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ヌルデ - Wikipedia

ヌルデ

ウルシヌルデぞく落葉らくよう高木たかぎ

ヌルデ白膠木ぬるで[6]しおはだ[7]学名がくめい: Rhus javanica または Rhus javanica var. chinensis)は、ウルシヌルデぞく落葉らくようしょう高木たかぎ山野さんやはやしゆかりなどにえる。ウルシほどではないが、まれにかぶれるひともいる。別名べつめいフシノキ[8][7]カチノキ[8](カツノキ)。にできたむしえいを五倍子ふし(ごばいし/ふし)という。歯黒はぐろ材料ざいりょうにしたり、ざい細工ざいくぶつ護摩ごまくのに使つかわれる。

ヌルデ
Rhus chinensis
Rhus chinensis
(2006ねん9がつ18にち大阪おおさか
分類ぶんるいAPG III
さかい : 植物しょくぶつかい Plantae
階級かいきゅうなし : 被子植物ひししょくぶつ Angiosperms
階級かいきゅうなし : 真正しんしょうそう子葉しようるい Eudicots
階級かいきゅうなし : コア真正しんせいそう子葉しようるい Core eudicots
階級かいきゅうなし : バラるい Rosids
階級かいきゅうなし : 真正しんしょうバラるいII Eurosids II
: ムクロジ Sapindales
: ウルシ Anacardiaceae
ぞく : ヌルデぞく Rhus
たね : ヌルデ広義こうぎR. javanica
変種へんしゅ : ヌルデ R. j. var. chinensis
学名がくめい
標準ひょうじゅん: Rhus javanica L. var. chinensis (Mill.) T.Yamaz. (1993)[1]

広義こうぎ: Rhus javanica L. (1753)[2]

シノニム
英名えいめい
Chinese sumac

名称めいしょう

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和名わみょう「ヌルデ」の由来ゆらいについては、諸説しょせつある。

  • えだると粘液ねんえきるところから[9]
  • かつてみききずつけてしろ樹液じゅえきり、うるしのように器物きぶつ塗料とりょうとして使つかったことから「」となり転訛てんかした[6][10]
  • ウルシ植物しょくぶつであり、樹液じゅえき粘液ねんえき)が塗料とりょう(ヌテ)に使つかわれたことから[9]

別名べつめい「フシノキ」は、後述こうじゅつする生薬きぐすり付子ふしがとれるである。「カチノキ」(かち)は、聖徳太子しょうとくたいし蘇我馬子そがのうまこ物部守屋もののべのもりやたたかいにさいし、ヌルデの仏像ぶつぞうつくり、馬子まご戦勝せんしょう祈願きがんしたとの伝承でんしょうから。またの別名べつめいに「シオノキ」や「天塩てしお」があり、果実かじつしろしおのような物質ぶっしつおおわれることから名付なづけられたものである[11][12]

中国ちゅうごくめいは、「しおふすま」「五倍子ふしじゅ[1]むしこぶの「五倍子ふし」は中国ちゅうごくでので、「ばいじゅ」や「ふう」という五倍子ふしという意味いみ名付なづけられたものである[11]英名えいめいは、中国ちゅうごくから日本にっぽん台湾たいわんまで分布ぶんぷられるものにもかかわらず、japanese sumac(ジャパニーズ・スマック)ともいう[9]

形態けいたい生態せいたい

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雌雄しゆうかぶ落葉らくよう広葉樹こうようじゅ低木ていぼくからしょう高木たかぎ[8]樹高きだかは3 - 8メートル (m) ほどであるが[13]、10 m以上いじょう大木たいぼくになることもある。いちねんえだ赤褐色せきかっしょくのこり、がた楕円だえんかわおおくできる[7]若木わかぎ樹皮じゅひみどり褐色かっしょくかわがあり、次第しだい緑色みどりいろけて、成木なりきはい褐色かっしょくになる[7]樹液じゅえき皮膚ひふにつくとかぶれやすい[6]

