スライダー (球たま種しゅ)

スライダー（英えい: Slider）とは、野球やきゅうにおける球たま種しゅの1つ。人差ひとさし指ゆびと中指なかゆびでボールに回転かいてんを掛かけることによりき腕きうでと反対はんたい方向ほうこう、または下方かほうに変化へんかする。

概要がいよう

スライダーの握にぎりの例れい

スライダーの握にぎりの例れい

バックスピンとサイドスピン（き腕きうでと反対はんたい方向ほうこう）の間あいだの回転かいてん軸じくを持もち、投手とうしゅのき腕きうでと反対はんたい方向ほうこうへ滑すべるように曲まがる物ものと、ジャイロ回転かいてんの成分せいぶんを有ゆうして縦たてに落下らっかする物ものの2種類しゅるいがある。両者りょうしゃを区別くべつするために前者ぜんしゃを横よこスライダー、後者こうしゃを縦たてスライダー、落おちるスライダー、またはヴァーティカル・スライダー (英えい: Vertical Slider) 、Vスライダーと呼よぶことがある。投とう法ほうが近ちかいことから両方りょうほうを投なげる投手とうしゅも多おおい。

カーブやカットボールなど他たの球たま種しゅとの区別くべつが曖昧あいまいな場合ばあいもあり、落合おちあい英二えいじは『落合おちあい英二えいじブルブルの輪わ』の中なかで「投なげた人ひとが『これはスライダー』と言いったらそれはスライダー扱あつかいになっちゃう」と述のべ、あまりにも握にぎりや投とう法ほうのバリエーションが豊富ほうふであるため一いち括くくりにすることは難むずかしいとしている。落合おちあいは山井やまい大介だいすけが投とうじる球速きゅうそくが遅おそいスライダーを例れいとして挙あげ、一般いっぱん的てきにはカーブにあたるが山井やまい本人ほんにんが「これはスライダー」と主張しゅちょうしてからはスライダー扱あつかいになったという。同様どうように、内海うつみ哲也てつやも一見いっけんするとカーブにも見みえる、ブレーキがかかった大おおきく曲まがる持もち球だまを「スライダー」と呼よんでいる。逆ぎゃくにクレイグ・キンブレルなど本人ほんにんがカーブ系けいと呼よぶ球たま種しゅがスライダーと呼よばれることもある。

横よこスライダー

横よこに変化へんかするスライダーはバックスピンの成分せいぶんが強つよければ落下らっかが少すくなく横滑よこすべりするスライダーに、サイドスピンの成分せいぶんが強つよければ沈しずみながら大おおきく横滑よこすべりするスライダーになる。速球そっきゅうと同おなじような投とう法ほうと球筋たますじから比較的ひかくてき速はやい球速きゅうそくで変化へんかするため打者だしゃは速球そっきゅうと誤認ごにんしやすい。横よこの変化へんかでボールからストライクへ、ストライクからボールへなどという使つかい方かたや小ちいさい変化へんかでバットの芯しんから外はずさせたり、大おおきい変化へんかで空振からぶりを狙ねらうなど様々さまざまな使つかい方かたをされる。

縦たてスライダー

スライダーの中なかでもジャイロ回転かいてんの成分せいぶんを有ゆうして縦たてに落おちる物ものを指さす。上向うわむきの揚力ようりょくを持もたないため、フォークボールのように落下らっかし、ジャイロ回転かいてんの効果こうかで初速しょそくと終おわり速そくの差さが小ちいさい。また、ジャイロ回転かいてんの成分せいぶんが強つよい物ものは回転かいてん軸じくの傾かたむきによっては若干じゃっかん左右さゆうへも変化へんかしたり、落差らくさが変かわったりもする。ボールを挟はさまない為ため、フォークボールに比くらべると失投しっとう率りつが低ひくく、使つかい手てが増ふえつつある。

