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Fate/dragon’s dream

Fate/dragon’s dream

伝承でんしょう

ヴォルスンガ・サガ。それは、ヴォルスングという勇士ゆうし一族いちぞく物語ものがたり

ヴォルスングは、貴族きぞく魔術まじゅつかみオーディンの子孫しそんとしてせいけた。 かれつまはフリョーズといい、せん乙女おとめ(ヴァルキューレ)でありながらきょじんむすめだった。

そのあいだに、11にん子供こどもまれた。長男ちょうなんをジークムントといい、長女ちょうじょをシグニーとう、双子ふたご兄妹きょうだいであった。シグニーはうつくしく、また、巨人きょじんぞくゆえか、つよ予言よげんちからっていた。彼女かのじょは、一族いちぞく辿たどおそろしい運命うんめいはじめからっていたという。

そんなシグニーを、ヴォルスング一族いちぞくなが対立たいりつしてきたシゲイルおうめとりたいとった。ちちヴォルスングは、長年ながねん対立たいりつがそれで解消かいしょうされるならと、そのはなしける。シグニーは、すすまなかったがちちいつけにしたがった。

婚礼こんれいせき、どこからともなくあらわれた片目かため老人ろうじんが、ヴォルスングかんはしらとなっているりんごの一本いっぽんけんしてう。

「このけんいてみよ。けたものに、このけんげる」

ヴォルスングも、シゲイルも、全員ぜんいんためしたが、だれ一人ひとりとしてけんけなかった。しかし、最後さいごいどんだジークムントは、あっけなくけんいてしまう。

「ワシがそのけんさんばいおもさの黄金おうごんろう」
 シゲイルがったが、ジークムントはそれをこばむ。シゲイルはうらみにおもいながら、感情かんじょうかくし、今度こんど自分じぶんがヴォルスングの一族いちぞくしろ招待しょうたいしようといった。

しかし――それは卑劣ひれつわなだった。  ヴォルスング一族いちぞくは、ジークムントとシグニーをのこし、シゲイルにころされてしまったのである。

二人ふたりはシゲイルに復讐ふくしゅうちかい、純粋じゅんすいなヴォルスングのるため、兄妹きょうだいまじわり、した。 そうしてまれたシンフィヨトリという息子むすことともに、ジークムントはシゲイルをころそうとする。いちめにされかかるも、くちをふさぐ大岩おおいわかみけんぷたつにして脱出だっしゅつし、ついににんはシゲイルをころす。

――しかしシグニーは、いちおっととなったひとって、シゲイルのかんつつほのおなかえていった。

その、さまざまな紆余曲折うよきょくせつすえ、ジークムントはリュングヴィおうと、ヒヨルディースというむすめけてあらそった。その戦争せんそうのさなか、突如とつじょ戦場せんじょうやりった片目かためおとこあらわれ、ジークムントのかみけん破壊はかいしてしまった。

このおとここそ、ヴォルスングかみけんあたえたオーディンであったのだ。  なぜオーディンはジークムントからみずかあたえたけんうばったのか……。かれ宮殿きゅうでんヴァルハラにジークムントをぶためだったのか、それとも、近親きんしん相姦そうかんという禁忌きんきおかしたものにかみ々の未来みらい栄光えいこうまかせるわけにはいかなかったからなのか。

――その真意しんいさだかではない。ジークムントはかみちょうあかしたるけんうしない、てきたおれる。だが、このときすでにヒヨルディースのおなかには子供こどもがいた。その子供こどもがジークフリートである。

「――ジークフリート……。かみ巨人きょじん英雄えいゆう……」
かれ冒険ぼうけんはじまるまえに、もうひとつだけエピソードがあるんだ」

はなし天界てんかいぶ。かみ々の世界せかいではある騒動そうどうきていた。オーディン、ロキ、ヘーニルのさんにんかみが、巨人きょじんぞく一人ひとりあやまってころしてしまい、賠償ばいしょうせまられたのである。

オーディンはロキに黄金おうごんつけてくるようにいつけた。ロキはたきかくれていた小人こどもアンドヴァリをらえ、かれかくしていた財宝ざいほう全部ぜんぶげてしまった。

はらてた小人こどもは、「この黄金おうごんにしたものは、みなえる運命うんめいとなる」というのろいをかける。それがラインの黄金おうごん……のろわれたニーベルンゲンのたから誕生たんじょうだった。

