ラクダ (駱駝 らくだ )は、哺乳類 ほにゅうるい ・ウシ目 め (鯨 くじら 偶蹄 ぐうてい 目 め )・ラクダ科 か ・ラクダ属 ぞく Camelus の動物 どうぶつ の総称 そうしょう 。西 にし アジア原産 げんさん で背中 せなか に1つのコブ(瘤 こぶ )を持 も つヒトコブラクダ (Camelus dromedarius ) と、中央 ちゅうおう アジア原産 げんさん で2つのコブをもつ2種 しゅ のフタコブラクダ (Camelus bactrianus と Camelus ferus )の3種 しゅ が現存 げんそん する[1] [2] 。砂漠 さばく などの乾燥 かんそう 地帯 ちたい に最 もっと も適応 てきおう した家畜 かちく であり、古 ふる くから乾燥 かんそう 地帯 ちたい への人類 じんるい の拡大 かくだい に大 おお きな役割 やくわり を果 は たしている。
フタコブラクダは古 ふる くから家畜 かちく 種 しゅ Camelus bactrianus Linnaeus , 1758 が知 し られていた。19世紀 せいき 後半 こうはん に、ロシア人 じん の探検 たんけん 家 か ニコライ・プルジェワーリスキー (プルツェワルスキー)が中央 ちゅうおう アジアで野生 やせい の個体 こたい 群 ぐん を発見 はっけん し、Camelus ferus Przhewalski, 1878 と命名 めいめい した。この二 ふた つは最近 さいきん まではどちらも Camelus bactrianus に含 ふく まれていたが、2003年 ねん に動物 どうぶつ 命名 めいめい 法 ほう 国際 こくさい 審議 しんぎ 会 かい は、C. ferus を保全 ほぜん 名 めい とし、より古 ふる い C. bactrianus に対 たい して有効 ゆうこう であるとの裁定 さいてい を下 くだ した[3] (Opinion 2027 )。これは野生 やせい 種 しゅ と家畜 かちく 種 しゅ とを同種 どうしゅ として扱 あつか う場合 ばあい には C. ferus としなければならないことを示 しめ しており、IUCN レッドリスト においては C. bactrianus は C. ferus のシノニム として扱 あつか われている[4] 。
その後 ご 、C. bactrianus と C. ferus は、近 きん 縁 えん ではあるが別種 べっしゅ としてみなされている[5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] 。それぞれのフタコブラクダを和名 わみょう でどう呼 よ ぶのかは未定 みてい である。
ヒトコブラクダのコブの中身 なかみ (脂肪 しぼう )。国立 こくりつ 科学 かがく 博物館 はくぶつかん の展示 てんじ [12] 。
背中 せなか のコブの中 なか には脂肪 しぼう が入 はい っており、エネルギーを蓄 たくわ えるだけでなく、断熱 だんねつ 材 ざい として働 はたら き、汗 あせ をほとんどかかないラクダの体温 たいおん が日射 にっしゃ によって上昇 じょうしょう し過 す ぎるのを防 ふせ ぐ役割 やくわり もある。いわば、皮下脂肪 ひかしぼう がほとんど背中 せなか に集中 しゅうちゅう したような構造 こうぞう であり、日射 にっしゃ による背中 せなか からの熱 ねつ の流入 りゅうにゅう を妨 さまたげ ぎつつ、背中 せなか 以外 いがい の体 からだ 表 ひょう からの放熱 ほうねつ を促 うなが す。「コブの中 なか に水 みず が入 はい っている」というのは、長期間 ちょうきかん 乾燥 かんそう に耐 た えることから誤 あやま って伝 つた えられた迷信 めいしん であるが、一 いち 度 ど に80リットル程度 ていど の水 みず を摂取 せっしゅ することが可能 かのう である。出生 しゅっしょう 時 じ にコブは無 な く、背中 せなか の将来 しょうらい こぶになる部分 ぶぶん は皮膚 ひふ がたるんでいる。つまり脂肪 しぼう を蓄 たくわ える袋 ふくろ だけがある状態 じょうたい で生 う まれてくる。
ラクダは砂漠 さばく のような乾燥 かんそう した環境 かんきょう に適応 てきおう しており、水 みず を飲 の まずに数 すう 日間 にちかん は耐 た えることができる。砂塵 さじん を避 さ けるため、鼻 はな の穴 あな を閉 と じることができ、目 め は長 なが い睫毛 まつげ (まつげ )で保護 ほご されている。哺乳類 ほにゅうるい には珍 めずら しく瞬 まどか 膜 まく を完全 かんぜん な形 かたち で備 そな えている。また、塩性 えんせい 化 か の進行 しんこう した地域 ちいき における河川 かせん の水 みず など塩分 えんぶん 濃度 のうど の非常 ひじょう に高 たか い水 みず でも飲 の むことができる。さらに胼胝 だこ と呼 よ ばれる皮膚 ひふ が分厚 ぶあつ く角質 かくしつ 化 か した箇所 かしょ が左右 さゆう の前 ぜん 脚 あし の付 つ け根 ね 、後 こう 脚 あし の膝 ひざ 、胸 むね の5か所 しょ にある。胼胝 だこ は断熱 だんねつ 性 せい に優 すぐ れ、ここを接地 せっち して座 すわ れば高温 こうおん に熱 ねっ された地面 じめん の影響 えいきょう を受 う けることなく休 やす むことが出来 でき る。 野生 やせい 種 しゅ のフタコブラクダは、他 た のラクダ類 るい も耐 た えられない、海水 かいすい よりも塩分 えんぶん の強 つよ い水 みず を水分 すいぶん として確保 かくほ できる唯一 ゆいいつ の哺乳類 ほにゅうるい である。
