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Fate/dragon’s dream

Fate/dragon’s dream

回想かいそうきょうじょう死闘しとう 完結かんけつへん

「てめぇかァァッ!! ハーゲンッ!!!!!」
 怒号どごうとともに士郎しろうかってジークフリートがかかる。るわれたグラムを、赤黒あかぐろけんががっしとめた。

(な………!?)
 セイバーはかす視界しかいのなか、豹変ひょうへんした士郎しろうからはなせなかった。間違まちがいなくサーヴァントの気配けはい――! しかも士郎しろうから?! がくあかかがや文様もんよう間違まちがいなくれいのろい。だが、肝心かんじんのサーヴァントは―――!?

(ま、まさか……シロウに憑依ひょういしているのか!?)
 元来がんらい亡霊ぼうれいるいであるサーヴァントは、実体じったいくことで任意にんいれいたいになれる。むしろそちらの状態じょうたいのほうが、かれらにとって『自然しぜん』な状態じょうたいえる。

しかしながら、きよしはいによって受肉をした英霊えいれいは、通常つうじょうれいのように振舞ふるまうことはできないはずだ。実体じったいあるものが実体じったいあるものにり憑くことなどできるはずもない。

(それにあのけんは――!)
 赤黒あかぐろ刀身とうしんえた溶岩ようがんのような突起とっきだらけの。おそらくは士郎しろう憑依ひょういしたサーヴァントがしたたからなのだろうが――

(く……! うなっている……!)

 ているだけで気分きぶんわるくなる。そのけんはまるでされた歓喜かんきふるわせているかのように不気味ぶきみ鳴動めいどうし、意思いしあるかのごとくスルスルとジークフリートのけんをかいくぐり、その胸元むなもと心臓しんぞういつこうとしていた。

「てめぇ、ダインスレフ《そんなもん》まだっていやがったのかァ!!」
「えげつないけんだが、れてくるとなかなかかわいいものでな!」
「ざけんなこの盗人ぬすっと野郎やろう! そんなもんをかわいいとかうんじゃねえ!」

もとめるかのごとくけんなんもジークフリートのうでらいつくが、その都度つど波紋はもんひろがり、かれている。

「うぅーっ、気味悪きみわるいよぅっ!」
 ごえうファフニール。ジークフリートはむが、士郎しろうけんでわずかにグラムの軌道きどうらし、悠々ゆうゆう回避かいひする。

(――――できる!)

何者なにものれないが、士郎しろう憑依ひょういしたサーヴァントは相当そうとうけんうでだ。いやけんだけでなく、とんでもなく実戦じっせんれしている。戦闘せんとうにおけるかん、その身体しんたいさばきは、最小さいしょうちから最大さいだい効果こうかるためのもの。それも、一対多いちたいたすうでさえつうじる、戦場せんじょうつちかわれたものにちがいない。瞬間しゅんかん判断はんだんりょく全体ぜんたいたたかいの「ながれ」がえなければ、こうはうごけまい。

それは荒々あらあらしくも、優雅ゆうがえる剣舞けんぶだった。ちから方向ほうこうらし、からだじゅつのようなものとわせた回避かいひ方法ほうほう。それは、セイバーをして感嘆かんたんさせしめるのに十分じゅうぶんなものだ。

人間にんげん身体しんたい使つかっているというのに――!)
 士郎しろうきたえてはいるようだが、所詮しょせん生身なまみ身体しんたいだ。サーヴァントとまともにたたかっててるはずはない。だが、いま士郎しろう基礎きそ体力たいりょくはそのままに、サーヴァントの経験けいけんだけであのジークフリートと拮抗きっこうしている――!

(もともと経験けいけん技能ぎのうおぎなうタイプのクラスなのか――!?)
 すでに驚嘆きょうたんいきすらとおし、セイバーは見惚みほれるようにそのたたかいをていた。

――だが、
「チッ」
 士郎しろう身体しんたいがよろける。やはり体力たいりょくてき無理むりがある――!

「おらぁぁっ!!」
 ほとんど歓喜かんきちか怒声どせいとともに、グラムがろされた。おおきく退しりぞ士郎しろうのいた地点ちてんおおきくへこむ。
「フム、流石さすがうごきづらいか――!」
余裕よゆうこいてんじゃねぇぇっ!」

「シグ!! ちょっときなさいよぅっ!」
 ふたた姿すがたえたファフニールのいさめるこえかず、ジークフリートはそのまま士郎しろう突進とっしんした。
「ハーゲン!! さっさとてきやがれ!」
貴様きさまにはこれで十分じゅうぶんであろう!」

(ハーゲン……!?)
 そのはつい先日せんじついたものだ。りんはなしてくれたニーベルンゲンのうた登場とうじょうし、……ジークフリートを背中せなかからのいちげきころしたすすむ!?
 ふたた剣戟けんげきおん。だが、突然とつぜん士郎しろう……いやハーゲンは跳躍ちょうやくし――、あろうことか車道しゃどう、そのままさらんでアーチのうえはしはじめた!

