第だい一いち次じ中印なかいん国境こっきょう紛争ふんそう

第だい一いち次じ中印なかいん国境こっきょう紛争ふんそうとは1962年ねんに中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくとインドの間あいだで勃発ぼっぱつしたヒマラヤ地方ちほうでの国境こっきょう紛争ふんそうである。1951年ねんに中国ちゅうごくが資源しげんの豊富ほうふなチベットを併合へいごうしたため、以降いこうからネパールやブータン、ミャンマー、インドは中国ちゅうごくとの間あいだで国境こっきょう紛争ふんそうが発生はっせいしていた。第だい一いち次じ国境こっきょう紛争ふんそうでは中国ちゅうごく側がわが勝利しょうりして領土りょうどを獲得かくとくした。その後ごの1967年ねんには第だい二に次じ中印なかいん国境こっきょう紛争ふんそうが勃発ぼっぱつしている。

第だい一いち次じ中印なかいん国境こっきょう紛争ふんそう
戦争せんそう：中印なかいん国境こっきょう紛争ふんそう
年月日ねんがっぴ：1962年ねん10月がつ20日はつか － 同年どうねん11月21日にち
場所ばしょ：マクマホンライン地区ちく
結果けっか：中国ちゅうごくの勝利しょうり、インド軍ぐんを撃退げきたいし停戦ていせんを宣言せんげん・領土りょうど獲得かくとく。
交戦こうせん勢力せいりょく
中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこく	インド
指導しどう者しゃ・指揮しき官かん
毛沢東もうたくとう	ネルー
戦力せんりょく
10,000人にん	10,000人にん
損害そんがい
700人にん戦死せんし	1,400人にん戦死せんし

概要がいよう

1954年ねん、中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくとインドの両国りょうこくは平和へいわ五ご原則げんそくを発出はっしゅつし、以前いぜんから有あった国境こっきょう間あいだの紛争ふんそうの平和へいわ的てき解決かいけつを志向しこうしたが、1959年ねんにチベット動乱どうらんが起おこった事ことでダライ・ラマ14世せいがインドに亡命ぼうめいし、中印なかいん関係かんけいは悪化あっか。同年どうねん8月がつと10月に両国りょうこくの東部とうぶおよび西部せいぶ国境こっきょうで軍事ぐんじ衝突しょうとつが発生はっせいした。ついで1962年ねん10月がつ、中国ちゅうごく人民じんみん解放かいほう軍ぐんは東部とうぶおよび西部せいぶ国境こっきょうで大だい規模きぼな攻撃こうげきを行おこない、インド軍ぐんを敗走はいそうさせたのち、もとの国境こっきょう線せんに引ひき揚あげた。

係争けいそう地域ちいきは西にし、中なか、東部とうぶの3地域ちいきがあり、西部せいぶは中国ちゅうごくの新疆しんきょうウイグル自治じち区くのアクサイチンとインドのラダック地区ちくの間あいだで、中国ちゅうごくの建設けんせつした新しん疆・チベット公おおやけ路ろがあり、中国ちゅうごくが実効じっこう支配しはいしている。中部ちゅうぶはシプキ峠とうげ、マナ峠とうげを含ふくむ中印なかいん国境こっきょう地帯ちたい、東部とうぶはブータン東部とうぶの中国ちゅうごくのチベット自治じち区くとインドのアッサム州しゅうの間あいだでマクマホンラインが実際じっさい上じょうの国境こっきょうとなっている。中国ちゅうごく側がわの発表はっぴょうによれば、紛争ふんそう地域ちいきは合計ごうけい12万まん5000平方へいほうキロメートル（以下いかキロと省略しょうりゃく）にわたり、東部とうぶ9万まん平方へいほうキロ、中部ちゅうぶ2000平方へいほうキロ、西部せいぶ3万まん3000平方へいほうキロを占しめている。