他 た の偶蹄 ぐうてい 目 め の動物 どうぶつ と同様 どうよう 、ラクダは側 がわ 対 たい 歩 ふ (交互 こうご に同 おな じ側面 そくめん の前 ぜん 後肢 あとあし を出 だ して歩 ある く)をする。しかし、偶蹄 ぐうてい 目 め の特徴 とくちょう が必 かなら ずしも全 すべ て当 あ てはまるわけではなく、偶蹄 ぐうてい 目 め の他 ほか の動物 どうぶつ などのように、胴 どう と大腿 だいたい 部 ぶ の間 あいだ に皮 かわ が張 は られてはいない。また、同様 どうよう に反芻 はんすう を行 おこな うウシ亜 あ 目 め (反芻 はんすう 亜 あ 目 め )は4室 しつ の胃 い をもつが、ラクダには第 だい 3の胃 い と第 だい 4の胃 い の区別 くべつ がほとんどない。従来 じゅうらい ラクダ科 か を含 ふく むラクダ亜 あ 目 め は反芻 はんすう をしないイノシシ亜 あ 目 め と反芻 はんすう するウシ亜 あ 目 め の中間 ちゅうかん に置 お かれていた。しかし遺伝子 いでんし 解析 かいせき による分析 ぶんせき では、ラクダ亜 あ 目 め は偶蹄 ぐうてい 目 め の中 なか でもかなり早 はや い時期 じき にイノシシ亜 あ 目 め とウシ亜 あ 目 め の共通 きょうつう 祖先 そせん と分岐 ぶんき しており、同 おな じように反芻 はんすう をするウシ やヒツジ 、ヤギ などは、ラクダ科 か よりもむしろイノシシ科 か やカバ科 か 、クジラ目 め の方 ほう に近 きん 縁 えん であることが明 あき らかになっている。
ラクダの蹄 (ひづめ)は小 ちい さく、指 ゆび は2本 ほん で、5本 ほん あったうちの中指 なかゆび と薬指 くすりゆび が残 のこ ったものである。退化 たいか した蹄に代 か わり、脚 あし の裏 うら は皮膚 ひふ 組織 そしき が膨 ふく らんでクッション状 じょう に発達 はったつ している。これは歩行 ほこう 時 じ に地面 じめん に対 たい する圧力 あつりょく を分散 ぶんさん させて、脚 あし が砂 すな にめり込 こ まないようにするための構造 こうぞう で、雪 ゆき 上靴 うわぐつ やかんじき と同 おな じ役割 やくわり を持 も つ。砂地 すなじ においては、蹄よりもこちらの構造 こうぞう が適 てき しているのである。
酷暑 こくしょ ・乾燥 かんそう に耐 た える生理 せいり 機構 きこう [ 編集 へんしゅう ]
ラクダの酷暑 こくしょ や乾燥 かんそう に対 たい する強 つよ い耐久 たいきゅう 力 りょく については様々 さまざま に言 い われてきた。特 とく に、長期間 ちょうきかん にわたって水 みず を飲 の まずに行動 こうどう できる点 てん については昔 むかし から驚異 きょうい の的 てき であり、「背中 せなか のコブに水 みず を蓄 たくわ えている」という思 おも い込 こ みもそこから出 で たものである。体内 たいない に水 みず を貯蔵 ちょぞう する特別 とくべつ な袋 ふくろ があるとも、胃 い に蓄 たくわ えているのだとも考 かんが えられたが、いずれも研究 けんきゅう の結果 けっか 否定 ひてい された。
実際 じっさい には、ラクダは血液 けつえき 中 ちゅう に水分 すいぶん を蓄 たくわ えていることがわかっている。ラクダは一 いち 度 ど に80リットル、最高 さいこう で136リットルもの水 みず を飲 の むが、その水 みず は血液 けつえき 中 ちゅう に吸収 きゅうしゅう され、大量 たいりょう の水分 すいぶん を含 ふく んだ血液 けつえき が循環 じゅんかん する。ラクダ以外 いがい の哺乳類 ほにゅうるい では、血液 けつえき 中 ちゅう に水分 すいぶん が多 おお すぎるとその水 みず が赤血球 せっけっきゅう 中 なか に浸透 しんとう し、その圧力 あつりょく で赤血球 せっけっきゅう が破裂 はれつ してしまう(溶血 ようけつ )が、ラクダでは水分 すいぶん を吸収 きゅうしゅう して2倍 ばい にも膨 ふく れ上 あ がっても破裂 はれつ しない。また、水 みず の摂取 せっしゅ しにくい環境 かんきょう では、通常 つうじょう は34-38度 ど の体温 たいおん を40度 ど くらいに上 あ げて、極力 きょくりょく 水分 すいぶん の排泄 はいせつ を防 ふせ ぐ。もちろん尿 にょう の量 りょう も最小限 さいしょうげん にするため、濃度 のうど がかなり高 たか い。また、人間 にんげん の場合 ばあい は体重 たいじゅう の1割 わり 程度 ていど の水 みず が失 うしな われると生命 せいめい に危険 きけん が及 およ ぶが、ラクダは4割 わり が失 うしな われても生命 せいめい を維持 いじ できる。そのかわり、渇 かわ いた時 とき には一気 いっき に大量 たいりょう の水 みず を飲 の むので、ラクダの群 む れに水 みず を与 あた えるには非常 ひじょう に大量 たいりょう の水 みず を必要 ひつよう とすることとなる。野生 やせい 種 しゅ のフタコブラクダは、海水 かいすい よりも塩分 えんぶん の強 つよ い水 みず を補給 ほきゅう する事 こと のできる唯一 ゆいいつ の哺乳類 ほにゅうるい だとされている。
ラクダは乾燥 かんそう 地帯 ちたい の気候 きこう に順応 じゅんのう しているが、湿潤 しつじゅん 環境 かんきょう には弱 よわ い。日本 にっぽん のような高温 こうおん 多湿 たしつ の環境 かんきょう では熱中 ねっちゅう 症 しょう となった事例 じれい もある[14] 。足 あし が湿地 しっち 帯 たい を移動 いどう するようにできておらず、傷 いた めることが多 おお い。また湿潤 しつじゅん 環境 かんきょう に多 おお く発生 はっせい する疫病 えきびょう に対 たい して抵抗 ていこう 力 りょく がない。アフリカ大陸 たいりく においてはニジェール川 がわ が最 もっと も砂漠 さばく に近 ちか くなるニジェール川 がわ 大 だい 湾曲 わんきょく 部 ぶ のトンブクトゥ あたりが南限 なんげん であり、これ以南 いなん では荷役 にやく 動物 どうぶつ がロバ へと変 か わる。
ラクダは乾燥 かんそう 地帯 ちたい において主 おも に飼育 しいく される家畜 かちく の一 ひと つである。もっとも、遊牧 ゆうぼく においてラクダのみを飼育 しいく することは非常 ひじょう に少 すく なく、ヒツジ やヤギ 、ウシ などといった乾燥 かんそう 地域 ちいき にやや適応 てきおう した他 ほか の家畜 かちく と組 く み合 あ わせて飼育 しいく されることが一般 いっぱん 的 てき である。これは、飢饉 ききん や疫病 えきびょう などによって所有 しょゆう する家畜 かちく が大 だい 打撃 だげき を受 う けた時 とき のリスク軽減 けいげん のためである。また、ラクダは繁殖 はんしょく が遅 おそ く増 ふ やすのが難 むずか しい。オスは6歳 さい にならないと交尾 こうび が可能 かのう とならず、発情 はつじょう 期 き は年 とし に1回 かい しかない[16] 。メスも他 た の家畜 かちく と比較 ひかく して成熟 せいじゅく に多 おお くの時間 じかん が必要 ひつよう であり、妊娠 にんしん 期間 きかん は12ヶ月 かげつ 近 ちか くに及 およ ぶ[16] 。
