吸入きゅうにゅう器き

吸入きゅうにゅう器き（きゅうにゅうき、英えい: Inhaler）とは、主おもに呼吸こきゅう器き系けいの疾患しっかんを持もつ患者かんじゃが薬剤やくざいの吸入きゅうにゅうをしたり、スチームの吸入きゅうにゅうをしたりすることで、その症状しょうじょうの緩和かんわを図はかる医療いりょう機器ききである。

用途ようとまたは構造こうぞうによりネブライザーとスチーム吸入きゅうにゅう器きとに大別たいべつでき、どちらも吸入きゅうにゅう器きと呼よばれることがある。

医院いいん・病院びょういんなど医療いりょう施設しせつで用もちいる医家いか向むけの大型おおがたの吸入きゅうにゅう器きもあるが、ここでは主おもに家庭かてい用ようのものについて述のべる。

定量ていりょう吸入きゅうにゅう器き[編集へんしゅう]

定量ていりょう吸入きゅうにゅう器き（英えい: Metered-dose inhaler）は、最もっとも一般いっぱん的てきなタイプの吸入きゅうにゅう器きで、3つの標準ひょうじゅんコンポーネント（金属きんぞくボンベ、プラスチックアクチュエーター、および計量けいりょうバルブ）で構成こうせいされる、加圧かあつ式しき定量ていりょう吸入きゅうにゅう器き（英えい: metered-dose inhaler, MDI）。英国えいこくブラックバーンに本拠ほんきょを置おくH＆T Presspartは、金属きんぞくボンベおよびアクチュエータ部品ぶひんを供給きょうきゅうしており、世界せかい医薬品いやくひん市場いちばの75％以上いじょうを占しめる。計量けいりょうバルブは、AptarやCosterなど多おおくの企業きぎょうから供給きょうきゅうされている。 MDIでは、薬物やくぶつは通常つうじょう、噴射ふんしゃ剤ざいを含ふくむ加圧かあつボンベ内ないの溶液ようえきに保存ほぞんされているが、懸かか濁にご液えきの場合ばあいもある^[1]。MDI容器ようきは、プラスチック製せいの手動しゅどうアクチュエータに取とり付つけられている。操作そうさすると、定量ていりょう吸入きゅうにゅう器きはエアロゾルの形かたちで一定いってい量りょうの薬剤やくざいを放出ほうしゅつする。 MDIを使用しようするための正ただしい手順てじゅんは、最初さいしょに完全かんぜんに息いきを吐はき、デバイスのマウスピースを口くちに入いれ、中ちゅう程度ていどの速度そくどで吸すい始はじめたときに、キャニスターを押おし下さげ、薬くすりを放出ほうしゅつする。エアロゾル化かされた薬剤やくざいは、深ふかく吸すい込こむことで肺はいに引ひき込こまれ、10秒間びょうかん息いきを止とめることで、気管支きかんし壁かべや肺はいの他ほかの気道きどうにエアロゾルが定着ていちゃくする。一部いちぶの吸入きゅうにゅう器きは、喘息ぜんそく発作ほっさの場合ばあいに即座そくざに薬効やっこうを示しめすために、他たの吸入きゅうにゅう器きはゆっくりと薬効やっこうを示しめす。

ドライパウダー吸入きゅうにゅう器き[編集へんしゅう]

ドライパウダー吸入きゅうにゅう器き（英語えいご版ばん） (DPI) は、定量ていりょうまたは設定せってい量りょうのドライパウダー状じょう医薬品いやくひんを吸入きゅうにゅうするための装置そうち。

ネブライザー[編集へんしゅう]

ネブライザー（英えい: Nebulizer）とは、喘息ぜんそくの患者かんじゃが薬剤やくざいを経口けいこう吸入きゅうにゅうするための器具きぐである。パウダーの薬剤やくざいを吸入きゅうにゅうするための補助ほじょ用具ようぐも吸入きゅうにゅう器きと呼よぶことがあるが、ネブライザーは液体えきたいの薬剤やくざいを霧きり状じょうにし噴霧ふんむする装置そうちである。もともと医療いりょう施設しせつで用もちいる大型おおがたの装置そうちであったが、家庭かてい用ようの小型こがたなもの（卓上たくじょうサイズ）のみならず、電池でんちで駆動くどうできる携帯けいたい用ようの超ちょう小型こがたなものも市販しはんされるようになっている。近年きんねんでは海外かいがいから輸入ゆにゅうされた製品せいひんも多おおく出回でまわってきている。

下しも気道きどうにスムーズに吸入きゅうにゅうされ、薬剤やくざいが組織そしきに沈着ちんちゃくするように、液えき滴しずくの径みちは細こまかく、かつ適切てきせつなサイズになるように設定せっていされている。

