印綬いんじゅ

漢かん委い奴やつ国王こくおう印しるし

印綬いんじゅ（いんじゅ）とは中国ちゅうごくに於おいて臣下しんかに対たいして印章いんしょうを授さづけることによって官職かんしょくの証あかしとした制度せいどの事ことである。印しるしは印章いんしょう、綬はそれを下さげるためのひものことであり、この組くみ合あわせにより一目いちもくでどのような地位ちいにあるかがわかるようにされていた。

概要がいよう

『漢書かんしょ』などによると漢かんの印綬いんじゅ制度せいどでは印しるしの材質ざいしつでは上うえから順じゅんに玉たま・金きむ・銀ぎん・銅どう、綬の色いろは多色たしょく（皇帝こうていで六ろく色しょく）、綟（萌黄もえぎ）、紫むらさき、青あお、黒くろ、黄きとなる。更さらに印しるしの鈕ぼたん（つまみ）部分ぶぶんには、魚さかな、蛇へび、龍りゅう、虎とら、亀かめ、羊ひつじ、馬うま、駱駝らくだなどの動物どうぶつのかたち、鼻はな、瓦かわら、橋はしのかたちなど、さまざまな造形ぞうけいが施ほどこされている。

冊さつ封ふう体制たいせい下かに於おける中国ちゅうごくの周辺しゅうへん諸国しょこくの君主くんしゅたちはそれぞれに名目めいもく的てきに中国ちゅうごく王朝おうちょうの臣下しんかとされ、それぞれが印綬いんじゅを受うけていた。これは外そと臣しんと呼よばれ、王朝おうちょうに直接ちょくせつ仕つかえている内うち臣しんよりも一段いちだん低ひくい扱あつかいを受うける。

例たとえば漢かん代だいに於おいて諸侯しょこう王おうは内うち臣しんの場合ばあいは金きむ璽綟綬（きんじれいじゅ）が授さづけられるが、外そと臣しんで王おう号ごうを持もつ者ものは金きむ印しるし紫綬しじゅとなる。日本にっぽんの志賀島しかのしまで発見はっけんされた漢かん委い奴やつ国王こくおう印しるしや、まだ見みつかっていない倭やまと女王じょおう卑弥呼ひみこが授さづけられた「親おや魏ぎ倭やまと王おう」印しるしも金きむ印しるし紫綬しじゅである。

日本にっぽんにおいては、天皇てんのうを中心ちゅうしんとする朝廷ちょうていから、各かく地方ちほうの国司こくしに任にんぜられた者ものに、その身分みぶんの証あかしとして授さづけられ、また、沖縄おきなわ県けんが琉球りゅうきゅう王国おうこくだった頃ころは、銀ぎん印いん（鍍金めっき銀ぎん印しるし）を中華ちゅうかの皇帝こうていから授与じゅよされていた。

こうした官職かんしょく位階いかい勲等くんとうを象徴しょうちょうする印綬いんじゅであるが、この習慣しゅうかんは中国ちゅうごく由来ゆらいの命いのち理り（四柱推命しちゅうすいめい）にも反映はんえいされており、士人しじんが君主くんしゅに拝謁はいえつする適当てきとうな機会きかいを印綬いんじゅの時期じき流りゅう年ねんとしている。

また、文語ぶんご調しらべの日本語にほんごで重職じゅうしょくに就つくことを「印綬いんじゅを帯おびる」と言いった例れいがある。たとえば勝田かつた龍夫たつお「重臣じゅうしんたちの昭和しょうわ史し（下した）」P115「さきほど御殿場ごてんばで西園寺さいおんじが、『首相しゅしょうの印綬いんじゅを帯おびる程ほどの人物じんぶつは、三さん斗との酢すを鼻はなで吸すう程ほどの苦難くなんを舐なめた者ものでなければその資格しかくがない』と寓意ぐういを洩もらしたのを聞きいたばかりである」。

外延がいえん領域りょういき首長しゅちょうへの印綬いんじゅの下賜かし例れい

滇王之の印しるし

• 紀元前きげんぜん200年ねんの白しろ登山とざんの戦たたかいで包囲ほういを脱だっした前漢ぜんかん劉邦りゅうほうから匈奴きょうど冒おかせ頓ひたすら単たん于に匈奴きょうど単たん于璽が供きょうされた。
• 紀元前きげんぜん109年ねん、滇王、前漢ぜんかん武たけ帝みかどより、金きむ印しるし「滇王之の印しるし」を授さずかる。
• 57年ねん、委ゆだね奴やつ国王こくおう、後こう漢かんの都と・洛陽らくようで初代しょだい皇帝こうてい・光武みつたけ帝みかどから金きむ印しるし「漢かん委い奴やつ国王こくおう印しるし」を授さずかる（『後こう漢書かんしょ』倭やまと伝でん　「建たて武たけし中元ちゅうげん二に年ねん、倭やまと奴やつ国こく奉たてまつ貢みつぎ朝賀ちょうが、使つかい人じん自称じしょう大夫たいふ、倭国わのくに之の極ごく南みなみ界かい也。光武みつたけ賜たまもの以印綬いんじゅ」）。
• 120年ねん、天子てんし賜たまもの扶余王おう尉じょう仇かたき台だい印綬いんじゅ金彩きんさい。
• 133年ねん、鮮卑撃破げきはの功こうで南みなみ匈奴きょうど骨ほね都と侯こう夫おっと沈に金きむ印しるし紫綬しじゅ及および縑綵を賜たまう。
• 229年ねん、魏ぎの曹氏、「大月おおつき氏し国こく」（クシャーナ朝あさ）に金きむ印しるし、「親おや魏ぎ大月おおつき氏し王おう」贈おくる。
• 239年ねん、倭やまと女王じょおう卑弥呼ひみこ、魏ぎに朝貢ちょうこう、金きむ印しるし紫綬しじゅの「親おや魏ぎ倭やまと王おう」印しるし、銅鏡どうきょう百ひゃく枚まい等とうを賜たまわる（晋すすむ、陳ちん寿ひさし　『三国志さんごくし』魏ぎ書しょ・東夷あずまえびす伝でん・倭人わじんの条じょう　「今こん以汝為ため親おや魏ぎ倭やまと王おう仮かり金かね印しるし紫綬しじゅ」）。
• 1383年ねん、明あきらが鍍金めっき銀ぎん印いん（「琉球りゅうきゅう国王こくおう之の印しるし」）を琉球りゅうきゅう国王こくおうに贈おくる（『明あきら実録じつろく』）。
• 1400年ねん、朝鮮ちょうせん王朝おうちょうが高麗こうらいに代かわって半島はんとうを統治とうちしたことを認みとめて金きむ印しるしを贈おくる。（中村なかむら栄さかえ孝こう『朝鮮ちょうせん』（吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1971年ねん、p59-60による）

関連かんれん項目こうもく

• 朝貢ちょうこう
• 従属じゅうぞく国こく
• 冊さつ封ふう

外部がいぶリンク

• 中国ちゅうごくの古代こだい印章いんしょう ～金きん印しるしを取とり巻まく印章いんしょうたち～
• 駝鈕銅どう印しるし
• 辟邪鈕ぼたん銅どう印しるし