ユスティニアノス2世せい

ユスティニアノス2世せい Iūstinianos II ho Rinotmētos / Ιουστινιανός Βべーたʹ ὁ Ρινότμητος
東ひがしローマ皇帝こうてい
ユスティニアノス2世せいの代だいに作つくられたソリドゥス金貨きんか。裏面りめんには、PAX（平和へいわ）と刻きざまれ、正面しょうめんにはキリストが刻きざまれている。
在位ざいい	685年ねん - 695年ねん、705年ねん - 711年ねん
出生しゅっしょう	668年ねん？
死去しきょ	711年ねん12月11日にち 東ひがしロろーマ帝国まていこく、コンスタンティノポリス
配偶はいぐう者しゃ	エウドキア
	テオドラ
子女しじょ	アナスタシア ティベリオス
王朝おうちょう	ヘラクレイオス王朝おうちょう
父親ちちおや	コンスタンティノス4世せい
母親ははおや	アナスタシア

ユスティニアノス2世せい“リノトメトス”（ギリシア語ご：Ιουστινιανός Βべーたʹ ὁ Ρινότμητος, Iūstinianos II ho Rinotmētos、668年ねん？ - 711年ねん12月11日にち）は、東ひがしロろーマ帝国まていこくヘラクレイオス王朝おうちょう最後さいごの皇帝こうてい（在位ざいい：685年ねん - 695年ねん、705年ねん - 711年ねん）。コンスタンティノス4世せいの長男ちょうなん。ラテン語らてんご形がただとユスティニアヌス2世せいとなる。「リノトメトス」は鼻はなを削そがれたことから「鼻はななしの」を意味いみするあだ名な。キプロス島とうで生うまれたという伝説でんせつがある。

生涯しょうがい

ウマイヤ朝あさとの講和こうわ

685年ねん、父ちちの死しにより即位そくいする。彼かれが即位そくいした時とき、ウマイヤ朝あさは第だい二に次じ内乱ないらんの最中さいちゅうであった。ユスティニアノスはレバノン山地さんちにいた原住民げんじゅうみんのマルダイテス人じんを利用りようしてシリアでゲリラ活動かつどうを行おこなわせた。さらに688年ねんにはキレナイカ地方ちほうのバルカを艦隊かんたいが急襲きゅうしゅうしてイスラーム軍ぐんの指揮しき官かんを殺戮さつりくしている。これらに苦慮くりょしたウマイヤ朝あさのカリフ・アブドゥルマリクは688年ねんにユスティニアノス2世せいと和睦わぼくを結むすんだ。この時ときマルダイテス人じんの多おおくは小しょうアジア半島はんとう南部なんぶへ移住いじゅうさせられた。またキプロスはこれ以降いこう東ひがしロろーマ帝国まていこくとイスラーム勢力せいりょくの共有きょうゆう地ちとなる。この状態じょうたいはバシレイオス1世せい時代じだいの一いち時期じきを除のぞいて10世紀せいき後半こうはんまで続つづいた。

バルカン遠征えんせい、ローマ教皇きょうこうとの対立たいりつ

対たいイスラーム戦線せんせんが安定あんていしたことで、ユスティニアノス2世せいは祖父そふのコンスタンス2世せいと同様どうよう、バルカン半島ばるかんはんとうでの勢力せいりょく回復かいふくを目指めざした。688年ねんにはスクラビニア遠征えんせいを行おこなう。この時ときの最終さいしゅう目的もくてき地ちはテッサロニキだったので、コンスタンティノポリスとテッサロニキの間あいだの、ストリュモン川がわ流域りゅういきのスラブ人じんやブルガール人じんに対たいする軍事ぐんじ行動こうどうであったと考かんがえられる。この時とき捕虜ほりょにしたスラブ人じんを小しょうアジア半島はんとうに移住いじゅうさせ、軍隊ぐんたいとして組織そしきした。ただしユスティニアノスはこの遠征えんせいの帰途きとにブルガール人じんの襲撃しゅうげきを受うけ、辛からくも逃走とうそうしている。

ユスティニアノス2世せいは691年ねん-692年ねんにはコンスタンティノポリスの宮殿きゅうでんの「トゥルロ（かたつむり）の間あいだ」で教会きょうかい会議かいぎを開催かいさいする（トゥルロの公おおやけ会議かいぎ）。これは父ちちのコンスタンティノス4世せいが開催かいさいした第だい3コンスタンティノポリス公こう会議かいぎの補遺ほいを目的もくてきとしたものである。この時とき古代こだいギリシア的てきな信仰しんこうや慣習かんしゅうの禁止きんしや、イコン崇拝すうはいの承認しょうにんなどが決定けっていされている。しかしローマ教皇きょうこう・セルギウス1世せいはこの会議かいぎの議決ぎけつに反対はんたいしたので、ユスティニアノスは彼かれを逮捕たいほしようとした。だがローマ市民しみんなどの強力きょうりょくな反対はんたいによって失敗しっぱいしている。