ジェット式しきと呼よばれる方式ほうしきと超ちょう音波おんぱ式しきとがあり、前者ぜんしゃは高速こうそくの空気くうき流りゅうを利用りようして霧吹きりふきの原理げんりで細こまかな液えき滴しずくを作つくり出だすもの、後者こうしゃは超ちょう音波おんぱを薬液やくえきに照射しょうしゃすることで薬液やくえきを霧きり化か（液えき滴しずく化か）するものであり^[2]、それら液えき滴しずくをファンによる風ふうにのせて噴霧ふんむする。ジェット式しきは強力きょうりょくな空気くうき流りゅうを作つくり出だすための圧縮あっしゅくポンプなどが必要ひつようなため、それほど小型こがたにはできない。しかし、超ちょう音波おんぱ式しきは小型こがたにできるメリットがあり、携帯けいたい用ようネブライザーに採用さいようされている。液えき滴しずくの径みちが細こまかすぎるということもあり、それを改良かいりょうしたメッシュ式しきというものもある。

いずれも、使用しようにあたっては医師いしに相談そうだんし、その指導しどうのもとに用もちいる。

これら家庭かてい用ようのものではなく、医家いか向むけの器具きぐとしてのネブライザーは上気じょうき道どう（鼻はなや咽喉いんこう）の疾病しっぺいの治療ちりょうにも用もちいられる。

スチーム吸入きゅうにゅう器き[編集へんしゅう]

ネブライザーが薬剤やくざいの噴霧ふんむ専用せんようであるのに対たいし、これはスチームの噴霧ふんむを専せん門もんにする装置そうちである。カゼや声こえの出だしすぎ、タバコの吸すいすぎなどでノドが痛いたいとき、または花粉かふん症しょうやアレルギあれるぎー性せい鼻炎びえんなどの鼻はなの症状しょうじょうを緩和かんわさせる目的もくてきで用もちいられることが多おおい。

これもネブライザー同様どうよう、構造こうぞうとしてはジェット式しきと超ちょう音波おんぱ式しきがある。ただし、ほとんどの器具きぐがジェット式しきであるためか、実際じっさいにはジェット式しきとの名称めいしょうは用もちいられていない。また、噴霧ふんむのための空気くうき流りゅうを作つくり出だすためのポンプやファンは用もちいられておらず、圧力あつりょく鍋なべのような密閉みっぺい容器ようき（ボイラータンク）で湯ゆを沸わかすことによってできる高圧こうあつの水蒸気すいじょうきを利用りようしている。その熱あつい水蒸気すいじょうき流りゅうによって、別べつ体たいの容器ようき（同一どういつの容器ようきのものもあった）に入いれられた水みずを吸すい上あげて噴霧ふんむし、適温てきおんのスチームを作つくり出だす（よって、スチームとはいっても、言葉ことば通どおりの「湯気ゆげ」ではない）。過去かこには現在げんざいのような電熱でんねつを利用りようしたものではなく、アルコールランプを熱源ねつげんとした製品せいひんもあった。

いっぽうの超ちょう音波おんぱ式しきは、超ちょう音波おんぱ振動しんどう子こによって破砕はさいされた液えき滴しずく（霧きり）を、ファンの風ふうにのせて噴霧ふんむする。ただし、その霧きりは噴霧ふんむされる前まえに電熱でんねつヒーターによって適温てきおんに温あたためられる。温熱おんねつネブライザーとも言いう。

メーカーによっては、自社じしゃの製品せいひん（吸入きゅうにゅう器き）をスチーム式しき（ボイラー式しき）と超ちょう音波おんぱ式しきと呼よび分わけていることもある。

経口けいこう吸入きゅうにゅう専用せんようの（喘息ぜんそく患者かんじゃ用よう）ネブライザーとは異ことなり、鼻はなで吸入きゅうにゅうすることもあるため、噴出ふんしゅつの向むきを変かえるなど噴霧ふんむ口こうにメーカー独自どくじの工夫くふうがなされたものがある。2007年ねん現在げんざいは生産せいさん終了しゅうりょうとなっているが、過去かこの製品せいひんには鼻はな吸入きゅうにゅう専用せんようのものもあった。

いずれも薬液やくえきの吸入きゅうにゅうには適てきさない。また、喘息ぜんそく患者かんじゃが発作ほっさ時じに用もちいるのも不ふ適当てきとうであるとされる（水みずの吸入きゅうにゅうはさらに発作ほっさを誘発ゆうはつすることがあるため。使つかう場合ばあいは医師いしに相談そうだんが必要ひつよう）。

医家いか向むけのスチーム吸入きゅうにゅう器きとしては、やや大型おおがたの京大きょうだい式しき吸入きゅうにゅう器きがよく用もちいられてきた（上記じょうきのボイラーを用もちいたジェット式しきである）。鼻はな向むけとしては局所きょくしょ温熱おんねつ治療ちりょう器きリノセルムという装置そうちがある。

スチーム吸入きゅうにゅう器きの効果こうか[編集へんしゅう]

