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Fate/dragon’s dream

Fate/dragon’s dream

いびつ日常にちじょう・II

(うむ、ねむったようだ)
「ああ……」

セイバーを布団ふとんはこび、ねむりこんだのを確認かくにんして、おれ居間いまへともどってきた。とりあえず作戦さくせん会議かいぎをしたいところなのだが、二人ふたり一緒いっしょにしゃべっていてはのどつかれるため、基本きほんてきには身体しんたい主導しゅどうけんおれち、ハーゲンの判断はんだん交代こうたい、ということにしておいた。

遠坂とおさか無事ぶじかな……」

(フム、いまのところいのち別状べつじょうはなかろう。むしろ魔力まりょくのこりが問題もんだいだとおもったのだが、おあるじからつうじているパスをかぎりでは別段べつだん危険きけんなことはないようだ。あの年齢ねんれいではおどろくべき魔力まりょくりょうよな)

「そりゃ、このあたり一体いったい管理人かんりにんでもある由緒ゆいしょただしい魔術まじゅつ家系かけいだからな、遠坂とおさかは。おれはへっぽこだけど、師匠ししょうのあいつはちょう一流いちりゅう魔術まじゅつだよ。おれなんかにはもったいないくらいに」

(ならば、しんじてつがいいさ。おのれかれた状況じょうきょう冷静れいせい把握はあくし、適応てきおうするのが魔術まじゅつだ。それほど優秀ゆうしゅうであれば、その行動こうどうには全幅ぜんぷく信頼しんらいいたほうがこちらもなにかとうごきやすい)

「うん……。はは、おかしいな。おれよりハーゲンのほう遠坂とおさかのことをよくかってるかもしれない。そうだよな、あいつはそう簡単かんたんにどうこうされるようなやつじゃないよな」

ふる知己ちき魔術まじゅつがいてな。しんける魔術まじゅつほど背中せなかまかせてたよりになるものはない。遠坂とおさかじょうのことはおいおいなんとでもなるだろう。
 アルトリア殿どのは、しばらく戦闘せんとう行為こうい無理むりだ。治療ちりょうあいだにこちらも体勢たいせいなおしたいところではあるな)

「うん、そうだな。それで早速さっそくなんだけど、ハーゲンのクラスとかくわしいことをおしえてくれないかな。ジェネラルだったっけ?」

(うむ、基本きほん能力のうりょくはあまりたかくないが、わりに技能ぎのう経験けいけん豊富ほうふなクラスらしい。大体だいたい生前せいぜん能力のうりょく大差たいさないクラスに設定せっていされるようだ。
 どちらにしろこんな憑依ひょうい状態じょうたいでは、直接ちょくせつ戦闘せんとうなどそうそうできん。せいぜいさくでおあるじやくつことにしよう)

「よろしくたのむよ。――それと、セイバーのきずのことなんだけど」
(フム)
きよしはい戦争せんそうのときに、セイバーはランサー……クー・フーリンのゲイボルクでけたきずなおりがおそいとってた。あのきずも、なにかそういう呪詛じゅそみたいなものがかかっているのか?」

(グラムについては、おれくわしいことはらんよ。だが、あれをただのたからかんがえないほうがいい)

それは、おれにもなんとなくかる。
 あのけんたからとしてかんがえても「規格きかくがい」だ。ジークフリートはいまいち真名まな展開てんかいしていないにもかかわらず、すで通常つうじょうたからクラスの威力いりょく発揮はっきしている。
 幻想げんそう破壊はかい概念がいねん武装ぶそう。ジークフリートはそうっていたが、正直しょうじきそれにしても……。

(あのけん自体じたいがあるしゅ強力きょうりょく概念がいねんっていて、それでつけられたきずにもおなじような概念がいねん付加ふかされるのだと、いつだったかジークフリート本人ほんにんっておったよ)
概念がいねん……」
(それがどういうものなのかはらん。のちほどアルトリア殿どのいてみるがよかろう)

「あ、そうだ……すっかりわすれてた。ハーゲン、セイバーをたすけてくれてありがとうな。最初さいしょうべきだったのに、おくれてすまない」
(……フム、貴重きちょう戦力せんりょくなのでたすけたまでよ。おあるじにするようなことではない)