中印なかいん両国りょうこくの基本きほん的てき主張しゅちょうは、1950年代ねんだい末すえから1960年代ねんだい初頭しょとうにかけてのインドの首相しゅしょうであるジャワハルラール・ネルーと中国ちゅうごくの首相しゅしょうである周しゅう恩来おんらいとの往復おうふく書簡しょかん、国境こっきょう会談かいだんによって明あきらかにされている。西部せいぶでは、インドは伝統でんとう的てき国境こっきょう線せんはすでに存在そんざいし、全ぜんラッダク地区ちくはインド領りょうであるとしているのに対たいして、中国ちゅうごくは、国境こっきょう線せんは未み確定かくていであり、全ぜんアクサイチン地区ちくを中国ちゅうごく領りょうであると主張しゅちょうし、東部とうぶでは、インドはマクマホンラインを国境こっきょう線せんと主張しゅちょうするのに対たいし、中国ちゅうごくは、1914年ねんのシムラ条約じょうやくに当時とうじの中国ちゅうごく政府せいふである中華民国ちゅうかみんこくは調印ちょういんしていないのでこれを認みとめず、国境こっきょうは未み確定かくていであり、プラーフマ・プトラ川がわ北岸ほくがんを国境こっきょう線せんと主張しゅちょうしている。中部ちゅうぶでも、マクマホンラインを国境こっきょうとするインドと、これを認みとめないとする中国ちゅうごくの主張しゅちょうは対立たいりつしている。

戦後せんご

1967年ねん

その後ご、他たの係争けいそう地ちで1967年ねんに再ふたたび高たかまり続つづけた緊張きんちょうは戦闘せんとうへと発展はってんし第だい二に次じ中印なかいん国境こっきょう紛争ふんそうが勃発ぼっぱつした。1967年ねん8月がつ13日にちから、中国ちゅうごく軍ぐんはシッキム側がわのナトゥラで塹壕ざんごうを掘ほり始はじめた。これはインド軍ぐんの反発はんぱつを招まねいた。インド軍ぐんは境界きょうかいを示しめすために有刺鉄線ゆうしてっせんを張はることを決定けっていした。これは中国ちゅうごく軍ぐんの反発はんぱつを招まねいた。 2日にち後ご、中国ちゅうごく軍ぐんは武器ぶきで武装ぶそうし、電線でんせんの敷設ふせつに従事じゅうじしていたインド兵へいに対たいして陣地じんちをとったが、発砲はっぽうはしなかった。9月7日にち、再ふたたびインド軍ぐんが有刺鉄線ゆうしてっせんを張はり始はじめたとき、現地げんちの中国ちゅうごく軍ぐん司令しれい官かんと軍隊ぐんたいが現場げんばに急行きゅうこうし、インド軍ぐんのライ・シン中佐ちゅうさに「重大じゅうだいな警告けいこく」を発はっした。ヤダフは作業さぎょうを中止ちゅうししようとしたが、その後ご乱闘らんとうが起おこり、双方そうほうの兵士へいし数すう名めいが負傷ふしょうした。峠とうげには遮蔽しゃへい物ぶつがなかったため、中国ちゅうごく軍ぐんとインド軍ぐんは当初とうしょ多大ただいな死傷ししょう者しゃを出だした。この衝突しょうとつは3日間にちかん昼夜ちゅうやを問とわず続つづき、大砲たいほう、迫撃はくげき砲ほう、機関きかん銃じゅうが使用しようされその間あいだにインド軍ぐんは中国ちゅうごく軍ぐんを撃退げきたいし勝利しょうりしたのち、保護ほご国こくであったシッキム王国おうこくを編入へんにゅうした。その後ご両国りょうこくの国境こっきょうは一定いっていの期間きかんのみ比較的ひかくてき安定あんていした状態じょうたいが続つづいた。

21世紀せいき

2003年ねんにアタル・ビハーリー・ヴァージペーイー首相しゅしょうは中国ちゅうごくを訪問ほうもんし、中国ちゅうごくはシッキムをインドの領土りょうどと承認しょうにんする代かわりに、インドはチベットを中国ちゅうごく領りょうと承認しょうにんすることで、江沢民こうたくみん元もと中国共産党ちゅうごくきょうさんとう総そう書記しょきと合意ごういした。

2005年ねんに、マンモハン・シン首相しゅしょうと温ゆたか家宝かほう首相しゅしょうの間あいだで、「両国りょうこくが領有りょうゆうを主張しゅちょうする範囲はんいの中なかで、人口じんこう密集みっしゅう地ちは争あらそいの範囲はんい外がい」とする合意ごういがなされ、両国りょうこくにとって戦略せんりゃく上うえ重要じゅうようとされるアルナーチャル・プラデーシュ州しゅう、特とくにタワン地区ちくは現状げんじょうを維持いじしている。

