チュ・クオック・グー

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上段じょうだんがチュ・クオック・グー(𡨸國語こくご)による表記ひょうきで、下段げだんチュノム下線かせん)と漢字かんじによる表記ひょうきである。「わたしはベトナムはなします」という意味いみ

チュ・クォック・グーベトナムChữ Quốc Ngữ / 𡨸國語こくご?)は、ラテン文字もじ使用しようしてベトナム表記ひょうきする方法ほうほう。アクセント符号ふごう併用へいようすることにより、ベトナムの6声調せいちょう表記ひょうきける。

「クォック・グー」とは「國語こくご」のベトナムみであり、「チュ」は「文字もじ)」のことなので、全体ぜんたいとして「国語こくご」を意味いみする。

概要がいよう[編集へんしゅう]

1651ねんカトリック教会きょうかいのフランスじん宣教師せんきょうしアレクサンドル・ドゥ・ロード作成さくせいした『ベトナム-ラテン語らてんご-ポルトガル辞典じてん』において、ベトナムをラテン・アルファベット表記ひょうきしたものを起源きげんとする。ベトナムフランス植民しょくみん公文こうぶんしょなどで使用しようされるようになったことから普及ふきゅうし、1945ねんのベトナム独立どくりつに、漢字かんじチュノム(喃字)にわり、ベトナム表記ひょうきする文字もじとしてデ・ファクト採択さいたくされ現在げんざいいたる。

現代げんだいベトナムでの書記しょきほうでは、手書てがきの場合ばあい筆記ひっきたい主流しゅりゅうである。チュ・クォック・グーを使つかった書道しょどうられる。

アルファベット・声調せいちょう記号きごう[編集へんしゅう]

通常つうじょう使用しようされる文字もじ[編集へんしゅう]

使用しようしているアルファベットは、基本きほん26から F, J, W, Z をのぞいた22ダイアクリティカルマークきの7くわえたつぎの29である[1]。F, J, W, Z は外来がいらい借用しゃくよう造語ぞうごでしかもちいない。なお、下線かせんをつけたはは音字おんじ子音しいんのみ音節おんせつまつつことができる。