投なげ方かた

アメリカンフットボールのパス

スライダーの握にぎり方かた、リリース方法ほうほうには様々さまざまな種類しゅるいが有ある。稲尾いなお和久かずひさは「ボールをリリースする瞬間しゅんかんに縫ぬい目めにかかった人差ひとさし指ゆびの先さきをピッと切きる」ように、大野おおの豊ゆたかは「握にぎった指ゆびをずらすのでなく、手首てくびの向むきを変かえてボールを切きる」ように、伊藤いとう智仁ともひとは「ボールの縫ぬい目めに人差ひとさし指ゆびと中指なかゆびをはわせ、チョップするように横よこ回転かいてんを加くわえる」方法ほうほうで投なげていた。ボブ・フェラーやダルビッシュ有ゆうはアメリカンフットボールのボール (en:Football (ball)) を投なげるようにリリースすると解説かいせつしている。

捻ねじったり抜ぬくようにリリースするカーブと比くらべ、より速球そっきゅうに近ちかいボールの握にぎりと腕うでの振ふりで投なげられる。 手首てくびと握力あくりょくが強つよければ、握にぎりを変かえるだけでも投なげられることから、変化球へんかきゅうの中なかでも習得しゅうとくが容易よういなものとされる。また、実戦じっせんで使つかえるレベルのカーブを習得しゅうとく出来できなかった投手とうしゅでも、スライダーは習得しゅうとく出来できることがある。日本にっぽんでの元祖がんそ藤本ふじもと英雄ひでおや、カミソリシュートで知しられる平松ひらまつ政次まさじがこのケースである。

2020年ねん9月がつ時点じてんで計けい700件けん以上いじょうのトミー・ジョン手術しゅじゅつを執刀しっとうした慶けい友とも整形せいけい外科げか病院びょういんスポーツ医学いがくセンター長ちょうの古島こじま弘ひろし三さん医師いしと藪やぶ恵めぐみ壹いちは、オンライン対談たいだんでスライダーは肘ひじへの負担ふたんが大おおきいと主張しゅちょうした。古島こじまは自然しぜんにボールを投なげる際さいに腕うでが回かい内ないするのに対たいしてスライダーを投なげる際さいに回かい外がいする点てんを、肘ひじへのリスクがある理由りゆうとして挙あげている

外そとスラ

ストライクゾーンから外角がいかくボールに逃にげるスライダーや外角がいかくボールから外角がいかくストライクに入はいるスライダーを「外そとスラ」と呼よび、鶴岡つるおか慎也しんやは「球場きゅうじょうが狭せまくなり、当あてただけでスタンドに入はいるため外角がいかくのストレートを投なげづらくなり、今いま(2022年ねん時点じてん)のパリーグは外そとスラが激増げきぞうした」と話はなしている。古田ふるた敦あつし也は現役げんえき時代じだい、痛やめ打だの危険きけん性せいや外そとスラのコントロールの良よいピッチャーがチームに少すくなかったことから現役げんえき時代じだいはあまり投手とうしゅに要求ようきゅうせず、谷たに繁しげる元信もとのぶは基本きほん的てきに意表いひょうを突つく場合ばあいに限かぎって使つかっていたが投手とうしゅが川上かわかみ憲けん伸しんの場合ばあいは多用たようした。

歴史れきし

チーフ・ベンダー

藤本ふじもと英雄ひでお

スライダーの元祖がんそは1903年ねんにメジャーリーグベースボール (MLB) デビューしたチーフ・ベンダーの投なげていた「ニッケルチェンジ (nickel change)」または「ニッケルカーブ (nickel curve)」であるとされる。しかし、1925年ねんからMLBでプレーしたジョージ・ブレーホルダー (en:George Blaeholder) が投なげていた「セイラー (sailor)」または「セイリング・ファストボール (sailing fastball)」という速はやい速度そくどで横滑よこすべりする球たま種しゅがその元祖がんそであるとする異説いせつもある。

1919年ねんにMLBデビューしたジョージ・ウールも「セイラー」を投なげ、さらにこれを「スライダー」と改名かいめいした。1936年ねんにMLBデビューしたボブ・フェラーもこの球たま種しゅを駆使くしし活躍かつやくし、1948年ねんの著書ちょしょ"Pitching to Win"で「スライダー」の名称めいしょうと投とう法ほうを広ひろく紹介しょうかいした。

