クエ

クエ
	東海大学とうかいだいがく海洋かいよう科学かがく博物館はくぶつかん飼育しいく個体こたい
保全ほぜん状じょう況きょう評価ひょうか
	VULNERABLE; (IUCN Red List Ver.3.1 (2001));
分類ぶんるい
学名がくめい
	Epinephelus bruneus; Bloch, 1793
和名わみょう
	クエ（垢あか穢けがれ）
英名えいめい
	Longtooth grouper

クエ（垢あか穢けがれ、学名がくめい：Epinephelus bruneus^[1]^[2] 英えい: Longtooth grouper）とはスズキ目めハタ科かに属ぞくする海水かいすい魚ぎょ^[3]。高級こうきゅうな食用しょくよう魚ぎょとして、漁業ぎょぎょうや養殖ようしょくの対象たいしょうとされる。

九州きゅうしゅうでは地方ちほう名めいでアラと呼よばれる。なお、アラ属ぞくのアラ Niphon spinosus とは別種べっしゅである^[4]。他たの地方ちほう名めいとしてモロコ（日本にっぽん各地かくち）、マス（愛知あいち県けん）、クエマス（三重みえ県けん）^[4]、アオナ（四国しこく）などもある。一般いっぱん的てきに漢字かんじ表記ひょうきは「垢あか穢けがれ」だが、当あて字じで「九きゅう絵え」（クエ）と書かかれることもある^[5]。

形態けいたい[編集へんしゅう]

成魚せいぎょは最大さいだいで体長たいちょう120cm、重おもさ50kgを超こえる^[3]。和歌山わかやま県けん西牟婁にしむろ郡ぐんすさみ町まち沖おきで全長ぜんちょう146cm・体重たいじゅう40kgに達たっする大型おおがた個体こたいが釣つれた記録きろくがある^[6]。

大物おおものが釣つれると新聞しんぶんの地方ちほう版ばん・スポーツ新聞しんぶんの釣つり面めんを賑にぎわせることもある^[7]。日本にっぽん産さんハタ類るいとしてはタマカイに次つぎ、マハタやコクハンアラ、カスリハタ、オオスジハタなどと並ならぶ大型おおがた種しゅである。釣つり人じんの憧あこがれの的てきともなっており、「釣つり名人めいじん」や「解体かいたい名人めいじん」を称しょうする人物じんぶつも各地かくちに存在そんざいする。

体からだ色しょくは淡あわい緑みどり褐色かっしょくで体からだには6本ほんの黒くろっぽい横縞よこじま模様もようがあり、頭部とうぶの横縞よこじまは口くちに向むかって斜ななめに走はしる。幼魚ようぎょは体からだ色しょくが黒くろく白しろっぽい明瞭めいりょうな縞しま模様もようがよく目立めだち、成長せいちょうするにつれて模様もようが不鮮明ふせんめいになり、大型おおがた個体こたいではほとんどの模様もようが消失しょうしつする。大型おおがた個体こたいは、マハタやマハタモドキとも似にる。なお、尾おびれ先端せんたんが白しろくないことや、体からだがやや細長ほそながいことなどで区別くべつできる。

生態せいたい[編集へんしゅう]

西日本にしにほんから東シナ海ひがししなかい、南シナ海みなみしなかいの沿岸えんがん域いきに分布ぶんぷする^[8]。

外洋がいように面めんした水深すいしん50mくらいまでの岩礁がんしょうや、サンゴ礁さんごしょうに生息せいそくする。群むれを作つくらず単独たんどくで生活せいかつし、昼ひるは岩いわ陰かげや洞窟どうくつの中なかに潜ひそむ。夜よるに泳およぎ回まわって獲物えものを探さがし、海底かいていからあまり離はなれずにゆっくりと泳およぎ回まわる。また、ねぐらからもあまり離はなれず、遠出とおでをすることは少すくない。肉食にくしょく性せいで、岩礁がんしょう域いきにすむ魚類ぎょるいやイカ、伊勢いせ海老えびなどを大おおきな口くちで丸まる飲のみにする。

