公案こうあん

公案こうあん（こうあん）

1. 中国ちゅうごくで、古代こだいから近世きんせいまでの役所やくしょが発行はっこうした文書ぶんしょ。調書ちょうしょ・裁判さいばん記録きろく・判例はんれいなど。唐とう代だいの通語つうご「公おおやけ府ふの案あん牘（あんとく）」に由来ゆらいする。
2. 禅宗ぜんしゅうにおいて雲水うんすいが修行しゅぎょうするための課題かだいとして、老師ろうし（師匠ししょう）から与あたえられる問題もんだいである。この項目こうもくで記述きじゅつする。

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仏教ぶっきょう用語ようご 公案こうあん
中国ちゅうごく語ご	公案こうあん (拼音: gōng'àn)
日本語にほんご	公案こうあん (ロろーマ字まじ: Koan)
英語えいご	dialogue, question

公案こうあん（こうあん）とは、禅宗ぜんしゅうにおける問答もんどう、または問題もんだいをいう。禅宗ぜんしゅうで修行しゅぎょう僧そうが参究さんきゅうする課題かだいである。すぐれた禅ぜん者ものの言葉ことば、動作どうさなどを記録きろくして、坐禅ざぜんしようとする者ものに与あたえ、悟さとりを得える対象たいしょうとするもので、臨済宗りんざいしゅうでは一いち千せん七なな百ひゃく則のりとも言いわれる。唐とう末すえの禅僧ぜんそう睦むつみ州しゅう道どう蹤（ぼくしゅうどうしょう, 780年ねん〜877年ねん)が、ある参さん問者もんじゃに答こたえて「現げん成なり公案こうあん（げんじょうこうあん）、你（なんじ）に三さん十じゅう棒ぼうを放はなす」(即決そっけつ裁判さいばんで、三さん十じゅう棒ぼうを与あたえるところを、特とくに猶予ゆうよしてやる)と言いったことに由来ゆらいし、師しが弟子でしを試こころみ、または評価ひょうかする意味いみの禅ぜん語ご。

法ほう身み、機関きかん、言げん詮かい、難なん透とおるなどに大別たいべつされるが、その他たに様々さまざまな課題かだいがある。内容ないようはいわゆる禅問答ぜんもんどうであって、にわかに要領ようりょうを得えず、解答かいとうがあるかすら不明ふめいなものである。有名ゆうめいな公案こうあんとして「隻手せきしゅの声こえ」、「狗いぬ子こ仏性ぶっしょう」、「祖師そし西にし来意らいい」などがある。

　例れい: 両手りょうてを叩たたくと音おとがする。では片手かたての音おととはなんだろう。（隻手せきしゅの声こえ）

公案こうあんを通つうじて、禅ぜんの修行しゅぎょう者しゃに「東洋とうよう的てき無む」を体験たいけんさせようとしたのは、宋そう代だいの五ご祖そ法ほう演えんじ禅師ぜんじからで、このころに公案こうあん禅ぜん（看み話はなし禅ぜん）が確立かくりつしており、公案こうあんは「五ご祖そ下かの暗号あんごう密みつ令れい」と言いわれることもある。

なお、「公案こうあん」の語かたりは、転てんじて芸道げいどうの思案しあん・工夫くふうの意味いみにも用もちいられ、世阿弥ぜあみは能楽のうがく論ろん書中しょちゅうに好このんで使用しようしている。

公案こうあんを用もちいた禅ぜん道どう修行しゅぎょうと看み話はなし禅ぜん

禅ぜん道どう修行しゅぎょうを志こころざした雲水うんすいは、一般いっぱんに参禅さんぜんのしきたりを踏ふんだうえで一人ひとりの師しにつき、各地かくちにある専門せんもん道場どうじょうと呼よばれる養成ようせい寺院じいんに入門にゅうもんし、与あたえられた公案こうあんに取とり組くむことになる。公案こうあんは、師家しか（老師ろうし）から雲水うんすいが悟さとりの境地きょうちへと進すすんで行いくために手助てだすけとして課かす問題もんだいであり、悟さとりの境地きょうちに達たっしていない人ひとには容易よういに理解りかいし難がたい難問なんもんだが、屁理屈へりくつや詭弁きべんが述のべられているわけではなく、頓知とんちや謎なぞかけとも異ことなる。

