ナノテクノロジーの影響えいきょう

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ほんこうではしょ分野ぶんやたいするナノテクノロジーの影響えいきょうについてべる。影響えいきょうける応用おうよう分野ぶんや医療いりょう工学こうがくから生物せいぶつがく化学かがく、コンピューティング、材料ざいりょう科学かがく通信つうしんなどにおよび、倫理りんりてき精神せいしんてき法的ほうてき、あるいは環境かんきょうてき側面そくめんへの影響えいきょうかんがえられる。

ナノテクノロジーは情報じょうほう技術ぎじゅつ安全あんぜん保障ほしょう医療いりょう運送うんそう、エネルギー、食品しょくひん安全あんぜん環境かんきょうがくなどの分野ぶんや革新かくしんてき技術ぎじゅつしてきた[1]。たとえば物質ぶっしつ設計せっけいにおいては、スケールの微細びさいによって材料ざいりょう特性とくせい飛躍ひやくてき向上こうじょうさせることができる。コンピュータやエレクトロニクスの分野ぶんやでは、記憶きおく装置そうち演算えんざん回路かいろ集積しゅうせきたかめることで性能せいのう携帯けいたいせい向上こうじょう期待きたいできる。ナノスケールは生物せいぶつがくてきプロセスが自然しぜん生起せいきするスケールでもあり、医療いりょう分野ぶんやでの病気びょうき予防よぼう診断しんだん治療ちりょう技術ぎじゅつてき発展はってん見込みこまれる。また、様々さまざまなエネルギーげん生産せいさん効率こうりつたかめたり、送電そうでんロスをふせぐといった応用おうようもある[1]

ナノテクノロジーには様々さまざままけ側面そくめんがある。ナノ粒子りゅうしによる健康けんこう被害ひがい将来しょうらいてき環境かんきょう問題もんだい健康けんこう問題もんだいこす可能かのうせいがある。また兵器へいき人体じんたいインプラント、監視かんしシステムへのナノテクノロジー応用おうよう人権じんけん侵害しんがいにつながると主張しゅちょうするものもいる。

ナノテクノロジー政府せいふ規制きせい必要ひつようかどうかについては議論ぎろんおこなわれてきた。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく環境かんきょう保護ほごちょう欧州おうしゅう委員いいんかい保健ほけん消費しょうひしゃ保護ほご総局そうきょくなどの規制きせい当局とうきょくはナノ粒子りゅうし潜在せんざいてきリスクを問題もんだいにしはじめた。有機ゆうき食品しょくひん分野ぶんやはいちはやくこの問題もんだい対応たいおうしており、オーストラリア英国えいこく[2]いでカナダでは認定にんてい有機ゆうき農産物のうさんぶつ人工じんこうナノ粒子りゅうし使用しようすることが禁止きんしされた。また有機ゆうき農業のうぎょう国際こくさい認証にんしょう機関きかんデメター・インターナショナル英語えいごばん認証にんしょう基準きじゅんでも同様どうよう規定きてい採用さいようされた[3]

概要がいよう[編集へんしゅう]

ナノ材料ざいりょうナノ粒子りゅうしふく材料ざいりょう)はそれ自体じたい危険きけんだというわけではなく、ナノ粒子りゅうし特有とくゆう性質せいしつのいくつかがリスク因子いんしとなるにすぎない。とく重要じゅうようなのは、ナノ粒子りゅうし広範囲こうはんいひろがりやすいことと反応はんのうせいたかいことである。生命せいめいたい環境かんきょうたいして有害ゆうがい性質せいしつ一部いちぶのナノ粒子りゅうしだけがしん危険きけんぶつとなる。これらはナノ公害こうがいnanopollution)とばれることがある。