セバストポリスの敗北はいぼくとレオンティオスのクーデター

ユスティニアノスは2世せいはその後ご、ウマイア朝あさに対たいする軍事ぐんじ行動こうどうを起おこす。そしてコンスタンス2世せい時代じだい以来いらいの戦略せんりゃくを変更へんこうしてウマイヤ朝あさとの直接ちょくせつ対決たいけつを指向しこうした。だが692年ねんのセバストポリスの戦たたかいでは、スラブ人じん部隊ぶたいが寝返ねがえったこともあって惨敗ざんぱいする。これ以降いこう再ふたたび小しょうアジアへのイスラームの攻撃こうげきが激化げきかした。ユスティニアノス2世せいはこのような連年れんねんの遠征えんせいの軍費ぐんぴを調達ちょうたつするため重税じゅうぜいを強しいたほか、ユスティニアヌス1世せいにならって建築けんちく活動かつどうを起おこし、人々ひとびとにとって大おおきな負担ふたんとなった。加くわえて宦官かんがんで財務ざいむ長官ちょうかんでもあるペルシアのステファノスの専横せんおうも目立めだっていた。こうした状況じょうきょうを利用りようして、695年ねんに新設しんせつテマであるテマ・ヘラスの長官ちょうかんに任にんじられた（それまでは投獄とうごくされていた）軍人ぐんじん・レオンティオスがサーカス党派とうはの支援しえんを受うけてクーデターを起おこした。ユスティニアノス2世せいは捕とらえられ、鼻はなを削そがれた上うえでクリミア半島くりみあはんとうのケルソンへ追放ついほうされた。

復位ふくい

しかし、ユスティニアノス2世せいはなおも復位ふくいを目指めざして執拗しつように活動かつどうする。削そがれた鼻はなの代かわりに黄金おうごん製せいの付つけ鼻はなをつけ、帝位ていいへの復帰ふっきを公然こうぜんと表明ひょうめいしたのである。703年ねんにはケルソンを脱出だっしゅつしてハザール汗あせ国こくにのがれ、可か汗あせの姉妹しまいと結婚けっこんし、ユスティニアヌス1世せいの妃ひにちなんでテオドラと改名かいめいさせた。さらに第だい一いち次じブルガリア帝国ていこくのテルヴェル王おうがユスティニアノス2世せいの復位ふくいを支持しじし、その力ちからを背景はいけいにしたユスティニアノス2世せいは705年ねん、レオンティオスを追おって帝位ていいについたティベリオス3世せいを打倒だとうして、復位ふくいを果はたしたのである。このとき、息子むすこのティベリオスを共同きょうどう皇帝こうていとしている。

復位ふくい後ごのユスティニアノス2世せいはランゴバルド王国おうこくやローマ教皇きょうこうとは良好りょうこうな関係かんけいを築きずき、711年ねんには教皇きょうこうコンスタンティヌスがコンスタンティノポリスを訪問ほうもんしている。またブルガリアとも（当然とうぜんながら）良好りょうこうな関係かんけいを保持ほじしていたようである（史料しりょうでは晩年ばんねんにブルガール人じんと対立たいりつしたとあるが、これは第だい一いち次じブルガリア帝国ていこくに属ぞくしていない集団しゅうだんの可能かのう性せいが高たかい）。しかしウマイヤ朝あさとの戦たたかいでは小しょうアジア南東なんとう部ぶの要衝ようしょうテュアナを708年ねんに制圧せいあつされて以降いこう、完全かんぜんに守勢しゅせいに立たつこととなった。また復位ふくいしたユスティニアノス2世せいは異常いじょうなほど猜疑心さいぎしんが強つよくなり、多おおくの人々ひとびとを粛清しゅくせいしてゆくようになる。また710年ねんにはユスティニアノスに対たいして反抗はんこう的てきだった北きたイタリアのラヴェンナへ遠征えんせい軍ぐんを送おくって掠奪りゃくだつさせた。

最期さいご

711年ねんには流刑りゅうけい地ちだったケルソンにも、艦隊かんたいを派遣はけんして復讐ふくしゅうを行おこなおうとした。これに怒おこったケルソンの市民しみんが反乱はんらんを起おこすと、艦隊かんたいもそれに追随ついずいし、艦隊かんたいに同乗どうじょうしていたフィリピコス・バルダネスを皇帝こうていとした。ハザール族ぞくの支援しえんを受うけた反乱はんらん軍ぐんがコンスタンティノポリスに迫せまると、あっけなく首都しゅとは開城かいじょう。ユスティニアノス2世せいは小しょうアジアに逃にげたが捕とらえられ、殺ころされた。共同きょうどう皇帝こうていだった息子むすこのティベリオスは、祖母そぼ（ユスティニアノス2世せいの母親ははおや）のアナスタシアが必死ひっしに助命じょめいを乞こうがき入きいれられず、コンスタンティノポリスで殺ころされた。ユスティニアノスの体からだは海うみに捨すてられ、首くびはラヴェンナとローマに送おくられて見世物みせものにされたという。ユスティニアノスと息子むすこティベリオスの死しにより、ヘラクレイオス王朝おうちょうによる東ひがしロろーマ帝国まていこく支配しはいは6代だいで終おわりを告つげた。ユスティニアノスの高祖父こうそふヘラクレイオス1世せいの王朝おうちょう設立せつりつから101年ねん後ごのことである。