産卵さんらん期きは5 - 7月がつ。秋あきには2 - 3cmほどの幼魚ようぎょが内湾ないわん・入江いりえのアマモ場じょうや潮しおだまり（タイドプール）で見みられ、成長せいちょうするにつれて沿岸えんがんの岩礁がんしょうから深ふか場じょうに移動いどうする^[9]。雌めす性せい先さき熟じゅくの性せい転換てんかんを行おこなうので雌めすはやや小型こがたの個体こたいが多おおく、大型おおがた個体こたいはほとんど雄ゆうである。

利用りよう[編集へんしゅう]

養殖ようしょく[編集へんしゅう]

漁業ぎょぎょうでは、釣つり漁りょうや定置網ていちあみ漁りょうで漁獲ぎょかくされる^[3]。ただし、海底かいていの岩いわ陰かげに潜ひそみ、積極せっきょく的てきにエサを求もとめて活動かつどうをしない習性しゅうせいもあり、天然てんねん物ぶつは漁獲ぎょかく量りょうが非常ひじょうに少すくないため、各地かくちで養殖ようしょくによる漁獲ぎょかくの拡大かくだいが試こころみられている。長岡技術科学大学ながおかぎじゅつかがくだいがく（新潟にいがた県けん）が微生物びせいぶつを使つかう水質すいしつ浄化じょうかシステムによる陸上りくじょう養殖ようしょく実験じっけんに成功せいこうしており^[10]、近畿大学きんきだいがくが和歌山わかやま県けんにて養殖ようしょくおよび生態せいたいの研究けんきゅうを行おこなっている。また、海洋かいよう深層しんそう水すいを利用りようした閉鎖へいさ循環じゅんかん式しき陸上りくじょう養殖ようしょく施設しせつでの養殖ようしょくが東海とうかい農政のうせい局きょくによって三重みえ県けん尾鷲おわせ市しなどで企図きとされている。そのほか、長崎ながさき県けん・佐賀さが県けんなどでは沿岸えんがんの生いけ簀すを利用りようした養殖ようしょくが行おこなわれている。

静岡しずおか県けん温水おんすい利用りよう研究けんきゅうセンターでは過去かこに浜岡はまおか原子力げんしりょく発電はつでん所しょからの温ぬる排水はいすいを利用りようしての完全かんぜん養殖ようしょくを成功せいこうさせており、地元じもと御前崎おまえざき市しの特産とくさん品ひんとして売うり出だしていた。和歌山わかやま県けんでは白浜しらはま町まちなどの観光かんこう地ちでクエ料理りょうりをアピールして集客しゅうきゃくを図はかっている。

同属どうぞくでより大型おおがたのタマカイとかけ合あわせた雑種ざっしゅとして「クエタマ」が2011年ねんに近畿大学きんきだいがく水産すいさん研究所けんきゅうじょ白浜しらはま実験じっけん場じょうで作出さくしゅつされており、クエより成長せいちょうが速はやくクエと同等どうとうの食味しょくみを持もつ代用だいよう魚ぎょとしての普及ふきゅうを目指めざし、養殖ようしょくされている^[11]。

食材しょくざい[編集へんしゅう]

旨味うまみ成分せいぶんが多おおく白身しろみ魚ぎょにしては脂あぶらの乗のりが豊富ほうふなことから、食材しょくざいとしては一般いっぱん的てきに超ちょう高級こうきゅう魚ぎょとして認知にんちされている。

ほぼ1年ねんを通とおして漁獲ぎょかくされ、特とくに大型おおがたの個体こたいになると年中ねんじゅう、味あじの差さはない。年中ねんじゅう取とり扱あつかう料理りょうり店てんや鮮魚せんぎょ店てんなどの評価ひょうかでは、産卵さんらんした後のちに食欲しょくよく旺盛おうせいになる夏場なつばから秋あきの味あじの評価ひょうかが高たかい。ただし、よく鍋なべ料理りょうりの具ぐ材ざいとして使つかわれるため、「旬しゅんは冬ふゆ」と言いわれることも多おおい。

刺身さしみ・鍋なべ料理りょうりなどで賞味しょうみされる非常ひじょうに高価こうかな魚さかなで^[3]、「クエ食くったら他たの魚さかな食しょくえん」とまで言いわれることもある^[7]。皮かわを引ひくと厚あつい皮下脂肪ひかしぼうがあるが味あじは淡白たんぱくで、「大おおきくて見みかけが悪わるいのに美味びみな魚さかな」の例れいとしてよく挙あげられる。ゼラチン質しつの多おおい目玉めだまや唇くちびるの肉にくも美味びみとされる。相撲すもう界さかいでは、ちゃんこ鍋なべの具ぐ材ざいとして馴染なじみ深ふかい。