文字もじめいかたフランス語ふらんすごアルファベット影響えいきょうつよけており、以下いかとおりとなっている。

名前なまえ[1] 大文字おおもじ 小文字こもんじ 文字もじめい キーボード入力にゅうりょく方式ほうしき IPA表記ひょうき 備考びこう日本語にほんご表記ひょうき
Telex VNI VIQR Windows
アー A a a [aː], [ɐː] ア(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは アー)
Ă ă á AW A8 A( 1 [a], [ɐ] ア(音節おんせつまつ子音しいんは、m, n, ng, u, y)/アッ(音節おんせつまつ子音しいんは、c, p, t)
アッ Â â AA A6 A^ 2 [ə], [ɜ], [ʌ], [ɤ] ア(音節おんせつまつ子音しいんは、m, n, ng, u, y)/アッ(音節おんせつまつ子音しいんは、c, p, t)
まさしく発音はつおんするため、「âu=オウ、ây=エイ」表記ひょうきちが場合ばあいもある(れいTây Ninh=テイニン[2][3]
ベー B b [ɓ], [ʔb] ぎょう
セー C c [k] ぎょう(※ I, E, Ê のまえ以外いがい
[k̚], [k͡p̚] 音節おんせつまつでは ックおん
ゼー D d [z], [j] ぎょう北部ほくぶ地方ちほう)/ヤゆき中部ちゅうぶ南部なんぶ地方ちほう
デー Đ đ đê DD D9 DD 0 [ɗ], [ʔd] ぎょう
エー E e e [ɛ] エ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは エー)
エー Ê ê ê EE E6 E^ 3 [e] エ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは エー)
ジェー G g giê [ɣ], [ʒ] ぎょう(※ I, E, Ê のまえ以外いがい)ジャぎょう(※ I, IÊ のまえ
ハッ H h hắt [h] ぎょう
イー I i i [i] イ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは イー)
[j] 音節おんせつまつでは イおん
カー K k ca [k] ぎょう
通常つうじょうは I, E, Ê のまえのみ、ただし I, E, Ê のまえ以外いがいでも使用しようされる
れいBắc Kạn, Kon Tum
音節おんせつまつ場合ばあいもある(れいĐắk Lắk
エラー L l e-lờ [l] ぎょう
エンマー M m em-mờ [m] ぎょう
音節おんせつまつでは ムおん
エンナー N n en-nờ [n] ぎょう
[n], [ŋ] 音節おんせつまつでは ンおん
オー O o o [ɔ] オ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは オー)
[w] 音節おんせつまつでは オ(ウ)おと
オー Ô ô ô OO O6 O^ 4 [o] オ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは オー)
アー Ơ ơ ơ OW O7 O+/O* ] [əː], [ɜː], [ɤː] オ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは オー)
ペー P p [p] ぎょう
[p̚] 音節おんせつまつでは ップおん
クイー Q q quy [k] ク(※ Q ののちにはかならず U がつづき、qu とつづられる)
エラー R r e-rờ [z], [ɹ], [ʐ] ぎょう北部ほくぶ地方ちほう)/ラぎょう中部ちゅうぶ南部なんぶ地方ちほう
エッシ S s ét-xì [s], [ʂ] ぎょう北部ほくぶ地域ちいき)/シャゆき中部ちゅうぶ南部なんぶ地域ちいき
テー T t [t] ぎょう
[t̚], [k̚] 音節おんせつまつでは「ッ」おとただし しばしば「ット」と表記ひょうきされる(北部ほくぶ地方ちほう)/ックおん中部ちゅうぶ南部なんぶ地方ちほう
ウー U u u [u] ウ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは ウー)
[w] 音節おんせつまつでは ウーおと
ウー Ư ư ư UW U7 U+/U* [ [ɯ], [ɨ] ウ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは ウー)
ヴェー V v [v], [j] ヴァぎょう北部ほくぶ地方ちほう)/ヤゆき南部なんぶ地方ちほう
イクシ X x ích-xì [s] ぎょう
ながいイー/
イグレッ
Y y i dài
i-cờ-rét
[iː] イ(音節おんせつまつ子音しいん場合ばあいは イー)
[j] 音節おんせつまつでは イーおん

2わさる子音しいん[編集へんしゅう]

子音しいん特定とくていの2(ngh のみ3)のわせでべつおとあらわすものがある(じゅう音字おんじ三重みえ音字おんじ)。下線かせんをつけた子音しいんのみ音節おんせつまつつことができる。

つづ IPA表記ひょうき 備考びこう日本語にほんご表記ひょうき
音節おんせつあたま 音節おんせつまつ 音節おんせつあたま 音節おんせつまつ
ch [tɕ], [c] [c̚], [k̟̚], [t̚] チャぎょう ※ A, Ê, I のうしろのみ。
ach の場合ばあいはアだん+イックおんれいbạch=バイック)
êch の場合ばあいはエだん+イックおんれいlệch=レイック)
ich の場合ばあいはイだん+ックおんれいxích=シック)(北部ほくぶ地方ちほう)/ッ(ット)おと中部ちゅうぶ南部なんぶ地方ちほう
gh [ɣ] ぎょう(※ I, E, Ê のまえのみ)
gi [z], [ʒ], [j] ぎょう北部ほくぶ地域ちいき)/ジャぎょう、ヤぎょう中部ちゅうぶ南部なんぶ地域ちいき
※「i」「iê」が後続こうぞくする場合ばあいは「ii」とつづらないで、あたま子音しいんの「i」を省略しょうりゃくしていちだけく。
れい:「gi」 + 「iếng」= 「giiếng」→「giếng」となる。

