南みなみ宗はじめ

南みなみ宗はじめ（なんしゅう）は、中国ちゅうごくにおける禅宗ぜんしゅう仏教ぶっきょうの一派いっぱ。唐とう代だいに神かみ会かいが、かつての師しである神かみ秀しげるとその弟子でしたちを北きた宗はじめと呼よんで批判ひはんし、それに対たいして自みずからの立場たちばを南みなみ宗むねと称しょうして頓悟とんごの立場たちばを主張しゅちょうしたことに始はじまる。

歴史れきし

晩年ばんねんに則のり天武てんむ后きさきにより都とに迎むかえられた神かみ秀しげるは帝室ていしつの尊崇そんすうを受うけ、その弟子でしたちも帝室ていしつの保護ほごを受うけつつ多おおくの官かん人じんの支持しじを受うけていた。神かみ会かいはこの僧侶そうりょたちを北きた宗むねと呼よんで公おおやけに非難ひなんし、洛陽らくようの荷に沢さわ寺てらに入はいって北きた宗むね批判ひはんを続つづけた。神かみ会かいは、真しんの仏法ぶっぽうを伝つたえるのは自分じぶんの師しである禅宗ぜんしゅう六ろく祖その慧とし能のうであるとし、同おなじく六ろく祖そと尊崇そんすうされる神かみ秀しゅうを非難ひなんし、慧とし能のうが南方なんぽうにて法ほうを伝つたえていたことから、自みずからの立場たちばを南みなみ宗むねと称しょうしたのである。

神かみ会かいはこの活動かつどうによって一時期いちじき、政府せいふの命いのちにより洛陽らくようを追放ついほうされたが、755年ねん（天宝てんぽう14載の）に発生はっせいした安やす禄ろく山やまの乱らんにて香水こうすい銭ぜに制度せいどに加担かたんして洛陽らくように復帰ふっきした。その後ご、神かみ会かいは精力せいりょく的てきに布教ふきょうし、これを支持しじする人々ひとびとは増ふえ続つづけていった。神かみ会かいの南みなみ宗むねは、神かみ会かいが荷に沢さわ寺てらに拠よっていたため荷に沢さわ宗はじめとも呼よばれ隆盛りゅうせいしたが、神かみ会かいの死後しごには急速きゅうそくに衰おとろえ、845年ねん（会かい昌あきら5年ねん）の会かい昌あきらの廃はい仏ぼとけにより北きた宗はじめ系統けいとうとともに歴史れきしから消滅しょうめつした。この南北なんぼく両りょう宗むねの確執かくしつと栄華えいがと没落ぼつらくは後ごの禅宗ぜんしゅうに大おおきな影響えいきょうを与あたえ続つづけていくことになった。

中国ちゅうごく禅宗ぜんしゅうにおいては六ろく祖そ慧とし能のうの法ほうを嗣ついだ禅僧ぜんそうたちが活躍かつやくし、唐とう代だいから宋そう代だいにかけて五ご家いえ七なな宗むねと呼よばれる主要しゅような各派かくはを形成けいせいして、中国ちゅうごく仏教ぶっきょうは大おおいに栄さかえた。慧とし能のうと南北なんぼく宗論しゅうろんについては『六ろく祖そ壇だん経けい』などにより伝つたえられ、後代こうだいの禅僧ぜんそうたちは自みずからの系統けいとうを南みなみ宗むねの系統けいとうであると認識にんしきし続つづけ今日きょうに至いたっている。その意味いみで、荷に沢さわ宗はじめは滅ほろび去さったものの、南みなみ宗はじめは現在げんざいにまで続つづいていると言いえる。

特徴とくちょう

神かみ会かいは、悟さとりという目標もくひょうに向むかって段階だんかい的てきに修行しゅぎょうの階梯かいていを登のぼっていく禅ぜん法ほうである「漸やや悟さとる」を批判ひはんし、無明むみょうと悟さとり、凡夫ぼんぷと仏ふつ、などといった主客しゅかくの二元にげん性せいを超越ちょうえつして、禅定ぜんじょうすなわち悟さとりであるとする「頓悟とんご」の立場たちばを主張しゅちょうした。これが南みなみ宗むねの教おしえの核かくであるが、しかし実際じっさいには神かみ会かいも、坐禅ざぜんを組くむために体からだを慣ならす期間きかんが必要ひつようであることを認みとめるなど、極端きょくたんな立場たちばは取とらなかったことが、近年きんねんの敦煌とんこう文献ぶんけんの研究けんきゅうにより明あきらかになっている。