ナノ材料ざいりょう健康けんこう環境かんきょうあたえる影響えいきょうろんじるには、つぎナノ構造こうぞうたい区別くべつする必要ひつようがある。(1) 「固定こていされた」ナノ粒子りゅうしナノコンポジット表面ひょうめんナノ構造こうぞう英語えいごばん、ナノ部品ぶひん電子でんし部品ぶひん光学こうがく部品ぶひん、センサーなど)のように、ナノスケールの粒子りゅうし物質ぶっしつ材料ざいりょう、デバイスの内部ないぶれられているもの。 (2) 「自由じゆうな」ナノ粒子りゅうし作製さくせい使用しよう過程かていで、独立どくりつしたナノ粒子りゅうししょうじるもの。自由じゆうなナノ粒子りゅうしはナノスケールの単体たんたい物質ぶっしつ単純たんじゅん化合かごうぶつのほか、単体たんたい物質ぶっしつべつ物質ぶっしつ被覆ひふくされた「コア-シェル」がた粒子りゅうしのようなふくあいてき化合かごうぶつである場合ばあいもある。固定こていナノ粒子りゅうしについても注意ちゅうい必要ひつようだが、自由じゆうなナノ粒子りゅうしこそ喫緊きっきん懸念けねんだというてんには識者しきしゃ総意そういがあるとおもわれる。

ナノ粒子りゅうし一般いっぱんてき物質ぶっしつ非常ひじょうことなっており、巨視的きょしてきなサイズの物質ぶっしつについて毒性どくせい有無うむられていても、ナノ粒子りゅうしした場合ばあいはかることができない。自由じゆうなナノ粒子りゅうし健康けんこう環境かんきょうへの影響えいきょうろんじるうえでこれはおおきな問題もんだいとなる。さらに議論ぎろん困難こんなんにするのは、粉末ふんまつかかにごえきふくまれるナノ粒子りゅうしたん分散ぶんさんとなることはまずなく、ある範囲はんいにわたる粒子りゅうしサイズをつというてんである。つぶみちおおきいナノ粒子りゅうしちいさい粒子りゅうし特性とくせいことなる可能かのうせいがあるため、実験じっけんてき分析ぶんせき困難こんなんになる。また、ナノ粒子りゅうしには凝集ぎょうしゅうせいがあるが、凝集ぎょうしゅうたい単一たんいつ粒子りゅうしとはことなるいをしめすこともおおい。

健康けんこうへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

健康けんこう安全あんぜんにおけるナノテクノロジーの意味いみアメリカ国立こくりつ労働ろうどう安全あんぜん衛生えいせい研究所けんきゅうじょ英語えいごばん)。

ナノテクノロジーによる物質ぶっしつやデバイスの使用しよう健康けんこうなんらかの影響えいきょうあたえる可能かのうせいがある。ナノテクノロジーはあたらしい分野ぶんやなので、健康けんこうたいしてどのような利益りえき危険きけんがあるかについてはげしい議論ぎろんがある。ナノテクノロジーの健康けんこうへの影響えいきょうにはふたつの側面そくめんがある。ナノテクノロジーによる革新かくしんてき医療いりょうほう疾病しっぺい治療ちりょう発展はってんさせる可能かのうせいと、ナノ材料ざいりょうへの暴露ばくろ潜在せんざいてき健康けんこう被害ひがいをもたらす可能かのうせいである。

医療いりょうへの応用おうよう[編集へんしゅう]

ナノ医療いりょう(ナノメディシン)とはナノテクノロジー応用おうようした医療いりょうである[4]。そのアプローチはナノ材料ざいりょう医療いりょう応用おうようから、ナノエレクトロニクスによるバイオセンサーや、将来しょうらいてき分子ぶんしナノテクノロジー応用おうようまで幅広はばひろい。ちか将来しょうらい研究けんきゅう臨床りんしょう役立やくだ器具きぐやデバイスを実現じつげんすることを目指めざしてナノ医療いりょう研究けんきゅうすすめられている[5][6]アメリカの国家こっかナノテクノロジー・イニシアティブでは、医薬いやく産業さんぎょうでのナノテクノロジーの利用りようとして、先進せんしんてきドラッグデリバリーシステム、あたらしい治療ちりょうほうin vivoイメージングなどの見通みとおしがしめされていた[7]。ニューロインターフェースなどナノエレクトロニクスもとづくセンサーも活発かっぱつ研究けんきゅうおこなわれている。分子ぶんしナノテクノロジーという未来みらいろんてき分野ぶんやでは、とお将来しょうらい細胞さいぼう修復しゅうふくナノマシン医学いがく医療いりょう変革へんかくをもたらすとしんじられている。