反面 はんめん 、寿命 じゅみょう は約 やく 30年 ねん と長 なが く、乾燥 かんそう に強 つよ いために旱魃 かんばつ の際 さい にも他 た の家畜 かちく に比 くら べて打撃 だげき を受 う けにくい。このため、ヒツジやヤギが可 か 処分 しょぶん 所得 しょとく として短期 たんき 取引 とりひき 用 よう に使用 しよう されるのに対 たい し、ラクダは資産 しさん 形成 けいせい など長期 ちょうき の取引 とりひき のために飼養 しよう される。一方 いっぽう 、ラクダとヤギやウシを同 おな じ群 む れとして放牧 ほうぼく すると食物 しょくもつ を巡 めぐ って争 あらそ いを起 お こしやすいため、ラクダの群 む れはほかの動物 どうぶつ と分 わ けて放牧 ほうぼく するのが通例 つうれい である。
ラクダ科 か の祖先 そせん はもともと北 きた アメリカ大陸 あめりかたいりく で進化 しんか したものであり、200万 まん 年 ねん から300万 まん 年 ねん 前 まえ に陸橋 りっきょう 化 か していたベ べ ーリング海 りんぐかい 峡 かい (ベーリング地峡 ちきょう )を通 とお ってユーラシア大陸 たいりく へと移動 いどう し、ここで現在 げんざい のラクダへと進化 しんか した。北 きた アメリカ大陸 あめりかたいりく のラクダ科 か は絶滅 ぜつめつ したが、パナマ地峡 ちきょう を通 とお って南 みなみ アメリカ大陸 あめりかたいりく へと移動 いどう したグループは生 い き残 のこ り、現在 げんざい でもリャマ やアルパカ 、ビクーニャ 、グアナコ の近 きん 縁 えん 4種 しゅ が生 い き残 のこ っている。
ヒトコブラクダとフタコブラクダの家畜 かちく 化 か はおそらくそれぞれ独立 どくりつ に行 おこな われたと考 かんが えられている。ヒトコブラクダが家畜 かちく 化 か された年代 ねんだい については紀元前 きげんぜん 2000年 ねん 以前 いぜん 、紀元前 きげんぜん 4000年 ねん 、紀元前 きげんぜん 1300 - 1400年 ねん などの諸説 しょせつ がある。おそらくはアラビア で行 おこな われ、そこから北 きた アフリカ 、東 ひがし アフリカ などへと広 ひろ がった。フタコブラクダはおそらく紀元前 きげんぜん 2500年 ねん 頃 ごろ 、イラン 北部 ほくぶ からトルキスタン 南西 なんせい 部 ぶ にかけての地域 ちいき で家畜 かちく 化 か され、そこからイラク 、インド 、中国 ちゅうごく へと広 ひろ がったものと推測 すいそく されている[18] 。
ヒトコブラクダの個体 こたい 群 ぐん はほぼ完全 かんぜん に家畜 かちく 個体 こたい 群 ぐん に飲 の み込 こ まれたため、野生 やせい 個体 こたい 群 ぐん は絶滅 ぜつめつ した。ただ、辛 かろ うじてオーストラリア で二 に 次 じ 的 てき に野生 やせい 化 か した個体 こたい 群 ぐん から、野生 やせい のヒトコブラクダの生態 せいたい のありさまを垣間見 かいまみ ることができる。また、2001年 ねん には中国 ちゅうごく の奥地 おくち にて1000頭 とう のヒトコブラクダ野生 やせい 個体 こたい 群 ぐん が発見 はっけん された。塩水 えんすい とアルカリ土壌 どじょう に棲息 せいそく していること以外 いがい の詳細 しょうさい は不明 ふめい で、遺伝子 いでんし 解析 かいせき などは調査 ちょうさ 中 ちゅう である。この個体 こたい 群 ぐん についても、二 に 次 じ 的 てき に野生 やせい 化 か したものと推測 すいそく されている。したがって、純粋 じゅんすい な意味 いみ での野生 やせい のヒトコブラクダは絶滅 ぜつめつ した、という見解 けんかい は崩 くず されずにいる。
野生 やせい のフタコブラクダの個体 こたい 数 すう は、世界中 せかいじゅう で約 やく 1000頭 とう しかいないとされている[19] [20] 。このため、野生 やせい のフタコブラクダは2002年 ねん に、国際 こくさい 自然 しぜん 保護 ほご 連合 れんごう (IUCN)によって絶滅 ぜつめつ 危惧 きぐ 種 しゅ に指定 してい され、レッドデータリスト に掲載 けいさい されている。
2010年 ねん には全 ぜん 世界 せかい で1400万 まん 頭 とう のラクダが生息 せいそく しており、その90%がヒトコブラクダであった。ヒトコブラクダとフタコブラクダの生息 せいそく 域 いき は一部 いちぶ では重 かさ なり合 あ うものの、基本 きほん 的 てき には違 ちが う地域 ちいき に生息 せいそく している。
ヒトコブラクダは西 にし アジア原産 げんさん であり、現在 げんざい でもインドやインダス川 がわ 流域 りゅういき から西 にし の中央 ちゅうおう アジア 、イランなどの西 にし アジア全域 ぜんいき 、アラビア半島 はんとう 、北 きた アフリカ、東 ひがし アフリカを中心 ちゅうしん に分布 ぶんぷ している。中 なか でも、特 とく にアフリカの角 かく 地域 ちいき では現在 げんざい でも遊牧 ゆうぼく 生活 せいかつ においてラクダが重要 じゅうよう な役割 やくわり を果 は たしており、世界 せかい 最大 さいだい のラクダ飼育 しいく 地域 ちいき となっている[21] 。世界 せかい で最大 さいだい のラクダ飼育 しいく 頭数 とうすう を誇 ほこ るソマリア [22] や、エチオピア においてラクダは現在 げんざい でも乳 ちち 、肉 にく 、移動 いどう 手段 しゅだん を提供 ていきょう し続 つづ けている[23] [24] [25] [26] 。