なお現在げんざいアクサイチンは中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくが実効じっこう支配しはいしている。日本にっぽんの学校がっこう教育きょういく用よう地図ちず帳ちょうでは、両国りょうこく主張しゅちょうの境界きょうかい線せんを併記へいきした上うえで地域ちいきは所属しょぞく未定みていとする手法しゅほうがとられている。

2010年ねん9月2日にち、インド東部とうぶのオリッサ州しゅう政府せいふは、同国どうこく中央ちゅうおう政府せいふの国防こくぼう関係かんけい者しゃの談話だんわとして、同国どうこくが開発かいはつした中距離ちゅうきょり弾道だんどうミサイル「アグニ2」（核弾頭かくだんとうの搭載とうさいが可能かのう）の改良かいりょう型がた実験じっけんに成功せいこうしたことを発表はっぴょうした。

「アグニ2」の射程しゃていは2000キロメートルで、改良かいりょう型がたの「アグニ2＋」は2500キロメートル。

これまでにインド国防省こくぼうしょう関係かんけい者しゃは「アグニ2」や短距離たんきょり弾道だんどうミサイルを、中国ちゅうごくとの国境こっきょう地帯ちたいに配備はいびするとしている。また、インド政府せいふ関係かんけい者しゃは2010年ねん3月がつに発表はっぴょうした国防こくぼう計画けいかくに絡からみ、「2012年ねんまでに、中距離ちゅうきょり弾道弾だんどうだんによる防御ぼうぎょシステムを完成かんせい。対象たいしょうは中国ちゅうごくとパキスタン」と発言はつげんした。

中国ちゅうごくメディアは脅威きょういが高たかまったとの認識にんしきを示しめし、中国ちゅうごく社会しゃかい科学かがく院いん・南みなみアジア研究けんきゅうセンターの葉は海うみ林りん事務じむ局長きょくちょうは、インドが中国ちゅうごくを主しゅたる対象たいしょうとして核かくミサイルの開発かいはつと整備せいびを進すすめているとした。

現在げんざい、「アグニ2」を中国ちゅうごくの経済けいざい発展はってん地域ちいきに可能かのうな限かぎり届とどかせるため、国境こっきょう近ちかくに配備はいびしているが、開発かいはつ中ちゅうの「アグニV」の有効ゆうこう射程しゃていは5000 - 6000キロメートルとされ、インド国内こくないのどこに配備はいびしても、中国ちゅうごく全土ぜんどを攻撃こうげきすることが可能かのうで、脅威きょういはさらに高たかまるという。また、インドとパキスタンは潜在せんざい的てきな敵対てきたい関係かんけいにあるが、パキスタンを念頭ねんとうに置おくならば、「アグニV」のような射程しゃていが長ながいミサイルを開発かいはつする必要ひつようはないとも主張しゅちょうした。

2013年ねん4月がつ15日にち、中国ちゅうごく軍ぐんは中国ちゅうごく側がわで野営やえい地ちを設営せつえいした。インド軍ぐんも中国ちゅうごく軍ぐんの野営やえい地ち近ちかくに部隊ぶたいを派遣はけんしてにらみ合あいを続つづけていたが、同年どうねん5月5日にちまでに両国りょうこくが共ともに部隊ぶたいを撤収てっしゅうさせることで合意ごういし、同日どうじつ中ちゅうに両りょう軍ぐんとも撤収てっしゅうを始はじめた。

2017年ねん6月16日にち、中国ちゅうごく軍ぐんがドグラム高原こうげん道路どうろ建設けんせつを始はじめたため、ブータンの防衛ぼうえいを担当たんとうするインド軍ぐんが出撃しゅつげきする。工事こうじを阻止そししようとするインド軍ぐんと中国ちゅうごく軍ぐんはもみ合あいになり、インド側がわの塹壕ざんごう二ふたつが重機じゅうきで破壊はかいされている。以降いこうは工事こうじが停止ていしし、二にか月げつにわたりにらみ合あいとなる。同年どうねん8月がつ15日にちインド・カシミール地方ちほうパンゴン湖こ北岸ほくがんの国境こっきょうにて中国ちゅうごく軍ぐん兵士へいしはインド兵士へいしと投石とうせきなどの小競こぜり合あいが起おきて両りょう軍兵ぐんびょう士し達たちが負傷ふしょうしている。その後ご両りょう軍ぐんは陣営じんえいに戻もどり、以降いこうは沈静ちんせい化かした。同年どうねん8月がつ28日にちにはドグラム高原こうげんでにらみ合あいの続つづいている両りょう部隊ぶたいを撤退てったいさせることで合意ごういし、両りょう軍ぐんとも部隊ぶたいを引ひき上あげるとインド当局とうきょくが発表はっぴょうする。しかし中国ちゅうごく外交がいこう部ぶは撤退てったいするのはインドのみであり、規模きぼは縮小しゅくしょうするものの中なか警備けいびを継続けいぞくすると発表はっぴょうしている。

