(Translated by https://www.hiragana.jp/)
重水素 - Wikipedia

重水素じゅうすいそ

水素すいそ同位どういたい

重水素じゅうすいそ(じゅうすいそ、えい: heavy hydrogen)またはデューテリウム (えい: deuterium) とは、水素すいそ安定あんてい同位どういたいのうち、原子核げんしかく陽子ようし1つと中性子ちゅうせいし1つとで構成こうせいされるものをいう。重水素じゅうすいそ2H表記ひょうきするが、 D(deuteriumの頭文字かしらもじ)と表記ひょうきすることもある。たとえば重水じゅうすい分子ぶんししきを D2O と表記ひょうきすることがある。

重水素じゅうすいそ
核種かくしゅ一覧いちらんにおける重水素じゅうすいそ位置いち
概要がいよう
名称めいしょう記号きごう デューテリウム,2H or D
中性子ちゅうせいし 1
陽子ようし 1
核種かくしゅ情報じょうほう
天然てんねん存在そんざい 0.015%
同位どうい体質たいしつりょう 2.01410178 u
スピンかく運動うんどうりょう 1+
余剰よじょうエネルギー 13135.720± 0.001 keV
結合けつごうエネルギー 2224.52± 0.20 keV
ガス封入ふうにゅうかんはいったプラズマ状態じょうたい重水素じゅうすいそ

原子核げんしかく陽子ようし1つと中性子ちゅうせいし2つとで構成こうせいされる水素すいそ (3H) はさん重水素じゅうすいそまたはトリチウムばれる。重水素じゅうすいそ三重みえ水素すいそたいして普通ふつう水素すいそ原子核げんしかく陽子ようし1つのもの)はけい水素すいそ (1H) とばれる。

概要がいよう

編集へんしゅう

1931ねんアメリカ化学かがくしゃハロルド・ユーリー発見はっけんした(ユーリーはこの功績こうせき1934ねんノーベル化学かがくしょう受賞じゅしょうした)。

けい水素すいそ (1H) の原子核げんしかく陽子ようし1つであるのにたいして、重水素じゅうすいそ原子核げんしかく陽子ようし1つと中性子ちゅうせいし1つから構成こうせいされる。なお、この重水素じゅうすいそ原子核げんしかくは、じゅう陽子ようし (えい: deuteron) ともばれる。

地球ちきゅうじょう水素すいそ全体ぜんたいなかでの存在そんざい割合わりあいは、けい水素すいそが99.985 %重水素じゅうすいそが0.015 %である。三重みえ水素すいそ割合わりあいはごくわずかである。

なお、2H3Hさん重水素じゅうすいそ両方りょうほうあわせて、重水素じゅうすいそ (heavy hydrogen) とぶこともあるので、3Hさん重水素じゅうすいそ)と区別くべつするために、2H重水素じゅうすいそぶこともある。さん重水素じゅうすいそは、存在そんざいがごくわずかであり、時間じかんつと 3He(ヘリウム3)わる放射ほうしゃせい同位どういたいであり、この 3Hふくめずに安定あんてい同位どういたいである 2H のみをして「重水素じゅうすいそ」(deuterium) と場合ばあいおおい。

性質せいしつ製法せいほう

編集へんしゅう

重水素じゅうすいそ原子げんしが2つ結合けつごうした分子ぶんし (D2) も重水素じゅうすいそぶ。常温じょうおんつねあつ無色むしょく無臭むしゅう気体きたい融点ゆうてん 18.7 ケルビン (K)沸点ふってん 23.8 Kで、けい水素すいそ分子ぶんし H2融点ゆうてん 14.0 K、沸点ふってん 20.6 K) にくらたかい。これは重水素じゅうすいそ原子げんしけい水素すいそ原子げんしのほぼ2ばい質量しつりょうがあるためで、物理ぶつりてき性質せいしつけい水素すいそことなり、また化学かがく反応はんのうのしやすさもことなることがある(重水素じゅうすいそ効果こうか)。たとえばみず電気でんき分解ぶんかいすると 1H2ほう発生はっせいしやすいので重水じゅうすい濃縮のうしゅくされ、この方法ほうほうきわめてたか純度じゅんど重水じゅうすい製造せいぞうすることができる。なお一般いっぱん植物しょくぶつ軽水けいすい吸収きゅうしゅうしやすい性質せいしつがあるため、種類しゅるいによっては7わりちかくまで重水じゅうすい濃縮のうしゅくすることが可能かのうである。