互生ごせいし、7 - 13まい(3 - 6つい)のしょうからなる奇数きすうじょう複葉ふくよう[8][14]じくつばさがあるのがおおきな特徴とくちょうである[15]しょうは5 - 12センチメートル (cm) のちょう楕円だえんがた[6]おなじウルシハゼノキヤマウルシかたちているが、えん鋸歯きょし目立めだち、もうおおくザラザラしており、じくつばさがあるのが特徴とくちょうである[10]。ヌルデのにはヌルデシロアブラムシ(ヌルデノミミフシアブラムシ、学名がくめい: Schlechtendalia chinensis)が寄生きせいし、ふくろのようなむしこぶむし癭)をつくることがある[8][11]あき紅葉こうようし、野山のやまいろど[15]紅葉こうようはハゼノキやヤマウルシほど赤色あかいろくならないが、あかだいだい茶色ちゃいろなどが混在こんざいすることもある[13][10]生育せいいく条件じょうけんがよい個体こたい若木わかぎではあざやかな赤色あかいろ紅葉こうようするが、表面ひょうめん粒状りゅうじょうむしこぶや病気びょうき発生はっせいしていたんでいることがおおく、ややよごれた橙色だいだいいろ紅葉こうようしている個体こたいおおられる[13]新芽しんめあかまる。ウルシの仲間なかまのヌルデのウルシ成分せいぶんウルシオール)はすくなく、かぶれるおそれはほとんどなく[9]なかにはでかぶれるひともいるがげきしょうにはならない[8]

花期かき晩夏ばんかから初秋しょしゅう(8 - 9がつ[8]えださき円錐えんすい花序かじょして、黄白こうはくしょくから白色はくしょくちいさなはな多数たすうかせる[8][6]はなすうミリメートル (mm) 程度ていどで、5つの花弁はなびらがある。雌花めばなには3つに枝分えだわかれしたしべがある。雄花おばなには5ほんしべがあり、花弁はなびらかえっている。花序かじょえだ先端せんたんからうえるが、なんとなくがることがおおい。果実かじつができるとさらにがる。

はてあき(10 - 11月)で[8]直径ちょっけい4 mmほどの扁平へんぺい球形きゅうけいをした果実かじつを、かたまって多数たすうつける[6]果実かじつじゅくすと赤色あかいろいろづく[10]果実かじつ表面ひょうめんにあらわれるしろこなのようなものはリンゴさんカルシウム結晶けっしょうであり、じゅくした果実かじつくちふくむと酸味さんみかんじられる[15]めすかぶえださきにできたはてじょふゆでものこ[7]かぶは、れた雄花おばなじょじくふゆでものこることもある[7]

冬芽とうが半球はんきゅうがた褐色かっしょく密生みっせいし、えだうずもれるようにつく[7]えださきかりいただきえだ上部じょうぶがわはほぼおなおおきさで、がわえだ互生ごせいする[7]こんはU字形じけいやV字形じけいで、維管たばこん多数たすうなら[7]

分布ぶんぷ生育せいいく環境かんきょう

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日本にっぽん朝鮮半島ちょうせんはんとう中国ちゅうごくヒマラヤ台湾たいわんなどの東南とうなんアジア各地かくち自生じせいする[8][9]日本にっぽんでは北海道ほっかいどう本州ほんしゅう四国しこく九州きゅうしゅうから琉球りゅうきゅう列島れっとうまで、ほぼ全域ぜんいきられる[15]低地ていち山地さんち分布ぶんぷし、日当ひあたりのよい山野さんやはやしゆかり、ヤブ、道路どうろ沿いの斜面しゃめん河原かわらなどにふつうにえる[15][13][10][7]えられることはまれである[16]

典型てんけいてきじゅで、あかるい場所ばしょこのみ、やま火事かじあと川原かわはらあたらしい崖崩がけくずれ、がけきりなどにしばしばさきあらわれる、いわゆる先駆せんく植物しょくぶつ(パイオニア植物しょくぶつ)のひとつにかぞえられる[17]日本にっぽん南部なんぶではクサギアカメガシワなどとともに、低木ていぼくとして道路どうろわきなどにさき出現しゅつげんするものである。伐採ばっさいなど森林しんりん攪乱かくらんけた場合ばあいにも出現しゅつげんする。種子しゅし土中どちゅう長期間ちょうきかん休眠きゅうみんすることがられている。伐採ばっさいなどにより自身じしん成育せいいくてきした環境かんきょうになるとすという適応てきおうであり、パイオニア植物しょくぶつにはよくられる性質せいしつである。

人間にんげんとのかかわり

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古来こらいから日本にっぽん村里むらざと人々ひとびと生活せいかつふかかかわりごういがある。ヌルデシロアブラムシ(ヌルデノミミフシアブラムシ)が寄生きせいするとおおきなむし癭(ちゅうえい)ができ[8][11]なかにはくろ紫色むらさきいろのアブラムシが多数たすうまっている。このむし癭は五倍子ふし(ごばいし)、または付子ふし(ふし)といってタンニン豊富ほうふふくまれており、これがもの歯痛しつうくすりかわなめしもちいられたり、黒色こくしょく染料せんりょう原料げんりょうになる[6][8][11]ものではそら五倍子ふししょくとよばれる伝統でんとうてきいろをつくりだす。またインキ白髪染しらがぞめ原料げんりょうになるほか、かつては既婚きこん女性じょせいおよび18さい以上いじょう未婚みこん女性じょせい習慣しゅうかんであった歯黒はぐろにももちいられた[15]