ユネスコ無形むけい文化ぶんか遺産いさんにも登録とうろくされている佐賀さが県けん唐津からつ市しの「唐津からつくんち」では家いえを守まもる女性じょせいが来客らいきゃくに振ふる舞まう「くんち料理りょうり」にクエ（佐賀さが県けんでは「アラ」と呼よぶ）の姿すがた煮にがある。第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ご、商人しょうにんたちが見栄みえをはるために玄界灘げんかいなだで獲えれる大おおきく見栄みばえの良よいアラを煮付につけたことが始はじまりとされている^[12]。

かつては和歌山わかやま県けんで「クエ料理りょうり」、檀だん一雄かずおの『火宅かたくの人ひと』にも登場とうじょうする銀ぎん鍋なべがあり^[13]、切きり身みをちり鍋なべに入いれて食たべていた長崎ながさき県けんや、その後ごの福岡ふくおか県けん博多はかたで「アラ料理りょうり」などとして一部いちぶ地域ちいきでのみ消費しょうひされる高級こうきゅう魚ぎょだった。近年きんねんは養殖ようしょく個体こたいが流通りゅうつうするようになったため、高価こうかながら全国ぜんこく的てきに寿司すしのネタとしても使つかわれるようになっている^[14]。その価格かかくは天然てんねん物ぶつで1kgあたり（最大さいだい）1万まん円えん以上いじょう、より安定あんていして流通りゅうつうする養殖ようしょく物ぶつでも1kgあたり3,000円えん前後ぜんこうで^[3]、「本ほんマグロ（クロマグロ）以上いじょうの高級こうきゅう魚ぎょ」とされ、アブラボウズなどによる偽装ぎそう事件じけんも起おきている^[14]。

極きわめて高価こうかな食材しょくざいのため、加工かこう食品しょくひんの材料ざいりょうになることは少すくないが、和歌山わかやま県けん御坊ごぼう市しでは他たの白身しろみ魚ぎょにクエを加くわえたすり身みを用もちいてクエを形かたちどった、クエ蒲鉾かまぼこが製造せいぞうされている。

海外かいがいでは香港ほんこんでも泥どろ斑まだら（広東かんとん語ごナイパーン）と呼よばれ、蒸むし物ものなどの材料ざいりょうとされる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ Fishbase - Epinephelus bruneus
^ 中村なかむら潤じゅん平ひらめ, 本村もとむら浩之ひろゆき「ハタ科かSerranidaeとされていた日本にっぽん産さん各種かくしゅの帰属きぞく，および高次こうじ分類ぶんるい群ぐんに適用てきようする標準ひょうじゅん和名わみょうの検討けんとう」『IchthyNatural History of Fishes of Japan』第だい19巻かん、鹿児島大学かごしまだいがく総合そうごう研究けんきゅう博物館はくぶつかん、2022年ねん、26-43頁ぺーじ、doi:10.34583/ichthy.19.0_26、2022年ねん11月24日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b ^c ^d ^e 市場いちば魚ぎょ貝類かいるい図鑑ずかん.
^ ^a ^b 永岡書店ながおかしょてん 2016, p. 225.
^ 永岡書店ながおかしょてん 2016, p. 224.
^ 「“世界せかい新しん”クエ40.2キロ大物おおもの釣つれた」『デイリースポーツ』神戸新聞社こうべしんぶんしゃ、2016年ねん5月がつ5日にち。2020年ねん4月がつ13日にち閲覧えつらん。オリジナルの2020年ねん4月がつ13日にち時点じてんにおけるアーカイブ。
^ ^a ^b 「高級こうきゅう魚ぎょ「クエ」と「タマカイ」の良よさを併あわせ持もつハイブリッド「クエタマ」を直営店ちょくえいてんにて数量すうりょう限定げんていで初はつ提供ていきょう」『Digital PR Platform』デジタルPRとプレスリリース・ニュースリリース配信はいしん Digital PR Platform、2016年ねん12月16日にち。2016年ねん12月がつ20日はつか閲覧えつらん。
^ 木村きむら義よし志こころざし『フィールドベスト図鑑ずかん日本にっぽんの海水かいすい魚ぎょ』学習研究社がくしゅうけんきゅうしゃ、2000年ねん8月がつ4日にち。ISBN 4-05-401121-7。
^ 中ちゅう坊ぼう 2018, p. 234.
^ 「長岡ながおか技わざ科か大だい、クエを陸上りくじょう養殖ようしょく」『日本経済新聞にほんけいざいしんぶん』朝刊ちょうかん2020年ねん3月がつ25日にち（2020年ねん5月がつ19日にち閲覧えつらん
^ “「非常ひじょうにおいしい」と評判ひょうばんだけど見慣みなれない魚さかな…「クエタマ」に胸むね張はる研究けんきゅう者しゃ”. 読売新聞よみうりしんぶんオンライン (2021年ねん2月がつ26日にち). 2023年ねん3月がつ13日にち閲覧えつらん。
^ あらの姿すがた煮に佐賀さが県けん農林水産省のうりんすいさんしょう「うちの郷土きょうど料理りょうり」
^ “あら料理りょうり”. 銀ぎん鍋なべ. 2022年ねん2月がつ16日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b 藤原ふじわら 2013, p. 108.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