(――な!?)
 ばかな! 生身なまみである以上いじょう落下らっかすればだい怪我けがまぬかれまい。そんな条件じょうけん空中くうちゅうせんさそうなど――!

まてちゃーがれ!!」
「シグ、バカ!! さそいよ!」
らずにいられるかよ! ハァッ!」
 ジークフリートもおおきく跳躍ちょうやくし、そのままアーチじょうのハーゲンにりかかった!

すでに頂上ちょうじょうちかくまでのぼっていたハーゲンはそれをるや、いきなり反対はんたいがわのアーチにかってぶ。そして、さら壁面へきめんり、反動はんどうをつけてジークフリートへんだ。

「ぬぁ!?」
「おぅわわ! あぶないよー!」
 背中せなかいちてんにスルスルと不気味ぶきみな妖剣がびる。咄嗟とっさにグラムでそれをいたが、上半身じょうはんしんだけねじった不安定ふあんてい体勢たいせいになり、ジークフリートは落下らっかした。

「チィッ!」
 アーチをささえるはしら一本いっぽんをかけ――たところで、そのはしら切断せつだんされる!

「うぉ!?」
「ひゃぁあっ!」
 身体しんたいささえるものがなくなり、ふたた落下らっかするジークフリートが車道しゃどう着地ちゃくちするやいなや、頭上ずじょうから稲妻いなづまのようにハーゲンがりかかった。

「ぬぅあ!」
 火花ひばなぶ。落下らっか速度そくどた妖剣のいちげきをグラムでめるジークフリート。だが、妖剣はグラムのさきをすべり、いきおいのままジークフリートの肩口かたぐちりつけた。空間くうかん一際ひときわおおきなあお波紋はもんひろがる。

――……なんということ。空中くうちゅうせんさそったのは、相手あいてたたとし、一撃いちげき威力いりょくちがいを落下らっか速度そくどめるため――
 もしも相手あいてがジークフリートでなければ、――いまのいちげき勝負しょうぶけっしたかもしれない……! ひともちいてサーヴァントを相手あいてに――!

自分じぶん技量ぎりょう絶対ぜったい自信じしん精密せいみつ動作どうさがなければ、あしすべらせただけでだい怪我けがをするような足場あしばであそこまでの運動うんどうはできない――!

「づっ……!」
「チ、相変あいかわらず頑丈がんじょうな……!」
「ぬかせ!」
「ぬあっ!」
 はらいのいちげきめるも、そのままハーゲンはばされた。

「……あ、あいたたた……!」
「ファフ、しっかりしてろ!」
 叱責しっせきし、ふたたびハーゲンに肉薄にくはくする――! が、

「ぬ……!」
 ハーゲンのうごきにさきほどまでのれがない。
「たりめぇだろうが! んな身体しんたい使つかってあんな無茶むちゃやらかしゃすぐイカれるぜ!」

右足みぎあし――! やはり士郎しろう身体しんたいでは、サーヴァントのイメージどおりのうごきを再現さいげんするのは――!
 咄嗟とっさ左足ひだりあしび、ふたたいちだんがった歩道ほどうへともどってくるハーゲンに、ジークフリートが追撃ついげきをかける!

「でぇぇぇい!!」
 ガギン!
 
咄嗟とっさをかわしたハーゲンの背後はいごで、―――はしささえる鋼鉄こうてつはしら一本いっぽんが、バターでもるかのようにななめに切断せつだんされた。

(!!)
 だが、ジークフリートはかまわずハーゲンをりつける!
 ガギン!
 ――今度こんどはアーチの一部いちぶ寸断すんだんされ……

「ちょこまかげてんじゃねぇぇぇっ!!」
 その、ときけんグラムが、突然とつぜんまばゆいひかりはっはじめる――!

「――!! いかん!」
らえ――!」
(―――!! グラムを使つかか!?)
「チィ――!」
使つかうかよ馬鹿ばか野郎やろう!!」

またフェイント――!?
 だが、ハーゲンはそのうごきをんでいた。かがやきをうしなわないグラムのはらいを、ハーゲンはをかがめてける。
 魔力まりょくめられたけんはそのまま背後はいご鋼鉄こうてつぐんをばっさりとはらった!