ナノ医療いりょう研究けんきゅうたいする直接的ちょくせつてき出資しゅっしおこなわれている。アメリカ国立こくりつ衛生えいせい研究所けんきゅうじょは2005ねんにナノ医療いりょうセンター4かしょ設立せつりつする5かねん計画けいかく出資しゅっしした。『ネイチャーマテリアルズ』が2006ねん4がつ発表はっぴょうした推計すいけいによれば、ぜん世界せかいで130しゅにのぼるナノテクノロジーにもとづく薬物やくぶつとドラッグデリバリーシステムの開発かいはつおこなわれていた[8]。ナノ医療いりょう産業さんぎょう規模きぼおおきく、2004ねんにはすでげ68おくドルにたっした。ぜん世界せかいで200しゃ以上いじょうが38しゅのナノテクノロジー関連かんれん製品せいひんたいして総計そうけい年間ねんかん38おくドル以上いじょう研究けんきゅう開発かいはつついやしている[9][いつ?]。ナノ医療いりょう産業さんぎょう成長せいちょうつづくことで、経済けいざいへの影響えいきょう拡大かくだいすると予測よそくされている。

健康けんこう被害ひがい[編集へんしゅう]

ナノトキシコロジー英語えいごばん(ナノ毒性どくせいがく)とは、ナノ材料ざいりょう潜在せんざいてき健康けんこうリスクについて研究けんきゅうする分野ぶんやである。生体せいたいないでナノ材料ざいりょうがどのようにふるまうかは重要じゅうよう問題もんだいであって、解明かいめいたれている。ナノ粒子りゅうしのふるまいは基本きほんてきつぶみち形状けいじょう、あるいは粒子りゅうし表面ひょうめん環境かんきょうとの反応はんのうせいによってまる。微小びしょうなナノ粒子りゅうしはサイズのおおきい粒子りゅうしよりもはるかに容易ようい人体じんたいまれる。ナノ粒子りゅうし異物いぶつ摂取せっしゅして破壊はかいする役割やくわりしょく細胞さいぼう過度かど負担ふたんあたえ、ストレス反応はんのうにより炎症えんしょうこしたり、ほかの病原びょうげんたいたいする防御ぼうぎょ低下ていかさせる可能かのうせいがある。生体せいたいない分解ぶんかいせいたないか、分解ぶんかい速度そくどおそいナノ粒子りゅうし臓器ぞうき蓄積ちくせきする問題もんだいくわえて、ナノ粒子りゅうし体内たいない生物せいぶつがくてきプロセスと相互そうご作用さようする可能かのうせい懸念けねんされる。ナノ粒子りゅうし相対そうたいてきおおきな表面ひょうめんつため、生体せいたい組織そしき体液たいえきれたナノ粒子りゅうし周囲しゅうい存在そんざいする高分子こうぶんし一部いちぶ即座そくざ表面ひょうめん吸着きゅうちゃくしてしまうのである。その結果けっか酵素こうそやそのたんぱくしつ調節ちょうせつ機構きこう影響えいきょうける可能かのうせいがある。

