ニトログリセリン

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ニトログリセリン
{{{画像alt1}}}
{{{画像alt2}}}
{{{画像alt3}}}
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう 55-63-0 チェック
PubChem 4510
ChemSpider 4354 チェック
UNII G59M7S0WS3 チェック
EC番号ばんごう 200-240-8
国連こくれん/北米ほくべい番号ばんごう 0143, 0144, 1204, 3064, 3319
DrugBank DB00727
KEGG D00515 チェック
特性とくせい
化学かがくしき C3H5N3O9
モル質量しつりょう 227.0865 g mol−1
しめせせいしき C3H5(ONO2)3
精密せいみつ質量しつりょう 227.002578773 g mol−1
外観がいかん 無色むしょく液体えきたい
密度みつど 1.6 g cm−3 (at 15 °C)
融点ゆうてん

14 °C, 287 K, 57 °F

沸点ふってん

50-60 °C, 323-333 K, 122-140 °F (分解ぶんかい)

log POW 2.154
構造こうぞう
はい構造こうぞう 四面しめん体形たいけい C1, C2, C3
平面へいめん三角形さんかっけい N7, N8, N9
分子ぶんしかたち 四面しめん体形たいけい C1, C2, C3
平面へいめん N7, N8, N9
ねつ化学かがく
標準ひょうじゅん生成せいせいねつ ΔでるたfHo -370 kJ mol-1[1]
標準ひょうじゅん燃焼ねんしょうねつ ΔでるたcHo -1529 kJ mol-1[1]
薬理やくりがく
生物せいぶつがくてき利用りようのう < 1 %
投与とうよ経路けいろ 静脈じょうみゃく経口けいこうした局所きょくしょけいがわ
代謝たいしゃ 肝臓かんぞう
消失しょうしつ半減はんげん 3 min
法的ほうてき状況じょうきょう Pharmacist Only (S3)(AUえーゆー)
胎児たいじ危険きけん分類ぶんるい C(US)
爆発ばくはつせい
衝撃しょうげき感度かんど たか
摩擦まさつ感度かんど たか
ばくそく 7700 m s−1
RE係数けいすう 1.50
危険きけんせい
EU分類ぶんるい 爆発性 E 猛毒 T+ 環境への危険性 N
EU Index 603-034-00-X
NFPA 704
3
3
4
Rフレーズ R3 R26/27/28 R33 R51/53
Sフレーズ S1/2 S33 S35 S36/37 S45 S61
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

ニトログリセリンえい: nitroglycerin)とは、有機ゆうき化合かごうぶつで、爆薬ばくやく一種いっしゅであり、狭心症きょうしんしょう治療ちりょうやくとしてももちいられる。

グリセリン分子ぶんしの3つのヒドロキシもとを、硝酸しょうさん反応はんのうさせてエステルさせたものだが、これ自身じしん狭義きょうぎニトロ化合かごうぶつではなく、硝酸しょうさんエステルである。また、ペンスリットニトロセルロースなどのなかでも「ニトロ」とわれたら一般いっぱんてきにはニトログリセリン、またはこれを含有がんゆうする狭心症きょうしんしょうざいす。甘苦かんくあじがする無色むしょく油状ゆじょう液体えきたいみずにはほとんどけず、有機ゆうき溶剤ようざいける。

わずかな振動しんどう爆発ばくはつすることもあるため、あつかいはきわめてむずかしいが、一般いっぱんてき原液げんえきのままあつかわれるようなことはなく、まさしくあつかっていれば爆発ばくはつするようなことはきない。むかしあつか方法ほうほう確立かくりつしていなかったため、さまざまな爆発ばくはつ事故じこ発生はっせいしていた。実際じっさい爆発ばくはつ事故じこ製造せいぞうじょう欠陥けっかんあつかじょう問題もんだいがほとんどである。日本にっぽんにおいて原液げんえきのまま工場こうじょうから出荷しゅっかされることはない。綿めんなどにみこませて着火ちゃっかすると爆発ばくはつせずにはげしく燃焼ねんしょうするが、高温こうおん物体ぶったいじょう滴下てきかしたり金槌かなづちたたくなどつよ衝撃しょうげきくわえると爆発ばくはつする。