フタコブラクダは中央 ちゅうおう アジア原産 げんさん である。トルコ 以東 いとう 、イランやカスピ海 かすぴかい 沿岸 えんがん 、中央 ちゅうおう アジア、新疆 しんきょう ウイグル自治 じち 区 く やモンゴル高原 こうげん 付近 ふきん にまで生息 せいそく している。頭数 とうすう は140万 まん 頭 とう 程度 ていど で、ラクダのうちの10%程度 ていど である[27] [28] [29] 。家畜 かちく として飼育 しいく する場合 ばあい は通常 つうじょう どちらかの種 たね しか飼育 しいく しないが、両 りょう 種 たね の雑種 ざっしゅ は大型 おおがた となるため荷役 にやく 用 よう として価値 かち が高 たか く、中央 ちゅうおう アジアでは両 りょう 種 たね をともに飼育 しいく して常 つね に雑種 ざっしゅ を生 う み出 だ し続 つづ けるようにしていた(後述 こうじゅつ )。
また、ヒトコブラクダは砂漠 さばく の広 ひろ がるオーストラリアに人為 じんい 的 てき に持 も ち込 こ まれ、現在 げんざい では野生 やせい 化 か して繁殖 はんしょく している。植民 しょくみん 地 ち としてオーストラリア内陸 ないりく への入植 にゅうしょく を進 すす めたイギリスが、同 おな じく英 えい 領 りょう であったインドやパキスタン 、その北 きた 隣 となり のアフガニスタン から、約 やく 2万 まん 頭 とう のラクダと約 やく 2000人 にん のラクダ使 づか いを送 おく り込 こ んだ。オーストラリア大陸 たいりく で鉄道 てつどう と自動車 じどうしゃ が普及 ふきゅう し、ラクダの必要 ひつよう 性 せい が低下 ていか した。当局 とうきょく から殺 ころせ 処分 しょぶん を求 もと められたラクダ使 づか いは、ラクダを野 の に放 はな った[31] 。こうして、ラクダの個体 こたい 群 ぐん は19世紀 せいき から20世紀 せいき にかけて持 も ち込 こ まれたものが野生 やせい 化 か した。オーストラリア中央 ちゅうおう 部 ぶ の砂漠 さばく 地帯 ちたい にかつては約 やく 70万 まん 頭 とう が生息 せいそく していた[32] [28] [33] 。この数字 すうじ は年間 ねんかん 8%ずつ増大 ぞうだい した[34] 。この野生 やせい ラクダはオーストラリアで盛 さか んなヒツジ の牧畜 ぼくちく 用 よう の資源 しげん を荒 あ らすため、オーストラリア政府 せいふ は10万 まん 頭 とう 以上 いじょう を駆除 くじょ している[35] 。その結果 けっか 、2018年 ねん 時点 じてん で約 やく 30万 まん 頭 とう が残 のこ っている。一方 いっぽう で、輸送 ゆそう 用 よう ではなくラクダ乳 ちち を入手 にゅうしゅ を目的 もくてき とした牧場 ぼくじょう も運営 うんえい されている[31] (「食用 しょくよう 」も参照 さんしょう )。
ヒトコブラクダは歯 は を見 み ることで年齢 ねんれい を知 し ることが出来 でき る。生 う まれた時 とき は22本 ほん の乳歯 にゅうし があり、加 か 齢 よわい と共 とも に歯 は が生 は え変 か わり、7歳 さい で34本 ほん の永久歯 えいきゅうし に生 は え変 か わる。このため、古 ふる くからラクダを取引 とりひき するアラブ商人 しょうにん たちはラクダの歯 は の生 は え方 かた で値段 ねだん を決 き めていた。また、地方 ちほう によっては歯 は の生 は え方 かた で呼 よ び方 かた を変 か えることもあり、販売 はんばい 価格 かかく などと密接 みっせつ に関係 かんけい している。ラクダの平均 へいきん 寿命 じゅみょう は25歳 さい 前後 ぜんこう だが、アラブ社会 しゃかい では古 ふる くからラクダの寿命 じゅみょう は33年 ねん 3ヶ月 かげつ と3日 にち と言 い われてきた。ヒジュラ暦 れき は1年 ねん が11日 にち ほど短 みじか いため33年 ねん 3ヶ月 かげつ と3日 にち で季 き 節 ぶし が33回 かい 変 か わり、太陽暦 たいようれき の33年 ねん に相当 そうとう する。
ラクダの年齢 ねんれい は歯 は が一 いち 組 くみ 変 か わるごとに1歳 さい 加 か 齢 よわい される独特 どくとく の年齢 ねんれい 加算 かさん 法 ほう を用 もち いる場合 ばあい があるので、実際 じっさい の年齢 ねんれい とラクダ商人 しょうにん が数 かぞ える年齢 ねんれい が一致 いっち しないことがある。
1歳 さい
上顎 じょうがく 両側 りょうがわ に4本 ほん の臼歯 きゅうし と下 しも 顎 あご 両側 りょうがわ に3本 ほん の臼歯 きゅうし
2-3歳 さい
上顎 じょうがく 両側 りょうがわ に5本 ほん の臼歯 きゅうし と下 した 顎 あご 両側 りょうがわ に3本 ほん の臼歯 きゅうし
4歳 さい 半 はん
糸切歯 いときりば が生 は え始 はじ める。
5歳 さい
上顎 じょうがく 両側 りょうがわ の乳歯 にゅうし 1本 ほん が2本 ほん の永久歯 えいきゅうし に生 は え変 か わり、下 しも 顎 あご 両側 りょうがわ に1本 ほん の臼歯 きゅうし が乳歯 にゅうし から永久歯 えいきゅうし に生 は え変 かわ る。
アラブ社会 しゃかい では古 ふる くから、上顎 じょうがく 両側 りょうがわ に6本 ほん の奥歯 おくば があるラクダを砂漠 さばく の横断 おうだん が可能 かのう な大人 おとな のラクダとしていた。
5歳 さい 半 はん
2本 ほん 目 め の糸切歯 いときりば が生 は え始 はじ める。
6歳 さい
上顎 じょうがく にも糸切歯 いときりば と犬歯 けんし が生 は える。
7歳 さい
全 すべ ての歯 は が乳歯 にゅうし から永久歯 えいきゅうし に変 か わる。
10歳 さい 以上 いじょう
永久歯 えいきゅうし の磨 す り減 へ り具合 ぐあい で判断 はんだん する。
歯 は の磨 す り減 へ り方 かた は生活 せいかつ 環境 かんきょう によって異 こと なるため、必 かなら ずしも実際 じっさい の年齢 ねんれい とは一致 いっち しないが、アラブ社会 しゃかい では古 ふる くからラクダの年齢 ねんれい を知 し る方法 ほうほう として用 もち いられてきた。歯 は が磨 す り減 へ ってしまうと通常 つうじょう の餌 えさ が食 た べられなくなるため、近代 きんだい 以前 いぜん は寿命 じゅみょう とされてきた。