ナノ材料ざいりょう生産せいさん使用しようおこな企業きぎょうやナノサイエンス・ナノテクノロジーの研究けんきゅうおこな研究けんきゅう機関きかんでは作業さぎょう環境かんきょう問題もんだいしょうじる。すくなくとも、現在げんざい職業しょくぎょうせいふんじん暴露ばくろたいする基準きじゅんをそのままナノ粒子りゅうしふんじんに適用てきようできないのはたしかだとおもわれる。アメリカ国立こくりつ労働ろうどう安全あんぜん衛生えいせい研究所けんきゅうじょ英語えいごばん(NIOSH)は、ナノ粒子りゅうしからだ組織そしきとどのような相互そうご作用さようおこなうか、また労働ろうどうしゃ製造せいぞうぎょう工業こうぎょう使用しようされるナノ材料ざいりょうにどのように暴露ばくろするかについて初期しょき段階だんかい研究けんきゅうおこなった。NIOSHは現時点げんじてんでの科学かがくてき知見ちけんもとづいて暫定ざんていてきなガイドラインを提供ていきょうしている[10]。NIOSH管轄かんかつ個人こじんよう保護ほご技術ぎじゅつ研究所けんきゅうじょ[11]は、NIOSHや欧州おうしゅう連合れんごう認証にんしょうする防塵ぼうじんマスクrespirotor)や、認証にんしょう必要ひつようとしない簡易かんい防塵ぼうじんマスク(dust mask)についてナノ粒子りゅうしのフィルタ貫通かんつうのう調しらべた[12]。それによれば、一般いっぱんてきもちいられるせいでんフィルタでもっとも貫通かんつうのうたか粒子りゅうしサイズは30から100 nmであり、マスク内部ないぶへの侵入しんにゅうりょうたいするもっともおおきな要因よういん顔面がんめん面体めんていとの密着みっちゃくせいであった[13][14]

その毒性どくせい影響えいきょうするナノ材料ざいりょう物性ぶっせいには、化学かがく組成そせい形状けいじょう表面ひょうめん構造こうぞう表面ひょうめん電荷でんか凝集ぎょうしゅうせい溶解ようかい[15]表面ひょうめん官能かんのう有無うむなどがある[16]おおくの要因よういんがかかわっていることで、ナノマテリアルへの暴露ばくろによる健康けんこうリスクを一般いっぱんすることはむずかしい。それぞれのあたらしいナノマテリアルは個別こべつ評価ひょうかしなければならず、あらゆる物理ぶつりてき性質せいしつ考慮こうりょしなければいけない。

様々さまざま作業さぎょう活動かつどうなか人工じんこうナノ粒子りゅうし放出ほうしゅつ個人こじん曝露ばくろこりうることは複数ふくすう文献ぶんけんレビューで指摘してきされている[17][18][19]。これをまえて、作業さぎょう環境かんきょうにおけるナノテクノロジー関連かんれん健康けんこう被害ひがいたいする予防よぼう戦略せんりゃく規制きせい制定せいていもとめられる。

環境かんきょうへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

ナノテクノロジーは歴史れきしあさいため、ナノ材料ざいりょう産業さんぎょう利用りよう環境かんきょう生物せいぶつ生態せいたいけいにどの程度ていど影響えいきょうあたえるかについては議論ぎろんつづいている[20]

ナノテクノロジーの環境かんきょうへの影響えいきょうにもふたつの側面そくめんがある。ナノテクノロジーの発展はってん環境かんきょう改善かいぜん役立やくだ技術ぎじゅつ可能かのうせいと、ナノテクノロジーによる物質ぶっしつ環境かんきょう放出ほうしゅつされたときにあたらしい種類しゅるい公害こうがいしょうじる可能かのうせいである。

環境かんきょうへの応用おうよう[編集へんしゅう]