歴史れきし[編集へんしゅう]

1846ねんイタリア化学かがくしゃアスカニオ・ソブレロはじめて合成ごうせい成功せいこうした。出来上できあがったしん物質ぶっしつ調しらべようと自分じぶんした全体ぜんたいでなめてみたところ、こめかみがずきずきしたという記録きろくがあるが、これはかれ自身じしん毛細血管もうさいけっかん拡張かくちょうされたためである。爆発ばくはつりょくがすさまじく、いちてき加熱かねつしただけでガラスのビーカーれてぶほどの威力いりょくがあり、ソブレロは危険きけんすぎて爆薬ばくやくとしては不向ふむきであると判断はんだんした。しかしそのアルフレッド・ノーベルらの工夫くふうにより実用じつようされた。

ニトログリセリンの製造せいぞうプラントの模型もけい

ニトログリセリンの原料げんりょうとなるグリセリンは油脂ゆし加水かすい分解ぶんかいによってられるが、だいいち世界せかい大戦たいせんちゅうには爆薬ばくやくとして大量たいりょう需要じゅようしょうじたため、発酵はっこうによる大量たいりょう生産せいさんほう各国かっこく探索たんさくした。中央ちゅうおう同盟どうめいこくがわではドイツのカール・ノイベルグらによってとう酵母こうぼによってエタノール発酵はっこうさせるさい亜硫酸ありゅうさんナトリウムくわえるとグリセリンしょうじることが、連合れんごうこくがわではアメリカ培養ばいようえきアルカリ性あるかりせいにすると同様どうようにグリセリンがしょうじることが見出みいだされ、大量たいりょう生産せいさんされるようになった。

製造せいぞうほう[編集へんしゅう]

グリセリンを硝酸しょうさん硫酸りゅうさんこんさん硝酸しょうさんエステルするとニトログリセリンになる。

ニトログリセリンの合成ごうせい

爆発ばくはつせい[編集へんしゅう]

ニトログリセリンは低速ていそくばくとどろきこしやすいため、衝撃しょうげき感度かんどたかちいさな衝撃しょうげきでも爆発ばくはつしやすい。そのため、アセトンみずなどとぜて感度かんどげるか、ニトロゲルしてあつかう。

ニトログリセリンは8 °C凍結とうけつし、14 °Cけるが、一部いちぶ凍結とうけつすると感度かんどたかくなる。つまり、液体えきたいのときよりもよわ衝撃しょうげきでも爆発ばくはつしやすくなる。膠化こうかしたものでも、凍結とうけつ解凍かいとうかえすと液体えきたいのニトログリセリンがして危険きけんである。ダイナマイトなどに加工かこうされた状態じょうたいであっても凍結とうけつけなければならない。自然しぜん気温きおん凍結とうけつしたりけたりしないように保管ほかん温度おんど管理かんり必須ひっすである。

かす場合ばあいには湯煎ゆせんするなどして間接かんせつてき加熱かねつする。直接ちょくせつにかけるとにあたっている部分ぶぶん温度おんどたかくなって微少びしょう気泡きほう発生はっせいし、そこがホットスポット となって爆発ばくはつする。そのため、気泡きほうはいらないようにびんえん空気くうきのこさない、かきぜない、らない、などのあつかじょう注意ちゅうい必要ひつようである。これらの問題もんだい膠化こうかしてしまえばくなるが、膠化こうかする作業さぎょうちゅう微少びしょう気泡きほうはいるとおなじように爆発ばくはつするので加工かこうには注意ちゅうい必要ひつようである。

事件じけん事故じこ[編集へんしゅう]

用途ようと[編集へんしゅう]

医薬品いやくひん[編集へんしゅう]