発音はつおんは「ジェン」(ちいさい「エ」)ではなく「ジエン」(おおきい「エ」)である([ziəŋ ˧˥])。

kh [x], [kʰ] 通常つうじょうはカぎょう(※ベトナム発音はつおんではカゆきとハぎょうなかあいだおん
ng [ŋ] [ŋ], [ŋ͡m] ぎょう(※ I, E, Ê のまえ以外いがい ン(ング)おと
ngh [ŋ] ぎょう(※ I, E, Ê のまえのみ)
nh [ɲ] [ɲ], [ŋ̟], [n] ニャぎょう ※ A, Ê, I のうしろのみ。
anh の場合ばあいはアだん+インおんれいbánh=バイン)
ênh の場合ばあいはエだん+インおんれいlệnh=レイン)
inh の場合ばあいはイだん+ンおんれいxinh=シン)(北部ほくぶ地方ちほう)/ンおん中部ちゅうぶ南部なんぶ地方ちほう
ph [f] ファぎょう
qu [k(w)], [w] クワぎょう北部ほくぶ地方ちほう)/ワゆき南部なんぶ地方ちほう)(※ Q ののちにはかならず U がつづき、qu とつづられる)
th [tʰ] ぎょう
tr [tɕ], [ʈ], [c], [ʈ͡ʂ], [tr] チャぎょう(※トラぎょう表記ひょうきされる場合ばあいもある)

通常つうじょう使用しようされない文字もじ[編集へんしゅう]

F, J, W, Zの4過去かこには通常つうじょうでも使用しようされていたが、現在げんざい外来がいらい借用しゃくよう造語ぞうごでしか使用しようされない。

名前なまえ 大文字おおもじ 小文字こもんじ 文字もじめい おな発音はつおん文字もじ
エッフ F f ép ph
ジー J j gi gi
ダップリュー/
ヴェーケップ
W w vê-kép o..., u...
(うしろに母音ぼいんつづ場合ばあい)
ゼッ Z z dét d

声調せいちょう記号きごう[編集へんしゅう]

以下いかの6種類しゅるい(うち1種類しゅるい記号きごうなし)の声調せいちょう記号きごうはは音字おんじしゅ母音ぼいん、または、かい母音ぼいん)の上部じょうぶ(6.thanh nặng タィンナン (じゅう調ちょう) のみは下部かぶ)に付記ふきする(れいẪ, ở, ý, ặ)[4]

音節おんせつまつ子音しいん「p, t, c/k, ch」は、「3.thanh sắcするど調ちょう)」と「6.thanh nặngじゅう調ちょう)」のふたつの声調せいちょうしからない。日本語にほんご表記ひょうきにはよく促音そくおん「ッ」がもちいられる。

音節おんせつまつ子音しいん「m, n, ng, nh」においても、平仄ひょうそくbằng (たいら)の場合ばあいは、日本語にほんご表記ひょうきにはよく長音ちょうおん記号きごう「ー」がもちいられ、trắc (仄)の場合ばあい長音ちょうおん記号きごう不要ふよう