グリーンナノテクノロジー英語えいごばんとは、環境かんきょうたいするまけ外部がいぶせいゆうするプロセスの持続じぞく可能かのうせいたかめるためにナノテクノロジーもしくはその産物さんぶつ利用りようすることをさす。Project on Emerging Nanotechnologiesはグリーンナノテクノロジーの目標もくひょうとして、ナノテクノロジーによってクリーンテクノロジー英語えいごばん発展はってんさせること、ならびに「ナノテクノロジー製品せいひん生産せいさん使用しようによる環境かんきょう健康けんこうへの将来しょうらいてきリスクを低減ていげんすること、商品しょうひんライフサイクルつうじて環境かんきょう負荷ふかすくないナノ製品せいひん既存きそん製品せいひんえること」をげた[21]。グリーンナノテクノロジーでは、グリーンケミストリーとグリーン工学こうがく[22]確立かくりつされている原理げんりもとづいて環境かんきょう問題もんだいたいする解決かいけつさく開発かいはつにあたる。すなわち、ナノ材料ざいりょうとナノ製品せいひんから有害ゆうがい成分せいぶん排除はいじょし、生産せいさんには可能かのうかぎ低温ていおんていエネルギー消費しょうひ製法せいほう再生さいせい可能かのうエネルギーもちい、設計せっけいとエンジニアリングのぜん過程かていライフサイクル思考しこう英語えいごばんもとづいておこなう。

公害こうがい[編集へんしゅう]

ナノ公害こうがいえい: nanopollution)とは、ナノデバイスから、あるいはナノ材料ざいりょう製造せいぞう工程こうてい生成せいせいされた廃棄はいきぶつ一般いっぱんてき名称めいしょうである。そのおおくは粒子りゅうしとして環境かんきょうちゅう放出ほうしゅつされたものだが、製品せいひんちゅうふくまれたまま廃棄はいきされたものもふくむ。

社会しゃかいへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

ナノテクノロジーが社会しゃかいあたえる影響えいきょう提示ていじする課題かだい広大こうだいであり、健康けんこう環境かんきょうたいする直接的ちょくせつてき毒性どくせいリスクにとどまるものではない。社会しゃかい科学かがくしゃはナノテクノロジーが社会しゃかいてき意味いみを「川下かわしも」のリスクや影響えいきょうとしてのみとらえるべきではないと主張しゅちょうしている。むしろ、社会しゃかいもとめる技術ぎじゅつ発展はってんたすため、「上流じょうりゅう」における研究けんきゅう意思いし決定けっていなかでそのような課題かだい考慮こうりょするべきだという[23]

おおくの社会しゃかい科学かがくしゃ市民しみん団体だんたいは、 テクノロジーアセスメントおよびガバナンスに公衆こうしゅう参加さんかさせるよう主張しゅちょうしている[24][25][26][27]

2003ねん認可にんかされたナノテクノロジーの関連かんれん特許とっきょは800けん程度ていどだったが、2012ねんにはぜん世界せかいやく19,000けんにまで増加ぞうかした[28]。すでに企業きぎょうがナノ領域りょういきかんする幅広はばひろ特許とっきょ取得しゅとくしている。たとえば、NECおよびIBMしゃ現代げんだいのナノテクノロジーの礎石そせきひとつであるカーボンナノチューブ基本きほん特許とっきょ保有ほゆうしている。カーボンナノチューブは幅広はばひろ用途ようとゆうし、エレクトロニクスやコンピュータ産業さんぎょうから強化きょうか材料ざいりょう、ドラッグデリバリー、診断しんだんにいたるまで様々さまざま産業さんぎょう不可欠ふかけつ素材そざいとなるとられている。カーボンナノチューブは主要しゅよう貿易ぼうえきざいひとつになりつつあり、従来じゅうらい主要しゅよう原材料げんざいりょうってわる可能かのうせいもある[29]