日本にっぽんでは1949年ねん、藤本ふじもと英雄ひでおが宇野うの光雄みつおとキャッチボールをしていたときに初はじめて意図いと的てきにスライダーを投なげることに成功せいこうし、翌よく1950年ねんに日本にっぽんプロ野球やきゅう初はつの完全かんぜん試合しあいを達成たっせいするなど活躍かつやくした。藤本ふじもとのスライダーは「空そらを飛とぶトンボがスッと曲まがるような球たま」と形容けいようされ、フェラーの著書ちょしょからスライダーと呼よばれているのを知しったという。

種類しゅるい

高速こうそくスライダー

高速こうそくスライダー（英えい: Hard Slider）とは、通常つうじょうのスライダーよりも速球そっきゅうとの球速きゅうそく差さが少すくない球たま種しゅ。

明確めいかくな基準きじゅんは無ないが、概おおむね速球そっきゅうと5〜10km/h程度ていどの球速きゅうそく差さとみなされている。フランシスコ・ロドリゲスの場合ばあいは大おおきく曲まがり落おち、その変化へんか量りょうから「カートゥン・スライダー」と呼よばれる。

スラーブ

スラーブ（英えい: Slurve）とは、スライダーとカーブの中なか間あいだ的てきな変化へんかをする球たま種しゅ。木田きだ優ゆう夫おっとは「カイダー」と呼よんでいた。

リリース時じ、切きり方かたをより深ふかくする点てんが特徴とくちょう（これに伴ともない、カーブほど山やまなりにならない）。

最初さいしょに投なげた人物じんぶつは判明はんめいしていないが、1940年代ねんだいにボストン・ブレーブスに在籍ざいせきしていたジョニー・セインが投なげていたことは確認かくにんされている。

真まっスラ

「カット・ファスト・ボール」も参照さんしょう

真まっスラ（マッスラ）とは、「真まっ直すぐ（直球ちょっきゅう）」とスライダーの中なか間あいだ的てきな変化へんかをする球たま種しゅ。

先述せんじゅつの通とおり、速球そっきゅうとのコンビネーション価値かちが高たかく、斎藤さいとう雅樹まさき、大野おおの豊ゆたかが投なげていた。

日本にっぽん国内こくないのみで用もちいられる合成ごうせい語ごだが、常用じょうようする解説かいせつ者しゃが存在そんざいするほど認知にんち度どは高たかい。例れいとして、立浪たつなみ和義かずよしはカット・ファスト・ボール系けいの変化球へんかきゅうをしばしば「真まっスラ系けいのボール」と表現ひょうげんしている。

スイーパー

スイーパー（英えい: Sweeper）とは、横よこ方向ほうこうへ大おおきく曲まがるスライダー。縦たての変化へんかが小ちいさいため、打者だしゃはボールが「浮うき上あがる」ような錯覚さっかくに陥おちいるという。この感覚かんかくを藤浪ふじなみ晋すすむ太郎たろうは「噴ふき上あがる」と表現ひょうげんしている。

MLBで主流しゅりゅうとなっている「フライボール革命かくめい」や「バレルゾーン」といった打撃だげき理論りろんへの対抗たいこう策さくの一ひとつとして注目ちゅうもくされるようになった。打球だきゅう角度かくどをつけて長打ちょうだを狙ねらうアッパースイングへの対抗たいこう策さくとして、縦たての変化へんかが少すくないことを生いかして高たかめに配はい球だまされることも多おおい。

投球とうきゅう分類ぶんるいサービス「ピッチ・インフォ」では、2022年ねんからスライダー、カーブ、カッターといった投球とうきゅうカテゴリーの1つにスイーパーが加くわわった。ただし他たの変化球へんかきゅうと同様どうよう「スイーパー」の定義ていぎは明確めいかくではないため、スラーブが名前なまえを変かえただけだという見方みかたもある。

参考さんこう文献ぶんけん

• ベべースボすぼール・マガジン社るまがじんしゃ 編へん『変化球へんかきゅうバイブル[理論りろん＆実践じっせん編へん]』ベべースボすぼール・マガジン社るまがじんしゃ〈Sports bibleシリーズ〉、2007年ねん。ISBN 978-4-583-10001-2。