岡村おかむら収おさむ監修かんしゅう山さん渓けいカラー名鑑めいかん『日本にっぽんの海水かいすい魚ぎょ』（ハタ亜あ科か執筆しっぴつ者しゃ：瀬能せのう宏ひろし） ISBN 4-635-09027-2
藍澤あいざわ正ただし宏ひろしほか『新装しんそう版ばん詳細しょうさい図鑑ずかんさかなの見分みわけ方かた』講談社こうだんしゃ ISBN 4-06-211280-9
檜山ひやま義夫よしお監修かんしゅう『野外やがい観察かんさつ図鑑ずかん4 魚さかな』改訂かいてい版ばん旺文社おうぶんしゃ ISBN 4-01-072424-2
内田うちだ亨とおる監修かんしゅう『学生がくせい版ばん日本にっぽん動物どうぶつ図鑑ずかん』北きた隆たかし館かん ISBN 4-8326-0042-7
藤原ふじわら昌あきら高だか（ぼうずコンニャク）「クエ［九きゅう絵え］百ひゃくキロを超こえる巨大きょだい魚ぎょだが、味あじは繊細せんさい」『すし図鑑ずかん』（初版しょはん第だい1刷さつ発行はっこう）マイナビ（発行はっこう人じん：中川なかがわ信行のぶゆき）、2013年ねん5月がつ1日にち、108頁ぺーじ。ISBN 978-4839943387。2020年ねん4月がつ13日にち閲覧えつらん。
永岡書店ながおかしょてん編集へんしゅう部ぶ（編著へんちょ者しゃ）「クエ［九きゅう絵え］磯いそ釣づりファンが狙ねらう最大さいだい級きゅうの大物おおもの」『釣つった魚さかなが必かならずわかるカラー図鑑ずかん』（発行はっこう）永岡書店ながおかしょてん（発行はっこう人じん：永岡ながおか修一しゅういち）、2016年ねん5月がつ10日とおか、224-225頁ぺーじ。ISBN 978-4522213728。2020年ねん4月がつ13日にち閲覧えつらん。
中ちゅう坊ぼう徹てっ次じ（編へん・監修かんしゅう）編へん『日本にっぽん魚類ぎょるい館かん』（初版しょはん第だい1刷さつ発行はっこう）小学館しょうがくかん（発行はっこう人じん：杉本すぎもと隆たかし）〈小学館しょうがくかんの図鑑ずかんZ〉、2018年ねん3月がつ25日にち、234頁ぺーじ。ISBN 978-4092083110。2020年ねん4月がつ13日にち閲覧えつらん。
“魚類ぎょるい＞クエ”. 市場いちば魚ぎょ貝類かいるい図鑑ずかん. ぼうずコンニャク株式会社かぶしきがいしゃ（取締役とりしまりやく：藤原ふじわら昌あきら高だか）. 2020年ねん4月がつ13日にち時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2020年ねん4月がつ13日にち閲覧えつらん。