血管けっかん拡張かくちょう作用さようがあるので狭心症きょうしんしょうくすりになる[5][6]一般いっぱん硝酸しょうさんエステルが血管けっかん拡張かくちょうやくとして利用りようされるようになったはじめのもので,アルフレッド・ノーベル自身じしん晩年ばんねんにはくすりとして使用しようしていたという逸話いつわがある。その生理せいり作用さよう機構きこうながらく不明ふめいであったが、硝酸しょうさんエステルから分解ぶんかいしょうじる一酸化いっさんか窒素ちっそNOの作用さようであることが解明かいめいされて、1998ねんのロバート・ファーチゴット、ルイ・イグナロ、フェリド・ムラドのノーベル医学いがく生理学せいりがくしょういたった。

体内たいない加水かすい分解ぶんかいされてしょうじる硝酸しょうさんが、さらに還元かんげんされて一酸化いっさんか窒素ちっそ (NO) になり、それがグアニルさんシクラーゼを活性かっせい環状かんじょうグアノシンいちリンさん(cGMP)のさんせいやす結果けっか細胞さいぼうないカルシウム濃度のうど低下ていかするため血管けっかん平滑へいかつすじ弛緩しかんし、血管けっかん拡張かくちょうこさせることが判明はんめいしている。

現在げんざい医薬品いやくひんとしてもちいられているもの硝酸しょうさんイソソルビドなどのニトロもと硝酸しょうさんけい薬品やくひんおもである。経口けいこう投与とうよするとニトログリセリンは初回しょかい通過つうか効果こうかのため代謝たいしゃされ効果こうかしめさない。ニトログリセリンはけいがわした投与とうよでないと有効ゆうこうでない。また半減はんげんみじか薬効やっこう不安定ふあんていである。医薬品いやくひんのニトログリセリンを使用しようする場合ばあいであっても添加てんかざいくわえて爆発ばくはつしないように加工かこうされている。ただし、それらを加工かこうして爆薬ばくやくつくることは可能かのうである。

副作用ふくさよう禁忌きんき[編集へんしゅう]

血管けっかん拡張かくちょう作用さよう結果けっかとして血圧けつあつ低下ていかこるため、アルコールやシルデナフィル(バイアグラ)などとの併用へいよう禁忌きんきである。

爆薬ばくやく火薬かやく[編集へんしゅう]

加熱かねつ摩擦まさつによって爆発ばくはつするため、爆薬ばくやくとしてダイナマイト原料げんりょうになる。

ニトロセルロースつよし綿めんやく=硝化しょうかたか綿めん火薬かやく)にニトログリセリンをくわえてってゲル膠状こうじょう)したものをダブルベース火薬かやく(それをさらに炭素たんそこなでコーティングしたつぶ拳銃けんじゅう小銃しょうじゅう薬莢やっきょうないれて発射はっしゃやくとして)、さらにニトログアニジンくわえたものトリプルベース火薬かやくび、おもだい口径こうけい火砲かほうそうやくとして使用しようされる。

ほう規制きせい[編集へんしゅう]

日本にっぽん消防しょうぼうほうにおいて、だい5るい危険きけんぶつ(自己じこ反応はんのうせい物質ぶっしつ)である硝酸しょうさんエステルるいぞくする。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは、医薬品いやくひんのニトロも爆薬ばくやく兵器へいきとしてあつかわれ、敵対てきたいこくへの輸出ゆしゅつ禁止きんしされている。

物語ものがたり登場とうじょうするニトログリセリン[編集へんしゅう]

ニトログリセリンの性質せいしつ様々さまざま物語ものがたりげられている。アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督かんとくサスペンス映画えいが恐怖きょうふ報酬ほうしゅう』(1953ねん)では、油田ゆでん火災かさい爆風ばくふう消火しょうかするため、ニトログリセリンをごくごく普通ふつうトラックはこぶことになったおとこたちの恐怖きょうふえがかれている。また、1978ねんにはウィリアム・フリードキン監督かんとくによりロイ・シャイダー出演しゅつえんでリメイクされている(恐怖きょうふ報酬ほうしゅう)。