番号ばんごう 声調せいちょうめい 記号きごう 声調せいちょうパターン 声調せいちょうIPA表記ひょうき 平仄ひょうそく キーボード入力にゅうりょく方式ほうしき 備考びこう 日本語にほんご表記ひょうき
Telex VNI VIQR Windows 音節おんせつまつ「c/k・ch・p・t」の場合ばあい 音節おんせつまつ「n・ng・nh・m」の場合ばあい
1 thanh ngang タィンガン(たいら調ちょう平声ひょうしょうよこごえ]) (なし) 中平なかひら調ちょう ˧ 33 bằng (たいら) 不要ふよう 不要ふよう 不要ふよう 不要ふよう 普通ふつうたかさよりすこたかめでたいらにばす 声調せいちょう よく長音ちょうおん記号きごう「ー」がもちいられる
Z 0 -
2 thanh huyền タィンフイェン(たれ調ちょうげんごえ]) ` (グレイヴ) ていくだ調しらべていたいら調ちょう ˨ (˨˩) 21 (22) bằng (たいら) F 2 ` 5 残念ざんねんそうに、ややひくところからばすようにゆっくりとひくがる 声調せいちょう よく長音ちょうおん記号きごう「ー」がもちいられる
3 thanh sắc タィンサッ(ク)(するど調ちょうするどごえ]) ´ (アキュート) こうのぼる調ちょう ˧˥ 35 trắc (仄) S 1 ' 8 普通ふつうたかさから一気いっき素早すばや上昇じょうしょうする よく促音そくおん「ッ」がもちいられる 長音ちょうおん記号きごう不要ふよう
4 thanh hỏi タィンホーイ(とい調ちょうといごえ])  ̉ (フック) くだのぼり調ちょう ˧˩˧ 312 (313) trắc (仄) R 3 ? 6 普通ふつうたかさからゆっくりとひくがって、最後さいごすこがる(個人こじんがあり、がらないこともある) 声調せいちょう 長音ちょうおん記号きごう不要ふよう
5 thanh ngã タィンガー(転調てんちょう[跌声]) ˜ (チルダ) こうのぼる調ちょう昇降しょうこう調ちょう)+喉頭こうとう ˦˥˦ (˧ˀ˦˥) 3ʔ5 325 (324) trắc (仄) X 4 ~ 7 最初さいしょからのど緊張きんちょうともないながら、普通ふつうたかさからすこがって、一瞬いっしゅん声門せいもんじたのち急激きゅうげきがる 声調せいちょう 長音ちょうおん記号きごう不要ふよう
6 thanh nặng タィンナン(じゅう調ちょうじゅうこえ])  ̣ (ドット) ていくだ調ちょう喉頭こうとう ˨˩ (˨˩ˀ) 21ʔ (21) trắc (仄) J 5 . 9 最初さいしょからのど緊張きんちょうともないながら、重々おもおもしくのどおくおところすように、ややひくところから一気いっきがって声門せいもんじる(声調せいちょうよりもおとながさがすこみじかい) よく促音そくおん「ッ」がもちいられる 長音ちょうおん記号きごう不要ふよう

ここでしめした声調せいちょうしきであり、5がもっとたかく、1がもっとひくいことをあらわす。


声調せいちょう記号きごう単独たんどく記載きさいされることはく、つねはは音字おんじわせて下表かひょうのように表記ひょうきされる。はは音字おんじはダイアクリティカルマークきのものをふくめて12存在そんざいするため、はは音字おんじ声調せいちょう記号きごうわせは72パターンとなる。ラテン文字もじ表記ひょうき言語げんごとしてはめずらしく1文字もじ複数ふくすうのダイアクリティカルマークをした表記ひょうき多用たようされることが特徴とくちょうてきである。

番号ばんごう 声調せいちょうめい a ă â e ê i o ô ơ u ư y
1 thanh ngang A a Ă ă Â â E e Ê ê I i O o Ô ô Ơ ơ U u Ư ư Y y
2 thanh huyền À à È è Ì ì Ò ò Ù ù
3 thanh sắc Á á É é ế Í í Ó ó Ú ú Ý ý
4 thanh hỏi
5 thanh ngã Ã ã Ĩ ĩ Õ õ Ũ ũ
6 thanh nặng














かち[編集へんしゅう]

かちは、西欧せいおう言語げんご一般いっぱんてきかたり単位たんいではなく音節おんせつごとにおこなう。固有名詞こゆうめいし複数ふくすう音節おんせつ場合ばあいは、ぜん音節おんせつあたま大文字おおもじにする(れい:○ Hồ Chí Minh, ✕ Hồ chí minh

歴史れきし[編集へんしゅう]

