもくす、騎士きし忠節ちゅうせつたましいだ。そのためには、一人ひとり女性じょせいおもいなど、みにじってもかまわない――。

そして、あいするひとうばい、自分じぶん信頼しんらい裏切うらぎった人間にんげん復讐ふくしゅうせんとするクリームヒルトは、つま倫理りんり女性じょせい論理ろんりしたがってうごいたのだ。そのためならば、自分じぶん一族いちぞくもろとも、くにほろぼすことさえいとわない――。

だが、その行為こういがキリストのおしえにゆるされることはなかった。だからクリームヒルトは、最後さいごにはヒルデブラントの誅殺ちゅうさつされたのだ。

遠坂とおさかは、ふっとどこかさびしげに微笑ほほえむ。
「クリームヒルトってすっごい自分勝手じぶんがってだけど、おんならしいじゃない。……わたしね、ああいうかたに、どこかあこがれるのかもしれないな」

……なにってんだ。まえだって十分じゅうぶん自分勝手じぶんがってじゃないか。
それに――
そう、それに――
ひじりはい戦争せんそうでアーチャーに裏切うらぎられたとき、墓地ぼちせたあのなみだは――

「……わたしは」
 
セイバーがつづけた。

わたしは、やりかたこそ最善さいぜんとはえないかもしれませんが、ハーゲンの気持きもちはよくかります。ここでかれが――ジークフリートをころそうと決意けついしたのは当然とうぜんだ。ジークフリートはグンテルおうのブリュンヒルドへの求婚きゅうこん旅行りょこう真相しんそうっている。すで絶対ぜったいにもらしてはいけないはずの秘密ひみつ一端いったんあばかれ、いまばくだんかかえた状態じょうたい――ヘタをすれば」

――セイバーは、まるでかつてみずからのりかかった悪夢あくむでもおもしているかのように、ギリ、と奥歯おくばんだ。

「――宮廷きゅうてい崩壊ほうかいにまで発展はってんしないともかぎりません。ハーゲンは、騎士きしとしてすべきことをした。むしろその英断えいだんめ、感謝かんしゃするべきです。その結末けつまつ一族いちぞく滅亡めつぼうだったとしても、かれはきっと――」

そこでくちめる。
「……わたしだってもちろんからなくはないわよ。ま、セイバーほどじゃないけどね。なんとなくよなんとなく。――クリームヒルトってもしかしたら、ハーゲンに、なにかしら思慕しぼねんがあったのかもしれないわね」

そうかもしれない。彼女かのじょ復讐ふくしゅうしんは、ひょっとしたら彼女かのじょが、ハーゲンにちいさなおもいをいていたから、なおつよえあがったのではないだろうか――。

「……なあ、はなしもどしていいかな」
 ちょっとしずんできてしまった空気くうきはらうように、おれった。

「あ、ごめんなさい。そうよね、いま感想かんそうかいなんてやってる場合ばあいじゃないわね。で、ジークフリートをハーゲンがころした状況じょうきょうなんだけど」
無理むりですね」
 
あっさりきっぱりセイバーがう。
「やっぱり?」

「はい。いくら不意打ふいうちとはってもその状況じょうきょうではまず気付きづくでしょう。だいいち相手あいてりゅうでさえくほど奇襲きしゅう上手うまい。自分じぶんがむざむざっかかるとはおもえません」

「ハーゲンが魔術まじゅつ使つかったって可能かのうせいは……あ、キリスト社会しゃかいだからないのか」

一概いちがいにそうともいきれないわ。たんにそういう世界せかいかんかれてるってだけだし。それにそもそもジークフリートには魔術まじゅつによる防御ぼうぎょがあるし、ハーゲンもかわ精霊せいれい交信こうしんしたりしてるもの。ハーゲンはべつ伝承でんしょうでは小人こどもだか妖精ようせいだかのいてるってわれてるから、その影響えいきょうでしょうけど」

「しかし、あれほどの英雄えいゆうみずんでいて油断ゆだんしきっていたとはかんがえにくいのですが」

「そうなのよね……。じゃあ、結局けっきょくハーゲンはどうやってジークフリートをころしたの?  伝承でんしょうはともかく、わたしたちまえあらわれたジークフリートは不死ふしだった。とすれば、知恵ちえおくれのきょう戦士せんしいきおいにまかせてたおせるような相手あいてじゃない。ハーゲンは策士さくしとしても有能ゆうのうだったから、きっとなにか奇策きさくろうしたんだとおもうけど」

「うーん……つまり、りゅうのろいよりも、ニーベルンゲンののろいのほうがつよかったわけだよな」

 りゅうごろしの英雄えいゆうりゅうによってまもられ、しかも短命たんめいでありかつ不死ふしである。かんがえてみれば矛盾むじゅんもいいところだ。りゅうのろいがかかってるうちは戦闘せんとうぬことはまずないんだから、ニーベルンゲンののろいがかれころすには、どうにかしてまずりゅうのろいをはらうしかない。ということは、

「なにかりゅう魔力まりょくかいのろいする方法ほうほうでもあるのか、それともゴリ押ごりおしでりゅう魔力まりょく上回うわまわるか、よね」

「それしかかんがえられないな。それってつまり、セイバーのたい魔力まりょく防壁ぼうへきを、魔術まじゅつやぶれるかどうかってこととてるんじゃないか? ジークフリートの場合ばあい魔力まりょくだけじゃなくて物理ぶつり攻撃こうげきにも効果こうかがあるみたいだけど」