ハイブリッドキャメル
ハイブリッドキャメル (英語 えいご 版 ばん ) …ヒトコブラクダとフタコブラクダの間 あいだ には雑種 ざっしゅ ができ、カザフスタン ではブフト(bukht )と呼 よ ばれる。雑種 ざっしゅ の瘤 こぶ は一 ひと つで、どちらの種 たね よりも体格 たいかく とスタミナで勝 まさ るため役畜 えきちく として重用 じゅうよう される[36] 。雌 めす のハイブリッド・キャメルはフタコブラクダと戻 もど し交配 こうはい することができ、ヒトコブラクダの血 ち を25%、フタコブラクダの血 ち を75%引 ひ く乗用 じょうよう のラクダがつくられる。
キャマ …ヒトコブラクダとリャマ との間 あいだ に人工 じんこう 的 てき に作 つく られた種 たね 間 あいだ 雑種 ざっしゅ
ラクダを最初 さいしょ に家畜 かちく 化 か したのは古代 こだい のアラム人 じん ではないかと考 かんが えられている。アラム人 じん はヒトコブラクダを放牧 ほうぼく する遊牧民 ゆうぼくみん 、あるいはラクダを荷物 にもつ 運搬 うんぱん に使 つか って隊商 たいしょう を組 く む通商 つうしょう 民 みん として歴史 れきし に登場 とうじょう した。砂漠 さばく を越 こ えることは他 た の使役 しえき 動物 どうぶつ ではほぼ不可能 ふかのう であるため、ラクダを使用 しよう することによって初 はじ めて砂漠 さばく を横断 おうだん する通商 つうしょう 路 ろ が使用 しよう 可能 かのう となった。やがて交易 こうえき ルートは東 ひがし へと延 の びていき、それに伴 ともな ってラクダも東方 とうほう へと生息 せいそく 域 いき を広 ひろ げていった。
シルクロード の3つの道 みち のうち、最 もっと も距離 きょり が短 みじか くよく利用 りよう されたオアシス ・ルートは、ラクダの利用 りよう があって初 はじ めて開拓 かいたく しえたルートである。シルクロードを越 こ えるキャラバン は何 なん 十 じゅう 頭 とう ものラクダによって構成 こうせい され、大 だい 航海 こうかい 時代 じだい までの間 あいだ はユーラシア大陸 たいりく の陸路 りくろ を使 つか う東西 とうざい 交易 こうえき の主力 しゅりょく となっていた。サハラ砂漠 さはらさばく においては、それまで主 おも な使役 しえき 動物 どうぶつ であった馬 うま に代 か わって3世紀 せいき 頃 ころ に東方 とうほう からラクダがもたらされることで[37] 初 はじ めてサハラを縦断 じゅうだん する交易 こうえき ルートの開設 かいせつ が可能 かのう となり、サハラ交易 こうえき がスタートした。また、ラクダは湿潤 しつじゅん 地帯 ちたい で荷役 にやく を行 おこな わせることは困難 こんなん であるため、砂漠 さばく とサヘル 地帯 ちたい の境界 きょうかい に近 ちか いニジェール川 がわ 大 だい 湾曲 わんきょく 部 ぶ のトンブクトゥ などはラクダとニジェール川 がわ 水運 すいうん やロバとの荷 に の積 つ み替 か え地点 ちてん として栄 さか えた。
歴史 れきし 学者 がくしゃ のリチャード・ブリエットは別 べつ のストーリーとして、紀元前 きげんぜん 3000年 ねん 頃 ごろ 、アフリカから中央 ちゅうおう アジアにかけてラクダを捕食 ほしょく 対象 たいしょう としていた狩猟 しゅりょう 採集 さいしゅう 民 みん のうち、アラビア海 かい 南部 なんぶ 沿岸 えんがん (今日 きょう のソマリア 周辺 しゅうへん )地域 ちいき のグループが最初 さいしょ にヒトコブラクダを馴化 じゅんか させたと主張 しゅちょう している。最初 さいしょ の利用 りよう 目的 もくてき は乳 ちち の採取 さいしゅ だったといい、牧草 ぼくそう 地 ち を求 もと めて遊牧 ゆうぼく を始 はじ めたことから駄 だ 獣 しし としての利用 りよう に発展 はってん したという。
ブリエットによれば、フタコブラクダの家畜 かちく 化 か は紀元前 きげんぜん 2500年 ねん 頃 ごろ 、イランとトルクメニスタン の間 あいだ の高原 こうげん 地域 ちいき で生活 せいかつ していた遊牧民 ゆうぼくみん によって行 おこな われ、その手法 しゅほう が中央 ちゅうおう アジアを経 へ てメソポタミア に広 ひろ がったという。アッシリア人 じん の戦勝 せんしょう 記念 きねん に描 えが かれたレリーフ に現 あらわ れるラクダの多 おお くは荷車 にぐるま を牽 ひ いている。
唐 とう 時代 じだい の官 かん の家畜 かちく に関 かん する規定 きてい である厩 うまや 牧 まき 令 れい ではラクダとゾウ の記述 きじゅつ があったが、それを継承 けいしょう した日本 にっぽん の厩 うまや 牧 まき 令 れい では国内 こくない 事情 じじょう に合 あ わせるため記述 きじゅつ が削除 さくじょ された。
2021年 ねん に、サウジアラビア、オマーン、アラブ首長 しゅちょう 国 こく 連邦 れんぽう などでラクダを飼育 しいく する際 さい に使用 しよう されるラクダへの口頭 こうとう 指示 しじ ヘダア (英語 えいご 版 ばん ) は、国際 こくさい 連合 れんごう 教育 きょういく 科学 かがく 文化 ぶんか 機関 きかん (ユネスコ)によって無形 むけい 文化 ぶんか 遺産 いさん と認定 にんてい された[39] 。
キャラバンなどに使用 しよう された。運 はこ べる重量 じゅうりょう は、短距離 たんきょり なら227kg、ローマ時代 じだい の標準 ひょうじゅん 的 てき なラクダでは約 やく 195kgとされる。運 はこ べる距離 きょり は、1日 にち に24-32kmを最小限 さいしょうげん の水 みず と餌 えさ で運 はこ べた[36] 。運 はこ ばれる荷物 にもつ は、腐 くさ りにくい絹 きぬ や貴金属 ききんぞく 類 るい などが主 おも だった。ラクダは、砂漠 さばく などには適 てき するが山岳 さんがく 地帯 ちたい や岩場 いわば には不向 ふむ きなので、ラバやヤクなどの駄 だ 獣 しし に積 つ みなおす必要 ひつよう がある。また、道路 どうろ が整備 せいび されていれば約 やく 2倍 ばい の荷物 にもつ が運 はこ べる馬車 ばしゃ などの方 ほう が良 よ く、水運 すいうん が使 つか えればビザンツ帝国 ていこく 期 き の商 しょう 帆船 はんせん 1隻 せき でラクダ約 やく 1000匹 ひき 以上 いじょう に相当 そうとう する荷物 にもつ が運 はこ べた。