まさ馬鹿ばか刃物はものか――!」
 あしいためていてさえ身軽みがるけるハーゲンに、なおもりかかるジークフリート。グラムは発光はっこうめず、そのままいちりごとにすうほん鉄柱てっちゅうはらっている……!!

 ギィィィィィィ……
 セイバーのみみに、不吉ふきつきしおんこえてきた。と、同時どうじに、頭上ずじょう車道しゃどうがガクンとおおきくれた。
(な――くずれる!?

づいたときにはおそい。つぎ瞬間しゅんかんには、バキバキという絶望ぜつぼうてきおととともに、くだけたアスファルトがはじめた。水音みずおととともに、眼下がんか水面すいめんからみずしぶきががっているのがかんじられる。
 自重じちょうささえきれなくなったはし切断せつだんされた橋脚きょうきゃく部分ぶぶんから陥没かんぼつはじめ――ガゴン、というおととともに、れた車道しゃどう一部いちぶ歩道ほどううえ落下らっかした。

(――!! しまった!!)
 セイバーとりんとのあいだれたアーチの一部いちぶさる。そしてそこを中心ちゅうしんとして、歩道ほどうもまた陥没かんぼつはじめ――

(――ぐ……!! う、ああああっ!!)
 がろうとしたセイバーの全身ぜんしん強烈きょうれついたみがく。まるでむねきずから全身ぜんしん猛毒もうどくながまれつづけているようだ。このまま分解ぶんかいされてしまうような錯覚さっかくすらおぼえる。

りん!!)
 陥没かんぼつこうがわ――彼女かのじょのマスターはうしなったまま。おおきくかたむいだ歩道ほどううえすべるように、その身体しんたい移動いどうしているのがえた。

(く、う―――!! あ、あああああっ!!)
 うごけ! のこされた魔力まりょくをかきあつめ、うことをかない身体しんたい無理矢理むりやりしたがえようとする。だが、魔力まりょくあつめればあつめるほど、むねきずからそれがしていく――!

りん!!――なんという無様ぶざまな……!! マスターもまもれず、こんなところでてるのか――!!)
 必死ひっしがることだけはできたが、すぐにひざくだけた。

バギッ
 足元あしもと振動しんどう。そして――陥没かんぼつ亀裂きれつとなり、そのままセイバーの身体しんたいはアスファルトをすべはじめた――!

りん――――ッ!!」
 かろうじて鉄柵てっさくにつかまり、落下らっかこたえるセイバー。しかし、彼女かのじょのマスターの姿すがためる砂埃すなぼこりなかえていった。

激痛げきつうはしうで必死ひっしでひしゃげた鉄柵てっさくからませる。すでに跳躍ちょうやくするちからもなく、セイバーはみずからも崩壊ほうかいまれながら、いつもていた景色けしきわりをつめた。

(シロウ……りん……すまない……ッ! わたしは、もう――!)
 ――限界げんかいだった。
 セイバーの身体しんたいむしばむグラムの斬撃ざんげきはセイバーの最後さいごのこされた意識いしきをもり――
 あお騎士きしは昏いふちへまっさかさまへとちていく――

ドン
 だが、落下らっか浮遊ふゆうかんしたからのげるような衝撃しょうげきとともにまった。うっすらとひらくセイバーの視界しかいはる彼方かなたには、あかふくかついでめる砂埃すなぼこりなかから跳躍ちょうやくするおおきなかげえた。

(――りん!?)
 朦朧もうろうとする意識いしき覚醒かくせいする。そのセイバーの視線しせんさきで、りんかたかつ跳躍ちょうやくしたジークフリートのにくっついたファフニールから、巨大きょだいひかりだん発射はっしゃされたのをたようながした。
 ――魔力まりょくかたまり。だが、それはセイバーたちをねらったものではなく――

「しっかりつかまっていろ!!」
 士郎しろうこえ怒鳴どなる。そして、セイバーの身体しんたい急激きゅうげき加速かそくかんじるとほぼ同時どうじに――
 みみをつんざくだい音響おんきょう。それはまさに砲撃ほうげきだった。強大きょうだい魔力まりょくによる目眩めまいげきちが、容赦ようしゃなくはし破壊はかいする。

(――りん……!)
 そして、セイバーはかつてのマスターので、今度こんどこそ完全かんぜん意識いしきうしなった――

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