数すう年間ねんかんの修行しゅぎょう中ちゅうは僧堂そうどうで坐禅ざぜんをしたり、寺てらの業務ぎょうむに従事じゅうじしながら毎日まいにち、多おおい時ときには日ひに数すう度ども、老師ろうしのもとに呼よび出だされ、回答かいとうを求もとめられる。思考しこうの限かぎりを尽つくしてもそのたび老師ろうしに追おい返かえされ、なおも回答かいとうの提出ていしゅつを求もとめられて懊悩おうのうする日々ひびの生活せいかつは、きわめて厳きびしい。

公案こうあんをひとつひとつ解といて悟さとりへと至いたる禅ぜんを看み話はなし禅ぜんと呼よび、臨済宗りんざいしゅう、黄檗宗おうばくしゅう、韓国かんこくの曹渓宗むねが看み話はなし禅ぜんに属ぞくする。これに対たいし、公案こうあんを用もちいずにひたすら坐禅ざぜんをして（只管ひたすら打だ坐すわ）悟さとりを開ひらいていく禅ぜんを黙だま照あきら禅ぜんといい、黙だま照あきら禅ぜんは曹洞宗そうとうしゅうの特徴とくちょうとなっている。

近世きんせいには一定いっていの数かずの公案こうあんを解とかないと住職じゅうしょくになれない等ひとし、法ほう臘（年数ねんすう）の他ほかに僧侶そうりょとしての修業しゅうぎょう度どを表あらわす基準きじゅんともなった。

公案こうあんの構成こうせい

禅宗ぜんしゅうの問答もんどうは、時ときと所ところを異ことにして第三者だいさんしゃのコメントがつくのが常つねで、始はじめに何なにも答こたえられなかった僧そうに代かわる代だい語ご（だいご）や、答こたえても不十分ふじゅうぶんなものには別べつの立場たちばから答こたえて見みせる別べつ語ご（べつご）など、第だい2次第しだい3次じの問答もんどうを生うみ出だし、最初さいしょの問答もんどうを本則ほんそく（ほんそく）または古こ則のり（こそく）、話頭わとう（わとう）、話はなし則そく（わそく）などとして参禅さんぜん工夫くふうする、公案こうあん禅ぜんまたは看み話はなし禅ぜんの時代じだいとなる。

宋そう代だいは、一般いっぱん士し大夫たいふの間あいだにそうした看み話はなし禅ぜんへの関心かんしんが高たかまって、古こ則のりを集あつめた挙きょ古いにしえ（きょこ）、韻文いんぶんの頌をつける頌古（じゅこ）、散文さんぶんのコメントを集あつめた拈ひね古ふる（ねんこ）など、数々かずかずの公案こうあん集しゅうが存在そんざいした。『碧あお巌いわお録ろく』（宋そう代だいの禅僧ぜんそうの圜悟克かつ勤つとむ（えんごこくごん）が雪ゆき竇重顕あらわ（せっちょうじゅうけん）の頌古百ひゃく則のりを講こうじたもの）や、『無む門もん関せき』（南みなみ宋そうの無む門かど慧とし開ひらくが五ご十じゅう則のりの公案こうあんに評ひょう唱および頌をつけたもの）が代表だいひょう的てきである。

主おもな公案こうあん集しゅう

• 『無む門もん関せき』
• 『碧あお巌いわお録ろく』
• 『従容しょうよう録ろく』

参考さんこう文献ぶんけん

• 中村なかむら元もと他た『岩波いわなみ仏教ぶっきょう辞典じてん』岩波書店いわなみしょてん、1989年ねん。ISBN 4-00-080072-8。 
• 星野ほしの和子かずこ(著ちょ)、安永やすなが祖そ堂どう(監修かんしゅう)『一いちからはじめる禅ぜん』ダイヤモンド社だいやもんどしゃ、2009年ねん。ISBN 978-4-478-91027-6。 
• 秋月あきづき龍りゅう珉『無む門もん関せきを読よむ』講談社こうだんしゃ学術がくじゅつ文庫ぶんこ、2002年ねん。