のろわれたたから賠償ばいしょうとしておくられた巨人きょじんいえを、早速さっそく悲劇ひげきおそった。長兄ちょうけいファフニールがちちころして黄金おうごんひとめにし、りゅう姿すがたえてまもはじめたのだ。このとき、それをしがるもせなかったのが、おとうとのレギン――ジークフリートの養父ようふである。

レギンはりゅうとなったあにまも黄金おうごんるために、破壊はかいされたジークフリートのちちけんきたなおし、かれあたえた。いままでレギンのあたえるけんはジークフリートがみないちりでってしまっていたのだが、このけんきたえあがるやいなや、みずからをきたえた金敷かなしきぷたつにしてしまったという。

こうして、けんグラムは復活ふっかつしたのだ。グラムをにしたジークフリートは、手始てはじめにリュングヴィおうたおしてちち敵討かたきうちをすることをかんがえる。

ははおとうとであるグリーピルというおとこのもとに予言よげんさずかりにおとずれたときかれ自分じぶん短命たんめいであるということをらされるが、 「運命うんめいれよう」と納得なっとくし、むしろ意気軒昂いきけんこうとして敵討かたきうちに出向でむいたという。

リュングヴィをたおし、敵討かたきうちをげたジークフリートは、いよいよりゅう退治たいじおもむく。オーディンの助言じょげん、ファフニールがかわみずみにてきたところをせし、心臓しんぞうけんてたのである。

なんと……たったそれだけで、あの最強さいきょう幻想げんそうしゅたおしたというのですか」
心臓しんぞういちとっきだったっていうはなしよね。そういえば、あのジークフリートも奇襲きしゅう戦法せんぽう得意とくいみたいだったわね」

レギンはりゅう心臓しんぞうをあぶってべさせてくれとジークフリートにたのむが、じつはこのとき、黄金おうごんのためにレギンはかれころしてしまうつもりだった。

加減かげんため心臓しんぞうさわってみたジークフリートは、ゆびについたあぶらとをめとる。そのとき、ジークフリートは突然とつぜん小鳥ことりたちのこえくことができるようになった。

「レギンはジークフリートをころしてしまうつもりなのに、ジークフリートはバカだね」
 
養父ようふ陰謀いんぼうったジークフリートは、いち太刀たちもとねむんでいたレギンをてる――。

「――いくら陰謀いんぼうくわだてていたとはえ、そだてのおんある養父ようふをあっけなくころしてしまうとは――」

「そこがジークフリートのおそろしいところよ。ころならころす。まれながらにして、かれ妥協だきょうらない戦士せんしだった。かざのないつよさ、素朴そぼく豪勇ごうゆう荒々あらあらしい北欧ほくおう戦士せんし気質きしつ英雄えいゆうだったのよ」

レギンをころしたジークフリートは、のろわれたニーベルンゲンのたからすべしゅれ、莫大ばくだいざいる。愛馬あいばグラニとたびはじめたかれは、しばらくしてさかほのおつつまれたやまた。そのやま頂上ちょうじょうで、よろいかためた女性じょせいねむっているのを発見はっけんする。かれよろいくと、女性じょせい目覚めざめた。

彼女かのじょこそがジークフリートの運命うんめいめた女性じょせい――オーディンのいのちそむき、そのとがめ封印ふういんされていたせん乙女おとめ、ブリュンヒルドだった――。

「ブリュンヒルド――」
「オーディンの使役しえきする、戦士せんしたましいはこしゅ……せん乙女おとめ『ヴァルキューレ』の一人ひとりね」
「――――」

ジークフリートとブリュンヒルドはたがいに一目いちもくこいちた。かれはブリュンヒルドのもとかならかえちかいをし、彼女かのじょにニーベルンゲンの指輪ゆびわアンドヴァラナウトをあたえ、たびもどる。

そんなジークフリートに、ラインがわ下流かりゅうおさめていたギューキおう一族いちぞくめた。ギューキの子供こどもたちには、グンテル、ハーゲン、グットルムというさん兄弟きょうだいと、クリームヒルトといううつくしいひめがいた。かれはあの卓絶たくぜつした勇者ゆうしゃを、クリームヒルトの婿むことしてむかえようとしたのだ。

ギューキのつま、グリムヒルドは魔術まじゅつ使つかい、わすやくをジークフリートにませる。これにより、ジークフリートはブリュンヒルドのと、かわしたちかいをわすれ、クリームヒルトと結婚けっこんしてしまう。