開発途上国かいはつとじょうこくにあって安全あんぜんみず安定あんていしたエネルギー供給きょうきゅう医療いりょう教育きょういくのような基本きほんてきなサービスをけられずにいるすうひゃくまんにん人々ひとびとたいして、ナノテクノロジーがあたらしい解決かいけつさく提示ていじできるかもしれない。2004ねん国連こくれん科学かがく技術ぎじゅつイノベーションタスクフォース[30]は、ナノテクノロジーの利点りてんとして、生産せいさんようする労働ろうどうりょく土地とち、メンテナンスがらせること、生産せいさんせいたかさ、コストのひくさ、原料げんりょうやエネルギーの消費しょうひすくないことをげた。しかし、ナノテクノロジーの利益りえきとされているものが将来しょうらいてき公平こうへい分配ぶんぱいされるとはかぎらず、技術ぎじゅつてき経済けいざいてき利益りえき裕福ゆうふく国々くにぐにによって独占どくせんされることへの危惧きぐもたびたび表明ひょうめいされている[31]

より長期ちょうきてきには、ひろ社会しゃかい全体ぜんたいける影響えいきょう関心かんしんたれている。あたらしい技術ぎじゅつだつ希少きしょうせい経済けいざいをもたらすのか、あるいは先進せんしんこく途上とじょうこくあいだとみ格差かくさ悪化あっかさせるだけなのか。ナノテクノロジーが社会しゃかい全体ぜんたいたいして、あるいは健康けんこう環境かんきょうに、貿易ぼうえきに、安全あんぜんに、フードシステム英語えいごばんに、さらには「人間にんげん」の定義ていぎたいしてなにをもたらすかは、まだこたえておらず政治せいじてきろんじられてもいない。

規制きせい[編集へんしゅう]

ナノテクノロジー関連かんれん製品せいひん政府せいふによって規制きせいけるべきかという問題もんだいにはおおきな議論ぎろんがある。その背景はいけいには、しん物質ぶっしつ商品しょうひんされて市場いちば地域ちいき社会しゃかい環境かんきょう出回でまわるよりもまえ安全あんぜんせい評価ひょうかおこなうことが必要ひつようかつ適切てきせつだという趨勢すうせいがある。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく環境かんきょう保護ほごちょう、アメリカ食品しょくひん医薬品いやくひんきょく欧州おうしゅう委員いいんかい保健ほけん消費しょうひしゃ保護ほご総局そうきょくのような規制きせい当局とうきょくはナノ粒子りゅうしによる潜在せんざいてきリスクに対処たいしょはじめた。現在げんざいのところは、人工じんこうナノ粒子りゅうしやナノ粒子りゅうしふく製品せいひん材料ざいりょう生産せいさん取扱とりあつかい、表示ひょうじかんする特別とくべつ規制きせい対象たいしょうとはなっていない。一部いちぶ物質ぶっしつについて発行はっこう義務付ぎむづけられている安全あんぜんデータシート(SDS)でも、ナノサイズの物質ぶっしつがバルク(微小びしょうではない物質ぶっしつ)と区別くべつして記載きさいされていることはすくなく、たとえされていてもSDSには拘束こうそくりょくがない。

ナノテクノロジーにかんする表示ひょうじ義務ぎむ規制きせい限定げんていてき段階だんかいにとどまっていることは潜在せんざいてき安全あんぜんせい問題もんだい悪化あっかさせる[32]。ナノテクノロジーの研究けんきゅう商業しょうぎょう利用りようにともなう潜在せんざいてきなリスクが潜在せんざいてき利益りえき上回うわまわらないように、包括ほうかつてきなナノテクノロジー規制きせい展開てんかいする必要ひつようがあるという主張しゅちょうがある[33]。レスポンシブルなナノテクノロジー開発かいはつもとめるコミュニティにこたえるためにも、ナノテクノロジーの発展はってん公共こうきょう利益りえき逸脱いつだつしないためにも、規制きせい必要ひつようだとかんがえられる[34]