「ちなみに、セイバーのたい魔力まりょくわたしがメチャクチャ高価こうか宝石ほうせきにどれだけ魔力まりょくんでも頑張がんばっても、突破とっぱ不可能ふかのうなレベルよ。……あのペンダントの魔力まりょくだったらからないけど」
「でも、ジークフリートがグラムでエクスカリバーの斬撃ざんげきったのだって、直撃ちょくげきすればただではまないからだろ?」

「――いえ、おそらくそれは、わたし魔力まりょくりゅうしゅのものだからでしょう。幻想げんそうかてとするりゅうしゅ魔力まりょくは、おなりゅうしゅほうよろいふせぎづらいのではないでしょうか。そうでもかんがえなければ、弱体じゃくたいしきったせいけん攻撃こうげきをグラムまでしてふせいだ理由りゆうかりません」

「え、ってことは」

「――あのおとこりゅうごろしであるため、そもそもほうよろいたよらずりゅう魔力まりょくころします。エクスカリバーはそれだけではふせれないというなら、いまったようにグラムを使つかえばいい。……グラムをふうじないかぎり、状況じょうきょうわりません

「そうか……」
「セイバー、『ほうがい』って?」
 セイバーがくちひらくよりはやく、師匠ししょうわりにこたえた。

魔力まりょくによるバリアーのことよ。セイバーのはたい魔力まりょくだからレジスト魔術まじゅつったほうがいいけど、ジークフリートのは物理ぶつり魔力まりょく両方りょうほう効果こうかがあるうえ本人ほんにん意志いし魔力まりょく無関係むかんけい存在そんざいするみたいだから、ほうよろってったほうがたしかにいいかもしれないわね」

 遠坂とおさかはそううと、うーんとびをしながらつづける。
「……けっこういろいろかったけど、結局けっきょくしか……」
「……いや、はある。可能かのうせいはすごくひくいけど」
 おれった。
「え?」

士郎しろう、ほんと?」

あることはある。それもふたつ。ただしどちらも可能かのうせいはとてもひくい。
「まずひとつ。ほうよろいがもしもあくまで『のろい』だとするなら、それは一種いっしゅ契約けいやくだろ。おぼえてないかセイバー。ひじりはい戦争せんそうのときにおまえもやられた強力きょうりょくかいのろい――」
「……!! ルールブレイカー!!

「そう、キャスターが使つかってた、あらゆる魔力まりょくかいのろいする契約けいやくやぶりの短剣たんけんあれを投影とうえいして使つかえばりゅうのろいをけるかもしれないし、ダメだとしてもマスターとのつながりをてる」
「なるほど……しかし」

そう。どうやってヤツにちかづくか、それが問題もんだいだ。それに、もしおれ使つかたから能力のうりょくよりりゅうのろいが上回うわまわっていたら意味いみがない。くわえて、成功せいこうしても失敗しっぱいしてもそこはヤツの攻撃こうげき範囲はんいない。そのうえチャンスはいちきり。

きびしいわね……もうひとつは?」
ニーベルンゲンののろいは所持しょじしゃ運勢うんせい極端きょくたんげる。つまり、
運命うんめいせる。ということは、ジークフリートは呪詛じゅそふくんだ攻撃こうげきけられない。ほら、あっただろ。因果いんが逆転ぎゃくてんさせてかなら心臓しんぞう命中めいちゅうするってやりが」

「――ゲイボルクですね――。そうか、たしかにあれをけるには、やりのろいが発動はつどうするまえ運命うんめいえるつよ幸運こううん必要ひつようです。ニーベルンゲンののろいは、やり呪詛じゅそをむしろ自分じぶんからせるでしょう。――ですが」

「ああ、こっちはりゅうほうよろいこうからちからくらべだ。とうになじゃないおれちからで、しかも投影とうえいしたたから突破とっぱできるかどうかはあやしい」
「あまり確実かくじつせいはありませんね……」
「まあ、でも昨夜さくや時点じてんよりかせんばいはマシってかんじじゃない? 上出来じょうでき上出来じょうでき
 なにがうれしいのか、にっこりゆびててわら遠坂とおさか

「なんか楽観らっかんてきだな。結局けっきょくつぎったときどうするんだよ。まだ具体ぐたいてき打開だかいさくができたわけじゃないじゃないか」

「まあ、そうなんだけどね。机上きじょうろんだけじゃどうしようもないこともあるし、こっちはできるだけ方針ほうしん煮詰につめておくぐらいしかできないわ。それともまもるみやくん、ほかにまだなにはあるの?」
「……いや、とくには」

「でしょ? 可能かのうせいひくくても、ふたつもあるなら上出来じょうできよ。ひじりはい戦争せんそうのときなんて、もっとどうしようもない状況じょうきょうだらけだったじゃない」

「それもそうですね。たしかに、あのころとくらべればまだやりようはあるようにおもえます。わたし攻撃こうげきでは決定けっていになりませんが、グラムをふうじられればエクスカリバーで勝負しょうぶけっするでしょうし」

「でも、士郎しろうのいうとおり絶対ぜったいてる!っていう保証ほしょうはないから、つぎ行動こうどううつしましょう。丁度ちょうどもうおひる区切くぎりもいいし、ごはんべたらそのままアインツベルンじょう調査ちょうさ。いい?」
 うなずおれとセイバー。
多分たぶんしろ一泊いっぱくすることになるとおもうから。一応いちおうその準備じゅんびだけしておいて」
「はい、了解りょうかいですりん

「あ、セイバー」
 おれがりながらう。
「なんでしょう、シロウ?」
「もし、時間じかんがあったら花屋はなや花束はなたばってきておいてくれないか? 準備じゅんびおれがしておくからさ」
「――かりました。早速さっそくってきます」
 セイバーはそうって微笑ほほえむと、居間いまていった。

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