2020年ねん5月9日にち、シッキム州しゅうの国境こっきょう付近ふきんで中印なかいん両りょう軍ぐんの殴なぐり合あいによる衝突しょうとつが発生はっせいした。インド紙しヒンドゥスタン・タイムズは、中印なかいん軍ぐんの総勢そうぜい150名めいが関与かんよし、中国ちゅうごく側がわ7名めいとインド側がわ4名めいの計けい11名めいが負傷ふしょうしたと報ほうじている。

2020年ねん7月がつ27日にち、インドのニュースサイト、レディフ・オンラインにおいて、モディ首相しゅしょうが中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくと「戦争せんそうはしたくない」と述のべたと報道ほうどうされた。その後ご、中国ちゅうごくの習近平たいらとモディ首相しゅしょうの会談かいだんが行おこなわれている。

2021年ねん7月がつ6日にち、チベット仏教ぶっきょうの精神せいしん的てき指導しどう者しゃであるダライ・ラマ14世せいの86歳さいの誕生たんじょう日びにあたり、誕生たんじょう日びを祝いわう電話でんわをかけたことを公表こうひょうした。モディは、SNSを通つうじて「ダライ・ラマ14世せいの86歳さいの誕生たんじょう日びを祝いわうため彼かれと電話でんわで話はなした」として、「今後こんごも末永すえながく健康けんこうでいられるよう祈願きがんしたい」と伝つたえたことを明あかした。2020年ねん、インドと中国ちゅうごくの係争けいそう地域ちいきで死者ししゃの出でる衝突しょうとつが起おこった際さい、ダライ・ラマ14世せいの誕生たんじょう日びにメッセージを送おくらなかったことを野党やとうから「中国ちゅうごくの顔色かおいろをうかがい過すぎている」と批判ひはんされており、今回こんかいの交流こうりゅうを誇示こじしたのは、中国ちゅうごくに対たいする国内こくないの強硬きょうこう世論せろんを意識いしきしたものとみられる。

2020年ねんのインドと中国ちゅうごくの係争けいそう地域ちいきで死者ししゃの出でる衝突しょうとつにより、インドでは中国ちゅうごく製品せいひんの不買ふばい運動うんどうが起おこり、インド政府せいふが中国ちゅうごく製せいスマートフォンアプリの使用しようを禁止きんしするなどの国内こくないの対たい中ちゅう感情かんじょうの悪化あっかから、モディは2021年ねん7月がつ1日にちの中国共産党ちゅうごくきょうさんとう建けん党とう100周年しゅうねんを祝いわうメッセージを中国ちゅうごくに送おくらなかった。

文献ぶんけん情報じょうほう

• 牛うし軍ぐん, 真水しみず康やすし樹じゅ[訳わけ]「中印なかいん辺境へんきょうにおける自衛じえい反撃はんげき作戦さくせんの政策せいさく決定けってい」『法政ほうせい理論りろん』第だい39巻かん第だい1号ごう、新潟大学にいがただいがく法ほう学会がっかい、2006年ねん9月がつ、191-210頁ぺーじ、CRID 1050564289185871616、hdl:10191/5253、ISSN 02861577。「中国共産党ちゅうごくきょうさんとう史しの視点してんからの中印なかいん紛争ふんそうの解釈かいしゃく。」 

関連かんれん項目こうもく

• アルナーチャル・プラデーシュ州しゅう
• カシミール
• アクサイチン
• 印しるしパ戦争せんそう
• 実効じっこう支配しはい線せん
• 中国ちゅうごく脅威きょうい論ろん