原はら敬たかし暗殺あんさつ事件じけん

原はら敬たかし暗殺あんさつ事件じけん
当時とうじの現場げんば。柱はしらの陰かげに中岡なかおか艮うしとら一いちがいた。点線てんせん矢印やじるしが原はらが歩あるいた方向ほうこう、×印しるしが襲撃しゅうげきされた地点ちてん。
場所ばしょ	日本にっぽん 東京とうきょう府ふ東京とうきょう市し麹町こうじまち区く東京とうきょう駅えき
標的ひょうてき	原はら敬たかし内閣ないかく総理そうり大臣だいじん
日付ひづけ	1921年ねん（大正たいしょう10年ねん）11月4日にち
概要がいよう	暗殺あんさつ事件じけん
武器ぶき	短刀たんとう
死亡しぼう者しゃ	原はら敬たかし
犯人はんにん	中岡なかおか艮うしとら一いち
対処たいしょ	逮捕たいほ

原はら敬たかし暗殺あんさつ事件じけん（はらたかしあんさつじけん）は、1921年ねん（大正たいしょう10年ねん）11月4日にち、当時とうじ内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの原はら敬たかしが鉄道てつどう省しょう山手やまて線せん大塚おおつか駅えき職員しょくいんの中岡なかおか艮うしとら一いちによって東京とうきょう駅えき乗車じょうしゃ口こう（現在げんざいの丸まるの内うち南口みなみぐち）で刺殺しさつされた事件じけんである。

経緯けいい

大塚おおつか駅えきの転うたて轍わだち手しゅであった中岡なかおか艮うしとら一いちは、以前いぜんから原はら首相しゅしょうに対たいして批判ひはん的てきな意識いしきを持もっていた。中岡なかおかの供述きょうじゅつによれば、原はらが政商せいしょうや財閥ざいばつ中心ちゅうしんの政治せいじを行おこなったと考かんがえていたこと、野党やとうの提出ていしゅつした普通ふつう選挙せんきょ法ほうに反対はんたいしたこと、また尼あま港みなと事件じけんが起おこったことなどによるとされている。その他た一連いちれんの疑獄ぎごく事件じけんが起おきたことや、反はん政権せいけん的てきな意見いけんの持もち主ぬしであった上司じょうし・橋本はしもと栄さかえ五郎ごろうの影響えいきょうを受うけたことなどもあって、中岡なかおかは首相しゅしょう暗殺あんさつを考かんがえるようになったという。

1921年ねん11月4日にち、翌日よくじつに予定よていされていた京都きょうとの立憲りっけん政友せいゆう会かい近畿きんき大会たいかいへ出席しゅっせきのために、原はらは東京とうきょう駅えきへ午後ごご7時じ10分ふん頃ごろに到着とうちゃくした。その後ご、駅長えきちょう室しつに立たち寄より、多数たすうの見送みおくり人じんに囲かこまれながら歩あるいて乗車じょうしゃ口こうの改札かいさつ口こうへと向むかっていた。午後ごご7時じ25分ふん頃ごろ、周囲しゅういをとり囲かこんでいた右側みぎがわ群衆ぐんしゅうの中なかから突進とっしんしてきた青年せいねん（後のちに中岡なかおかと判明はんめい）が短刀たんとうを原はらの右みぎ胸むねに突つき刺さし、原はらはその場ばで倒たおれた。凶行きょうこうに及およんだ青年せいねんはその場ばで逮捕たいほされ、原はらに随行ずいこうしていた望月もちづき圭介けいすけ・元田もとだ肇はじめ・中橋なかはし徳五郎とくごろう・小川おがわ平吉へいきちらと東京とうきょう駅長えきちょうの高橋たかはしらが、原はらを駅長えきちょう室しつに運はこび込こみ応急おうきゅう処置しょちを施ほどこした。凶変きょうへんの知しらせを受うけた夫人ふじんが東京とうきょう駅えきへ午後ごご7時じ40分ふん頃ごろに駆かけつけ、8時じ10分ふん頃ごろに自動車じどうしゃで芝公園しばこうえんの自宅じたくへ運はこんで診察しんさつと治療ちりょうを施ほどこしたが、突つきされた傷きずは右みぎ肺はいから心臓しんぞうに達たっしており、ほぼ即死そくし状態じょうたいであったという。