「――なんという卑劣ひれつな……! 真実しんじつおもっていた二人ふたり私利しり私欲しよくのためくとは――」
「お、きなさいってセイバー」
「あ……もうわけありません。つい……」
「いいけど……あなた結構けっこう登場とうじょう人物じんぶつ感情かんじょう移入いにゅうするタイプ?」
「セイバーがそんなだと、このさきつづけるのがこわいな」
「い、いえ。――是非ぜひつづけてください、シロウ」

一方いっぽう、クリームヒルトのあにのグンテルは、ブリュンヒルドにこいをしていた。ジークフリートはグンテルとブリュンヒルドを結婚けっこんさせるため、グンテルに姿すがたえ、ブリュンヒルドが結婚けっこん条件じょうけんとしてした試練しれんえてみせる。

グンテルとしてブリュンヒルドから結婚けっこん約束やくそくけたジークフリートはこのとき、かつてブリュンヒルドにあたえたアンドヴァラナウトの指輪ゆびわり、わりにグンテルからの指輪ゆびわおくる。ブリュンヒルドはく、グンテルのつまとなりギューキのしろまることになった。

だが、婚礼こんれいせきでついにジークフリートはブリュンヒルドのを、かつてのちかいをおもす。……しかしかれは、自分じぶんたちにんおそった悲劇ひげき運命うんめいれ、くるしみながらも、さわぐことはなかったという。

「――――」
「……あの……こわいんだけど」
我慢がまんしなさい。――わたし意外いがいおもってるんだから」

あるのこと、クリームヒルトとブリュンヒルドのあいだでいいがこった。どちらがとうといか――おんな同士どうし見栄みえいは、しかしクリームヒルトがついくちすべらせ、ジークフリートとグンテルの秘密ひみつ求婚きゅうこんにまつわるいつわりをしゃべったことで、最悪さいあく悲劇ひげきがねになる。

クリームヒルトは、ジークフリートからけとっていたアンドヴァラナウトの指輪ゆびわせたのだ。 いかくるったブリュンヒルドは、グンテルかジークフリート、どちらかをころすまでおさまらぬとはげしくみだし、ジークフリートにった。ジークフリートはこたえる。

「かつて予言よげんされたように、わたしたちはどちらもながくはきられまい。だがおまえにはきて、グンテルをあいしてほしい。かつてのおもいをもどしてからは、わたしもずっとくるしんできたのだ。おまえげられなかったことに、えてきたのだ」

だが、ブリュンヒルドはう。
ひとつのかんにんおっとはいらぬ――」
「――当然とうぜんでしょう。わすれていたならいざしらず、かれはその運命うんめいえようとしなかった。――なに今更いまさら
 ふん、とセイバーがう。
あら、そう? かれ運命うんめいあらがうことを放棄ほうきしたんじゃなくて、その必要ひつようかんじなかっただけじゃないかしら」
「ちょ、遠坂とおさか
「ではりんは、クリームヒルトのかたつと?」
「まだはなしにはてきてないけどね。サガはともかく、ニーベルンゲンのうたのクリームヒルトはわたしきよ」
「ふ、ふたりともけって。とりあえず最後さいごまではなさせてくれ、もうちょっとなんだから」

ブリュンヒルドはおっとグンテルにった。すべてをうしないたくないならばジークフリートをころせ、と――。

グンテルのおとうと、ハーゲンはそれをめるが、グンテルは知恵ちえおくれのおとうとグットルムの理性りせい魔術まじゅつによってうばい、ジークフリートの寝室しんしつおそわせる。寝込ねこみをおそわれたジークフリートは致命傷ちめいしょうけるが、咄嗟とっさにグラムをけ、グットルムをぷたつにした。

おっと鮮血せんけつのなかでかなしみにさけぶクリームヒルト。その眼前がんぜんで、ブリュンヒルドはわらっていた――。愛憎あいぞうなか、ブリュンヒルドもまた、みずからにたてて、真実しんじつあいしたおとこほのおなかに、えてったのである――。

「ここまでがジークフリートをめぐ物語ものがたり。んで、こののちは、ニーベルンゲンののろいによってギューキ一族いちぞくがどういうふうに滅亡めつぼうするのかってはなしに、なるん、です、けど……」

 ……さっきからセイバーと遠坂とおさかあいだみょう緊張きんちょうかんはしっているような――。ふぅ、と遠坂とおさかいきいた。

典型てんけいてき悲恋ひれん悲劇ひげき物語ものがたりよね。結局けっきょく、ギューキおう一族いちぞくは、ジークフリートの遺産いさん、ニーベルンゲンの財宝ざいほうねらうフンぞくおうによって滅亡めつぼうする。でもその莫大ばくだい黄金おうごんを、ギューキの一族いちぞくすでにラインがわしずめていて、フンぞくはそれをにすることはできなかった。――以後いごニーベルンゲンのたからは、ラインの黄金おうごんえ、ラインの乙女おとめばれる精霊せいれいによってまもられつづけたらしいわ」