薬剤やくざいではないスチームが疾病しっぺい症状しょうじょうまたは不快ふかい感かんの緩和かんわに有効ゆうこうな理由りゆうはいくつか考かんがえられている。それは、たとえば単純たんじゅんに乾燥かんそうした喉のどや鼻はなを潤うるおす効果こうかである。また、患部かんぶを適温てきおんに温あたためることによって血ち流りゅうをさかんにし、炎症えんしょうなどを早はやく鎮しずめる、免疫めんえき力りょくなどが上昇じょうしょうする、菌きんやウイルスを滅菌めっきんしたり洗あらい流ながすなどのこともいわれている。

特とくにアレルギあれるぎー性せい鼻炎びえん（花粉かふん症しょう）に対たいしては、43度どのスチームが効果こうか的てきであるといわれてきたが、38度どのスチームでも効果こうかがあることが確認かくにんされている。43度どのスチームはアレルギー症状しょうじょうを起おこすケミカルメディエーターであるヒスタミンが、肥満ひまん細胞さいぼうから遊離ゆうりするのをよく抑おさえるといわれてきたが、いくつかの実験じっけん研究けんきゅうにより、効果こうかがあるのはそれだけの理由りゆうではないと考かんがえられている。

そのアレルギあれるぎー性せい鼻炎びえん（花粉かふん症しょう）の鼻はな症状しょうじょうの緩和かんわは、スチーム吸入きゅうにゅう後ご１時じ間あいだ程度ていどは持続じぞくし、主おもに鼻はな閉（鼻はな詰づまり）の改善かいぜんに効果こうかがあるが、鼻汁はなしる（鼻水はなみず）等とうも抑制よくせいすることがわかっている。ただし、その改善かいぜんの度合どあいは低ひくく（花粉かふん症しょう日記にっき上じょうのスコアで1段階だんかい程度ていど）、効果こうかがないばかりか反はん跳とべ作用さようとして症状しょうじょう悪化あっかがみられる場合ばあいもある。しかしながら、薬剤やくざいを用もちいないため、妊にん婦ふなどの花粉かふん症しょうの治療ちりょうとして第だい一いち選択せんたくになる。局所きょくしょ温熱おんねつ療法りょうほうという。

噴霧ふんむするスチームは、真水まみずであっても副作用ふくさようなどはないとされるが、生理せいり食しょく塩水えんすいであることが望のぞましい（水道すいどう水すいで吸入きゅうにゅうをすると刺激しげきを感かんじたりむせたりすることがあるが、その場合ばあいも、生理せいり食しょく塩水えんすいで吸入きゅうにゅうを行おこなうとよいとされる）。しかしながら、器具きぐによっては食塩しょくえん水すいは使つかえないとの注意ちゅういがなされているものもある。使用しよう後ごに食塩しょくえんの結晶けっしょうができて、ノズル等ひとしを詰つまらせるからだとされる。

その他たの吸入きゅうにゅう器き[編集へんしゅう]

スチーム式しき加湿かしつ器きのような構造こうぞうで、少量しょうりょうの湯ゆを沸わかして湯気ゆげを吸すう美顔びがん機き兼用けんようのものも市販しはんされている（海外かいがいの製品せいひんには兼用けんようではない吸入きゅうにゅう専用せんようのものもある。日本にっぽんにも輸入ゆにゅう・販売はんばいされている）。また、加湿かしつ器き兼用けんようのものもある。日本にっぽんでは市販しはんされていないが、海外かいがいでは大おおきなマグカップ様ようの容器ようきに湯ゆを注そそぎ、吸入きゅうにゅうマスク付つきのふたをつけて湯気ゆげを吸入きゅうにゅうする器具きぐもある。いずれも、上記じょうきのスチーム吸入きゅうにゅう器きに比ひして、スチームの量りょうは少すくない。また、この装置そうちが出だすスチームは文字通もじどおりの湯気ゆげであるので、生理せいり食しょく塩水えんすいなどの使用しようは意味いみがない。

外部がいぶ動力どうりょくを用もちいない吸入きゅうにゅう器きとして、粉末ふんまつの薬剤やくざいを吸入きゅうにゅうするものがある。グラクソ・スミスクラインの「アドエア」等とう。このタイプは規定きていの回数かいすう吸入きゅうにゅうしたら容器ようきごと破棄はきする使つかい捨すて式しきでもある。

また、現在げんざいでは市販しはんされていないが、小型こがた電動でんどうポンプを用もちいたスプレー式しきのものや超ちょう音波おんぱを利用りようした携帯けいたい用よう吸入きゅうにゅう器きもあった。これらは水みずを噴霧ふんむしているだけであり、温あたたかいスチームが出でてくるわけではない。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

^ Hickey, A.J., ed (2004). Pharmaceutical Inhalation Aerosol Technology (2nd ed.). NY: Marcel Dekker
^ “超ちょう音波おんぱで霧きりをつくり出だす加湿かしつ器きのしくみ”. TDK 電気でんきと磁気じきの？（はてな）館かん. 2015年ねん10月がつ31日にち閲覧えつらん。