エリトリア で活動 かつどう するPKF の隊員 たいいん (2005年 ねん )
ラクダと人類 じんるい とのかかわりにおいて、最 もっと も重要 じゅうよう なものは乗用 じょうよう 利用 りよう である。ラクダは「砂漠 さばく の舟 ふね 」とも呼 よ ばれ、他 た の使役 しえき 動物 どうぶつ では越 こ えることのできない乾燥 かんそう 地域 ちいき を越 こ える場合 ばあい にはほぼ唯一 ゆいいつ の輸送 ゆそう 手段 しゅだん となっていた。特 とく に利用 りよう されていたのは砂漠 さばく の多 おお いアラブ世界 せかい であり、20世紀 せいき 後半 こうはん に自動車 じどうしゃ が普及 ふきゅう するまで重要 じゅうよう な移動 いどう 手段 しゅだん であった。前述 ぜんじゅつ のように側 がわ 対 たい 歩 ふ で歩行 ほこう するラクダは歩行 ほこう 時 じ に身体 しんたい が大 おお きく左右 さゆう に揺 ゆ れる。このため慣 な れない者 もの がラクダに乗 の る場合 ばあい 、船酔 ふなよ い のような症状 しょうじょう (ラクダ酔 よ い)を起 お こすことがある。
初期 しょき のラクダの鞍 くら はコブの後部 こうぶ に置 お かれたマットを前方 ぜんぽう に伸 の ばした帯 おび でコブに固定 こてい したもので、主 おも に荷役 にやく 用 よう として使 つか われた。やがて騎乗 きじょう を目的 もくてき としたコブの前 まえ に乗 の せる馬蹄 ばてい 形 がた の鞍 くら が現 あらわ れたが、初期 しょき の騎乗 きじょう 用 よう の鞍 くら はぐらつきが大 おお きく戦闘 せんとう には向 む かなかった。アラビアでは紀元前 きげんぜん 500年 ねん ごろ以降 いこう に、コブではなく肋骨 あばらぼね に負荷 ふか をかける設計 せっけい の鞍 くら が現 あらわ れたことによって騎乗 きじょう 戦闘 せんとう が可能 かのう となり、紀元前 きげんぜん 2世紀 せいき 頃 ごろ には遊牧民 ゆうぼくみん と商業 しょうぎょう 国家 こっか のパワーバランスを変 か えるなど、社会 しゃかい に変革 へんかく をもたらすほどの影響 えいきょう を与 あた えるようになった。
現代 げんだい においてはほとんどが自動車 じどうしゃ に取 と って代 か わられたものの、マリ 北部 ほくぶ のタウデニ から南 みなみ のトンブクトゥへと塩 しお の板 いた を運 はこ ぶキャラバンなどは現在 げんざい でもラクダが使用 しよう され、2000頭 とう から3000頭 とう ものラクダのキャラバンが10月から5月 がつ までの涼 すず しい時期 じき に1か月 げつ 以上 いじょう かけて両 りょう 地 ち を往復 おうふく する[40] 。
また砂漠 さばく 地帯 ちたい で長時間 ちょうじかん 行動 こうどう できるため、古 ふる くから駱駝 らくだ 騎兵 きへい として軍事 ぐんじ 利用 りよう され、現代 げんだい でも軍隊 ぐんたい やゲリラの騎馬 きば 隊 たい がラクダを使用 しよう することがある。現代 げんだい ではインドと南 みなみ アフリカ共和 きょうわ 国 こく の2か国 こく が純 じゅん 軍事 ぐんじ 的 てき にラクダ部隊 ぶたい を保有 ほゆう しており、2007年 ねん には、ダルフール紛争 ふんそう の国連 こくれん 平和 へいわ 維持 いじ 活動 かつどう に対 たい し、インド政府 せいふ がラクダ部隊 ぶたい を派遣 はけん すると報道 ほうどう された[41] 。インドのラクダ部隊 ぶたい は大隊 だいたい 規模 きぼ で、国境警備隊 こっきょうけいびたい (BSF)に属 ぞく し、1986年 ねん に発足 ほっそく した騎乗 きじょう 音楽 おんがく 隊 たい も保有 ほゆう している。
ラクダの肉 にく は食用 しょくよう とされ、また乳 ちち 用 よう としても利用 りよう される。血液 けつえき を禁忌 きんき とするムスリム とユダヤ教徒 きょうと 以外 いがい は、生 い き血 ち を飲 の むこともある。また、ユダヤ教徒 きょうと はラクダはコーシャー ではないため食 た べることはできない(後述 こうじゅつ )。
食用 しょくよう としてのラクダ利用 りよう において最 もっと も重要 じゅうよう なものはラクダ乳 ちち (英語 えいご 版 ばん ) の利用 りよう である。イスラム圏 けん において古来 こらい 乳 ちち 用 よう 動物 どうぶつ として飼育 しいく されてきたものはラクダ、ヒツジ 、ヤギ であるが、ラクダはヒツジやヤギに比 くら べて授乳期 じゅにゅうき 間 あいだ が長 なが い(約 やく 13か月 げつ )上 じょう に乳 ちち 生産 せいさん 量 りょう も一 いち 日 にち 5リットル以上 いじょう と非常 ひじょう に多 おお かったため、砂漠 さばく 地帯 ちたい の遊牧民 ゆうぼくみん の主食 しゅしょく とされてきた。アラブにおいては、ヒツジやヤギの乳 ちち 搾 しぼ りが女性 じょせい の仕事 しごと とされたのに対 たい し、ラクダの乳 ちち 搾 しぼ りは男性 だんせい の仕事 しごと とされてきた。ラクダ乳 ちち は主 おも にそのまま飲用 いんよう されたが、発酵 はっこう させて酸 さん 乳 ちち (ヨーグルト )とすることもおこなわれた。ラクダ乳 ちち はウシやヒツジ、ヤギの乳 ちち と脂肪 しぼう の構造 こうぞう が異 こと なり、脂肪 しぼう を分離 ぶんり することがやや困難 こんなん である。さらにヤギやヒツジの乳 ちち のほうが脂肪 しぼう の含有 がんゆう 量 りょう も多 おお いため、バター やチーズ といった乳製品 にゅうせいひん は主 おも にヒツジやヤギから作 つく られていた。しかし、ラクダ乳 ちち からバターやチーズを作 つく ることも歩留 ぶど まりが悪 わる い上 うえ に技術 ぎじゅつ も必要 ひつよう だが可能 かのう であり、その希少 きしょう 性 せい ゆえに高級 こうきゅう 品 ひん として高 たか く評価 ひょうか されていた。