「――なるほど。女性じょせいかせの英雄えいゆうなのですね
 ……こころなしかセイバーはこっちをながらしゃべっているような。のせいだよな。

「しかし……りゅうころしたということは、やはり素質そしつはあったのでしょう。あれは普通ふつうころすことなどできるはずもない存在そんざいですから」

りゅう、ね。もうこの世界せかいにはいないってわれてるから、わたしもよくからないけど……。――最強さいきょう幻想げんそうしゅ数多すうた怪物かいぶつ魔物まものばれる存在そんざいなかでもっとも高位こうい君臨くんりんするおう、か。  ――あ、そうそう。ニーベルンゲンのうたでは、ジークフリートとりゅうにまつわるはなしひとつだけサガとちがのよ」

遠坂とおさかは、あ、おちゃがない、などといながらはなしすすめる。おれ急須きゅうすってちあがった。
りん、それは?」

ニーベルンゲンのうたのジークフリートは、不死ふしなのよね。……んー、不死ふしっていうといすぎだけど、ファフニールりゅうころしたときにその全身ぜんしんびて、はだけんとおさないほどかたくなってるの。だからどうやってもきずつかなかったらしいわ。  でも、背中せなかなか菩提樹ぼだいじゅがついていて、そこだけはびなかった。そこが唯一ゆいいつ急所きゅうしょだったの」

「……」
結局けっきょく、その急所きゅうしょやりされてんじゃうんだけどね」
 ずずーっとあたらしくれたおちゃをすする遠坂とおさか
「へぇ、それだったら寝室しんしつ襲撃しゅうげきされてもぬことはなかったのにな」

りゅうによる不死ふしか……。……ん? あれ? なんか……違和感いわかんがあるぞ……? ……はて。
「……りゅうによる不死ふし……まさか」
 
セイバーがうつむく。
「ん? どうしたの?」
「……りんさきほどの戦闘せんとうのことですが。かれは、なにか魔術まじゅつ使つかっていたようなのですが、かりませんか」

魔術まじゅつ ――いいえ、気付きづかなかったけど。すくなくともかれ魔術まじゅつ行使こうししてたってかんじはなかったわね。あのけんにかけられてたほのおくらいかな。――でも、あれってなんの言葉ことばだったのかしら……。  あ、でもてよ、そういえばガンドがレジストされた、ような――――……うそ……

わたしは、ほどけんかれました。……まさか、とはおもいますが……りゅうちからを」
「ちょ、ちょっとまてて、ひょっとしてあの波紋はもんみたいな――?」

遠坂とおさかがガンドをてたとき。セイバーがふところびこんだとき波紋はもんのような空気くうきひろがりが一瞬いっしゅんえ、――ジークフリートは無傷むきずだった。

「――そんなの」
魔術まじゅつ使つかっていた気配けはいもなく、りん魔力まりょくがえし、わたしけんも――」
「ちょ、ちょっとってくれ。だってセイバーのけんがえされたのは、あいつのりゅうごろしとしての特性とくせいなんじゃないのか?」
 
きおいこんでたずねる。だって、そうじゃなかったら、そんなの――

ちがいます。たしかにかれりゅうごろし――自身じしんけられたりゅう魔力まりょくだい部分ぶぶんをキャンセルしてしまう。わたし基本きほんてきつね魔力まりょく放出ほうしゅつしてたたかっています。移動いどう攻撃こうげきなど、ほとんどすべてに魔力まりょく放出ほうしゅつによる補助ほじょがついている。それらを制限せいげんしたら、わたし運動うんどう能力のうりょくはこの身体しんたい本来ほんらい能力のうりょくまでちてしまう」

そういえば、むかしさんにん新都しんとあそんでまわったとき、バッティングセンターで、公平こうへいにするためセイバーに魔力まりょく制限せいげんしてもらったことがあった。あのとき、セイバーの筋力きんりょく普通ふつうおんななみまでちたような――。