ヌルデの果実かじつしおふすま(えんぶし)といい、下痢げりせきくすりとしてもちいられた。このじつイカルなどのとりこのんでべる。

木材もくざいいろしろ材質ざいしつやわらかいことから、木彫きぼり材料ざいりょう木札きふだばこなどの細工ざいくぶつ利用りようされる[15]地方ちほうにより、ヌルデざい呪力じゅりょくったとしてたっとばれ、病気びょうきわざわのぞけの護符ごふざいとしておお使つかわれる[15][8]

日本にっぽんではふつう食用しょくようもちいないが、朝鮮ちょうせんでは、はるわかんで食用しょくようにするという[14]果実かじつ表面ひょうめん酸味さんみのあるしろこながついていて、あきおそくになると酸味さんみし、信州しんしゅう長野ながのけん)ではむかしこれをしお代用だいようにしたとうが、塩分えんぶんふくまれていない[11]

ヌルデのからは五倍子ふし(ごばいし)あるいは付子ふし(ふし)をることができた[18]五倍子ふしはヌルデのやや葉柄ようへいヌルデシロアブラムシにより刺激しげきされ、こぶじょう肥大ひだいしたむし癭(むしこぶ)である[15][10]中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくでの生産せいさんりょう最大さいだいで、インドでも採取さいしゅされる[11]日本にっぽんでは瀬戸内海せとないかい沿岸えんがんおお[11]工業こうぎょうようタンニンさん製造せいぞう原料げんりょうとして、1938ねんころには山口やまぐちけん三重みえけん兵庫ひょうごけんなどを中心ちゅうしんに200tの五倍子ふし生産せいさんされていた。戦後せんごは、中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくからの輸入ゆにゅうひん急増きゅうぞうして生産せいさん激減げきげんしている。主成分しゅせいぶんはペンタ-m-ジガロイル-βべーた-グルコースという物質ぶっしつである[11]おおきさはさまざまであるが、おおくはながさ6 - 8センチメートルほどで、不揃ふぞろいにぶんえだした黄色おうしょくびた灰色はいいろふくろじょうかたちをしている[11]なかにはアブラムシの死骸しがいのこっていることもあり、これをのぞいて製品せいひんにする[11]

むしこぶはくろ染料せんりょう使つかわれていて、白髪染しらがぞめや歯黒はぐろ[19][10]もの歯痛しつうなどにもちいられた。江戸えど時代じだい家庭かてい医学いがくしょである『救民きゅうみん医学いがくしょ』には「五倍子ふし疱瘡ほうそうくすり」としるされており、疱瘡ほうそう天然痘てんねんとう)の治療ちりょうもちいられた[8]

ただし、たけしどくのあるトリカブト附子ふし」も「付子ふし[ちゅう 1]かれることがあるので、混同こんどうしないよう注意ちゅういようする。

文学ぶんがく

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ヌルデは『万葉集まんようしゅう』にまれたうたがある。

  • 足柄あしがらわれにわとりやまの かづのわれをかつさねも かづさかずとも(詠人よみびとらず)(『万葉集まんようしゅうまきいちよん

花言葉はなことばは、「肉親にくしんきずな」「意外いがいおもい」である[8]

ヌルデぞく

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ヌルデぞく(ヌルデぞく、学名がくめい: Rhus)は、ウルシぞくひとつ。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ トリカブトのほうは「ぶし」または「ぶす」とむ。「付子ふし」よりも「附子ふし」のてるのがおおい。