「だけど、きっとおれじゃあセイバーをたすけられなかっただろうから……。うん、やっぱありがとうな」
(そうかしこまることはない。おれも、おれのぞんだようにしただけのことだ。そのことでれいわれる筋合すじあいはない)

「……そっか。かった。――とりあえず、ものくか。セイバーのためにも美味うまいものつくらなくちゃ」
(ほう。おあるじ厨房ちゅうぼうはいるのか。それはたのもしい)
「な、なんだよ。べつにいいだろ」

(うむ、そうだな。しょく一生いっしょう大事だいじだ。栄養えいようのためにもくちぶくのためにも美味びみもとめるは必定ひつじょう
 だが残念ざんねんだのう。自分じぶん身体しんたいがないゆえおれうことができぬでな)
「あ、そうか……。感覚かんかく全然ぜんぜんつながらないのか?」

(うむ。一応いちおう触覚しょっかく一部いちぶつながるようでな、自分じぶん身体しんたいうごかすのと大差たいさなくおあるじ身体しんたいりることはできたが、どうも痛覚つうかくがないようだ。さき戦闘せんとうさいにはそれがかたきになった)

「うーん、じゃあべるときに交代こうたいしてもらってあじわってもらうっていうのも無理むりか」
 なんとなく雰囲気ふんいき苦笑くしょうしているのがつたわってくる。
(そこまでしてもらうこともないさ。ヘタに感覚かんかく共有きょうゆうしていると厄介やっかいなこともおおい。おれはその実例じつれいているゆえ、よくかる)

「……? ま、いいか。それにしてもこの筋肉きんにくつう……なんとかならないかなあ」
(……どうでもいいが、おしゅ右足みぎあし大丈夫だいじょうぶなのか?)
「え? いや、いたいけど、全身ぜんしんいたいからあまりにならないな」
(……そうか。それならいい)

「……なんだよ、になるいいかただな」
にするな。さあ、食材しょくざいいにこうではないか)
「あ、ああ……いてて」
 かすハーゲンをいぶかしくおもいながらも、おれものかごをっていえる。

「おにく
野菜やさい
「おにく!」
野菜やさい!」

「おにく!!」
野菜やさい!!」
 …………。

「やだやだ! おにく!!!」
「だーっ!! おまえなあ、オレを病気びょうきにするか! おまえってばっかだとにくしかえねぇじゃねぇか! 人間にんげんさまはなぁ、どこぞの変温動物へんおんどうぶつちがって雑食ざっしょくせいなんだよ! だい一昨日おとといだってにくっただろうが!」

「だってしょうがないじゃない! あたしはそういうものべれるようにできてないんだから!!」
 …………………。
べつにゃしねぇだろ! オレはんじまうんだよ! 毎日まいにち毎日まいにちあぶらっこいにくばっかりじゃ身体しんたいがもたないっつーの!! おまえはオレが元気げんきなら問題もんだいないだろうがよ!!」

「なーにがんじまう、よ! もうとっくにんでんでしょ! あたしだって折角せっかくてこれたんだもん、おいしいものべたいじゃない!! いくらつづけたってケンコーになんてひびかないからいいじゃないのよぅ!!」

「………………ねぇ、あんたたち」
「ハラにもたれるんだよあぶらモノばっかだと!! そろそろさっぱりしたものの美味うまさくらい理解りかいしろガキ!」

「あーっったなーっ! あたしガキじゃないもん! あんたみたいなデグノボーにわれたくないわよ!!」
「あんだと!」
「あによ!」

「――ッ、いーかげんにしなさいッッッ!!!」
 バァンとおもいっきりつくえたたく。
 かおわせ、今夜こんや献立こんだてでいいあらそっていた英雄えいゆうりゅうは、それでやっとこっちをた。

「……あんたたちねぇ……いっつもこんなことしてるわけ……?」
「あ? ああ、このバカガキがいつもいつもごねるもんでな、しつけのためにもこう、ビシーッと……」
りんさん、これはしょうがないことなのよ。シアワセはいつも自分じぶんらないといけないんだから……!」

あたまかかえる。
「……ようするに、なに? 味覚みかく共有きょうゆうしてるうえこのみがちがうから、なにべるかでいつもケンカになるわけね……?」

「ああ、そうだ」
「そうよ」
「……ハァ……」
 こいつら……ほんとに伝説でんせつりゅうころしとりゅうなわけ……?