E=マーラ・フェルチャーは消費しょうひしゃ製品せいひんによるリスクの管理かんり管轄かんかつする米国べいこく消費しょうひしゃ製品せいひん安全あんぜん委員いいんかいかんするリポートにおいて、先端せんたん技術ぎじゅつもちいた複雑ふくざつなナノテクノロジー製品せいひん監視かんしする体制たいせいととのっていないことを指摘してきした[35]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Benefits and Applications”. United States National Nanotechnology Initiative. 2017ねん8がつ31にち閲覧えつらん
  2. ^ Paull, John (2010), Nanotechnology: No Free Lunch, Platter, 1(1) 8-17
  3. ^ Paull, John (2011) "Nanomaterials in food and agriculture: The big issue of small matter for organic food and farming", In: Neuhoff, Daniel; Halberg, Niels; Rasmussen, I.A.; Hermansen, J.E.; Ssekyewa, Charles and Sohn, Sang Mok (Eds.
  4. ^ Nanomedicine, Volume I: Basic Capabilities, by Robert A. Freitas Jr. 1999, ISBN 1-57059-645-X
  5. ^ “The emerging nanomedicine landscape”. Nat. Biotechnol. 24 (10): 1211–1217. (2006). doi:10.1038/nbt1006-1211. PMID 17033654. 
  6. ^ Freitas RA Jr. (2005). “What is Nanomedicine?”. Nanomedicine: Nanotechnology, Biology and Medicine 1 (1): 2–9. doi:10.1016/j.nano.2004.11.003. PMID 17292052. http://www.nanomedicine.com/Papers/WhatIsNMMar05.pdf. 
  7. ^ Nanotechnology in Medicine and the Biosciences, by Coombs RRH, Robinson DW. 1996, ISBN 2-88449-080-9
  8. ^ Editorial. (2006). “Nanomedicine: A matter of rhetoric?”. Nat Materials. 5 (4): 243. doi:10.1038/nmat1625. PMID 16582920. http://www.nature.com/nmat/journal/v5/n4/full/nmat1625.html. 
  9. ^ Nanotechnology: A Gentle Introduction to the Next Big Idea, by MA Ratner, D Ratner. 2002, ISBN 0-13-101400-5
  10. ^ Current Intelligence Bulletin 63: Occupational Exposure to Titanium Dioxide”. United States National Institute for Occupational Safety and Health. 2012ねん2がつ19にち閲覧えつらん
  11. ^ The National Personal Protective Technology Laboratory
  12. ^ CDC - NIOSH Science Blog - Respiratory Protection for Workers Handling Engineering Nanoparticles”. National Institute for Occupational Safety and Health (2011ねん12月7にち). 2012ねん8がつ24にち閲覧えつらん
  13. ^ “Respiratory protection against airborne nanoparticles: a review”. J Nanopart Res 11: 1661–1672. (2009). doi:10.1007/s11051-009-9649-3. 
  14. ^ “Total inward leakage of nanoparticles through filtering facepiece respirators”. Ann Occup Hyg 55: 253–263. (2011). doi:10.1093/annhyg/meq096. 
  15. ^ Nel, Andre (3 February 2006). “Toxic Potential of Materials at the Nanolevel”. Science 311 (5761): 622–627. doi:10.1126/science.1114397. PMID 16456071. 
  16. ^ Magrez, Arnaud (2006). “Cellular Toxicity of Carbon-Based Nanomaterials”. Nano Letters 6 (6): 1121–1125. doi:10.1021/nl060162e. PMID 16771565. 
  17. ^ “Airborne engineered nanomaterials in the workplace—a review of release and worker exposure during nanomaterial production and handling processes”. J. Hazard. Mater. (2016). doi:10.1016/j.jhazmat.2016.04.075. 
  18. ^ “Nanoparticle exposure at nanotechnology workplaces: a review”. Part. Fibre Toxicol 8 (1): 22. (2011). doi:10.1186/1743-8977-8-22. 
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  20. ^ Formoso, P; Muzzalupo, R; Tavano, L; De Filpo, G; Nicoletta, FP (2016). “Nanotechnology for the Environment and Medicine”. Mini Reviews in Medicinal Chemistry 16 (8): 668–75. PMID 26955878. 
  21. ^ Environment and Green Nano - Topics - Nanotechnology Project”. 2011ねん9がつ11にち閲覧えつらん
  22. ^ What is Green Engineering, US Environmental Protection Agency
  23. ^ Kearnes, Matthew; Grove-White, Robin; Macnaghten, Phil; Wilsdon, James; Wynne, Brian (2006). “From Bio to Nano: Learning Lessons from the UK Agricultural Biotechnology Controversy”. Science as Culture. Science as Culture (Routledge) 15 (4): 291–307. December 2006. doi:10.1080/09505430601022619. http://www.informaworld.com/smpp/content?content=10.1080/09505430601022619 2007ねん10がつ19にち閲覧えつらん 
  24. ^ http://csec.lancs.ac.uk/docs/nano%20project%20sci%20com%20proofs%20nov05.pdf
  25. ^ Reflecting Upon the UK’s Citizens’ Jury on Nanotechnologies: NanoJury UK Volume 3, Issue 2”. Nanotechnology Law & Business. 2017ねん8がつ31にち閲覧えつらん
  26. ^ http://www.wmin.ac.uk/sshl/pdf/CSDBUlletinMohr.pdf
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  28. ^ Smith, Erin Geiger (2013ねん2がつ14にち). “U.S.-based inventors lead world in nanotechnology patents: study”. Technology. Reuters. 2016ねん6がつ4にち閲覧えつらん
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  31. ^ “Nanotechnology's Controversial Role for the South”. Science Technology and Society 13 (1): 123–148. (2008). doi:10.1177/097172180701300105. 
  32. ^ “A Small Matter of Regulation: An International Review of Nanotechnology Regulation”. Columbia Science and Technology Law Review 8: 1–32. (2007). 
  33. ^ Bowman D; Fitzharris, M (2007). “Too Small for Concern? Public Health and Nanotechnology”. Australian and New Zealand Journal of Public Health 31 (4): 382–384. doi:10.1111/j.1753-6405.2007.00092.x. PMID 17725022. 
  34. ^ “Nanotechnology: Mapping the Wild Regulatory Frontier”. Futures 38 (9): 1060–1073. (2006). doi:10.1016/j.futures.2006.02.017. 
  35. ^ Felcher, EM. (2008). The Consumer Product Safety Commission and Nanotechnology