逮捕たいほされた中岡なかおかは、死刑しけいの求刑きゅうけいに対たいして、東京とうきょう地裁ちさいで無期むき懲役ちょうえきの判決はんけつを受うけた。その後ごの東京とうきょう控訴こうそ院いん・大審院だいしんいんでも判決はんけつは維持いじされ確定かくていした。なおこの裁判さいばんは異例いれいの速はやさで進すすめられ、また調書ちょうしょなどもほとんど残のこされていないなど謎なぞの多おおい裁判さいばんであり、その後ごの中岡なかおかには特別とくべつな処遇しょぐうがなされ、3度どもの減刑げんけいで1934年ねんには早はやくも釈放しゃくほうされた。

さらに戦時せんじ中ちゅうには、比較的ひかくてき安全あんぜんな軍ぐん司令しれい部ぶ付づけの兵へいとなっていた（中岡なかおか艮うしとら一いちの項こう参照さんしょう）こともあいまって、本ほん事件じけんに関かんする政治せいじ的てき背景はいけいの存在そんざいを推測すいそくする論者ろんしゃもいる。中岡なかおかは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの1980年ねんに、77歳さいの生涯しょうがいを閉とじている。

葬儀そうぎ・告別こくべつ式しき

同夜どうや12時じ頃ごろ、首相しゅしょう官邸かんていにおいて臨時りんじ閣議かくぎが開ひらかれ、葬儀そうぎ後ごまで後任こうにんや政局せいきょく問題もんだいは保留ほりゅうとされた。翌よく5日にちの協議きょうぎ員いん会かいと議員ぎいん総会そうかいにおいて党とう葬そうなどが協議きょうぎされたが、かねてより遺言ゆいごん書しょなどで原はらが要望ようぼうしていた葬儀そうぎは簡素かんそなものであり、家族かぞくも原はらの遺言ゆいごんに従したがいたいとの申もうし入いれから、盛大せいだいなものでなく簡素かんそな告別こくべつ式しきが行おこなわれた。東京とうきょうから盛岡もりおかへ移動いどうする夫人ふじんら家族かぞくと霊柩れいきゅうの随行ずいこう者しゃとして、閣員かくいん代表だいひょう者しゃや院外いんがい代表だいひょう者しゃ、有志ゆうしの者ものなどが許ゆるされた。

11月7日にち-東京とうきょう・芝公園しばこうえんの自宅じたくから午前ごぜん8時じに霊柩れいきゅうが出発しゅっぱつ、党とう本部ほんぶ大広間おおひろまで各界かくかい要人ようじんらや議員ぎいん、地方ちほうからの参列さんれつ者しゃなどがり、同日どうじつ午後ごご8時じまで告別こくべつ式しきが執とり行おこなわれた。その後ご、家族かぞくと霊柩れいきゅう並ならびに随行ずいこう者しゃは、道みちの両りょう脇わきの群衆ぐんしゅうに見送みおくられながら上野うえの駅えきに向むかい、午後ごご10時じに上野うえの駅えきを出発しゅっぱつした。途中とちゅう駅えきでも拝礼はいれい者しゃなどがあり、翌よく8日にちの午前ごぜん10時じに盛岡もりおか駅えきに到着とうちゃくした。午前ごぜん11時じに同市どうし古川ふるかわ端はしの原はら邸ていに安置あんちされ、遺言ゆいごん書しょに従したがって簡素かんそなお通夜つやが営いとなまれ、9日にちの夕方ゆうがたに埋葬まいそうされた。10日とおか、宮中きゅうちゅうより勅使ちょくしが盛岡もりおかの原はら邸ていに差さし向むけられ誄詞や供物くもつなどを賜たまうなど、埋葬まいそう後ごもその死しを悼いたむ弔詩ちょうしが多おおく寄よせられたとされる。

暗殺あんさつの真相しんそう

中岡なかおかが原はらを暗殺あんさつするに至いたったきっかけははっきりとは分わかっていないが、前述ぜんじゅつした政治せいじに対たいする不満ふまんのほかに、以下いかのような説せつもある。