「ということは、つまり……」

――はい。かれまえでは、わたしはただすばしこく、けんわざひいでただけの、……この外見がいけんどおりの存在そんざいぎません。それでもまわりの速度そくどちませんが、いかんせん消耗しょうもうさせるための攻撃こうげきには威力いりょくすくなすぎる。……相手あいて使つかっているぜん魔力まりょくすことは、かれといえどできないようですから、防戦ぼうせんまわればまだなんとかなりますが……。  しかし、グラムのちからがまだ未知数みちすうです。あれは卓絶たくぜつしたりゅうごろしのけん《ドラゴンスレイヤー》――もしあのけん本気ほんきになったら、わたしはあるいは――」

セイバーが沈痛ちんつう面持おももちでつづける。
「――防御ぼうぎょ移動いどうのための魔力まりょくまでがれ……けることもけることもできず、防御ぼうぎょうえからせられるでしょう」
「そ、そんな……!」

――セイバーのうことは、おそらく本当ほんとうだ。  あのときエクスカリバーの衝撃しょうげきを「った」のはまぎれもなくグラムのちからだ。

ジークフリートは、みずからにはなたれたエクスカリバーの斬撃ざんげきりゅうごろしとしてせるだけして、れないぶんをグラムでぷたつにした。かたれた衝撃しょうげきはジークフリートのりょうわきかすめ、よろいだけくだき――霧散むさんした。

それが、エクスカリバーをしのいだ一幕ひとまく直撃ちょくげきしたようにえたが、グラムがそれを「って」いたのだ。

「でも、グラムをしたってことは、ジークフリートのせる魔力まりょくにも限界げんかいがあるってことよね。で、エクスカリバーはそれを上回うわまわっている、と」
かれがグラムをもちいず、かつ直撃ちょくげきすれば、おそらくわたしせいけんでもかれたおすことはできるでしょう。たおることはできないかもしれませんが、すくなくとも勝機しょうきかならつかめるはず」

ジークフリートほどの英雄えいゆうが、けん手放てばなし、かつ直撃ちょくげきする――そんな状況じょうきょうが、たしてあるのだろうか。しかも、そこまでしても、必殺ひっさつとはならないかもしれない――――なんてこった。そこまで――ハンデがあるのか――

「そして、それがさっきのシロウの疑問ぎもんへのこたえです。わたしされるのは魔力まりょくだけです。けんそれ自体じたいによる斬撃ざんげきわりません。非力ひりきといえど、けんられればひと肉体にくたいきずつきます。わたし速度そくどでは上回うわまわっていましたから、不意ふいをついて心臓しんぞう一撃いちげきすればてる……はずだった」

公園こうえんでの、あの一撃いちげき。あれは、セイバーにとってみれば、勝負しょうぶいちげきだったということか……。

「……残念ざんねんながら、急所きゅうしょねらったもののけられました。ですが、致命傷ちめいしょうとはいかなくても痛手いたであたえるいちげきではあったはず。それが――」

なぞ波紋はもんによってかれた。そして……それは、遠坂とおさかにも魔術まじゅつとして感知かんちされなかった。ということは……

なにべつちからが、ジークフリートをまもっている……」
「はい。そして、いまはなしいたかぎりでは、それは――」
 りゅうによる不死ふしちからである可能かのうせいたかい――!

「そんなの……反則はんそくじゃない……」
 
遠坂とおさかつぶやく。そのは、せつけられた戦力せんりょく呆然ぼうぜんとしていた。

「――予定よてい変更へんこう明日あしたわたしいえりゅうについて調しらべるわ。セイバーもってるぶんおしえて。明日あしたにちのぼってるうちに、すくなくてもりゅう不死ふしについてできるだけ調しらべましょう。アインツベルンはその。いい?」

セイバーと同時どうじうなずく。それしかないだろう。りゅうごろしのジークフリートと、りゅうごろしのけんグラムのわせだけでも勝機しょうきがほとんどないのだ。このうえりゅうによる鉄壁てっぺき防御ぼうぎょなど追加ついかされたら、もうどうころんでもおれたちはない。

がつけば、もう夜中よなかの1まわっていた。さすがに今日きょうはもう襲撃しゅうげきはないだろうが、現状げんじょう解散かいさんするのも不安ふあんだ。だ、だけど、いくら非常時ひじょうじとはいえ「今日きょうまっていくか」とは……。

「というわけで士郎しろう今日きょうからしばらくまたはなれの客間きゃくままりこむわね」
「え!? あ、い、いやべつになにもやましいことなんてかんがえてないぞっ!? だ、だからその、今日きょうは、う、いえに……って、え? え?」
 