出典しゅってん

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  1. ^ a b 米倉よねくら浩司こうじ梶田かじたただし (2003-). “Rhus javanica L. var. chinensis (Mill.) T.Yamaz. ヌルデ(標準ひょうじゅん”. BG Plants 和名わみょう学名がくめいインデックス(YList). 2022ねん12月13にち閲覧えつらん
  2. ^ 米倉よねくら浩司こうじ梶田かじたただし (2003-). “Rhus javanica L. ヌルデ(広義こうぎ”. BG Plants 和名わみょう学名がくめいインデックス(YList). 2022ねん12月13にち閲覧えつらん
  3. ^ 米倉よねくら浩司こうじ梶田かじたただし (2003-). “Rhus semialata Murray ヌルデ(シノニム)”. BG Plants 和名わみょう学名がくめいインデックス(YList). 2022ねん12月13にち閲覧えつらん
  4. ^ 米倉よねくら浩司こうじ梶田かじたただし (2003-). “Rhus chinensis Mill. ヌルデ(シノニム)”. BG Plants 和名わみょう学名がくめいインデックス(YList). 2022ねん12月13にち閲覧えつらん
  5. ^ 米倉よねくら浩司こうじ梶田かじたただし (2003-). “Rhus javanica L. var. roxburghii auct. non (DC.) Rehder et E.H.Wilson ヌルデ(シノニム)”. BG Plants 和名わみょう学名がくめいインデックス(YList). 2022ねん12月13にち閲覧えつらん
  6. ^ a b c d e f g 西田にしだ尚道なおみち監修かんしゅう 志村しむらたかし平野ひらの勝男かつおへん 2009, p. 232.
  7. ^ a b c d e f g h i j 鈴木すずき庸夫みちお高橋たかはしふゆやすのべ尚文なおふみ 2014, p. 101
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 田中たなかきよし 2011, p. 21.
  9. ^ a b c d e 辻井つじいたちいち 1995, p. 224.
  10. ^ a b c d e f g 亀田かめだ龍吉りゅうきち 2014, p. 41.
  11. ^ a b c d e f g h i j k 辻井つじいたちいち 1995, p. 227.
  12. ^ シオノキ”. 大江おおえまち山里やまざと交流こうりゅうかん やまさぁーべ. 2024ねん4がつ5にち閲覧えつらん
  13. ^ a b c d はやし将之まさゆき 2008, p. 42.
  14. ^ a b 辻井つじいたちいち 1995, p. 226.
  15. ^ a b c d e f g h i 平野ひらの隆久たかひさ監修かんしゅう 永岡書店ながおかしょてんへん 1997, p. 248.
  16. ^ はやし将之まさゆき 2008, p. 40.
  17. ^ 辻井つじいたちいち 1995, p. 225.
  18. ^ 五倍子ふし』 - コトバンク
  19. ^ 伊藤いとう清三せいぞう小野おの陽太郎ようたろう「ごばいし ばいいにしえ」『新版しんぱん 林業りんぎょう百科ひゃっか事典じてんだい2はんだい5さつ p252 日本にっぽん林業りんぎょう技術ぎじゅつ協会きょうかい 1984ねん昭和しょうわ59ねん発行はっこう

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 亀田かめだ龍吉りゅうきち事典じてん世界文化社せかいぶんかしゃ、2014ねん10がつ5にちISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木すずき庸夫みちお高橋たかはしふゆやすのべ尚文なおふみ樹皮じゅひ冬芽とうが四季しきつうじて樹木じゅもく観察かんさつする 431しゅまことぶんどう新光しんこうしゃ〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014ねん10がつ10日とおか、101ぺーじISBN 978-4-416-61438-9 
  • 田中たなかきよしっておきたい100の日本にっぽんらしをささえる樹木じゅもくたち』主婦しゅふ友社ともしゃ主婦しゅふともベストBOOKS〉、2011ねん7がつ31にち、21ぺーじISBN 978-4-07-278497-6 
  • 辻井つじい達一たついち日本にっぽん樹木じゅもく中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ中公新書ちゅうこうしんしょ〉、1995ねん4がつ25にち、224 - 227ぺーじISBN 4-12-101238-0 
  • 西田にしだ尚道なおみち監修かんしゅう 志村しむらたかし平野ひらの勝男かつおへん日本にっぽん樹木じゅもく学習研究社がくしゅうけんきゅうしゃ増補ぞうほ改訂かいてい フィールドベスト図鑑ずかん〉、2009ねん8がつ4にち、232ぺーじISBN 978-4-05-403844-8 
  • はやし将之まさゆき紅葉こうようハンドブック』ぶんいち総合そうごう出版しゅっぱん、2008ねん9がつ2にち、42ぺーじISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 平野ひらの隆久たかひさ監修かんしゅう 永岡書店ながおかしょてんへん樹木じゅもくガイドブック』永岡書店ながおかしょてん、1997ねん5がつ10日とおか、248ぺーじISBN 4-522-21557-6 
  • 茂木もきとおる写真しゃしんはな はなれべんはな2』高橋たかはし秀男ひでお勝山かつやま輝男てるお監修かんしゅうやま溪谷社けいこくしゃやまけいハンディ図鑑ずかん〉、2000ねん、284-287ぺーじISBN 4-635-07004-2 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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