アレクサンドル・ドゥ・ロード作成さくせいした、ベトナムマ字まじ表記ひょうき辞書じしょ。チュ・クオック・グーの原型げんけいとなった。
1938ねんきた圻で発行はっこうされた行政ぎょうせい文書ぶんしょひだりにはチュ・クオック・グーとかん喃文が併記へいきされ、みぎにはフランス語ふらんすごわけ印章いんしょうがある。
チュ・クオック・グーでつづられたたてたいれんNhân Dân mãi mãi nhớ ơn người:人民じんみん永遠えいえんひとホー・チ・ミンす)のおんおぼえる/Tổ quốc đời đời ghi công bác祖国そこく永久えいきゅうにおじさん(ホー・チ・ミンをす)にぞくする

ベトナムでは、公式こうしき言葉ことばとして、20世紀せいきいたるまで漢文かんぶんもちいられてきた。また、漢字かんじ語彙ごい以外いがいのベトナム固有こゆうかたり表記ひょうきするための文字もじであるチュノム13世紀せいき発明はつめいされて以降いこう徐々じょじょ発展はってんし、知識ちしきじんあいだなどで使用しようされてきたが、漢字かんじをより複雑ふくざつにしたものであり習得しゅうとくむずかしく統一とういつした規範きはん整備せいびされなかった。18世紀せいき西山にしやまちょうなどのいち時期じきのぞき、公文書こうぶんしょでは採用さいようされなかった。

1651ねんに、フランスじん宣教師せんきょうしアレクサンドル・ドゥ・ロードが、現在げんざいのチュ・クォック・グーの原型げんけいとなるベトナムマ字まじ表記ひょうき発明はつめいしたが、おもにヨーロッパ宣教師せんきょうしのベトナム習得しゅうとくようカトリック教会きょうかいうちでの布教ふきょうよう使用しようされるのがおもであり、一般いっぱんのベトナムじん普及ふきゅうすることはなかった。

こうした状況じょうきょう変化へんかしょうじさせたのが、19世紀せいき後半こうはん以降いこうフランスによるベトナム阮朝植民しょくみんである。まず、はじめにチュ・クオック・グーの普及ふきゅうはじまったのはみなみ(ナムキ:ベトナム南部なんぶ)からである。1862ねんサイゴン条約じょうやくによりフランスはしば棍(サイゴン:現在げんざいホーチミン)などみなみ一帯いったい領有りょうゆうすることとなったが、領有りょうゆう同時どうじ当該とうがい地域ちいきでのフランス語ふらんすご公用こうよう補助ほじょ言語げんごとしてのチュ・クオック・グーによるベトナムマ字まじ表記ひょうきはかられた。1867ねんにはサイゴンにて、ベトナムはつのチュ・クォック・グーである『よしみていむくい (Gia Định báo)』が刊行かんこうされている。1887ねんしんふつ戦争せんそう勝利しょうりしたフランスはふつりょうインドシナ成立せいりつさせ、阮朝の帝都ていと順化じゅんか現在げんざいフエ)が所在しょざいするやすみなみちゅう圻:チュンキ)、古都こと河内かわうちハノイ)が所在しょざいする東京とうきょうトンキン、またはきた圻:バッキ)をふくめたベトナム全域ぜんいき植民しょくみん保護ほごこくした。当該とうがい地域ちいきでもフランス当局とうきょくは、フランス語ふらんすごとチュ・クォック・グー教育きょういく推進すいしんはかったが、チュ・クォック・グー教育きょういくはあくまでも補助ほじょてきなものであり、最終さいしゅうてきフランス語ふらんすご公用こうよう円滑えんかつすすめるため、ベトナムマ字まじはかったにぎなかった。ベトナムの伝統でんとう文化ぶんか軽視けいしするフランスの教育きょういく政策せいさくには反発はんぱつつよく、漢文かんぶん素養そようおもんずる伝統でんとうてき知識ちしきじんれられるところではなく、またマ字まじ表記ひょうきのチュ・クオック・グーは蛮夷ばんい文字もじであるとの認識にんしき一般いっぱん大衆たいしゅうあいだでも根強ねづよかったことから、20世紀せいきはじめの段階だんかいでは国民こくみん文字もじとしてベトナムじんあいだ認識にんしきされるまでにはいたらなかった。