• 玄げん洋よう社しゃなどの当時とうじの右翼うよく勢力せいりょくと関係かんけいがあったという説せつ。右翼うよくテロリスト五百木いおき良三りょうぞうが犯行はんこうを予言よげんしていたことや、右翼うよくが好このんでいたとされる短刀たんとうでの犯行はんこう手口てぐちなどが根拠こんきょとなっている。
• 事件じけん発生はっせい当時とうじはワシントン海軍かいぐん軍縮ぐんしゅく条約じょうやくを協議きょうぎする国際こくさい軍縮ぐんしゅく会議かいぎが開ひらかれる直前ちょくぜんであり、国内こくないでは「諸しょ外国がいこくの圧力あつりょくに屈くっして軍縮ぐんしゅくするべきではない」という官民かんみんタカ派はの意見いけんが声高こわだかに叫さけばれていた。この軍縮ぐんしゅく協議きょうぎに対たいする原はらの真意しんいは不明ふめいだが、上述じょうじゅつの右翼うよく勢力せいりょくが原はらを条約じょうやく推進すいしん派はとみなして暗殺あんさつの動機どうきとしたという説せつがある。
• 前述ぜんじゅつの通とおり、理不尽りふじんな裁判さいばん進行しんこうと恩赦おんしゃによる減刑げんけい繰くり返かえし、戦時せんじ徴兵ちょうへい時じの配属はいぞく先さき配慮はいりょ等とうを根拠こんきょに、政官せいかん軍ぐん内部ないぶの原はらの政敵せいてきやワシントン海軍かいぐん軍縮ぐんしゅく条約じょうやく反対はんたい派はの関与かんよがあったという説せつ。
• 犯行はんこうの1カ月かげつ前まえ、中岡なかおかと上司じょうし・橋本はしもと栄さかえ五郎ごろうとの政治せいじ談義だんぎの中なかで原はら政治せいじの批判ひはんになり、橋本はしもとが「今いまの日本にっぽんには武士ぶし道どう精神せいしんが失うしなわれた。腹はらを切きる（政治せいじ家かは悪わるいことをした時ときに、責任せきにんを取とるという意味いみ）と言いうが、実際じっさいに腹はらを切きった例れいはない」というような主旨しゅしのことを言いったのに対たいし、中岡なかおかが「腹はら」と「原はら」を誤解ごかいし、「私わたしが原はらを斬きってみせます」と言明げんめいしたという。このため、橋本はしもとのその言葉ことばが事件じけんの直接的ちょくせつてきなきっかけとなったとして、橋本はしもとも殺人さつじん教唆きょうさの疑うたがいで逮捕たいほされたが、判決はんけつは無罪むざいであった（求刑きゅうけいは懲役ちょうえき12年ねん）。

現場げんば跡あと

原はら首相しゅしょう遭難そうなん現場げんばのプレートと印しるし（2010年ねん前後ぜんこうの東京とうきょう駅えきリニューアル以前いぜん）

原はら首相しゅしょう遭難そうなん現場げんばのプレートと印しるし（東京とうきょう駅えきリニューアル後ご）

東京とうきょう駅えきの現場げんばである現げん丸まるの内うち南口みなみぐちの北東ほくとう面めん左端ひだりはし付近ふきんには、壁かべに事件じけんの概要がいようを記しるしたプレートがあり、床ゆか面めんには円えんの内部ないぶに六角形ろっかっけいの形かたちをした目印めじるしが埋うめ込こまれている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 日本にっぽん博学はくがく倶楽部くらぶ 『図説ずせつ 歴史れきしの意外いがいな結末けつまつ』 PHP研究所けんきゅうじょ、2003年ねん、42-43頁ぺーじ。
• 豊田とよだ穣みのる『西園寺さいおんじ公望きんもち』新潮しんちょう文庫ぶんこ,1985年ねん
• 長文ちょうぶん連れん『原はら首相しゅしょう暗殺あんさつ』図書としょ出版しゅっぱん社しゃ

関連かんれん項目こうもく

• 暗殺あんさつされた内閣ないかく総理そうり大臣だいじん・元もと内閣ないかく総理そうり大臣だいじん
  • 伊藤いとう博文ひろぶみ - 1909年ねん（明治めいじ42年ねん）10月26日にちに安やす重根しこねによって暗殺あんさつ（伊藤いとう博文ひろぶみ暗殺あんさつ事件じけん）。
  • 濱口はまぐち雄幸ゆうこう - 1930年ねん（昭和しょうわ5年ねん）11月に東京とうきょう駅えきで銃撃じゅうげきされ重傷じゅうしょうを負おい9ヵ月かげつ後ごに死去しきょ。
  • 犬いぬ養やしなえ毅あつし - 1932年ねん（昭和しょうわ7年ねん）5月がつに五ご・一いち五ご事件じけんで暗殺あんさつ。
  • 齋藤さいとう實みのる - 1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）2月がつに二・二六事件ににろくじけんで暗殺あんさつ。
  • 高橋たかはし是清これきよ - 同おなじく二に・二に六ろく事件じけんで暗殺あんさつ。
  • 安倍晋三あべしんぞう - 2022年ねん（令れい和わ4年ねん）7月がつ8日にちに大和やまと西大寺さいだいじ駅えき前まえでの演説えんぜつ中ちゅうに暗殺あんさつ（安倍晋三あべしんぞう銃撃じゅうげき事件じけん）。
• 殺害さつがいされた日本にっぽんの内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの一覧いちらん