りんさんっ、あたしにとってはシカツモンライなの! だってりゅうってあんなくさなんてべれるようできてないんだから。
 ねこちゃんがたまねぎとかイカとかべられないのとおなじなの。それなのにシグったらバクバクあんなぴーまんとかにんじんとかいうおぞましいものを……うぇぇ、おもしただけで気持きもちがわるく……」

「そりゃ実体じったいがあったらのはなしだろうが。たんにおまえ偏食へんしょくなだけなんだよ。ったく、ぎゃーすかわりにはスイカとかイチゴはボリボリうくせによ。ってるぞ、夜中よなかにこっそりってんの」
「シツレイね、ボリボリなんてべたおぼえないわよっ」

「よっしじゃあ今夜こんや野菜やさい、はい決定けってい
なにが『じゃあ』なのよっ、シグがそのならあたしにだっておくがあるんだからっ!」
「ほおー、そりゃ面白おもしろい、ってみな」
食事しょくじ要求ようきゅうしたがわないとー……まちたときさけぶわよ」

「ああさけさけべ。それでオレの食生活しょくせいかつ改善かいぜんされるならやすいもんだ」
「……いいのね? あとでホエヅラかいてもらないからねっ」
 そううと、ファフニールは突然とつぜんだーっと両開りょうびらきのまどひとつにき、いきおいよくはなつとし、
「きゃーっ! だれかたすけてーっ、ろりこんのおにーさんがあたむぐっ!?」

そとからてたら、ビデオのもどしをているようなになっただろう。した少女しょうじょおなじくらいのいきおいでうしろからびてきたりこまれると、これまたおなじくらいのいきおいでまどがバァンとじた。
 ……いや、それ絶対ぜったいてたひとがいたらしんじるから。

「お・ま・え・な・あーっ!!!」
「ギャーーーー!! ヤダヤダはなせーっゃはははははははは!!」

そして、ふたたひろげられる阿鼻叫喚あびきょうかん地獄じごく絵図えず
 しかし今度こんどじきだった。
「くおのバカトカゲがお仕置しおきだこのヤロウッ!」

「にゃあははははははっ!! やだ、やめあああああっゃひゃはっはははあはは!! ひぃっひぃっゃははははははっ!! ああぁっ、ダ……ダメゃあ………ハァ…ハァ……ひっ!? あゃははははは……っあああぁっ……はぁっ、はぁっ」

「ったくロクなことかんがえねぇなおまえも……」
 ぶちぶちと文句もんくいながら、ジークフリートががる。
 ファフニールはせいもつきたような面持おももちで、こしけたようにぺたんとゆかすわんでしまった。上気じょうきしたほおがはぁはぁという吐息といきともれ、うるんだ呆然ぼうぜん虚空こくう見据みすえてうごかない。

「……ねぇ、ジークフリート」
「ん?」
「あんた、クリームヒルトとのあいだ子供こどもいなかったっけ」
「ああ? まあな。だけどオレはあんまり面倒めんどうみてねぇからよくらねぇぞ。オレはガキがきらいなんだ」

「………そう。や、にしないで、ちょっといてみたかっただけだから」
「……? ま、いい。このバカもちっとはこれでしずかになるだろ。さぁてと」
 うー、というくやしげなうなごえゆかからこえてくるが、ジークフリートはまったかいさない。
 ……あー、もう! そんなうるんだわたしるなっつーの!

「はぁ……かったわよ。わたしがなにかつくったげる」
「あぁ?」
「えっ」
 ぱぁっとへたりこんだファフニールがかおかがやかせる。
「まあ、食材しょくざいがあればだけどね」

「ああ、それだったらどっちにしろしに予定よていだったからそろえられるとおもうが」
「そう。じゃ、おねがい。メモするからそれってきて」
あくぃな」
「ありがとうっりんさんっ」

「あんたたちにまかせてるとわたしまで栄養えいようかたよりそうだもの。自衛じえい自衛じえい
 ……まあ、それでも。  こんなふうによろこばれるとわるはしないわけで――

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