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Fritz Allhoff, Patrick Lin, and Daniel Moore, What Is Nanotechnology and Why Does It Matter?: From Science to Ethics (Oxford: Wiley-Blackwell, 2010).[1]
  • Fritz Allhoff and Patrick Lin (eds.), Nanotechnology & Society: Current and Emerging Ethical Issues (Dordrecht: Springer, 2008).[2]
  • Fritz Allhoff, Patrick Lin, James Moor, and John Weckert (eds.), Nanoethics: The Ethical and Societal Implications of Nanotechnology (Hoboken: John Wiley & Sons, 2007).[3] [4]
  • Kaldis, Byron. "Epistemology of Nanotechnology". Sage Encyclopedia of Nanoscience and Society. (Thousand Oaks: CA, Sage, 2010)http://www.academia.edu/929908/Epistemology_of_Nanoscience
  • Approaches to Safe Nanotechnology: An Information Exchange with NIOSH, United States National Institute for Occupational Safety and Health, June 2007, DHHS (NIOSH) publication no. 2007-123
  • Mehta, Michael; Geoffrey Hunt (2006). Nanotechnology: Risk, Ethics and Law. London: Earthscan  - provides a global overview of the state of nanotechnology and society in Europe, the USA, Japan and Canada, and examines the ethics, the environmental and public health risks, and the governance and regulation of this technology.
  • Dónal P O'Mathúna, Nanoethics: Big Ethical Issues with Small Technology (London & New York: Continuum, 2009).[5]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]