ラクダの肉 にく は食用 しょくよう とされるが、再 さい 生産 せいさん が可能 かのう であり生産 せいさん 量 りょう も多 おお いラクダの乳 ちち に比 くら べると二義的 にぎてき なものとなる。若 わか いラクダの肉 にく は美味 びみ とされることもあるが、年老 としお いて繁殖 はんしょく や乳 ちち 生産 せいさん のできなくなったラクダが食肉 しょくにく 用 よう に回 まわ されることが多 おお く、そのため評価 ひょうか は一般 いっぱん に高 たか くない。エジプト ではラクダ肉 にく は食肉 しょくにく として一番 いちばん 安 やす く、カイロ には食肉 しょくにく 用 よう と荷役 にやく 用 よう のラクダ市 し がそれぞれ立 た つ。7歳 さい から9歳 さい 程度 ていど のラクダが主 おも に食用 しょくよう とされるものの、脂 あぶら 分 ぶん が非常 ひじょう に多 おお く味 あじ が悪 わる いため人気 にんき がない[44] 。
近年 きんねん の中華 ちゅうか 料理 りょうり において駱駝 らくだ の瘤 こぶ は駝峰 ・駝峯(繁体字 はんたいじ : 駝峰·駝峯 、簡体字 かんたいじ : 驼峰·驼峯 、トゥオフォン、拼音 : tuófēng )と呼 よ ばれ、八 はち 珍 ちん の一 ひと つとして珍重 ちんちょう される食材 しょくざい である。繊維 せんい はあるものの脂肪 しぼう の塊 かたまり なので、味付 あじつ けが重要 じゅうよう な食材 しょくざい だが、味 あじ が付 つ きにくいという欠点 けってん があり、上手 じょうず に調理 ちょうり するにはある程度 ていど の技法 ぎほう が必要 ひつよう である。また、ラクダの足 あし も駝掌(繁体字 はんたいじ : 駝掌 、簡体字 かんたいじ : 驼掌 、拼音 : tuózhǎng )と称 しょう して食用 しょくよう とされる[45] 。
ユダヤ教 きょう の聖書 せいしょ (旧約 きゅうやく 聖書 せいしょ )である申 さる 命 いのち 記 き 14:7、レビ記 き 11:4にて、食用 しょくよう は禁止 きんし されている。
イスラム教 いすらむきょう ではラクダはハラール とされているため、イスラム教徒 きょうと はラクダの肉 にく や乳 ちち を食 た べることができる。しかし、いくつかのイスラムの学派 がくは においてはラクダは不純物 ふじゅんぶつ の量 りょう が多 おお いとされ、そのため食 しょく した後 のち に一部 いちぶ 沐浴 もくよく (Wudhu)をすべきと定 さだ めている学派 がくは もある[46] 。
また、同様 どうよう の理由 りゆう でラクダがうずくまっていた、あるいは座 すわ っていた場所 ばしょ はシャイターン の場所 ばしょ であるとして、その場所 ばしょ での礼拝 れいはい をハラーム であるとして禁 きん じている学派 がくは もある[46] [47] 。
ユダヤ教 きょう においては、ラクダはコーシャー ではないとして食用 しょくよう とすることはできない[48] 。これは、ラクダはコーシャーである食肉 しょくにく の条件 じょうけん のうち一 ひと つしか満 み たしていないとされているためである。コーシャーの条件 じょうけん は反芻 はんすう をし蹄 が分 わ かれているものに限 かぎ られるが、ラクダは生物 せいぶつ 学的 がくてき には蹄が分 わ かれ、反芻 はんすう をするものの、外見 がいけん 上 じょう 蹄が毛 け に覆 おお われて分 わ かれているように見 み えないためカーシェールからはずされている。これはレビ記 き 11章 しょう にしるされている。
皮 かわ はなめして用 もち いられ、毛 け は織物 おりもの 、縄 なわ 、絵筆 えふで などに利用 りよう される。古 ふる くから利用 りよう されており、新約 しんやく 聖書 せいしょ 『マタイによる福音 ふくいん 書 しょ 』によれば洗礼 せんれい 者 しゃ ヨハネ はラクダの皮 かわ で作 つく った服 ふく を着 き ていたとされる。
特 とく に寒冷 かんれい な中央 ちゅうおう アジアのフタコブラクダの毛 け は織物 おりもの の素材 そざい として優秀 ゆうしゅう である。
木材 もくざい が貴重 きちょう 品 ひん である乾燥 かんそう 地帯 ちたい において、かつてはラクダの糞 くそ が貴重 きちょう な燃料 ねんりょう でもあった。
ラクダを飼育 しいく する中東 ちゅうとう の諸国 しょこく においては、ヒトコブラクダのレースである競 きおい 駝 (けいだ)が盛 さか んに行 おこな われている。特 とく にアラブ首長 しゅちょう 国 こく 連邦 れんぽう などアラビア半島 はんとう の諸国 しょこく においては非常 ひじょう に盛 さか んであり、競馬 けいば のように、性別 せいべつ ・年齢 ねんれい 別 べつ でレースが行 おこな われる。レース距離 きょり は5-10kmと、競馬 けいば に比 くら べると長距離 ちょうきょり である。遊牧民 ゆうぼくみん の流 なが れをくむ湾岸 わんがん 諸国 しょこく においてはラクダレースは最 もっと も格 かく の高 たか いスポーツであり、首長 しゅちょう 一族 いちぞく も観覧 かんらん に訪 おとず れ、勝 か ったラクダの所有 しょゆう 者 しゃ には名誉 めいよ が与 あた えられる[49] 。ドバイ においては冬季 とうき である1月 がつ から3月 がつ にかけてラクダレースが盛 さか んに開催 かいさい され、地元民 じもとみん のみならず観光 かんこう 客 きゃく も多 おお く訪 おとず れる人気 にんき のイベントとなっている。また、サウジアラビア においては首都 しゅと リヤド で1974年 ねん 以来 いらい 一 いち 年 ねん に一度 いちど 大 だい ラクダレースが行 おこな われている[50] 。ラクダは全力 ぜんりょく 疾走 しっそう させるのに馬 うま ほど技術 ぎじゅつ が必要 ひつよう でないため、ラクダレースの騎手 きしゅ は近隣 きんりん 諸国 しょこく からやってきた子供 こども が務 つと めることも多 おお かったが、欧米 おうべい の人権 じんけん 団体 だんたい の非難 ひなん によって騎手 きしゅ に年齢 ねんれい 制限 せいげん が設 もう けられ、こうした光景 こうけい は姿 すがた を消 け した。また、カタール やアラブ首長 しゅちょう 国 こく 連邦 れんぽう などにおいては、騎手 きしゅ をロボット に置 お き換 か えたレースも行 おこな われるようになってきている[51] 。