 
水素すいそ重水素じゅうすいそ三重みえ水素すいそのモデル

そのにも、重水じゅうすいほう軽水けいすいよりも1°C沸点ふってんたかこと利用りようした分別ふんべつ蒸留じょうりゅうほう (fractional distillation)[注釈ちゅうしゃく 1]重水素じゅうすいそをHDのかたちふくんだ水素すいそガスをみずにとおすと重水素じゅうすいそみず分子ぶんし置換ちかんする(ただし触媒しょくばい必要ひつようである)ことを利用りようした交換こうかん反応はんのうほう (catalytic exchange)[注釈ちゅうしゃく 2]などがある[1]

重水素じゅうすいそ原子げんし2原子核げんしかく融合ゆうごうさせると 3H3He生成せいせいされるととも莫大ばくだいなエネルギーが放出ほうしゅつされ(D-Dはんおう)、恒星こうせい初期しょきかく融合ゆうごう反応はんのうがこれにたる。なお、褐色かっしょく矮星じゅん褐色かっしょく矮星は、D-Dはんおうこるかこらないかで区別くべつされている。また、かく融合ゆうごう発電はつでん実験じっけん水素すいそばくだんでは、おもにD-Dはんおうより反応はんのう温度おんど条件じょうけんひくい、重水素じゅうすいそさん重水素じゅうすいそかく融合ゆうごう反応はんのう(D-Tはんおう)がもちいられる。重水素じゅうすいそ海水かいすいちゅう大量たいりょう存在そんざいするため、かく融合ゆうごう燃料ねんりょうとして有望ゆうぼうされている[2]

かく融合ゆうごう燃料ねんりょうとしての利用りようほか原子核げんしかく反応はんのうでの中性子ちゅうせいし減速げんそくざい化学かがく生物せいぶつがくでは同位どういたい効果こうか研究けんきゅう使用しようされている。また、NMR溶媒ようばいとして重水素じゅうすいそ原子げんし置換ちかんされた溶媒ようばい重水じゅうすいじゅうクロロホルムなど、じゅう溶媒ようばいばれる)がもちいられている。また、生物せいぶつにおけるみず (H2O) の代謝たいしゃ研究けんきゅう[3][4]アミノ酸あみのさん代謝たいしゃ研究けんきゅう[5][6]さいのトレーサーとしてもちいられる。

製薬せいやく業界ぎょうかいでは、既存きそんくすりけい水素すいそ原子げんし重水素じゅうすいそ原子げんし置換ちかんすることで、新薬しんやくとして特許とっきょ出願しゅつがんする手法しゅほうがある[7][8]重水素じゅうすいそ効果こうかのために反応はんのうせい低下ていかし、代謝たいしゃ分解ぶんかいされるまでの時間じかんながくなるため、従来じゅうらいひんくら薬効やっこうたかくなることが実際じっさい確認かくにんされたれいもある[9]。しかし、進歩しんぽせい新規しんきせいけるために特許とっきょ困難こんなん場合ばあいもある[10]2017ねん4がつハンチントンびょう治療ちりょうやくテトラベナジン英語えいごばん(コレアジン)の、2つのメトキシもと水素すいそ重水素じゅうすいそ置換ちかんしたデューテトラベナジン英語えいごばん商標しょうひょうめいAustedo)がFDAにより認可にんかされた[11]ほんやくは、はじめて認可にんかされた重水素じゅうすいそ医薬品いやくひんとなる。