かーっとかおあかくなっていくのが自分じぶんでもかる。遠坂とおさかはくっくっとわらいながら
「え、なに? やましいことかんがえてたんだーまもるみやくん?
 なーんてちをかけてきやがった。
「あ……あ、ぅ」

「さて、それじゃわたしはお風呂ふろ使つかわせてもらってすぐるわ。明日あしたはやいんだから、士郎しろうもセイバーもはやなさいね」
 あかくなったりあおくなったりしてるであろうおれいてけぼりに、遠坂とおさかはそれこそ勝手かってったる自分じぶんいえとばかりに居間いまていってしまった。

わたし睡眠すいみんをとろうとおもいます。シロウもはやるようにしてください。それと」
 セイバーはちあがりながらう。
さきほどは、ありがとう。……それでは、おやすみなさい、シロウ」
「……ああ、おやすみセイバー」


 薄暗うすぐら天井てんじょう見上みあげながら、今日きょう反芻はんすうする。脳裏のうりかぶのは、あのけんと、しろ勇士ゆうしのことばかりだった。

けんグラム。かみによってもたらされ、勇者ゆうしゃ選定せんていするその出自しゅつじかられば、セイバーのけんまさるともおとらぬ神聖しんせいけんのはずである。しかし、あまりにもおおくの英雄えいゆうい、ただの一人ひとり例外れいがいもなくぬし破滅はめつをもたらしつづけたその経歴けいれきは、どこからどうみてもけんぶにふさわしいものだ。

――ジークフリートがほのお封印ふういんいたその瞬間しゅんかん、はっきりとえたあのけん本性ほんしょう。あのけんは、おそろしい。なにかとても、原初げんしょてき恐怖きょうふます。

――ジークフリート本人ほんにんよりも、なにか得体えたいれない雰囲気ふんいきらしていた。

られる』

 そう、最初さいしょかんじたのがそれだ。まるで自分じぶんがバラバラに解体かいたいされるような感覚かんかく。ありとあらゆる『切断せつだん』を凝集ぎょうしゅうさせたそのちから。それらを以って、すすむべきみちをも「り」ひらけん――――かんがえないようにしていたことがある。

あのけんたことで、そんなことをおもしてしまった。英雄えいゆうとなった未来みらい自分じぶん理想りそうやぶれ、磨耗まもうしきったしんで、おれという偽善ぎぜん否定ひていしたエミヤというおとこのこと。

――もし。もしあいつが。……みずからのうちよりあふした、究極きゅうきょくいちっていたら。
――たすけなければならない。
そんな強迫きょうはく観念かんねんとらわれながら、それでもがむしゃらにまえすすもうと

――あのほのおのなかでいちんだこころ。それがたとえ、他者たしゃよりあたえられたいつわりのねがいだったとしても。そのてにある真実しんじつを、辿たどけぬ理想郷りそうきょうを。うつくしいとかんじたから、しんじることができたのではなかったのか。

それゆえ、おまえつ『究極きゅうきょくいち』は
―― 究極きゅうきょく偽物にせもの《フェイク》
―― 『無限むげんけんふく世界せかい《アンリミテッド・ブレイド・ワークス》』であるのだから――

「……」
 しろ英雄えいゆうかれは、何故なぜあんなもの《グラム》をっていながら、んだままでいられるのだろう。あのおとこには、危険きけんかんじられない。圧倒的あっとうてき威圧いあつかんと、何者なにものまえにしてもどうじない姿勢しせいは、相対あいたいしたものにはたしかに恐怖きょうふをもたらすだろう。

――だが、それは、かんじるがゆえ恐怖きょうふではない。かつて、バーサーカーやギルガメッシュをまえにしたときにかんじたような、のがれえぬ気配けはいというものが、あのおとこあたえる恐怖きょうふからはかんじられない。 それは、きっと。

あの英雄えいゆうは、『純粋じゅんすい』だから。 らぐような信念しんねんなどない。なぜなら、最初さいしょから『それ』しかない。 それほどの純粋じゅんすい意志いし。  それがかえって、恐怖きょうふのもととなる。なぜなら、そこまでの純度じゅんどった意志いしというものを、普通ふつう人間にんげんないからだ。かれひじりはいもとめるとった。

ならば、それは絶対ぜったいだ。かれめるにはたおすしかない。さもなければかならかれひじりはいにするだろう。結末けつまつはありない。  そして、もしもたおされたそのときには、かれわらいながらえる。

「――――」
 かんとは、こういうことをうのだろうか。けんグラム、りゅうころしジークフリート。

――なにかが、きっとわる。

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