稲垣いながき理一郎りいちろうちょDr.STONE」という漫画まんがにも登場とうじょうしている。

その[編集へんしゅう]

結晶けっしょうかんするデマ[編集へんしゅう]

ライアル・ワトソン生命せいめい潮流ちょうりゅう」にかれたとする、グリセリンの結晶けっしょうかんする「あいだちがった逸話いつわ」が、ニトログリセリンにえられてかたられることもある。「……ねつ力学りきがくくわしいある二人ふたり科学かがくしゃ偶然ぐうぜん結晶けっしょうしたグリセリンを入手にゅうしゅし、これをたね結晶けっしょうにしたら実験じっけんしつぜんグリセリンが密閉みっぺい容器ようきないのものをふくめて自然しぜん結晶けっしょうし、そのさかい世界中せかいじゅうのグリセリンが 17.8 °C結晶けっしょうするようになった……」という、結晶けっしょうつくがたいグリセリン[7]もとにした「伝説でんせつ」をニトログリセリンにえて脚色きゃくしょくしたものである。もちろん前述ぜんじゅつのとおりニトログリセリンは面倒めんどう手順てじゅんることなくこおるため、凍結とうけつ解凍かいとうによる小銃しょうじゅうだん爆発ばくはつ事故じこきている。

酸化さんか窒素ちっそとの混同こんどうについて[編集へんしゅう]

ドラッグレースよう競技きょうぎしゃチューニングカー使用しようされるナイトラス・オキサイド・システム(「nitro」とばれることがある)は酸化さんか窒素ちっそ (N2O、またの笑気しょうき) を使用しようしている。

酸化さんか窒素ちっそはニトログリセリンとおな窒素ちっそ化合かごうぶつではあるが、化学かがくてき特性とくせいまったことなるもので、爆発ばくはつせいもない。体積たいせきにしてやく21 % の酸素さんそ含有がんゆうりょうである空気くうきたいし、やく33 % である N2O を利用りようし、吸気きゅうきりょう限界げんかいのある内燃ないねん機関きかんで、よりおおくのガソリン燃焼ねんしょうさせるためにもちいられている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b Nitroglycerin”. NIST. 2021ねん3がつ8にち閲覧えつらん
  2. ^ 旭化成あさひかせいグループのニトログリセリン製造せいぞう施設しせつ爆発ばくはつ1人ひとり不明ふめい…1キロはなれた住宅じゅうたく被害ひがい”. 読売新聞よみうりしんぶんオンライン (2022ねん3がつ1にち). 2022ねん3がつ1にち閲覧えつらん
  3. ^ 火薬かやく製造せいぞう会社かいしゃ爆発ばくはつ行方ゆくえ不明ふめいだった社員しゃいん死亡しぼう確認かくにん遺体いたい一部いちぶをDNA鑑定かんてい”. 読売新聞よみうりしんぶんオンライン (2022ねん3がつ15にち). 2022ねん11月2にち閲覧えつらん
  4. ^ 爆発ばくはつ事故じこ、ニトログリセリン結晶けっしょう原因げんいんか カヤク・ジャパンが報告ほうこくしょ (朝日新聞あさひしんぶん2023ねん1がつ28にち記事きじ)
  5. ^ これはニトログリセリン製造せいぞう工場こうじょう勤務きんむしていた狭心症きょうしんしょうわずら従業じゅうぎょういんが、自宅じたくでは発作ほっさこるのに工場こうじょうではこらないことから発見はっけんされたという。
  6. ^ 狭心症きょうしんしょうくすり原料げんりょうはダイナマイトとおなじ?ニトログリセリンの特徴とくちょう作用さようについて(財団ざいだん法人ほうじん心臓しんぞう血管けっかん研究所けんきゅうじょ附属ふぞく病院びょういん2022ねん9がつ5にち記事きじ)
  7. ^ グリセリンを -193 °C冷却れいきゃくいちにち以上いじょう時間じかんをかけてゆっくりと温度おんどげ、17.8 °C にすることでたね結晶けっしょうがなくても結晶けっしょうする。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]