日本にっぽんでは岩谷産業いわたにさんぎょうが2018ねん重水素じゅうすいそガスの商業しょうぎょう生産せいさん国内こくないはじめて開始かいししたと発表はっぴょうした。従来じゅうらいアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくなどから輸入ゆにゅうしていた。通常つうじょう水素すいそガスより半導体はんどうたい材料ざいりょう結合けつごうしやすく、耐久たいきゅうせいたかめるために使つかわれる[12]

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう

注釈ちゅうしゃく

編集へんしゅう
  1. ^ この原理げんりにもとづいた重水じゅうすい分離ぶんり工場こうじょうが duPont しゃによって1944ねん事業じぎょうとして操業そうぎょうされた。
  2. ^ この原理げんりにもとづいた重水じゅうすい分離ぶんり工場こうじょうは Consolidated Mining and Smelting しゃが British Columbia Trail に建設けんせつしたことがある。

出典しゅってん

編集へんしゅう
  1. ^ 原子核げんしかく工学こうがく(1955) pp.70-71
  2. ^ 狐崎きつねざき晶雄あきおかく融合ゆうごう開発かいはつ展望てんぼう 『ターボ機械きかい』 Vol.18 (1990) No.1 P.16-23, doi:10.11458/tsj1973.18.16
  3. ^ 馬場ばば茂雄しげお安定あんてい同位どういたいトレーサーほうによるヒトにおける代謝たいしゃ研究けんきゅうほう臨床りんしょう薬理やくり』 1973ねん 4かん 3-4ごう p.279-287, doi:10.3999/jscpt.4.279
  4. ^ 都築つづきひろひさほか、重水素じゅうすいそ標識ひょうしき化合かごうぶつ合成ごうせいほうこうかぴざいへの応用おうよう RADIOISOTOPES Vol.44 (1995) No.12 P.929-930, doi:10.3769/radioisotopes.44.12_929
  5. ^ 五郎丸ごろうまるあつし ほか、重水素じゅうすいそ標識ひょうしきアミノピリンの代謝たいしゃにおける同位どういたい効果こうか 『YAKUGAKU ZASSHI』 Vol.101 (1981) No.6 P.544-547, doi:10.1248/yakushi1947.101.6_544
  6. ^ 寒川さむかわ喜三郎きさぶろうあきもりはく発芽はつがトウモロコシのはいばんにおける重水素じゅうすいそ標識ひょうしきアミノ酸あみのさん挙動きょどう 『RADIOISOTOPES』 Vol.26 (1977) No.12 P.891-894, doi:10.3769/radioisotopes.26.12_891
  7. ^ 特許とっきょ公開こうかい2007-119489「重水素じゅうすいそシクロスポリンアナログおよび免疫めんえき調節ちょうせつざいとしてのそれらの使用しよう”. j-tokkyo. 2017ねん11月16にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2015ねん10がつ28にち閲覧えつらん
  8. ^ 特許とっきょ公開こうかい2008-222724「重水素じゅうすいそシクロスポリンアナログおよび免疫めんえき調節ちょうせつざいとしてのそれらの使用しよう”. j-tokkyo. 2016ねん3がつ6にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2015ねん10がつ28にち閲覧えつらん
  9. ^ "Big interest in heavy drugs", Nature 2009. doi:10.1038/458269a
  10. ^ 特許とっきょ公開こうかい2005-343904(拒絶きょぜつ査定さてい
  11. ^ 重水素じゅうすいそ医薬品いやくひん衝撃しょうげき佐藤さとう健太郎けんたろうくすり読、2017ねん9がつ7にち
  12. ^ 重水素じゅうすいそガスの商業しょうぎょう生産せいさん開始かいし日経にっけい産業さんぎょう新聞しんぶん』2018ねん7がつ4にち先端せんたん技術ぎじゅつめん)2018ねん7がつ15にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく

編集へんしゅう

参考さんこう文献ぶんけん

編集へんしゅう
  • Raymond L.Murray ちょ杉本すぎもと 朝雄あさお やく原子核げんしかく工学こうがく丸善まるぜん、1955ねんNCID BN04220412全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:55004325