1906ねんに、フランス当局とうきょくはベトナムじん植民しょくみんエリートの養成ようせい目的もくてきとして、フランス語ふらんすご、チュ・クオック・グー教育きょういくはしらとした「ふつえつ学校がっこう」を設立せつりつした。しかしチュ・クオック・グーは初等しょとう教育きょういくの3年間ねんかんのみ教授きょうじゅされ、漢文かんぶん中等ちゅうとう教育きょういくでの選択せんたく科目かもくにとどめられるなど、フランス語ふらんすご中心ちゅうしんとした教育きょういく体制たいせいであることに変化へんかはなかった。科挙かきょにおいても、漢文かんぶんくわえて、チュ・クオック・グー、フランス語ふらんすご課目かもく必修ひっしゅうとなった。

この時期じき支配しはいけるベトナムじん知識ちしきじんあいだからもチュ・クオック・グーを蛮夷ばんい文字もじとして排斥はいせきするのではなく、むしろ受容じゅようすることにより、ベトナムはな言葉ことば言葉ことば一致いっちさせて民族みんぞくとしてのアイデンティティーを獲得かくとくしようとするうごきもてきた。1905ねんにはハノイではじめての漢文かんぶん、チュ・クオック・グー併記へいき新聞しんぶん大越おおこし新報しんぽう (Đại Việt tân báo)』が創刊そうかんされた。さらに1907ねんには、ファン・ボイ・チャウはん佩珠)らととも当時とうじのベトナム独立どくりつ運動うんどう中心ちゅうしんにいたファン・チュー・チンはんあまね)により、ハノイに「東京とうきょうじゅく (Đông Kinh Nghĩa Thục)」が創立そうりつされ、同校どうこうでは、漢文かんぶんくわえ、チュ・クオック・グー、フランス語ふらんすご教授きょうじゅされた。

フランス当局とうきょくうしたてにより、総督そうとくりの姿勢しせいではあったものの、チュ・クオック・グーを使用しようした文芸ぶんげいとして、1913ねんにグエン・ヴァン・ヴィン(阮文ひさし主筆しゅひつの『インドシナ雑誌ざっし東洋とうよう雑誌ざっしĐông Dương tạp chí)』、1917ねんにファム・クィン(范瓊)主筆しゅひつの『南風みなみかぜ雑誌ざっし (Nam Phong tạp chí)』が創刊そうかんされた。南風みなみかぜ雑誌ざっしは、漢文かんぶんとチュ・クオック・グーが併用へいようされており、時期じきるごとにチュ・クオック・グーの使用しよう比率ひりつたかまっていったことから、当時とうじのベトナムの文字もじ環境かんきょう推移すいいかんする重要じゅうよう研究けんきゅう材料ざいりょうとなっている。

このように、チュ・クオック・グーが浸透しんとうした都市としでは、新興しんこうのエリートそう中心ちゅうしんにチュ・クオック・グーの識字しきじりつたかまり、伝統でんとうてき漢文かんぶん・チュノム識字しきじそうすこしずつ圧倒あっとうしていくかたちになった一方いっぽう地方ちほうでは依然いぜんとして漢学かんがく教育きょういく権威けんいをもっており、科挙かきょもと受験生じゅけんせい私塾しじゅくなどにかよわせる家庭かていおおかった。この時期じきには、識字しきじりつひくかったものの、チュ・クオック・グーと漢文かんぶん・チュノムの両方りょうほう(およびフランス語ふらんすご)を使つかいこなせるトップエリートそう漢文かんぶん・チュノムしかきできない伝統でんとうてき知識ちしきじんそうや、チュ・クオック・グーしか使つかいこなせない新興しんこう知識ちしきじんそう併存へいそんし、雑誌ざっし書籍しょせきなども複数ふくすう文字もじにより刊行かんこうされていた。