また、ラクダ同士 どうし を戦 たたか わせる競技 きょうぎ の存在 そんざい もある(ラクダ相撲 すもう )。この競技 きょうぎ は、主 おも にトルコ で行 おこな われる[52] 。また、アフガニスタンでは、闘 たたかえ ラクダはノウルーズ の伝統 でんとう 行事 ぎょうじ の一 ひと つとなっている[53] 。
ラクダは砂漠 さばく のイメージと固 かた く結 むす びついており、砂漠 さばく の観光 かんこう 名所 めいしょ には観光 かんこう 客 きゃく を乗 の せるためのラクダがいるところも多 おお い。エジプト の首都 しゅと カイロ にはギザのピラミッド やスフィンクス へ向 む かう観光 かんこう 客 きゃく 相手 あいて のラクダ屋 や が多 おお い[54] 。これはラクダの生息 せいそく 域 いき だけの話 はなし ではなく、ラクダの生息 せいそく していないメキシコ のバハ・カリフォルニア などでも観光 かんこう 客 きゃく をラクダに載 の せるビジネスは行 おこな われている[55] 。また、日本 にっぽん の鳥取砂丘 とっとりさきゅう は砂漠 さばく ではないが、砂漠 さばく を連想 れんそう させる光景 こうけい であるため、やはりラクダがいて観光 かんこう 客 きゃく が乗 の ることができる[56] 。
動物 どうぶつ 愛護 あいご 団体 だんたい の動物 どうぶつ の倫理 りんり 的 てき 扱 あつか いを求 もと める人々 ひとびと の会 かい は、エジプト のギザのピラミッド 周辺 しゅうへん で行 おこな われているラクダや馬 うま に観光 かんこう 客 きゃく を乗 の せるアトラクションは動物 どうぶつ 虐待 ぎゃくたい であるとして、2023年 ねん 、エジプト政府 せいふ に対 たい し禁止 きんし を求 もと める抗議 こうぎ デモを行 おこな っている[57] 。
アラビア語 ご では人間 にんげん との関係 かんけい が深 ふか いラクダに関 かん する言葉 ことば が豊富 ほうふ であり、基本 きほん 的 てき には以下 いか の4つがある。なお、英語 えいご のキャメル の語源 ごげん は雄 お ラクダを指 さ すجمل (jamal ) である[58] 。
意味 いみ
単数 たんすう
ラテン文字 もじ 転写 てんしゃ
複数 ふくすう
ラテン文字 もじ 転写 てんしゃ
ラクダ(集合 しゅうごう 名詞 めいし )
إبل
ʾibil
ラクダ
بعير
baʿīr
أبعرة
ʾabʿira
بعران
buʿrān
أباعر
ʾabāʿir
بعارين
baʿārīn
雄 お ラクダ
جمل
jamal
جمال
jimāl
أجمال
ajmāl
雌 めす ラクダ
ناقة
nāqa
نوق
nūq
نياق
niyāq
ناقات
nāqāt
イスラム教 いすらむきょう 成立 せいりつ 以前 いぜん の中東 ちゅうとう では矢 や を使 つか った籤 くじ で異 こと なる大 おお きさのラクダ肉 にく の配分 はいぶん を決 き める賭博 とばく (賭 と 矢 や 、マイスィル)が盛 さか んに行 おこな われていたが[59] [60] 、クルアーン で禁止 きんし されると行 おこな われなくなった。
イスラム教 いすらむきょう の祝日 しゅくじつ であるイード・アル=アドハー (犠牲 ぎせい 祭 さい )においては動物 どうぶつ を犠牲 ぎせい に捧 ささ げ神 しん への感謝 かんしゃ を行 おこな う。犠牲 ぎせい とされる動物 どうぶつ の中 なか で最 もっと も価値 かち が高 たか いものはラクダだとされている[61] 。
イエス は「金持 かねも ちが神 かみ の国 くに に入 はい るよりも、ラクダが針 はり の穴 あな を通 とお る方 ほう がまだ易 やさ しい」として金持 かねも ちを戒 いまし めた(新約 しんやく 聖書 せいしょ 、マタイ19:24、マルコ 10:25、ルカ 18:24)。アラム語 ご では、「ラクダ」と「ロープ」が同音 どうおん 語 ご なので、福音 ふくいん 書 しょ がギリシア語 ご で書 か かれる時 とき 、「ロープ」を「ラクダ」と誤訳 ごやく したという説 せつ がある[要 よう 出典 しゅってん ] 。一方 いっぽう で、当時 とうじ は「ラクダ」が大 おお きな物 もの の喩 たと えとして用 もち いられており、誤訳 ごやく ではないという説 せつ もある。
アラブ医学 いがく の四 よん 体液 たいえき 説 せつ では、粘液質 ねんえきしつ の人間 にんげん の気質 きしつ は「情緒 じょうちょ が弱 よわ く鈍感 どんかん だが、一旦 いったん 事 こと を始 はじ めると粘 ねば り強 づよ く耐久 たいきゅう 力 りょく がある」と考 かんが えられていた。ラクダは胆嚢 たんのう がない無 む 胆嚢 たんのう 動物 どうぶつ であることから、黒 くろ 胆汁 たんじゅう を持 も たない粘液質 ねんえきしつ の気質 きしつ を持 も つ動物 どうぶつ である、という民俗 みんぞく 概念 がいねん がある。
日本 にっぽん ではラクダが役畜 えきちく として普及 ふきゅう することはなかった。日本書紀 にほんしょき には推古天皇 すいこてんのう の代 だい の599年 ねん 9月に百済 くだら からラクダを一 いち 匹 ひき 献上 けんじょう されたとある[63] 。1821年 ねん 7月 がつ に、2頭 とう のヒトコブラクダがオランダ商人 しょうにん の船 ふね で出島 でじま に運 はこ ばれ見世物 みせもの として再度 さいど もたらされたが、上記 じょうき のような用途 ようと を持 も たなかったため、体 からだ ばかり大 おお きく役 やく にたない人 ひと や物 ぶつ の例 たと えを「ラクダ」と呼 よ ぶようになった[64] 。この意味 いみ において、落語 らくご の題材 だいざい にもなっている[注 ちゅう 1] 。
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