このような状況じょうきょう終止符しゅうしふったのが、1945ねんベトナム民主みんしゅ共和きょうわこく独立どくりつであり、政府せいふは、識字しきじりつ向上こうじょう意図いとして、チュ・クオック・グーをベトナム公式こうしき表記ひょうき文字もじとすることをさだめた。現在げんざいのベトナムでは漢字かんじ漢文かんぶん使用しようはいされ、ベトナムはもっぱらチュ・クオック・グーのみにより表記ひょうきされている。

問題もんだいてん[編集へんしゅう]

チュ・クオック・グーは、起源きげんからしてフランスの植民しょくみん権力けんりょくちかがわ知識ちしきじん由来ゆらいするため、そのつづりにはフランス語ふらんすご中心ちゅうしんてき視点してんにたち、かならずしもベトナムてきしていないものもある。ベトナムおな音素おんそであっても、フランス語ふらんすごけるものやフランスじんいてちがおと判断はんだんしたものはける。れいとして音素おんそ k は、フランス語ふらんすご規範きはんにのっとり c、k、qu を使つかける[よう検証けんしょう]。また、音素おんそ g、ng も場合ばあいによって g、ng や gh、ngh とけられる。

またチュ・クオック・グーは中国ちゅうごく拼音ちゅう音字おんじははちがい、正式せいしき文字もじとして採用さいようされたため、それまでおおくの著作ちょさくあらわすのに使用しようされてきたチュノム表記ひょうきベトナム漢文かんぶん破滅はめついやったという側面そくめんもある。これも、チュ・クオック・グーは植民しょくみん権力けんりょくがベトナムの儒教じゅきょう仏教ぶっきょう、そしてベトナムの文明ぶんめいを、フランス文明ぶんめい、キリストきょう西にしヨーロッパ文明ぶんめいへとえるための道具どうぐとして利用りようした[よう出典しゅってん]ことに起因きいんする。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 村田むらた雄二郎ゆうじろう、C・ラマールへん漢字かんじけん近代きんだい ことばと国家こっか東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱんかい, 2005ねん

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]


  1. ^ a b 『ベトナムのしくみ』白水しろみずしゃ、233ぺーじISBN 978-4-560-06756-7 
  2. ^ ベトナムひがし南部なんぶにあるテイニンしょう観光かんこう”. ベトナムのこえ放送ほうそうきょく (2011ねん12月28にち). 2023ねん6がつ17にち閲覧えつらん
  3. ^ 全国ぜんこく各地かくち、テトをたのしむ”. ベトナムのこえ放送ほうそうきょく (2015ねん2がつ19にち). 2023ねん6がつ17にち閲覧えつらん
  4. ^ 中国ちゅうごくの「だいこえ」「だいこえ」のような呼称こしょうではなく、声調せいちょうめいあらわされる。声調せいちょう表記ひょうき順番じゅんばん声調せいちょう配列はいれつじゅん)は明確めいかくにはまっておらず、辞書じしょ参考さんこうしょ学習がくしゅうしょとうによってそれぞれことなる(最初さいしょは 1.thanh ngang [たいら調ちょう] からはじまって、最後さいごは 6.thanh nặng [じゅう調ちょう] でわる場合ばあいおおく、すくなくとも8とおりは存在そんざいする)。
    以下いかひょうしめされている声調せいちょう配列はいれつじゅん(「a à á ả ã ạ」)は、日本にっぽんのベトナム関連かんれん書籍しょせきもっともよくもちいられているものであり、このほかに「a à ả ã á ạ」、「a á à ả ã ạ」、「a à ã ả á ạ」とうがあるが、著者ちょしゃ出版しゅっぱんしゃによってもちいられる配列はいれつじゅん多少たしょうがある。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]